TOP > 国内特許検索 > リン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサー > 明細書

明細書 :リン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4138331号 (P4138331)
公開番号 特開2003-246788 (P2003-246788A)
登録日 平成20年6月13日(2008.6.13)
発行日 平成20年8月27日(2008.8.27)
公開日 平成15年9月2日(2003.9.2)
発明の名称または考案の名称 リン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサー
国際特許分類 C07F   3/06        (2006.01)
C09K  11/07        (2006.01)
G01N  21/77        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
G01N  31/00        (2006.01)
G01N  31/22        (2006.01)
G01N  33/52        (2006.01)
FI C07F 3/06
C09K 11/07
G01N 21/77 B
G01N 21/78 C
G01N 31/00 N
G01N 31/00 V
G01N 31/22 122
G01N 33/52 C
請求項の数または発明の数 3
全頁数 11
出願番号 特願2002-045846 (P2002-045846)
出願日 平成14年2月22日(2002.2.22)
審査請求日 平成16年6月18日(2004.6.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】浜地 格
個別代理人の代理人 【識別番号】100087675、【弁理士】、【氏名又は名称】筒井 知
審査官 【審査官】前田 憲彦
参考文献・文献 特開2001-253871(JP,A)
特表2002-541857(JP,A)
特表平07-508537(JP,A)
Tetrahedron Letters,2001年,42(40),p.7059-7062
調査した分野 C07F 3/00
C09K 11/00
G01N 21/00
G01N 31/00
G01N 33/00
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の一般式(1)で表わされるリン酸アニオン選択的発蛍光性化合物から成ることを特徴とするリン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサー。
JP0004138331B2_000008t.gif 〔式(1)中、FLは、芳香環または複素環を有する発蛍光性官能基または原子団を表わし、Xは、水溶液中で脱離してアニオンと成る官能基または原子団を表わす。〕
【請求項2】
FLが、下記の(2)に示す(a)、(b)、(c)または(d)の1つから選ばれることを特徴とする請求項1のリン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサー。
JP0004138331B2_000009t.gif 〔式(d)において、Rは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、またはベンジル基を表わす。〕
【請求項3】
Xが、NO3、ハロゲン原子、またはClO4であることを特徴とする請求項1または2のリン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサー。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アニオンを検出するための技術分野に属し、特に、生体内に相応する水溶液中でリン酸アニオンの存在下に蛍光変化するリン酸アニオン選択的発蛍光性化合物から成りリン酸イオンやリン酸化ペプチドの分析に用いられる蛍光センサーに関する。
【0002】
【従来の技術】
リン酸アニオンは生体内において重要な役割を果たしている。例えばシグナル伝達系では、リン酸化タンパク質やリン脂質のリン酸基を介し、種々の情報伝達の制御が行なわれている。したがって、生体内に相応する水溶液中でリン酸アニオンを検出するセンシングシステムが確立されれば、細胞生物学等の分野における基本的ツールとして生体内の諸プロセスの解析に利用でき、また、その成果に基づき新しい薬剤や試薬の開発に資することができるものと期待される。例えば、情報伝達異常によって引き起こされるガン化の鍵反応である細胞内リン酸化シグナルを認識し、その阻害剤等の設計のために有効であると考えられる。
【0003】
リン酸アニオンのようなアニオンを検出するには、アニオンに特異的に結合して蛍光変化する化合物から成る蛍光プローブが有用であると考えられる。しかしながら、金属イオンに代表されるカチオンを検出するための蛍光プローブは多く開発されているのに対し、アニオンを検出し得る蛍光プローブに関しては、有機溶媒中で機能するものは幾つか提示されているが、生体内のような中性水溶液中で使用できるものは殆ど存在しない。これは、一般にアニオンは金属イオンよりもサイズが大きいため、水溶液中では水和の影響を受けやすくキレートさせることが困難なことに一因がある。また、金属イオン検出用プローブの場合、蛍光化合物の構造式中に存在する芳香族アミノ基などが金属に配位することによって蛍光特性を変化させることが可能であるが、アニオン検出において同様の手法を用いることは困難なことにも因る。これらのことから、リン酸アニオンのようなアニオンを検出するための蛍光プローブの例はきわめて少ない。
【0004】
水溶液中でリン酸アニオンを認識する蛍光プローブの数少ない例としてBeerらによって報告されているルテニウム-ビピリジルポリアザ化合物がある(P.D. Beer他、Angew. Chem. Int. Ed., 40, 486 (2001); P.D. Beer他、J. Am. Chem. Soc., 119, 11864 (1997))が、その蛍光変化はかなり小さい。その他には、有機ボロン酸ジエステル化合物をリン酸イオン等のアニオン検出用蛍光プローブとして使用する例(特開2001-133407)が見出される程度である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、リン酸アニオンを高感度に検出することのできる蛍光プローブから成る新規なセンサーを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、研究を重ねた結果、アントラセン等の蛍光性官能基を骨格として有する亜鉛ジピコリルアミン二核錯体型分子が、生理的条件に相応する水溶液中でリン酸アニオンを選択的に捕捉し、これを蛍光変化としてセンシングできることを発見した。
かくして、本発明に従えば、上記の目的を達成し得るものとして、下記の一般式(1)で表わされるリン酸アニオン選択的発蛍光性化合物から成る、リン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサーが提供される。
【0007】
【化3】
JP0004138331B2_000002t.gif【0008】
式(1)中、FLは、芳香環または複素環を有する発蛍光性官能基または原子団を表わし、Xは、水溶液中で脱離してアニオンと成る官能基または原子団を表わす。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の蛍光センサーに用いられるリン酸アニオン選択的発蛍光性化合物は、式(1)で表わされるように、2,2’-ジピコリルアミン(以下、Dpaと略称する)と亜鉛とから構成される亜鉛二核錯体型化合物から成る新しいタイプのアニオン検出用蛍光プローブである。式(1)において、FLで表わされる芳香環または複素環を有する発蛍光性官能基または原子団として好ましい例は、下記の(2)で表わされるものである。
【0010】
【化4】
JP0004138331B2_000003t.gif【0011】
また、式(1)において、Xで表わされ、水溶液中で脱離してアニオンと成る官能基または原子団として好ましい例としては、NO3、ハロゲン原子(特に、塩素または臭素)、ClO4(過塩素酸イオン)などを挙げることができる。
かくして、本発明のリン酸イオンおよびリン酸化ペプチド用蛍光センサーを構成するリン酸アニオン選択的発蛍光性化合物の特に好ましい1例は、下記の式(3)で表わされるものである(以下、式(3)の化合物をZn(Dpa)-9,10-Anth錯体と略称する)。
【0012】
【化5】
JP0004138331B2_000004t.gif【0013】
式(3)の化合物に代表される式(1)の金属錯体は、生体内の条件(生理的条件)に相応する中性pHの水溶液中で、リン酸アニオンの存在下に顕著な蛍光変化を示すリン酸アニオン選択的発蛍光性化合物である。これは、式(1)で表わされる化合物は、水中においてXが脱離してリン酸アニオンと入れ替わることによりリン酸アニオンを選択的に捕捉し、これが蛍光変化として出現することに因るものと考えられる。
かくして、本発明で用いられる式(1)で表わされる発蛍光性化合物は、μMオーダーの濃度を含むきわめて低濃度のリン酸イオンの存在下に明瞭な蛍光変化を示すリン酸イオンの定性および定量分析用高感度センサーとして機能する(後述の実施例2参照)。
【0014】
さらに、式(1)で表わされる発蛍光性化合物は、単離したリン酸イオンのみならず、特定のリン酸化ペプチドに対しても蛍光応答を示す。すなわち、本発明の化合物は、リン酸化アミノ酸(アミノ酸残基)の他に疎水性アミノ酸残基およびアニオン性アミノ酸残基を含むアミノ酸配列から成るペプチドに対して高い親和性を有し、該ペプチドの濃度変化に応じた蛍光変化を示す。これは、芳香環や複素環を持つ本発明の化合物が、一般にトータルで4価の正電荷を有することに因るものと考えられる。このように、式(1)で表わされる亜鉛ジピコリルアミン二核錯体から成る本発明の化合物は、リン酸化ペプチドに対する配列選択的なセンサーとしても機能する(後述の実施例3参照)。
【0015】
式(1)で表わされる発蛍光性化合物は、既知の反応を工夫することにより容易に合成することができる。図1は、本発明で用いられる式(1)の発蛍光性化合物の合成スキームを概示するものである。図1に示すように、発蛍光性官能基または原子団(FL)を有するブロモ体(A)を得ることができれば、これを炭酸カリウムの存在下に2,2’-ジピコリルアミン(B)と反応させることにより、発蛍光性官能基または原子団(FL)を介して2つのDpaが結合した化合物(C)が生成される。発蛍光性化合物となる所望の金属錯体(1)を得るには、この化合物(C)を亜鉛のX塩(ZnX)と混合するだけでよい。すなわち、亜鉛は配位子置換活性であるため、平衡が非常に速いので、適当な緩衝液(例えば、ホウ酸緩衝液)でpHを調整した水溶液中で、合成レセプター分子と亜鉛の塩(例えば硝酸亜鉛)を混合するだけで所望の錯体が形成される。
【0016】
【実施例】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に明らかにするため実施例を示すが、本発明は、これらの実施例によって制限されるものではない。
なお、本明細書および図面中の化学構造式においては、慣用的な表現法に従い、炭素原子や水素原子を省略して示していることもある。また、化学構造式において、破線で示しているのは配位結合である。
【0017】
実施例1:発蛍光性化合物の合成
本発明に従う発蛍光性化合物として、既述の式(3)で表されるZn(Dpa)-9,10-Anth錯体を以下のように合成した。
先ず、ジメチルアントリル基を介して2つのDpaが結合した化合物(図1のCに相当)を次のように合成した:50mLの二口フラスコに、ヨウ化カリウム0.12g、炭酸カリウム1.05g、9,10-ビス(クロロメチル)アントラセン(A)0.50gを入れ、脱気窒素置換した後、ジメチルホルムアミド10mLに溶解した。ジピコリルアミン(B)0.68mLを加えて35度で6時間、45度で一晩加熱攪拌した。不溶物をろ別後、ろ液を減圧留去した。得られた残渣をクロロホルムに溶解し、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。有機相を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、黄土色固体を得た。同定はNMRと元素分析(計算値:C:79.97、H:6.04、N:13.99、実測値:C:79.84、H:6.04、N:13.99)で行った。
次に、以上のようにして得られた化合物45.06mgをメタノールに溶解させ、50mM硝酸亜鉛水溶液3mLを加えて攪拌した。メタノールを減圧留去した後、凍結乾燥を行い黄土色固体として式(3)の化合物を得た。同定は質量分析(分子量計算値:852.75、実測値:852.94)および元素分析(計算値:C:47.31、H:3.97、N:13.79、実測値:C:47.20、H:3.93、N:13.74)で行った。
【0018】
実施例2:アニオン選択性実験
本発明に従う発蛍光性化合物として実施例1のように調製したZn(Dpa)-9,10-Anth錯体を用いて、種々のアニオンの濃度変化に対する蛍光強度変化を測定した。測定したアニオンは、リン酸イオン(phosphate)、酢酸イオン(acetate)、硝酸イオン(nitrate)、硫酸イオン(sulfate)、アジドイオン(azide)、フッ素イオン(fluoride)、塩素イオン(chloride)および臭素イオン(bromide)であり、いずれもナトリウム塩として水溶液中に添加し溶解させた。測定条件は以下のとおりである。
Zn(Dpa)-9,10-Anth錯体濃度=10μM
アニオン濃度=0, 10, 20, 30, 100, 500, 1000, 2000μM(0~200eq.)
水溶液:pH(7.2), 10mM HEPESバッファー
測定温度=20℃
測定セル:1cmセル
励起波長λex=380nm(ex/em=2.5/2.5nm)
測定結果を図2に示す。図に示されるようにリン酸イオン以外のアニオンについては、蛍光強度の変化は殆ど認められない。このように、本発明に従うZn(Dpa)-9,10-Anth錯体は、リン酸アニオンに対して高い選択性を有し、高感度のリン酸アニオン分析用センサーとして機能することが理解される。
【0019】
実施例3:ペプチドに対する配列選択性実験
既述の式(3)のZn(Dpa)-9,10-Anth錯体を用い種々の配列のペプチドに対する蛍光変化を調べ、その選択性を評価した。比較のために、下記の式(4)で表わされるようにZn(Dpa)を1つだけ持つ単核錯体についても同様の実験を行なった(以下、式(4)の化合物をZn(Dpa)-9-Anth錯体と略称する)。
【0020】
【化6】
JP0004138331B2_000005t.gif【0021】
ペプチド合成
図3に示すようなアミノ酸配列を有するペプチドを用いて実験を行なった。各ペプチドは、N末端がアセチル化により保護され且つC末端がアミド型となっており、ペプチド(peptide)1,1’、2および3のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号1,2,3および4として後述の配列表に記すものである。ペプチド1,2および3は、図3のカッコ内に示したキナーゼによりリン酸化されるコンセンサス配列を構成するものである。各配列は、次の特性を有するものとして選択した。
ペプチド1:リン酸化されたアミノ酸(5位のTyr)を有するとともに、疎水性残基を有し、負電荷をもつアミノ酸も存在する。
ペプチド1’:ペプチド1のコントロールペプチドであり、リン酸化されたアミノ酸を有しない。
ペプチド2:リン酸化されたアミノ酸(5位のSer)を有し、疎水性残基を有してはいるが、正電荷をもつアミノ酸が多く存在する。
ペプチド3:リン酸化されたアミノ酸(4位のTyr)を有するとともに、疎水性残基を有し、正電荷・負電化をもつアミノ酸が同じ数存在し、全体的に電荷が中和されている。
【0022】
各ペプチドはペプチド合成機(ABI 433A peptide synthesizer)により自動合成した。アミド樹脂(導入率0.64mmol/g、0.1mmolスケール)に対して4等量のFmocアミノ酸(0.4mmol)を用い、ペプチド合成装置により自動合成した。なお、縮合剤にはHBTUを用い、N末端アミノ酸の脱保護まで行った。自動合成後、得られた樹脂を使い捨てカラムに移し、塩化メチレンでよく洗浄した。その後、塩化メチレン5ml、無水酢酸0.8mlを加え、ボルテックスで攪拌した。反応追跡はカイザーテストにより行い、フリーのアミノ基が完全になくなるまで反応を続けた。反応終了後、塩化メチレンでよく洗浄し、デシケータ中で減圧乾燥した。
得られた樹脂を50mlのナスフラスコに入れ、切り出し・脱保護用試薬(m-クレゾール、チオアニソール、TFA)をそれぞれ必要量(樹脂300mgに対し、m-クレゾール0.06ml、チオアニソール0.36ml、TFA2.58ml)加え、室温で1時間攪拌した。樹脂をろ別し、ろ液を減圧留去した。TBMEを加え、粗ペプチドの沈殿物をろ取し、デシケータ中で減圧乾燥した。得られた粗ペプチドをNMPに溶解させ、HPLCを用いて目的ペプチドのピークを分取した。同定はMALCI-TOF-MSにより行った。
【0023】
ペプチド選択性評価
各ペプチドに対する水溶液中における選択性は蛍光測定により評価した。測定条件は下記のとおりである。
錯体濃度=0.5μM。但し、ペプチド3に対するZn(Dpa)-9,10-Anth錯体の濃度は10μM。
ペプチド濃度=0~10eq.。但し、ペプチド3に対するペプチド濃度は0~5eq.。
測定水溶液:pH(7.2)、50mM HEPESバッファー。
測定セル:1cmセル
励起波長λex=380nm(スリット幅ex/em=5/10nm)。
測定結果を図4に示す。図4に示されるように、Zn(Dpa)-9,10-Anth錯体のみが、リン酸化されたアミノ酸を有するとともに疎水性アミノ酸を有し且つ負電荷をもつアミノ酸が存在するペプチド(ペプチド1)のみに対して高い親和性を有し、そのペプチド濃度の変化に応じて蛍光強度が顕著に変化している。したがって、本発明に従うZn(Dpa)-9,10-Anth錯体は、リン酸化ペプチドの対する配列選択的なセンサーとしても機能することが理解される。
【0024】
【発明の効果】
如上の説明から明らかなように、本発明に従う亜鉛ジピコリルアミン二核錯体は、生体内の条件に相応する水溶液中において、リン酸イオンを検出する高感度の蛍光センサーとして機能し、また、リン酸化ペプチドに対する配列選択的な高感度センサーとしても有用である。したがって、本発明は、生体内の反応機構を解明するための有力な研究手段を提供するとともに、この手段を利用して新しい薬剤、試薬、機能素子等の開発に資するものである。
【0025】
【配列表】
JP0004138331B2_000006t.gifJP0004138331B2_000007t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の蛍光センサーに用いられる亜鉛ジピコリルアミン二核錯体の合成スキームを概示する。
【図2】本発明の蛍光センサーを用いて種々のアニオンの濃度変化に対する蛍光強度変化を測定した1例を示す。
【図3】本発明の蛍光センサーのペプチドに対する配列選択性を調べるのに用いたペプチドのアミノ酸配列を示す。
【図4】本発明の蛍光センサーを用いて種々の配列のペプチドの濃度変化に対する蛍光強度変化を測定した1例を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3