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明細書 :植物プロトプラストによる非セルロース系カロース繊維体の産生方法とカロース繊維体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3936522号 (P3936522)
公開番号 特開2002-034586 (P2002-034586A)
登録日 平成19年3月30日(2007.3.30)
発行日 平成19年6月27日(2007.6.27)
公開日 平成14年2月5日(2002.2.5)
発明の名称または考案の名称 植物プロトプラストによる非セルロース系カロース繊維体の産生方法とカロース繊維体
国際特許分類 C12P  19/04        (2006.01)
C08B  37/00        (2006.01)
C12N   5/04        (2006.01)
D01F   9/00        (2006.01)
C12R   1/91        (2006.01)
FI C12P 19/04 Z
C08B 37/00 C
C12N 5/00 F
D01F 9/00 Z
C12P 19/04 Z
C12R 1:91
C12N 5/00 F
C12R 1:91
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2000-220419 (P2000-220419)
出願日 平成12年7月21日(2000.7.21)
審査請求日 平成15年8月15日(2003.8.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】独立行政法人森林総合研究所
発明者または考案者 【氏名】近藤 哲男
【氏名】馬越 淳
【氏名】安部 久
【氏名】笹本 浜子
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】内藤 伸一
参考文献・文献 Planta,(1989),178,p385-392
Korean Journal of Botany,(1989),32(4),p215-226
Plant.Physiol.,(1990),94,p13-19
調査した分野 C12P 19/04
C08B 37/00
C12N 5/04
D01F 9/00
CA(STN)
BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
植物プロトプラスト培養系に濃度50~400mMの範囲のCa2+,Mg2+およびNa+のいずれかの無機イオンを添加し、植物プロトプラストに非セルロース系のカロース繊維体を産生させることを特徴とする植物プロトプラストによる非セルロース系カロース繊維体の産生方法。
【請求項2】
培養系のpH値を2~6.5の範囲とする請求項1の非セルロース系繊維体の産生方法。
【請求項3】
請求項1または2の植物プロトプラストによる非セルロース系カロース繊維体の産生方法で産生されるカロース繊維体であって、細胞壁の外に向かって形成され、β-1,3グルカン鎖からなり、へリックス構造を有するアルカリ可溶な繊維状体である非セルロース系カロース繊維体。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、植物プロトプラストによる非セルロース系カロース繊維体の産生方法とカロース繊維体に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明の課題】
各種の繊維材料が、長繊維あるいは短繊維として、産業や社会生活の広範囲な領域において欠くことのできないものとなっている。このような繊維材料としては、現在、主に天然セルロース並びにレーヨン、テンセル等の再生セルロース繊維と、石油化学による合成繊維が知られている。
【0003】
しかしながら、合成繊維は、石油からの繊維の原料調製とその加工のための多量のエネルギーを必要としており、再生することのできない石油資源を使用していることや、合成繊維の廃棄物処理にともなう環境処理問題等の観点から大きな問題をかかえてきている。一方、天然セルロースや再生セルロース繊維は、植物由来の天然物を利用していることから脱石油の可能性を持つものとして考えられているが、実際には、前記のレーヨン、テンセルの場合、一旦セルロースを溶解させた後に再生して繊維化しているため、エネルギー的には、必ずしも低消費の生産とは言えないのが実情である。
【0004】
環境調和型社会を目指す21世紀においては、低エネルギーで繊維材料を生産することのできる方策が望まれる状況であり、天然や再生セルロースの生産における問題点を解消することのできる新しい技術的アプローチと手段を実現することが要望されている。
【0005】
この出願の発明は、上記のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、従来の天然繊維と比較しても、環境に対して低負荷であり、エネルギー消費も少ない新しい方策を提供することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、植物プロトプラスト培養系に濃度50~400mMの範囲のCa2+,Mg2+およびNa+のいずれかの無機イオンを添加し、植物プロトプラストに非セルロース系のカロース繊維体を産生させることを特徴とする植物プロトプラストによる非セルロース系カロース繊維体の産生方法を提供する。
【0007】
また、この出願の発明は、上記方法について、第2には、培養系のpH値を2~6.5の範囲とする非セルロース系カロース繊維体の産生方法を提供する。
【0008】
そして、この出願の発明は、第3には、上記の植物プロトプラストによる非セルロース系カロース繊維体の産生方法で産生されるカロース繊維体であって、細胞壁の外に向かって形成され、β-1,3グルカン鎖からなり、へリックス構造を有するアルカリ可溶な繊維状体である非セルロース系カロース繊維体を提供する。
【0009】
上記のとおりのこの出願の発明は、発明者により得られた以下の知見に基づいて完成されている。
【0010】
すなわち、通常、植物プロトプラストは、細胞壁、すなわち主としてセルロースを形成するが、プロトプラスト培養系に無機イオンを添加する場合には、通常の細胞分裂が極めて低く抑えられ、細胞壁の外に向ってプロトプラストが巨大な非セルロース系繊維を産生することであり、また産生された繊維は、これまで大きな繊維形成が知られていない、β-1,3-グルカン鎖として構成されているカロース繊維体であるとの全く新しい知見である。
【0011】
たとえば、植物細胞中においてカルシウムイオン(Ca2+)の役割は重要と考えられているが、これまでのところ植物生理分野においてのみ注目されているにすぎない。「Ca2+は主として細胞壁が細胞質などのアポプラスト間隙の部分にイオン吸着されて存在し、細胞質内への取り込み速度が小さく、濃度も低い。細胞はむしろCa2+レベルを低く保っている」とされていた。しかし、細胞壁形成などの二次代謝のCa2+の影響についてはほとんど検討されていないのが実情である。このようなことは、Ca2+だけでなく、各種イオンの影響の点についても同様であった。
【0012】
だが、天然高分子の高次構造形成のシステムの検討にとっては、植物体におけるCa2+等のイオンの2次代謝(細胞壁形成)の影響を検討することは極めて意義あることであって、このような検討の過程において、前記のとおりの新しい知見がこの出願の発明者によって導かれているのである。
【0013】
植物プロトプラストからのカロース繊維体の産生を可能とするこの出願の発明は、細胞が直接繊維体を産生するため、高いエネルギー消費を必要とする合成繊維の製造に比べてはるかに低エネルギー型の生産システムを提供し、また、パルプ化、精製、溶解、繊維化を経るこれまでの天然繊維の製造に比べても、環境に対して低負荷であり、エネルギー消費も少ない。この出願のカロース繊維体の産生方法は、低エネルギー型材料生産のための基本的な提案である。
【0014】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、その実施の形態について説明する。
【0015】
植物プロトプラスト培養系に無機イオンを添加し、細胞分裂可能なプロトプラストの通常の意味での分裂を極めて低く抑えることにより、細胞壁の外に向ってプロトプラストが巨大非セルロース繊維としてのカロース繊維体を産生するようにするこの出願の発明方法においては、対象とする植物プロトプラストとしては、各種植物体由来のものであってよく、その培養系も、従来より知られているものをはじめとして各種の構成でよい。
【0016】
植物体は、広葉樹、針葉樹等の任意のもの、たとえば、シラカバやカラマツ等の入手しやすく、植物体として育成も比較的容易なものが適宜に対象とされる。また、培養系については、たとえば、MS(Murashige and Skoog's ; Murashige, T., Skoog, F., Physiol. Plant, 15, 473-497 (1962) )液体基本培地あるいはその強度希釈培地を用い、各種のホルモン条件、たとえば、マンニトール、シュクロース、ナフタレン酢酸、ベンジルアデニン等の成分によって構成することができる。
【0017】
培養系には、この発明の方法においては無機イオンが添加されるが、その濃度としては、無機イオンの種類によっても相違するが、一般的には、50~500mMの範囲、さらに好ましくは50~400mMの範囲とする。50mM未満の濃度では繊維体の産生よりもコロニー体の生成が優先する傾向にあり、また、500mMを超える場合にも繊維体の産生はあまり期待することができない。
【0018】
添加する無機イオンについては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等のうちのカチオン種が好ましく、Ca,Mg,Ba,Sr,Na,K,Mn,Ti,Zr,Mo,W等の各種のものでよい。なかでも、Ca2+,Mg2+等の2価イオンが好適なものとして挙げられる。特に、Ca2+はこの発明でのカロース繊維体の産生にとって効果的である。無機イオンは、培養系に対して、たとえば、塩化物、炭酸塩等の状態で添加することができる。
【0019】
培養系のpH値としては2~6.5の値とすることが好ましい。たとえば、Ca2+の場合には、pH3~6の範囲が好適でもある。pHの調整には、たとえば、KOH、HCl等のアルカリや酸の添加の手段が採用される。また、培養時の温度は、一般的には10~35℃程度の範囲が考慮される。
【0020】
この発明の方法によって産生される繊維体は、これまで天然繊維材料として用いられてきた、植物細胞壁を構成するβ-1,4-グルカン鎖からなるセルロースと異なり、β-1,3-グルカン鎖からなる物質としてのカロースにより構成されている。セルロースは直鎖状の高次構造をとるが、カロースはヘリックス構造を示すため、繊維としての性状はこれまでのセルロース繊維とは異なる。
【0021】
この発明のカロース繊維体は、数ミクロン幅の長い繊維体であって、アルカリ可溶である。β-グルコースからなるヘリックス構造の物質でもあることから、セルロース繊維の場合の用途に限定されることなく、たとえば薬用繊維のほか、可食性の繊維、フィルム、マイクロカプセル等としての用途の拡大も期待される。用途に応じて、セルロース等の他種の繊維や、他物質との複合材を構成してよいことも言うまでもない。
【0022】
そこで次に、実施例を示し、さらに詳しくこの出願の発明について説明する。なお、以下の例によってこの発明が限定されることはない。
【0023】
【実施例】
<実施例1>
シラカバ(Betulaplatyphylla var japonica)のプロトプラストを培養し、その際に、無機イオンとして、Ca2+,Mg2+をCaCl2 ,MgCl2 として添加し、pH値並びにイオン濃度を変更してカロース繊維体を産生させた。pHの調整は、KOH、HClを用いて、121℃20分のオートクレーブ滅菌処理前に行った。
【0024】
また、培養系は、MS液体基本培地の半分の強さのものに、以下のホルモン条件を添加したものとした。
【0025】
0.6M マンニトール
0.09M シュクロース
1μM ナフタレン酢酸(NAA)
10μM ベンジルアデニン(BA)
繊維体(ribon) とコロニー体(colony)の産生についてその結果を図1(Ca2+添加)および図2(Mg2+添加)に示した。図1の結果から、pH3.5~5.7の条件下に、Ca2+濃度100~400mM、特に、pH3.5~4.5、濃度200mMの時に、カロース繊維体の産生が顕著であることがわかる。また、図2の結果からは、pH3.5~5.7、Mg2+濃度100~400mM、特にpH4.5~5.7、濃度100mMの時に、カロース繊維体の産生が良好であることがわかる。
<実施例2>
実施例1において、pH3.5~4.5、Ca2+濃度200mMとして約3ヶ月放置することで培養した。図3の蛍光顕微鏡写真に示したように、巨大な繊維体の産生が確認された。
【0026】
図3は、カルコフルオールによる染色後の繊維体の蛍光顕微鏡写真を示したものである。この繊維体については、染色法、抗体蛍光染色法、酵素分解挙動等の方法による同定で、β-1,3-グルカン鎖であるカロースであることが判明した。
<実施例3>
実施例1において、Ca2+,Mg2+に代えて、Na+ イオンを添加して培養を行った。Ca2+,Mg2+の場合よりもその効果のレベルは低いが、pH3.5~5.7において、Na+ 濃度50~500mM、特に、pH3.5において200~300mM、pH5.7において500mMで、カロース繊維体の産生が確認された。
<実施例4>
カラマツ(Larix Kaempfeli) のプロトプラストに対し、pH3~6.5において、50mMのMg2+、およびCa2+のイオンを各々添加して培養したところ、数週間で、図3と同様に、巨大なカロース繊維体の産生が確認された。
【0027】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、以下のとおりの効果が奏せられる。
【0028】
(1)細胞が直接繊維を生産するため、高いエネルギーを要する合成繊維製造と比較してはるかに低エネルギー型の製造システムであり、パルプ化、生成、溶解、繊維化を経るまでの天然繊維の製造法と比較しても、環境に対して低負荷であり、エネルギー消費も少ない。このようにこの出願の方法は、植物プロトプラストを用いる低エネルギー型材料生産システム構築のための基本となる。
【0029】
(2)産生される繊維は、これまで天然繊維材料として用いられてきた植物細胞壁を構成するβ-1,4-グルカン鎖からなるセルロースと異なり、β-1,3-グルカン鎖から成るカロースという物質により構成されている。セルロースは直鎖状の高次構造をとるが、カロースはヘリックス構造を示すため、繊維としての性状はこれまでのセルロース繊維と異なる。そのため、繊維状物質としての用途拡大が期待される。
【0030】
(3)β-グルコースからなるカロースは、数ミクロン幅の長い繊維状物質で、アルカリ可溶であるため、薬用繊維のほか、可食性の繊維、フィルム、マイクロカプセル等として用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において、Ca2+添加によるカロース繊維体の産生について例示した図である。
【図2】実施例1において、Mg2+添加によるカロース繊維体の産生について例示した図である。
【図3】実施例2についての蛍光顕微鏡写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2