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明細書 :液体多孔質電波吸収材料及び吸収体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3023787号 (P3023787)
登録日 平成12年1月21日(2000.1.21)
発行日 平成12年3月21日(2000.3.21)
発明の名称または考案の名称 液体多孔質電波吸収材料及び吸収体
国際特許分類 H05K  9/00      
H01F  1/00      
H01Q 17/00      
FI H05K 9/00 M
H01Q 17/00
H01F 1/00
請求項の数または発明の数 39
全頁数 17
出願番号 特願平11-063580 (P1999-063580)
出願日 平成11年3月10日(1999.3.10)
審査請求日 平成11年3月10日(1999.3.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛庁技術研究本部長
発明者または考案者 【氏名】北川 勝志
個別代理人の代理人 【識別番号】100079290、【弁理士】、【氏名又は名称】村井 隆
審査官 【審査官】内田 博之
参考文献・文献 特開 平3-87096(JP,A)
特開 昭58-191497(JP,A)
特開 平10-321041(JP,A)
特開 平10-322086(JP,A)
実開 平1-169097(JP,U)
実開 平1-106593(JP,U)
調査した分野 H05K 9/00
要約 【課題】 従来の電波吸収材のカーボン、フェライトは、複素誘電率、複素透磁率、複素電気伝導率の電磁パラメータの値は非常に限られた値しかなく、その最適設計に限度があり、また液体そのものを電波吸収材として用いる方法は、製造の困難さ、曲面加工の困難さ、液漏れ等の不具合を生じていた。
【解決手段】 液体を多孔質媒質に含浸あるいは吸着により封じ込め、液体の固体化を図り、各種の多孔質媒質、各種の液体、及び、各種の電解質の組み合わせにより、多種多様の電磁特性を有した電波吸収材料10が提供でき、これを緩衝材又は封止材11で包み込み母材12中に分散、包含させて電波吸収体とする。この多種多様な電波吸収材料を用いれば高性能電波吸収体の最適設計が可能となり、また、製造も容易となり、低コスト化が図れる。
特許請求の範囲 【請求項1】
多孔質媒質に液体を含浸あるいは吸着させ、その含浸あるいは吸着させた液体により、電磁波を吸収することを特徴とする液体多孔質電波吸収材料。

【請求項2】
多孔質媒質に液体を含浸あるいは吸着させ、その含浸あるいは吸着させた液体並びに当該多孔質媒質により、電磁波を吸収することを特徴とする液体多孔質電波吸収材料。

【請求項3】
前記多孔質媒質が、シリカゲル、ケイ藻土、ケイ酸、ケイ酸塩、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、活性ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウム、多孔質ガラス、多孔質石英、シリカ、酸化ケイ素、沸石、ゼオライト、モレキュラーシーブ、分子ふるい、セラミック、陶磁器、耐火レンガ、セメント、発泡コンクリート、ALC、軽量コンクリート、多孔性ガラス、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、アモルファスカーボン、活性アルミナ、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、生石灰、活性マグネシヤ、酸化マグネシウム、マグネシア、酸化チタン、酸化カルシウム、ライム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、水酸化カルシウム、消石灰、リン酸塩、多孔性リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、多孔性リン酸カルシウム等の無機媒質で構成されている請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項4】
前記多孔質媒質が、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、発泡スチロール、ポリ塩化ビニール、ポリウレタン、発泡ポリイミド、ポーラスポリマビーズ、セルロース、純水精製用フィルタ、イオン交換樹脂等の高分子媒質で構成されている請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項5】
前記多孔質媒質が、フェライト系焼結媒質である請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項6】
前記多孔質媒質が、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含む粒子状多孔質媒質で、その最大長さが0.1μm~20mmの大きさである請求項3,4又は5記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項7】
前記多孔質媒質が、同一材質の一様な板状多孔質媒質で、その厚さが20μm~200mmである請求項3,4又は5記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項8】
前記液体が、単一化学組成の有極性液体(常温常圧で静的複素比誘電率の実数部が10以上の液体を言う。以下同じ。)、単一化学組成の無極性液体(常温常圧で静的複素比誘電率の実数部が10未満の液体を言う。以下同じ。)と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体である請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項9】
前記液体が、単一化学組成で、電気伝導性液体(低周波における複素電気伝導率の実数部が10-3(1/Ωm)以上の液体を言う。以下同じ)、あるいは化学的に種類の異なる2種以上の電気伝導性液体を均一に混合した混合液体である請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項10】
前記液体が、単一化学組成の有極性液体、単一化学組成の無極性液体と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体に、単一化学組成の電気伝導性液体、あるいは化学的に種類の異なる2種以上の電気伝導性液体を均一に混合した混合液体を均一に混合した混合液体である請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項11】
前記液体が、単一化学組成の有極性液体、単一化学組成の無極性液体と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体に、単一化学組成の電気伝導性液体、あるいは化学的に種類の異なる2種以上の電気伝導性液体を均一に混合した混合液体を均一に混合した混合液体に、化学的に種類の異なる1種以上の電解質を溶解させ、電気伝導性液体としたものである請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項12】
前記液体が、単一化学組成の無極性液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の無極性液体を均一に混合した混合液体に、化学的に種類の異なる1種以上の電解質を溶解させ、電気伝導性液体としたものである請求項1又は2記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項13】
前記有極性液体が、水、過酸化水素、フッ化水素、シアン化水素等の無機化合物である請求項8記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項14】
前記有極性液体が、アセチルアセトン、アセトアルデヒド、アセトニトリル、アセトフェノン、アセトン、イソブチロニトリル、エタノール、エチレングリコール、ギ酸、グリセリン、クロロアセトン、O-クロロニトロベンゼン、硝酸メチル、トリフルオロ酢酸、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ピリジン、1-ブタノール、2-ブタノール、フルフラール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-2-プロパンジオール、1-3-プロパンジオール、ベンゾニトリル、ホルムアミド、無水酢酸、メタノール、ラクトニトリル等の有機化合物である請求項8記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項15】
前記無極性液体が、硫酸、硝酸等の無機化合物である請求項8,10又は12記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項16】
前記無極性液体が、アニリン、クロロベンゼン、酢酸、ジエチルエーテル、1-4ジオキサン、シクロヘキサン、トルエン、フレオン、プロピレン、ベンゼン、メチルアミン等の有機化合物である請求項8,10又は12記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項17】
前記電気伝導性液体が、硫酸、硝酸、リン酸である請求項9記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項18】
前記電解質として、硝酸銀、塩化バリウム、臭化バリウム、臭化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、硫酸カドミウム、硝酸カドミウム、塩化セレン、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、塩化ランタン、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、水素化リチウム、塩化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、リン酸、硫化亜鉛等の無機質固体電解質を用いる請求項11又は12記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項19】
前記電解質として、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、トリフロロ酢酸、ピクリン酸等の有機質固体電解質を用いる請求項11又は12記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項20】
前記電解質として、臭化水素、シアン化水素、塩化水素、フッ化水素、ヨウ化水素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄等の無機質気体電解質を用いる請求項11又は12記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項21】
前記液体を含浸あるいは吸着させた前記多孔質媒質を、低密度ポリエチレン、塩化ビニリデン、アクリルニトリルの共重合体、ポリアクリロニトリルを主成分とする高分子、ポリカーボネイト、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレン、テレフタレートから選ばれた少なくとも1種から成る緩衝材でくるんだ請求項6又は7記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項22】
前記液体を含浸あるいは吸着させた前記多孔質媒質を、ガラス、あるいはシリカから選ばれた少なくとも1種から成る封止材でくるんだ請求項6又は7記載の液体多孔質電波吸収材料。

【請求項23】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、同一種類の液体を、含浸量あるいは吸着量を変化させて含浸又は吸着させてなる2種以上の密度の異なる電波吸収材料を、順次密度が変化するように設けたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項24】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、密度が増すに従い複素誘電率、複素電気伝導率の内どれか1種以上の物理量が増加する、異なる液体を含浸あるいは吸着させてなる2種以上の密度の異なる電波吸収材料を、順次密度が変化するように設けたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項25】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの密度の異なる種類の粒子状多孔質媒質に、同一種類の液体を含浸あるいは吸着させてなり、密度が増すに従い複素誘電率、複素電気伝導率の内どれか1種以上の物理量が増加する、2種以上の密度の異なる電波吸収材料を順次密度が変化するように設けたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項26】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの密度の異なる種類の粒子状多孔質媒質に、異なる種類の液体を各々含浸あるいは吸着させてなり、密度が増すに従い複素誘電率、複素電気伝導率の内どれか1種以上の物理量が増加する、2種以上の密度の異なる電波吸収材料を順次密度が変化するように設けたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項27】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、同一種類の液体を、含浸量あるいは吸着量を変化させて含浸又は吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項28】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、異なる種類の液体を含浸あるいは吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項29】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、同一種類の液体を含浸あるいは吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項30】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、異なる種類の液体を各々含浸あるいは吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴とする傾斜型電波吸収体。

【請求項31】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な2種以上の液体を、各々含浸あるいは吸着させたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項32】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさで異なる種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な液体を、各々含浸あるいは吸着させたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項33】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項34】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさで異なる種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項35】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な2種以上の液体を、各々含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料を2枚以上張り合わせたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項36】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な2種以上の液体を、各々含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料を2枚以上張り合わせたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項37】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項38】
厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料を2枚以上張り合わせたことを特徴とする広帯域分散吸収型電波吸収体。

【請求項39】
線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの粒子状多孔質媒質に、少なくとも有極性液体、電気伝導性液体のいずれかを含む液体を含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料にカーボン粒子あるいはフェライト粒子を混合したことを特徴とする電波吸収体。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、電波(周波数3THz以下の電磁波)を吸収する液体含浸(又は吸着)電波吸収材料及びそれを用いた電波吸収体に関するものである。

【0002】

【従来の技術】図6に電波吸収体に使用される構成材の内訳を示す。電波吸収体の構成材として、大きく、母材(保持材、バインダー、マトリックス)、強化材又は保護材、反射材(シールド材)、充填材、整合材、及び、電波吸収材に分類出来る。この中でどのようなタイプの電波吸収体にも必ず使用される構成材は、母材及び電波吸収材である。母材は図6に示すように、各種の材料が用意されており、大概の場合、図6に示された材料で用が足りる。しかしながら、電波吸収体のもっとも重要な構成材である、電波吸収材(電波損失材)としては、現在の所、カーボンとフェライトの2種類の固体材料が使用されているにすぎない。図6にあるITO(酸化インジウムスズ)は透明電極に多く使用され、厚みが厚いと反射材に成るため、電波吸収体用としては厚さが数10nm程度の極超薄膜で使用され、可視光を透過する電波吸収体等の特殊な用途でしか開発されておらず、現状の電波吸収材の殆ど全てはカーボンとフェライトが使用されていると言っても過言では無い。

【0003】
カーボンはグラファイト、カーボンブラック、アモルファスカーボン等と呼び方は変化するが、所詮炭素原子の集合体と考えて差し支えなく、複素誘電率等の電磁特性値の大幅な変化は期待できない。一方、フェライトは化学式でMO・Feで表され、Mには通常Zn,Cd,Fe,Ni,Cu,Co,Mg等が入る。Mに各種の金属原子が入ると言っても、材料にかなりの制限を受け、しかも重たくかつ高周波まで電波吸収性能が伸びない。

【0004】
また、電波吸収材として、気体は使用できない。それは、密度が低く、電波吸収量を大きくするには、非常な長距離を必要とするため、電波吸収体の厚みは、どんな種類の気体を用いても、数百mを越えると考えられるからである。

【0005】
一方、液体を電波吸収材として使用する事は十分考えられる。液体は固体と同程度の密度を持ち、その種類も豊富にあり、しかも電波領域に緩和あるいは共鳴吸収帯を持っている液体も多いからである。液体を電波吸収材として使用するには、図7に示すように、液体をポリカーボネイト、ナイロン等の高分子カプセル内に封入するとか、あるいは、図8の如く液体を何等かの板で挟めば良い。しかしながら、直径数mm以下の高分子カプセル内に液体を満たす事は製造上困難をともない、高価となり、十分な強度を持たせることも難しい。また、板に液体を挟み込む方法も、十分な強度を持たせたり、液層の厚さを一定にするには、板の厚みが必要であり、かなり特殊な用途に限られ、又、液漏れを防ぐ事はなかなか大変である。しかも、航空機等の高速で運動する物体には、液体の慣性力が邪魔になり、航空機等の運動性能を阻害する恐れもある。また、図9のように内部がハニカム構造をした2枚の板の中の個々の小さなハニカムセルに液体を封じ込める事も容易に思い付くが、製造が困難であり、かつ、液漏れ等を完全に防ぐには、その製造に相当の難しさを伴う。また、平板以外の曲面を持つハニカム構造の電波吸収体の製作はさらに困難である。

【0006】

【発明が解決しようとする課題】従来の電波吸収材は、カーボンあるいはフェライトに帰着される事を述べたが、これでは複素誘電率、複素透磁率、複素電気伝導率の3つの基本的な設計パラメータを広範に変える事が難しく、高吸収、広帯域、薄型、軽量、高強度、長寿命、耐環境性、取り扱い容易、及び、低コストの高性能電波吸収体の最適設計が困難であった。

【0007】
また、液体を電波吸収材として用いるにしても、従来のように、液体を高分子カプセル内に封入する、液体を板に挟み込む、あるいは、ハニカム構造の中に閉じ込める等の方式では実用に供する事は、上述したように困難を伴う。

【0008】
本発明は、上記の点に鑑み、広範な複素誘電率、複素電気伝導率の物性を持つ各種液体を、固体である多孔質媒質に含浸あるいは吸着させることにより、液体の固体化を図り、液体そのものを用いる時に生じる、液漏れ、製造の困難さ等の不具合を防ぎ、広範な電磁的特性を持つ液体多孔質電波吸収材料、及びそれを用いた電波吸収体を提供することを目的とする。

【0009】
また、広範な電磁的特性を持つ液体多孔質電波吸収材料を使用する事により、高吸収、広帯域、薄型、軽量、高強度、長寿命、耐環境性、取り扱い容易、及び、低コストの高性能電波吸収体の設計及び製作が可能となる。

【0010】
本発明のその他の目的や新規な特徴は後述の実施の形態において明らかにする。

【0011】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本願請求項1の液体多孔質電波吸収材料は、多孔質媒質に液体を含浸あるいは吸着させ、その含浸あるいは吸着させた液体により、電磁波を吸収することを特徴としている。

【0012】
請求項2の液体多孔質電波吸収材料は、多孔質媒質に液体を含浸あるいは吸着させ、その含浸あるいは吸着させた液体並びに当該多孔質媒質により、電磁波を吸収することを特徴としている。

【0013】
請求項3の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記多孔質媒質が、シリカゲル、ケイ藻土、ケイ酸、ケイ酸塩、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、活性ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウム、多孔質ガラス、多孔質石英、シリカ、酸化ケイ素、沸石、ゼオライト、モレキュラーシーブ、分子ふるい、セラミック、陶磁器、耐火レンガ、セメント、発泡コンクリート、ALC、軽量コンクリート、多孔性ガラス、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、アモルファスカーボン、活性アルミナ、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、生石灰、活性マグネシヤ、酸化マグネシウム、マグネシア、酸化チタン、酸化カルシウム、ライム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、水酸化カルシウム、消石灰、リン酸塩、多孔性リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、多孔性リン酸カルシウム等の無機媒質で構成されているものである。

【0014】
請求項4の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記多孔質媒質が、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、発泡スチロール、ポリ塩化ビニール、ポリウレタン、発泡ポリイミド、ポーラスポリマビーズ、セルロース、純水精製用フィルタ、イオン交換樹脂等の高分子媒質で構成されているものである。

【0015】
請求項5の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記多孔質媒質が、フェライト系焼結媒質となっている。

【0016】
請求項6の液体多孔質電波吸収材料は、請求項3,4又は5において、前記多孔質媒質が、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含む粒子状多孔質媒質で、その最大長さが0.1μm~20mmの大きさである。

【0017】
請求項7の液体多孔質電波吸収材料は、請求項3,4又は5において、前記多孔質媒質が、同一材質の一様な板状多孔質媒質で、その厚さが20μm~200mmである。

【0018】
請求項8の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記液体が、単一化学組成の有極性液体(常温常圧で静的複素比誘電率の実数部が10以上の液体を言う。以下同じ。)、単一化学組成の無極性液体(常温常圧で静的複素比誘電率の実数部が10未満の液体を言う。以下同じ。)と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体である。

【0019】
請求項9の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記液体が、単一化学組成で、電気伝導性液体(低周波における複素電気伝導率の実数部が10-3(1/Ωm)以上の液体を言う。以下同じ)、あるいは化学的に種類の異なる2種以上の電気伝導性液体を均一に混合した混合液体である。

【0020】
請求項10の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記液体が、単一化学組成の有極性液体、単一化学組成の無極性液体と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体に、単一化学組成の電気伝導性液体、あるいは化学的に種類の異なる2種以上の電気伝導性液体を均一に混合した混合液体を均一に混合した混合液体である。

【0021】
請求項11の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記液体が、単一化学組成の有極性液体、単一化学組成の無極性液体と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体に、単一化学組成の電気伝導性液体、あるいは化学的に種類の異なる2種以上の電気伝導性液体を均一に混合した混合液体を均一に混合した混合液体に、化学的に種類の異なる1種以上の電解質を溶解させ、電気伝導性液体としたものである。

【0022】
請求項12の液体多孔質電波吸収材料は、請求項1又は2において、前記液体が、単一化学組成の無極性液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の無極性液体を均一に混合した混合液体に、化学的に種類の異なる1種以上の電解質を溶解させ、電気伝導性液体としたものである。

【0023】
請求項13の液体多孔質電波吸収材料は、請求項8において、前記有極性液体が、水、過酸化水素、フッ化水素、シアン化水素等の無機化合物である。

【0024】
請求項14の液体多孔質電波吸収材料は、請求項8において、前記有極性液体が、アセチルアセトン、アセトアルデヒド、アセトニトリル、アセトフェノン、アセトン、イソブチロニトリル、エタノール、エチレングリコール、ギ酸、グリセリン、クロロアセトン、O-クロロニトロベンゼン、硝酸メチル、トリフルオロ酢酸、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ピリジン、1-ブタノール、2-ブタノール、フルフラール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-2-プロパンジオール、1-3-プロパンジオール、ベンゾニトリル、ホルムアミド、無水酢酸、メタノール、ラクトニトリル等の有機化合物である。

【0025】
請求項15の液体多孔質電波吸収材料は、請求項8,10又は12において、前記無極性液体が、硫酸、硝酸等の無機化合物である。

【0026】
請求項16の液体多孔質電波吸収材料は、請求項8,10又は12において、前記無極性液体が、アニリン、クロロベンゼン、酢酸、ジエチルエーテル、1-4ジオキサン、シクロヘキサン、トルエン、フレオン、プロピレン、ベンゼン、メチルアミン等の有機化合物である。

【0027】
請求項17の液体多孔質電波吸収材料は、請求項9において、前記電気伝導性液体が、硫酸、硝酸、リン酸である。

【0028】
請求項18の液体多孔質電波吸収材料は、請求項11又は12において、前記電解質として、硝酸銀、塩化バリウム、臭化バリウム、臭化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、硫酸カドミウム、硝酸カドミウム、塩化セレン、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、塩化ランタン、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、水素化リチウム、塩化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、リン酸、硫化亜鉛等の無機質固体電解質を用いるものである。

【0029】
請求項19の液体多孔質電波吸収材料は、請求項11又は12において、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、トリフロロ酢酸、ピクリン酸等の有機質固体電解質を用いるものである。

【0030】
請求項20の液体多孔質電波吸収材料は、請求項11又は12において、前記電解質として、臭化水素、シアン化水素、塩化水素、フッ化水素、ヨウ化水素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄等の無機質気体電解質を用いるものである。

【0031】
請求項21の液体多孔質電波吸収材料は、請求項6又は7において、前記液体を含浸あるいは吸着させた前記多孔質媒質を、低密度ポリエチレン、塩化ビニリデン、アクリルニトリルの共重合体、ポリアクリロニトリルを主成分とする高分子、ポリカーボネイト、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレン、テレフタレートから選ばれた少なくとも1種から成る緩衝材でくるんだものである。

【0032】
請求項22の液体多孔質電波吸収材料は、請求項6又は7において、前記液体を含浸あるいは吸着させた前記多孔質媒質を、ガラス、あるいはシリカから選ばれた少なくとも1種から成る封止材でくるんだものである。

【0033】
請求項23の傾斜型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、同一種類の液体を、含浸量あるいは吸着量を変化させて含浸又は吸着させてなる2種以上の密度の異なる電波吸収材料を、順次密度が変化するように設けたことを特徴としている。

【0034】
請求項24の傾斜型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、密度が増すに従い複素誘電率、複素電気伝導率の内どれか1種以上の物理量が増加する、異なる液体を含浸あるいは吸着させてなる2種以上の密度の異なる電波吸収材料を、順次密度が変化するように設けたことを特徴としている。

【0035】
請求項25の傾斜型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの密度の異なる種類の粒子状多孔質媒質に、同一種類の液体を含浸あるいは吸着させてなり、密度が増すに従い複素誘電率、複素電気伝導率の内どれか1種以上の物理量が増加する、2種以上の密度の異なる電波吸収材料を順次密度が変化するように設けたことを特徴としている。

【0036】
請求項26の傾斜型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの密度の異なる種類の粒子状多孔質媒質に、異なる種類の液体を各々含浸あるいは吸着させてなり、密度が増すに従い複素誘電率、複素電気伝導率の内どれか1種以上の物理量が増加する、2種以上の密度の異なる電波吸収材料を順次密度が変化するように設けたことを特徴としている。

【0037】
請求項27の傾斜型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、同一種類の液体を、含浸量あるいは吸着量を変化させて含浸又は吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴としている。

【0038】
請求項28の傾斜型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、異なる種類の液体を含浸あるいは吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴としている。

【0039】
請求項29の傾斜型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、同一種類の液体を含浸あるいは吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴としている。

【0040】
請求項30の傾斜型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、異なる種類の液体を各々含浸あるいは吸着させてなる2枚以上の電波吸収材料を張り合わせたことを特徴としている。

【0041】
請求項31の広帯域分散吸収型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な2種以上の液体を、各々含浸あるいは吸着させたことを特徴としている。

【0042】
請求項32の広帯域分散吸収型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさで異なる種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な液体を、各々含浸あるいは吸着させたことを特徴としている。

【0043】
請求項33の広帯域分散吸収型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの同一種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させたことを特徴としている。

【0044】
請求項34の広帯域分散吸収型電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさで異なる種類の粒子状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させたことを特徴としている。

【0045】
請求項35の広帯域分散吸収型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な2種以上の液体を、各々含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料を2枚以上張り合わせたことを特徴としている。

【0046】
請求項36の広帯域分散吸収型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる化学的に均一な2種以上の液体を、各々含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料を2枚以上張り合わせたことを特徴としている。

【0047】
請求項37の広帯域分散吸収型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された同一種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させたことを特徴としている。

【0048】
請求項38の広帯域分散吸収型電波吸収体は、厚さが20μm~200mmで同一材質で一様に形成された異なる種類の板状多孔質媒質に、電磁波の緩和型吸収帯域あるいは共鳴型吸収帯域の異なる2種以上の液体を均一に混合した混合液体を、含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料を2枚以上張り合わせたことを特徴としている。

【0049】
請求項39の電波吸収体は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含み、最大長さが0.1μm~20mmの大きさの粒子状多孔質媒質に、少なくとも有極性液体、電気伝導性液体のいずれかを含む液体を含浸あるいは吸着させてなる電波吸収材料にカーボン粒子あるいはフェライト粒子を混合したことを特徴としている。

【0050】
(定義)本発明では常温常圧で液状の物質を液体、気体状の物質を気体、固体状の物質を固体と言う。

【0051】
(液体)液体を電波吸収材に適用出来るか否かの面で、液体の性質を分類すると、大きく2つの立場で分類できる。一つは、永久双極子モーメントの有無による、有極性液体と無極性液体の分類であり、もう一つは電気伝導が容易か否かでの分類である。これ等を電磁パラメータの面で見ると、前者は複素誘電率の大きさ、及び、その周波数特性に反映され、また、後者は複素電気伝導率の大きさ、及びその周波数特性に反映される。

【0052】
通常、有極性液体は永久双極子モーメントを有する分子からなる液体と定義されるが、本発明においては、便宜上、常温常圧で静的複素比誘電率の実数部が10以上の液体とした。

【0053】
液体の電気伝導率に関して、液体は次の2つに区分される。一つは単一化学組成の物質で、既に大きな電気伝導率を有する電気伝導性液体(例えば硫酸)であり、他の一つは、単一化学組成の液体では電気伝導率は小さいが、電解質を溶解させることにより、電気伝導率が大幅に増加する溶液である。

【0054】
よく知られた水は、有極性液体の代表例であり、電解質の代表例は塩である。純水な水の電気伝導率は5×10-6(1/Ωm)と小さいが、塩をかなりの濃度まで溶解させることにより、大きな電気伝導率を有する一様な溶液(塩水)となる。

【0055】
無極性液体のモル分極と分極率の関係はクラウジウス-モソッティの関係式で表され、有極性液体のモル分極と分極率及び永久双極子モーメントの関係は次のカークウッドの式(クラウジウス-モソッティの関係式を含む)で表現できる。

【0056】

【数1】
JP0003023787B1_000002t.gif【0057】上式から言えることは永久双極子モーメント(p)を持つ有極性液体は、無極性液体に比べ大きな静的誘電率を持つことが言える。カークウッドの式を用いて計算した有極性液体の代表例である水の比誘電率はかなり大きく、63程度となり、実験値と良く合うことは従来より知られている。

【0058】
カークウッドの式は静的な直流の誘電率を表現するものであるが、動的な誘電率、即ち誘電率の周波数特性は、緩和型分散が適用される場合、次のデバイの式で良く表現できる。

【0059】

【数2】
JP0003023787B1_000003t.gifここで、ε',ε",Δε,ω,τはそれぞれ複素比誘電率の実数部、虚数部、分散周波数前後の複素比誘電率の実数部の差、電磁波の角周波数、及び、緩和時間である。

【0060】
また、共鳴型分散が適用される時には、次式が成立する。
【数3】
JP0003023787B1_000004t.gifここで、ωは共鳴角周波数である。

【0061】
緩和型あるいは共鳴型分散の存在する周波数帯域では、図2に示すように、複素比誘電率の虚数部が大きく上昇する(電波の吸収が多くなる)と共に、実数部は、分散の無い領域よりも、かなり急激に低下する(図2の横軸は周波数でなく、波長で表現されているため、注意が必要である。)。

【0062】
液体の場合、緩和型分散が生じ電波を吸収する理由として、液体構成分子が持つ永久双極子モーメントの向きの時間変化が、電波による外部電場の周波数が上昇するにつれ、その変化に追従できず、位相の遅れが生じ、分散が生じると言われている。

【0063】
また、共鳴型分散による電波の吸収は、液体を構成する分子あるいは分子内分子の回転準位間の遷移により、電波が吸収され生じると考えられている。

【0064】
緩和型分散あるいは共鳴型分散のいずれにしても、分散のある周波数領域では、電波は効率よく吸収され、電波吸収材として最適な材料となる。また、電波領域、特にマイクロ波帯域に、緩和型分散あるいは共鳴型分散を持つ液体は多数存在し、本発明の液体含浸多孔質電波吸収材料は従来に無い、優れた電波吸収性能を有した電波吸収材料となる。

【0065】
(電解質)一方、電解質を溶媒に溶解させた時の、低周波領域での電気伝導率は、電解質のモル伝導率とモル濃度の積の和で表される。
σ=ΣΛ(B)・C(B)×10-6
ここで、σ、Λ(B)、C(B)はそれぞれ電気伝導率、B電解質のモル伝導率、B電解質のモル濃度である。

【0066】
上式のように、溶媒にモル伝導率の大きな電解質を濃度を変えて溶解すれば、自由な電気伝導率が得られ、電波吸収体の最適設計が容易に可能となる。

【0067】
電解質は通常、液体に溶解する固体の電解質を言うが、本発明では、気体が溶液に溶けて、溶液の電気伝導率を著しく上昇させる気体(例えば塩素)も電解質と呼ぶことにする。

【0068】
次に、電解質溶液の電気伝導率の周波数特性について述べる。通常、電解質溶液の電気伝導率は数kHzオーダの低周波で測定が行われている。この周波数を数MHzオーダに上昇させると、電解液の電気伝導率が少し上昇すると言う、異常現象が現れる。この現象はデバイ-ファルケンハーゲン効果として知られている。更に周波数を高くすると、電気伝導率は一転して低下して行く。デバイ-ファルケンハーゲン効果はイオンの周りに生じている質量の大きなイオン雰囲気の運動が、周波数が上昇するに伴い追従出来なくなり、それに従いイオンがイオン雰囲気を引きずる等の抵抗を受けないため、イオンが動き易くなり、電気伝導率が上昇すると説明されている。更に周波数を上昇させるとイオンの並進運動までも追従出来なくなり、電気伝導の分散が起こり、電気伝導率が周波数の上昇に伴い低下して行くと考えられている。電解質のモル伝導率の周波数特性の具体例を図3に示す。図中、Λ(0)は低周波の電気伝導率、Λ(λ)は波長λでの電気伝導率を示す。デバイ-ファルケンハーゲン効果は微小な効果のため、図3には明瞭に表れていない。

【0069】
電解質溶液の電気伝導率が電磁波の周波数の上昇に伴い変化する分散周波数帯域になれば、電場に対する電流の位相遅れが生じ、この遅れを表現するために、電気伝導率を複素数化し、複素電気伝導率で表現すれば計算が簡便となる。複素誘電率の損失項は虚数部であるが、複素電気伝導率の損失項は、誘電率と異なり、実数部となる。

【0070】
(作用)上述した、複素比誘電率及び複素電気伝導率を用いて複素伝搬定数を表現すれば下式のようになる。
【数4】
JP0003023787B1_000005t.gifここで、k',k",σ',σ",c,εe',εe"はそれぞれ複素伝搬定数の実数部、虚数部、複素電気伝導率の実数部、虚数部、真空中の光速、有効複素比誘電率の実数部、及び虚数部である。

【0071】
また、電波の吸収係数は2k"となり、波長は2π/k'となる。吸収係数を大きくするには、εe"の値を大きくする必要がある事が上式より分かる。また、吸収体内での波長を短くするには、εe'を大きくする必要がある事も分かる。

【0072】
上式は一様な媒質を進む平面電磁波の振る舞いを表したものであるが、電波が空気から電波吸収体に入射する場合は、境界面で電波は反射する。その反射係数をΓとすれば
Γ= (η-1)/(η+1)
で表される。ここでηは正規化インピーダンスであり、空気からの入射の場合η=R+jXとすれば、
【数5】
JP0003023787B1_000006t.gifと成る。ここで、μは真空中の透磁率である。

【0073】
上式より境界面で電波の反射の無い場合はη=1の時だけであり、ηを1に近づけるには、複素比誘電率の実数部は1、虚数部は零に出来る限り近く、また、複素電気伝導率は零に近い方がよい。しかし、これでは空気と同じ電磁特性を持つ吸収体となり、表面反射は避けられるが、電波を吸収しなくなる。このため、理想的な電波吸収体としては、表面から吸収体の奥に行くに従い複素誘電率及び複素電気伝導率が上昇していく様な、適度な電磁パラメータの分布が選ばれる。

【0074】
(多孔質媒質)多孔質媒質とは固体の範疇に入る物質で、中に独立で無い、つながった無数の微少な空間を有する物質を言う。液体あるいは気体がその微少空間に取り込まれ、その空間が大きい場合を含浸と言い、数分子程度の小さな空間の場合を吸着と呼んでいる。良く知られた多孔質媒質としては、シリカゲルや活性炭がある。このシリカゲルや活性炭は乾燥剤や脱臭剤として、色々な所で使用されている。これ等の物質中にある微少な空間の表面積は非常に大きく、空気中の水分子、あるいは冷蔵庫中の匂い分子が吸着される。また、空間が大きい場合は、吸着分子が集合し、液体となり、その空間に取り込まれる。

【0075】
電波吸収材用多孔質媒質としては、請求項3に示すように、シリカゲル、活性炭のような無機質から成る物質と、請求項4に示すように、高密度ポリエチレン、セルロースのような高分子あるいは有機質からなる物質、及び、請求項5に示すように、ポーラスなフェライト系焼結体に分類できる。これ等いずれにしても多量の液体を含浸あるいは吸着する事が可能である。また、活性炭、フェライト系焼結媒質の様に多孔質媒質そのものが電波を吸収する物質もある。

【0076】
上述した多種多様の液体を多種多様の多孔質媒質に含浸あるいは吸着させる事により、液体の固体化が図られ、従来に無い多種多様の電磁特性を持った電波吸収材料となり、高吸収、広帯域、薄型、軽量、高強度、長寿命、耐環境性、取り扱い容易、及び、低コストの高性能な電波吸収体の設計及び製作が可能となる。

【0077】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。

【0078】
図1は多孔質媒質に液体を含浸あるいは吸着させ、その含浸あるいは吸着させた液体により、又は液体並びに当該多孔質媒質により、電波を吸収する液体多孔質電波吸収材料10を、緩衝材又は封止材11でくるんだものを、母材12中に多数分散、包含させた電波吸収体の実施の形態を示す。

【0079】
前述したように、多孔質媒質としては、シリカゲル、ケイ藻土、ケイ酸、ケイ酸塩、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、活性ケイ酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウム、多孔質ガラス、多孔質石英、シリカ、酸化ケイ素、沸石、ゼオライト、モレキュラーシーブ、分子ふるい、セラミック、陶磁器、耐火レンガ、セメント、発泡コンクリート、ALC、軽量コンクリート、多孔性ガラス、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、アモルファスカーボン、活性アルミナ、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、生石灰、活性マグネシヤ、酸化マグネシウム、マグネシア、酸化チタン、酸化カルシウム、ライム、炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、水酸化カルシウム、消石灰、リン酸塩、多孔性リン酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、多孔性リン酸カルシウム等の無機媒質が使用できる。また、多孔質媒質として、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、発泡スチロール、ポリ塩化ビニール、ポリウレタン、発泡ポリイミド、ポーラスポリマビーズ、セルロース、純水精製用フィルタ、イオン交換樹脂等の高分子媒質も使用でき、さらにはフェライト系焼結媒質も使用できる。

【0080】
前記多孔質媒質の形状は、線状、円柱状、短冊状、直方体状を含む粒子状であるとよく、その最大長さが0.1μm~20mmの大きさであることが、取り扱い易さ、成型性等の観点等から望ましい。また、前記多孔質媒質が同一材質の一様な板状多孔質媒質でもよく、その厚さが20μm~200mmであることが取り扱い容易性や加工性の観点等から望ましい。

【0081】
前述したように、液体としては、単一化学組成の有極性液体、単一化学組成の無極性液体と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体を使用できる。

【0082】
また、前記液体が、単一化学組成で、低周波における複素電気伝導率の実数部が10-3(1/Ωm)以上の電気伝導率を有する、電気伝導性液体であることが、損失を増大させる観点から望ましい。

【0083】
さらには、前記液体が、単一化学組成の有極性液体、単一化学組成の無極性液体と有極性液体とを均一に混合した混合液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の有極性液体を均一に混合した混合液体の内、いずれか一つ以上の液体を均一に混合した混合液体に、単一化学組成で、低周波における複素電気伝導率の実数部が10-3(1/Ωm)以上の電気伝導率を有する、電気伝導性液体を均一に混合した混合液体であってもよい。

【0084】
前記液体に化学的に種類の異なる1種以上の電解質を溶解させ、その溶液の低周波における複素電気伝導率の実数部が10-3(1/Ωm)以上の電気伝導率を有するように設定してもよい。

【0085】
前記液体が、単一化学組成の無極性液体、あるいは、化学的に種類の異なる2種以上の無極性液体を均一に混合した混合液体に、化学的に種類の異なる1種以上の電解質を溶解させ、その溶液の低周波における複素電気伝導率の実数部が10-3(1/Ωm)以上の電気伝導率を有するものであってもよい。

【0086】
前記有極性液体として、水、過酸化水素、フッ化水素、シアン化水素等の無機化合物を用いしてもよく、あるいは前記有極性液体として、アセチルアセトン、アセトアルデヒド、アセトニトリル、アセトフェノン、アセトン、イソブチロニトリル、エタノール、エチレングリコール、ギ酸、グリセリン、クロロアセトン、O-クロロニトロベンゼン、硝酸メチル、トリフルオロ酢酸、ニトロベンゼン、ニトロメタン、ピリジン、1-ブタノール、2-ブタノール、フルフラール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-2-プロパンジオール、1-3-プロパンジオール、ベンゾニトリル、ホルムアミド、無水酢酸、メタノール、ラクトニトリル等の有機化合物を用いてもよい。

【0087】
前記無極性液体として、硫酸、硝酸等の無機化合物を用いてもよく、あるいはアニリン、クロロベンゼン、酢酸、ジエチルエーテル、1-4ジオキサン、シクロヘキサン、トルエン、フレオン、プロピレン、ベンゼン、メチルアミン等の有機化合物を用いてもよい。

【0088】
前記電気伝導性液体として、硫酸、硝酸、リン酸を用いてもよい。

【0089】
前記電解質として、硝酸銀、塩化バリウム、臭化バリウム、臭化カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、臭化カドミウム、塩化カドミウム、硫酸カドミウム、硝酸カドミウム、塩化セレン、塩化銅、硫酸銅、硝酸銅、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、塩化ランタン、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、水素化リチウム、塩化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、リン酸、硫化亜鉛等の無機質固体電解質を用いることができる。

【0090】
あるいは、前記電解質として、ギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、トリフロロ酢酸、ピクリン酸等の有機質固体電解質を用いることができる。

【0091】
さらには、前記電解質として、臭化水素、シアン化水素、塩化水素、フッ化水素、ヨウ化水素、アンモニア、硫化水素、二酸化硫黄等の無機質気体電解質を用いることも可能である。

【0092】
(緩衝材及び封止材)前記緩衝材又は封止材11について説明を加える。緩衝材は請求項21にて述べたように、低密度ポリエチレン、塩化ビニリデン、アクリルニトリルの共重合体、ポリアクリロニトリルを主成分とする高分子、ポリカーボネイト、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレン、テレフタレートから選ばれた少なくとも1種から成るものである。また、封止材は、請求項22にて述べたように、ガラス、あるいはシリカから選ばれた少なくとも1種から成るものである。

【0093】
緩衝材又は封止材11を設ける理由について以下に述べる。多孔質媒質に液体を含浸あるいは吸着させた多孔質電波吸収材料に用いる液体としては、融点が低く、沸点が高い液体が望ましい。それは、鉄製架橋のレーダゴースト防止用電波吸収体の様に、冬の野外で使用されたり、あるいは高空を飛行する航空機の外板に用いられる等の電波吸収体では、マイナス数10度以下の温度にさらされる。この場合融点が高いと、含浸した液体は、固体化し、体積が変化する。また、高温の外気温で使用されたり、強力な電波を照射され、それを吸収する場合も、多孔質媒質中に含浸あるいは吸着された液体は温度上昇により気体となり、体積を膨張させる。この様な場合、硬質の母材12では、母材に小さなクラックが入り、膨潤状態となり、母材の機械的強度に著しい悪影響を与えると共に電波吸収特性にも影響を与える。

【0094】
緩衝材及び封止材は、主に液体の膨張による、母材への悪影響を妨げるために、液体含浸(又は吸着)多孔質媒質を包み囲むための材質である。図1に示すように、緩衝材は低密度ポリエチレン等の柔らかい高分子化合物で液体を含む多孔質媒質を包み、中の液体が膨張したときの体積の増加を、当該高分子化合物で吸収し、母材を膨潤から守り、母材の強度低下を起こさせないための材料である。また、封止材はガラス等の堅い材料で当該多孔質媒質を包み、液体の体積膨張を押さえ込もうとする考えである。多孔質媒質の粒径が小さい場合、薄い封止材でも、数10気圧以上の内圧に十分耐えうる。

【0095】
また、緩衝材及び封止材は、毒性、可燃性、腐食性等を有する液体を封じ込め、安全化を図る場合にも適用出来る。

【0096】
(傾斜型電波吸収体)請求項23から30にある傾斜型電波吸収体について述べる。実用に供するほとんど全ての電波吸収体は、比誘電率がほぼ1の空気中から電波が吸収体に入射する。表面反射の無い理想的な電波吸収体の入射表面に必要とされる電磁特性は、複素比誘電率の実数部は1で、虚数部は零の材質が良い。しかしながら、現実の物質の複素比誘電率の実数部は常に1より大きいため、電波吸収体の表面で電波が反射され、吸収体の用を成さない。このため、各種の工夫をして電波吸収体が設計されている。

【0097】
電波吸収体は良く知られているように、大別して、広帯域電波吸収体と狭帯域電波吸収体の2つに分類できる。

【0098】
(広帯域電波吸収体)前者は主に電波暗室等で用いられ、電波吸収量は高く、適用周波数範囲は広いが、吸収体の厚みが厚く、耐環境性及び強度はあまり必要とされない。吸収体の形によりピラミッド型電波吸収体、山型電波吸収体、三角プリズム型電波吸収体とも言われている。これ等は、形からではなく、機能の面から傾斜型電波吸収体と言うことが出来る。電波吸収体表面で電波を反射させないためには、表面では空気と同じ誘電率に近づける必要が有り、また、電波を効率よく吸収させるには、奥に行くに従い、複素誘電率の虚数部、あるいは複素電気伝導率の実数部を徐々に増加させる必要がある。

【0099】
これを従来技術で行うには、カーボン、フェライトの粒子の数密度が、表面では低く、奥に行くに従い次第に高くなって行く吸収体を作る必要がある。この数密度傾斜型電波吸収体を実現するには、二つの方法が考えられている。一つはカーボン又はフェライトの粒子の数密度が各々一様な薄い板を、粒子密度を変化させ多数枚作り、電波入射面ではカーボン等の数密度が低く、奥に行くに従い数密度が増すように、多数枚の板を張り合わせた多層構造(又は多段構造)にする方法であり、他の一つは、カーボン又はフェライトの数密度が一様な厚い板を一枚作り、この厚い板からピラミッド型や山型等に切り出す方法である。

【0100】
前者の方法は理想的な電波吸収体に近い方法であるが、特性の異なる薄い板を多数製作しなければならず、製造に手間がかかり、高コストと成るため実用に供されていない。

【0101】
後者の方法は、理想的な前者の電波吸収特性と等価な状況を別の方法で作り出す方法である。カーボン、フェライト粒子の数密度は一様で厚い平板状の電波吸収体を作り、その厚い板からピラミッド型に加工したり、山型に加工したりして、数密度傾斜型電波吸収体と等価にし、表面反射の少ない高吸収な広帯域電波吸収体を製作している。また、ピラミッド型や山型電波吸収体は高吸収で広帯域の電波吸収体であるが、欠点としては、厚くて機械強度が無いばかりでなく、ピラミッド等の先端を保護するための措置が必要で、保管時、積み重ねる事が困難と成り、取り扱いが難しく、さらに、平板からピラミッド型や山型に、切り出し加工するため、高コストと成る。

【0102】
本発明の請求項23から26にある粒子状多孔質媒質を用いた傾斜型電波吸収体とは、質量密度の異なる各種の多孔質媒質、及び、電磁特性の異なる各種の液体を組み合わせ、吸収体の表面から奥に行くに従い、電磁的特性を次第に強めた電波吸収体である。これを製作するには、比重が軽く、複素誘電率等が小さな粒子状の液体含浸多孔質媒質から、比重が重く、複素誘電率等が大きな粒子状の液体含浸多孔質媒質まで取りそろえ、母材に混合し、ある程度時間をかけ、硬化させれば良い。母材が硬化するまでに、地球の重力により、表面(上面)には密度が軽く電磁的パラメータの値が小さく、奥(下)に行くに従い、比重が重く電磁的パラメータの値が大きな、平板状の傾斜型電波吸収体が自然に製造できる。本発明の傾斜型電波吸収体は、特性の異なる薄い板を多数製造し、それ等を張り合わせる必要もなく、又ピラミッド型や山形等に加工する必要もない。本発明の傾斜型電波吸収体は、平板一体型で既に電磁的特性が傾斜しているため、低コスト化が図られ、また平板状のため取り扱いが容易であり、薄型、高強度、高吸収な特徴を持つ優れた電波吸収体と成る。

【0103】
請求項27から30にある板状多孔質媒質を用いた傾斜型電波吸収体は、粒子状多孔質媒質を用いたのと同じ考えを板状多孔質媒質に適用した電波吸収体である。電波入射面には、電波の表面反射を防ぐために複素誘電率等の値が小さな板を置き、奥に行くほど複素誘電率等の値が増加するように、多数の板を張り合わせた電波吸収体である。活性アルミナ、陶器、高密度ポリエチレン等は板状多孔質媒質に加工することは容易であり、かつ、硬質で高強度を有する。このような板状多孔質媒質を用いた傾斜型電波吸収体は、電波暗室等の床材として使用できる十分な強度を持ち、床用の電波吸収体として最適な平板型電波吸収体となる。

【0104】
この板状多孔質媒質を用いた傾斜型電波吸収体の製造は、前述した、カーボン粒子あるいはフェライト粒子を用いた数密度傾斜型多層構造平板型電波吸収体より遥かに容易である。それは電磁特性の異なる液体を入れた個々の容器に、板状多孔質媒質を浸けて、それ等の液体を、その多孔質媒質に含浸あるいは吸着させるだけで、電磁特性の異なる各種の板状多孔質媒質が製造出来るからである。

【0105】
(狭帯域電波吸収体)一方、狭帯域電波吸収体(整合型、干渉型、薄型、共鳴型、共振型、及び、適合型電波吸収体とも言われている。)では、吸収体表面で反射した電波と、中に入り反射材から反射した電波とを干渉させ、干渉により表面反射を少なくし、電波を吸収体表面と反射材の間で閉じこめ、電波吸収材で電波を吸収させる方式をとる。狭帯域電波吸収体は一般に薄いが、さらに薄くするには、複素誘電率の実数部の値は出来る限り大きい方が良い。何故なら、複素誘電率の実数部が大きいと、複素伝搬定数の実数部も大きくなり、吸収体内での電波の波長が短く成るためである。この場合も、従来のカーボン材質に比べ、誘電率が遥かに大きな液体が多数存在し、本発明を使用すれば、狭帯域電波吸収体のさらなる薄型化が可能であり、多層構造にしても、厚さが厚くならず、薄型のままで広帯域化が図れる。

【0106】
(広帯域分散吸収型電波吸収体)請求項31から38にある広帯域分散吸収型電波吸収体について述べる。液体は前述したように、緩和型分散あるいは共鳴型分散が生じる周波数領域は、電波領域に多数存在することを述べた。これ等は液体の永久双極子モーメントの配向の外部電場からの位相遅れ、あるいは、液体構成分子の回転準位間の遷移により生じる。

【0107】
液体の種類が異なれば、この分散吸収帯域は当然変化する。広帯域分散吸収型電波吸収体は異なる分散吸収帯域を持つ各種液体を多孔質媒質に含浸あるいは吸着させ、吸収体の広帯域化を図ろうとするものである。また、緩和あるいは共鳴吸収は電波を効率良く吸収するため、薄型で高吸収な広帯域電波吸収体と成る。

【0108】
例えば、Aの液体は1GHz帯に吸収帯域を持ち、Bの液体は10GHz帯に吸収帯域を持つとすれば、これ等異なる2種類の液体が一様に混合する時は、混合した液体を用いれば良いが、一様に混合しない場合は、それぞれの液体を別々に含浸あるいは吸着させた多孔質媒質を用いて、母材に混合すれば、広帯域の電波吸収体と成る。また電波吸収量は、緩和あるいは共鳴しない電波領域よりも遥かに高吸収と成り、薄型化も図れる。また、幸いな事に、液体の緩和型分散あるいは共鳴型分散が生じる吸収帯のバンド幅は、図2の具体例(メチルアルコールの複素比誘電率(ε'は実数部、ε"は虚数部)の周波数特性)のごとく、非常に広帯域である。

【0109】
当然、請求項23から30までの傾斜型電波吸収体の考えと、請求項31から38までの広帯域分散吸収型電波吸収体の考えを組み合わせた、電波吸収体も本発明の範疇に入る事は言うまでもない。

【0110】
最後に請求項5及び39に関して述べる。請求項5は多孔質フェライト系焼結媒質に、請求項8、9、10、11、及び、12に示された各種の液体を含浸あるいは吸着させ、低周波領域の電波吸収に威力を発揮するフェライトと、高周波領域の電磁波の吸収に威力を発揮する多種多様の液体を組み合わせる事により、さらなる電波吸収体の高性能化を図ろうとする考えである。また、従来型電波吸収体ではカーボンあるいはフェライト単体でなく、カーボンとフェライトの粒子の混合材を電波吸収材として用いることは良く行われている。請求項39はこの考えを拡張した考えであり、カーボン、フェライト粒子に、本発明に係る粒子状の液体含浸(吸着)多孔質媒質を組み合わす事により、さらに豊富な電磁特性を持つ電波吸収材となり、より高性能な電波吸収体の開発が可能と成る。

【0111】

【実施例】図4及び図5を用いて本発明の実施例を説明する。図4は乾燥したシリカゲルを用い、図5は水を飽和するまで含ませたシリカゲルを用いた時の電波吸収特性の違いを示したものである。共に同じ重量のシリカゲル粉末を用い、片方は乾燥したままで、他方は水に3日間浸け、十分に水分を含ませたシリカゲルを用い、同量の母材としてのエポキシ樹脂に一様に混合させ硬化させた電波吸収体である。尚、反射材としてはアルミ板を使用した。図5で使用した吸水シリカゲルは、乾燥シリカゲル重量の27%の重さの水を含浸したものである。横軸は周波数、縦軸は吸収量(dB)であり、75GHzから110GHzまでのミリ波領域での電波吸収性能が示されている。

【0112】
図4及び図5を比較すれば直ちに分かるように、水によるミリ波帯の吸収が存在する事が明瞭に出ている。シリカゲルに水を含ませる事により、75GHz~110GHzまでの広範囲な周波数領域で-20dB以上の吸収性能がコンスタントに得られている。

【0113】
以上本発明の実施の形態及び実施例について説明したが、本発明はこれに限定されることなく請求項の記載の範囲内において各種の変形、変更が可能なことは当業者には自明であろう。

【0114】

【発明の効果】従来の電波吸収体に用いられてきた電波吸収材の殆ど全てはカーボンとフェライトであった。このため、複素誘電率等の電磁パラメータの値は非常に限られた値しかなく、その最適設計に限度があった。また、液体そのものを電波吸収材として用いる方法として、高分子カプセル内に液体を封入するとか、液体を2枚板で挟み込むとか、ハニカム構造のセル内に閉じこめる等の方法では、製造の困難さ、曲面加工の困難さ、液漏れ等の不具合を生じる。

【0115】
本発明は、液体を多孔質媒質に含浸あるいは吸着により封じ込め、液体の固体化を図り、各種の多孔質媒質、各種の液体、及び、各種の電解質の組み合わせにより、多種多様の電磁的特性を有した電波吸収材料、及びそれを利用した電波吸収体を実現できた。

【0116】
多種多様の粒子状多孔質媒質、液体、及び電解質を組み合わせれば、密度と共に電磁パラメータが変化する電波吸収材料が製作でき、電磁パラメータが吸収体表面から奥に進むにつれて傾斜的に変化する傾斜型電波吸収体が、地球の重力を利用する事により、自然かつ容易に低コストで製造できる。これは平板で既に電磁特性が傾斜型と成っており、従来のように、多層構造あるいは多段構造にする必要もなく、また、ピラミッド型、山型、三角プリズム型に加工する必要も無い。この吸収体は表面反射が少なく、高吸収で、取り扱いが容易、かつ、低コストの平板型高性能電波吸収体と成る。

【0117】
また、板状多孔質媒質を用いた、多層構造の傾斜型平面電波吸収体も、電磁特性の異なる各種液体にその多孔質媒質を浸け、張り合わせるだけで、容易に製作できる。多孔質媒質には、活性アルミナ、高密度ポリエチレン等の硬質、高強度を有する多孔質媒質が多く有り、電波暗室等の床材に最適な電波吸収体と成る。

【0118】
電磁波の干渉を利用し表面反射を低減させる、狭帯域電波吸収体にも、本発明を応用すれば、誘電率の大きな液体は各種有り、さらなる薄型化が可能となり、多層にしても薄型のままで広帯域化が図れる。

【0119】
さらに、液体を利用すれば、液体が持つ永久双極子の配向緩和や、液体を構成する分子の回転準位間の遷移により、緩和型分散あるいは共鳴型分散が生じるが、この分散周波数帯域は電波領域に多数存在し、電波を効率よく吸収させることが出来る。この吸収帯域は液体の種類により変化し、多種の液体を組み合わせれば、広帯域で高吸収の薄型電波吸収体となる。

【0120】
フェライト型電波吸収体は重くかつ高周波まで電波吸収性能が伸びない。本発明の液体多孔質電波吸収材料及び吸収体は、フェライト型に比較すれば、遙かに軽く、電波吸収性能はミリ波帯域と言う非常な高周波まで伸びる。

【0121】
さらに、従来のカーボンと比較しても本発明の液体多孔質電波吸収材料及び吸収体は軽量化が図れる。それは、密なカーボンの比重は2.3程度と重いが、多くの液体の比重は1近辺にあるためである。

【0122】
従来から使用されている乾燥したカーボン、フェライト粒子と、本発明である粒子状の液体含浸(吸着)多孔質媒質を組み合わせれば、さらに豊富な電磁特性を持つ電波吸収材料となり、高性能な電波吸収体が開発できる。

【0123】
以上、本発明を使用することにより、高吸収、広帯域、薄型、軽量、高強度、長寿命、耐環境性、取り扱い容易、及び低コストの高性能電波吸収体の設計及び製作が可能となる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図7】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図8】
6
【図9】
7
【図6】
8