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明細書 :ゲル化剤及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3813519号 (P3813519)
公開番号 特開2003-261859 (P2003-261859A)
登録日 平成18年6月9日(2006.6.9)
発行日 平成18年8月23日(2006.8.23)
公開日 平成15年9月19日(2003.9.19)
発明の名称または考案の名称 ゲル化剤及びその製造方法
国際特許分類 C09K   3/00        (2006.01)
C07C 251/24        (2006.01)
C07F  15/00        (2006.01)
FI C09K 3/00 103M
C07C 251/24
C07F 15/00 C
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2002-064487 (P2002-064487)
出願日 平成14年3月8日(2002.3.8)
審査請求日 平成16年6月9日(2004.6.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】直田 健
【氏名】郡 弘
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
審査官 【審査官】小川 知宏
参考文献・文献 特開平5-125353(JP,A)
特開平10-140131(JP,A)
直田 健 他,直鎖ジアミンのサリチルアルジミン配位子を有する二核パラジウム錯体の構造と動的挙動,日本化学会講演予稿集,日本,日本化学会,2000年,78th,p274
B.H.CHEN et al,Syntheses and molecular structures of three Cu(II) complexes with tetradentate imine-phenols,Solid State Sciences,1999年,p119-131
調査した分野 C09K 3/00,
C07C251/24,
C07F 15/00- 15/06
特許請求の範囲 【請求項1】
ビスサリチルアルジミンを配位子として有する環状多核金属錯体を含んでいることを特徴とするゲル化剤。
【請求項2】
上記環状多核金属錯体は、一般式
【化1】
JP0003813519B2_000013t.gif
(式中、M,Mは、それぞれ2価の金属を表し、R~Rは、それぞれH又はアルキル基を表し、nは、5又は7である)にて表され、anti体であることを特徴とする請求項1記載のゲル化剤。
【請求項3】
(CR10鎖(ここで、R,R10は、それぞれH又はアルキル基を表し、mは、5又は7である)を有するビスサリチルアルジミンと2価の金属塩とを反応させることを特徴とするゲル化剤の製造方法。
【請求項4】
anti体を単離することを特徴とする請求項3記載のゲル化剤の製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液状化合物に添加することにより、流動性化合物の流動性を低下させて固化させるゲル化剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゲル化剤は、ゲル化剤自身の自己組織化によって3次元構造体を構築し、この3次元構造体内に、有機溶媒等の流動性化合物を取り込んでいる。これにより、流動性化合物の流動性を低下させ、固体状のゲルが形成される。このようなゲル形成能を有するゲル化剤として、これまでに、例えば図2(a)~(f)及び図3(a)(b)に示すように、数多くの低分子ゲル化剤が見出されている。
【0003】
図2(a)~(f)に示す低分子ゲル化剤は、ゲル化を実現するために、自己組織化の主たる凝集力として水素結合を利用している(それぞれの低分子ゲル化剤に関する文献は次の通り。(a);K.Hanabusa,M.Yamada,M.Kimura,H.Shirai,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,35,p.1949(1996)、(b);J.Makarevic,M.Jokic,B.Peric,V.Tomisic,B.Kojic-P.,M.Zinic,Chem.Eur.J.,7,p.3328,(2001)、(c);J.van Esch,F.Schoonbeek,M.de Loos,H.Kooijman,A.L.Spek,R.M.Kellogg,B.L.Feringa,Chem.Eur.J.,5,p.937(1999)、(d);K.Yoza,Y.Ono,K.Yoshihara,T.Akao,H.Shinmori,M.Takeuchi,S.Shinkai,D.N.Reinhoudt,Chem.Commun.p.907(1998)、(e);U.Maitra,P.V.Kumar,N.Chandra,L.J.D'Souza,M.D.Prasanna,A.R.Raju,Chem.Commun.,p.595(1999)、(f);A.Ajayagosh,S.J.George,J.Am.Chem.Soc.,123,p.5148(2001))。
【0004】
また、図3(a)(b)に示す低分子ゲル化剤は、コレステロール類似化合物等の疎水性部位(コレステロール部位)間に働くファンデルワールス力(分子間相互作用)を利用して、低分子ゲル化剤を凝集させている(文献:(a);Y.C.Lin,B.Kachar,R.G.Weiss,J.Am.Chem.Soc.,111,p.5542(1989)、(b);K.Murata,M.Aoki,T.Suzuki,T.Harada,H.Kawabata,T.Komori,F.Ohseto,K.Ueda,S.Shinkai,J.Am.Chem.Soc.,116,p.6664(1994))。
【0005】
上記の低分子ゲル化剤は、水素結合やファンデルワールス力を利用して、低分子ゲル化剤を自己集合させて3次元構造を形成し、流動性化合物を取り込むことによって、ゲル化している。
【0006】
上記の低分子ゲル化剤のうち、図2(e)に示す低分子ゲル化剤は、自己組織化の凝集力として、主として水素結合を利用し、さらに、補助的にドナー・アクセプター相互作用を用いている。また、図2(f)に示す低分子ゲル化剤は、水素結合を主な凝集力とし、補助的にπ-πスタッキングを利用している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記水素結合を主要因とする低分子ゲル化剤では、極性溶媒との間で多様な水素結合が生成するという問題を有している。例えば、極性溶媒と低分子ゲル化剤との間に水素結合が形成されると、低分子ゲル化剤間の水素結合による自己組織化が阻害され、ゲル形成を好適に行うことができなくなる。また、用いる極性溶媒よっては、低分子ゲル化剤間の水素結合に関与し、低分子ゲル化剤の自己組織化を促進して、ゲル形成を好適に行う場合もある。このように、水素結合を主要因とする低分子ゲル化剤では、形成される水素結合の多様性のために、用いる極性溶媒の影響を受けてゲル形成能が異なってしまい、種々の極性溶媒に対して高いゲル形成能を発現することが難しい。
【0008】
例えば、図2(a)に示す低分子ゲル化剤は、酢酸エチルに対しては好適に用いることができるが、ベンゼンに対するゲル化能は低い。また、図2(b)及び図2(e)に示す低分子ゲル化剤は、使用範囲がアルコールに限定される。
【0009】
また、自己組織化のもう一つの駆動力として利用されているファンデルワールス力は、低分子ゲル化剤の疎水性部位間に働く。そのため、ファンデルワールス力を駆動力とする低分子ゲル化剤は、疎水性部位間に働くファンデルワールス力を阻害することなく、このファンデルワールス力によって分子を配列することができる溶媒にしか用いることができないという問題がある。つまり、ファンデルワールス力を主要因とする低分子ゲル化剤にてゲル化を行うことができる溶媒は、ファンデルワールス力を阻害しない長鎖アルキル基を有するアルコールや炭化水素に限られてしまう(例えば、図3(a))。
【0010】
このように、従来の低分子ゲル化剤は、特定の化合物に対してのみゲル形成能を示すため、使用範囲が限定され、汎用性に乏しいという問題がある。
【0011】
また、従来の低分子ゲル化剤の中には、凝集力として、水素結合やファンデルワールス力とともに、ドナー・アクセプター相互作用やπ-πスタッキングを利用しているものがある(図2(e)(f))。しかしながら、これらの低分子ゲル化剤は、凝集力として、主に、水素結合やファンデルワールス力を利用しており、ドナー・アクセプター相互作用やπ-πスタッキングは、あくまでも補助的に利用されているのみである。つまり、ドナー・アクセプター相互作用やπ-πスタッキングを主な凝集力として利用したゲル化剤は、これまでに見出されていない。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、極性、非極性を問わず、種々の立体構造、電子的性質を有する分子からなるあらゆる流動性化合物に対して、ゲル形成能を一般的に有しており、特に、有機溶媒全般に対して優れたゲル形成能を発現し得る新規なゲル化剤を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を鑑み、鋭意検討を行った結果、自己組織化の凝集力としてπ-πスタッキングを利用することにより、種々の立体構造や電子的性質を有する分子全般に対して、優れたゲル形成能を発現し得るゲル化剤を見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明のゲル化剤は、上記課題を解決するためにビスサリチルアルジミンを配位子として有する環状多核金属錯体を含んでいることを特徴としている。
【0015】
具体的には、一般式
【0016】
【化2】
JP0003813519B2_000002t.gif【0017】
(式中、M1,M2は、それぞれ2価の金属を表し、R1~R8は、それぞれH又はアルキル基を表し、nは、5又は7である)にて表され、anti体であることを特徴としている。
【0018】
上記環状多核金属錯体の配位子であるビスサリチルアルジミンは、π結合を有するベンゼン環を有し、かつ、2つのベンゼン環を連結する結合鎖を有している。この2つのπ結合部位は、芳香族化合物等のπ電子を含む系との間の相互作用であるπ-πスタッキングが生じる部位である。また、式(1)に示すように、ビスサリチルアルジミン配位子は、金属M1,M2に配位することができる。
【0019】
そのため、上記ビスサリチルアルジミンを配位子として含む上記環状多核金属錯体は、金属とπ電子とを含んでなる平面を複数有し、これらの平面が結合鎖によって連結された構造を有している。また、金属を含む平面と結合鎖とによって、環状の錯体が形成されるとともに、金属を含む平面と結合鎖とに囲まれるように空孔が存在している。さらに、該平面は、上記したように、π-πスタッキングが生じる部位を有している。
【0020】
具体的には、式(1)に示すように、金属M1,M2のそれぞれを含む2つの平面を有し、結合鎖として、-(CR56n-、及び-(CR78n-を有している。つまり、式(1)の環状多核金属錯体では、金属M1,M2を含むそれぞれの平面内にあるπ電子系間にて相互作用が生じ、2つの平面は、上記結合鎖を介して積層された状態になっている。そして、これら2つの平面は、上記の結合鎖によって連結されて環を形成するとともに、2つの平面と2つの結合鎖とに囲まれるように、空孔を有している。
【0021】
つまり、式(1)に示す環状多核金属錯体は、金属M1,M2のそれぞれを含む2つの平面と、この2つの平面を連結する結合鎖とを有するH型構造を形成している。また、このH型構造は空孔を有し、この空孔に、他の環状多核金属錯体の平面を差し込むことができる。
【0022】
それゆえ、式(1)に示す環状多核金属錯体では、一つの環状多核金属錯体の金属及びπ電子を含んでなる2つの平面の間に、π-πスタッキングによって、他の環状多核金属錯体の平面が差し込まれる。これにより、環状多核金属錯体どうしが互いに連結した連結構造となる。さらに、この連結構造が多数組み合わさることにより、本発明のゲル化剤は、3次元構造体を構築している。この連結構造が組み合わさることによって、ナノメートルオーダーの繊維状の構造体が縒り合わさった太い繊維状の3次元構造体を形成することができる。
【0023】
このように、環状多核金属錯体が有する空孔及びπ-πスタッキングを利用することによって、本発明のゲル化剤は自己組織化することができる。それゆえ、流動性化合物に本発明のゲル化剤が添加されると、π-πスタッキングにて連結された環状多核金属錯体が、網目状の3次元構造体を形成し、この3次元構造体内に流動性化合物の分子を取り込む。これにより、流動性化合物は、この網目状の3次元構造体に包接された状態となって、流動性化合物の流動性が著しく低下し、ゲル化が生じる。
【0024】
従って、本発明のゲル化剤は、上記環状多核金属錯体によって、π電子間の相互作用によって3次元構造体を構築するので、ベンゼン等のπ結合を有する芳香族化合物が取り込まれやすくなっている。すなわち、環状多核金属錯体と芳香族化合物との間にも、π電子間の相互作用が生じるので、ゲル化剤が形成する3次元構造体内に、芳香族化合物が安定して存在することができる。そのため、3次元構造体内に取り込まれた芳香族化合物は、流動性が著しく低下してゲル化する。これにより、本発明のゲル化剤は、π結合を有する平面分子である芳香族化合物に対しても、高いゲル形成能を示す。
【0025】
また、本発明のゲル化剤は、水素結合やファンデルワールス力に比較して、溶媒の影響を受けにくいπ-πスタッキングによって、自己組織化している。それゆえ、本発明のゲル化剤を極性分子からなる流動性化合物に添加した場合にも、環状多核金属錯体が自己組織化して、3次元構造体を構築することができる。
【0026】
つまり、上記環状多核金属錯体は、従来のように、水素結合やファンデルワールス力を利用していないので、3次元構造を維持したまま、種々の電子的性質を有する分子を取り込んで安定化することが可能である。例えば、極性分子は、水素結合やファンデルワールス力による結合の形成を阻害してしまう。そのため、自己組織化の凝集力として、水素結合やファンデルワールス力を利用していた従来のゲル化剤は、使用できる溶媒の範囲が限定され、汎用性に乏しかった。これに対し、上記環状多核金属錯体は、π-πスタッキングを凝集力として利用することにより、ベンゼンやトルエン等の非極性分子だけでなく、アセトン、酢酸エチル等の極性分子に対しても、高いゲル形成能を有することができる。
【0027】
以上のように、本発明のゲル化剤として環状多核金属錯体を用いることにより、極性分子や非極性分子、平面分子や嵩高い分子のいずれを含む流動性化合物に対しても、優れたゲル形成能を有するゲル化剤を提供することができる。また、本発明のゲル化剤は、従来のゲル化剤に比べて、高効率にて流動性化合物をゲル化させることができる。
【0028】
なお、上記環状多核金属錯体の核となる金属は、用いる配位子に対して錯体を形成することができる金属であれば、特に限定されないが、2価の金属であることが好ましい。さらに好ましくは、2価パラジウム(Pd)、2価ニッケル(Ni)、2価白金(Pt)がよい。また、錯体の核となる金属は、同一の金属であってもよく、また、異なる金属であってもよい。
【0029】
また、結合鎖は、金属を含む平面を連結して、環状の錯体を形成することができるものであれば特に限定されないが、直鎖構造を有する炭化水素鎖であることが好ましい。具体的には、アルキル鎖であることが好ましく、メチレン鎖が特に好ましい。さらに、結合鎖の長さは、ゲル形成能を有するものであれば、特に限定されない。式(1)の環状多核金属錯体では、ゲル形成能を有するのは、n=5又は7であり、n=6,8,9ではゲル化は見られない。
【0030】
この理由は、以下のように考えられる。n=6の錯体の場合も、上記したように、1つの錯体が形成する平面間に、他の錯体の平面が差し込まれた連結構造となっている。n=6の錯体では、この連結構造の平面間距離が3.5Åであり、平面を形成するベンゼン間どうしが30°ねじれた構造を有するπ-πスタッキングにより連結構造を構築している。このように、n=6の錯体では、30°のねじれを有するπ-πスタッキングによって、連結構造が直線状となるために、溶媒の入り込む余地を有していない。
【0031】
これに対し、n=5,7を有する本発明の環状多核金属錯体では、π-πスタッキングによる連結構造が直線状とならないと考えられ、それゆえ、溶媒を取り込む空間を有する網目状の3次元構造体を形成することができると考えられる。そのため、n=5又は7を有する環状多核金属錯体では、ゲル化を好適に行うことができる。
【0032】
また、金属に配位する配位子は、環状多核金属錯体のπ-πスタッキング部位と、結合鎖とを有していることが好ましく、具体的には、ビスサリチルアルジミンが好ましい。さらに、好ましくは、アルキル鎖又はメチレン鎖を有しているビスサリチルアルジミンがよい。式(1)の環状多核金属錯体に用いる場合には、アルキル鎖又はメチレン鎖の長さは、炭素数が5又は7であることが好ましい。
【0033】
また、環状多核金属錯体に異性体が存在する場合については、ゲル形成能を有するものを用いればよく、特に限定されない。
【0034】
式(1)の環状多核金属錯体では、anti体がゲル形成能を有している。なお、本発明のanti体とは、金属M1,M2を含む平面が互いに表裏の関係となっている回転配座をいう。すなわち、金属M1を含む平面と、金属M2を含む平面とは、各金属に配位している配位子に着目した場合、互いに表裏の関係にある回転配座をいう。つまり、金属M1,M2を含む平面を積層方向の一方の側から見たときの面を表とすれば、金属M1を含む平面の表は金属M2を含む平面の裏に対応し、金属M2を含む平面の表は金属M1を含む平面の裏に対応している回転配座をいう。
【0035】
これに対し、式(1)の環状多核金属錯体では、上記anti体の異性体であるsyn体は、ゲル形成能を有していない。syn体は、金属M1,M2を含む平面を積層方向の一方の側から見たとき、金属M1を含む平面と、金属M2を含む平面とは、同一の面を有している。すなわち、syn体では、金属M1,M2を含む平面が同一の方向を向いている。上記syn体は、金属や結合鎖の長さに関係なく、ゲル化現象が見られないため、上記式(1)に示す環状多核金属錯体では、anti体を用いる必要がある。
【0036】
さらに、式(1)の環状多核金属錯体では、金属に結合する配位子は、トランス体を形成するように配位されている。
【0037】
なお、本発明のゲル化剤には、上記環状多核金属錯体がπ-πスタッキングにより、3次元構造を構築することができれば、該環状多核金属錯体以外の物質が含まれていてもよい。また、ゲル化剤に含まれる環状多核金属錯体の含有量は特に限定されるものではない。
【0038】
以上のように、本発明のゲル化剤は、種々の立体構造や電子的性質をもつ分子全般に適用することができる。そのため、多くの非極性溶媒、極性溶媒に対して、安定なゲル化を行うことができ、優れたゲル形成能を発揮することができる。また、有機溶媒に対して、高効率にてゲル化を行うことができるので、危険物の漏洩の回避、危険物の運搬、携帯可燃物の製造に利用できる。さらに、機能材料の設計、新反応系の創出等、広範な分野での波及効果を生む可能性がある。
【0039】
また、本発明のゲル化剤は、π-πスタッキングによって自己組織化する。そのため、従来のゲル化剤のように、凝集力として、水素結合やファンデルワールス力を利用する場合に比べて、活性化エネルギーが大きい。従って、本発明のゲル化剤は、自己組織化のために有意の活性化を必要とするので、外部からの刺激に対する応答性を示す。これにより、ゲル形成に要する時間や、ゲル化現象が見られる濃度を制御して、ゲル形成能を自在に制御することができる。
【0040】
これに対し、水素結合やファンデルワールス力を主な凝集力とする従来のゲル化剤では、自己組織化に要する活性化エネルギーが極めて小さいために、自己組織化が急速に行われる。そのため、外部からの刺激に対して応答性を示さない。それゆえ、ゲル形成能を制御することはできなかった。
【0041】
つまり、本発明のゲル化剤が有する外部刺激に対する応答性は、従来のゲル化剤では見出されておらず、本発明において、新規に見出された現象である。このように、本発明のゲル化剤は、π-πスタッキングを凝集の駆動力として利用したものであって、従来のゲル化剤とは本質的に異なった性質を有している。
【0042】
上記外部からの刺激としては、本発明のゲル化剤が応答する程度のエネルギーを有する刺激であれば、特に限定されないが、例えば、超音波照射を挙げることができる。
【0043】
上記のような外部刺激によるゲル形成作用は、機能材料として有用である可能性が高く、また、多くの流動性化合物を瞬時に外部から制御することが可能になる。
【0044】
なお、上記活性化エネルギーとは、速度論的考察に基づくものではなく、説明の便宜上用いた用語であり、本発明のゲル化剤及び従来のゲル化剤を用いた場合のゲル形成に要するエネルギーを相対的に表したものである。
【0045】
また、本発明のゲル化剤の製造方法は、(CR910m鎖(ここで、R9,R10は、それぞれH又はアルキル基を表し、mは、5又は7である)を有するビスサリチルアルジミンと、2価の金属塩とを反応させることを特徴としている。
【0046】
また、本発明のゲル化剤の製造方法は、上記ゲル化剤の製造方法において、anti体を単離することを特徴としている。
【0047】
本発明の環状多核金属錯体を含むゲル化剤を得るためには、配位子として上記ビスサリチルアルジミンを用い、2価の金属塩と反応させる。この反応によって得られる環状多核金属錯体のうち、anti体がゲル形成能を有するため、好ましくは、anti体を単離するとよい。
【0048】
これにより、π-πスタッキングにより自己組織化する本発明のゲル化剤を製造することができる。また、種々の立体構造や電子的性質をもつ種々の非極性溶媒、極性溶媒に対して、安定なゲル化を行うことができ、優れたゲル形成能を発揮することができるゲル化剤を提供することができる。
【0049】
【実施例】
本発明の実施例について説明すれば、以下の通りである。
【0050】
〔配位子の合成〕
サリチルアルデヒド(ナカライテスク株式会社製)を2.00g量り取り、1,5-ジアミノペンタン(東京化成工業株式会社製)0.84g及びエタノール(関東化学株式会社製)20mLの混合液中にて、80℃で4時間加熱することにより、炭素数5のメチレン鎖を有するビスサリチルアルジミン(LH2[L=(o-OC64)CH=N-(CH2)5-N=CH(o-OC64)])を合成した。
【0051】
また、サリチルアルデヒドを3.00g量り取り、1,7-ジアミノヘプタン(東京化成工業株式会社製)1.60g及びエタノール10mLの混合液中にて、80℃で4時間加熱することにより、炭素数7のメチレン鎖を有するビスサリチルアルジミン(LH2[L=(o-OC64)CH=N-(CH2)7-N=CH(o-OC64)])を合成した。
【0052】
〔物性及び構造の決定〕
本実施例で得られたゲル化剤について、融点測定、質量分析、赤外吸収測定、1H及び13C-NMR測定を行い、構造決定を行った。
【0053】
なお、融点測定は、micro melting point apparatus(Yanagimoto社製)を用いて行った。質量分析は、FAB massスペクトルをmass spectrometer(JMS-DX 303 、JEOL社製)によって得て行った。赤外吸収測定は、FTIR-4100(Shimadzu社製)を用いて行い、測定用粉末としてKBrを用いた。1H-NMR測定及び13C-NMR測定は、JNM-GSX-270(JEOL社製)、JNM-AL-400(JEOL社製)、Unity-Inova 500(500MHz、Varian社製)を用いて行った。
【0054】
〔ゲル化の評価〕
ゲル化の評価は、従来行われているゲル形成能評定にて、一般的に用いられている方法(例えば、文献:X.Luo,B.Liu,Y.Liang,Chem.Commun.,p.1556(2001)、Y-c.Lin,R.G.Weiss,Macromolecule,20,p.414(1987)等)を用いた。すなわち、試験管内の視認及び、試験管をひっくり返した際に、試験管内の溶液の流動性が消失しているか否か(Inversion法)によって、評価した。なお、試験管内に、ゲル状析出物が一部確認される場合には、ゲル化していると判定せず、試験管内の溶液全体がゲル化する現象がみられた場合に、ゲル化していると判定した。
【0055】
また、溶液全体にゲル化現象がみられる最低濃度を最低ゲル化濃度にて表し、ゲル化の評価に用いた。最低ゲル化濃度は、次式で定義した。
JP0003813519B2_000003t.gif〔実施例1〕
上記配位子の合成にて得られた、炭素数5のメチレン鎖を有するビスサリチルアルジミン0.155g(0.50mmol)を量り取り、さらに、ビスサリチルアルジミンに対して等量となるように酢酸パラジウム(エヌイーケムキャット社製)0.112g(0.50mmol)を量り取った。
【0056】
次いで、ビスサリチルアルジミンに対して約1.3等量となるように、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン(東京化成工業株式会社製)0.130mL(0.665mmol)を量り取り、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミンの存在下、ベンゼン(関東化学株式会社製)0.20L中において、ビスサリチルアルジミンと酢酸パラジウムとを、6時間還流して反応させた(式(2))。
【0057】
【化3】
JP0003813519B2_000004t.gif【0058】
反応終了後、析出物を濾過した後、減圧下にて濾過液を濃縮した。そして、シリカゲル(Merck社製、silica gel 7734)及びベンゼン(関東化学株式会社製)をカラム充填剤として、カラムクロマトグラフィにより、上記濃縮液を単離精製し、式(2)に示すように、ゲル化剤であるanti体の環状2核パラジウム錯体anti-1を0.041g得た。得られたanti-1は、黄色固体であり、収率は20%であった。
【0059】
また、得られたanti-1について、物性及び構造を決定した(表1~表3、表5)。なお、表1に示す融点は分解点である。また、表3に示すスピン結合定数の欄内に記載のs、d、mは、それぞれ、スペクトルのピークが一重線、二重線、多重線であることを示している。
【0060】
〔実施例2〕
上記配位子の合成にて得られた、炭素数7のメチレン鎖を有するビスサリチルアルジミン0.987g(3.04mmol)を量り取り、さらに、ビスサリチルアルジミンに対して等量となるように酢酸パラジウム0.663g(3.04mmol)を量り取った。
【0061】
次いで、ビスサリチルアルジミンに対して約1.3等量となるように、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン0.823mL(4.05mmol)を量り取り、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミンの存在下、ベンゼン2.0L中において、ビスサリチルアルジミンと酢酸パラジウムとを、6時間還流して反応させた(式(3))。
【0062】
【化4】
JP0003813519B2_000005t.gif【0063】
反応終了後、析出物を濾過した後、減圧下にて濾過液を濃縮した。そして、シリカゲル及びベンゼンをカラム充填剤として、カラムクロマトグラフィにより、上記濃縮液を単離精製し、式(3)に示すように、ゲル化剤であるanti体の環状2核パラジウム錯体anti-2を0.507g得た。このanti-2は、黄色の固体であり、収率は38%であった。
【0064】
また、得られたanti-2について、物性及び構造を決定した(表1、表2、表4、表5)。なお、表1に示す融点は分解点である。また、表4に示すスピン結合定数の欄内に記載のs、d、mは、それぞれ、スペクトルのピークが一重線、二重線、多重線であることを示している。
【0065】
【表1】
JP0003813519B2_000006t.gif【0066】
【表2】
JP0003813519B2_000007t.gif【0067】
【表3】
JP0003813519B2_000008t.gif【0068】
【表4】
JP0003813519B2_000009t.gif【0069】
【表5】
JP0003813519B2_000010t.gif【0070】
〔比較例1〕
実施例1及び2と同様の手順にて、環状2核パラジウム錯体を合成し、カラムクロマトグラフィにより、syn体の環状2核パラジウム錯体を得た。
【0071】
〔比較例2〕
サリチルアルデヒドを2.51g量り取り、1,6-ジアミノヘキサン(東京化成工業株式会社)1.19g及びエタノール10mLの混合液中にて、80℃で4時間加熱することにより、炭素数6配位子のメチレン鎖を有するビスサリチルアルジミンを合成した。
【0072】
また、サリチルアルデヒドを3.00g量り取り、1,8-ジアミノオクタン(東京化成工業株式会社)1.77g及びエタノール20mLの混合液中にて、80℃で4時間加熱することにより、炭素数8のメチレン鎖を有するビスサリチルアルジミンを合成した。
【0073】
上記のようにして、合成したビスサリチルアルジミンをそれぞれ用いて、実施例1及び2と同様の手順及びモル比にて、結合鎖の炭素数が6又は8の環状2核パラジウム錯体を合成し、炭素数6の環状2核パラジウム錯体について、anti体及びsyn体を得た。また、炭素数8の環状2核パラジウム錯体はanti体及びsyn体の混合物として得た。
【0074】
〔実施例3〕
実施例1及び2にて得られたanti-1及びanti-2を、それぞれ、直径12mm、高さ75mmのガラス製試験管に3.00mg量り取った後、溶媒を加えて、加熱放冷してゲル化させた。ゲル化を確認した後、ゲルの重さを量り、ゲル化濃度を決定した。次いで、このゲルにさらに溶媒を添加して加熱することによって溶液に戻し、再度放冷した。この時点で、ゲル化が確認されれば、上記と同様にゲルを秤量してゲル化濃度を決定した。この操作をゲル化が確認されなくなるまで繰り返し、最低ゲル化濃度を決定した。
【0075】
溶媒としては、ベンゼン、トルエン、アセトン、シクロヘキサノン、酢酸エチルを用いた。次いで、ガラス製試験管にセプタムにて栓をし、加熱してanti-1又はanti-2を溶解した。その後、室温(25℃)にて静置して冷却し、試験管内のゲル化の有無を評価した。その結果を表6に示す。
【0076】
また、ゲル化剤としてanti-1を用い、溶媒として、ベンゼンを用いた場合に得られたキセロゲルを、シリコン板上にて減圧下で3日間乾燥した後、金を蒸着した。この金を蒸着したキセロゲルを、電子顕微鏡(S-5000M、Hitachi社製)にて観察した。その結果を図1に示す。
【0077】
【表6】
JP0003813519B2_000011t.gif【0078】
表中のN.D.は、ゲル化現象が見られなかったことを示す。表6に示すように、anti-1及びanti-2は、ベンゼン等の芳香族化合物、ケトン類のアセトン、シクロヘキサノン等、広範囲にわたる種類の溶媒に対して、高いゲル化現象を示した。
【0079】
特に、anti-1は、ベンゼンに対して、最低ゲル化濃度が0.7%という極めて高効率にて、ゲル化現象を示した。なお、本実施例では、anti-1及びanti-2によって形成されたゲルが、時間の経過とともに溶液や結晶等の形態に変化する現象は、観察されなかった。
【0080】
また、ゲル化剤としてanti-1を用い、溶媒としてベンゼンを用いた場合に得られたキセロゲルを、シリコン板上にて減圧下で3日間乾燥した後、金を蒸着した。この金を蒸着したキセロゲルを電子顕微鏡にて観察したところ、図1に示すように、繊維状の構造体が見られた。さらに、ナノメートルオーダーの繊維状構造体がより合わさって、太い繊維状構造体を形成していることがわかった。
【0081】
〔比較例3〕
比較例1及び2にて得られた環状2核パラジウム錯体を用いて、実施例3と同様の手順にて、ゲル形成能を評価した。
【0082】
比較例1及び2にてそれぞれ得られたsyn体及びanti体は、いずれも、ゲル化現象を示さなかった。また、比較例2にて得られた炭素数8の環状2核パラジウム錯体の混合物も、ゲル化現象を示さなかった。
【0083】
〔実施例4〕
実施例1及び2にて得られたanti-1及びanti-2を、それぞれ、直径12mm、高さ75mmのガラス製試験管に3.00mg量り取った後、溶媒を加えた。次いで、ガラス製試験管にセプタムにて栓をし、加熱してanti-1又はanti-2を溶解した。その後、ガラス製試験管を超音波洗浄器(ultrasonic cleaner B-220J(120W))中にて、25℃の水に浸し、超音波を最長6分間照射し、試験管内のゲル化の有無を評価した。
【0084】
ゲル化を確認した場合には、ゲルの重さを量り、ゲル化濃度を決定した。次いで、このゲルにさらに溶媒を添加して加熱して溶液に戻し、上記と同様に超音波照射を行った。この時点で、ゲル化が確認されれば、ゲルを秤量してゲル化濃度を決定した。以上の操作をゲル化が確認されなくなるまで繰り返し、最低ゲル化濃度を決定した。
【0085】
なお、溶媒としては、ベンゼン、トルエン、アセトン、酢酸エチルを用いた。その結果を表7に示す。
【0086】
【表7】
JP0003813519B2_000012t.gif【0087】
表7に示すように、超音波を照射することにより、いずれの溶媒においても、実施例3に比べて、著しいゲル形成能の向上が確認された。また、実施例3ではゲル化が起こらなかった酢酸エチルを溶媒として用いた場合にも、超音波の照射により、最低ゲル化濃度が0.7%という極めて低い濃度にて、速やかにゲル化する現象が見られた。さらに、いずれの溶媒においても、ゲル化に要する時間が著しく短縮された。
【0088】
以上により、表6に示す最低ゲル化濃度より低く、表7に示す最低ゲル化濃度よりも高い濃度範囲にて、超音波照射により、ゲル形成を任意に制御することができる。
【0089】
本発明は上述した各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0090】
【発明の効果】
本発明のゲル化剤は、以上のように、ビスサリチルアルジミンを配位子として有する環状多核金属錯体であって、具体的には、(CR910m鎖(ここで、R9,R10は、それぞれH又はアルキル基を表し、mは、5又は7である)を有するビスサリチルアルジミンと2価の金属塩とを反応させることによって得られるanti体の環状多核金属錯体である。
【0091】
それゆえ、水素結合やファンデルワールス力を自己組織化の凝集力として利用していた従来のゲル化剤に比べると、種々の流動性化合物に用いることができ、汎用範囲が広いという効果を奏する。つまり、本発明のゲル化剤は、平面分子や嵩高い分子、極性分子や非極性分子等、種々の立体構造や電子的性質をもつ分子全般を、π-πスタッキングによって構築された3次元構造体内に取り込むことができるという効果を奏する。そのため、種々の非極性溶媒、極性溶媒に対して、安定なゲル化を行うことができ、優れたゲル形成能を発揮することができるという効果を奏する。
【0092】
また、特に、有機溶媒に対して優れたゲル形成能を有し、高効率にてゲル化を行うことができるので、危険物の漏洩の回避、危険物の運搬、携帯可燃物の製造に利用できるという効果を奏する。さらに、機能材料の設計、新反応系の創出等、広範な分野での波及効果を生む可能性があるという効果を奏する。
【0093】
また、本発明のゲル化剤は、π-πスタッキングによって自己組織化するため、比較的大きな活性化エネルギーを有しており、自己組織化のために有意の活性化を必要とする。それゆえ、外部からの刺激に対する応答性を示し、ゲル形成に要する時間やゲル化現象が見られる濃度を制御し、ゲル形成能を自在に制御することができるという効果を奏する。
【0094】
従って、本発明のゲル化剤は、機能材料としての有用である可能性が高く、また、多くの流動性化合物を瞬時に外部から制御することを可能とするという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明におけるゲル化剤anti-1によってベンゼンがゲル化されて得られた、ベンゼンのキセロゲルの電子顕微鏡写真である。
【図2】(a)~(f)は、水素結合によって自己組織化する従来のゲル化剤の構造式である。
【図3】(a)(b)は、ファンデルワールス力によって自己組織化する従来のゲル化剤の構造式である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2