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明細書 :イオン性液体中でのPd/C触媒を用いたHeck反応

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3541223号 (P3541223)
公開番号 特開2002-265394 (P2002-265394A)
登録日 平成16年4月9日(2004.4.9)
発行日 平成16年7月7日(2004.7.7)
公開日 平成14年9月18日(2002.9.18)
発明の名称または考案の名称 イオン性液体中でのPd/C触媒を用いたHeck反応
国際特許分類 C07B 37/04      
C07C  2/88      
C07C 15/50      
C07C 41/30      
C07C 43/215     
C07C 45/68      
C07C 49/217     
C07C 49/794     
C07C 67/343     
C07C 69/618     
C07C 69/65      
C07C 69/734     
C07C 69/738     
C07C201/12      
C07C205/56      
C07C253/30      
C07C255/34      
C07C255/40      
C07B 61/00      
FI C07B 37/04 B
C07C 2/88
C07C 15/50
C07C 41/30
C07C 43/215
C07C 45/68
C07C 49/217
C07C 49/794
C07C 67/343
C07C 69/618
C07C 69/65
C07C 69/734 Z
C07C 69/738 Z
C07C 201/12
C07C 205/56
C07C 253/30
C07C 255/34
C07C 255/40
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2001-065162 (P2001-065162)
出願日 平成13年3月8日(2001.3.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り 化学と工業、第54巻、第3号、2001 p.421
審査請求日 平成13年3月8日(2001.3.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012394
【氏名又は名称】東北大学長
発明者または考案者 【氏名】横山 千昭
【氏名】萩原 久大
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100068814、【弁理士】、【氏名又は名称】坪井 淳
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
審査官 【審査官】藤森 知郎
参考文献・文献 特開平06-293706(JP,A)
調査した分野 C07B 37/04
C07C 2/88
C07C 15/50
C07C 41/30
C07C 43/215
C07C 45/68
C07C 49/217
C07C 49/794
C07C 67/343
C07C 69/618
C07C 69/65
C07C 69/734
C07C 69/738
C07C201/12
C07C205/56
C07C253/30
C07C255/34
C07C255/40
C07B 61/00
特許請求の範囲 【請求項1】
イオン性液体中において、Pd/C触媒存在下に、一般式I:
Ar-X (I)
[式中、
Arは、置換又は無置換の芳香族化合物を表し、
Xは、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、又はハロゲン原子を表す]
を有する化合物と、一般式II:
【化1】
JP0003541223B2_000011t.gif
[式中、R’は、アルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルバモイル基 、ハロゲン原子、イミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホ基、スルフィノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基又はシリル基を表す]
を有するオレフィンとを反応させることにより、一般式III:
【化2】
JP0003541223B2_000012t.gif
[式中、Ar及びR’は、上述の定義と同様である]
を有する化合物を製造する方法。
【請求項2】
イオン性液体中において、Pd/C触媒存在下に、一般式IV:
【化3】
JP0003541223B2_000013t.gif
[式中、
Rは、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、イミド基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、カルバモイル基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホ基、スルフィノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基又はホスホノ基を表し、
Xは、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、又はハロゲン原子を表す]
を有する化合物と、一般式II:
【化4】
JP0003541223B2_000014t.gif
[式中、R’は請求項1の定義と同様である]
を有するオレフィンとを反応させることにより、一般式V:
【化5】
JP0003541223B2_000015t.gif
[式中、R及びR’は、上述の定義と同様である]
を有する化合物を製造する方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、環境負荷の小さいイオン性液体中での、再利用可能なPd/C触媒を用いたHeck反応による芳香族オレフィンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パラジウム触媒を用いて、ハロゲン化アリールやアリールトリフルオロメタンスルホネートとオレフィンの反応により新たにC-C結合を形成させる反応は、Heck反応と呼ばれ、有機合成化学の分野において現在でも多くの研究者により基礎研究および応用研究が行われている。パラジウム触媒を用いたC-C結合を形成させるための同様な反応としては、Stille反応、Suzuki反応等が挙げられる。各反応は、いずれも利点と欠点を有しており、目的生成物の構造や、反応条件等の制約から、最適な反応が選定される。C-C結合を形成させる反応は、医薬品等の製造において有用であり、これらの反応の工業化が要望されている。
【0003】
Stille反応は、ビニルスズ化合物を反応させるものであり、基質を一旦ビニルスズ化合物に誘導した後に、Pd触媒反応を行う。有機スズ化合物は毒性が指摘されており、現実には、医薬品製造に使用することはできない。
【0004】
Suzuki反応は、有機ホウ素化合物を反応させるものであり、基質を一旦有機ホウ素化合物に誘導した後に、Pd触媒反応を行う。有機ホウ素化合物も将来的には使用禁止の方向にあるため、医薬品製造におけるSuzuki反応の利用も困難になってきている。
【0005】
従って、パラジウム触媒を用いる反応としてはHeck反応が有用であり、、特に適用範囲が広く、将来的に、医薬品等の製造においてはHeck反応のみが生き残っていくと考えられる。
【0006】
このHeck反応を工業化するためには、プロセスの経済性を高める必要がある。一般の有機溶媒中で有機パラジウム化合物を触媒とする反応では、反応の進行とともに、パラジウムが金属として析出し、パラジウムブラックと呼ばれる状態になり、触媒活性が失われる。従って、高価な有機パラジウム触媒を再利用することはできない。また、触媒活性を高めるために毒性を有するホスフィン配位子を使用しなければならないため、環境負荷の問題も生じる。さらに、有機パラジウムは安定性(空気や水分に対する化学的安定性)に問題があるために取扱いに注意を要するといった欠点がある。このような欠点がHeck反応を工業的に利用する際の大きな問題点となっていた。
【0007】
そこで、上記の有機パラジウム触媒を用いた場合の問題点を解決するために、有機溶媒に替わって、イオン性液体を用いたHeck反応に関する研究がすでに行われるようになった。イオン性液体の使用は、有機溶媒の使用を回避できることから環境にもやさしく、イオン性溶媒は、有機溶媒や超臨界CO2、水にはない特徴を有し、使いやすい溶媒として注目されている。
【0008】
イオン性液体を溶媒とするHeck反応としては、第一に、イオン性液体として、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロマイドとテトラオクチルアンモニウムブロマイドを用い、アリールハライドとブチルアクリレートを用いたHeck反応が挙げられる(D. E. Kaufmann, M. Nouroozian, H. Henze SYNLETT, 1091~1092, 1996年)。このHeck反応は、触媒として2種類の有機パラジウム化合物、塩化パラジウムを使用し、塩基としてトリエチルアミンを添加している。この反応で得られた生成物は、分液操作によりジクロロメタンで抽出している。従って分液後の水洗によって生ずる水廃液の処理が必要となる。この反応は、ホスフィン配位子が不要であることを示した。この論文中には、数回反応を繰り返しても反応が進行したという記述があるが、反応率等のデータが示されていない。この反応系では、イオン性液体とパラジウム化合物の分離が困難であり、イオン性液体の回収ができないことが問題点として挙げられる。
【0009】
第二に、5種類のイオン性液体を用いて、アリールハライド又はベンゾイックアンハイドライドとアルケン(エチルアクリレート)とのHeck反応が挙げられる(A. J. Carmichaelら, Org. Lett., 1(7), 997~1000, 1999年)。この論文では、イオン性液体の比較、添加物の効果、塩基の効果について調べており、その結果、イオン性液体としては、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩({bmin}{PF6})が最も良い結果を与えることを示している。ホスフィン配位子を加えない場合、転化率は低くなり、高転化率を得るためには反応温度を高くする必要がある。さらに触媒、溶媒の再利用の検討を行っており、6回の繰り返しでも活性の低下は見られない旨が記載されている(ただし、詳細なデータは示されていない)。この反応系は、触媒がイオン性液体に溶解性を有するために、やはり溶媒と触媒の分離が困難である。
【0010】
第三に、8種類のイオン性液体を用いて、触媒は独自に合成した有機パラジウム錯体および市販の有機パラジウム化合物の両者を使用したHeck反応が挙げられる(W. A. Herrmann, V. P. W. Bohn, J. Orgametallic Chem., 572, 141~145, 1999年)。ここでは使用する塩基、添加剤、イオン性液体の最適な組み合わせを調べている。触媒を溶解した溶媒を8回繰り返し使用した場合でも、触媒は高活性を維持するデータが示されている。この反応系は均一系であり、これもやはり触媒と溶媒の分離は困難である。
【0011】
第四に、2種類のイオン性液体を用いて、触媒としてPd(OAc)2を使用したHeck反応が挙げられる(L. Xu, W. Chen, J. Xiao Organometallics, 19, 1123~1127, 2000年)。ここでは、Pd(OAc)2とイオン性液体との反応によってカルベン錯体が生成していることを証明した(これが触媒として機能している)。触媒の再利用検討は行っていない。この反応系も均一系であり、触媒と溶媒の分離が困難である。
【0012】
上記の例は、イオン性液体を溶媒とすることで、有機パラジウム金属触媒+溶媒を再利用できることを示した。このようにイオン性触媒を溶媒として有機パラジウム化合物を触媒として用いた場合、この溶媒+触媒の混合系から生成物を分離することは容易であり(有機溶媒を用いた場合よりも容易、水廃液はなく、塩の分離も不要)であり、さらに溶媒+触媒の混合系を再利用できるという利点があるものの、溶媒と触媒は均一に溶解しており、両者の分離精製は困難であり、溶媒と触媒を単独に再生させることは困難である。
【0013】
そこで、イオン性液体中でのHeck反応において、イオン性液体と触媒を分離が問題となる。上記の例には、イオン性液体中で、固体の表面にパラジウムを担持した触媒を用いた例は見あたらない。これまでに有機溶媒中でPd/C、Pd/Al23などの担持金属触媒を用い研究例は報告されているが、その触媒活性は一般に有機パラジウム化合物の触媒活性よりも低いことが示されている。また、担持金属触媒を用いると、反応系によっては触媒の活性点表面に反応の副生成物である塩類が析出し、触媒活性が急激に低下し、また再利用もされていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
従って、イオン性液体中でのHeck反応を実際の工業プロセスに応用するために、環境負荷の小さいイオン性液体中でのHeck反応において、触媒の再利用が容易な反応形式の確立が課題とされている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、有機溶媒に替わる新しい溶媒として期待されているイオン性液体を溶媒として用い、触媒にはHeck反応に一般的に使用される有機パラジウム化合物に替わり、取扱いが容易でかつ安価なPd/Cを用いたHeck反応を開発することで、上記課題を解決した。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明では、安価で安定な取扱いの容易であるPd/Cに着目した。即ち、イオン性液体中で固体微粒子状の担持金属触媒であるPd/Cが、Heck反応に対し触媒活性を示すことを世界に先駆けて示すことができた。
【0017】
本発明の一つの形態は、イオン性液体中において、Pd/C触媒存在下に、一般式I:
Ar-H (I)
[式中、
Arは、置換又は無置換の芳香族化合物を表し、
Xは、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、又はハロゲン原子を表す]
を有する化合物と、一般式II:
【化6】
JP0003541223B2_000002t.gif[式中、R’は、アルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシ基、カルバモイル基 、ハロゲン原子、イミド基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホ基、スルフィノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基又はシリル基を表す]
を有するオレフィンとを反応させることにより、一般式III:
【化7】
JP0003541223B2_000003t.gif[式中、Ar及びR’は、上述の定義と同様である]
を有する化合物を製造する方法である。
【0018】
本発明の別の形態は、イオン性液体中において、Pd/C触媒存在下に、一般式IV:
【化8】
JP0003541223B2_000004t.gif[式中、
Rは、水素原子、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリール基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、イミド基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、カルバモイル基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホ基、スルフィノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基又はホスホノ基を表し、
Xは、トルフルオロメタンスルホニルオキシ基、又はハロゲン原子を表す]
を有する化合物と、一般式II:
【化9】
JP0003541223B2_000005t.gif[式中、R’は上述の定義と同様である]
を有するオレフィンとを反応させることにより、一般式V:
【化10】
JP0003541223B2_000006t.gif[式中、R及びR’は上述の定義と同様である]
を有する化合物を製造する方法である。
【0019】
イオン性液体は、室温前後で融解できる、塩類、塩類の混合物、あるいは、塩類を生成する成分の混合物の液体であり、この用語は、例えば100℃程度までの比較的に高い温度で融解する塩類にも適用され得うる。一般的なイオン性液体は、室温で蒸気圧がゼロであることと、高い溶解力と広い液体範囲(例えば、300℃のオーダー)を有するという特徴がある。既知のイオン性液体には、ハロゲンアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン若しくはテトラフルオロボレートアニオンを有するアンモニウム塩、ホスホニウム塩、N,N’-ジアルキルイミダゾリウム塩又はN-アルキルピリジニウム塩等の化合物が挙げられる。例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムブロミド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェート、N-ヘキシルピリジニウムテトラフルオロボレート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド又はN-ブチルピリジニウムクロリドである。本発明で使用するのに好ましいイオン性液体は、下記構造式を有する1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩である。
【0020】
【化11】
JP0003541223B2_000007t.gif【0021】
本発明で使用するPd/C触媒は、例えば10質量%のPd/C(川研ファインケミカル社製)である。Pd/C触媒は、安価でかつ安定で取扱いやすく、再使用可能であり、本発明において非常に有用である。
【0022】
Pd/C触媒の添加量は、ハロゲン化アリール又はアリールトリフルオロメタンスルホネートに対して、0.05mol%~10mol%、好ましくは0.1mol%~8mol%、さらに好ましくは1mol%~5mol%である。
【0023】
Arは、置換又は無置換の芳香族化合物を表し、単環式であっても、多環式であってもよい。また、不飽和炭素環式化合物であっても、複素環式化合物であってもよい。
【0024】
Xは、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基、又はハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、好ましくは臭素又はヨウ素であり、さらに好ましくはヨウ素である。
【0025】
R’は、アルキル基(炭素原子数1~20)、アリール基(炭素原子数6~20)、アシル基(炭素原子数2~20)、アルコキシ基(炭素原子数1~20)、アリールオキシ基(炭素原子数6~20)、シアノ基、アルコキシカルボニル基(炭素原子数2~20)、アリールオキシカルボニル基(炭素原子数7~20)、アシルオキシ基(炭素原子数2~20)、カルボキシ基、カルバモイル基 、ハロゲン原子、イミド基、アルキルチオ基(炭素原子数1~20)、アリールチオ基(炭素原子数6~20)、スルホ基、スルフィノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスホノ基又はシリル基を表す。特に、R’は、アリール基、シアノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基が好ましく、そのような例として、具体的にフェニル基、シアノ基、アセチル基、プロピオニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0026】
Rは、水素原子、アルキル基(炭素原子数1~20)、アシル基(炭素原子数2~20)、アルコキシ基(炭素原子数1~20)、アシルオキシ基(炭素原子数2~20)、アリール基(炭素原子数6~20)、アリールオキシ基(炭素原子数6~20)、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、イミド基、アルコキシカルボニル基(炭素原子数2~20)、アリールオキシカルボニル基(炭素原子数7~20)、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、カルバモイル基、メルカプト基、アルキルチオ基(炭素原子数1~20)、アリールチオ基(炭素原子数6~20)、スルホ基、スルフィノ基、ホスフィノ基、ホスフィニル基又はホスホノ基を表す。特に、Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基が好ましく、そのような例として、具体的に水素原子、メチル基、メトキシ基、アセチル基、臭素原子、塩素原子、ニトロ基が挙げられる。
【0027】
Rは、ベンゼン環のどの位置に置換されても構わないが、好ましくは3位又は4位に、さらに好ましくは4位に置換される。またRは、ベンゼン環に複数置換されても構わない。好ましくは一置換である。
【0028】
上記に列挙したR及びR’は、さらに置換されてもよい。
【0029】
本発明に従った芳香族化合物とオレフィンの反応は、温度20~200℃、好ましくは60~160℃、さらに好ましくは80~140℃で行われる。
【0030】
本発明の反応時間は、30分~48時間、好ましくは1時間~36時間、さらに好ましくは6時間~24時間が好ましい。
【0031】
反応中に生成してくる水素ハロゲン化物又はトリフルオロメタンスルホン酸は、反応の工程中に除去されるのが好ましい。この方法としては、塩基の添加によって中和するのが有利である。適当な塩基としては、第一級、第二級又は第三級アミン(例えば、トリエチルアミン)、およびカルボン酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、及びマグネシウムの炭酸塩、炭酸水素塩または酢酸塩)が挙げられる。本発明において好ましい塩基は、トリエチルアミンである。
【0032】
反応終了後、得られた反応生成物は、反応溶媒であるイオン性液体相に例えばヘキサン、ジエチルエーテルのような有機溶媒相を接触させ(この際、両者は相互作用溶解しない)、デカンテーションすることで溶媒相(ヘキサン相、ジエチルエーテル相)に反応生成物のみを抽出、分離することが可能である。
【0033】
本発明に従った反応系において、遠心分離や濾過といった機械的な操作で容易にPd/Cと溶媒を分離することが可能である。
【0034】
反応終了後、濾過により分離回収したPd/C触媒を繰り返し用いた場合も、活性の低下は見られなかった。従って、使用したPd/C触媒を再使用することが可能である。
【0035】
反応終了後、反応生成物抽出、イオン性液体から触媒の濾過による分離後、ICP分光測定装置を用いてそのイオン性液体中のPd濃度を分析した。また、基質を添加しないで、溶媒と触媒のみを同様の反応条件にさらしたものについても、同様の処理を行い、そのイオン性液体中のPd濃度を分析した。その結果、イオン性液体にパラジウムが溶出していないことを確認した。従って、本発明に従った反応は、固液界面で進行する不均一反応であることがわかった。さらに、イオン性液体中にパラジウムが溶出しないことにより、イオン性液体の再生も容易である。
【0036】
また、本発明に従った方法は、イオン性液体を用いることで、Pdの金属表面上への塩類の堆積による活性低下現象が回避できることが明らかとなった。従ってイオン性液体を溶媒とすれば、担持金属触媒が使用可能となる。上述したようにPd/C触媒は安価(有機パラジウム化合物の約1/10程度の価格)で、しかも取扱いが容易であり、本発明によって触媒の再利用が可能であることが明らかなったので、ここで経済的なHeck反応の構築が可能となった。
【0037】
本発明は、従来の有機パラジウム触媒を用いた場合とは異なり、Pd/C触媒を用いていることから溶媒と触媒の分離が容易であり、かつ触媒の再利用が可能で、また反応生成物の分離も容易で、有機化合物に汚染された水廃液が出ないなどの数多くの利点を有する。また、イオン性液体を用いていることから、担持金属化合物を利用することが可能となり、環境負荷も小さい。
【0038】
従って、ここで初めて工業的・経済的に有利なHeck反応のプロセスを構築することができた。
【0039】
本発明に従った製造方法は、医薬品等の各種物質の製造において、その製造過程中の一つの工程がHeck反応を使用している場合に、そこで本発明の反応と置き換えることが可能である。
【0040】
本発明の方法は、医薬品、酵素機能抑制剤、農薬、香料、化粧用基剤(紫外線カット用化合物)、機能性ポリマー合成用原料(モノマー)のような物質を合成する際に、有用に使用され得る。医薬品としては、例として、タキソール(抗癌剤)、ネゾロシノール誘導体(鎮痒剤、防カビ剤、防腐剤)、スペローピペリジン誘導体(炎症、帯状疱疹後神経痛用治療薬)が挙げられる。化粧用基剤(紫外線カット剤)としては、桂皮酸エステル、機能性ポリマー合成用原料(モノマー)としては、例えば、アゼピン、ナフチリジン(含窒素芳香族化合物)が挙げられる。
【0041】
以下の例を用いて、本発明の方法をさらに説明するが、本発明はこれら特定の例により限定されるものではない。
【0042】
【実施例】
実施例1~15:
試験管中にて、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩1ml中に、ヨウ化ベンゼン204mg(1mmol)及びアクリル酸エチル103μl(1.5mmol)を添加し、窒素雰囲気下で攪拌した。そこに10質量%Pd/C(3mol%)、トリエチルアミン210μl(1.5mmol)を添加し、温度100℃に加熱した。12時間後、反応液を室温にまで冷却し、反応を停止させた。次に、反応液にヘキサン5mlを接触させ、抽出、デカンテーションした。この抽出、デカンテーション操作を5回繰り返した。ヘキサンと目的物の分離は中圧液体クロマトグラフィ(シリカゲルカラム、溶媒;酢酸エチル:n-ヘキサン=1:4)で行い、目的物150mg(85%)を得た。大量合成の場合は、蒸留等のそれ自体公知の方法により分離精製を行うことができる。得られた結果を下記表1に示す。
その他、ヨウ化アリール基質を種々変更させた結果も表1に示した。
【0043】
【表1】
JP0003541223B2_000008t.gif【0044】
実施例1、実施例2、実施例6(ホスフィン添加)の結果から、本発明はホスフィン配位子が不要であることがわかった。
【0045】
また、実施例4、実施例7~11の結果から、触媒を繰り返し(6回)用いた場合でも活性の低下は見られないことがわかる。
【0046】
実施例12(メチル基で置換)、実施例13(メトキシ基で置換)、実施例14(アセチル基で置換)、実施例15(臭素基で置換)から分かるように、ベンゼン環が電子吸引性基や電子供与性で置換されていても反応は同様に進行する。
【0047】
実施例16~19:
ヨウ化ベンゼンの替わりに臭化ベンゼンを用い、温度140℃で反応させる以外は、実施例1~15と同様に反応、後処理、精製の操作を行った。得られた結果を下記表2に示す。その他、臭化アリール基質を変更させた結果も表2に示した。
【0048】
【表2】
JP0003541223B2_000009t.gif【0049】
実施例20~27
試験管中にて、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸塩1mL中に、ヨウ化ベンゼン204mg(1mmol)及びアクリロニトリル198μl(3mmol)を添加し、窒素雰囲気下にて攪拌した。そこに10質量%Pd/C(3mol%)、トリエチルアミン210μl(1.5mmol)を添加し、温度100℃に加熱した。12時間後、反応液を室温まで冷却し、反応を停止させた。次に、反応液にジエチルエーテル(5ml)を接触させ、抽出、デカンテーションした。この抽出、デカンテーション操作を7回繰り返した。ジエチルエーテルと目的物の分離は中圧液体クロマトグラフィ(シリカゲルカラム、溶媒;酢酸エチル:n-ヘキサン=1:2)で行い、目的物97mg(75%)を得た。大量合成の場合は、蒸留等のそれ自体公知の方法により分離精製を行うことができる。得られた結果を下記表3に示す。
その他、オレフィン基質として、スチレン、ビニルケトンを用いた場合についても、表3に結果を示した。
【0050】
【表3】
JP0003541223B2_000010t.gif【0051】
その結果、本発明は、多様なオレフィンについて適用可能であることがわかった。
【0052】
【発明の効果】
上記から明らかなように、本発明の方法は、下記のような特有の効果を奏する。
・生成物の分離に溶媒抽出方法が使える。
・イオン性液体が水に不溶であるため、生成物の分離が精製操作において有機物を微量溶解した水廃液がでない。
・毒性を有するホスフィン配位子が不要である。
・イオン性液体は非揮発性であり、水中に可溶に溶解しない。従って、環境への散逸(汚染)がない。
・副生成物であるハロゲン化物(塩)又はトリフルオロメタンスルホン酸塩は溶媒に可溶であるため、触媒表面上への析出がなく、触媒の寿命が長くなる。
・溶媒(イオン性液体)と触媒の分離が容易である。
・触媒と溶媒を単独に再利用することが可能である。