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明細書 :スピンフィルタ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3834616号 (P3834616)
公開番号 特開2003-152173 (P2003-152173A)
登録日 平成18年8月4日(2006.8.4)
発行日 平成18年10月18日(2006.10.18)
公開日 平成15年5月23日(2003.5.23)
発明の名称または考案の名称 スピンフィルタ
国際特許分類 H01L  29/66        (2006.01)
H01L  29/06        (2006.01)
H01L  29/221       (2006.01)
FI H01L 29/66 M
H01L 29/06 601W
H01L 29/221
請求項の数または発明の数 16
全頁数 9
出願番号 特願2001-346909 (P2001-346909)
出願日 平成13年11月13日(2001.11.13)
審査請求日 平成13年11月13日(2001.11.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】大野 英男
【氏名】大谷 啓太
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100100125、【弁理士】、【氏名又は名称】高見 和明
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100086645、【弁理士】、【氏名又は名称】岩佐 義幸
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
審査官 【審査官】萩原 周治
調査した分野 H01L 29/66
H01L 29/06
H01L 29/221
ELSEVIER
特許請求の範囲 【請求項1】
第1の磁性半導体多重量子井戸構造と、第2の磁性半導体多重量子井戸構造と、非磁性半導体量子井戸構造とを具え、この非磁性半導体量子井戸構造は、前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造と隣接するようにして挟まれ、前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造に磁場を印加することによってスピン分裂させ、前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造において、ダウンスピンの状態にあるキャリアのみを透過させ、前記第2の磁性半導体多重量子井戸において、アップスピンの状態にあるキャリアのみを透過させるようにしたことを特徴とする、スピンフィルタ。
【請求項2】
前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造を透過した前記ダウンスピン状態にあるキャリア量と、前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造を透過した前記アップスピン状態にあるキャリア量とは、前記非磁性半導体量子井戸構造を励起し、これによって前記スピンフィルタ内に流れる電荷量を計測することによって、定量することを特徴とする、請求項1に記載のスピンフィルタ。
【請求項3】
前記非磁性半導体量子井戸構造は、同一又は異なるバンドに属するサブバンドのサブバンド間エネルギーに相当するサブバンド間光によって励起し、前記スピンフィルタ内に流れる電荷量を計測することにより、前記ダウンスピン状態にあるキャリア量と、前記アップスピン状態にあるキャリア量とを定量することを特徴とする、請求項2に記載のスピンフィルタ。
【請求項4】
前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造の少なくとも一方は、ZnSe層とZnMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とが積層されてなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項5】
前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造の少なくとも一方は、ZnSe層とZnMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、ZnCdSe層とZnSe層とが交互に周期的に積層されてなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項6】
前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造の少なくとも一方は、ZnSe層とZnCdMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とが積層されてなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項7】
前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造の少なくとも一方は、ZnSe層とZnCdMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、ZnCdSe層とZnSe層とが交互に周期的に積層されてなることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項8】
磁性半導体多重量子井戸構造と、非磁性半導体量子井戸構造とが隣接されて配置され、前記磁性半導体多重量子井戸構造に磁場を印加してスピン分裂を生じさせ、前記磁性半導体多重量子井戸構造において、アップスピン及びダウンスピンの少なくとも一方の状態にあるキャリアのみを透過させるようにしたことを特徴とする、スピンフィルタ。
【請求項9】
前記非磁性半導体量子井戸構造の、前記磁性半導体多重量子井戸構造と反対の側に隣接するようにして半導体障壁層を具え、前記磁性半導体多重量子井戸構造において、アップスピン及びダウンスピンの少なくとも一方の状態にあるキャリアをそれぞれ透過させるようにしたことを特徴とする、請求項8に記載のスピンフィルタ。
【請求項10】
前記磁性半導体多重量子井戸構造を透過した前記アップスピン及びダウンスピンの少なくとも一方の状態にあるキャリア量は、前記非磁性半導体量子井戸構造を励起し、これによって前記スピンフィルタ内に流れる電荷量を計測することによって、定量することを特徴とする、請求項8又は9に記載のスピンフィルタ。
【請求項11】
前記非磁性半導体量子井戸構造は、外部光によって励起し、前記スピンフィルタ内に流れる電荷量を計測することにより、前記アップスピン及びダウンスピンの少なくとも一方の状態にあるキャリア量を定量することを特徴とする、請求項10に記載のスピンフィルタ。
【請求項12】
前記磁性半導体多重量子井戸構造は、ZnSe層とZnMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とが積層されてなることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項13】
前記磁性半導体多重量子井戸構造は、ZnSe層とZnMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、ZnCdSe層とZnSe層とが交互に周期的に積層されてなることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項14】
前記磁性半導体多重量子井戸構造は、ZnSe層とZnCdMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とが積層されてなることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項15】
前記磁性半導体多重量子井戸構造は、ZnSe層とZnCdMnSe層とが交互に周期的に積層されてなり、前記非磁性半導体量子井戸構造は、ZnCdSe層とZnSe層とが交互に周期的に積層されてなることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一に記載のスピンフィルタ。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一に記載のスピンフィルタを具える高周波発生器。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、量子通信や量子情報処理などにおいて好適に用いることのできる、スピンフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
次世代の究極技術として、電子スピンを用いた量子通信や量子演算などが着目されている。このような技術においては、情報の読み出しを行なう際に、ユニタリ変換を行なって、前記量子通信などに用いるキャリアスピンの方向を測定することが要求される。キャリアスピンの方向を高感度に判別する方法としては、現在、時間分解ファラデー回転法などの技術が開発され、実用に供されているが、大規模なレーザ装置を必要とする点において簡便性に欠ける。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、量子通信や量子演算などの技術において、キャリアスピンの方向を簡易に判別する素子を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明は、第1の磁性半導体多重量子井戸構造と、第2の磁性半導体多重量子井戸構造と、非磁性半導体量子井戸構造とを具え、この非磁性半導体量子井戸構造は、前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造と隣接するようにして挟まれ、前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造に磁場を印加することによってスピン分裂させ、前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造において、ダウンスピンの状態にあるキャリアのみを透過させ、前記第2の磁性半導体多重量子井戸において、アップスピンの状態にあるキャリアのみを透過させるようにしたことを特徴とする、スピンフィルタ(第1のスピンフィルタ)に関する。
【0005】
また、本発明は、磁性半導体多重量子井戸構造と、非磁性半導体量子井戸構造とが隣接されて配置され、前記磁性半導体多重量子井戸構造に磁場を印加してスピン分裂を生じさせ、前記磁性半導体多重量子井戸構造において、アップスピン及びダウンスピンの少なくとも一方の状態にあるキャリアのみを透過させるようにしたことを特徴とする、スピンフィルタ(第2のスピンフィルタ)に関する。
【0006】
本発明者らは、キャリアスピンの方向を簡易に判別する素子として、上述したような、磁性半導体多重量子井戸構造と非磁性半導体多重量子井戸構造とからなるスピンフィルタを開発した。
【0007】
前記磁性半導体多重量子井戸構造は、例えば、II-VI族化合物半導体、特にはZnSe層とZnMnSe層とを交互に周期的に積層して構成することができる。このとき、ZnSe層とZnMnSe層との厚さを適宜に調節することにより、特定のエネルギー領域にあるキャリアについて、そのダウンスピン状態にあるもの、又はアップスピン状態にあるものだけが透過するようになる。
【0008】
図1は、磁性半導体多重量子井戸構造を構成する、ZnSe層及びZnMnSe層の厚さを変化させた場合における、キャリアの透過率スペクトルのシュミレーション結果を示す図である。シュミレーションは、温度4Kにおいて、磁性半導体多重量子井戸構造に対して5Tの磁場を印加した場合を想定した。また、積層周期数は10周期とした。
【0009】
図1から明らかなように、ZnSe層及びZnMnSe層の厚さが共に5nmの場合においては、図1(a)に示すように、約20~30meVのエネルギー領域にあるキャリアは、アップスピンの状態のものだけが透過し、約30~40meVのエネルギー領域にあるキャリアは、ダウンスピンの状態のものだけが透過する。
【0010】
また、ZnSe層及びZnMnSe層の厚さが共に7.5nmの場合においては、図1(b)に示すように、約10meV前後の領域にあるキャリアは、アップスピンのものだけが透過し、約10~20meVのエネルギー領域にあるキャリアは、ダウンスピンのものだけが透過する。さらに、ZnSe層及びZnMnSe層の厚さが共に10nmの場合においては、約10meV前後のエネルギー領域にあるキャリアにおいて、ダウンスピンの状態にあるものだけが透過するようになる。
【0011】
したがって、本発明に従った上記第1のスピンフィルタにおいて、例えば、第1の磁性半導体多重量子井戸構造を厚さ7.5nmより若干薄いZnSe層とZnMnSe層とが交互に積層して構成し、第2の磁性半導体多重量子井戸構造を厚さ5nmのZnSe層とZnMnSe層とが交互に積層して構成することにより、図1(a)及び(b)から分かるように、約20~30meVのエネルギー領域にあるキャリアは、前記第1の磁性半導体多重量子井戸構造においてはダウンスピンの状態にあるものだけが透過し、前記第2の磁性半導体多重量子井戸構造においてはアップスピンの状態にあるものだけが透過する。
【0012】
この結果、本発明の第1のスピンフィルタにおいては、同じエネルギー領域にあるキャリアのダウンスピン状態にあるもの、及びアップスピン状態にあるものを同時にフィルタリングすることができる。
【0013】
但し、第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造を同様の積層構造から構成することにより、異なるエネルギー領域にあるキャリアのダウンスピン状態にあるもの、又はアップスピン状態にあるものを透過させ、フィルタリングすることができる。
【0014】
例えば、第1の磁性半導体多重量子井戸構造及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造を、それぞれ厚さ5nmのZnSe層とZnMnSe層とが交互に積層して構成することにより、図1(a)から分かるように、約20~30meVのエネルギー領域にあるキャリアは、そのアップスピン状態にあるものだけが透過され、約30~40meVのエネルギー領域にあるキャリアは、そのダウンスピン状態にあるものだけが透過されるようになる。
【0015】
一方、このようにキャリアのダウンスピン状態及びアップスピン状態を、各エネルギー領域毎に、いずれか一方のみを透過させフィルタリングするような場合においては、上述のように2組の磁性半導体多重量子井戸構造を設けることなく、単独の磁性半導体多重量子井戸構造を設けるのみで実現することができる。
【0016】
例えば、厚さ5nmのZnSe層とZnMnSe層とが交互に積層されてなる磁性半導体多重量子井戸構造を単独で設けることにより、図1(a)から分かるように、約20~30meVのエネルギー領域にあるキャリアについては、そのアップスピン状態にあるものだけが透過され、約30~40meVのエネルギー領域にあるキャリアについては、そのダウンスピン状態にあるものだけが透過されるようになる。本発明の第2のスピンキャリアは、このような観点の下になされたものである。
【0017】
上述したように、本発明の第1及び2のスピンフィルタは、いずれの場合においてもキャリアのスピン状態に応じて、前記キャリアを選択的に透過させ、フィルタリングすることができる。したがって、次世代の量子通信や量子演算などにおける素子として好適に用いることができる。
【0018】
また、本発明における「キャリア」は、半導体量子井戸構造内における固体内電子又は正孔を意味し、外部からの光照射又は電場印加などによって、誘起されるものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を発明の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図2は、本発明の第1のスピンフィルタの一例を示す構成図である。図2に示すスピンフィルタ10は、GaAsなどからなる半導体基板1上において、第1の磁性半導体多重量子井戸構造2、非磁性半導体量子井戸構造3、及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造4が順次に積層されている。
【0020】
今、所定の磁場を印加されて、第1及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造2及び4においてスピン分裂が生じ、第1の磁性半導体多重量子井戸構造2がダウンスピン状態のキャリアを透過し、第2の磁性半導体多重量子井戸構造3がアップスピン状態のキャリアを透過するとする。このとき、第1の磁性半導体多重量子井戸構造2内には、透過されたダウンスピン状態のキャリアのそれぞれに応じて一定方向、例えば図中矢印Aで示すような向きに電荷の移動が生じる。一方、第2の磁性半導体多重量子井戸構造4内には、透過されたアップスピン状態のキャリアのそれぞれに応じて前記ダウンスピン状態のキャリアとは逆向きの、例えば、図中矢印Bで示すような向きに電荷の移動が生じる。
【0021】
したがって、矢印Aで示される電荷量及び矢印Bで示される電荷量を計測することによって、ダウンスピン状態のキャリア量及びアップスピン状態にあるキャリア量を定量することができる。
【0022】
しかしながら、スピンフィルタ10は、それ自体を1つの素子として独立させて用いる。さらに、実際に用いる場合においては、外部からの励起媒体に依存して、生成されるキャリアのスピン状態などが変化するため、前記励起媒体に応じてスピンフィルタ10がどのように応答するのかが問題になる。
【0023】
したがって、通常は、矢印A及びBで示される電荷量の合計を計測して、その応答性を監視することになる。すなわち、キャリアのダウンスピン状態及びアップスピン状態のそれぞれが単独で問題となるのではなく、スピンフィルタ10が、フィルタリングできるエネルギー領域に励起されたキャリアの全体に対してどのように応答するのかが問題となる。
【0024】
この場合においては、非磁性体半導体量子井戸構造3を所定の準位に励起し、内部に所定のキャリアを生成させ、スピンフィルタ10全体を導通状態とすることによって、スピンフィルタ10全体に流れる電荷量、例えば、図中矢印Cで示す電荷量を計測する。
【0025】
特に、非磁性半導体量子井戸構造3に対して、同一又は異なるバンドに属するサブバンドのサブバンド間エネルギーに相当するサブバンド間光を照射し、非磁性半導体量子井戸構造3を所定のサブバンドにまで励起し、このときに移動する電荷量を計測することが好ましい。前記サブバンド間光は、キャリアのスピン状態を変化させることがないため、前記電荷量は、第1及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造で透過されフィルタリングされたキャリアのスピン状態を忠実に再現したものとなる。
【0026】
第1及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造2及び4、並びに非磁性半導体量子井戸構造3は、例えば、所定のII-VI族化合物半導体から構成することができる。例えば、第1及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造2及び4を、ZnSe層とZnMnSe層とを周期的に交互に積層して構成し、非磁性半導体量子井戸構造3を、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とを積層して構成することができる。また、非磁性半導体量子井戸構造3は、ZnCdSe層とZnSe層とを周期的に交互に積層して構成することができる。
【0027】
また、第1及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造2及び4を、ZnSe層とZnCdMnSe層とを交互に周期的に積層させて構成し、非磁性半導体量子井戸構造3を、非磁性半導体量子井戸構造3を、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とを積層して構成することができる。また、前述したように、非磁性半導体量子井戸構造3は、ZnCdSe層とZnSe層とを周期的に交互に積層して構成することができる。
【0028】
図3は、本発明の第2のスピンフィルタの一例を示す構成図である。図3に示すスピンフィルタ20においては、GaAsなどからなる半導体基板11上に、磁性半導体多重量子井戸構造12、非磁性半導体量子井戸構造13、及び半導体障壁層15が順次形成されている。そして、この場合においては、所定の磁場が印加されて磁性半導体多重量子井戸構造12内にスピン分裂が生じると、上述したように、キャリアのエネルギー領域に応じてダウンスピン状態又はアップスピン状態のキャリアが透過されフィルタリングされる。
【0029】
ダウンスピン状態のキャリアがフィルタリングされた際には、これらのキャリアに応じて、例えば図中矢印Pで示すような電荷の移動が生じる。そして、アップスピン状態のキャリアがフィルタリングされた際には、これらのキャリアに応じて、同様に図中矢印Pで示すような電荷の移動が生じる。したがって、これらの電荷量を計測することによって、透過されフィルタリングされたダウンスピン状態のキャリア又はアップスピン状態のキャリアを定量することができる。
【0030】
定量の際には、上述したように非磁性半導体量子井戸構造13を励起して所定のキャリアを生成させ、スピンフィルタ20全体に流れる電荷量を計測する。好ましくは、前述したように、非磁性半導体量子井戸構造13に対して、所定の光を照射し、非磁性半導体量子井戸構造13を所定の準位に励起し、このときに流れる電荷量を計測する。この電荷量はフィルタリングされたキャリア量を忠実に再現したものとなるので、フィルタリングされたキャリア量を正確に定量することができる。
【0031】
なお、図3における半導体障壁層15は、キャリアの閉じ込めをより効果的に行なうためのものであり、磁性半導体多重量子井戸構造12及び非磁性半導体量子井戸構造13と比較して、大きなバンドギャップを有する。しかしながら、このような半導体障壁層は必ずしも要求されるものではなく、半導体障壁層を有しなくとも十分に機能し得る、本発明に従った第2のスピンフィルタを提供することができる。また、半導体障壁層の機能を半導体基板11に付与することもできる。
【0032】
磁性半導体多重量子井戸構造12、及び非磁性半導体量子井戸構造13は、上記同様に、所定のII-VI族化合物半導体から構成することができる。例えば、磁性半導体多重量子井戸構造12を、ZnSe層とZnMnSe層とを周期的に交互に積層して構成し、非磁性半導体量子井戸構造13を、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とを積層して構成することができる。また、非磁性半導体量子井戸構造13は、ZnCdSe層とZnSe層とを周期的に交互に積層して構成することができる。
【0033】
また、磁性半導体多重量子井戸構造12を、ZnSe層とZnCdMnSe層とを交互に周期的に積層させて構成し、非磁性半導体量子井戸構造13を、単層のZnCdSe層と単層のZnSe層とを積層して構成することができる。また、前述したように、非磁性半導体量子井戸構造13は、ZnCdSe層とZnSe層とを周期的に交互に積層して構成することができる。
【0034】
さらに、半導体障壁層15は、BeTe、ZnSSe、及びZnMgSeなどから構成することができる。
【0035】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【0036】
例えば、本発明の第2のスピンフィルタにおいて、半導体障壁層を設ける代わりに、この半導体障壁層を構成する材料を非磁性半導体量子井戸構造に組み込み、例えば、ZnCdSe層とBeTe層との超格子構造とすることにより、非磁性半導体量子井戸構造自体に半導体障壁層の機能を組み込むことができる。
【0037】
また、本発明のスピンフィルタを用いることによって高周波発生器を作製することができる。例えば、図2に示すような構成のスピンフィルタにおいて、第1の磁性半導体多重量子井戸構造2及び第2の磁性半導体多重量子井戸構造4に所定の磁場が印加されてスピン分裂した状態で、非磁性半導体量子井戸構造3のバンド間に相当するエネルギーを有する円偏光を照射すると、非磁性半導体量子井戸構造3内には、歳差運動する電子スピンが生成される。このとき、前述したようにサブバンド間光を照射し、非磁性半導体量子井戸構造3を所定のサブバンドにまで励起し、このときに流れる電荷量を計測する。
【0038】
電荷の流れる方向は、スピンの方向に応じて変化するため、スピンの歳差運動の周波数で変化するようになる。一方、歳差運動の周波数は印加する磁場の大きさに比例して線形的に変化する。したがって、この電荷量を所定のアンテナとカップリングすることによって、広帯域で周波数可変な高周波発生器を得ることができる。
【0039】
なお、上記においては、複数のキャリアを用い、これら複数のキャリアを1つのグループとして、このグループを総合的に観察した際のスピン方向を判別し、測定するようにしたが、単一のキャリアを用い、このキャリアのスピン方向を判別し、測定することもできる。
【0040】
さらに、上記においては、第1の磁性半導体多重量子井戸構造2などをII-VI族化合物半導体から構成する場合について説明してきたが、第1の磁性半導体多重量子井戸構造2などは、III-V族化合物強磁性半導体から構成することもできる。
【0041】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、量子通信や量子演算などの技術において、キャリアスピンの方向を簡易に判別する素子としての、スピンフィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のスピンフィルタにおける、キャリアの透過率スペクトルのシュミレーション結果を示す図である。
【図2】 本発明の第1のスピンフィルタの一例を示す構成図である。
【図3】 本発明の第2のスピンフィルタの一例を示す構成図である。
【符号の説明】
1、11 半導体基板
2 第1の磁性半導体多重量子井戸構造
3、13 非磁性半導体量子井戸構造
4 第2の磁性半導体多重量子井戸構造
10 第1のスピンフィルタ
12 磁性半導体多重量子井戸構造
15 半導体障壁層
20 第2のスピンフィルタ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2