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明細書 :活性化金属を用いる塩素化アリールの脱塩素化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3985037号 (P3985037)
公開番号 特開2002-265392 (P2002-265392A)
登録日 平成19年7月20日(2007.7.20)
発行日 平成19年10月3日(2007.10.3)
公開日 平成14年9月18日(2002.9.18)
発明の名称または考案の名称 活性化金属を用いる塩素化アリールの脱塩素化方法
国際特許分類 C07C   1/26        (2006.01)
A62D   3/00        (2007.01)
B01J  19/08        (2006.01)
C07C  15/14        (2006.01)
C07C  45/30        (2006.01)
C07C  47/546       (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07C 1/26
A62D 3/00 ZAB
B01J 19/08 A
C07C 15/14
C07C 45/30
C07C 47/546
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2001-065174 (P2001-065174)
出願日 平成13年3月8日(2001.3.8)
審査請求日 平成13年3月8日(2001.3.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】田中 秀雄
【氏名】黒星 学
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
審査官 【審査官】小柳 正之
参考文献・文献 特開平09-249582(JP,A)
国際公開第99/015239(WO,A1)
調査した分野 C07C 1/26
C07C 15/14
C07B 35/06
特許請求の範囲 【請求項1】
1個またはそれ以上の塩素原子を有する塩素化アリールを有機溶媒中、還元剤としての金属マグネシウムと、該金属マグネシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の塩の存在下に、反応させることを特徴とする塩素化アリールの脱塩素化方法。
【請求項2】
1個またはそれ以上の塩素原子を有する塩素化アリールを、有機溶媒中、還元剤としての金属を陽極とし、該金属よりもイオン化傾向の小さい金属の塩の存在下に、電解することを特徴とする塩素化アリールの脱塩素化方法
【請求項3】
該還元としての金属が、アルミニウム、亜鉛、およびニッケルからなる群の中から選ばれる請求項2に記載の脱塩素化方法。
【請求項4】
有機溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンおよびN,N-ジメチルアセトアミドからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の溶媒を包含する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の脱塩素化方法。
【請求項5】
前記金属塩が、ニッケル、スズ、鉛、ビスマス、チタン、鉄、コバルトまたは銅の塩を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の脱塩素化方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、活性化金属を用いる塩素化アリールの脱塩素化に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ塩素化ビフェニル(PCB)は、環境中で難分解性であり生物に蓄積されやすいことから、化学審査規制法に基づく特定化学物質に指定され、廃PCB、PCB廃油、およびPCB汚染物等が廃棄物処理法に基づく特別管理産業廃棄物に指定されている。これらの規制の結果、使用されなくなった含PCB物は、現在、大口のみならず中小の事業所に小口で保管されている。これらの廃PCBは紛失・漏洩等の保管上のリスクから、可及的速やかに安全なレベルにまで処理されなければならない。しかし、移送中の事故による広範囲へのPCBの漏出が懸念されるため、一般の廃棄物と異なり、大量集中処理では対応しきれないのが現状であり、各PCB発生源や保管場所での処理が望ましい。また、PCBが多くの中小事業所においても保管されている現状を考えると、できるだけコンパクトな装置を用いて穏和な条件でPCBを分解する方法が望まれる。
【0003】
ところで、多様な発生源・保管所に分散して存在するPCBやダイオキシン等のポリ塩素化アリールの無害化処理技術として、種々の化学的・生物学的方法が開発されている。そのようなポリ塩素化アリールの無害化処理として、(1)高温熱分解、(2)アルカリ分解、(3)水素化脱塩素化、(4)超臨界水酸化、(5)紫外線・微生物分解等が知られている。これらの無害化処理はほとんどが高温・高圧作業条件下におこなわれ、エネルギーコストも高く、処理装置には高い耐熱、耐圧、耐アルカリ性が要求される。また、リチウム等強い還元力を有するアルカリ金属を作用させて塩素化アリールの脱塩素化を行う方法も報告されているが、その取り扱いには格別の配慮が必要で、装置や操作が複雑となる難点がある。
【0004】
これらの従来技術は大量のポリ塩素化アリールを一度に処理するには適している。しかし、処理すべき廃棄物は移動困難であり、多種多様な形態で、しかも数mg~数kgのスケールで多くの中小の発生源・保管所に分散管理されている現状には必ずしも適さない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、低処理コストで、小規模の発生源・保管所においてポリ塩素化アリール類を脱塩素化処理できる塩素化アリールの脱塩素化方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、本来強い還元力を有するが環境条件下では反応性に乏しい金属を電子源(還元剤)に取りあげ、これを活性化して塩素化アリールの脱塩素化に用いることに想到し、これにつき鋭意研究を行った。この結果、金属と触媒量の金属塩とを組み合わせることにより、さらに必要ならば金属を陽極として電解することにより、常温常圧下でも強い還元力を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、1個またはそれ以上の塩素原子を有する塩素化アリールを有機溶媒中、還元剤としての金属マグネシウムと、該金属マグネシウムよりもイオン化傾向の小さい金属の塩の存在下に、反応させることを特徴とする塩素化アリールの脱塩素化方法が提供される。
【0008】
本発明において、反応に用いる金属を陽極として用い有機溶媒中での電解により脱塩素化反応を行うことができる。1個またはそれ以上の塩素原子を有する塩素化アリールを、有機溶媒中、還元剤としての金属を陽極とし、該金属よりもイオン化傾向の小さい金属の塩の存在下に、電解することを特徴とする塩素化アリールの脱塩素化方法が提供される。
【0009】
還元剤としての金属は、好ましくは、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、スズおよびマンガンからなる群の中から選ばれる。
【0011】
有機溶媒は、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンおよびN,N-ジメチルアセトアミドからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の極性溶媒を包含し得る。
【0012】
本発明の活性化金属を用いる塩素化アリールの脱塩素化方法は、PCB等の塩素化アリールを簡便かつ安全に処理し得るものであり、PCBやダイオキシン等の物質処理に大きく貢献できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の塩素化アリールの脱塩素化は、1個またはそれ以上の塩素原子が結合した塩素化アリールを、有機溶媒中、金属塩の存在下で、還元剤としての金属と反応させることによって行われる。より具体的には、塩素化アリールと金属と触媒量の金属塩とを有機溶媒中でかき混ぜて脱塩素化反応を行うことができる。ここで、金属塩は、還元剤としての金属よりもイオン化傾向が小さい金属の塩である。
【0014】
還元剤としての金属としては、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、スズ、マンガン等を単独でまたは組み合わせて用いることができる。金属は、取り扱いやすさ、環境負荷の観点からすると、好ましくは、マグネシウムおよび/またはアルミニウムである。金属は、量論的な必要量から大過剰までにわたる割合で用いることができるが、好ましくは、塩素化アリール1モル当たり5モル~50モルの割合で用いられる。
【0015】
金属塩は、用いる金属よりもイオン化傾向の小さい金属の塩であり、単独でまたは組み合わせて用いることができる。そのような金属塩には、ニッケル、スズ、鉛、ビスマス、チタン、鉄、コバルト、銅の塩が含まれる。その具体例を挙げると、PbCl2、PbBr2、SnCl2、SnCl4、BiCl3、BiBr3、TiCl3、TiCl4、CoCl2、CuBr2、CuI2、NiCl2、NiBr2、NiBr2(bpy)、NiCl2(bpy)、NiBr2(Ph3P)3、Ni(salen)等である(ここで、Phはフェニルを意味する)。好ましくは、NiBr2(bpy)、NiCl2(bpy)、NiBr2(Ph3P)3、Ni(salen)等のニッケル錯体、またはこれらのニッケル錯体と鉛、ビスマス、スズ、チタン等の金属のハロゲン化物塩との組み合わせが用いられる。金属塩の使用量は、一般に、塩素化アリール1モル当たり20~0.001モルである。特に、ニッケル錯体は、単独で用いる場合、通常、塩素化アリール1モル当たり10~0.001モル、好ましくは1~0.005モルの割合で使用することが好ましい。また、このような量的割合のニッケル錯体と組み合わせて用いられる金属塩の添加量は、塩素化アリールやニッケル錯体の構造や溶媒の種類等に依存するが、通常、塩素化アリール1モル当たり10~0.001モル、好ましくは1~0.01モルである。
【0016】
反応に用いる有機溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、N,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミン、ジメチルジグライム等の非プロトン性極性有機溶媒が、単独で、または他の有機溶媒との混合溶媒の形態で、好ましく用いられる。混合溶媒に用いられる他の有機溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジグライム、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トリエチルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等を例示することができる。これらの有機溶媒に水を添加した含水有機溶媒も用いることができる。
【0017】
反応は、常温常圧下で行うことができるが、加温しながら反応させることもできる。用いる金属及び金属塩に依存するが、反応は、一般に0~100℃、好ましくは10~30℃で行うことができる。反応時間は、通常、1時間~24時間程度であるがこれに限るものではない。
【0018】
用いる金属が速やかに反応しない場合には、反応に用いる金属を陽極として電解することにより反応を効率良く行うことができ、金属として、アルミニウム、亜鉛、ニッケルを用いることができる。用いる電解装置に特に制限はないが、陽陰極を付したビーカー型の非分離セルを用いることができる。陰極としては、白金、炭素、ステンレス、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉛、スズ、チタン等を用いることができる。電解溶液は、上に詳述した金属塩及び有機溶媒を用いて調製されるが、電流を流し易くするため、さらに支持塩を加えて電解を行うことができる。支持塩としては、用いる溶媒に可溶で、十分にイオンに解離するものであれば特に限定されないが、好ましくは、Et4NBF4、Bu4NBF4、Et4NClO4、Bu4NClO4、Et4NOTs、Bu4NOTs等の第4級アンモニウム塩が用いられる(ここで、Etはエチル、Buはブチル、Tsはトシルを意味する)。電解は定電位条件で行うこともできるが、操作の簡便な定電流密度条件で行うことが好ましい。電流密度は、通常1mA/cm2~10A/cm2、好ましくは5mA/cm2~500mA/cm2である。
【0019】
本発明は、移動可能な簡便な装置で、しかも常温・常圧の作業条件下、簡便な操作で、数mg~数kg規模の塩素化アリールの脱塩素化処理に対応し得る。本発明の方法は、PCB等の塩素化ビフェニル、ダイオキシン等の各種塩素化アリールを脱塩素化して、無害なアリール化合物に変換することができる。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、以下の実施例において、別段の指示がない限り、「%」は、重量%を意味する。
【0021】
実施例1
10mLの反応器に4-クロロビフェニル1(94mg,0.5mmol)を量り取り、これにNiBr2(bpy)(18mg,0.05mmol)、PbBr2(18mg,0.05mmol)、Mg(121mg,5mmol)を加えた。反応器をアルゴン置換した後、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(2mL)を加え、室温(23~25℃)下でかき混ぜながら反応を行った。下記表1に示す反応時間毎に反応混合物の一部(50μL)を抜き取り、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。7時間反応させたところ、4-クロロビフェニル1は完全に消失し、ビフェニル2(収率68%)及び4-ホルミルビフェニル3(収率31%)が生成していることが分かった。
【0022】
化合物2及び化合物3の分析用サンプルは次のようにして得た。すなわち、反応混合物を5%塩酸に注ぎ、酢酸エチルで数回抽出した。抽出液は一つにまとめ、飽和食塩水で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。つづいて、減圧下で溶媒を留去し、カラムクロマトで精製すると、ビフェニル2及び4-ホルミルビフェニル3が得られた。化合物2及び化合物3の1H NMR、IRスペクトルを以下に示す。
【0023】
化合物2:1H NMR (200 MHz, CDCl3) δ 7.30-7.51 (m, 6H), 7.52-7.64 (m, 4H); IR (CCl4) 3065, 3033, 1598, 1483, 1432 cm-1
化合物3:1H NMR (200 MHz, CDCl3) δ 10.06 (s, 1H), 7.30-7.58 (m, 3H), 7.58-7.67 (m, 2H), 7-67-7.80 (m, 2H), 7.92-8.01 (m, 2H).; IR (CCl4) 3065, 3034, 2927, 2816, 2730, 1707, 1606, 1567 cm-1
【0024】
【表1】
JP0003985037B2_000002t.gif【0025】
実施例2
金属と金属塩を下記表2に示す金属、金属塩に変えた以外は実施例1と同様な反応を行った。結果を表2に併記する。
【0026】
【表2】
JP0003985037B2_000003t.gif【0027】
実施例3
用いる溶媒を下記表3に示す単一あるいは混合溶媒に変えた以外は実施例1と同様な反応を行った。結果を表3に併記する。
【0028】
【表3】
JP0003985037B2_000004t.gif【0029】
実施例4
下記表4に示すポリ塩素化アリールについて脱塩素化をおこなった。表4に示す反応条件以外は実施例1と同様な反応を行った。結果を表4に併記する。
【0030】
【表4】
JP0003985037B2_000005t.gif【0031】
実施例5(電解法)
10mLの反応器に4-クロロビフェニル1(94mg,0.05mmol)、NiBr2(bpy)(56mg,15mmol)、PbBr2(18mg,0.05mmol)およびEt4NBF4(109mg,0.05mmol)を量り取り、これにN,N-ジメチルホルムアミド(5mL)を加え、かき混ぜて均一溶液とした。つぎに、この溶液にアルミニウム陽極(1×1cm2)と白金陰極(1×1cm2)とを浸し、室温(23~25℃)下でかき混ぜながら、電流を10mAに保って電解を行った。電解中、下記表5に示す反応時間毎に電解溶液の一部(50μL)を抜き取り、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。13時間電解したところ、4-クロロビフェニル1は完全に消失し、ビフェニル2(収率80%)が生成していることが分かった。電解混合物を5%塩酸に注ぎ、酢酸エチルで数回抽出した。抽出液を一つにまとめ、飽和食塩水で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。つづいて、減圧下で溶媒を留去し、カラムクロマトグラフで精製すると、ビフェニル2(48.5mg,収率63%)が得られた。化合物2の1H NMR、IRスペクトルを以下に示す。
【0032】
化合物2:1H NMR (200 MHz, CDCl3) δ 7.30-7.51 (m, 6H), 7.52-7.64 (m, 4H); IR (CCl4) 3065, 3033, 1598, 1483, 1432 cm-1
【0033】
【表5】
JP0003985037B2_000006t.gif【0034】
実施例6(電解法)
以下の表6に示す電解条件以外は実施例5と同様な電解を行った。結果を表6に併記する。
【0035】
【表6】
JP0003985037B2_000007t.gif【0036】
以上の結果からもわかるように、本発明によれば、金属と金属塩とを用い、有機溶媒中、環境条件下、簡単な装置で、簡便な操作で塩素化アリールを脱塩素化することができる。また、用いる金属は単独では安定で、金属塩を添加することにより、あるいは簡単な電解操作で初めて強い還元力を発揮するので、その取り扱いが容易である。
【0037】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の方法により、簡便な装置で、常温・常圧の反応条件下、簡便な操作で、塩素化アリールを脱塩素化することができる。本発明は、数mgから数kgのスケールの脱塩素化処理に対応できるので、比較的小規模のポリ塩素化アリールの新しい無害化技術を提供するものであるということができ、従来の同種の技術を補完することが可能となる。