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明細書 :高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3805601号 (P3805601)
公開番号 特開2001-303218 (P2001-303218A)
登録日 平成18年5月19日(2006.5.19)
発行日 平成18年8月2日(2006.8.2)
公開日 平成13年10月31日(2001.10.31)
発明の名称または考案の名称 高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金
国際特許分類 C22C  45/02        (2006.01)
C23C  26/00        (2006.01)
FI C22C 45/02 Z
C23C 26/00 L
請求項の数または発明の数 4
全頁数 9
出願番号 特願2000-126277 (P2000-126277)
出願日 平成12年4月20日(2000.4.20)
審査請求日 平成15年2月21日(2003.2.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】井上 明久
【氏名】張 涛
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】鈴木 正紀
参考文献・文献 特開平10-265917(JP,A)
特開昭64-075641(JP,A)
特開昭59-041450(JP,A)
特開昭51-004017(JP,A)
調査した分野 C22C 45/02
C23C 26/00
特許請求の範囲 【請求項1】
式:Fe100-a-b-cCra TMb (C1-XXy c[ただし、式中、TM=V,Nb,Mo,Ta,W,Cuの少なくとも一種以上、a,b,c,x,yは、それぞれ5原子%≦a≦30原子%,5原子%≦b≦20原子%,10原子%≦c≦35原子%,25原子%≦a+b≦50原子%,35原子%≦a+b+c≦60原子%,0.11≦x≦0.85,0≦y≦0.57]で示される組成を有し、50K以上の過冷却液体領域と850K以上のガラス遷移温度を兼備した非晶質相を体積100分率で50%以上含む非晶質形成能に優れた高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金。
【請求項2】
TMがMoであることを特徴とする請求項1記載の高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金。
【請求項3】
0.5mm2 以上の断面積と2,500MPa以上の圧縮強度を有していることを特徴とする請求項1記載の非晶質形成能に優れた高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金。
【請求項4】
請求項1記載のFe-Cr基バルクアモルファス合金を被覆した耐蝕性基材。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非晶質形成能に優れた高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、結晶化に対する過冷却液体の優れた安定性によって、厚みが数mmを上回るバルクアモルファス合金の形成を可能にすることが認識され、過冷却液体領域の幅が広いアモルファス合金が非常に注目されている。50Kを超える広い温度範囲の過冷却液体領域が、Mg系、ランタニド(Ln)系、Zr系、Fe系、Pd-Cu系、Co系、またはTi系合金など種々のアモルファス合金で得られることが報告されている。
【0003】
この経験則に従って、Fe系、Co系、およびTi系バルクアモルファス合金がここ数年の間に開発されてきた。例えば、特開平10-265917号公報には、ΔTxが60K以上であり、式(Fe1-a-b Coa Nib 100-x-y-z x y z [式中、Mは、Zr,Nb,Ta,Hf,Mo,W,Crのうちの1種又は2種以上からなる元素であり、Tは、Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt,Al,Si,Ge,C,Pのうちの1種又は2種以上の元素であり、かつ0≦a≦0.29、0≦b≦0.43、5原子%≦x≦15原子%、17原子%≦y≦22原子%、0原子%≦z≦5原子%である]からなる高硬度金属ガラス合金が開示されている。
【0004】
また、特開平11-71602号公報には、ΔTxが60K以上であり、式(Fe1-a-b Coa Nib 100-x-y-z x y z [ただし、0≦a≦0.29,0≦b≦0.43,5原子%≦x≦20原子%、10原子%≦y≦22原子%、0原子%≦z≦5原子%であり、Mは、Zr,Nb,Ta,Hf,Mo,Ti,Vのうちの1種又は2種以上からなる元素、Tは、Cr,W,Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt,Al,Si,Ge,C,Pのうちの1種又は2種以上の元素である]で示される合金粉末を焼結して微細な凹凸部を有する部品の製造方法が開示されている。
【0005】
本発明者らは、先に、30K以上の過冷却液体領域と800K以上のガラス遷移温度を兼備したアモルファス相を体積百分率で50%以上含む高強度・高耐蝕性Ni基アモルファス合金を発明し、特許出願した(特願平11-163045号)。また、式:Ni80-w-x-yNbw Crx Moy 20-zz [ただし、式中のw,x,y,zは原子比率であり、0.1≦w≦10,0≦x≦20,0≦y≦15,4≦z≦6]で示される組成を有し、過冷却液体領域ΔTxが50K以上である高強度・高耐蝕性Ni基アモルファス合金を発明し、特許出願した(特願平11-230951号)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
Fe72-Cr8 -P13-C7 、Fe45-Cr25-Mo10-P13-C7 、Fe50-Cr16-Mo16-C18の組成のアモルファス合金は優れた耐蝕性を有することが知られている。しかし、これらのFe-Cr系アモルファス合金は、アモルファス形成能が小さいために、得られるアモルファス合金形状が薄帯状、フィラメント状、粉粒体状に限られており、一般的な工業材料へ応用できる寸法を有しているとは言えなかった。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、Fe-Cr系アモルファス合金においてバルクアモルファス合金が得られる条件を探索し、Fe-Cr-TM(TM=V,Nb,Mo,Ta,W,Cu)からなる3成分以上を基本成分とする合金系にCおよびBを加えた5成分以上の合金系、さらに、これにPを加えた6成分以上の合金系において50K以上の過冷却液体領域を有する非晶質形成能に優れ、かつ耐蝕性にも優れた高強度のFe-Cr基バルクアモルファス合金を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、 式:Fe100-a-b-cCra TMb (C1-XXy c[ただし、式中、TM=V,Nb,Mo,Ta,W,Cuの少なくとも一種以上、a,b,c,x,yは、それぞれ5原子%≦a≦30原子%,5原子%≦b≦20原子%,10原子%≦c≦35原子%,25原子%≦a+b≦50原子%,35原子%≦a+b+c≦60原子%,0.11≦x≦0.85,0≦y≦0.57]で示される組成を有し、50K以上の過冷却液体領域と850K以上のガラス遷移温度を兼備した非晶質相を体積100分率で50%以上含む非晶質形成能に優れた高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金である。
【0009】
また、本発明は、0.5mm2 以上の断面積と2,500MPa以上の圧縮強度を有していることを特徴とする上記の非晶質形成能に優れた高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金である。
【0010】
また、本発明は、上記の非晶質形成能に優れた高耐蝕性・高強度Fe-Cr基バルクアモルファス合金を被覆した耐蝕性基材である。
【0011】
なお、本明細書中の「過冷却液体領域」とは、毎分40℃の加熱速度で示差走査熱量分析を行うことにより得られるガラス遷移温度Tgと結晶化温度Txの差ΔTx(=Tx-Tg)で定義される。「過冷却液体領域」ΔTxの値は、加工性を示す数値である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明のFe-Cr基バルクアモルファス合金において、Crは耐蝕性の基本となる元素である。Crは、5原子%以上30原子%以下とする。5原子%未満では、高い耐食性が得られない。30原子%を超えると、非晶質形成能が低くなる。より好ましい範囲は、10原子%以上20原子%以下である。
【0013】
TM群の元素であるV,Nb,Mo,Ta,W,Cuの少なくとも1種以上は、Crと同時に含有させることにより相乗的に耐蝕性を向上する。TM群の元素は、5原子%以上20原子%以下とする。5原子%未満または20%を超えると非晶質形成能が低くなる。より好ましい範囲は、10原子%以上20原子%以下である。
【0014】
C、B、Pの合計含有量は10原子%以上35原子%以下とし、各成分の割合は、C1-XXyで示される。Bの含有量xは、0.11≦x≦0.85(すなわちc=35のとき4~30原子%)で示される範囲とする。より好ましくは、0.11≦x≦0.29である。CおよびBは併用することにより高い非晶質形成能を有するとともにBは高い耐蝕性をもたらす元素である。BおよびCがこの範囲外ではΔTxが50K未満となる。
【0015】
Pは、B,Cと併用することにより非晶質形成能を高くする元素であり、本発明の合金に必要に応じて含有させることができる。Pの含有量は0≦y≦0.57の範囲、より好ましくは、0≦y≦0.29の範囲とする。
【0016】
図1は、具体例として,(C1-x x y )=25原子%の場合、すなわち、Fe43Cr16Mo16(C1-x x y 25のアモルファス合金のΔTxのB,C,P組成依存性を示す。また、表1は、Fe43Cr16Mo16(C1-x x y 25のガラス遷移温度Tg,結晶化温度Tx,過冷却液体領域ΔTxを示す。
【0017】
【表1】
JP0003805601B2_000002t.gif【0018】
図1に示すように、50Kを超える大きなΔTxがC:5~23原子%,B:2~18原子%,P:0~14原子%の組成範囲で得られる。C:7~20原子%,B:3~17原子%,P:0~12原子%の組成範囲で60Kを超えるΔTxが得られる。C:12~17原子%,B:8~12原子%,P:0~5原子%では、80Kを超える大きなΔTxが得られる。表1に示すように、No.1~7の組成の合金では、いずれもΔTxが50K以上で、Tgは850K以上である。
【0019】
No.9とNo.10では、Bを含有しなくてもΔTxが50K以上であるが、No.5,6,7と対比するとCとともにBを含有させることによりΔTxを顕著に増大させることができ、かつ耐蝕性を顕著に向上させることができることが分かる。
【0020】
本発明のFe基アモルファス合金は、公知のアモルファス合金と同様、溶融状態から公知の片ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法、アトマイズ法等の種々の方法で冷却固化させ、薄帯状、フィラメント状、粉粒体状のアモルファス固体を得ることができる。また、本発明のFe基アモルファス合金は、大幅にアモルファス形成能が改善されているため、上述の公知の製造方法のみならず、好ましくは、溶融合金を金型に充填鋳造することにより0.5mm2 以上の断面積の任意の形状のバルクアモルファス合金を得ることができる。
【0021】
例えば、代表的な金型鋳造法においては、合金を石英管中でアルゴン雰囲気中で溶融した後、溶融合金を噴出圧0.5~3.0kg/cm2 で銅製の金型内に充填凝固させることにより1.2mm径(1.13mm2 の断面積)までの丸棒状などのバルクアモルファス合金塊を得ることができる。さらには、アーク溶解法、石英管水焼き入れ法、ダイカストキャスティング法およびスクイズキャスティング法等の製造方法を適宜用いることもできる。
【0022】
メルトスピンした合金は、全組成範囲で結晶性を示さず、アモルファス相の形成を確認した。さらに、ΔTxが50Kを超える上記の限定された組成範囲では銅鋳型鋳造法によりバルクアモルファス合金を容易に形成できることを確かめた。本発明のFe-Cr基バルクアモルファス合金は、非晶質相を体積100分率で50%以上含んでいればその所定の特性が得られる。
【0023】
本発明の合金は、例えば、強度と耐摩耗性が要求される小型精密機器の部品および耐蝕性が要求される配管等に適する特性を有している。粉末形態で得られた本発明の合金粉末あるいは粉末状以外の形態で得られた合金を粉末化したものを成型用型に充填し、焼結する方法により特定の形状の部品を製造することもできる。
【0024】
本発明のFe基バルクアモルファス合金は、例えば、Fe42Cr16Mo16188 合金で、3500MPaの高い圧縮強度(σf),240GPaのヤング率(E)、1.7%の破断伸び(εf)および 1300のビッカース硬さ(Hv)を示す。降伏伸び(εy)~9.8Hv/3Eおよびεf=σf/Eの比は、対応する単ロールアモルファスリボンの値とほぼ同じである。
【0025】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1~5
Fe,Cr,Moの純金属および純結晶B、Cの混合物をAr雰囲気中で高周波誘導加熱により溶解し下記の組成のFe基合金のプレアロイインゴットを調製した。
実施例1・・・Fe47Cr16Mo16183
実施例2・・・Fe46Cr16Mo16184
実施例3・・・Fe44Cr16Mo16186
実施例4・・・Fe42Cr16Mo16188
実施例5・・・Fe40Cr16Mo161810
プレアロイインゴットから丸棒材を銅鋳型鋳造法により製造した。銅鋳型の内部空隙は、長さは約45mmで一定であり、直径は1.2mmとした。
【0026】
アモルファス構造は、X線回折法および光学顕微鏡により観察した。熱的安定性は、0.67K/sの加熱速度で示差走査熱量分析を用いて評価した。結晶化した構造は、X線回折法および透過電子顕微鏡によって観察した。機械的性質は室温で4.4×10-4-1の歪み速度でインストロン型試験機を用いて測定した。破断面は走査電子顕微鏡で観察した。
【0027】
図2は、実施例の丸棒材(直径1.2mm、長さ45mm)の形状と外観を示す。丸棒材は良好な金属光沢を有している。結晶相の析出に基づく表面のでこぼこはもちろん、ガスの混入に基づく空隙も丸棒材の外面に見られない。
【0028】
図3は、実施例1~5の各丸棒材のX線回折パターンを示す。各実施例の合金は、結晶のピークのない広いピークから明らかなようにアモルファス相のみからなる。
【0029】
図4は、実施例2、3、4のアモルファス合金のDSC曲線を示す。各合金は、矢印で示す温度のガラス遷移、続いて過冷却液体領域、次いで結晶化を示した。表2にこれらの実施例のガラス遷移温度Tg、結晶化温度Tx、過冷却液体領域ΔTx、融点Tm、ガラス遷移温度/融点Tg/Tmの具体的数値を示す。
【0030】
【表2】
JP0003805601B2_000003t.gif【0031】
TgとTxは、B含有量の増加に伴い、862Kから887Kおよび915Kから947Kの範囲でそれぞれ増加する。過冷却液体領域ΔTxは、Bが4原子%では53Kであり、Bが6原子%で62Kを示し、次いで、Bが8原子%では60Kに低下する。Tg/Tmは0.62~0.63であり、TmからTgまでの温度域は小さい。
【0032】
図5は、実施例2、3、4の合金を大気中で298Kの1M、6M,12Mの塩酸溶液中で測定した定電位分極曲線である。各実施例のFe-Cr基アモルファス合金は、いずれも不働態化している。また、1000mVの高電位まで分極しても孔食が発生しない優れた耐蝕性を示していることが明らかである。
【0033】
図6は、同様の条件で測定した電位の時間変化曲線である。図7は、同様の条件で168時間測定した結果による1年当たりの腐食速度(mm)を示している。B含有量が8原子%の実施例4は最も耐蝕性が優れている。
【0034】
実施例2の丸棒材とメルトスピンしたリボン材の圧縮破断強度(σf)、ヤング率(E)、および弾性伸(εf)を含む全伸は、実施例2の丸棒材では、それぞれ、3500MPa,240GPa,および1.7%、リボン材では、それぞれ、3400MPa,240GPa,および2.0%であり、機械的性質については明瞭な差はないことを示している。丸棒材のビッカース硬さは、Hv1300であり、ゆえに9.8Hv/3Eおよびσf/Eはそれぞれ、0.07と0.014である。これらの比は、良好な延性をもつ他のアモルファス合金のこれまでの値とほぼ同様である。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、非晶質形成能に優れた高耐蝕性・高強度の新規なFe基バルクアモルファス合金を提供するものであり、Fe基アモルファス合金の構造材料、化学材料等の分野への実用化に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、Fe43Cr16Mo16(C1-XXy 25バルクアモルファス合金のΔTxのB,C,P組成依存性を示す。
【図2】図2の(a)は、実施例1の丸棒材、同じく(b)は、実施例2の丸棒材の形状と外観を示す図面代用写真である。
【図3】図3は、実施例1~5の各丸棒材のX線回折パターンを示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2、3、4のバルクアモルファス合金のDSC曲線を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例2、3、4の合金を大気中で298Kの1M、6M,12Mの塩酸溶液中で測定した定電位分極曲線を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例2、3、4の合金を大気中で298Kの1M、6M,12Mの塩酸溶液中で測定した電位の時間変化曲線を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2、3、4の合金を大気中で298Kの1M、6M,12Mの塩酸溶液中で168時間測定した結果による1年当たりの腐食速度(mm)を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6