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明細書 :複合酸化物系薄膜の作製方法及びその装置並びにそれにより作製した複合酸化物系薄膜。

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3579690号 (P3579690)
公開番号 特開2002-068894 (P2002-068894A)
登録日 平成16年7月30日(2004.7.30)
発行日 平成16年10月20日(2004.10.20)
公開日 平成14年3月8日(2002.3.8)
発明の名称または考案の名称 複合酸化物系薄膜の作製方法及びその装置並びにそれにより作製した複合酸化物系薄膜。
国際特許分類 C30B 29/22      
C23C 14/08      
FI C30B 29/22 501M
C23C 14/08 ZAAK
請求項の数または発明の数 19
全頁数 17
出願番号 特願2000-266132 (P2000-266132)
出願日 平成12年9月1日(2000.9.1)
審査請求日 平成12年9月1日(2000.9.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人 科学技術振興機構
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
発明者または考案者 【氏名】伊原 英雄
【氏名】A.Sundaresan
【氏名】J.C.Nie
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開平11-278996(JP,A)
特開2000-086388(JP,A)
特開平10-236821(JP,A)
特開平05-279192(JP,A)
M. ALEXE et al.,Self-patterning nano-electrodes on ferroelectric thin films for gigabit memory applications,Applied Physics Letters,1998年 9月14日,Vol.73, No.11,pp.1592-1594
伊原英雄 他,Cu-1234系を基にした最高性能高温超伝導材料の創製に関する研究,工業技術院電子技術総合研究所彙報,1999年 3月20日,Vol.63, Nos.1-2,pp.65-75
調査した分野 C30B1/00-35/00
C23C14/00-14/58
H01L21/205
C01G15/00
C01G3/00
G11B5/65
CA(STN)
JSTPlus(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
複合酸化物系薄膜の作製方法において、
化学的自己形成効果を有する原子を含み、かつ、複合酸化物系薄膜の基本単位格子を構成する各々の相の原子組成に対応した原子組成を有する複数のスパッタ用ターゲットと、 化学的自己形成効果を有するガスを含むスパッタ雰囲気ガスと、を用い、さらに、
複合酸化物系薄膜を積層する基板に配向結晶基板を用い、
この基板の温度を表面拡散温度に保ち、
上記ガス濃度を制御し、
上記複数のスパッタ用ターゲットを時間を制御して交互にスパッタすることにより上記複合酸化物系薄膜の組成及び膜厚を物理的に制御すると共に、上記基本単位格子の各々の相をエピタキシー成長することを特徴とする、複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項2】
前記複合酸化物系薄膜は、強誘電体薄膜、磁性体薄膜、半導体薄膜、非線形光学薄膜、絶縁体薄膜、透明電極薄膜、低誘電体薄膜及び超伝導薄膜であることを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項3】
前記組成及び膜厚の物理的な制御は、前記複合酸化物系薄膜を構成する各々の相の原子の組成を有する各々のスパッタ用ターゲットを、それぞれ交互に、上記複合酸化物の基本単位格子における各々の相の膜厚を制御してスパッタして積層することを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項4】
前記表面拡散は、所定の基板温度によって、前記積層中の複合酸化物の表面原子が表面を移動し、前記相の格子点位置に配置することを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項5】
前記化学的な自己形成は、前記複合酸化物系薄膜の特定の前記相の構成原子そのものにより、またはその一部を特定の原子と置換することによって、上記特定の相の反応促進性と構造安定化を促すこと、及び/又は化学的な修飾により、上記特定の相とこの相に積層する他の相との格子整合性を向上させ、上記複合酸化物系薄膜の形成を促進させることを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項6】
前記化学的な自己形成は、前記複合酸化物系薄膜の特定の前記相の酸素濃度を制御することによって、上記複合酸化物系薄膜の特定の相のホール濃度を制御し、上記特定の相とこの相に積層する他の相との格子整合性を向上させることを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項7】
前記配向結晶基板によるエピタキシー成長は、上記配向結晶基板上にまたは格子整合性を持つバッファ層を上記配向結晶基板上に積層しこのバッファ層上に、前記複合酸化物系薄膜を構成する他の相から成る層を積層してエピタキシー成長させることを特徴とする、請求項1に記載の複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項8】
前記酸化物超伝導薄膜は、Cu系高温超伝導薄膜であることを特徴とする、請求項2に記載の複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項9】
前記Cu系高温超伝導薄膜を構成する相である電荷供給層と超伝導層の前記組成及び膜厚の物理的な制御を行うに際し、上記電荷供給層の組成を有する電荷供給層用ターゲット及び上記超伝導層の組成を有する超伝導層用ターゲットをそれぞれ交互に膜厚を制御してスパッタすることを特徴とする、請求項8に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項10】
前記化学的な自己形成は、前記電荷供給層のCu原子そのものにより、またはその一部を特定の原子と置換することによって、上記電荷供給層の反応促進性と構造安定化を促すことにより、上記電荷供給層と前記超伝導層を格子整合させ、前記Cu系高温超伝導薄膜の形成を促進させることを特徴とする、請求項8に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項11】
前記化学的な自己形成は、前記電荷供給層の酸素濃度を制御することによって、上記電荷供給層のホール濃度を制御し、上記電荷供給層と超伝導層を格子整合させることを特徴とする、請求項8に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項12】
前記電荷供給層のCu原子の一部を特定の原子と置換する方法は、前記電荷供給層の組成を有するターゲットに、所定の量の上記特定の原子を混合し、この所定の量の特定の原子を混合した電荷供給層用ターゲットをスパッタして上記電荷供給層を形成することを特徴とする、請求項10に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項13】
前記電荷供給層の酸素濃度を制御する方法は、上記電荷供給層及び/又は超伝導層をスパッタする際、スパッタガス雰囲気中の酸化性ガス分圧を調節して行うことを特徴とする、請求項11に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項14】
前記配向結晶基板によるエピタキシー成長は、上記配向結晶基板上に前記Cu原子の一部を特定の原子と置換した電荷供給層から成るバッファ層、または異種元素から成る格子整合性の良いバッファ層を積層し、このバッファ層上に前記超伝導層を積層してエピタキシー成長させることを特徴とする、請求項8に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項15】
真空槽内で、所定の基板温度に加熱した配向結晶基板上に、所定の量の特定の原子を混合した複合酸化物系薄膜用ターゲット、または格子整合性の良い物質のターゲットをスパッタしてバッファ層を積層し、次に酸化性ガスを上記真空槽に所定の圧力で導入し、上記バッファ層上に、
(a)上記複合酸化物系薄膜の第一の相の原子組成から成るターゲットをスパッタして、上記複合酸化物系薄膜の基本単位格子における上記第一の相の厚さ分だけ積層し、この層上に、
(b)上記複合酸化物系薄膜の第二の相の原子組成から成るターゲットをスパッタして、上記複合酸化物系薄膜の基本単位格子における上記第二の相の厚さ分だけ積層し、
(c)以下、上記複合酸化物系薄膜を構成する相の種類だけ、上記(a)または(b)と同様の工程を繰り返し、
上記(a)、(b)及び(c)の工程またはその逆工程を繰り返して所定の膜厚の上記複合酸化物系薄膜を作製することを特徴とする、複合酸化物系薄膜の作製方法。
【請求項16】
真空槽内で、所定の基板温度に加熱した配向結晶基板上に、所定の量の特定の原子を混合した電荷供給層用ターゲット、または格子整合性の良い物質のターゲットをスパッタしてバッファ層を積層し、次に酸化性ガスを上記真空槽に所定の圧力で導入し、上記バッファ層上に、
(a)超伝導層用ターゲットをスパッタして、Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における超伝導層の厚さ分だけ積層し、この層上に、
(b)上記電荷供給層用ターゲットをスパッタして、上記Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における上記電荷供給層の厚さ分だけ積層し、
上記(a)、(b)の工程またはその逆工程を繰り返して所定の膜厚の上記Cu系高温超伝導薄膜を作製することを特徴とする、Cu系高温超伝導薄膜の作製方法。
【請求項17】
真空槽内で、所定の基板温度に加熱した配向結晶基板上に、所定の量の特定の原子を混合した電荷供給層用ターゲット、または格子整合性の良い物質のターゲットをスパッタしてバッファ層を積層し、次に酸化性ガスを上記真空槽に所定の圧力で導入し、上記バッファ層上に、
(a)超伝導層用ターゲットをスパッタして、Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における上記超伝導層の厚さ分だけ積層し、この層上に、
(b)上記電荷供給層用ターゲットをスパッタして、上記Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における上記電荷供給層の厚さ分だけ積層し、
上記(a)、(b)の工程を繰り返して所定の膜厚の上記Cu系高温超伝導薄膜を作製し、次に、
(c)絶縁物から成るターゲットをスパッタし、上記所定の膜厚のCu系高温超伝導薄膜上に所定の膜厚の絶縁層を形成し、続いて、
上記(a)、(b)の工程またはその逆工程を繰り返して所定の膜厚の上記Cu系高温超伝導薄膜を作製することを特徴とする、Cu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項18】
前記Cu原子の一部と置換する特定の原子は、Tl,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,Sn,Ge,Si,C,Ti,V,Cr、Mn,Fe,Co,Ni,Zr,Nb,Mo,W,Re,Ru,Osの一元素または複数元素であることを特徴とする、請求項8、16又は17に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
【請求項19】
前記酸化性ガスは、O2 、O3 、N2 O,NOまたはNO2 であることを特徴とする、請求項8、16又は17に記載のCu系高温超伝導薄膜作製方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、複合酸化物系薄膜の作製方法及びその装置並びにそれにより作製した複合酸化物系薄膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、強誘電体材料、酸化物磁性材料、酸化物半導体材料、非線形光学材料、絶縁体材料、透明電極材料、低誘電体材料及び酸化物超伝導材料として、複合酸化物系材料が注目されている。これらの複合酸化物系材料は、互いに組成、格子定数あるいは結晶構造の異なった相が積層されて構成されている。このため、各相が互いにエピタキシー成長した良好な結晶性を有する複合酸化物系材料を得ることが難しかった。
【0003】
酸化物超伝導材料として注目されているCu系超伝導材料は、電荷供給層と超伝導層とがc軸方向に配向して積層した結晶構造を有している。優れた超伝導特性を有するCu系超伝導材料を実現するには、電荷供給層と超伝導層のc軸配向が優れた結晶構造を実現する必要がある。ところが、電荷供給層と超伝導層は格子の不整合性が大きいため、電荷供給層と超伝導層をエピタキシー成長することが難しく、従来は、高圧合成法またはTlの後処理による以外に電荷供給層と超伝導層をエピタキシー成長させることが困難であった。
【0004】
しかしながら、高圧合成法またはTlやHgの後処理によるCu系超伝導材料の製造方法では、コストが高い、また、大面積の薄膜が得難い、大量生産をすることが難しい、また毒性がある等の問題があった。また、基本単位格子構造を任意に制御して再現性良く作製することが難しく、作製後に酸化性雰囲気または還元性雰囲気での高温かつ長時間の後熱処理を必要としていた。また、作製時に高温を必要とし、このため、c軸配向が優れた結晶薄膜を作るための結晶基板が耐高温材料に限られていた。
上記説明では、Cu系超伝導材料の従来技術の課題について説明したが、複合酸化物系材料に共通する課題である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、上記問題点にかんがみ、高温高圧を用いず、結晶性に優れ、基本単位格子構造を任意に制御でき、後熱処理を必要とせず、低温でかつ容易に製造できる複合酸化物系薄膜の作製方法及びその装置並びにそれにより作製した複合酸化物系薄膜を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の製造方法は、複合酸化物系薄膜の作製方法において、化学的自己形成効果を有する原子を含み、かつ、複合酸化物系薄膜の基本単位格子を構成する各々の相の原子組成に対応した原子組成を有する複数のスパッタ用ターゲットと、化学的自己形成効果を有するガスを含むスパッタ雰囲気ガスと、を用い、さらに、複合酸化物系薄膜を積層する基板に配向結晶基板を用い、この基板の温度を表面拡散温度に保ち、上記ガス濃度を制御し、上記複数のスパッタ用ターゲットを時間を制御して交互にスパッタすることにより上記複合酸化物系薄膜の組成及び膜厚を物理的に制御すると共に、上記基本単位格子の各々の相をエピタキシー成長することを特徴とする
上記複合酸化物系薄膜は、強誘電体薄膜、酸化物磁性薄膜、酸化物半導体薄膜、非線形光学薄膜、絶縁体薄膜、透明電極膜、低誘電体膜及び酸化物超伝導薄膜であってよい。
【0007】
さらに、組成及び膜厚の物理的な制御は、複合酸化物系薄膜を構成する各々の相の原子の組成を有する各々のスパッタ用ターゲットを、それぞれ交互に、複合酸化物の基本単位格子における各々の相の膜厚を制御してスパッタして積層することを特徴とする。
この構成により、複合酸化物系薄膜を構成する各々の相の組成と膜厚を制御して積層できる。
【0008】
さらに、表面拡散は、所定の基板温度によって、積層中の複合酸化物の表面原子が表面を移動し、相の格子点位置に配置することを特徴とする。
この構成により、結晶性の良い複合酸化物系薄膜を作製でき、かつ、必要とする基板温度は、熱平衡条件での結晶成長温度より低い。
【0009】
さらに、化学的な自己形成は、複合酸化物系薄膜の特定の相の構成原子そのものにより、またはその一部を特定の原子と置換することによって、特定の相の反応促進性と構造安定化を促すこと、及び/又は化学的な修飾により、特定の相とこの相に積層する他の相との格子整合性を向上させ、物質形成を促進させることを特徴とする。
さらに、化学的な自己形成は、複合酸化物系薄膜の特定の相の酸素濃度を制御することによって、複合酸化物系薄膜の特定の相のホール濃度を制御し、特定の相とこの相に積層する他の相との格子整合性を向上させることを特徴とする。
これらの構成により、複合酸化物系薄膜の特定の相のホール濃度が増え、イオン結合性が増加し、特定の相とこの相に積層する他の相との格子整合性が向上し、結晶性の良い複合酸化物系薄膜を作製できる。
【0010】
さらに、配向結晶基板によるエピタキシー成長は、配向結晶基板上に、または格子整合性を持つバッファ層を積層し、このバッファ層上に他の相から成る層を積層してエピタキシー成長させることを特徴とする。
この構成により、配向結晶基板と複合酸化物系薄膜を構成する他の相との格子不整合を緩和することができ、良好な結晶性を有する複合酸化物系薄膜を積層することができると共に、使用可能な配向結晶基板の種類を増やすことができる。
【0011】
さらに、酸化物超伝導薄膜であるCu系高温超伝導薄膜の作製方法における、Cu系高温超伝導薄膜を構成する相である電荷供給層と超伝導層の組成及び膜厚の物理的制御は、上記電荷供給層の組成を有する電荷供給層用ターゲットと上記超伝導層の組成を有する超伝導層用ターゲットとをそれぞれ交互に膜厚を制御してスパッタすることで制御することを特徴とする。
この構成により、電荷供給層と超伝導層の組成と膜厚を制御して積層できる。
【0012】
さらに、化学的な自己形成は、電荷供給層のCu原子そのものにより、またはその一部を特定の原子と置換することによって、電荷供給層の反応促進性と構造安定化を促すことにより、電荷供給層と超伝導層を格子整合させ、物質形成を促進させることを特徴とする。
さらに、化学的な自己形成は、電荷供給層の酸素濃度を制御することによって、電荷供給層のホール濃度制御し、電荷供給層と超伝導層を格子整合させることを特徴とする。
これらの構成により、電荷供給層中にホール濃度が増え、イオン結合性が増加し、電荷供給層と超伝導層の格子整合性が向上する。
【0013】
さらに、電荷供給層のCu原子の一部を特定の原子と置換する方法は、電荷供給層の組成を有するターゲットに、イオン半径、反応性、分解温度、蒸気圧、を考慮し、所定の量の特定の原子を混合し、所定の量の特定の原子を混合した電荷供給層用ターゲットをスパッタして電荷供給層を形成することを特徴とする。
この構成により、Cu原子の一部を特定の原子と置換した組成を有する電荷供給層が積層できる。
【0014】
さらに、電荷供給層と超伝導層の酸素濃度を増やす方法は、電荷供給層及び/又は超伝導層をスパッタする際、スパッタガス雰囲気に所定の圧力の酸化性ガスを混入することを特徴とする。
この構成により、酸素濃度が高い電荷供給層を積層できる。
【0015】
さらにまた、配向結晶基板によるエピタキシー成長は、配向結晶基板上に、Cu原子の一部を特定の原子と置換した電荷供給層から成るバッファ層または異種元素から成る格子整合性の良いバッファ層を積層し、バッファ層上に超伝導層を積層してエピタキシー成長させることを特徴とする。
この構成により、配向結晶基板と超伝導層との格子不整合を緩和することができ、良好な結晶性を有する超伝導薄膜を積層することができると共に、使用可能な配向結晶基板の種類を増やすことができる。
【0016】
さらに、真空槽内で、所定の基板温度に加熱した配向結晶基板上に、所定の量の特定の原子を混合した複合酸化物系薄膜用ターゲット、または格子整合性の良い物質のターゲットをスパッタしてバッファ層を積層し、次に酸化性ガスを真空槽に所定の圧力で導入し、バッファ層上に、
(a)複合酸化物系薄膜の第一の相の原子組成から成るターゲットをスパッタして、複合酸化物系薄膜の基本単位格子における第一の相の厚さ分だけ積層し、この層上に、
(b)複合酸化物系薄膜の第二の相の原子組成から成るターゲットをスパッタして、複合酸化物系薄膜の基本単位格子における第二の相の厚さ分だけ積層し、
(c)以下、複合酸化物系薄膜を構成する相の種類だけ、上記(a)または(b)と同様の工程を繰り返し、
(a)、(b)及び(c)の工程またはその逆工程を繰り返して所定の膜厚の複合酸化物系薄膜を作製することを特徴とする。
この構成により、配向結晶基板と複合酸化物系薄膜を構成する各相とが格子整合してエピタキシー成長し、各相の厚さを制御して積層できるから、所望の基本単位格子を有する複合酸化物系薄膜を作製できる。さらに、基板を所定の温度に加熱し、かつ酸化性雰囲気で積層するから、一層毎に構成原子の表面拡散と表面反応がおこり、一層毎にエピタキシー成長する。さらにまた、in situ(同一槽内)で、真空を破ることなく、かつ、as grown(成長したまま)で、複合酸化物系薄膜を得ることができる。
【0017】
さらに、真空槽内で、所定の基板温度に加熱した配向結晶基板上に、所定の量の特定の原子を混合した電荷供給層用ターゲットをスパッタしてバッファ層を積層し、酸化性ガスを真空槽に所定の圧力で導入し、バッファ層上に、
(a)超伝導層用ターゲットをスパッタして、Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における超伝導層の厚さ分だけ積層し、この層上に、
(b)電荷供給層用ターゲットをスパッタして、Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における電荷供給層の厚さ分だけ積層する。
そして、(a)、(b)の工程または逆工程を繰り返して所定の膜厚のCu系高温超伝導薄膜を作製することを特徴とする。
この構成により、配向結晶基板と電荷供給層と超伝導層が格子整合してエピタキシー成長し、電荷供給層の厚さと超伝導層の厚さを制御して積層できるから、所望の単位基本格子(例えば、Cu-1223、 Cu-1234、及びCu-1245)を有する所望厚さのCu系高温超伝導薄膜を作製できる。さらに、基板を所定の温度に加熱し、かつ酸化性雰囲気で積層するから、一層毎に構成原子の表面拡散と表面反応がおこり、一層毎にエピタキシー成長する。さらにまた、in situ(同一槽内)で、真空を破ることなく、かつ、as grown(成長したまま)で、超伝導特性を有するCu系高温超伝導薄膜を得ることができる。
【0018】
さらに、真空槽内で、所定の基板温度に加熱した配向結晶基板上に、所定の量の特定の原子を混合した電荷供給層用ターゲットをスパッタしてバッファ層を積層し、次に酸化性ガスを真空槽に所定の圧力で導入し、バッファ層上に、
(a)超伝導層用ターゲットをスパッタして、Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における超伝導層の厚さ分だけ積層し、この層上に、
(b)電荷供給層用ターゲットをスパッタして、Cu系高温超伝導薄膜の基本単位格子における電荷供給層の厚さ分だけ積層する。
上記(a)、(b)の工程または逆工程を繰り返して所定の膜厚の上記Cu系高温超伝導薄膜を作製し、次に、
(c)絶縁物から成るターゲットをスパッタし、所定の膜厚のCu系高温超伝導薄膜上に所定の膜厚の絶縁層を形成し、続いて、
上記(a)、(b)の工程または逆工程を繰り返して所定の膜厚のCu系高温超伝導薄膜を作製することを特徴とする。
この構成によれば、超伝導薄膜に挟まれた絶縁物をバリアーとするジョセフソン接合デバイスなどを、in situで、真空を破ることなく、かつ、as grownで作製できる。
【0019】
さらに、Cu原子の一部と置換する特定の原子は、Tl,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,Sn,Ge,Si,C,Ti,V,Cr、Mn,Fe,Co,Ni,Zr,Nb,Mo,W,Re,Ru,Osの一元素または複数元素であることを特徴とする。
この構成によれば、これらの原子のイオン価数、イオン半径、酸素配位数を適切に選択することによって、ホール濃度を増加させることができる。
さらに、酸化性ガスは、O、O3、 NO、NO、またはNOであることを特徴とする。
この構成によれば、電荷供給層のCuに配位するOが増加し、ホール濃度が増加する。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、図面に示した実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本実施の形態では、複合酸化物系薄膜の一例であるCu系高温超伝導薄膜について説明する。
まず始めに、組成及び膜厚の物理的制御について説明する。
図1は、代表的なCu系高温超伝導体の基本単位格子を示す。
これらの基本単位格子は、基本単位格子の上下面を構成する電荷供給層CuBa4-y 1とこの上下面以外の層である超伝導層Can-1 Cu2n(n=3~5)2とから構成されている。
【0036】
本発明では、電荷供給層CuBa4-y の組成を有する電荷供給層用のターゲットと、超伝導層Can-1 Cu2n(n=3~5)の組成を有する超伝導層用のターゲットとを別々に用意し、これらのターゲットを時間を制御して交互にスパッタして積層し、Cu系超伝導薄膜を作製する。例えば、図1に示したCu-1234構造のCu系超伝導薄膜を作製する場合には、あらかじめ設定した電荷供給層用のターゲットと超伝導層用のターゲットからの膜堆積速度から、図1に示したCu-1234構造の電荷供給層1及び超伝導層2の厚さに相当する膜厚が積層する時間t1、t2を求め、電荷供給層用のターゲットをt1時間スパッタし、引き続き、超伝導層用のターゲットをt2時間スパッタする。この交互のスパッタを必要な回数、繰り返して所望の膜厚のCu-1234構造のCu系超伝導薄膜を作製する。
【0037】
この方法によれば、均一な組成のターゲットを用い、均一な組成の電荷供給層と超伝導層が形成され、またスパッタ時間t1,t2によって膜厚が制御されるから、所望の基本単位格子を有するCu系超伝導薄膜を作製することができる。さらに基板温度を適切な温度に設定して、層表面の構成原子を表面拡散及び表面反応させることにより層間のエピタキシー成長性を向上させている。
【0038】
次に、化学的な自己形成について説明する。
本発明における化学的な自己形成とは、実現しようとする物質の結晶構造において、原料物質の特定の構成原子を他の反応性が高く、構造制御性の高い原子に置換すること、あるいは、原料物質に他の反応性が高く、構造制御性の高い原子を付加すること、すなわち、原料物質に化学的修飾を加えることによって、この構造がより、完全に実現されるようにすることを言う。本発明のCu系超伝導薄膜においては、電荷供給層1と超伝導層2のa軸の長さが異なり、このため、電荷供給層1と超伝導層2の格子整合が悪く、電荷供給層1と超伝導層2とがエピタキシー成長した単結晶構造にすることが難しい。
【0039】
電荷供給層1のCu原子を、Cu原子よりもイオン価数が大きく、かつ、イオン半径が比較的小さく、酸素配位数が6以上の原子で、かつ特定の割合で置換(Cu1-x Ba4-y ;Mは置換原子)すると、電荷供給層1のホール濃度が増え、電荷供給層1のイオン結合性が増加し、CuO結合長が短縮する。この効果により、電荷供給層1と超伝導層2のa軸の長さが近づき、格子整合するようになり、電荷供給層1と超伝導層2とがエピタキシー成長した単結晶構造が得られる。この効果を有する原子は、Tlの外、遷移金属元素などの一元素または複数元素である。
また、電荷供給層1のCu原子に配位するOを増やすことによっても、Cuのイオン価数が増え、電荷供給層1のイオン結合性が増加し、CuO結合長が短縮する。ただし、Cuの価数が高すぎると不安定になるため、Cuの一部を高原子価のイオンで置換する必要がある。
この効果により、電荷供給層1と超伝導層2のa軸の長さが近づき、格子整合性が向上するようになり、電荷供給層1と超伝導層2とがエピタキシー成長した単結晶構造が得られる。
【0040】
本発明では、電荷供給層用のターゲットに、Cu原子を特定の割合で置換したCu1-x Ba4-y (Mは置換原子)組成のターゲットを用いることにより、また、スパッタ雰囲気中に酸化性ガスを混入することによる反応性スパッタにより、電荷供給層1と超伝導層2のa軸の長さを近づけ、格子整合性を向上させ、電荷供給層1と超伝導層2とがエピタキシー成長した単結晶構造を得る。
【0041】
次に、配向性基板によるエピタキシー成長について説明する。
すぐれた結晶性を有するCu系超伝導薄膜を成長させるには、格子整合性の良い配向結晶基板が必要である。
さらに、Cu系超伝導薄膜に使用できる配向結晶基板は種類が限られている。例えば、従来、広く用いられている配向結晶基板に、SrTiOがある。SrTiOのa軸の格子定数は0.390nmであり、超伝導層CaCuOのa軸の格子定数は0.384nmであるが、この程度の格子不整合でもエピタキシー成長が難しく、限られた温度範囲でしか実現できなかった。
本発明では、電荷供給層Cu1-x Ba4-y をバッファ層として用いることにより、配向結晶基板と超伝導層の格子整合条件を満たし、使用できる配向結晶基板の種類を増やすと共に、エピタキシー成長を容易にしている。
ちなみに、配向結晶基板として、ケイ素鋼板を用いることも可能である。
【0042】
以上に説明したCu系超伝導薄膜の製造方法はSAE(Self Assembling Epitaxy)法と名付ける。
【0043】
つぎに上記SAE法を実現する装置の構成を説明する。
図2,図3、図4に、本発明の装置の概略構成を示す。
図2は装置全体の概略図である。図3はスパッタ薄膜作製室の概略上面透視図である。図4はスパッタ薄膜作製室の概略側面透視図である。
この装置は、超高真空堆積室(基本圧力1.33×10-5Pascal)であるスパッタ薄膜作製室3と、この薄膜作製室3にゲート弁を介して接続されたロードロック室4と、制御コンピュータ5とからなる。スパッタ薄膜作製室3には、3種類のスパッタ・ターゲット(焼結されたBa2 CuO2 とCaCuO2 及び絶縁物のターゲット)を垂直に装備した3系統のスパッタ電極6と、これらのターゲット面を覆うように近接してシャッター7が設けられている。このシャッター7は図示しないシャッター回転制御装置によりそれぞれ独立に駆動され、スパッタリングによる基板への薄膜の堆積及び非堆積を制御する。基板は、基板保持・回転・加熱装置8に設置され、基板の回転速度、温度が制御される。設置された基板面は、上記ターゲット面の法線方向に平行にかつスパッタ・プラズマの外に配設される。この構成により、スパッタ荷電粒子の衝突による損傷が無く、かつ、膜厚及び組成分布の良いCu系高温超伝導薄膜を得ることができる。
【0044】
なお、図3,図4中、9は基板面の汚染を防ぐシャッターである。本装置には、図示しない、ガス流量・圧力制御装置、2系統の排気装置、各種のビューイングポート、スパッタガン取り付け部、PLD用ターゲット(レーザアブレーションターゲット)取り付け部、レーザビーム導入部等を有し、また、上記装置の主要部分及び主要部品は、ジョセフソン接合特性評価装置及びレーザアブレーション(パルスレーザ堆積:PLD)と共通性及び互換性を持つ構成である。
【0045】
図5に、この装置のターゲット面に垂直方向の堆積速度の分布を示す。
図6に、この装置のターゲット面に平行方向の堆積速度の分布を示す。
図5、図6から明らかなように、ターゲットからの垂直距離が70mm付近で、ターゲットに垂直及び平行方向の膜厚分布が非常によいことが分かる。なお、図6において、図中の数値は、ターゲットからの垂直距離を示す。
図7は、基板温度が室温での、ターゲット面に垂直方向の電荷供給層及び超伝導層の構成原子の組成比分布を、スパッタ雰囲気のガス組成(Ar/O)をパラメーターに示したものである。
図8は、基板温度が室温での、ターゲット面に水平方向の電荷供給層及び超伝導層の構成原子の組成比分布を、スパッタ雰囲気のガス組成(Ar/O)をパラメーターに示したものである。
図7及び図8から明らかなように、特定のガス組成で組成分布が非常によい領域が存在することが分かる。
【0046】
ロードロック室4は、スパッタ薄膜作製室の真空を破らずに基板の交換が可能にするトランスファーロッド10を有すると共に、ロードロック室4内に電極作製等のための、スパッタ手段又は/及び蒸着手段を備えている。
【0047】
さらに、複数系統のスパッタ電源と、基板保持・回転・加熱装置8と、シャッター7及びシャッター回転制御装置と、ガス流量・圧力制御装置と、2系統の排気装置は、各々、電力、回転速度・温度、位置、ガス流量・圧力、及び真空度を計量するセンサーと、各々の装置の駆動を制御する端末コンピュータと、この端末コンピュータの出力に基づき駆動するアクチュエータと、を有し、また、制御用コンピュータ5との通信手段を有しており、制御用コンピュータとの通信とセンサー出力とに基づいてアクチュエータを駆動かつ制御する構成である。
【0048】
次に、本装置の動作の形態を説明する。
Cu系高温超伝導薄膜を構成する電荷供給層と超伝導層を、電荷供給層用ターゲットと超伝導層用ターゲットとをそれぞれ交互に膜厚を制御してスパッタする工程は、制御用コンピュータ5に、電荷供給層用ターゲット7と超伝導層用ターゲット7のそれぞれのスパッタ電力、基板回転速度・温度、ガス流量・圧力、真空度、それぞれのターゲットに対応するシャッターの開時間、及び作製するCu系高温超伝導薄膜の膜厚に対応する繰り返し回数を入力し、これらの入力値に基づきプログラムされた制御用コンピュータ5が、端末コンピュータとの通信を介し、複数系統のスパッタ電源、基板保持・回転・加熱装置8、シャッター及びシャッター回転制御装置、ガス流量・圧力制御装置、及び2系統の排気装置を制御して、Cu系高温超伝導薄膜を作製する。
【0049】
また、Cu系高温超伝導薄膜製造用プログラムは、コンピュータによってCu系高温超伝導薄膜の製造を制御するプログラムであって、この制御プログラムは、電荷供給層用ターゲットと超伝導層用ターゲットのそれぞれのスパッタ電力、基板回転速度・温度、ガス流量・圧力、真空度、それぞれのターゲットに対応するシャッターの開時間、及び作製するCu系高温超伝導薄膜の膜厚に対応する繰り返し回数の入力値に基づき、端末コンピュータとの通信を介し、複数系統のスパッタ電源、基板保持・回転・加熱装置、シャッター及びシャッター回転制御装置、ガス流量・圧力制御装置、及び2系統の排気装置を制御するものである。
これらの構成によって、100~1000原子層にも及ぶCu系高温超伝導薄膜を、人手によることなく、かつ、正確に製造できる。
【0050】
図9に複合酸化物系薄膜の製造用プログラムのフローチャートを示す。
この例は、3種類のターゲットを使用して作製する例について示している。
制御用コンピュータ5において、まず、基板温度、基板回転速度、Arと酸化性ガス(OあるいはNO)の流量及び圧力、物質AからなるターゲットA、物質BからなるターゲットB、及び物質Cから成るターゲットCのスパッタ電力、物質A、物質B、及び物質Cの一層当たりの堆積時間、作製する複合酸化物系薄膜の厚さに対応する基本単位格子の数、すなわち、繰り返し回数、および、プロセス微調整のために適宜に設定する待ち時間を入力する。つぎに、上記入力値に基づき、制御用コンピュータ5は、複数系統のスパッタ電源、基板保持・回転・加熱装置、シャッター及びシャッター回転制御装置、ガス流量・圧力制御装置、及び2系統の排気装置である各々の装置に、各々の制御命令を出力する。上記各々の制御装置の端末コンピュータから、上記制御命令完了の応答を受け取った後、制御用コンピュータ5は、図9においてプロセスAで示す工程を実行する。すなわち、ターゲットAのスパッタ電源ONの制御命令を出力し、待ち時間Aの後、ターゲットAのシャッター開の制御命令を出力し、物質Aの一層当たりの堆積時間経過後、ターゲットAのシャッター閉の制御命令を出力し、ターゲットAのスパッタ電源OFFの制御命令を出力する。
【0051】
待ち時間Xの後、制御用コンピュータ5は、図9においてプロセスBで示すプロセスAと同様な工程を実行する。すなわち、ターゲットBのスパッタ電源ONの制御命令を出力し、待ち時間Bの後、ターゲットBのシャッター開の制御命令を出力し、物質Bの一層当たりの堆積時間経過後、ターゲットBのシャッター閉の制御命令を出力し、ターゲットBのスパッタ電源OFFの制御命令を出力する。待ち時間Yの後、制御用コンピュータ5は、図9においてプロセスCで示すプロセスA及びBと同様な工程を実行する。この工程は上記プロセスA,Bの説明と同等なので省略する。
次に、制御用コンピュータ5は、初期値を0に設定した繰り返し数を1増やし、この繰り返し数と、あらかじめ入力してある上記繰り返し回数とを比較し、工程繰り返し数が繰り返し回数未満であった場合に、ターゲットAのスパッタ電源ONに戻り、以下、上記プロセスA,B,及びCから成る工程を繰り返す。制御用コンピュータ5は、繰り返し数が繰り返し回数に等しかった場合は、装置終了設定制御命令を上記各々の装置に出力し、各々の制御装置の端末コンピュータから、上記制御命令完了の応答を受け取った後、制御を終了する。
尚、図9は、ターゲットが3種類の場合について例示したものであって、4種類以上のターゲットを必要とする複合酸化物系薄膜の場合であっても、図9に示すプログラムにプロセスD、E、・・のように追加してプログラムすることによって対応可能なことは明らかである。
【0052】
次に、本発明の実施例を説明する。
実施例1:
図10は、本発明の方法及び装置を用いて作製した、Cu系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示す。
配向性基板として、SrTiO(100)基板を用い、この上に電荷供給層(Cu,Tl)Baを積層し、さらに超伝導層CaCuOを積層した。基板温度は430℃~520℃である。図10の下側のX線回折図から判るように、電荷供給層の回折ピークは、TlBaCuO5-y 結晶のc面の回折に相当する回折ピークのみが観測される。すなわち、電荷供給層TlBaCuO5-y は、SrTiO(100)基板上にc軸配向してエピタキシー成長していることを示す。また、図10の上側のX線回折図から判るように、超伝導層の回折ピークはCaCuO結晶のc面の回折に相当する回折ピークのみが観測される。すなわち、超伝導層CaCuOは、電荷供給層TlBaCuO5-y 上にc軸配向してエピタキシー成長していることを示す。
【0053】
従来、SrTiO(a=0.390nm)基板上への超伝導層CaCuO(a=0.384nm)のエピタキシー成長は、a軸の格子不整合のため、狭い温度範囲(430~440℃)に限られていた。
本発明では、基板SrTiO(a=0.390nm)と超伝導層CaCuO(a=0.384nm)の間に、電荷供給層TlBaCuO5-y (a=0.389nm)を格子整合のためのバッファ層として挿入しているため、430℃~520℃の広い温度範囲において、安定してエピタキシー成長させることができる。
【0054】
実施例2:
図11は、本発明の方法及び装置を用いて作製した、CuTl-1234系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示す。
酸化性雰囲気ガスとして、NOを用い、基板にSTO(SrTiO)を用い、基板温度520℃で作製した。
図11のX線回折パターンはCuTl-1234に相当するピークによって形成されており、また、c軸格子定数は1.879nmであることから、CuTl-1234系高温超伝導薄膜が作製できたことが判る。
このCuTl-1234系高温超伝導薄膜は、交流帯磁率の測定で、Tc(超伝導臨界温度)が約20Kであることを示した。
【0055】
実施例3:
図12は、本発明の方法及び装置を用いて作製した、Cu-1245系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示す。
酸化性雰囲気ガスとして、NOを用い、基板にNdGaOを用い、基板温度520℃で作製した。
図12のX線回折パターンはCu-1245に相当するピークによって形成されており、また、c軸格子定数は2.0000nmであることから、CuTl-1245系高温超伝導薄膜が作製できたことが判る。
【0056】
実施例4:
図13は、本発明の方法及び装置を用いて作製した、(CuSrO/(CaCuO;(m=2.5,n=5.7)系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示す。
酸化性雰囲気ガスとして、NOを用い、基板にSTO(SrTiO)を用い、基板温度500℃で作製した。
図13のX線回折パターンは(CuSrO/(CaCuO;(m=2.5,n=5.7)系結晶構造に相当するピークによって形成されており、また、c軸格子定数は2.643nmであることから、(CuSrO/(CaCuO;(m=2.5,n=5.7)系高温超伝導薄膜が作製できたことが判る。
【0057】
本発明の方法及び装置を用いて作製できる高温超伝導薄膜は、上記に説明したCu系高温超伝導薄膜に限らない。下記に示す組成のCu系高温超伝導薄膜を本発明の方法及び装置を用いて作製すれば、極めて容易に、かつ、優れた超伝導特性を有するCu系高温超伝導薄膜が作製できる。
(1)Cu-1223、 Cu-1234、及びCu-1245の結晶構造で代表されるCu系高温超伝導薄膜であって、化学式:Cu1-x (Ba1-y SrCan-1 Cu2n+4-y;M=Tl,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,Sn,Ge,Si,C,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zr,Nb,Mo,W,Re,Ru,Osの一元素または複数元素;0≦x≦1.0,0≦y≦1,0≦z≦1,-2≦w≦4,3≦n≦15で表される(Cu,M)系高温超伝導薄膜。
(2)化学式:Cu1-x (Ba1-y Sr(Ca1-z n-1 Cu2n+4-w;M=Tl,Bi,Pb,In,Ga,Al,B,Sn,Ge,Si,C,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zr,Nb,Mo,W,Re,Ru,Osの一元素または複数元素;L=Mg、アルカリ金属元素の一元素または複数元素;0≦x≦1.0,0≦y≦1,0≦z≦1,-2≦w≦4,3≦n≦16で表される(Cu,M)系高温超伝導薄膜。
【0058】
(3)化学式:Cu1-x Tl(Ba1-y Sr(Ca1-z n-1 Cu2n+4-w;L=Mg、アルカリ金属元素の一元素または複数元素;0≦x≦1.0,0≦y≦1,0≦z≦1,-2≦w≦4,3≦n≦16で表される(Cu,Tl)系高温超伝導薄膜。
(4)化学式:Cu1-x Tl(Ba1-y Sr(Ca1-z Cu10-w;L=Mg、アルカリ金属元素の一元素または複数元素;0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,-2≦w≦4で表される(Cu,Tl)系高温超伝導薄膜。
(5)化学式:Cu1-x Re(Ba1-y Sr(Ca1-z n-1 Cu2n+4-w;L=Mg、アルカリ金属元素の一元素または複数元素;0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,-2≦w≦4,3≦n≦16で表される(Cu,Re)系高温超伝導薄膜。
(6)Cu1-x (Ba1-y Sr(Ca1-z n-1 Cu2n+4-w;M=Ti、V、Cr,B,Ge、Si,C;L=Mg、アルカリ金属元素の一元素または複数元素;0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,-2≦w≦4,3≦n≦16で表される(Cu,M)系高温超伝導薄膜。
【0059】
【発明の効果】
以上の説明から理解されるように、本発明によれば、高温高圧を用いず、結晶性に優れ、基本単位格子構造を任意に制御でき、後熱処理を必要とせず、低温でかつ容易に製造できる複合酸化物系薄膜の作製方法及びその装置並びにそれにより作製した複合酸化物系薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】代表的なCu系高温超伝導体の基本単位格子構造を示す図である。
【図2】複合酸化物系薄膜の作製装置全体の概略図である。。
【図3】スパッタ薄膜作製室の概略上面透視図である。
【図4】スパッタ薄膜作製室の概略側面透視図である。
【図5】本発明の複合酸化物系薄膜作製装置のターゲット面に垂直方向の堆積速度の分布を示すグラフである。
【図6】本発明の複合酸化物系薄膜作製装置のターゲット面に平行方向の堆積速度の分布を示すグラフである。
【図7】ターゲット面に垂直方向の電荷供給層及び超伝導層の構成原子の組成比分布をスパッタ雰囲気のガス組成(Ar/O)をパラメーターに示したものである。
【図8】ターゲット面に水平方向の電荷供給層及び超伝導層の構成原子の組成比分布をスパッタ雰囲気のガス組成(Ar/O)をパラメーターに示したものである。
【図9】複合酸化物系薄膜の製造用プログラムのフローチャートを示す。
【図10】本発明の方法及び装置を用いて作製したCu系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示すグラフである。
【図11】本発明の方法及び装置を用いて作製したCuTl-1234系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明の方法及び装置を用いて作製したCu-1245系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示すグラフである。
【図13】本発明の方法及び装置を用いて作製した(CuSrO/(CaCuO;(m=2.5,n=5.7)系高温超伝導薄膜のX線回折測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 電荷供給層
2 超伝導層
3 スパッタ薄膜作製室
4 ロードロック室
5 制御コンピュータ
6 スパッタ電極
7 シャッター
8 基板保持・回転・加熱装置
9 基板保護用シャッター
10 トランスファーロッド
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12