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明細書 :超微細組織鋼とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3543104号 (P3543104)
公開番号 特開平11-092861 (P1999-092861A)
登録日 平成16年4月16日(2004.4.16)
発行日 平成16年7月14日(2004.7.14)
公開日 平成11年4月6日(1999.4.6)
発明の名称または考案の名称 超微細組織鋼とその製造方法
国際特許分類 C22C 38/00      
C21D  8/00      
C22C 38/06      
FI C22C 38/00 301A
C21D 8/00 A
C22C 38/06
請求項の数または発明の数 2
全頁数 9
出願番号 特願平09-256682 (P1997-256682)
出願日 平成9年9月22日(1997.9.22)
審判番号 不服 2001-004953(P2001-004953/J1)
審査請求日 平成9年9月22日(1997.9.22)
審判請求日 平成13年3月30日(2001.3.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
発明者または考案者 【氏名】鳥塚 史郎
【氏名】津崎 兼彰
【氏名】長井 寿
参考文献・文献 特開昭58-221258(JP,A)
特開平2-305937(JP,A)
特開平9-53142(JP,A)
「材料とプロセス」社団法人日本鉄鋼協会(平成9年9月5日発行)Vo1.10(1997)No.6第1380頁
特許請求の範囲 【請求項1】
C,Si,Mn,Al,P,SおよびNを含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる組成を有し、平均粒径が3μm以下で、粒界の方位差角15°以上の大角粒界に囲まれたフェライトを母相とし、40体積%未満のパーライトを第二相とする超微細組織鋼の製造方法であって、Ac3点以上に加熱してオーステナイト化した後に、Ar3点以上の温度で、圧下率50%以上のアンビル圧縮加工を被加工材のX、YおよびZの3面のうちの少くとも2面からの加工として、同時、または連続的に加え、次いで500℃までの平均冷却速度3~10K/sで冷却することを特徴とする超微細組織鋼の製造方法。
【請求項2】
Ar3点~Ar3+200℃の範囲内の温度においてアンビル圧縮加工を加える請求項1の製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、高強度構造用鋼として有用な、超微細組織鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来、鋼材の強化方法としては、固溶強化や、マルテンサイト等との複合化による第2相による強化、析出強化、結晶粒の微細化が知られている。なかでも、強度と靱性をともに高くし、強度-延性バランスを良好にする方法としては、結晶粒の微細化が最も優れた方法である。この方法では焼き入れ性を高めるNi,Cr等の高価な元素の添加を必要としないため、低コストで高強度鋼材の製造が可能とされている。この結晶粒の微細化の観点からは、構造用鋼において、フェライトの結晶粒径が3μm以下まで微細化されると、強度は急激に大きくなることが期待されている。しかしながら、一般の加工熱処理技術で現在までに得られている5μm程度の粒径では、高強度化されるものの、大きな強度上昇量は得られていないのが実情である。
【0003】
従来、制御圧延-加速冷却技術は低合金鋼において、微細なフェライトを得るための有効な方法であった。すなわち、オーステナイト未再結晶域における累積圧下率とその後の冷却速度を制御することによって、微細な組織が得られている。しかし、得られるフェラ
イト粒径はせいぜいSi-Mn鋼で10μm、Nb鋼で5μmが限界であった。一方、特開昭58-123823、特開昭59-205447、特公昭62-39228、特公昭62-5212、特公昭62-7247に述べられているように、2相域も含めたAr1~Ar3+100℃の温度域で合計減面率が75%以上の圧下を加え、その後20K/s以上で冷却する場合には、3~4μm程度のフェライト粒が得られることが報告されている。しかしながら、20K/s以上の急冷は、板厚が薄い場合にのみ成り立ち得る手段であり、広く一般溶接構造用鋼の製造方法としては成立しがたい非実際的なものにすぎない。また、強加工そのものについても、ロール圧延では、オーステナイト低温域での1パスで50%を越える大圧下を行うことは、その変形抵抗の大きさやロールのかみこみ制限から、一般的にむずかしい。また、未再結晶域での累積圧下には一般的には70%以上必要であり、鋼板の温度低下によりそれも難しい。
【0004】
制御圧延鋼の変態フェライト相は、一般に集合組織を形成することが知られており、強圧下の結果得られたフェライト相は小傾角粒界を有するようになる。すなわち、単純な強加工では、集合組織が形成され、大角粒界からなるフェライト粒を得ることはできないのである。このため、特公昭62-39228、特公昭62-7247に示された以上の強加工を行っても、大傾角粒界からなるより微細なフェライト組織を得ることは困難である。
【0005】
そこで、この出願の発明では、以上のとおりの従来技術の限界を克服し、その強度をより大きく増大させることのできる3μm以下の超微細組織を持つ構造用鋼を提供し、しかも、実際的に許容されるより遅い冷却速度で、しかも実用的加工手段によって、この新しい鋼を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この出願は、上記の課題を解決するものとして、C,Si,Mn,Al,P,SおよびNを含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる組成を有し、平均粒径が3μm以下で、粒界の方位差角15°以上の大角粒界に囲まれたフェライトを母相とし、40体積%未満のパーライトを第二相とする超微細組織鋼の製造方法であって、Ac3点以上に加熱してオーステナイト化した後に、Ar3点以上の温度で、圧下率50%以上のアンビル圧縮加工を被加工材のX、YおよびZの3面のうちの少くとも2面からの加工として、同時、または連続的に加え、次いで500℃までの平均冷却速度3~10K/sで冷却することを特徴とする超微細組織鋼の製造方法を提供する。
【0007】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、以上のとおりの特徴を有するものであるが、以下にさらに詳しく説明する。
【0008】
この発明では、構造用鋼として高強度な超微細組織鋼を提供するが、このものは、前記のように、
1)フェライト粒の平均粒径が3μm以下、より好ましくは2μm以下、
2)フェライトの粒界の方位差角が15°以上の大角粒界に囲まれたフェライト、
3)このフェライトを母相とし、40体積%未満のパーライトを第二相とし、
4)C,Si,Mn,Al,P,SおよびNを含有し、残部がFeと不可避的不純物か らなる組成を有する
ことにより特定されるものである。このような鋼は、これまで全く実現されていない。
【0009】
この発明の超微細組織鋼は、たとえば前記のとおり、この出願の発明の製造方法によって提供される。
【0010】
すなわち、まず、発明者らの研究の結果、フェライトの超微細化とその大角粒界化にはアンビル圧縮加工が極めて有効であることが見出された。図1は、このアンビル圧縮加工の態様を例示したものである。アンビル圧縮では、減面率で1パス90%を越える強加工も可能である。加工部はロール圧延に比べ同じ減面率でも、せん断変形を含む大きな変形を受けることになる。その結果、未再結晶域で、このアンビル圧縮加工を行うことによって、平均粒径で3μm以下のフェライト粒が50%以上の減面率の加工で得られるようになった。そのフェライトは隣接方位差角が15°以上のいわゆる大角粒界を有している。すなわち、加工前のオーステナイト粒径、加工量、加工温度を制御することによって、大角粒界からなりかつ3μm以下のフェライト微細な組織鋼が製造が可能となる。
【0011】
一般に、微細なフェライトはその変態過程及びその後において、極めて合体、粒成長しやすいが、大角粒界からなるフェライトは容易に合体、粒成長せず、微細なまま室温にいたる。その結果、冷却速度は、従来の20K/s以上に対し、3K/s以上でも上記の微細粒を得ることができる。このような遅い冷却速度はこれまで全く考えられなかったものである。この発明の加工時のひずみ速度は1/s十分である。1-10/sは厚板圧延の一般的ひずみ速度である。
【0012】
加工に用いるアンビル幅と試料の板厚との関係は適宜調節可能であり、アンビルと試料の間には潤滑材を塗布してもよい。
【0013】
以上のことから、この発明では、Ac3点以上に加熱してオーステナイト化した後に、Ar3点以上の温度で、圧下率50%以上のアンビル圧縮加工を被加工材のX、YおよびZの3面のうちの少くとも2面からの加工として、同時、または連続的に加え、次いで500℃までの平均冷却速度3K/s~10K/sの速度で冷却する。
【0014】
加工前のオーステナイト粒径については、たとえば300μm以下においてフェライトの微細化が可能であることが確認されている。加工量として断面圧下率で50%以上が必要で、2μm未満の粒径を得るためには70%以上が望ましい。加工温度としてはオーステナイト未再結晶域が必要で、Ar3+200℃以内が望ましい。なるべく微細な粒を得るためにはAr3+100℃以内が望ましい。
【0015】
また、この発明では前記のとおりのフェライトを母相とするが、フェライト相以外の相としては、パーライトを第二相として有している。
【0016】
溶接性、靱性の劣化を防ぐとの観点から、パーライトの体積率は40%未満とする。
【0017】
なお、この発明で規定するところのフェライト平均粒径は、たとえば直線切断法により計測される。また、フェライト粒界の方位は、加工部の代表的な約0.1×0.1mmの数視野をSEMで観察し、1視野につき数百個のフェライト粒を電子線後方散乱回析(EBSD)法で測定することができる。フェライトの粒界の方位差角は15°以上であるときを大角粒界とする。大角粒界が全粒界の80%以上を占めるとき、組織は大角粒界からなっているとする。
【0018】
大角粒界の割合が80%未満の時には、組織の微細化による強度の上昇は十分に得られないからである。
【0019】
鋼の化学的組成についてはCとともに、Si,Mn,Al,P,SおよびNを含有し、残部がFeと不可避的不純物からなる組成である。
【0020】
一般溶接構造用鋼を例示という観点からは、たとえば次の添加元素の組成が考慮される

【0021】
0.001mass%≦C≦0.3mass%:Cは鋼の強度を上昇させる重要な添加元素であるが、0.3%以上添加すると溶接性、靱性が劣化し、一般溶接構造用鋼としての利用が難しくなる。
【0022】
Si,Mn:固溶強化元素であり、適量添加することが望ましい。溶接性の観点からMnは3%以下、Siは2.5%以下である。
【0023】
Al:清浄度の観点から0.1%以下。
【0024】
P,Sは一般的に0.05%以下とする。
【0025】
また、この発明では、前記のアンビル圧縮加工については、より低加工量でも同様な微細化を達成する方法として、多軸加工が有効であることを見出している。また、同一加工量であれば、より微細な粒が得られる。加工に用いる応力は、圧縮だけでなく、せん断、引張、ねじりでもよい。
【0026】
すなわち、図2に示すように、試料のA面とB面から交互に加工を加える。その後、適切な速度で冷却することによって、1軸圧縮に比べ、方位の異なるフェライト核生成量を増加させることができる。従って、同一減面率であれば、1軸圧縮に比べフェライト粒径が小さくさせることができる。1軸圧延に比べ低減面率でも、超微細なフェライト粒を得ることができるのである。
【0027】
以上のことから、この発明では、供試鋼をAc3点以上にあげ、オーステナイト化した後、未再結晶域まで温度を低下させ、各面の加工量、加工温度を制御することによって、変態フェライトの微細化、粒界の大角化を効果的に行う多軸加工熱処理技術も提供する。図2では、加工軸を一つとし、サンプルを回転させることによって、2面からの加工を行う例を示したが、あらかじめ加工軸を2本用意しておき、A面、B面を交互に加工してもよい。さらに、加工軸が2本ある時は、A面、B面を同時に加工することもフェライトの微細化に効果的である。
【0028】
以下、実施例を示し、さらに詳しく説明する。
【0029】
【実施例】
以下の例においては、加工中心部および未加工部の組織をSEMにより観察し、直接切断法により平均粒径を求めた。また、電子線後方散乱回析(EBSD)法を用いてフェライト粒の方位を測定した。
参考例1~10
表1の1-3の組成の鋼を加熱し、完全にオーステナイト化した後に、20×18×12(黒四角)の試験片を、アンビル幅5mmの図1に示す方式で、表2に示す条件で加工し、冷却を行った。その結果、表2に示す平均粒径を有するフェライト-パーライト鋼を得た。これらの鋼のAr3は、全自動変態率測定装置で鋼を900℃に加熱し、10K/sで冷却し、熱膨張曲線の変化から求めた。
【0030】
【表1】
JP0003543104B2_000002t.gif【0031】
【表2】
JP0003543104B2_000003t.gif【0032】
実施例1
表1の1の組成の鋼を900℃に加熱し、完全にオーステナイト化した後に、750℃に冷却し、図2のA面より圧下率で減面率15%の平面ひずみ圧縮加工を行った。0.1
秒後にB面より、減面率が未加工時に比べ、60%となるように平面ひずみ圧縮加工を行い、500℃まで、10K/sで冷却した。その結果、加工部のフェライトの平均粒径が2.0μmのフェライト-パーライト鋼を得た。電子線後方散乱(EBSD)法で測定したフェライトの粒界の傾角は15°以上のものが94%を占め、フェライトは大角粒界に囲まれていた。
実施例2
表1の1の組成の鋼を900℃に加熱し、完全にオーステナイト化した後に、750℃に冷却し、図2のA面より圧下率で減面率10%の平面ひずみ圧縮加工を行った。0.1秒後にB面より減面率が未加工時に比べ、45%となるように平面ひずみ圧縮加工を行い、500℃まで、10K/sで冷却した。その結果、加工部のフェライトの平均粒径が2.5μmのフェライト-パーライト鋼を得た。電子線後方散乱(EBSD)法で測定したフェライトの粒界の傾角は15°以上のものが95%を占め、フェライトは大角粒界に囲まれていた。
実施例3
表1の1の組成の鋼を900℃に加熱し、完全にオーステナイト化した後に、750℃に冷却し、図2のA面より圧下率で減面率10%の平面ひずみ圧縮加工を行った。0.1秒後にB面より減面率が未加工時に比べ、70%となるように平面ひずみ圧縮加工を行い、500℃まで、10K/sで冷却した。その結果、加工部のフェライトの平均粒径が1.4μmのフェライト-パーライト鋼を得た。電子線後方散乱(EBSD)法で測定したフェライトの粒界の傾角は15°以上のものが95%を占め、フェライトは大角粒界に囲まれていた。
比較例1
表1の1の組成のオーステナイト粒径15μmの鋼を800℃の温度で加工量70%のロール圧延を行い、500℃の温度まで平均冷却速度12K/sで冷却した。得られた加工部のフェライト平均粒径は4.8μmであった。
比較例2
表1の2の組成のオーステナイト粒径20μmの鋼を850℃の温度で加工量70%のロール圧延を行い、500℃の温度まで平均冷却速度40K/sで冷却した。得られた加工部のフェライト平均粒径は3.6μmであった。
比較例3
表1の1の組成のオーステナイト粒径25μmの鋼を750℃の温度で加工量73%のアンビル圧縮加工を行い、500℃の温度まで平均冷却速度1K/sで冷却した。得られたフェライトーパーライト鋼のフェライトの粒界の傾角は15°以上のものが90%を占めていたが、フェライト平均粒径は5.3μmであった。
比較例4
表1の1の組成の鋼を熱間圧延の後、冷間圧延、熱処理の結果、平均フェライト粒径2.5μmのフェライト-パーライト鋼を得た。EBSD測定の結果、フェライト粒界にしめる傾角15°以上の粒界の割合は30%であった。そのとき、引張強度は480N/mm2であった。
【0033】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、大角粒界を有する平均粒径3μm以下のフェライト組織という、従来の微細組織鋼の限界をこえ高強度な超微細組織鋼が提供される。そしてまた、その製造法として、冷却速度の遅いことが工業的に大きな意味を持つ新しい方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】アンビル圧縮加工について示した概要図である。
【図2】多軸加工熱処理について示した概要図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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