TOP > 国内特許検索 > 植物の稔性低下方法 > 明細書

明細書 :植物の稔性低下方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3769611号 (P3769611)
公開番号 特開2003-180178 (P2003-180178A)
登録日 平成18年2月17日(2006.2.17)
発行日 平成18年4月26日(2006.4.26)
公開日 平成15年7月2日(2003.7.2)
発明の名称または考案の名称 植物の稔性低下方法
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01H 5/00 ZNAA
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2001-375940 (P2001-375940)
出願日 平成13年12月10日(2001.12.10)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成13年7月30~31日 開催の「第19回日本植物細胞分子生物学会大会・シンポジウム」において文書をもって発表
審査請求日 平成13年12月10日(2001.12.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】江面 浩
【氏名】鎌田 博
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
審査官 【審査官】田村 明照
参考文献・文献 茨城県 生物工学研究所試験成績書,2001年 3月,平成12年度,67-68
茨城県 生物工学研究所試験成績書,1999年,平成10年度,81-82
Plant Physiol.,1999年,Vol. 119,321-329
調査した分野 A01H 1/00-17/00
C12N 15/00-15/90
JICSTファイル(JOIS)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
エチレンレセプター遺伝子を植物体の中に組込んで発現させることを特徴とする、植物の花粉発達を抑制する方法。
【請求項2】
前記エチレンレセプター遺伝子がメロン由来のエチレンレセプター遺伝子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エチレンレセプター遺伝子がCmERS1およびその変異体遺伝子H70A、並びに他のエチレンレセプター遺伝子からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物がトランスジェニック植物である、請求項13のいずれか1に記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は植物の稔性を低下させる方法に関し、特に、エチレンレセプター遺伝子を利用して植物の稔性を抑制する方法に関する。この方法は、特に遺伝子組換植物の稔性を低下するために有用である。
【0002】
【従来の技術】
植物の稔性を制御する技術は、農作物の品種改良にとって極めて重要な技術である。特に、花粉の発達を制御する技術は、F1品種が主力となっている種子繁殖性作物では、採種を効率化するために重要である。さらに、近年になって多くの遺伝子組換え作物が開発されているが、これらの遺伝子組換え植物において、その稔性を制御する技術は特に重要な意味を有する。
【0003】
遺伝子組換えを利用した植物の改良は全世界的に実施され、現在までにトウモロコシ、ダイズ、ナタネ、ジャガイモ、ワタなどで商業的に利用されている。今後、野菜、花き類、樹木など多様な組換え植物が開発されてくる見込みである。これらの組換え作物の栽培の広がりとともに、組換え植物の環境影響が懸念されている。特に、これら組換え植物から飛散した花粉が周辺の生態系に大きな影響を及ぼすのではと懸念されている。組換え植物の花粉発達を抑制することは、花粉飛散を直接防止することにつながり、組換え植物の商業利用に対して大きなメリットとなりうる。
【0004】
このような状況の中で、遺伝子組換え技術を活用して花粉発達を抑制し、植物を不稔化する試みがなされてきている。例えば、タバコで細胞外で働くインベルターゼ遺伝子をアンチセンス遺伝子として葯で発現させて、花粉発達を阻害し、不稔性を誘導する技術が報告されている(Goetz, M., Godt, D.E., Guivarc'h, A., Kahmann, U., Chriqui. D., Roitsch T. (2001) Proceedings of National Academy of Science USA, 98:6522-6527)。この方法は、導入遺伝子をアンチセンス遺伝子として発現させるため、この技術の効果を最大限に引き出すには、目的とする種から細胞外で働くインベルターゼ遺伝子を単離・解析し、そのアンチセンス遺伝子を構築し、目的とする種に導入する必要がある。そのため、処理操作が著しく煩雑であり、実用性に乏しいという問題があった。
【0005】
一方、エチレンレセプター遺伝子は、シロイヌナズナのetr1突然変異体の研究から、エチレン感受性に関わる遺伝子としてETR1が単離された(Bleecker, A.B., Estelle. M.A., Somerville, C., Kende, H. (1988) Science 241:1086-1089, Chang, C., Kwok, S.F., Bleecker, A.B. and Meyerowitz, E. M. (1993) Science 262:539-544)。ETR1の変異遺伝子の1つであるetr1-1を導入した組換え植物は、エチレン非感受性を示した。トマトやペチュニアにこの変異遺伝子を導入した場合も、エチレン非感受性の組換え体が得られた(Wilkinson, J.Q., Lanahan, M.B., Clark, D.G., Bleecker, A.B., Chang, C., Meyerowitz E.M. and Klee, H.J. (1997) Nature Biotechnology 15:444-447)。その後、多くの植物種からETR1ホモログが単離されている(Sato-Nara, K., Yuhash K., Ezura, H. (1999) Plant Biotechnology 16:321-334)。
【0006】
エチレンレセプターの機能としては、現在までに大きく2つの機能が明らかにされている。第一は、植物のエチレン感受性を制御する機能である。これは、シロイヌナズナのエチレンレセプター遺伝子ETR1の変異遺伝子etr1-1を導入したシロイヌナズナのエチレン感受性が変化することから明らかにされた(Chang, C., Kwok, S.F., Bleecker, A.B. and Meyerowitz, E. M. (1993) Science 262:539-544)。第二は、果実や花の日持ち性を制御する機能である。これは、シロイヌナズナetr1-1遺伝子を導入した組換えトマトと組換えペチュニアが、果実や花の日持ち性が向上したことから明らかにされた(Wilkinson, J.Q., Lanahan, M.B., Clark, D.G., Bleecker, A.B., Chang, C., Meyerowitz E.M. and Klee, H.J. (1997) Nature Biotechnology 15:444-447)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、今まで植物の稔性制御に関する役割については全く検討されていなかったエチレンレセプター遺伝子を利用することにより、インベルターゼのアンチセンス遺伝子を用いた従来の方法に比較して簡便かつ実用的な、植物の稔性を抑制する方法を提供することである。
【0008】
エチレンが植物の発達や環境応答において多様な役割を果たしていることから推定すると、エチレンレセプターは、既述した植物のエチレンに対する感受性制御、果実の日持ち、花の日持ちなどを制御すること以外に、植物発達に対してより多くの機能があるものと期待される。もし花粉発達に対して機能をもてば、エチレンレセプターを利用して花粉の発達を抑制することが可能になる。また、エチレンを介して植物の発達を制御する機構は植物に共通の機構であると考えられるので、その方法は多くの植物種に対して汎用性のある方法であると期待される。本発明はエチレンレセプター遺伝子の新しい機能を明らかにし、その機能を利用して稔性の低下した植物を作出する技術を開発することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
エチレンが植物の発達や環境応答において多様な役割を果たしていることから推定すると、エチレンレセプターは、植物発達に対してより多くの機能があるものと期待される。もし花粉発達に対して機能をもてば、エチレンレセプターを利用して花粉発達を抑制することが可能になる。また、エチレンを介して植物の発達を制御する機構は植物に共通の機構であると考えられるので、その方法は多くの植物種に対して汎用性のある方法であると期待される。
【0010】
上記の観点から、本発明者等は、メロンのエチレンレセプター遺伝子を導入したタバコとトマトの組換え体を作成し、その発達過程を詳細に解析して、エチレンレセプターの新たな機能について明らかにすべく鋭意研究を行った。その結果、エチレンレセプターが花粉発達に影響することを初めて明らかにすることに成功し、本発明に至ったものである。
【0011】
即ち、本発明は、植物の稔性を低下させるための方法において、エチレンレセプター遺伝子を前記植物の中に組込んで発現させることを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施形態】
本発明は、エチレンレセプター遺伝子の新たな機能の発見に基づくものである。本発明者らは、エチレンレセプター遺伝子を導入した組換えタバコについて詳細な解析を行い、エチレンレセプター遺伝子が花粉の発達制御に関与していることを発見した。これは、エチレンレセプター遺伝子の新たな機能である。即ち、エチレンレセプター遺伝子を導入した組換えタバコでは、花粉の発達が大きく抑制され(図1)、かつ稔性が大きく低下した(表1)。エチレンレセプター遺伝子を導入した組換えトマトでも同様に花粉発達が阻害されていた(表2)。
【0013】
上記の事実に基づき、本発明は、エチレンレセプター遺伝子を植物体の中に組込んで発現させることを特徴とする、植物の稔性を低下させる方法を提供する。
【0014】
本発明の方法を適用できる植物は、稔性を低下させることが望まれ、且つエチレンが植物ホルモンとして機能し得る植物である限り特に限定されないが、特に花粉を生産する種子植物である。なかでも、本発明の適用が望まれる植物の例は、飛散した花粉が周辺の生態系に及ぼす影響が懸念されるもの、特に、遺伝子組換え植物である。本発明の適用対象である遺伝子組換え植物には、トウモロコシ、ダイズ、ナタネ、ジャガイモ、ワタ等、既に商業的規模で栽培されているものが含まれることは言うに及ばず、今後開発されるであろう、野菜、花き類、果樹、樹木など多様な組換え植物も含まれる。例えば、バナナ、トマト、アボガド、ナシ、リンゴ、モモ、キウイフルーツ、ビワ等の農作物や、スギなどの樹木は有望な候補である。
【0015】
本発明において使用するエチレンレセプター遺伝子は、植物内ホルモンとしてのエチレンと結合して、植物内での生理機能を媒介するものであれば特に限定されない。植物のエチレンレセプターとしては、シロイヌナズナから単離されたETR1、ERS1、ETR2、ERS2、EIN4、トマトから単離されたNR、LeETR1、LeETR2、LeETR4、LeETR5、メロンから単離されたCmERS1、CmETR1の遺伝子およびそれらの変異体が挙げられるが、これらに限定されない。エチレンが植物の発達を制御する作用は植物の生活の基本的な要素であるため、如何なる起源のエチレンレセプター遺伝子も、本発明において使用できるものと思われる。
【0016】
本発明において、エチレンレセプター遺伝子を組込んで発現させることにより植物の稔性が低下する機構は未だ明らかではない。しかし、遺伝子を組込まれた植物体におけるエチレンレセプターの過剰発現によるものであることは確かである。
【0017】
本発明の方法を実施するためには、遺伝子組換え技術を用いることにより、エチレンレセプターの遺伝子を組込んだトランスジェニック植物を作出すればよい。このようなトランスジェニック植物は、例えばアグロバクテリウム法により作出できる(江面浩、人見綾子、窪田満(1996)、アグロバクテリウムによるメロン形質転換効率に影響する諸要因、育雑46別1:263)。より具体的に説明すると、まずエチレンレセプター遺伝子を植物発現用ベクターであるpBI121のGUS遺伝子の位置に組み込み、さらにこの遺伝子を含むベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入する。一方、植物体から胚を取り出し、1/2MSまたはMS培地上に無菌播種し、2日間培養する。前培養した胚を分割し、この断片に1~2日間振とう培養したアグロバクテリウムを接種する。この断片を、ベンジルアデニン(ベンジルアミノプリン)0.5~1.0mg/lを添加したMS培地上で2日間共存培養する(この間にメロン細胞にベクターが導入される)。共存培養した植物組織断片は、抗生物質としてカナマイシン200mg/l、クラフォラン500mg/l、植物生長調節物質としてベンジルアデニン(ベンジルアミノプリン)0.5~1.0mg/lを添加したMS培地上で培養する。以降、植物組織片を2週間毎に同様の培地に継代する。この間にエチレンレセプター遺伝子が導入された細胞を選抜し、さらにメロン植物体を不定芽経由で再生する。なお、メロンの植物体再生法としては、上記の不定芽(Moreno, V., Garcia-Sogo,M., Granell,I.,Gracia-Sogo,B., and Roig,L.A., (1985) Plant Cell Tiss. Org. Cult. 5:139-146)経由の方法の他に、不定胚(Young,H.,Skirvin,R.M., and Juvick,J.A. (1983) Cucurbit Genet. Coop. 6:56-57)経由、苗条原基(永井輝行、野村幸雄、大澤勝次(1989)園学雑別1:208ー209)経由の方法が報告されており、これらを利用してのトランスジェニック植物の作出が可能である。なお、プロトプラスト培養による植物体再生は、不定芽(山中寿子、天笠一美、吉田裕(1990)植物組織培養7:103ー107)または不定胚経由(野村幸雄、古田秀雄、前田桝夫、真柄紘一(1993)育雑別1:15)であり、前記の方法に含まれる。
【0018】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を例示するものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0019】
【実施例】
実験例1: Cm-ERS1を植物に導入するためのベクター構築
メロンから単離されたエチレンレセプター遺伝子であるCm-ERS1及びその変異遺伝子H70A遺伝子を、植物導入用ベクターpBI121に以下の方法で導入した。
【0020】
<Cm-ERS1のpBI121への導入>
鋳型DNAに Cm-ERS1 cDNA クローンを用いると共に、2つのプライマーとしてCm-ERS1順向きプライマー(5' taa ggt acc tct aga gga tcc atg atg gag tcc tgt gat tgc aat gac 3')およびCm-ERS1逆向きプライマー(5' atc aat tct cga gtt ttg aca ctc aaa aga 3')を用いてPCRを行った。PCRの反応液の条件は、鋳型DNA(1 ng/μL) 1 μL、プライマーA 0.3μL、プライマーB 0.3μL、dNTP (2 mM) 2.5μL、MgCl2 (25 mM) 2.5μL、10x PCR バッファ 2.5μL、蒸留水 15.8μL、Perkin AmpliTaq 0.1μLであり、温度条件は、94℃2分の後、(94℃1分、50℃1分、72℃30秒)を30サイクル行い、続けて72℃2分処理してPCRを終了させた。得られた断片は、電気溶出法を用いてゲルから抽出した後、蒸留水に溶解させた。さらに、この断片をXbaIおよびXhoIで消化し、GUS遺伝子部分を除いたpBI121にライゲーションを行い、E. coliに形質転換した。陽性クローンからプラスミドを抽出して、塩基配列の決定により導入鎖を確認した。確認できたクローンをpBI Cm-ERS1として植物への遺伝子導入に使用した。
【0021】
<変異遺伝子H70Aの構築とpBI121への導入>
変異遺伝子H70A作成のために以下の以下のプライマーを設計した。
【0022】
(A) Cm-ERS1順向きプライマー (KXB1-F, 48mer、Cm-ERS1 に合致する)
5' taa ggt acc tct aga gga tcc atg atg gag tcc tgt gat tgc aat gac 3'
(B) H70Aリンク逆向きプライマー (H70A-R, 33mer、変異導入済み)
5' cca aag gtt tat gaa ggc tgt tgc tcc aca gag 3'
(C) H70Aリンク順向きプライマー (H70A-F, 33mer、変異導入済み)
5' ctc tgt gga gca aca gcc ttc ata aac ctt tgg 3'
(D) Cm-ERS1逆向きプライマー (351Xh-R, 30mer、Cm-ERS1 に合致する)
5' atc aat tct cga gtt ttg aca ctc aaa aga 3'
なお、プライマーBおよびCは完全に相補するコンプリメンタリーDNA 鎖である。
【0023】
変異鎖の前部および後部を作成するための1回目のPCRを行った。
【0024】
(1)変異鎖の前部の作出(断片 AB)
鋳型DNAとして、Cm-ERS1 cDNA クローンを用いた。条件そのものはキット付属の推奨される混合条件に従って行った。反応液の条件は、鋳型DNA(1 ng/μL)1μL、プライマーA 0.3 μL、プライマーB 0.3 μL、dNTP (2 mM) 2.5 μL、MgCl2 (25 mM) 2.5 μL、10x PCR バッファ 2.5 μL、蒸留水 15.8 μL、Perkin AmpliTaq0.1 μLであり、温度条件は、94℃2分の後、(94℃1分、50℃1分、72℃30秒)を30サイクル行い、続けて72℃2分処理してPCRを終了させた。作出した断片は電気溶出法を用いてゲルから抽出した後、蒸留水に溶解させた。
【0025】
(2)変異鎖の後部の作出(断片 CD)
プライマーCおよびDを用いた点を除き、(1)と同じ方法でPCRを行った。作出した断片は、電気溶出法を用いてゲルから抽出した後、蒸留水に溶解させた。
【0026】
続いて、変異鎖の前部と後部を結合するため以下の2回目のPCRを行った。すなわち、(1)と(2)で得られた2つの断片(断片AB および 断片CD)を用いた。反応液の条件は、断片AB 1 μL、断片CD 1 μL、dNTP (2 mM) 2.5 μL、MgCl2 (25 mM) 2.5 μL、10x PCR バッファ 2.5 μL、蒸留水 15.4 μL、Perkin AmpliTaq 0.1 μL、温度条件は、94℃2分の後、(94℃1分、50℃1分、72℃30秒)を30サイクル行い、続けて72℃2分処理してPCRを終了させた。反応液はエタノール沈殿を行い、沈殿物を蒸留水に溶解した。
【0027】
さらに、変異鎖の増幅とクローン化を行うため以下の3回目のPCRを行った。第2PCRで得た溶解液を鋳型に、プライマーAとDをプライマーセットに用いて、PCRを行った。反応液の条件は、鋳型DNA 1 μL、プライマーA 0.3 μL、プライマーD 0.3 μL、dNTP (2 mM) 2.5 μL、MgCl2 (25 mM) 2.5 μL、10x PCR バッファ 2.5 μL、蒸留水 15.8 μL、Perkin AmpliTaq 0.1 μL、PCR温度条件は、94℃2分の後、(94℃1分、55℃1分、72℃30秒)を30サイクル行い、続けて72℃2分処理してPCRを終了させた。反応液はクローン化のために用いられた(オリジナル TA クローニングキット、インビトロゲン社)。クローンプラスミドの配列決定により、変異導入鎖のクローン化を確認した。確認できたクローンをpBI H70Aとして植物への遺伝子導入に使用した。
【0028】
実験例2: 組換え植物の作出
クローニングの結果得られたプラスミド(pBI Cm-ERS1及びpBI H70A)を、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)菌株C58Ciへ形質転換した。さらに以下の方法により、タバコ(Nicotiana tubacum cv Samsum)及びトマト(Lycopercium esculentum cv MicroTom)に形質転換した。
【0029】
<タバコの組換え体の作成>
カナマイシン100mg/L、テトラサイクリン1mg/Lを含むLB液体培地でアグロバクテリウムを培養した。36時間後に遠心により集菌し、MS培地で再懸濁した。無菌植物の葉を1cm平方にカットし、この懸濁液に1分間浸漬する。余分な菌液をペーパータオルで拭き取り、ホルモンフリーのMS固体培地に置床し、暗黒、25℃の条件で3日間共存培養した。さらに、オーグメンチン375mg/Lを含む不定芽誘導培地(MS+NAA 0.1mg/L+BA 1 mg/l)に継代し、16時間日長(照度4000ルックス)、25℃の条件で1週間除菌培養を行った。続いて、オーグメンチン375mg/Lとカナマイシン100mg/Lを含む不定芽誘導培地に2週間毎に継代し、形質転換不定芽の選抜を行った。分化した不定芽と、オーグメンチン375mg/Lおよびカナマイシン50mg/Lを含む発根培地(ホルモンフリーのMS培地)に移植し、発根個体の選抜を行った。得られた発根個体について、PCR法により導入遺伝子の確認を行った。以上の形質転換実験の結果、Cm-ERS1を導入した組換え体44個体、H70Aを導入した組換え体36個体が選られた。
【0030】
<トマトの組換え体作成>
カナマイシン100mg/L、テトラサイクリン1mg/Lを含むLB液体培地でアグロバクテリウムを培養した。36時間後に遠心により集菌し、MS培地で再懸濁した。無菌播種したトマトの子葉を基部から切り離し、外植片とし、アグロバクテリウム懸濁液に5分間浸漬した。余分な菌液をペーパータオルで拭き取り、ろ紙を敷いた不定芽誘導培地(MS+ZEA1mg/L)上に置床し、暗黒、25℃の条件で2日間共存培養した。さらに、オーグメンチン375mg/Lを含む不定芽誘導培地に継代し、16時間日長(照度4000ルックス)、25℃の条件で1週間除菌培養を行った。続いて、オーグメンチン375mg/Lおよびカナマイシン50mg/Lを含む不定芽誘導培地に2週間毎に継代し、形質転換不定芽の選抜を行った。分化した不定芽はオーグメンチン375mg/Lとカナマイシン50mg/Lを含む発根培地(ホルモンフリーのMS培地)に移植し、発根個体の選抜を行った。得られた発根個体について、PCR法により導入遺伝子の確認を行った。以上の形質転換実験の結果、H70Aを導入した組換え体32個体を得た。さらに、これらのフロサイトメーター分析を行い、11個体の二倍体を選抜した。
【0031】
実施例3: 組換え植物の特性解析
タバコとトマトの組換え体を以下の方法で特性解析を行った。
【0032】
<タバコ組換え体>
Cm-ERS1およびH70Aをそれぞれ導入した組換え体当代(T0世代)の中から、無作為に6株および8株を選び、グロースチャンバー内で順化した。続いて、16時間照明、25℃の条件下で育成し、開花させた。開花当日に開花した株から花粉を採取し、酢酸カーミン液で染色して、花粉の発達を観察した。組換え体では、花粉の内容物が含まれておらず変型している花粉や、発達が途中でとまった小さな花粉などの異常花粉(図1-A)が観察されたが、非組換え体では殆どが正常花粉(図1-B)であった。Cm-ERS1を導入した個体では、6個体中3個体(Cm-ERS1-5, 10及び25)で正常花粉の割合が大きく減少し、花粉発達が阻害されていた(表1)。H70Aを導入した個体では、8個体中2個体(H70A-2及び3)で正常花粉の割合が大きく減少し、花粉発達が阻害されていた。
【0033】
【表1】
JP0003769611B2_000002t.gif【0034】
これらの個体を放任受粉し、採種量を調査したところ、Cm-ERS1-5およびCm-ERS1-25の個体は全く採種できず不稔であった(図2)。Cm-ERS1-10は、採種できたもの採種量が非組換え体の4分の1に減少していた。H70A-2およびH70A-3の個体は全く採種できず不稔であった。また、これらの不稔個体を人工受粉して自殖を行ったところ、採種は出来たが、採取量は非組換え体の2分の1から4分の1に減少した。さらに、得られた種子を発芽させ育成し、次世代(T1)を開花させた。続いてPCRを行い、組換え体と、遺伝分離により導入遺伝子の抜けてしまった植物体とに類別し、さらに放任受粉を行った。その結果、組換え体では、T0世代と同様に採種できず不稔であった。遺伝子が抜け落ちてしまった個体は正常に花粉を形成し、非組換え体と同様の採取量を示した。以上により、エチレンレセプター遺伝子をタバコに導入することで花粉発達を阻害し、稔性を低下させた組換え体もしくは不稔の組換え体を作成できた。
【0035】
<トマト組換え体>
H70Aを導入した組換え体当代(T0世代)9株を、グロースチャンバー内で順化した。続いて、16時間照明で25℃の条件下で育成し、開花させた。開花当日に開花した株から花粉を採取し、酢酸カーミン液で染色して、正常花粉と、花粉の内容物が含まれておらず変型している花粉や、発達が途中でとまった小さな花粉などの異常花粉を合計で500粒以上計数した。その結果、9個体中2個体(H70A-7及び9)で正常花粉の割合が大きく減少し、また1個体(H70A-4)で正常花粉の割合が減少し、花粉発達が阻害されていた(表2)。
【0036】
【表2】
JP0003769611B2_000003t.gif【0037】
これらの個体を放任受粉し、採種量を調査したところ、H70A-7およびH70A-9の個体は採取量が大きく減少した。以上により、エチレン受容体遺伝子をトマトに導入することで花粉発達を阻害し、稔性を低下させた組換え体を作成できた。
【0038】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、エチレンレセプターを用いて植物の花粉発達を阻害し、稔性を低下させる技術が提供された。これにより効果的な植物の稔性低下を行うことが可能となった。植物の稔性低下技術は、組換え植物の花粉飛散を防止した組換え植物の作出やF1採種のための雄性不稔植物の作出などに有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】エチレンレセプター遺伝子Cm-ERS1またはその変異遺伝子H70Aを導入したタバコ組換え体の花粉を、酢酸カーミン液で染色した顕微鏡写真である。Aは、花粉の内容物が含まれておらず変型している花粉と発達が途中で止った小さな花粉を示し、Bは正常花粉を示す。
【図2】エチレンレセプター遺伝子Cm-ERS1またはその変異遺伝子H70Aを導入したタバコ組換え体の稔性試験の結果を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1