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明細書 :経口用サイトカイン誘導剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4059648号 (P4059648)
公開番号 特開2003-063991 (P2003-063991A)
登録日 平成19年12月28日(2007.12.28)
発行日 平成20年3月12日(2008.3.12)
公開日 平成15年3月5日(2003.3.5)
発明の名称または考案の名称 経口用サイトカイン誘導剤
国際特許分類 A61K  35/74        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A23L   1/30        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61P  31/00        (2006.01)
A61P  31/18        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
A61P  37/04        (2006.01)
A61P  37/08        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI A61K 35/74 B
A61K 37/02
A23L 1/30 ZNAZ
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 31/18
A61P 35/00
A61P 37/02
A61P 37/04
A61P 37/08
A61P 43/00 111
A61P 43/00 117
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2001-257942 (P2001-257942)
出願日 平成13年8月28日(2001.8.28)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2001年2月28日 日本細菌学会発行の「日本細菌学雑誌 Vol.56No.1」に発表
審査請求日 平成15年10月30日(2003.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
発明者または考案者 【氏名】五十君 靜信
【氏名】佐藤 英一
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】今村 玲英子
参考文献・文献 国際公開第01/021200(WO,A1)
特開平10-117783(JP,A)
特開平09-289896(JP,A)
特開平09-124496(JP,A)
Xiong, H. et al.,Immunology ,1998年,Vol.94, No.1,pp.14-21
調査した分野 A61K35/66-35/74
A61K45/00
特許請求の範囲 【請求項1】
表面にリステリア溶血素を担持するラクトバチルス・カゼイの菌体を含有することを特徴とする、感染症、自己免疫疾患、炎症及び腫瘍から選ばれるいずれかの疾患の経口用予防・治療剤。
【請求項2】
表面にリステリア溶血素を担持するラクトバチルス・カゼイの菌体が、表面にリステリア溶血素を融合タンパク質として発現させたラクトバチルス・カゼイの菌体であることを特徴とする請求項1記載の経口用予防・治療剤。
【請求項3】
融合タンパク質が、シグナル配列とリステリア溶血素遺伝子と膜アンカー配列とを順次結合したDNAの発現産物であることを特徴とする請求項2記載の経口用予防・治療剤。
【請求項4】
請求項1~のいずれか記載の経口用予防・治療剤を有効成分として含有することを特徴とする、感染症、自己免疫疾患、炎症及び腫瘍から選ばれるいずれかの疾患の予防・治療用の機能性食品素材又は食品。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、経口用インターフェロン-γ(IFN-γ)誘導剤等の経口用サイトカイン誘導剤に関し、より詳細には、表面にリステリア溶血素等のサイトカイン誘導物質を担持する乳酸菌等の微生物菌体を含有する経口用サイトカイン誘導剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
インターフェロン(IFN)は、ウイルス感染細胞が産生しウイルス感染細胞を抵抗性にする物質として独自に発見され、B型およびC型肝炎治療剤、あるいは癌免疫療法剤として実用化されている。IFNは程度の差はあるものの種々のウイルスに対し抗ウイルス作用を示すが、それが産生されたのと同種の細胞においてのみ有効であること、また対象疾患により長期治療が必要であること、IFNは分子量2万前後の糖蛋白であり、経口投与や胃内投与によってはほとんど吸収されないことなどから、経口投与可能なIFN誘導剤が求められていた。これまでIFN誘導剤として、二本鎖核酸、ポリI:ポリC、ポリカルボキシレートなどの高分子ポリマーあるいはフルオレイン類やピリミジノン類などの低分子化合物が報告されている。しかし、これらは安全性に問題があり、また経口投与ではIFN誘導効果が低いなどの欠点があり治療にはほとんど使われていなかった。
【0003】
また、種々の任意の有用タンパク質を菌体表面に固定化するため、 ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis) NCDO763株由来の 763プロテアーゼのアンカー配列をコードする遺伝子配列と、目的とするタンパク質をコードする遺伝子配列とを繋いだ融合遺伝子配列を得る工程と、前記融合遺伝子配列を宿主菌内に導入する工程と、前記融合遺伝子配列が導入された宿主菌を培養して前記目的とするタンパク質を菌体表面に固定化する工程とを備えた菌体表面へのタンパク質の固定化方法(特開平10-117783号公報)や、抗原に対する免疫反応を効果的に増強するため、1)コラーゲン、ゼラチン、フィブリン、アルブミン、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、アルギン酸、ペクチン、アガロースまたはアラビアゴム、2)グリコール酸、乳酸もしくはアミノ酸の重合体またはこれらの二以上の共重合体、並びに3)ハイドロキシアパタイト、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはポリ塩化ビニルからなる群から選ばれる生体親和性材料からなる担体に、抗原または抗原誘導物質を担持させ、所望によりさらに免疫調節物質またはその他の添加物を含む組成物からなる免疫増強製剤(特開平11-193246号公報)や、アスコルビン酸と、乳酸菌や3-O-α-D-グルコピラノシル-D-グルコースを構成単位として含有する糖類などの他の免疫賦活物質を併用することにより、免疫賦活効果を相乗的に増強した医薬品、医薬部外品、食品、飼料または化粧料用の製剤(特開2001-64174号公報)が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
細胞から放出され、細胞間の相互作用を媒介するタンパク質性因子として知られるサイトカインは、その免疫応答の制御作用、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖・分化の調節作用等により、種々の疾病の治療に用いられている。そして、多くの場合、サイトカイン自体を投与する治療法が行われているが、骨髄抑制、胃腸障害、心機能障害や脱毛といった副作用を伴い、治療を受ける患者にとって大きな負担となっている。例えば、IFNは夢の抗ウイルス薬として注目されていたが、精製したIFN-γ及びその誘導剤は、経口的投与では充分な効果が期待できなかった。本発明の課題は、経口投与により生体にIFN-γ等のサイトカインの産生を促進することができ、感染症、自己免疫疾患、炎症、腫瘍などの各種疾患の治療に有用な経口用サイトカイン誘導剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、乳酸菌菌体表層にリステリア溶血素やサルモネラの鞭毛タンパク質フラジェリンを膜アンカー配列により固定して発現させることにより、腸管のM細胞あるいは上皮細胞を介して、免疫系に認識されやすくなり、効果的なIFN-γ誘導能やインターロイキン-8(IL-8)誘導能が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、(1)表面にリステリア溶血素を担持するラクトバチルス・カゼイの菌体を含有することを特徴とする、感染症、自己免疫疾患、炎症及び腫瘍から選ばれるいずれかの疾患の経口用予防・治療剤や、(2)表面にリステリア溶血素を担持するラクトバチルス・カゼイの菌体が、表面にリステリア溶血素を融合タンパク質として発現させたラクトバチルス・カゼイの菌体であることを特徴とする上記(1)記載の経口用予防・治療剤や、(3)融合タンパク質が、シグナル配列とリステリア溶血素遺伝子と膜アンカー配列とを順次結合したDNAの発現産物であることを特徴とする上記(2)記載の経口用予防・治療剤に関する。
【0007】
また本発明は、()上記(1)~()のいずれか記載の経口用予防・治療剤を有効成分として含有することを特徴とする、感染症、自己免疫疾患、炎症及び腫瘍から選ばれるいずれかの疾患の予防・治療用の機能性食品素材又は食品に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の経口用サイトカイン誘導剤としては、その表面にサイトカイン誘導物質を担持する微生物菌体を含有するものであればどのようなものでもよく、本発明の経口用サイトカイン誘導剤の経口投与により生体内で誘導されるサイトカインとしては、IFN-γ、IFN-β、IFN-α等のインターフェロン類や、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18等のインターロイキン類や、TNF-β、TNF-α等の腫瘍壊死因子類や、GM-CSF、G-CSF、M-CSF等のコロニー刺激因子類や、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、神経増殖因子ファミリー(NGF)、brain-derived neurotrophic factor(BDNF)、ciliary neurotrophic factor(CNTF)、オンコスタチンM(OSM)、肝細胞増殖因子(IIGF)等の増殖因子の他、エリスロポイエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、ステムセルファクター(SCF)、白血病阻害因子(LIF)、プロラクチンホルモンなどを例示することができる。これらサイトカインの誘導は、サイトカイン誘導物質を担持(固定化)した微生物菌体が経口投与により腸管に送られ、腸管のMセルあるいは上皮細胞に作用することによって生起すると考えられる。
【0009】
また、上記サイトカイン誘導物質としては、サイトカインの内因性放出又は産生を誘導しうる物質であれば特に制限されるものではなく、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)由来のリステリア溶血素、LPS(リポポリサッカライド)等のエンドトキシン、サルモネラの鞭毛タンパク質フラジェリン、百日ぜきワクチン、ジフテリアワクチン、リポテイコ酸等の菌体成分、コンカナバリンA、レンズ豆レクチン、アメリカヤマゴボウレクチン等のTリンパ球刺激レクチン、MDP(ムラミルジペプチド)、免疫担当細胞においてIFN-γの産生を誘導するヒト細胞由来の蛋白質(特開平09-289896号公報参照)、4-アミノ-2-エトキシメチル-α,α-ジメチル-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン-1-エタノール等の化合物などを例示することができる。
【0010】
本発明において、微生物菌体の表面にサイトカイン誘導物質を担持(固定)させる方法としては特に制限されず、例えば、菌体表面上にサイトカイン誘導物質を融合タンパク質として発現させる方法や、菌体表面に存在する種々のタイプのレセプターと特異的親和性を有する物質にサイトカイン誘導物質を結合させる方法や、合成高分子を用いて菌体表面に固定する方法等を挙げることができるが、サイトカイン誘導物質が、上記リステリア溶血素や鞭毛タンパク質フラジェリン等のタンパク質などから構成されている場合、特に上記菌体表面上にサイトカイン誘導物質を融合タンパク質として発現させる方法が、タンパク性サイトカイン誘導物質を菌体表面上に安定して担持(固定)させることができるので好ましい。
【0011】
上記の微生物菌体表面上にサイトカイン誘導物質を融合タンパク質として発現させる方法としては、上記特開平10-117783号公報や特表平10-508207号公報に記載された公知の方法も含め特に制限されるものではないが、菌体での発現量を制御するプロモーターと、生産されたタンパク性サイトカイン誘導物質が菌の細胞膜を通過するのを助けるシグナル配列と、タンパク性のサイトカイン誘導物質の遺伝子と、菌体膜結合性のある疎水性リンカーをコードする膜アンカー配列とが順次結合されたDNA(融合遺伝子配列)を組み込んだベクターで微生物を形質転換する方法を挙げることができる。そして、融合遺伝子配列を組み込んだベクターの構築、かかるベクターの微生物菌体への導入、形質転換微生物の培養等は、この分野の常法により行うことができる。
【0012】
本発明においては、上記タンパク性のサイトカイン誘導物質の遺伝子DNAを構成する塩基配列の一部に、欠失、置換、付加等の変異処理を施した変異サイトカイン誘導物質遺伝子を用いたり、遺伝的に変異しているサイトカイン誘導物質遺伝子を用いて、その構成アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、サイトカイン誘導能を調節することができる融合タンパク質を使用することもできる。かかる融合タンパク質を用いることにより、ヒトも含め動物におけるサイトカイン誘導能を調節することが可能になる。
【0013】
本発明の経口用サイトカイン誘導剤の調製に用いられる微生物としては、特に制限されるものではないが、腸管のMセルあるいは上皮細胞に作用してサイトカインの誘導を効率よく惹起させる微生物や、ヒトや動物にとって無害な微生物が好ましく、中でも、その菌体表面上にサイトカイン誘導物質を融合タンパク質として発現させることができる微生物が好ましい。かかる微生物としては、従来から食品原料として摂食され、その安全性が確認されている乳酸菌、パン酵母(サッカロミセス・セルビシェ)、納豆菌(バチルス・ズブチリス)を好ましく例示することができるが、サイトカイン誘導能や類縁菌が腸管内で正常菌叢を形成しているという点で乳酸菌が好ましい。
【0014】
上記乳酸菌としては、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ビフィドバクテリウム属、ストレプトコッカス属、ペディオコッカス属、ロイコノストック属等に属する乳酸菌を挙げることができるが、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)等のTh1誘発型乳酸菌株が、サイトカイン誘導能やヒトにおける長期にわたる安全な食経験のある点で好ましい。Th1誘発型乳酸菌株は、ヘルパーT細胞クローンであるTh1を誘発することから、Th1が分泌するIL-2、IFN-γ、TNF-β等のサイトカインを誘導する上で有利に用いることができる。また、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)等のTh2誘発型乳酸菌株は、Th2が分泌するIL-4等のサイトカインを誘導する上で有利に用いることができる。
【0015】
本発明の内因性サイトカインの産生を必要とする疾病の予防・治療薬としては、経口用IFN-γ誘導剤等の本発明の経口用サイトカイン誘導剤を有効成分として含有するものであれば医薬品、医薬部外品等どのようなものでもよく、内因性サイトカインの産生を必要とする疾病としては、C型肝炎、インフルエンザなどのウイルスや、リステリア菌などの細胞内寄生細菌などの微生物による感染症や、上皮性悪性腫瘍等の各種悪性腫瘍の他、自己免疫疾患、炎症などを挙げることができる。本発明の内因性サイトカインの産生を必要とする疾病の予防・治療薬は、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤等通常、その使用目的に応じた製剤形態で使用することができ、製剤化に際しては、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤などの各種調剤用配合成分を添加することができる。また、上記本発明の予防・治療薬の投与量は、患者の年齢、性別、その他の条件、疾患の程度などに応じて適宜決定できる。
【0016】
本発明の内因性サイトカインの産生を必要とする疾病の予防・治療用の機能性食品素材又は食品としては、経口用IFN-γ誘導剤等の本発明の経口用サイトカイン誘導剤を有効成分として含有する食品や食品素材であればどのようなものでもよく、本発明の経口用サイトカイン誘導剤を食品素材又は食品に添加・配合することにより調製することができる。上記食品素材又は食品としては、チーズ、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜をあげることができる。
【0017】
本発明のサイトカインの誘導方法としては、本発明の経口用サイトカイン誘導剤を、ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、ニワトリ等の動物に経口投与し、生体内にサイトカインを誘導する方法であれば特に制限されるものではないが、特に、本発明のサイトカインの誘導方法により、内因性IFN-γの産生を誘導すると、かかるIFN-γによりヘルパーT細胞の機能をTh1型に傾けるために、Th1型免疫機能低下の改善に有効であり、例えば、腫瘍により誘導される免疫抑制状態や抗癌剤治療により誘導される免疫機能低下からの回復や、エイズの発症予防や、I型アレルギーの予防・治療や、ストレス、加齢に伴う免疫機能低下の抑制等、種々の生体機能調節、各種疾患に対する抵抗性の向上に有効である。
【0018】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1(経口投与による血中IFN-γの誘導)
1-1(リステリア溶血素遺伝子及びその関連遺伝子の調製)
IFN-γ誘導物質として、リステリア溶血素であるリステリオリジンO(LLO)を用いた。LLO遺伝子の供給源としては、産生LLOが溶血活性を有するリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)Y7株や産生LLOが変異して溶血活性を示さないリステリア・モノサイトゲネスBUG株を用いてLLO遺伝子やその関連遺伝子を調製した。まず、リステリア・モノサイトゲネスY7株から常法により染色体DNAを調製し、この染色体DNAを鋳型にして、配列番号1で表される塩基配列からなるセンスプライマーと配列番号2で表される塩基配列からなるアンチセンスプライマーを用いてPCRを行い、DNAを増幅し、全長約1500bpの配列番号3に示されるLLO全長遺伝子(Y7)を調製した。同様に、リステリア・モノサイトゲネスBUG株の染色体DNAから、配列番号1で表される塩基配列からなるセンスプライマーと配列番号2で表される塩基配列からなるアンチセンスプライマーを用いて、全長約1500bpの配列番号4に示される変異LLO遺伝子(BUG)を調製した。なおPCRは、94℃60秒、45℃60秒、72℃120秒を1サイクルとし、これを30回繰返す条件により行った。
【0019】
1-2(膜表面アンカーリング発現ベクターと分泌型発現ベクターの構築)
上記LLO全長遺伝子(Y7)、変異LLO遺伝子(BUG)を、オランダTNOのリアー博士らの開発した膜表面アンカーリングプラスミドベクターpLPシリーズに組み込み、膜表面アンカーリング発現ベクターを構築した。この膜表面アンカーリングプラスミドベクターpLPM11は、ラクトバチルス・アミロフォラス(Lactobacillus amylovorus)のα-アミラーゼ遺伝子由来のプロモーター(Pamy)とシグナル配列(SS)と、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)のプロテアーゼP由来のアンカー配列(Anchor)と、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)のcbh由来のターミネーター配列(Tcbh)を有している。LLO関連遺伝子を制限酵素BamHI及びSal Iを用いて、SSとAnchorとの連結部に存する制限酵素BamHI及びSal I切断部位に挿入した。かかるLLO関連遺伝子が組み込まれた膜表面アンカーリング発現ベクターの融合タンパク発現ユニットの模式図を図1として示す。また、膜表面アンカーリングプラスミドベクターpLPM11からアンカー配列(Anchor)を除去した分泌型プラスミドベクターにも、同様にそれぞれLLO全長遺伝子(Y7)、変異LLO遺伝子(BUG)を組み込み、分泌型発現ベクターを構築した。
【0020】
1-3(経口用IFN-γ誘導剤の調製)
宿主乳酸菌として、ラクトバチルス・カゼイATCC393株を用い、上記構築した膜表面アンカーリング発現ベクターと分泌型発現ベクターをエレクトロポレーション法により導入した。次に、ウエスタンブロット、溶血テスト及びフローサイトメトリー解析により、それぞれ目的の膜表面アンカーリング発現ベクターや分泌型発現ベクターが導入された形質転換体を選別し、経口用IFN-γ誘導剤を含む各種形質転換乳酸菌を調製した。
【0021】
1-4(羊赤血球を用いた溶血テスト)
LLO全長遺伝子(Y7)を菌体表面に発現させた乳酸菌(AnchorY7)と、変異LLO遺伝子(BUG)を菌体表面に発現させた乳酸菌(AnchorBUG)と、溶血活性を有するLLOを菌体から分泌するタイプの乳酸菌(Y7)と、溶血活性を示さない変異LLOを菌体から分泌するタイプの乳酸菌(BUG)の、それぞれ培養上清と洗浄菌体浮遊液を用いて、羊赤血球を用いた溶血アッセイを行った。溶血アッセイは、96穴V字プレートに供試検体100μlを取り、最終濃度が1%となるように羊血球を加え、20分後に溶血を観察した。結果を図2に示す。図2に示される溶菌像は、LLOとして溶血活性のあるY7を組み込んだ分泌型、菌体表層結合型の組換え体及びアンカーのみの陰性コントロールの培養上清、洗浄菌体浮遊液共に、上から原液、2倍希釈、4倍希釈、8倍希釈、16倍希釈したサンプルを示す。また、BUGを組み込んだものは、いずれも溶菌活性がみられなかった。
【0022】
1-5(経口投与による血中IFN-γの誘導)
上記各種形質転換乳酸菌を8週齢雄のC57BL/6Crマウス(各々n=3~5)に、5×108CFU/マウスで各週毎3回、ゾンデを用いて胃内投与した。また、対照としてアンカーのみを発現した乳酸菌(NC)や、比較のため溶血活性を有する精製LLOも相当量を胃内投与した。最終投与2週間後に全採血し、血中に誘導されたIFN-γをマウスIFN-γELISAキットEM-1001 (ENDOGEN社)を用いて定量した。結果の一部を図3に示す。溶血活性をもつLLO全長遺伝子(Y7)を菌体表面に発現させた乳酸菌(Y7+A)投与群のマウスには血中IFN-γの誘導が有意に認められたが、溶血活性のない変異LLO遺伝子(BUG)を菌体表面に発現させた乳酸菌(BUG+A)投与群のマウスには血中IFN-γの僅かな上昇が認められたに過ぎず、対照として膜表面アンカーのみを発現した乳酸菌(NC)投与群のマウスにおいては、血中IFN-γの誘導は認められなかった。溶血活性を有する精製LLO投与群のマウスでは5頭中、1頭にのみ弱いIFN-γ誘導がみられた。
【0023】
実施例2(腸管モデルにおけるIL-8の誘導)
2-1(サルモネラの鞭毛タンパク質フラジェリン遺伝子の調製)
IL-8は、1987年に松島らによって単球由来の好中球走化性因子(MDNCF)として精製され(Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 84, 9233, 1987)、炎症反応の際に炎症局所で産生されるサイトカインであり、かかるIL-8の誘導物質として、サルモネラの鞭毛タンパク質であるフラジェリンを用いた。フラジェリン遺伝子の供給源としては、エンテリティディス菌(Salmonella enteritidis)#40株を用いた。まず、上記エンテリティディス菌から常法により染色体DNAを調製し、この染色体DNAを鋳型にして、配列番号5で表される塩基配列からなるセンスプライマーと配列番号6で表される塩基配列からなるアンチセンスプライマーを用いてPCRを行い、DNAを増幅し、配列番号7で表されるフラジェリン遺伝子を調製した。なおPCRは、94℃30秒、55℃60秒、72℃120秒を1サイクルとし、これを25回繰返す条件により行った。
【0024】
2-2(形質転換乳酸菌の調製)
上記調製したフラジェリン遺伝子を、制限酵素BamHI及びSal Iを用いて、実施例1記載の膜表面アンカーリングプラスミドベクターのSSとAnchorとの連結部に存する制限酵素BamHI及びSal I切断部位に挿入した。ネガティブコントロールとしての膜表面アンカーリングプラスミドベクターpLPM11を、エレクトロポレーション法により宿主乳酸菌としてのラクトバチルス・カゼイATCC393株に導入した。ウエスタンブロット及びフローサイトメトリー解析により、フラジェリンタンパクの菌体表層への発現を確認し、経口用IL-8誘導剤としての形質転換乳酸菌を調製した。
【0025】
2-3(腸管モデルにおけるIL-8の誘導)
10%牛胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、24穴スミロンセルタイトC-1プレート(住友ベークライト社製)でCaco-2細胞(ATCC HTB-37)を2×105細胞/wellとなるように培養し、37℃、5%CO2条件下で約10日間培養して、形態的及び機能的に小腸様の単層の細胞層となるよう分化させた。上記の形質転換乳酸菌を抗生物質不含のDMEMで2×107CFU/well(MOI 100)で加え、4℃1時間で菌を細胞に付着させ、37℃一晩インキュベートした後、培養液中に産生されたIL-8を測定した。培養液中のIL-8は、Human Interleukin-8 ELISAキットEH2-IL8 (ENDOGEN社)を用いて定量した(n=3)。結果を図4に示す。フラジェリン遺伝子を菌体表面に発現させた乳酸菌投与群(fliC+A)の腸管モデルにはIL-8の誘導が有意に認められたが、対照とした膜表面アンカーリングプラスミドベクターのみを導入した乳酸菌投与群(Anchor)及び培地群(DMEM)では、IL-8の産生は微量であった。
【0026】
【発明の効果】
本発明によると、経口投与により、免疫反応で重要な役割をするIFN-γ、IL-8等のサイトカインの生体内での産生を促進することができ、感染症、自己免疫疾患、炎症、腫瘍など多くの疾患の治療と予防を容易にすることが可能となる。
【0027】
【配列表】
JP0004059648B2_000002t.gifJP0004059648B2_000003t.gifJP0004059648B2_000004t.gifJP0004059648B2_000005t.gifJP0004059648B2_000006t.gifJP0004059648B2_000007t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のLLO遺伝子が組み込まれた膜表面アンカーリング発現ベクターの融合タンパク発現ユニットの模式図である。
【図2】本発明の経口用IFN-γ誘導剤の発現方式の模式図とその溶血テストの結果を示す図である。
【図3】本発明の経口用IFN-γ誘導剤をマウスに胃内投与した場合における血中IFN-γの誘導の結果を示す図である。
【図4】本発明の経口用IL-8誘導剤を腸管モデルに投与した場合におけるIL-8の誘導の結果を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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