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明細書 :半導体装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4041877号 (P4041877)
公開番号 特開2003-197900 (P2003-197900A)
登録日 平成19年11月22日(2007.11.22)
発行日 平成20年2月6日(2008.2.6)
公開日 平成15年7月11日(2003.7.11)
発明の名称または考案の名称 半導体装置
国際特許分類 H01L  29/06        (2006.01)
H01L  21/20        (2006.01)
H01L  21/203       (2006.01)
H01S   5/343       (2006.01)
FI H01L 29/06 601D
H01L 21/20
H01L 21/203 M
H01S 5/343
請求項の数または発明の数 10
全頁数 12
出願番号 特願2001-397796 (P2001-397796)
出願日 平成13年12月27日(2001.12.27)
審査請求日 平成13年12月27日(2001.12.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
発明者または考案者 【氏名】川辺 光央
【氏名】赤羽 浩一
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100091351、【弁理士】、【氏名又は名称】河野 哲
【識別番号】100088683、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 誠
【識別番号】100108855、【弁理士】、【氏名又は名称】蔵田 昌俊
【識別番号】100075672、【弁理士】、【氏名又は名称】峰 隆司
【識別番号】100109830、【弁理士】、【氏名又は名称】福原 淑弘
【識別番号】100084618、【弁理士】、【氏名又は名称】村松 貞男
【識別番号】100092196、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 良郎
審査官 【審査官】北島 健次
参考文献・文献 特開平11-064900(JP,A)
特開平11-054715(JP,A)
赤羽浩一 他,"InP(311)B基板上におけるInAs量子ドット積層構造の作製と1.55um帯発光",2001年(平成13年)秋季 第62回応用物理学会学術講演会 講演予稿集,日本,2001年 9月11日,第3分冊,p.1032, 12a-YB-5
調査した分野 H01L 29/06
H01L 21/20
H01L 21/203
H01S 5/343
特許請求の範囲 【請求項1】
化合物半導体基板と、
この基板上に設けられた、該基板の形成材料の一部を含み該基板よりも格子定数の大きい化合物半導体材料からなる第1層目の量子ドット層と、
この第1層目の量子ドット層上に設けられた、前記基板と同じ大きさの格子定数を有する化合物半導体材料からなる第1の緩衝層と、
この第1の緩衝層上に設けられた、前記基板よりも格子定数の大きい化合物半導体材料からなる第2層目以上の量子ドット層と前記基板よりも格子定数の小さい化合物半導体材料からなる中間層とを交互に積層してなる多層構造部と、
この多層構造部の最上層の量子ドット層上に設けられた第2の緩衝層と、
この第2の緩衝層上に設けられたクラッド層と、
このクラッド層上に設けられた第1の電極と、
前記基板の前記第1層目の量子ドット層が設けられている側とは反対側に設けられた第2の電極と、
を具備することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記第2層目以上の量子ドット層と前記中間層とは、互いに直接接触し合って交互に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記各量子ドット層と前記中間層とには、互いに反対向きの応力が生じることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基板は、その面指数が(2 1 1)以上の高指数面基板であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記各中間層は、それぞれの厚さが5nm以上40nm未満に形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項6】
前記各中間層は、前記各量子ドット層の形成材料よりもバンドギャップが大きい材料によって形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項7】
前記各中間層には、アルミニウムが20~40%含有されていることを特徴とする請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記基板、前記各量子ドット層、および前記各中間層は、それぞれIII-V族化合物半導体材料によって形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項9】
前記基板はInPによって形成され、前記第1層目の量子ドット層はInAsx1-x (0.5<x<1)によって形成され、かつ、前記第2層目以上の量子ドット層はInAsによって形成されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項10】
前記各中間層は、InxGayAl1-x-yAs (0<x+y<1)によって形成され、前記緩衝層または前記第1の緩衝層は、前記各中間層とは異なる組成比からなるInxGayAl1-x-yAs (0<x+y<1)によって形成されていることを特徴とする請求項9に記載の半導体装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光半導体装置として、例えば化合物半導体レーザの活性層に量子ドット層を適用した量子ドットレーザ、および光検出部に量子ドット層を適用した光検出器の実用化を図る技術に係り、特に量子ドット層の光特性の向上を図った半導体装置に関する
【0002】
【従来の技術】
基板とその上に形成されるエピタキシャル層との格子不整合に基づく歪みによって自己整合的に形成される量子ドットは、例えば次世代の化合物半導体レーザなどの材料として研究されている。量子ドットを用いた半導体レーザ(量子ドットレーザ)は、既に実用化されている量子井戸レーザに比較して温度安定性や低しきい値等の点において優れている。量子ドットレーザの実用化のためには、量子ドットのサイズを量子効果を発揮できる程度に微小かつ略均一にするとともに、その配列を整えて量子ドットが設けられる層(量子ドット層)の高密度化を図ることが必要である。
【0003】
高密度な量子ドット層を作製するために、通常は量子ドット層と、基板と同じ材料によって形成された中間層とを交互に積層する積層構造が採られている。この積層構造の形成過程では、量子ドットを埋め込んだ中間層内に埋め込みドットにより誘起された不均一かつ局所的な歪みが発生する。この局所歪みによって、埋め込みドットの略直上に新たな量子ドットを生じさせる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
積層構造を利用する量子ドット層の作製方法では、量子ドット層の積層数の増加に伴って歪みの蓄積が進むとともに、いわゆる歪み場のぼやけが局所的に発生する。また、InGaAs系の量子ドットではInの表面偏析が生じる。これらにより、量子ドット層の積層数の増加に伴って量子ドットが大型化したり、あるいはサイズの均一性が失われたりするなどの量子ドットの形状劣化が生じたり、さらには量子ドットの配列が乱されたりする。
【0005】
具体例として、基板の面指数が(3 1 1)であるGaAs(3 1 1)B基板上に20層に積層された、In0.4Ga0.6As量子ドット層の原子間力顕微鏡による表面形態の観察像の写真を図5(a),(b)に示す。図5(a)は、第1層目のIn0.4Ga0.6As量子ドット層101の写真であり、図5(b)は、第20層目のIn0.4Ga0.6As量子ドット層102の写真である。これら両写真から明らかなように、第1層目と比較して第20層目は、In0.4Ga0.6As量子ドット103の配列が大きく乱れているとともに、その密度が大幅に低下している。
【0006】
このように、積層構造を利用する量子ドット層の作製方法では、量子ドット層の積層数が増加する程、1層あたりの量子ドットの密度が低下して量子ドット層の高密度化が困難になる。そして、そのような量子ドット層を活性層に用いた量子ドットレーザは、発光効率(利得)が極めて低い。また、そのような量子ドット層をフォト・トランジスタや、フォト・ダイオードなどをはじめとする、受光素子としての光半導体装置(光検出器)に利用した場合、その受光効率(利得)は極めて低い。
【0007】
本発明は、以上説明したような課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、量子ドット層の積層数の増加に伴う量子ドットの形状劣化および配列の乱れを抑制することができ、量子ドット層の高密度化を図り得る半導体装置を提供することにある。
【0011】
さらに、前記課題を解決するために、本発明に係る半導体装置は、化合物半導体基板と、この基板上に設けられた、該基板の形成材料の一部を含み該基板よりも格子定数の大きい化合物半導体材料からなる第1層目の量子ドット層と、この第1層目の量子ドット層上に設けられた、前記基板と同じ大きさの格子定数を有する化合物半導体材料からなる第1の緩衝層と、この第1の緩衝層上に設けられた、前記基板よりも格子定数の大きい化合物半導体材料からなる第2層目以上の量子ドット層と前記基板よりも格子定数の小さい化合物半導体材料からなる中間層とを交互に積層してなる多層構造部と、この多層構造部の最上層の量子ドット層上に設けられた第2の緩衝層と、この第2の緩衝層上に設けられたクラッド層と、このクラッド層上に設けられた第1の電極と、前記基板の前記第1層目の量子ドット層が設けられている側とは反対側に設けられた第2の電極と、を具備することを特徴とするものである。
【0012】
これらの半導体装置においては、化合物半導体基板の上に、この基板よりも格子定数の大きい化合物半導体材料からなる量子ドット層と基板よりも格子定数の小さい化合物半導体材料からなる中間層とが交互に積層された多層構造部が設けられている。これにより、各量子ドット層において生じる基板に対する引っ張り応力が各中間層の圧縮応力で相殺されて補償されるので、量子ドット層の積層数の増加に伴う歪みの蓄積や局所的な歪み場のぼやけが抑制される。したがって、量子ドット層の積層数の増加に伴う量子ドットの形状劣化や配列の乱れが抑制されている。
【0013】
特に、中間層にAlを含有させてAlの混晶とすることにより、各量子ドット層を構成するIII族元素、例えばInの偏析をより抑制できる。これにより、各量子ドット層におけるInの偏析に因る歪みの蓄積や局所的な歪み場のぼやけをより抑制して、量子ドットの形状劣化や配列の乱れをより抑制できる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を図示の実施形態によって説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る半導体装置の素子構造を示す断面図である。
【0020】
InP基板1上に、基板1よりも格子定数の大きい第1層目の量子ドット層2aが形成され、その上に基板1と略同じ大きさの格子定数を有する緩衝層(第1のバッファ層)4が形成されている。そして、バッファ層4上に、基板1よりも格子定数の大きい第2層目以上の量子ドット層2bと基板1よりも格子定数の小さい中間層3とが交互に積層され、最上層は量子ドット層2bとなっている。
【0021】
InP基板1には、その面指数が(2 1 1)以上の高指数面基板を用いることが好ましい。本実施形態においては面指数が(3 1 1)であり、一般にInP(3 1 1)B基板1と表される基板を用いることとする。このInP(3 1 1)B基板1の格子定数は、約0.58694nmである。第1層目の量子ドット層2aは、その組成式がInAsx1-x (x>0.5)で表される合金によって形成されている。第2層目以上の量子ドット層2bは、InAs合金によって形成されている。第1層目および第2層目以上の量子ドット層2a,2bの格子定数は、約0.6058nmである。バッファ層4および各中間層3は、ともに組成式がInxGayAl1-x-yAs (0<x+y<1)で表される材料(合金)によって形成されているが、互いに組成比が異なっている。バッファ層4の格子定数は、約0.58694nmであり、各中間層3の格子定数は、約0.58547nmである。
【0022】
次に、本実施形態の半導体装置の製造方法ついて説明する。
【0023】
先ず、基板1を超高真空中に配置するとともに、その表面1aに向けて約360℃で原子状の水素(H+)を放射(照射)する。これにより、基板1の表面1a上から酸化物を除去して基板1の表面1aを清浄化するとともに、その表面エネルギーを適正な状態に制御する。この水素クリーニング中の原子状水素の背圧は、約6×10-6 Torrに保持された。また、この水素クリーニングに用いられる原子状水素は、後述する量子ドット層2や中間層3、および緩衝層4などをエピタキシャル成長させる(設ける)際に使用される、図示しない分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)装置によって生成される。基板1の温度は、高速反射電子線回折法(Reflection High Energy Electron Diffraction:RHEED)の回折像が縞模様(ストリーク状)に変わるまで約360℃に保持された。
【0024】
続けて、基板1を大気に晒すこと無く超高真空中に配置したままの状態で、基板1の温度を約480℃に上げる。それとともに、基板1の表面1aに向けて原子状水素を供給する。これにより、基板1からPが蒸発して雰囲気中のAsと置換されて、基板1の表面1a上にInAsx1-x (x>0.5)からなる第1層目の量子ドット層2aが形成される。この量子ドット層2aを成長させる際のMBE法を、特に再蒸発法と称することとする。
【0025】
本発明者らが行った実験によれば、InP基板1の表面1aの水素クリーニングおよび量子ドット層2aの形成を約350℃~500℃の範囲で行うことにより、量子効果を発揮できる程度に微小かつ略均一な大きさの極めて良質なInAsx1-x量子ドット5aを、InP基板1の表面1a上に多数個整列させて高密度に配列できることが分かった。このような量子ドット5aによって形成された良質な第1層目の量子ドット層2aは、この上に積層される2層目以上の量子ドット層2bを、量子ドット層2aと同程度に良質に成長させるための、いわゆる種(シード層)となる。
【0026】
次に、基板1の温度を約500℃に上げるとともに、原子状水素、ならびにガス状のIn,Ga,Al,およびAsからなる雰囲気を用いてMBE法を実行する。これにより、第1層目の量子ドット層2aの表面エネルギーを適正な状態に制御しつつ、その上に第1のバッファ層4を成長させる。このバッファ層4は、前述したように各中間層3の形成材料と物理的性質が類似した材料によって形成されることが好ましく、また基板1の形成材料と略同じ大きさの格子定数を有するように、その組成比を調整されることが好ましい。これにより、バッファ層4の上に積層される第2層目の量子ドット層2bを形成する量子ドット5bの大きさ、形状、および配列などを適正な状態に整えることができる。また、そのような材料によって第1のバッファ層4を形成した場合、このバッファ層4は実質的に中間層の一種とみなすことができる。本実施形態においては、量子ドット層2aの表面上にIn0.52Ga0.1Al0.38As合金を約0.2μm/hの成長速度で約100nm堆積させて、第1のバッファ層4を形成した。
【0027】
バッファ層4にAlを含有させることにより、そのバンドギャップを第2層目の量子ドット層2bのバンドギャップよりも大きくする。これにより、発光現象の基になるキャリアが量子ドット層2b中からその外に逃げ難くする。結果として、いわゆるキャリアの閉じ込め効果を向上させて、光の強度を増大することができる。また、バッファ層4にAlを含有させることにより、第1層目の量子ドット層2aに生じている歪による応力を偏らせること無く、適正な状態で第2層目の量子ドット層2bに伝播させることができる。
【0028】
次に、基板1の温度を約500℃に保持したまま、原子状水素、ならびにガス状のInおよびAsからなる雰囲気を用いてMBE法を実行する。これにより、バッファ層4の表面エネルギーを適正な状態に制御しつつ、その上にInAs合金からなる第2層目の量子ドット層2bを成長させる。本実施形態においては、バッファ層4の表面上にInAsを約0.1μm/hの成長速度で約3.7ML分堆積させて、第2層目の量子ドット層2bを形成した。この第2層目以上の量子ドット層2bを成長させる際に適用されるMBE法は、第1層目の量子ドット層2aを成長させる際に適用された再蒸発法に対して、単に蒸発法と称される。
【0029】
次に、基板1の温度を約500℃に保持したまま、原子状水素、ならびにガス状のIn,Ga,Al,およびAsからなる雰囲気を用いてMBE法を実行する。これにより、第2層目の量子ドット層2bの表面エネルギーを適正な状態に制御しつつ、その上に第1層目の中間層3を成長させる。中間層3が成長している間中、原子状の水素を供給することにより、付着原子の表面拡散を促進させる。これにより、中間層3の上に積層される3層目以上の量子ドット層2bを形成するInAs量子ドット5bを、中間層3の上に生じた局所歪みに容易に集中させることができる。この場合、中間層3の上に生じた局所歪みは、InAs量子ドット5bの安定点となる。
【0030】
この第1層目の中間層3を含む各層の中間層3は、InAs量子ドット5bの大きさ、形状、および配列などが、劣化しないように、約5nm以上40nm未満の厚さに形成されることが好ましい。本実施形態においては、量子ドット層2bの表面上にIn0.47Ga0.11Al0.42As合金を約0.21μm/hの成長速度で約10nm堆積させて中間層3を形成した。
【0031】
各中間層3は、半導体装置の発光効率を向上させるために、第1層目の量子ドット層2aおよび第2層目以上の各量子ドット層2bよりもバンドギャップが大きい材料によって形成されることが好ましい。本実施形態の中間層3は、前記組成式で表されるAl化合物を用いて、Alを約20~40%の割合で含有するように形成される。これにより、前述したバッファ層4と同様に、中間層3と交互に、かつ、複数層に積層されて設けられる第2層目以上の各量子ドット層2bへのキャリアの捕獲を促進して、半導体装置の発光効率を向上できる。
【0032】
また、各中間層3へのAlの含有率を約20~40%の範囲に設定することにより、各中間層3の表面の平坦性を適正な状態に保持できる。これにより、各中間層3と交互に積層されて設けられる第3層目以上の各量子ドット層2bを形成するInAs量子ドット5bが、第1層目の量子ドット層2aを形成しているInAsx1-x量子ドット5aと同程度に、極めて良質かつ明瞭なドットとして形成される。それとともに、多数個のInAs量子ドット5bは、整列させられて高密度に配列される。これは、各中間層3にGa原子よりも移動し難いAl原子を含有させ、各中間層3内にAlの混晶を生じさせることにより、第3層目以上の各量子ドット層2bを構成するIII族元素、本実施形態においてはInの偏析または分離を抑制できる効果を利用している。この効果は、バッファ層4と第2層目の量子ドット層2bとの間においても成り立つ。
【0033】
以後、前述した量子ドット層2bおよび中間層3を積層して設ける工程を交互に複数回繰り返すことにより、複数層のInAs量子ドット層2bおよびIn0.47Ga0.11Al0.42As中間層3からなる多層構造部(多重積層量子ドット層)6をバッファ層4の上に設ける。本実施形態においては、第2層目以上の量子ドット層2bが19層に、また中間層3が18層に達するまで繰り返す。本実施形態では、基板1の水素クリーニング、および第1層目の量子ドット層2a~第20層目の量子ドット層2bまでの形成(成長)工程は、事前に超高真空に設定されたMBE装置の処理室内において行われた。特に、第1層目の量子ドット層2aおよび第1のバッファ層4、ならびに多層構造部6の各成長工程は、中断されること無く連続して行われた。
【0034】
量子ドット層2a,2bが20層に達した後、MBE装置を停止させる。これにより、基板1、第1層目の量子ドット層2a、バッファ層4、第2層目~第20層目までの各量子ドット層2b、および第1層目~第18層目までの各中間層3から構成される、半導体装置の素子としての量子ドット積層構造体7の製造を終了する。
【0035】
このように、格子定数が基板1の格子定数よりも小さい中間層3を、格子定数が基板1の格子定数よりも大きい量子ドット層2bと交互に配置することにより、図1中外向きおよび内向きの実線矢印で示すように、各量子ドット層2bにおいて生じる基板1に対する引っ張り応力を各中間層3の圧縮応力で殆ど相殺して補償できる。これにより、量子ドット層2b(2a)の積層数の増加に伴う歪みの蓄積や局所的な歪み場のぼやけを極めて良好に抑制できる。このような構造を歪補償構造と称することとする。
【0036】
この歪補償構造を前述したバッファ層4と併せて用いることにより、シード層としての第1層目の量子ドット層2aに生じている歪による応力を偏らせること無く、適正な状態で第2層目以上の各量子ドット層2bに伝播させることができる。これにより、第2層目以上の各量子ドット層2bを形成している各量子ドット5bを、第1層目の量子ドット層2aを形成している各量子ドット5aの略真上に生じさせることができる。したがって、第2層目以上の各量子ドット層2bを、その積層数に拘らず、第1層目の量子ドット層2aと略同程度に良質な量子ドット層として形成できる。例えば、第1層目の量子ドット層2aが所定の周期構造からなる高密度量子ドット層として形成されるとする。この場合、バッファ層4および各中間層3を介して、第2層目の量子ドット層2b、第3層目の量子ドット層2b、そして第n層目の量子ドット層2bは、第1層目の量子ドット層2aの周期構造と略同じ周期構造が保持された状態で積層される。これにより、各層において三次元超格子構造が形成される。
【0037】
ここで、前述した従来技術に対する本発明の優位性を示すために、本発明者らが行った実験結果について説明する。この実験は、具体的には、歪補償構造および各中間層3のAlの混晶化によるInの偏析抑制作用を採用した場合の、所定の層におけるInAs量子ドット層2bの表面形態を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy:AFM)により観察したものである。ただし、本実験では、InP(3 1 1)B基板1上に前述した第1層目の量子ドット層であるInAsx1-x量子ドット層2aおよびIn0.52Ga0.1Al0.38Asバッファ層4を設ける代わりに、InAs量子ドット層2bおよびIn0.47Ga0.11Al0.42As中間層3を基板1上に直接設けた。すなわち、本実験では、20層のInAs量子ドット層2bと19層のIn0.47Ga0.11Al0.42As中間層3とが基板1上に交互に積層された、図示しない量子ドット積層構造体をAFMにより観察した。なお、本構造は、積層による歪の蓄積およびIn偏析の抑制効果を確認する上で必要十分な条件を備えている。
【0038】
第1層目のInAs量子ドット層2bの表面形態のAFMによる観察像の写真を図2(a)に示す。また、第20層目のInAs量子ドット層2bの表面形態のAFMによる観察像の写真を図2(b)に示す。
【0039】
これら各像によれば、第20層目のInAs量子ドット5bは、大きさおよび形状に関しては、第1層目のInAs量子ドット5bと比較しても殆ど劣化していないことが分かる。ドットの配列状態(整列状態)に関しては、むしろ第20層目のInAs量子ドット5bの方が第1層目のInAs量子ドット5bよりも向上されている。また、第1層目のInAs量子ドット5bの平均直径、その変動率、および密度は、それぞれ約54.0nm,10.1%,そして7.36×1010 個/cm2であった。したがって、本実験における量子ドットの密度は、第20層目では第1層目の約20倍の約1.5×1012 個/cm2となり、従来技術に係る量子ドットの密度より2桁も多くなっていることが分かった。
【0040】
この結果によれば、歪補償構造は、積層数の増加に伴う量子ドットの平均サイズの増大化(肥大化)を極めて効果的に抑制できることが分かった。また、バッファ層4および各中間層3にGa原子よりも移動し難いAl原子を含有させ、それら各層3,4をAlの混晶とする。これにより、バッファ層4および各中間層3でのIn原子の偏析または分離による、第2層目以上の各量子ドット層2bの成長過程におけるIn原子の過剰な堆積を極めて効果的に抑制できることが分かった。このように、バッファ層4および各中間層3における歪の蓄積を抑制して、In原子の過剰な堆積を抑制する。これにより、量子ドット層2bを連続成長させて多層に積層する場合においても、その積層数に拘らず、整列した略均等な配列の量子ドット層2bを得ることができる。
【0041】
以上説明したように、本発明の第1実施形態によれば、量子ドット層の積層数に拘らず、量子効果を発揮できる程度に微小かつ略均一な大きさの量子ドットが整列させられて高密度に配列されており、利得が向上された量子ドット層およびその製造方法を提供できる。
【0042】
さらに、本発明者らが行った実験によれば、図示を伴った説明は省略するが、InP(3 1 1)B基板1の表面1a上にシード層となる第1層目のInAsx1-x量子ドット層2aおよびIn0.52Ga0.1Al0.38Asバッファ層4を設けた場合には、第2層目以上の各InAs量子ドット層2bにおいて、InAs量子ドット5bの大きさがより均一になるとともに、より秩序だって整列させられて、より高密度に配列されることが分かった。そして、基板1上に、InAsx1-x量子ドット層2aおよびIn0.52Ga0.1Al0.38Asバッファ層4を介してInAs量子ドット層2bおよび中間層3が交互に積層された量子ドット積層構造体7では、その利得がより向上されていることが分かった。
【0043】
(第2の実施の形態)
次に、図3および図4を参照しつつ、量子ドット積層構造体7を用いて作製した、半導体装置としての化合物半導体レーザ(量子ドットレーザ)8について説明する。
【0044】
図3に示すように、量子ドット積層構造体7の最上層である第20層目のInAs量子ドット層2bの表面上に、第2の緩衝層(第2のバッファ層)9を設ける。本実施形態においては、この第2のバッファ層9を、前述した第1のバッファ層4と同じIn0.52Ga0.1Al0.38As層とする。この第2のバッファ層9は、最上層である第20層目の量子ドット層2bをカバーするための保護層として設けられる。
【0045】
第2のバッファ層9の表面上にInPクラッド層(P型クラッド層)10を設ける。このInPクラッド層10の格子定数は約0.58694nmである。前述した基板1は、このInPクラッド層10と同様にInPクラッド層(N型クラッド層)として機能する。
【0046】
InPクラッド層10の各量子ドット層2a,2bが設けられている側とは反対側(外側)に第1の電極としてのプラス極11を設ける。同様に、基板1の各量子ドット層2a,2bが設けられている側とは反対側(外側)に第2の電極としてのマイナス極12を設ける。これにより、量子ドットレーザ8の主要部分が構成される。この量子ドットレーザ8において、積層構造部6は、いわゆる活性層(多重積層量子ドット活性層、光導波路層)として機能する。レーザ光は、図3中白抜き矢印で示すように、活性層6の僻開面13から外部に向けて放射される。
【0047】
前述した方法により形成された量子ドット層2a,2bを具備した量子ドット積層構造体7の、フォトルミネッセンスによる発光特性を表すグラフを図4に示す。図4において上段は低温(77K)における発光特性を、下段は室温(Room Temperature)における発光特性を、それぞれ示すものである。ただし、低温に比較して室温では発光強度のスケールが約1/10になっている。これら両グラフによれば、量子ドット積層構造体7からは、低温および室温でそれぞれ約1.5μm付近、約1.6μm付近にピークを有するレーザ光が照射されたことが分かる。
【0048】
現在、光通信用半導体レーザにおいては、通信用光ファイバーの特性から、発振波長がおおよそ1.5μm帯のレーザの開発が求められている。これは、従来技術に係る量子ドットレーザでは、その利得の低さから殆ど不可能な数値であった。本発明者らが行った実験によれば、従来技術に係る方法により製造した量子ドットレーザから照射されるレーザ光の強度は、前記実験と同じ温度においては殆ど測定不可能なくらいに弱かった。これに対して、量子ドット積層構造体7を具備した本実施形態の量子ドットレーザ8では、前記要求を満たす発振波長のレーザ光を照射できる。すなわち、量子ドットレーザ8は極めて高利得であり、その利得(発光効率)は実用に十分耐え得る程度に高められていることが分かる。
【0049】
なお、本発明に係る半導体装置およびその製造方法は、前述した第1および第2の実施形態には制約されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、それらの構成や、あるいは工程などの一部を種々様々な設定に変更したり、あるいは各種設定を組み合わせて用いたりして実施することができる。
【0050】
例えば、量子ドット層2a,2b、およびこれらを備えた量子ドット積層構造体7は、発光素子としての半導体レーザのみならず、受光素子として、例えばフォト・トランジスタやフォト・ダイオード、あるいはそれらを備えた半導体光検出器にも適用することができる。量子ドット層2a,2bは、その量子ドット密度が十分に高いので、受光素子として用いた場合、その感度は極めて高い。
【0051】
また、再蒸発法による量子ドットシード層2aを省いて、InP基板1上に直接バッファ層4を形成し、その上に量子ドット層2bおよび中間層3を交互に積層する構造としても構わない。
【0052】
さらに、基板1、各量子ドット層2a,2b、各中間層3、第1および第2のバッファ層4,9、あるいはクラッド層10の形成材料は、前述した材料には限らない。例えば、基板にIII-V族化合物のGaAsを用い、かつ、各量子ドット層に同じくIII-V族化合物のInAsx1-xおよびInAsを用いた場合、各中間層にもIII-V族化合物のAlPや、あるいはGaPを用いることにより、同様の効果を得ることができる。
【0053】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、化合物半導体基板の上に、この基板よりも格子定数の大きい化合物半導体材料からなる量子ドット層と基板よりも格子定数の小さい化合物半導体材料からなる中間層とを交互に積層して設ける。これにより、量子ドット層の積層数の増加に伴う歪みの蓄積や局所的な歪み場のぼやけを抑制できるので、量子ドット層の積層数に伴う量子ドットの形状劣化や配列の乱れを抑制して、量子ドット層の高密度化を図ることができる。
【0054】
特に、中間層にAlの混晶を用いることにより、各量子ドット層を構成するIII族元素、例えばInの偏析をより抑制して量子ドットの形状劣化や配列の乱れをより抑制できるので、量子ドット層のさらなる高密度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係る半導体装置の素子構造を示す断面図。
【図2】歪補償構造を採用した場合の第1層目および第20層目の各量子ドット層の表面状態を示すAFMの写真。
【図3】第2の実施形態に係る量子ドットレーザの素子構造を示す断面図。
【図4】低温および室温における多層量子ドット層の発光特性を示す図。
【図5】歪補償構造および中間層内でのAlの混晶を採用しない場合の従来技術に係る第1層目および第20層目の各量子ドット層の表面状態を示すAFMの写真。
【符号の説明】
1…InP基板(N型クラッド層、III-V族化合物半導体基板)
1a…基板表面
2…量子ドット層
2a…InAsx1-x量子ドット層(第1層目の量子ドット層)
2b…InAs量子ドット層(第2層目以上の量子ドット層)
3…In0.47Ga0.11Al0.42As中間層(中間層)
4…In0.52Ga0.1Al0.38Asバッファ層(第1の緩衝層)
5a…InAsx(1-x)量子ドット
5b…InAs量子ドット
6…多層構造部(多重積層量子ドット活性層、活性層)
8…量子ドットレーザ(化合物半導体レーザ、半導体装置)
9…In0.52Ga0.1Al0.38Asバッファ層(第2の緩衝層)
10…InPクラッド層(P型クラッド層)
11…プラス電極(第1の電極)
12…マイナス電極(第2の電極)
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
4