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明細書 :植物培養細胞からの長期間安定な物質生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4038567号 (P4038567)
公開番号 特開2002-253221 (P2002-253221A)
登録日 平成19年11月16日(2007.11.16)
発行日 平成20年1月30日(2008.1.30)
公開日 平成14年9月10日(2002.9.10)
発明の名称または考案の名称 植物培養細胞からの長期間安定な物質生産方法
国際特許分類 C12P  19/60        (2006.01)
C12N   5/04        (2006.01)
FI C12P 19/60
C12N 5/00 F
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2001-060225 (P2001-060225)
出願日 平成13年3月5日(2001.3.5)
審判番号 不服 2005-006233(P2005-006233/J1)
審査請求日 平成13年3月5日(2001.3.5)
審判請求日 平成17年4月7日(2005.4.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】小林 猛
【氏名】本多 裕之
【氏名】長森 英二
【氏名】平岡 浩佑
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
参考文献・文献 特開平06-046838(JP,A)
特開昭62-198334(JP,A)
特開平06-181754(JP,A)
特開昭59-102308(JP,A)
特開昭61-265086(JP,A)
特開平03-139275(JP,A)
特開平05-236950(JP,A)
特開平04-187083(JP,A)
特開平04-152887(JP,A)
調査した分野 C12P 19/60
C12N 5/00
特許請求の範囲 【請求項1】
増粘剤を含み2~20cpの粘度を有する液体培地中で、目的物質を産生する能力を有するカルス(細胞塊)状態の植物培養細胞を固定化せずに培養する工程と、
前記培養後のカルス(細胞塊)状態の培養細胞を、増粘剤を含み2~20cpの粘度を有する液体培地中で、固定化せずに継代培養する工程と、
前記継代培養後の培養細胞により産生された目的物質を得る工程とを
具備することを特徴とする植物培養細胞からの物質生産方法。
【請求項2】
前記液体培地が、3~10cpの粘度を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記増粘剤が、アルギン酸もしくはその塩、またはカルボキシメチルセルロースもしくはその塩であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有用物質を産生する植物培養細胞を用いて、その生産量を増大させて有用物質を生産する方法、および長期間安定に有用物質を生産する方法に関する。本方法は、アグリバイオ(バイオ農業)、特に植物組織培養による有用物質生産の分野で利用可能である。
【0002】
【従来の技術】
従来から、植物組織培養による有用物質の生産において、細胞の培養期間が長くなると目的物質の生産量が低下するという問題があった。しかしこのような問題に対して、本発明のように、増粘剤の添加により、植物細胞からの有用物質の生産量が増大し、その生産が長期間にわたり安定に維持されたという報告はなされていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、組織培養技術を用いて植物培養細胞から有用物質を生産する際に、その生産性を向上させ、長期間にわたり安定に生産する方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明において、増粘剤を含む液体培地中で、目的物質を産生する能力を有する植物培養細胞を培養すれば、目的物質の生産性が向上すること、および培養期間が長期にわたっても目的物質の生産量が低下しないことを見出し、これにより本発明を完成させるに至った。
【0005】
本発明の植物培養細胞からの物質生産方法は、増粘剤を含む液体培地中で、目的物質を産生する能力を有する植物培養細胞を培養する工程と、前記培養後の植物培養細胞により産生された目的物質を得る工程とを具備する。
【0006】
さらに、本発明の植物培養細胞からの物質生産方法は、増粘剤を含む液体培地中で、目的物質を産生する能力を有する植物培養細胞を培養する工程と、前記培養後の培養細胞を、増粘剤を含む液体培地中で継代培養する工程と、前記継代培養後の培養細胞により産生された目的物質を得る工程とを具備する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の植物培養細胞からの物質生産方法を詳細に説明する。
【0008】
本発明の方法は、第一の態様として、増粘剤を含む液体培地中で植物培養細胞を培養する第一の工程と、前記培養後の植物培養細胞により産生された目的物質を得る第二の工程とを含む。以下、第一の工程を増殖培養ともいう。
【0009】
また、本発明の方法は、第二の態様として、増粘剤を含む液体培地中で植物培養細胞を培養する第一の工程と、前記培養後の培養細胞を、増粘剤を含む液体培地中で継代培養する第二の工程と、前記継代培養後の培養細胞により産生された目的物質を得る第三の工程とを含む。同様に、第一の工程を増殖培養ともいい、第二の工程を継代培養ともいう。
【0010】
本発明の植物培養細胞からの物質生産方法において使用する植物培養細胞は、入手したい目的物質を産生する能力を有する細胞であれば特に限定されず、どの植物種に由来する培養細胞であってもよいし、更に植物のどの部位から誘導された培養細胞であってもよい。「目的物質を産生する能力を有する細胞」とは、本発明の方法に使用する際に、現に目的物質を細胞内に含有している細胞であってもよいし、目的物質を細胞内には含有していないが潜在的に産生する能力を有している細胞であってもよい。また、目的物質を得るための該培養細胞は、カルスの状態で継代培養されているもの、または既に液体培養液中で培養されている細胞の何れであってもよいし、あるいはプロトプラストを使用することもできる。好ましくは、植物特有の二次代謝産物等の有用物質を生産する培養細胞が使用され、例えばブドウ培養細胞、ヨウシュヤマゴボウ培養細胞を使用することができる。尚、カルスの誘導、液体培養細胞の調製、およびプロトプラストの調製は、当業者に既知の方法を用いて、必要に応じて適宜改良を加えることにより行うことができる。
【0011】
本発明において、前記培養細胞を増殖培養する液体培地は、該培養細胞が増殖可能である培地であれば特に限定されない。好ましくは、当該培養細胞の培養に一般に使用されているものであり、ブドウ培養細胞であれば、必要な糖および植物ホルモンを含むGambolg B5培地を主成分とする培地が一般に使用されている。なお、B5培地については、O.L.Gamborg, R.A. Miller, K. Okajima, Exp. Cell Res., 50 (1968) 151-156を参照されたい。B5培地に加える糖としては、10~50g/Lのスクロースが挙げられる。B5培地に加える植物ホルモンについては、オーキシンとして0.05~5mg/L 2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、サイトカイニンとして0~0.5 mg/L カイネチンを使用することができる(ここで、カイネチン濃度を0からとしたのは、サイトカイニンを含有しない場合もあるからである)。また、培地のpHは、好ましくはpH 5.0~6.5のものを使用することができる。
【0012】
本発明において、前記培地に含有させる増粘剤は、培地の粘度を増加させるものであって、且つ培養細胞の生育に影響を及ぼさないものであれば特に限定されない。増粘剤の例として、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルスターチ、ポリアクリル酸ナトリウム、グアーガム、ザンタンガム、ローカストビーンガムなどが挙げられる。好ましくは、アルギン酸もしくはその塩、またはカルボキシメチルセルロースもしくはその塩を使用することができる。何れもその塩は、塩の形態をとるものであれば特に限定されない。例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩であっても、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩であってもよい。例えば、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムを使用することができる。該増粘剤は、培地調製時に培地に溶解させることにより添加することができる。
【0013】
前記増粘剤の培地中の濃度は、培地に粘度を付与できる濃度から培養細胞の物質生産能力に影響を及ぼさない粘度の範囲まで適宜設定できる。アルギン酸ナトリウムまたはカルボキシメチルセルロースについていえば、培地中に0.05~5.0(w/v)%の濃度で含有させることができ、好ましくは0.1~1.0(w/v)%の濃度にする。
【0014】
なお、増粘剤の種類によっては、添加した濃度が高い場合、培地中の成分と反応して培地が固化する場合があるが、本発明においては、培地を固化させる濃度での増粘剤の使用は意図していない。本発明の方法において、増粘剤添加後の培地の粘度は、好ましくは2~20cp、より好ましくは3~10cpを意図している。
【0015】
本発明において、前記培養細胞を、前記増粘剤を含む液体培地中で増殖培養する工程は、当該分野における既知の方法により無菌的に行うことができる。例えば、植物ホルモンを含むB5培地中で培養細胞を旋回培養もしくは振とう培養する方法が挙げられる。増殖培養の条件としては、20~30℃の温度、暗所下が好ましく、旋回回数(もしくは振とう回数)は、50~200rpm(もしくは50~200/min)が好ましい。
【0016】
本発明において前記増殖培養をする期間は、細胞の種類により異なるが7~30日間であり、その後、培養細胞により産生された目的物質を得る工程に移してもよいし、継代培養の工程に移してもよい。つまり、増粘剤入りの培地で増殖培養をした後すぐに、目的物質を得てもよいし、増殖培養の後、継代培養を行い、その後必要な時期に目的物質を得てもよい。尚、増殖培養した後すぐに目的物質を得るのは本発明の第一の態様に相当し、増殖培養した後、継代培養を経て目的物質を得るのは本発明の第二の態様に相当する。
【0017】
本発明において継代培養とは、通常の継代培養を意味し、先に培養した培養細胞の一部を新しい培地に移し再度培養する工程の繰り返しをいい、一代の培養期間はおよそ5~20日である。その際の培養条件は、上述の増殖培養と同様にして行うことが好ましい。即ち、増殖培養で使用したのと同じ培地に同濃度の同増粘剤を添加し、同じ条件下で継代培養を行うことが好ましい。継代培養を続ける期間は、目的物質の生産量が減少しない程度までの間行うことができるが、後述する本発明の実施例においては、約250日間、生産量を維持していることが実証されている。このように増粘剤を添加して継代培養を行えば、継代培養を長期間行った後であっても、培養細胞が含有している目的物質の量は維持されている。このため、継代培養をして生育させておいた培養細胞から、いつでも必要に応じて安定して目的物質を得ることが可能となる。
【0018】
本発明において、上記方法に従って増殖培養した細胞から、もしくは引き続き継代培養を行った細胞から目的物質を得る工程は、当業者に既知の抽出方法、精製方法を用いて行うことができる。入手したい目的物質の種類などに応じて、抽出方法は当業者が適宜選択することができる。例えば、ブドウ培養細胞からアントシアニン色素を得る場合は、実施例で後述するとおり、0.1% HClメタノール中で一昼夜かけて抽出することにより行うことができる。また、ヨウシュヤマゴボウカルスからベタシアニン色素を得る場合も同様にして(0.1% HClメタノール中で一昼夜かけて抽出することにより)行うことができる。
【0019】
本発明の第一の態様の生産方法に従って、前記増粘剤を含む培地中で、培養細胞を増殖培養し、得られた培養細胞が含有している有用物質を抽出し定量する。あるいは、本発明の第二の態様の生産方法に従って、前記増粘剤を含む培地中で培養細胞を増殖培養し、次いでその培養細胞を、増粘剤を含む培地中で継代培養し、得られた培養細胞が含有している有用物質を抽出し定量する。第一の態様および第二の態様ともに、それぞれ増粘剤なしの対照と有用物質の生産量を比較することにより、本発明の効果を明らかにすることができる。
【0020】
【実施例】
[ブドウカルスのアントシアニン含量の増大と長期安定生産]
ブドウカルス(植物細胞から誘導された未分化の細胞塊)は、通常、植物ホルモンを含むGambolg B5培地を主成分とする培地で増殖培養される。ブドウカルスの細胞内にアントシアニン色素は蓄積生産され、塩酸メタノールで抽出することにより、その生産量を測定することができる。
【0021】
1.材料
上記B5培地中に、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC, 10g/L溶液で10~12 cpの粘度を示す)を0.2~1.0(W/V)%の各濃度で添加し、CMC添加培地を調製した。各CMC濃度の培地(70 mL)を含む200 mL容の三角フラスコ内にて、カルス誘導後3年を経てアントシアニン生産能力のあるブドウカルス(約2g)を7日間培養し、その後アントシアニン含量を測定した。アントシアニン含量の定量測定は、0.1% HClメタノール中で一昼夜かけて抽出し、530nmの吸光度を測定することにより行った。
【0022】
2.結果
結果を図1に示す。図1において横軸は、CMCの添加濃度[%(W/V)]を表す。縦軸はそれぞれ、-○-が細胞あたりのアントシアニン生産量[mg/g- fresh weight]を表し、-△-が培地1Lあたりのアントシアニン生産量[mg/L]を表し、-●-が細胞増殖量[g- fresh weight/L]を表す。
【0023】
CMCが0.8(W/V)%の濃度で含まれるとき最も効果があり、培養器(200 mL三角フラスコ)あたりで、約5倍のアントシアニン生産量を示すことが分かる。
【0024】
さらに、長期間の生産量の変化を調べるため、反復回分培養(継代培養と同義)を行った。1回の培養は7日間を要する。その結果を図2に示す。図2において横軸は、回分培養回数を表し、縦軸は培地1Lあたりのアントシアニン生産量[mg/L]を表す。-●-は、増粘剤としてCMCを0.8(W/V)%添加した場合を、-○-は増粘剤を添加していない場合を示す。
【0025】
図2に示すように、増粘剤を添加した場合は、30回の培養までアントシアニン色素の高含量が維持されている。これは、CMCを添加しない対照実験が、培養回数12回でアントシアニン生産量を10 mg/L以下まで低下させたのに対し、約3倍の長期安定生産に相当する。
【0026】
また、生産量が低下し色素をほとんど蓄積していない細胞を、CMC入りの培地で培養したところ、数回の繰り返し回分培養した後に生産量が回復することが観察された(データ示さず)。
【0027】
これら一連の結果は、培地の粘度が増加したことによる細胞塊表面への流体力学的ストレスの緩和と、これに伴う細胞粒径の増大によるものと思われる。このようなメカニズムが効果の主因であるならば、増粘剤添加による生産性の増大効果は、他の有用物質生産植物培養系へも適用可能であるため、汎用性の高い手法と考えられる。実際、ほかの色素生産細胞であるヨウシュヤマゴボウカルスでもベタシアニン色素の含量増大および生産の長期安定化が観察されている。
【0028】
【発明の効果】
本発明の方法により、植物培養細胞から有用物質を生産する際に、その生産性を向上させ、長期間にわたって安定に生産することが可能である。
【0029】
また本発明の方法は、特殊な装置を必要とせず、従来の培地をそのまま使用し、ただアルギン酸ナトリウムなどの増粘剤を添加するだけで効果が得られるため簡便である。更に、有用物質を産生する能力を有する培養細胞でありさえすれば、増殖培地に増粘剤を添加することで有用物質の生産性を向上させることができるため、有用物質を産生する培養細胞全てに利用可能な汎用性が非常に高い方法である。
【0030】
その上、本発明のように、植物培養細胞の継代培養期間にわたって増粘剤を添加することにより、有用物質の生産量を維持することができ、これは、実際の有用物質生産にあたって非常に有用である。すなわち、従来は、継代培養期間が延長されると、細胞の有用物質の含有量は減少し、その生産効率は低下していたが、本発明の方法により、継代培養期間に増粘剤を添加しておくだけで、長期間にわたりいつでも必要なときに安定して有用物質を生産することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 増粘剤添加により有用物質の生産性が向上したことを示すグラフ。
【図2】 増粘剤添加により有用物質が長期安定生産されたことを示すグラフ。
図面
【図1】
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【図2】
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