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明細書 :22q11.2欠損症候群の診断装置、ダウン症候群の診断装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3876301号 (P3876301)
公開番号 特開2002-000298 (P2002-000298A)
登録日 平成18年11月10日(2006.11.10)
発行日 平成19年1月31日(2007.1.31)
公開日 平成14年1月8日(2002.1.8)
発明の名称または考案の名称 22q11.2欠損症候群の診断装置、ダウン症候群の診断装置
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
C12M 1/00 A
G01N 33/53 M
G01N 33/566
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 2
全頁数 11
出願番号 特願2000-185976 (P2000-185976)
出願日 平成12年6月21日(2000.6.21)
審査請求日 平成12年6月21日(2000.6.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】井原 健二
【氏名】原 寿郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】左海 匡子
参考文献・文献 国際公開第93/07293(WO,A1)
特開2001-299392(JP,A)
Hum Mol Genet.,1997年,Vol.6 ,p.259-265
Science,1999年,Vol.283,,p.1158-1161
Biochim Biophys Acta.,1998年,Vol.1396, No.2,p.158-162
Neurobiology(1998),1998年,Vol.19,p.401-405
調査した分野 C12Q 1/68
C12M 1/00
C12N 15/00-90
CAPLUS(STN)
REGISTRY(STN)
EUROPAT(QUESTEL)
JSTPlus(JOIS)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
BIOSIS/WPI(DIALOG)
MEDLINE(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
22q11.2欠損症候群の診断装置であって、
(1)第22番染色体上に存在する当該疾患の責任遺伝子であって、前記疾患において特異的に欠失しているUFD1L遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖反応によって定量するための配列表の配列番号1記載の順方向プライマー、配列表の配列番号2記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号3記載のUFD1Lプローブ、
(2)第21番染色体上に存在する遺伝子であって、前記疾患によって含有量が変化しない遺伝子であるS100β遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖方法によって定量するための配列表の配列番号4記載の順方向プライマー、配列表の配列番号5記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号6記載のS100βプローブ、
(3)前記UFD1L遺伝子および前記S100β遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応により定量的に増幅するための、定量的ポリメラーゼ連鎖反応試薬キット、
(4)前記試薬キットを用いた定量的ポリメラーゼ連鎖反応による前記UFD1L遺伝子および前記S100β遺伝子の増幅、増幅された前記UFD1L遺伝子および前記S100β遺伝子の検出及び解析を行うための装置、により構成される22q11.2欠損症候群の診断装置。
【請求項2】
ダウン症候群の診断装置であって、
(1)前記疾患において特異的に増加する第21番染色体上に存在する遺伝子であって、前記第21番染色体上のダウン症候群関連領域に存在するS100β遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖方法によって定量するための配列表の配列番号4記載の順方向プライマー、配列表の配列番号5記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号6記載のS100βプローブ、
(2)第22番染色体上に存在する遺伝子であって、前記疾患によって含有量が変化しない遺伝子であるUFD1L遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖方法によって定量するための配列表の配列番号1記載の順方向プライマー、配列表の配列番号2記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号3記載のUFD1Lプローブ、
(3)前記S100β遺伝子および前記UFD1L遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応により定量的に増幅するための、定量的ポリメラーゼ連鎖反応試薬キット、
(4)前記試薬キットを用いた定量的ポリメラーゼ連鎖反応による前記S100β遺伝子および前記UFD1L遺伝子の増幅、増幅された前記S100β遺伝子および前記UFD1L遺伝子の検出及び解析を行うための装置、により構成される22q11.2欠損症候群の診断装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、TaqMan定量的PCRにより、UFD1L遺伝子の量及びS100β遺伝子の量を測定することを特徴とする、22q11.2欠損症候群及びダウン症候群の新規の診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
22q11.2欠損症候群(CATCH22症候群)は、第22番染色体の短腕11.2(22q11.2)の約3メガベースの微小欠失による染色体異常症であり、出生4000人あたり1人の発症頻度の、比較的頻度の高い遺伝病である。即ち、本疾患の本態は第22番染色体の一部が欠損する部分モノソミーの染色体異常であり、CATCH22症候群に含まれる症候群にはディジョージ(DiGeorge)症候群、円錐部動脈幹異常顔貌、Optiz症候群、velocardifacial syndromeが含まれる。
【0003】
尚、通常の個体においては各染色体を2本ずつ、計46個の染色体を有するが、減数分裂の際に染色体の不分離が起これば染色体を1個過剰に有する配偶子と、1個不足する配偶子ができ、その各々が正常な染色体構成の配偶子と接合すると、1個過剰な染色体をもつ個体、あるいは染色体を1個欠いた個体が発生する。その様な染色体数の異常を異数性といい、染色体数が1個過剰な個体をトリソミー、染色体数が1個不足している個体をモノソミーという。CATCH22症候群は第22番染色体の部分モノソミーであるが、常染色体の完全モノソミーは致死的である。一方、ギャップ、切断、交換などの構造異常による染色体異常においては、減数分裂は正常であるために染色体数は正常であり異数性を伴わない。
【0004】
臨床的に認められるCATCH22の代表的な症候としては、先天性心疾患(心奇形)、顔貌異常(円錐部動脈幹異常顔貌)、胸腺の低形成、口蓋裂、低カルシウム血症(テタニー)が挙げられる。これらの奇形の発生機序は神経堤細胞の遊走不全であると言われている。神経堤細胞は発生初期に頸の背中側に生じて、腹側へ遊走して脳神経、胸腺、副甲状腺、心臓の円錐部と動脈幹に分布して、これらの初期発生に必須の材料となる。CATCH22症候群では神経堤細胞の機能、又は遊走が不良でこれら臓器の低形成、異常を生じる。本疾患において予後を左右する最も重要な因子は心疾患の程度であるが、CATCH22症候群における心奇形は、Fallot四徴症、総動脈幹残違症、大動脈弓離断症を合併している。
【0005】
従来、CATCH22症候群の診断は、染色体分染法や、第22番染色体のq11.2のプローブ(N25DGCRプローブ)を用いた蛍光インシツハイブリダイセージョン(fluorescence in situ hybridization:FISH)により行われていた。即ち、リンパ球を遠心分離して培養し、細胞分裂のメタフェーズを調べる。上述した第22番染色体のプローブを用いると、正常の第22番染色体は2個の蛍光点を有するが、22q11.2欠失の22番染色体は1個のみ蛍光点をもつために、当該疾患を診断することができる。
【0006】
一方、ダウン症候群は最も高頻度で認められる染色体異常症であり、出生1000人あたり1人の頻度で発症する。ダウン症候群の本態は第21番染色体が1個過剰であるトリソミーである(染色体数47、21番常染色体3個)。症状としては、知能障害及び蒙古人様の顔貌が挙げられ、先天性心疾患を有することも多い。また、本疾患の発生は母親の加齢と共にその頻度が増加すると言われている。第21番染色体のトリソミーを証明することによりダウン症候群は診断されるが、その診断は染色体分染法により行われることが一般的である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来はCATCH22症候群の診断にはFISH法が用いられてきた。FISH法は優れた診断方法であるが、細胞培養及びハイブリダイゼーションの過程を必要とするために、解析に数日が必要であった。また、過程が複雑であるために正確な結果を得るためには熟練が必要であり、費用も1検体あたり約6500円と高価であった。そこで、迅速かつ簡便で費用も安く、FISH法に替えることができるCATCH22症候群の診断装置が、求められていた。また、ダウン症候群の診断は染色体分染法により行われてきたが、より迅速かつ簡便な方法が、やはり求められており、その様な目的に使用できる新規の診断装置を開発する事が本発明の課題である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
ところで、CATCH22症候群の責任遺伝子に関する知見が近年増加してきた。ディジョージ(DiGeorge)染色体領域中において、ユビキチン融合蛋白質分解(ubiquitin fusion protein degradation:UFD1L)遺伝子が、CATCH22症候群の責任遺伝子であるという知見が、近年報告された。酵母のユビキチン融合蛋白質分解酵素(UFD1p)のヒトホモログ蛋白質をコードする遺伝子がUFD1L遺伝子であり、UFD1蛋白質はユビキチン化した蛋白質の分解に関与している。ユビキチンと結合する翻訳後修飾は、多くの蛋白質の分解における重要な初期反応である。UFD1L遺伝子は発生の過程において高レベルで発現する様になり、外胚葉由来の組織構造の発達に関与していると言われている。ユビキチンにより仲介される機構が神経堤の発生に役割を果たしていると示唆する知見もあり、UFD1L遺伝子の欠損とCATCH22症候群の病態との関連に興味がもたれている。
【0009】
FISHにより22q11.2の欠損が認められた患者の全てにおいて、UFD1L遺伝子が欠損している事が、最近報告された(Pizzuti A et al.Hum.Mol.Genet.(1997)6:259-65)(Yamagishi H et al.Science(1999)283:1158-61)。上記の知見より、UFD1L遺伝子の量を定量することによりCATCH22症候群を診断することが可能であると考えられる。
【0010】
一方、S100βは星状細胞由来の神経突起成長促進因子であり、それをコードする遺伝子は第21番染色体上のダウン症候群関連領域に存在することが知られている。第21染色体の異数性を定量的蛍光PCRで解析した過去の報告(Chiang PW et al.Genome Res.(1996)6:1013-26)より、S100β遺伝子を第21染色体上の標的として用いることを考えた。中年以降のダウン症候群患者において、アルツハイマー病に類似した神経の病変が見られるが、ダウン症候群の患者において、星状細胞においてS100βが過剰発現し、またβアミロイド前駆体蛋白質の発現が増加していることが示唆されており、S100βが関与するその様な現象がダウン症候群の病変に関与する可能性が示されている(Griffin et al.Neurobiology of Aging(1998)19:401-405)。上記の知見より、第21番染色体上に存在しているS100β遺伝子の量を定量することにより、ダウン症候群を診断することが可能であると考えられる。
【0011】
UFD1L遺伝子及びS100β遺伝子の量を定量する目的で、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いることにより、容易、安価かつ簡便にCATCH22症候群及びダウン症候群を診断する事が可能である。その様な原理により診断を可能とするために、本発明者らはUFD1L遺伝子及びS100β遺伝子を定量的PCRで増幅する事が可能なプローブとプライマーを設計し、PEバイオシステムズ社によるPCR反応試薬キットとシークエンスディテクションシステムにより、定量的PCR反応を行った後に反応産物を検出して、遺伝子量を定量的に解析することを考えた。即ち、本発明の装置は、UFD1L遺伝子及びS100β遺伝子のプローブとプライマー、定量的PCR反応の試薬キット、定量的PCR反応を行い、反応産物を検出して解析するための装置から成ることを特徴とする、新規な診断装置である。
【0012】
尚、CATCH22症候群は第22番染色体上に存在する22q11.2が欠損している疾患であるために、CATCH22症候群の診断において、第21番染色体の量には変化がなく、第21番染色体上に存在する遺伝子であるS100β遺伝子量を標準として校正に使用することができる。また同様に、ダウン症候群は第21番染色体のトリソミーの疾患であるために、第22番染色体の量には変化がなく、ダウン症候群の診断において、第22番染色体上に存在する遺伝子であるUFD1L遺伝子量を標準として校正に使用することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、以下の(1)から(4)の要素から成る、22q11.2欠損症候群の診断装置である。
(1)第22番染色体上に存在するこの疾患の責任遺伝子であって、この疾患において特異的に欠失しているUFD1L遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖方法によって定量するための配列表の配列番号1記載の順方向プライマー、配列表の配列番号2記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号3記載のUFD1Lプローブ。
(2)第21番染色体上に存在する遺伝子であって、この疾患によって含有量が変化しない遺伝子であるS100β遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖方法によって定量するための配列表の配列番号4記載の順方向プライマー、配列表の配列番号5記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号6記載のS100βプローブ。
(3)UFD1L遺伝子およびS100β遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応により定量的に増幅するための、定量的ポリメラーゼ連鎖反応試薬キット。
(4)試薬キットを用いた定量的ポリメラーゼ連鎖反応によるUFD1L遺伝子およびS100β遺伝子の増幅、増幅されたUFD1L遺伝子およびS100β遺伝子の検出及び解析を行うための装置。
【0014】
UFD1L遺伝子の含有量とS100β遺伝子の含有量を評価するにあたり、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いた。一般的なPCR法は、目的とする微量サンプルのDNA断片を数十万倍にも増幅するために、増幅後のDNA量は鋳型量を反映しておらず、定量的な方法ではない。定量的にPCR法を行うためには、プラトーの検出と各サイクルでの増幅頻度の検出が必須である。これらを検出して定量的PCR解析を行う装置がPEバイオシステムズ社のシークエンスディテクションシステムである。検出の原理としては特異的プライマー間のアンプリコン上に、更にプローブを設定してFluorescence Resonance Energy Transfer(FRET)と5’ヌクレアーゼアッセイの2つの反応を利用する。定量的PCR法の原理を図1に示す。図1aと図1bにおいて、プライマーの伸長前及び伸長後の状態の模式図を、それぞれ示す。
【0015】
FRETとは蛍光物質の共鳴を利用したエネルギー転位反応で、図1aに示すように、蛍光プローブ(TaqManプローブ)間で起こる。蛍光プローブの一方の蛍光物質を励起させて(Xnm)、発光した波長(X’nm)が他方の励起波長として吸収され、異なる波長(Ynm)での発光が見られる。即ち、プライマーからの伸長鎖の先にTaqManプローブがアニーリングすると、Xnmの波長を当てたときにYnmの発光が見られる。PCR増幅を行うと、TaqDNAポリメラーゼの5’-3’エキソヌクレアーゼ活性によりこの蛍光プローブは分解され、プローブ両端の蛍光物質の物理距離が生じてエネルギー転位が起こらなくなり、これによって蛍光物質本来の波長(X’nm)が現れる(図1b)。PCR産物の蓄積に従ってこのX’nmの蛍光量の増大が示され、PCR増幅の様子がモニタリングできる。さらに蛍光物質を用いた定量的PCRの利点は、RIを用いた従来のPCR産物の検出法に比べ煩雑さがない点、FRETによるPCR溶液中の蛍光強度を変化させて直接的にPCR増幅の様子を測定できることである。
【0016】
このような定量的ポリメラーゼ連鎖反応を行うためのプライマーとして、実施例において用いている以下のプライマー及びプローブを用いることができる。即ち、UFD1L遺伝子の増幅のためのプライマーとして、順方向プライマーのオリゴヌクレオチドであるAGGCAGATTCGTCGCTTT(配列番号1)及び逆方向プライマーのオリゴヌクレオチドであるCAGCCAACAGTCCTCACTT (配列番号2)を、プローブのオリゴヌクレオチドとしてはTCTGGAGAAGGACAGTCATTGCGTAAAA(配列番号3)を用いることができる。また、S100β遺伝子の増幅のためのプライマーとして、順方向プライマーのオリゴヌクレオチドであるCCTCATCGACGTTTTCCAC(配列番号4) 及び逆方向プライマーのオリゴヌクレオチドであるGCTCATTGTTGATGAGCTCC(配列番号5)を、プローブのオリゴヌクレオチドとしてはAGACAAGCACAAGCTGAAGAAATCCG(配列番号6)を用いることができる。使用できるプライマー及びプローブの構造はこれに限定されるものではなく、PEバイオシステムズ社のプライマー設計ソフトウェアである「プライマーエキスプレス」を用いれば、プライマーとプローブの最適な組み合わせを検索することができる。
【0017】
定量的ポリメラーゼ連鎖反応による遺伝子の増幅を行うための試薬として、PEバイオシステムズ社のTaqManユニバーサルPCRマスターミックスのキットを用いることができる。当該キットを用いて、バッファー、塩化マグネシウム、dATP、dCTP、dGTP、dUTP、ampErase UNG、AmpliTaqGold DNAポリメラーゼ等にTaqManプローブ、順方向プライマー、逆方向プライマーを添加した組成の反応液を調製してポリメラーゼ連鎖反応による遺伝子増幅を行う事ができる。なお、ampErase UNGはウラシル特異的な分解をする酵素であり、キャリーオーバーにより混入したPCR産物を分解することができる。定量的ポリメラーゼ連鎖反応による遺伝子の増幅を行うための試薬はこれに限られるものではなく、同様の遺伝子増幅を行うことが可能な他の試薬もまた、用いることができる。
【0018】
上述したTaqMan定量的PCR反応、反応産物の検出及び解析を行うために、PEバイオシステムズ社のABI PRISM 7700シークエンスディテクションシステム及びソフトウェアを用いることができる。当該装置は、図1に示した様な、蛍光物質を用いてPCR増幅中の蛍光強度の変化を検出して定量的解析を行う装置であり、より現実的な定量的PCR法を再現した、最初の検出装置である。定量的PCR反応、反応産物の検出及び解析を行うための装置はこれに限られるものではなく、同様の反応、検出及び解析を行う事が可能な限り、他の装置もまた、用いることができる。
【0019】
上述したように、22q11.2欠損症候群(CATCH22症候群)は第22番染色体の部分モノソミーであり、当該染色中においてUFD1L遺伝子が本疾患の責任遺伝子である。よって、22q11.2の欠損に由来するUFD1L遺伝子の含有量の低下をTaqMan定量的PCR反応によって示すことにより、CATCH22症候群を診断することができる。その際に、CATCH22症候群により変化しない標準遺伝子を用いて、その様な不変な遺伝子の量により、UFD1L遺伝子の量を校正する必要がある。そのために、CATCH22症候群によっては含有量が変化しない第21番染色体上に存在するS100β遺伝子の含有量によって、校正を行うこととした。即ち、UFD1L遺伝子の含有量をS100β遺伝子の含有量で割り算を行った比の値であるR22の値を求めることにより、22q11.2遺伝子の欠損を証明することとした。CATCH22症候群はUFD1L遺伝子のモノソミーであるので、R22の理論値は0.5である。
【0020】
更に本発明は、以下の(1)から(4)の要素から成る、ダウン症候群の診断装置である。
(1)前記疾患において特異的に増加する第21番染色体上に存在する遺伝子であって、前記第21番染色体上のダウン症候群関連領域に存在するS100β遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖方法によって定量するための配列表の配列番号4記載の順方向プライマー、配列表の配列番号5記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号6記載のS100βプローブ。
(2)第22番染色体上に存在する遺伝子であって、前記疾患によって含有量が変化しない遺伝子であるUFD1L遺伝子の含有量を、定量的ポリメラーゼ連鎖方法によって定量するための配列表の配列番号1記載の順方向プライマー、配列表の配列番号2記載の逆方向プライマーおよび配列表の配列番号3記載のUFD1Lプローブ。
(3)前記S100β遺伝子および前記UFD1L遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応により定量的に増幅するための、定量的ポリメラーゼ連鎖反応試薬キット。
(4)試薬キットを用いた定量的ポリメラーゼ連鎖反応によるS100β遺伝子およびUFD1L遺伝子の増幅、増幅されたS100β遺伝子およびUFD1L遺伝子の検出及び解析を行うための装置。
【0021】
上述したCATCH22症候群の場合において、第21番染色体上に存在するS100β遺伝子の含有量を標準遺伝子として測定しているために、第21番染色体のトリソミーであるダウン症候群の検出にも用いることができる。即ち、第21番染色体上のダウン症候群関連領域に存在するS100β遺伝子の含有量の増加を検出することにより、第21番染色体のトリソミーを証明することが可能である。この場合にも、ダウン症候群により変化しない標準遺伝子を用いて、その様な不変な遺伝子の量により、100β遺伝子の量を校正する必要がある。ダウン症候群においては第22番染色体の含有量は正常であるために、UFD1L遺伝子の含有量を標準として用いる事が可能であり、UFD1L遺伝子の含有量によって校正を行うこととした。即ち、S100β遺伝子の含有量をUFD1L遺伝子の含有量で割り算を行った比の値であるR21の値を求めることにより、ダウン症候群を証明することとした。ダウン症候群は第21番染色体のトリソミーであるので、R22の理論値は1.5である。
【0022】
【実施例】
D22S75ディジョージ染色体領域のプローブを用いたFISHにより、29人の患者をCATCH22であると診断した。円錐部動脈幹異常顔貌(conotruncal face)は全ての患者において、先天性心臓疾患(CHD)は28人の患者において認められた。また、ダウン症候群の患者及び川崎病の患者についても解析を行った。G-バンディングにより、22人の患者が21トリソミーのダウン症候群であると診断された。40人の子供は川崎病であったが、先天性異常を示さずに正常に発育していた。
【0023】
QIAamp血液キット(QIAGEN)を用いて、全白血球から高分子量DNAを抽出した。正常個体由来のゲノムDNAを系列希釈し、キャリブレーション曲線を作製した。ディジョージの領域中に存在する重要な標的として、UFD1Lを用いた。第21番染色体の異数性を定量的蛍光PCRで解析した過去の報告(Chiang PW et al.Genome Res.(1996)6:1013-26)に従い、S100β遺伝子を第21番染色体上の標的として用いた。UFD1LとS100βの配列に関する知見は、過去の報告(Novelli G et al.Biochem.Biophys.Acta(1998)1396:158-62)(Allore RJ et al.J.Biol.Chem.(1990)265:15537-43)及び遺伝子バンクデータベースの検索(アクセッション番号 U6444、M59486)により得た。UFD1L遺伝子及びS100β遺伝子について用いるプライマー及びTaqManプローブは、UFD1Lのエクソン12とS100βのエクソン2の間に位置する様に、コンピュタープログラムであるプライマーエクスプレス(PEバイオシステムズ)を用いて設計した。表1に、用いたプライマーを示す。
【0024】
【表1】
JP0003876301B2_000002t.gif【0025】
TaqManPCRは、16μlの反応容量で行った。0.1pmol/μlの蛍光プローブ、0.2pmol/μlのプライマー、1xTaqManユニバーサルPCRマスターミックス(PEバイオシステムズ)及び15-25ngのDNAを含む反応溶液を用いて、反応を行った。50℃で2分間インキュベートすることにより温度のサイクリングを開始し、次いで95℃で10分間最初の変性過程を行い、その後95℃で15秒間及び60℃で1分間の2過程からなるPCRを40サイクル行った。対象サンプル及び未知のサンプルをそれぞれ、UFD1L及びS100β遺伝子解析に分割し、平行して解析した。ABI PRISM 7700シークエンスディテクションシステム及びソフトウェア(PEバイオシステムズ)を用いて、定量的な解析を行った。コントロールのゲノムが2倍体であるという想定してキャリブレーション曲線を作製し、それぞれの反応におけるDNAコピー数を得、校正した遺伝子数(R)を得た。CATCH22(R22=UFD1L/S100β)においては、S100βを内部コントロール遺伝子として用いた。また、21トリソミー(R21=S100β/UFD1L)の診断の内部コントロール遺伝子として、UFD1Lを用いた。CATCH22である異接合体欠損サンプルにおいてR22の値は0.5、正常の二倍体のサンプルにおいてR22とR21の値は1.0、そして三倍体のダウン症候群においてR21の値は1.5であると予測された。
【0026】
CATCH22症候群及びダウン症候群の患者において、UFD1L及びS100βの遺伝子量を校正した値を表2に示す。尚、表2に示した範囲は、最小値から最大値の範囲である。CATCH22において、コントロール遺伝子量により校正したUFD1L遺伝子量(R22)の平均は0.507であり、平均±3SDの範囲の値を検討したところ、0.396-0.618であった。正常コントロールにおけるUFD1L遺伝子の量は、0.761-1.241(平均±3SD)であり、CATCH22と比較して明らかに区別された。
【0027】
校正したS100β遺伝子量(R21)の、平均±2SDの範囲の値を検討したところ、21トリソミーでは1.261-1.777であり、正常コントロールでは0.836-1.176であった。21トリソミーと正常コントロールの値は、平均±2SDの範囲では重複しなかったが、平均±3SDの範囲ではいくらか重複した。また、特異な顔貌、低カルシウム血症及び特定の型の先天性心臓疾患という臨床的な特徴を示す患者の中で、17人の患者は22q11.2が欠損は認められないとFISHにより診断されていたが、その患者群においてUFD1L遺伝子量を求めたところ、0.971(0.75-1.14の範囲内)であった。
【0028】
【表2】
JP0003876301B2_000003t.gif【0029】
定量的TaqManPCRシステムは、PCR中における鋳型の増幅の結果としての、サイクルからサイクルの蛍光シグナルの変化を動的に解析して、標的遺伝子の最初のコピー数を決定するものである。このシステムを用いることにより、鋳型の出発コピー数における2倍の差を区別することができる。このシステムにより、X染色体のコピー数を規定することによる性の決定、結腸癌組織中における18q21領域の欠損の検出および癌家系の個体のDNA試験等をを達成することができる。
【0030】
本発明の方法により、21q11.2欠損(2倍の差)が、99.7%の統計学的信頼性でもって、TaqManPCRシステムにより明らかに検出された。一方、21トリソミーの場合、平均±2SDの範囲内では、校正されたS100βの遺伝子量と正常のコントロールにおいて、コントロールとの1.5倍の差を区別することが可能であった。平均±3SDの範囲内では21トリソミーとコントロールの範囲と重複しており、1.5倍の差を区別することが難しい場合もあったが、本発明の方法は基本的にはダウン症候群の診断にも可能であると思われる。
【0031】
22q11.2欠損における内部コントロール遺伝子としてS100βを用いているために、21染色体のモノソミー又はトリソミーが存在したら、校正された遺伝子量は誤差が生じると思われる。21トリソミーが存在している場合に22q11.2欠損を検出する事を考えると、校正された遺伝子量は0.3であることが予想されるから、その検出は容易であると思われる。一方、21モノソミーが存在する場合において22q11.2欠損を検出することを考えると、校正された遺伝子量は1.0であろうと予想されるから、その場合にはTaqManPCRシステムによって検出する事は困難であると思われる。しかし、完全な21モノソミーは通常は致命的であり、部分的な21モノソミーは精神運動静止及びわずかな奇形という、異なった臨床上の特徴を示す。そこで、そのような場合においてはTaqManPCRシステムの結果をFISHにより確認することが必要である。
【0032】
FISHに対する本装置の利点として、1)迅速性:FISHは細胞培養及びハイブリダイゼーションを要するのに対して、DNAの抽出から4時間かかること、2)容易性:技能や習練なしで、容易に実施できること、3)低価格:本方法の価格は、1サンプルあたり約6500円であるFISHと比較してずっと低価であり、1サンプルあたり約1000円以下であること、4)サンプルの量が少なくてすみ、古い材料を使用できること、などが挙げられる。
一方、FISHと比較しての不利益な点として、1)転座又は転位の様な、遺伝子量の異常を伴わない、構造的な染色体異常を検出することはできないこと、2)装置が高価であること、などが挙げられる。
以上より、TaqManPCRシステムは迅速に、そして正確に22q11.2欠損を検出し、22q11.2欠損症候群の診断おいて実際に有用であると考えられる。
【0033】
【発明の効果】
本発明により、TaqMan定量的PCRを用いた、22q11.2欠損症候群及びダウン症候群を診断するための、新規の装置が与えられた。本発明の装置は従来の方法と比較して、簡便、迅速かつ容易に実施できる、という特徴を有する。
【0034】
【配列表】
<110>出願人氏名:九州大学長
<120>発明の名称:22q11.2欠損症候群の診断装置、ダウン症候群の診断装置
<160>配列の数:6
<210>配列番号:1
<211>配列の長さ:18
<212>配列の型:核酸
<213>起源:?
<400>配列
AGGCAGATTC GTCGCTTT
<210>配列番号:2
<211>配列の長さ:19
<212>配列の型:核酸
<213>起源:?
<400>配列
CAGCCAACAG TCCTCACTT
<210>配列番号:3
<211>配列の長さ:28
<212>配列の型:核酸
<213>起源:?
<400>配列
TCTGGAGAAG GACAGTCATT GCGTAAAA
<210>配列番号:4
<211>配列の長さ:19
<212>配列の型:核酸
<213>起源:?
<400>配列
CCTCATCGAC GTTTTCCAC
<210>配列番号:5
<211>配列の長さ:20
<212>配列の型:核酸
<213>起源:?
<400>配列
GCTCATTGTT GATGAGCTCC
<210>配列番号:6
<211>配列の長さ:26
<212>配列の型:核酸
<213>起源:?
<400>配列
AGACAAGCAC AAGCTGAAGA AATCCG
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、TaqManPCRの測定原理を示す、模式図である。
図面
【図1】
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