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明細書 :陽電子を用いた材料評価装置および評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3585789号 (P3585789)
公開番号 特開2001-116706 (P2001-116706A)
登録日 平成16年8月13日(2004.8.13)
発行日 平成16年11月4日(2004.11.4)
公開日 平成13年4月27日(2001.4.27)
発明の名称または考案の名称 陽電子を用いた材料評価装置および評価方法
国際特許分類 G01N 23/22      
FI G01N 23/22
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願平11-300700 (P1999-300700)
出願日 平成11年10月22日(1999.10.22)
審査請求日 平成13年7月23日(2001.7.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人 科学技術振興機構
【識別番号】599149278
【氏名又は名称】白井 泰治
【識別番号】592244376
【氏名又は名称】住友金属テクノロジー株式会社
発明者または考案者 【氏名】白井 泰治
【氏名】荒木 秀樹
【氏名】吉田 政司
個別代理人の代理人 【識別番号】100083585、【弁理士】、【氏名又は名称】穂上 照忠
【識別番号】100083585、【弁理士】、【氏名又は名称】穂上 照忠
【識別番号】100103481、【弁理士】、【氏名又は名称】森 道雄
審査官 【審査官】▲高▼場 正光
参考文献・文献 特開昭61-114454(JP,A)
柚賀正雄 他3名,“APDによる陽電子検出と材料研究への応用”,KURRI-KR,1998年,No.22,pp.79-81
調査した分野 G01N23/00-23/227
H01J37/00-37/36
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
陽電子線源、電磁レンズ、陽電子検出器、およびγ線測定器を有する陽電子を被測定材料に入射し、入射後陽電子の寿命および放出γ線を測定する装置であって、電磁レンズを間において、陽電子線源、電磁レンズおよび被測定材料がその順に同一軸上に配置されていること、陽電子線源と電磁レンズとの距離を前記軸上にて任意に変えて固定できる機構を有すること、および少なくとも陽電子線源から被測定材料までの陽電子飛翔経路は真空に保持できること、を特徴とする材料評価装置。
【請求項2】
陽電子線源の中心位置が、電磁レンズおよび被測定材料のそれぞれの中心位置を結ぶ軸上の、被測定材料とは反対側で電磁レンズの磁場の外にあり、電磁レンズ磁場の上端から電磁レンズの有効口径の1.5倍の距離までの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の材料評価装置。
【請求項3】
陽電子の検出器が、アバランチェフォトダイオードであることを特徴とする請求項1または2に記載の材料評価装置。
【請求項4】
陽電子の飛翔経路は1×10-4Torr以下の圧力に保持されていることを特徴とする、請求項1、2または3に記載の材料評価装置。
【請求項5】
陽電子検出器と、被測定材料との間にさらにもう一つの電磁レンズが配置されていることを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の材料評価装置。
【請求項6】
被測定材料を真空中にて加熱または冷却する器具を備えていることを特徴とする請求項1、2,3、4または5に記載の材料評価装置。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6に記載の装置を用いて材料に入射された陽電子の寿命、もしくは放出γ線、またはその両者を測定することを特徴とする材料評価の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、β壊変型放射性同位体を線源として得られた陽電子を材料に入射し、その寿命を計測したり、発生するγ線を計測することにより、金属、半導体、化合物等の材料中の、主として空孔、空孔集合体、転位など結晶の欠陥情報を検知し評価するのに用いる装置、および方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の高度かつ精密な技術の進展に伴い、様々な分野において用いる材料に対する要求はますます厳しくなり、不純物がきわめて少なく、その上、内在する欠陥も極度に低減された材料が強く要望されるようになっている。たとえば、超高密度集積回路(超LSI)などの基板に用いられるシリコンでは、回路の安定動作のため、テンナイン%以上の超高純度であって、しかも転位は皆無で空孔や空孔集合体のようなわずかな欠陥、すなわち結晶学的微少欠陥も可能な限り少ない単結晶が要求される。また、金属の高温強度、疲労強度、破壊強度など、極限状態で使用される場合の強度に対し、わずかな欠陥すなわち転位ばかりでなく空孔や空孔集合体のような結晶学的微少欠陥も、大きな影響を及ぼしてくる。このような、材料中に存在する原子空孔、空孔集合体、あるいは転位のような結晶格子の欠陥の種類や量などを、きわめて敏感に検出する方法に陽電子寿命を測定したり、陽電子の消滅する際に発生するγ線を計測評価する方法がある。
【0003】
陽電子とは、電子と同じ質量を有し、電子と全く同じ絶対値のプラスの電荷を持った素粒子の一つであり、特定の放射性同位元素の崩壊過程で発生する。この陽電子(β)は、金属など材料の中に入射すると短時間で入射の運動エネルギーをなくし、その後の挙動は通常の電子と同じ熱運動となる。金属、半導体、化合物等の材料は、プラスの電荷を有する核の周りにマイナスの電荷を持つ電子が取り囲んだ構造である、原子の集合体からできており、これらの材料の多くは、その集合体を構成する原子が、3次元空間に規則正しく立体的な格子状配列をした結晶体の形態を取っている。たとえば金属などの結晶では、プラスの電荷を持つイオンの配列からできているので、その中に入った陽電子は、イオンとは同符号同志のため反発しあって結晶格子間に広がり、動き回っている電導電子などと衝突し合体して消滅する。
【0004】
しかし、空孔や転位など原子の不足した結晶格子の欠陥は、相対的にマイナスに帯電しているので、プラスの陽電子はその部分にまず捕獲され、やがては電子と衝突して合体消滅する。この陽電子が電子と衝突して合体消滅するとき、エネルギーが511keVの、方向がほぼ正反対の2本のγ線を放出する。陽電子が材料に入射してから、電子と衝突して消滅するまでの時間は、欠陥のない部分にある場合と、欠陥に捉えられた場合とでは異なり、欠陥の形によっても異なる。そこで、陽電子の入射より消滅までの時間変化を解析すれば、欠陥の状態を把握することができるのである。また、陽電子と電子との衝突消滅から発生するγ線は、電子の運動によるドップラー効果で波長のずれを生じ、さらに正反対の方向に放出されるγ線の相対角度も、その電子の持つ運動量によってずれを生じる。これらを解析することにより、さらに詳しく欠陥の情報を知ることができ、材料の状態をより精密に評価できる。
【0005】
陽電子は、前述のようにβ壊変型放射性同位体の崩壊過程で発生する。そこで一般的には、線源としてこの放射性同位体を用い、線源と被測定材とを密着させて計測される。たとえば、22Naは半減期が長く、入手しやすく取り扱いが容易で、NaClなどの形をしていて化学的にも安定であり、通常Ni箔などのカプセルに封入されて線源として使用される。この22Naはβ崩壊の際、1.28MeVのγ線を放出するので、線源を被測定材料にて挟む形にして密着させておき、シンチレーションカウンターなどの検出器を用意して、1.28MeVのγ線を感知後、511keVのγ線線が検出されるまでの時間を計測する。すなわち、線源と材料との距離がきわめて近いので、1.28MeVのγ線が放出された時が陽電子の材料に入射したスタート時刻であり、511keVのγ線が検出された時が、陽電子の消滅した時刻とすることができる。このようにして、両者の時間差を測定して陽電子寿命スペクトルを得、結晶の欠陥を評価するのである。
【0006】
しかしながら、試料を加熱や冷却して状態を変えたい場合とか、あるいは異形形状の試料などには、線源に被測定試料を密着させる方法では限界があり、自由に計測を実施することが困難である。
【0007】
これに対して、本発明者らの一人は、陽電子線源と被測定材料とを離して配置し、線源と被測定材料の間に薄いプラスチックシンチレータを置き、そこを陽電子が通過するのを検出して、材料への陽電子の入射時刻を知る方法を提案している。金属の場合、陽電子が入射してから消滅するまでの時間は、100~300ps(ピコ秒:10-12秒)程度である。このような短時間の計測であるため、線源にて発生した陽電子が空間を飛翔して被測定材料に入射するまでに要する時間も測定誤差を大きくするので、電磁レンズで特定のエネルギの陽電子を選別する。前述の線源と被測定材料とを密着させた場合は、線源のγ線と被測定材料からのγ線を計測するので、γ-γ計測法と呼ぶこととすれば、この方法は直接陽電子βを検出してスタート時刻とするので、以下この方法をβ-γ計測法と言うこととする。
【0008】
このように、線源と被測定材料とを離して配置すると、S/N比が劣ることや、陽電子がシンチレータから被測定材料まで飛翔するときの時間差によると考えられる分解能低下等の問題がある。そこで、放出された陽電子を、質量分析に用いるものと同様な平行に置かれたセクター型磁極の間を通過させたり、電磁レンズを通過させたりして、特定範囲のエネルギーを持つ陽電子のみを分別し、収束してから入射させる等の改善をおこない、これらの問題の解決をはかっている(白井泰治他:日本金属学会誌,第59巻第6号(1995),p.679、および白井泰治:生産と技術,第48巻第4号(1996),p.50)。このβ-γ計測法によれば、試料と線源を分離できるので、被測定材料を加熱、あるいは冷却した状態で計測することや、異形形状の材料を計測することが可能になり、さらにスタート信号の検出効率が高くなる。
【0009】
しかし、この線源と被測定材料とを大きく離して配置するβ-γ計測法は、線源で発生した陽電子数に対し、試料に入射する陽電子の数がγ-γ計測法に比してきわめて少なくなるという難点がある。このため同じ線源を用いれば、計測時間が大幅に増大し、入射陽電子数を増そうと思えば、高強度の放射性同位体の線源が必要となり、安全性の問題も生じてくる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、陽電子を材料に入射してその寿命および発生γ線を計測する装置において、線源と被測定材料とを隔離して設置しても、より多くの陽電子を被測定材料に入射でき、それによって被測定試料の加熱や冷却も可能で、種々の計測が容易にできる装置、およびその計測方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、従来おこなわれてきたγ-γ計測法に比して、多くの利点のあるβ-γ計測法の最大の難点である計測時間の大幅増大を改善するための検討をおこなった、
前述のようにβ-γ計測法では、線源と被測定材料とを離し、その間に陽電子検出のためのシンチレータを配置するが、分解能向上のため陽電子線のエネルギー選別を目的に電磁レンズを用いている。そこでこの電磁レンズをエネルギー選別だけでなく陽電子線の集束にも活用して、被測定材料へ入射される陽電子の数を増すことを検討した。
【0012】
電磁レンズは電子顕微鏡などで、電子線の集束に使われるが、この場合、スリットなどで平行にされた電子の流れを対象にしており、加速電圧は任意に選定できる。これに対し、陽電子の線源は放射性同位体を用いるので、そこからは全方向に均等に陽電子が放出されている。この全方位に放出される陽電子を少しでも多く集束し被測定材料方向へ向く数を増すためには、取り込む陽電子数を多くできるよう電磁レンズの口径を大きくする必要がある。
【0013】
また陽電子線の材料への入射深さを変えるには、加速電圧すなわち放射エネルギを変える必要があるが、そのためには線源を変えなければならない。しかし、線源にはβ壊変型放射性同位体を用いるので、陽電子線の放射エネルギの選択は限られる。たとえば、よく用いられる22Naでは、陽電子が350keVに中心を持つエネルギ分布をしており、68Geでは800keVである。これら2種の陽電子線を同様に集束しようとすれば、レンズの磁場強さを大きく変えなければならない。しかし、電磁レンズの口径が大きくなると、磁場を強くするには強力な励磁が必要であり、そのためにはコストが嵩むので、適用する磁場の強さには限界がある。このため、線源を変えた場合、それに見合う磁場強さを選定するのは必ずしも容易ではない。
【0014】
そこで、一定の口径の電磁レンズを用いて、レンズの磁場強さは変えずに放射エネルギの異なる線源に適応させ、しかもできるだけ多くの陽電子を被測定材料に入射できる手段を、飛翔する陽電子軌道のシミュレーション計算で推測してみた。その結果、線源から全方位に放出される陽電子に対しては、レンズと線源との距離を変えることにより、被測定材料に入射する陽電子数を最大にできる位置のあることがわかった。すなわち線源に応じて電磁レンズとの距離を変えられるようにしておけばよい。また、レンズと線源の位置を調整することによって、被測定材料などに対する陽電子線の集束する焦点位置を変えることもできる。
【0015】
電磁レンズに対し線源の位置は、線源の中心がレンズの磁場の中に入っても集束される陽電子数を増すことができる。しかし、線源をレンズの磁場の中に入れると、被測定材料に向けて放出される陽電子に加わる有効な磁場の長さが減少するので、より強力な磁場が必要となる。ことに陽電子線の放射エネルギの大きい線源を有効に適用しようとすれば、磁場強さを大幅に増さねばならない。
【0016】
これに対し、線源をレンズの磁場の外に置けば、集束できる陽電子の数は多少劣るかもしれないが、レンズの磁場を強くすることなく集束が可能である。このように、磁場強さを変えることなく被測定材料に入射する陽電子数を増すことができるので、電流によって磁場強さを変える電磁石ではなく、永久磁石によって電磁レンズを構成してもよい。
【0017】
線源と被測定材料とを離して配置した場合、発生した陽電子が空間を長距離飛翔して被測定材料に入射することになるが、陽電子は電荷の符号が異なるだけで、電子と同じ質量を持った粒子と考えられる。電子顕微鏡ばかりでなく、電子ビーム機器やブラウン管、古くは真空管など、電子線を取り扱う場合は、電子が気体分子と衝突して散乱したり、その飛翔エネルギーを失ったりすることをできるだけ少なくするため、通常10-4Torr以下の真空にされる。そこでこの陽電子を入射させる場合も、線源と被測定材料との間の空間を電子取り扱い機器と同様な高真空にしてみた。その結果、感度が向上し、電磁レンズによるエネルギ分別効果も相まって、S/N比が大きく改善されることが明らかになった。
【0018】
β-γ計測法では、被測定材料に接近した位置において通過する陽電子を検出し、スタート時点とする。この陽電子の検出には、できるだけ薄くしたプラスチックシンチレータを当初使用していた。しかし、500μm程度まで薄くしても陽電子のエネルギの20%近い損失を避けられず、これ以上薄くすることは、検出感度の低下から困難であった。このエネルギ損失は、測定時間を増すばかりでなく、被測定材料への注入深さを浅くする。そこで、透過によるエネルギ損失をできるだけ少なくでき、かつ高感度という点から、半導体受光素子のアバランチェフォトダイオード(なだれダイオード:APD)の利用を検討した。アバランチェフォトダイオードは、光通信用の受光用として用いられる、きわめて高感度の素子である。P型のシリコン基板にエピタキシャル成長させた高抵抗層(π層)上に、アバランチェ領域で作動させるP層とN層が形成されており、厚さが50μm未満のものまで製造できる。しかし、機械的強度の点から100μm程度のものが適当と判断された。この薄膜のアバランチェフォトダイオードの適用により、より高感度にでき、そして陽電子のエネルギ損失をより少なくすることができた。
【0019】
線源を離すことによって、被測定材料に対し加熱や冷却などその測定時の条件を変えることができ、さらに、シンチレーションカウンタなどの計測機器を、被測定材料近傍により容易に取り付けることができる。このようにして、陽電子線源をその放射エネルギに応じ、電磁レンズからの距離を変えられるようにすることにより電磁レンズの磁場を大きく変えることなく、利用できる陽電子数を増すことができた。そして、線源と被測定材料の間の陽電子が飛翔する空間を真空にして衝突による散乱が低減でき、さらに厚さを薄くしたアバランチェフォトダイオードを用いて陽電子検出時のエネルギー損失を軽減できた。このようにして材料の陽電子寿命のβ-γ計測法において、従来よりも多くの種々の条件下での材料評価を、より精度よくかつ短時間でおこなうことができるようになったのである。
【0020】
本発明の装置を用いることによる、陽電子が被測定材料に入射してから消滅するまでの時間計測、放出されるγ線の計測、ドップラー効果の計測、あるいは2本のγ線角度の計測等は、従来陽電子消滅法としておこなわれている方法をそのまま適用すればよい。本発明の要旨は次の通りである。
(1)陽電子線源、電磁レンズ、陽電子検出器、およびγ線測定器を有し、陽電子を被測定材料に入射し、入射後陽電子の寿命および放出γ線を測定する装置であって、電磁レンズを間において、陽電子線源、電磁レンズおよび被測定材料がその順に同一軸上に配置されていること、陽電子線源と電磁レンズとの距離を前記軸上にて任意に変えて固定できる機構を有すること、および少なくとも陽電子線源から被測定材料までの陽電子飛翔経路は真空に保持できること、を特徴とする材料評価装置。
(2)陽電子線源の中心位置が、電磁レンズおよび被測定材料のそれぞれの中心位置を結ぶ軸上の、被測定材料とは反対側で電磁レンズの磁場の外にあり、電磁レンズの有効磁場上端から電磁レンズの有効口径の1.5倍以内までの範囲内であることを特徴とする上記(1)の材料評価装置。
(3)陽電子の検出器が、アバランチェフォトダイオードであることを特徴とする上記(1)または(2)の材料評価装置。
(4)陽電子の飛翔経路は1×10-4Torr以下の圧力に保持されていることを特徴とする、上記(1)、(2)または(3)の材料評価装置。
(5)陽電子検出器と、被測定材料との間にさらにもう一つの電磁レンズが配置されていることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)または(4)の材料評価装置。
(6)被測定材料を真空中にて加熱または冷却する器具を備えていることを特徴とする上記(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の材料評価装置。
(7)上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)または(6)の装置を用いて材料に入射された陽電子の寿命の測定、もしくは放出γ線、またはその両者を測定することを特徴とする材料評価の方法。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の装置の構成を、図1に示した模式図にて詳細に説明する。各構成部は同一軸上に、陽電子線源1、電磁レンズ3、陽電子検出器5、被測定材料6の順に配列され、被測定材料6の近傍には放射線検出器7を設置し、線源1から被測定材料6までの陽電子の飛翔経路は真空に排気できる容器2中に置かれる。容器2の少なくとも電磁レンズ3が置かれる部分では、非磁性材料を用いる。陽電子線源1は、線源保持具9に取り付けられ、移動および固定治具11により前記軸上を任意に位置を変えて固定できるものとする。
【0022】
陽電子線源1から放出された陽電子線4は、電磁レンズ3で集束され、陽電子検出器5を通って被測定材料6に入射され、被測定材料6内で陽電子は電子と衝突して消滅し、γ線を放出する。陽電子を検出器5で検出してから、被測定材料6より放出されるγ線(511KeV)を感知するまでの時間を計測すれば、陽電子の寿命を知ることができる。
【0023】
陽電子線源1は、陽電子を放出する放射性同位体であれば、とくに種別は問わないが、通常用いられる金属製カプセルに封入された、陽電子放出が多く、半減期の長い、22Na(陽電子平均エネルギー:350KeV)や68Ge(同:800KeV)が適用できる。
【0024】
電磁レンズ3は、図2に模式的に示すように、中心軸の周りに同軸状に置かれた導磁性軟鉄の枠3aと巻線3wとからなり、巻線3wに電流を通じて励磁された磁極3tと3bとの間のギャップ13に生じる磁束の漏洩磁場により、レンズ磁場を構成する。したがって、レンズの有効磁場は、図2中に点線14tと14bで上下限を示すように、磁極3tまたは3bのコーナー部以内に限定される。この有効磁場は、線源1あるいは容器2の大きさにもよるが、直径20~150mm、高さ20~150mm程度の空間内にて、十分な磁束密度の垂直方向磁場が得られることが望ましい。磁場の強さは、レンズ中心位置にて0.1~0.3T程度得ることができれば、十分に陽電子を収束できる。このレンズの励磁には、所要の磁場強度が得られるなら、永久磁石を用いてもよい。
【0025】
陽電子線源は、電磁レンズの中心および被測定材料の中心を結ぶ軸の延長上で電磁レンズに対し被測定材料とは反対側に配置するが、陽電子線源と電磁レンズとの距離は、前記軸上にて任意の位置に移動でき、かつその位置で固定できる機構を有するものとする。これは、電磁レンズの磁場強度を変えずに、用いる線源により、最も多くの陽電子を被測定材料に集束させることを容易にするためである。この移動および固定は一般に用いられる治具を活用すればよく、特に限定するものではないが、電磁レンズに近づく部分は、磁場を乱さない非磁性材料を用いるのが望ましい。前記軸上にて任意に変えて固定できる治具は、真空にされる容器内に配置してもよく、図1に例示するように、Oリングなどを用い可動軸をシールして、容器外に配置してもよい。
【0026】
電磁レンズに対する陽電子線源は、線源の中心位置が有効磁場の外にあって、電磁レンズの有効磁場上端14tを超え、電磁レンズの有効口径ないしは容器の内径の1.5倍以内までの範囲内であることとする。すなわち、図2に示される間隔Lが、0を超え容器2の内径の1.5倍以下の範囲内の、任意の位置に移動でき、固定できればよい。線源の中心位置がレンズの有効磁場上端を超えることとするのは、これより下の位置では磁場をより強くする必要が生じるためである。また、電磁レンズの有効口径の1.5倍以内までとするのは、これ以上距離を離せば、レンズに入る陽電子が減少してしまうからである。ここで、電磁レンズの有効口径とは、電磁レンズ3そのものの口径ではなく、レンズ内に配置される容器2の内径である。陽電子は、レンズに対し立体角約35°以内で線源から放射されたものが収束できるが、レンズの有効磁場内であっても容器壁に衝突すれば利用できない。そこで、電磁レンズの配置された部分における容器内径、すなわち有効口径の1.5倍以内に線源を置くこととする。
【0027】
電磁レンズ3と被測定材料6との間に陽電子検出器5を置く。これは薄いプラスチックシンチレータと光電子倍増管との組み合わせでもよいが、プラスチックシンチレータは薄くすると感度が大きく低下してくるので、薄くしても感度の低下の少ない、アバランチェフオトダイオードを用いるのがよい。しかしその厚さを薄くし、かつ透過有効面積を大きくすることは、強度の低下および作製の困難さから限界がある。そこで、陽電子線が電磁レンズにより収束する位置近傍に設置すれば、ダイオードの透過有効面積を大きくしなくてもよい。この面積が大きくならない範囲で用いることにして、シリコン基板、π層等を薄くした結果、厚さ50~200μmの範囲のアバランチェフオトダイオードが適用できることがわかった。50μmを下回ると機械的強度が不足し、200μmを超える厚さになると検出時のエネルギー吸収が大きくなる。
【0028】
被測定試料からのγ線検出器7は、通常のγ線計測に用いられるたとえばシンチレーションカウンタを使えばよい。この場合1台の計測器でもよいが、陽電子の電子との衝突による消滅は、必ず互いに反対方向の2本のγ線が放出されるので、2台の計測器を被測定材料を中心に相互に向かい合わせに設置し、2台で同時に検出されたγ線のみ計測すれば、検出精度が向上する。
【0029】
陽電子は大気中を飛翔するとき、空気の分子と衝突し、エネルギーの減少や散乱を生じるので、線源1、陽電子検出器5、被測定試料6等は、真空に排気できる容器2の中に入れ、線源1から被測定材料6までの陽電子の飛翔経路が真空に保たれるようにする。このときの真空容器内の圧力は、通常のブラウン管など電子線を扱う場合と同様、圧力が1×10-4Torrを下回る真空とするのが望ましい。これによって、被測定試料に入射する陽電子数が増し、感度の向上や時間の短縮が可能になる。
【0030】
陽電子を利用する欠陥測定には、陽電子の被測定材料入射後消滅までの寿命を計測する方法の他に、消滅時に放出されるγ線のエネルギ分布や、放出される2つのγ線の間の、正反対方向からのわずかなずれ角度を計測することがある。たとえば、エネルギー分布の変化を示すドップラー広がりを計測しSパラメータを求めたり、面状のγ線検出器を利用し、2次元角相関スペクトルを求める場合などである。この場合は、入射時の陽電子を検出する必要がなく、陽電子検出器5を使用しないか、取り外して計測すればよい。
【0031】
陽電子は、その通過を検出した後、陽電子線の幅が広がらない間に被測定材料に入射することが望ましい。このため、陽電子検出器と被測定材料とを接近させる必要があるが、これによって被測定材料の加熱や冷却用器具の設置、あるいは放出γ線の計測用器具の取り付け位置に制限を受ける。そこで、図3に示すように、陽電子検出器5と被測定材料6との間に、もう一つ電磁レンズ16を置き、検出器5を通過した陽電子線4を再度集束して、被測定材料6に入射させてもよい。このようにすれば、陽電子線検出器の位置に制限されることなく種々の治具すなわち加熱や冷却用器具17や測定器を設置することができる。また、二段階に収束することにより陽電子のエネルギー分別がより精密におこなわれ、測定精度が向上する。
【0032】
【実施例】
図3に示した構成の、電磁レンズ二台を設置した陽電子を用いた材料評価装置の試作例を説明する。真空容器2として直径40mm、肉厚3mm、長さ約400mmのアルミニウム合金管(A6063TD)を利用し、管上端には線源1を設置する治具を取り付けるためのフランジを設け、ここに線源1を、真空シール10を通じ上下方向の任意位置に移動固定できる治具11に、線源保持具9を介して取り付けた。管下端には被測定材料6を設置する治具のためのフランジを設け、管のほぼ中央部には同径の真空排気口8を設けた。この排気口8の近くには、陽電子検出器5を取り付けた。電磁レンズ3は、励磁コイルの外側を磁石用軟鉄で覆った外鉄心形状とし、レンズの有効磁場が直径72mm、高さ50mmの空間で、この空間の中心位置の磁場が最大0.31Tのものである。通過する陽電子の検出器5には、有効光電面が5mm角で厚さ100μmのアバランチェフォトダイオードを用いた。陽電子検出器5と被測定材料6との間には線源の直下に用いたものと同型の電磁レンズ16を設置した。陽電子線源から被測定材料面までの距離は、約300mmとした。真空排気は排気速度160L/sの油回転真空ポンプと、到達圧力10-8Torr、排気速度145L/sのターボ分子ポンプとの組み合わせである。
【0033】
陽電子線源に100マイクロキュリーの22Naを用い、線源の中心を電磁レンズの有効磁場の上端より5mm上方すなわち、図2におけるLを5mmにして、2つの電磁レンズの中心位置の磁場をそれぞれ0.12Tとした。被測定材料として厚さ1mmのシリコンウエハを用い、その下側にBaFのシンチレーションカウンタを近接して配置し、真空排気の圧力を10-6Torrとした後、陽電子の寿命を測定してみた。その際に計測された寿命測定に有効な陽電子数は、50カウント/秒であり、線源の位置をこれより高くしても低くしても、カウント数の低減が認められた。比較のため、同じ100マイクロキュリーの22Naを用い、線源を2枚のシリコンウエハで挟む通常の方法で陽電子寿命を測定した。その際の有効計測数は200カウント/秒であった。
【0034】
次に、線源を100マイクロキュリーの68Geに変え、線源の中心を有効磁場の上端より15mm上方にし、2つの電磁レンズの中心位置の磁場をそれぞれ0.13Tとし、前回同様、厚さ1mmのシリコンウエハにて陽電子の寿命を測定した。その結果、60カウント/秒の有効計測数を得ることができた。
【0035】
このように、本発明の装置を用いれば、線源と被測定材料との距離を300mmとしたにもかかわらず、有効な陽電子の計測数の大幅低減を抑止することができる。また、線源の陽電子エネルギーが大きく変わったにもかかわらず、電磁レンズの磁場は大幅に変える必要がなく、効果的に陽電子を集束させることができる。
【0036】
【発明の効果】
陽電子を材料に入射してその寿命を計測したり、生じたγ線を計測する材料評価法では、従来、陽電子線源と被測定材料とを密着して配置していた。これに対し本発明の装置は、陽電子線源と被測定材料とを離して設置するものであり、しかも有効陽電子数の大幅低下を補うことが可能である。また、線源の陽電子エネルギーが大きく変わっても、集束用の電磁レンズの磁場強さを大きく変えることなく適用できる。これによって、材料中に存在する結晶学的微少欠陥が精密に評価できる陽電子寿命の測定や発生γ線エネルギ計測を、より効果的に活用することができ、LSI基板など精密技術に用いられる材料の品質向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】陽電子を用いた材料評価装置の主要構成部品の配置を説明する模式図である。
【図2】電磁レンズと、陽電子線源との位置関係を説明する図である。
【図3】陽電子収束のための電磁レンズを2段にした、陽電子を用いた材料評価装置の主要構成部品の配置を説明する模式図である。
【符号の説明】
1 陽電子線源、 2 真空容器、 3 電磁レンズ、
3a電磁レンズ枠、 3t 電磁レンズ磁極、
3b 電磁レンズ磁極、 3w 電磁レンズ巻線、
4 陽電子線、 5 陽電子検出器、 6 被測定材料、
7 γ線検出器、 8 真空排気口、 9 線源保持具、
10 真空シ-ル部、 11 線源移動固定治具、
12 レンズ軸、 13 レンズ磁極間ギャップ、
14t 有効磁場上限、 14b 有効磁場下限、
16 電磁レンズ、
17 被測定材料の加熱・冷却用器具
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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