TOP > 国内特許検索 > 蛋白質ネクチン-3 > 明細書

明細書 :蛋白質ネクチン-3

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3623710号 (P3623710)
公開番号 特開2001-252077 (P2001-252077A)
登録日 平成16年12月3日(2004.12.3)
発行日 平成17年2月23日(2005.2.23)
公開日 平成13年9月18日(2001.9.18)
発明の名称または考案の名称 蛋白質ネクチン-3
国際特許分類 C12N 15/09      
C07K 14/78      
C07K 16/18      
C12N  5/10      
C12P 21/08      
FI C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/78
C07K 16/18
C12N 5/00 B
C12P 21/08
請求項の数または発明の数 9
全頁数 43
出願番号 特願2000-065595 (P2000-065595)
出願日 平成12年3月9日(2000.3.9)
審査請求日 平成14年2月26日(2002.2.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000228545
【氏名又は名称】日本ケミカルリサーチ株式会社
発明者または考案者 【氏名】高井 義美
【氏名】中西 宏之
【氏名】堀川 啓子
【氏名】高橋 健一
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】▲高▼ 美葉子
参考文献・文献 J Cell Biol(1999),Vol.145,No.3,p.539-549
J Biol Chem(2000),Vol.275,No.1,p.613-618
Genes Cells(1999),Vol.4,NO.10,p.573-581
調査した分野 C12N 15/00
C07K 14/00
C07K 16/00
MEDLINE(STN)
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列を有する蛋白質ネクチン-3。
【請求項2】
配列番号4のアミノ酸配列を有する蛋白質ネクチン-3。
【請求項3】
配列番号6のアミノ酸配列を有する蛋白質ネクチン-3。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの蛋白質ネクチン-3をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号1の塩基配列を有する請求項のポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号3の塩基配列を有する請求項のポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号5の塩基配列を有する請求項のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項4から7のいずれかのポリヌクレオチドを保有する組換えベクター。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかの蛋白質ネクチン-3に対する抗体。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、カドヘリン(cadherin)を介した細胞接着結合に関与する新規な蛋白質ネクチン-3と、これらの蛋白質を取得、利用するための遺伝子工学材料等に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
動物個体における様々な細胞現象、例えば、細胞接着、細胞運動および細胞の形状決定等においては、細胞接着分子、受容体およびチャンネル等の膜貫通蛋白質によって形成される接着装置が重要な役割を果たしている。なかでも細胞の接着結合(adherens junction:AJ)は、組織の整合性を維持するのに欠くことのできない役割を担っている。このような機構的役割に加えて、AJは細胞増殖や組織の形態形成のコントロールに関わっているという証拠が増えてきている。また、多くのF-アクチン結合タンパク質がアクチン細胞骨格を接着分子に連結するリンカーの役目を果たしていることが明らかにされてきている。しかしながらAJの分子的な理解は不十分であり、どのような分子がアクチン細胞骨格を細胞膜に結合させているかは明らかではなかった。
【0003】
この点を明らかにするため、この出願の発明者等は、ラットの脳から幾つかの新規なF-アクチン結合蛋白質を単離し、特に神経細胞に特異的で、シナプスに多く存在する蛋白質の構造を解析し、「ニューラビン」(neurabin)と命名して既に特許出願している(特開平10-276784号公報)。さらにこの出願の発明者等は、新規のF-アクチン結合タンパク質l-アファディン(afadin)と、このl-アファディンと結合する蛋白質ポンシンをそれぞれ単離し、特許出願している(l-アファディン:特開平11-89572号公報、ポンシン:特願平11-174687号)。そしてさらに、この出願の発明者等は、カドヘリンを介したAJ形成に対してアファディンとともに機能する新規な蛋白質としてネクチン(nectin)-1α、-1βおよびネクチン-2α、-2δを特定している(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999)。これらのネクチン-1、2は、Ca2+非依存性の免疫グロブリン様接着分子であり、アファディンおよびポンシンとともに、AJ形成に1つの系として作用することを見出している(Genes Cells 4:573-581, 1999:J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
細胞接着の分子機構を解明することは、例えば、癌腫の浸潤、転移のメカニズムの解明につながる可能性があり、癌腫の悪性度の診断やその治療法、治療薬等の開発への応用も期待される。そして、そのなような解明のためには、細胞接着に関与する分子の全貌を明らかにする必要がある。
【0005】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、細胞-細胞間接着結合に関与する新規な蛋白質を提供することを課題としている。
【0006】
また、この発明は、この蛋白質を遺伝子工学的に生産するための材料を提供することも課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この出願は、上記の課題を解決するものとしてい、以下の(1)から(9)の発明を提供する。
(1) 配列番号2のアミノ酸配列を有する蛋白質ネクチン-3。
(2) 配列番号4のアミノ酸配列を有する蛋白質ネクチン-3。
(3) 配列番号6のアミノ酸配列を有する蛋白質ネクチン-3。
(4) 前記発明(1)から(3)のいずれかの蛋白質ネクチン-3をコードするポリヌクレオチド。
(5) 配列番号1の塩基配列を有する前記発明(4)のポリヌクレオチド。
(6) 配列番号3の塩基配列を有する前記発明(4)のポリヌクレオチド。
(7) 配列番号5の塩基配列を有する前記発明(4)のポリヌクレオチド。
(8) 前記発明(4)から(7)のいずれかのポリヌクレオチドを保有する組換えベクター。
(9) 前記発明(1)から(3)のいずれかの蛋白質ネクチン-3に対する抗体。
【0008】
発明(1)~(3)の蛋白質ネクチン-3は、マウス由来の蛋白質であって、発明(4)のポリヌクレオチド(ゲノム遺伝子)から発現される3種類のスプライシングバリアントである(以下、それぞれネクチン-3α、ネクチン-3β、ネクチン-3γと記載する)。また、発明(4)のポリヌクレオチドから転写されるmRNAからは、それぞれ発明(5)~(7)のポリヌクレオチド(cDNA)が合成される。なお、この発明のネクチン-3は、ネクチン-1およびネクチン-2と同様に、全ての哺乳動物に共通して存在する蛋白質であることから、前記発明(1)から(3)の蛋白質ネクチン-3、およびこれらをコードするポリヌクレオチドはマウス由来のものに限定されるものではない。
【0009】
以下、前記の各発明について実施の形態を詳しく説明する。
【0010】
【発明の実施の形態】
発明(1)のマウス蛋白質ネクチン-3αは、配列番号1に塩基配列を示した1650bpのcDNA(発明(5)のポリヌクレオチド)にコードされた蛋白質であり、配列番号2に示した549のアミノ酸配列を有している。また、このネクチン-3αの全cDNAは、配列番号7に示した2178bpの塩基配列を有している。
【0011】
発明(2)のネクチン-3βは、配列番号3に塩基配列を示した1533bpのcDNA(発明(6)のポリヌクレオチド)にコードされた蛋白質であり、配列番号4に示した510のアミノ酸配列を有している。
【0012】
発明(3)のネクチン-3γは、配列番号5に塩基配列を示した1317bpのcDNA(発明(7)のポリヌクレオチド)にコードされた蛋白質であり、配列番号6に示した438のアミノ酸配列を有している。
【0013】
これらの蛋白質ネクチン-3は公知の方法により、マウスやその他の哺乳動物組織から単離する方法、この発明によって提供されるアミノ酸配列に基づき化学合成によってペプチドを調製する方法、あるいは発明(5)~(7)によって提供されるポリヌクレオチドを用いて組換えDNA技術で生産する方法などにより取得することができる。例えば、組換えDNA技術によってネクチン-3を取得する場合には、発明(5)~(7)のポリヌクレオチドを有するベクターからインビトロ転写によってRNAを調製し、これを鋳型としてインビトロ翻訳を行なうことによりインビトロで発現できる。また各ポリヌクレオチドを公知の方法により適当な発現ベクターに組換えれば(発明(8))、大腸菌、枯草菌、酵母、動物細胞等で、ポリヌクレオチドがコードするネクチン-3を大量に発現させることができる。
【0014】
この発明の蛋白質ネクチン-3を大腸菌などの微生物で発現させる場合には、微生物中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、DNAクローニング部位、ターミネーター等を有する発現ベクターに、この発明のポリヌクレオチドを挿入結合して組換えた発現ベクターを作成し、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、ポリヌクレオチドがコードしているネクチン-3を微生物内で大量生産することができる。あるいは、他の蛋白質との融合蛋白質として発現させることもできる。得られた融合蛋白質を適当なプロテアーゼで切断することによって、ポリヌクレオチドがコードする蛋白質部分のみを取得することもできる。
【0015】
この発明の蛋白質ネクチン-3を動物細胞で発現させる場合には、この発明のポリヌクレオチドを、動物細胞用プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する動物細胞用発現ベクターに組換え、動物細胞内に導入すれば、この発明の蛋白質ネクチン-3を動物細胞内で発現できる。
【0016】
以上のとおり方法によって得られるマウス蛋白質ネクチン-3は、例えば、この蛋白質を特異的に認識する抗体を作成するための抗原として使用することができる。
【0017】
発明(1)~(3)の蛋白質ネクチン-3には、配列番号2、4または6で表されるアミノ酸配列のいかなる部分アミノ酸配列を含むペプチド断片(5アミノ酸残基以上)も含まれる。これらのペプチド断片もまた抗体を作製するための抗原として用いることができる。
【0018】
発明(4)のポリヌクレオチドは、前記の蛋白質ネクチン-3α、βおよびγをコードする哺乳動物のゲノム遺伝子であって、例えば、発明(5)~(7)のポリヌクレオチドまたはその一部配列をプローブとして、既存のゲノムライブラリー等から単離することができる。
【0019】
発明(5)~(7)のポリヌクレオチドは、配列番号1、3または5で表される塩基配列を有することを特徴とするcDNAであり、前記ネクチン-3α、βおよびγをそれぞれコードしている。これらのポリヌクレオチドは、配列番号1、3または5の塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドプローブを用いて、マウスやその他の哺乳動物cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、この発明のポリヌクレオチドと同一のクローンを容易に得ることができる。あるいは、これらのオリゴヌクレオチドをプライマーとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて、目的ポリヌクレオチドを合成することもできる。
【0020】
一般に哺乳動物の遺伝子は個体差による多型が頻繁に認められる。従って配列番号1、3または5において、1または複数個のヌクレオチドの付加、欠失および/または他のヌクレオチドによる置換がなされているポリヌクレオチドもこの発明に含まれる。
【0021】
同様に、これらの変更によって生じる1または複数個のアミノ酸残基の付加、欠失および/または他のアミノ酸残基による置換がなされている蛋白質も、配列番号2、4または6で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質の活性を有する限り、この発明に含まれる。
【0022】
発明(5)~(7)のポリヌクレオチドには、配列番号1、3または5で表される塩基配列のいかなる部分塩基配列を含むcDNA断片(10bp以上)、あるいはそれらのアンチセンス鎖からなるポリヌクレオチドも含まれる。
【0023】
発明(9)の抗体は、蛋白質ネクチン-3それ自体、またはその部分ペプチドを抗原として、公知の方法により、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体として得ることができる。
【0024】
以下、この発明のネクチン-3の構造とその機能確認について行った実験結果を説明する。
1.方法
1.1 マウス・ネクチン-3cDNAの分子クローニング
ESTデータベースから、ネクチン-1および-2に類似しているが、同一ではない3種類のマウスESTクローン(AI1428160, AA492633, AA497887)をマウス脳cDNA(Clontech社)からPCR増幅した。これらcDNA混合物をプローブとして用いてマウスcDNAライブラリー(Stratagene社)をスクリーニングし、全長cDNAを得た。塩基配列の決定は、DNA sequencer(ABI 373)を用いて行った。
1.2 ネクチン-3発現ベクターの構築
ベクターpCAGIPuro(J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)、pCAGIPuro-FLAG、pGEX-KG(Anal. Biochem. 192:262-267, 1991)、pMal-C2(New England Biolabs Inc.)およびpFastBac1-Msp-Fc(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999)を用いて以下のネクチン-3発現ベクターを構築した。なお、pCAGIPuro-FLAGは、prepro-trypsinシグナルペプチドとpFLAG-CMV1(Eastman Kodak Co.)のFLAGエピトープをpCAGIPuroにサブクローニングすることによって作成した。
(a)pCAGIPuro-nectin-3α:配列番号2の1-549(全長)
(b)pCAGIPuro-FLAG-nectin-3α:配列番号2の56-549
(c)GST-nectin-3α-CP:配列番号2の433-549(細胞質領域)(d)GST-nectin-3α-CP-ΔC:配列番号2の433-545(C端4アミノ酸残基の 欠失)
(e)GST-nectin-3γ-CP:配列番号6の397-438(細胞質領域)
(f)pFastBac1-Msp-Fc-nactin-3α-EX:配列番号2の56-400(細胞外領域)
1.3 形質転換体細胞の構築
L細胞(京都大学より入手)を10%ウシ胎児血清含有のDMEM培地で培養し、形質転換L細胞を作成した。全長ヒト・ネクチン-1αを発現するL細胞株(nectin-1α-L cells)または全長マウス・ネクチン-2αを発現するL細胞株(nectin-2α-L cells)は、それぞれ文献(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999、J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)に記載の方法で作成した。全長マウス・ネクチン-3αを発現するL細胞株(nectin-3α-L cells)は、組換え体ベクターpCAGIPuro-nectin-3αを用いて作成した。ネクチン-1αとFLAG-ネクチン-3αを共に発現する細胞株(nectin-1α/3α-L cells)、またはネクチン-2αとFLAG-ネクチン-3αを共に発現する細胞株(nectin-2α/3α-L cells)は、それぞれ、細胞株(nectin-1α-L cellsおよびnectin-2α-L cells)に、Lipofectamine reagent(GIBCO BRL)を用いて、pCAGIPuro-FLAG-nectin-3αをトランスフェクションすることによって作成した。各細胞株は、1日培養後、培地を交換し、5μg/mlのpuromycin(Sigma Chemical Co.)によって選択した。
1.4 抗体の作成
ネクチン-3αに対するウサギ抗血清(ポリクローナル抗体)を、GST-nectin-3α-CPを抗原として作成した。ネクチン-3に対するラットモノクローナル抗体は、ネクチン-3αの細胞外領域とIgG Fcとの融合蛋白質を抗原として作成した。ウサギ抗ネクチン-1αポリクローナル抗体は文献(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999)に記載の方法で作成した。また、ネクチン-1αのアミノ酸位置450-468に対応する合成ペプチドを抗原としてウサギ抗ネクチン-1αポリクローナル抗体を文献(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999)に記載の方法により作成した。さらに、ラット抗ネクチン-2モノクローナル抗体を文献(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999、Exp. Cell Res. 235:374-384, 1997)に記載の方法で、また、マウス・モノクローナルおよびウサギ・ポリクローナル抗l-アファディン抗体を文献(J. Cell Biol. 139:517-528, 1997、Oncogene 18:1609-1618, 1999)に記載の方法で作成した。ラット抗E-カドヘリンモノクローナル抗体は竹市博士(京都大学)から供与された。マウス抗FLAGモノクローナル抗体はEastman Codakより購入した。
1.5 その他の方法
細胞凝集アッセイ(Cell Aggregation Assay)は、文献(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999、J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)に記載の方法に従って行った。また、2種類のL細胞株間での混合細胞凝集アッセイは、文献(J. Cell Biol. 103:171-187, 1986)の記載に従い、一方のL細胞株をDiI(Molecular Probe Inc.USA)によって事前標識して行った。
【0025】
化学的交叉結合(Chemical Cross-linking)は、文献(Blood 92:4602-4611, 1998、J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)に記載の方法に従って行った。免疫沈降(Immunoprecipitation)は、文献(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999、J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)に記載の方法に従って行った。培養細胞の免疫蛍光顕微鏡観察は、文献(J. Cell Biol. 139:517-528、J. Cell Biol. 145:539-549, 1999、J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)に記載の方法に従って行った。蛋白質濃度の測定は、文献(Anal. Biochem. 72:248-254, 1976)の記載に従って、ウシ血清アルブミンを対照とする方法により行った。SDS-PAGEは文献(Nature 227:680-685, 1970)の記載に従って行った。
【0026】
また、アフィニティークロマトグラフィーは以下のとおりに行った。アファディンPDZドメインのMBP融合蛋白質はamylose resin beads(New England Biolabs Inc.)に固定化した。GST-nectin-3α-CPおよびGST-nectin-3α-CP-ΔCはそれぞれアフィニティービーズに固定化した。これらのビーズをPBS(0.1% Triton X-100含有)で十分に洗浄した後、PBS(20 mM maltose, 0.1% Triton X-100含有)により溶出した。
2.結果
2.1 ネクチン-3cDNAのクローニングとその特徴
マウスcDNAライブラリーから得られたcDNAクローンは、配列番号7の塩基配列を有しており、1647bpからなる翻訳領域(配列番号1)に549アミノ酸配列(配列番号2)からなる蛋白質(推定分子量60,580)をコードしていた。また、このクローンは前記ESTクローンを全て含んでいた。この蛋白質をネクチンー3αと命名した。
【0027】
このネクチン-3αのアミノ酸配列は、N端疎水性シグナルペプチド(配列番号2の位置1-55)および膜貫通領域(配列番号2の位置405-421)を有していた。また、N結合型グリコシル化は位置73、83、125、186、222および331に見られた。また、このネクチン-3は、細胞外領域に3つのIg様ドメインを含んでおり、細胞質領域にはC端保存モチーフを有していた(表1)。
【0028】
【表1】
JP0003623710B2_000002t.gif
【0029】
以上のとおりのネクチン-3αの構造的な特徴は、ネクチン-1α、-1β、-2αおよび-2δと類似している。ホモロジーの程度は領域によって異なるが、ネクチン-3αの細胞外領域のアミノ酸配列は、ネクチン-1およびネクチンー2とそれぞれ35.9%および30.7%同一であった。
【0030】
また、ネクチン-3αを単離する過程で、2つのスプライシングバリアント(ネクチン-3βおよび-3γ)が見出された。ネクチン-3βのcDNA(翻訳領域)は1533bpの塩基配列(配列番号3)を有しており、510のアミノ酸配列(配列番号4)からなる蛋白質(推定分子量55,808)をコードしている。このネクチン-3βの細胞外領域(配列番号4の位置1-357)はネクチン-3αのそれと同一であるが、膜貫通領域および細胞質領域(配列番号4の位置358-510)はネクチン-3αとは異なっている。しかし、ネクチン-3βはC端保存モチーフを有していた(表1)。
【0031】
ネクチン-3γのcDNA(翻訳領域)は1317bpの塩基配列(配列番号5)を有しており、438のアミノ酸配列(配列番号6)からなる蛋白質(推定分子量47,259)をコードしている。このネクチンー3γの細胞外領域、膜貫通領域および細胞質領域はネクチン-3βと同一であるが、ネクチン-3γはC端保存モチーフを欠失している(表1)。
【0032】
図1は、以上のネクチン-3α、-3βおよび-3γのアミノ酸配列(1文字記号)の比較図である。
【0033】
なお、以下の実験では主としてネクチン-3αを対象とする。その理由は、様々な組織を対象としたノーザンブロット分析の結果、ネクチン-3αが主要なスプライシングバリアントであることが確認されたからである(図8、B1-B3参照)。
2.2 ネクチン-3αのtrans Homo-Interactionと cic Homo-dimer Formation
nectin-1α-L cellsおよびnectin-2α-L cellsを用いた研究により、ネクチン-1αおよびネクチンー2αが細胞-細胞接着活性(trans Homo-Interaction)を示すことが確認されている(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999、J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)。そこで先ず、ネクチン-3αが同様の活性を有するか否かを調べた。抗ネクチン-3ポリクローナル抗体は、細胞株nectin-3α-L cellsの発現産物について、分子量約100 kDaの2つの蛋白質バンドを認識した(図2A、図3)。これらは、グリコシル化等の翻訳後修飾の違いによるものと考えられる。また、これらの分子量は、アミノ酸配列から推定される分子量とも異なるが、これもまたグリコシル化の相違によるものと考えられる。さらに、各細胞株におけるネクチン-1α、-2αおよび-3αの発現レベルは同等であった(データ示さず)。
【0034】
次に、細胞株nectin-3α-L cellsを用いてネクチン-3αの細胞凝集活性を調べた。その結果、ネクチン-3αは経時的に細胞凝集活性を示した(図2B、C1、C2)。この活性はEDTA添加によって影響されないことから(データ示さず)、ネクチン-3αの細胞-細胞接着活性はCa2+非依存性であることが確認された。以上の結果から、ネクチン-3αは、ネクチン-1α、-2αおよび-2δと同様(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999、Exp. Cell Res. 235:374-384, 1997、 Blood 92:4602-4611, 1998、J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)のCa2+非依存性のホモフィリックCAM(細胞接着分子)であることが確認された。
【0035】
ネクチン-1αおよび-2αはcis homo-dimerを形成することが知られているので(J. Biol. Chem. 275:613-618, 2000)、ネクチン-3αについても同様に活性について調べた。細胞株nectin-3α-L cellsを単一細胞に分離し、細胞表面クロスリンカーBS3と共にインキュベートし、抗ネクチン-3αポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロット分析を行った。その結果、2量体に対応する分子量約200~220 kDaのバンドが確認された(図3)。また、より高分子量のバンドも検出された。この交叉結合は単一細胞懸濁により行ったので、このダイマーやオリゴマーはtrans homo-interactionよりもcis homo-interactionによるものである可能性が高い。
2.3 ネクチン-3αとネクチン-1αまたは-2αとの trans Hetero-interaction
ネクチンファミリーの各メンバーがヘテロフィリックな細胞-細胞接着活性(trans hetero-iteraction)を示すか否かを調べるため、混合細胞凝集アッセイを行った。DiI標識された細胞株nectin-1α-L-cellsが非標識nectin-2α-L-cellsと混合された場合には、常に、標識細胞だけか、または非標識細胞だけが凝集し(図4A1-A3)、両方のL細胞株からなる凝集塊はほとんど検出されなかった。一方、DiI標識された細胞株nectin-3α-L-cellsが非標識細胞株nectin-1α-L-cellsと混合された場合には、標識細胞と非標識細胞とからなる凝集塊が観察された(図4B1-B3)。このことは、ネクチン-3αがネクチン-1αとtrans hetero-interactionを形成することを示している。また、同様の結果が、ネクチン-3αとネクチン-2αについても得られた(図4C1-C3)。
【0036】
さらにこの結果を確認するため、免疫蛍光顕微鏡観察を行った。細胞株nectin-1α-L-cellsと細胞株nectin-2α-L-cellsとを共培養した場合には、ネクチン-1αとネクチン-2αは、それぞれのL細胞株の細胞-細胞接触部位に局在していた(図5A1-A3)が、ネクチンー1αおよびネクチン-2αは2つのL細胞株同士の接触部位には検出されなかった。一方、細胞株nectin-3α-L-cellsと細胞株nectin-1α-L-cellsとを共培養した場合には、ネクチン-3αとネクチン-1αは、2つのL細胞株同士の接触部位に共存していた(図5B1-B3)。同様の結果は、細胞株nectin-3α-L-cellsと細胞株nectin-2α-L-cellsとを共培養した場合にも観察された(図5C1-C3)。これらの結果から、ネクチン-3αはネクチン-1αおよび-2αとtrans hetero-interactionを形成するが、ネクチン-1αと-2αはそのような相互作用を示さないことが確認された。
【0037】
次に、ネクチンファミリーの各メンバーが、trans homo-interactionを形成するか、あるいはtrans hetero-interactionを形成するかを調べるため、混合細胞凝集アッセイを用いて2種類の細胞凝集を分析した。4細胞凝集の結果と同様に、細胞株nectin-1α-L-cellsと細胞株nectin-2α-L-cellsとを混合した場合には、ホモ型の2細胞凝集が形成された(図6A)。これに対して、細胞株nectin-1α-L-cellsと細胞株nectin-3α-L-cellsとを混合した場合にはヘテロ型の2細胞凝集が形成され、ホモ型の細胞凝集はほとんど観察されなかった(図6B)。同様の結果は、細胞株nectin-3α-L-cellsと細胞株nectin-2α-L-cellsとを混合した場合にも観察された(図6C)。以上の結果から、ネクチン-3αとネクチン-1αまたは-2αとのtrans hetero-interactionの親和性は、ネクチン-1α、-2αまたは-3αのtrans homo-interactionの親和性より明らかに強いことが確認された。
2.4 ネクチンー3αとネクチン-1αまたは-2αとのcis hetero-dimer形成
ネクチンー3αがネクチン-1αまたは-2αとcis hetero-dimerを形成するか否かを調べるため、細胞株nectin-1α/3α-L cellsおよび細胞株nectin-2α/3α-L cellsを用いて、FLAG-ネクチン-3αをそれぞれ細胞株nectin-1α-L cellsおよび細胞株nectin-2α-L cellsで発現させた。その結果、FLAG-ネクチン-3αは、ネクチン-1αまたは-2αのcis dimerのサイズを変えなかった(図7A1およびA2)。細胞株nectin-1α/3α-L cellsに細胞表面交叉結合を行い、次いで抗FLAGモノクローナル抗体を用いて免疫沈降を行うと、ネクチン-1αは上清中に回収され、FLAG-ネクチン-3αとは共免疫沈降しなかった(図7B1)。同様の結果は細胞株nectin-2α/3α-L cellsにおいても得られた(図7B2)。以上の結果から、ネクチン-3αは、ネクチン-1αまたは-2αとはcis hetero-dimerを形成しないことが確認された。
2.5 ネクチンー3αの組織分布および細胞内局在
以前の報告(J. Virol. 66:2807-2813, 1992、Gene 155:261-265, 1995、Gene 159:267-272, 1995)と同様に、ノーザンブロット分析の結果からは、ネクチン-1は脳で優性に発現しており、ネクチン-2は全身性に発現していた(図8A1およびA2)。ネクチン-3の3種類のスプライシングバリアントに共通な翻訳領域をプローブとして用いたノーザンブロット分析では、様々な組織において幾つかのmRNAバンドが検出された(図8A3)。そこで、各バリアントの組織分布を調べるために、各バリアントに特異的なcDNAプローブを用いた。ネクチン-3αは約5.2-kb、3.8-kb、3.3-kbおよび2.7-kbのmRNAバンドを示し、これらは精巣で有意に発現し、他の組織(心臓、脳、肺、肝臓および腎臓)では僅かに発現していた(図8B1)。ネクチン-3βは約5.2-kbおよび3.3-kbのmRNAバンドを示し、これらは精巣で発現していた(図8B2)。ネクチン-3γは精巣において約3.3-kbのmRNAバンドを示し、肺、肝臓および腎臓において2.1-kbのmRNAバンドを示した(図8B3)。
【0038】
次に、ネクチン-3αの細胞内局在を調べるため、抗ネクチン-3αポリクローナル抗体を用いて免疫蛍光顕微鏡観察を行った。ネクチン-3αは、マウス小腸吸収上皮の接着複合体領域にネクチン-2と共存していた(図9)。以上の結果から、ネクチン-2と同様に(J. Cell Biol. 145:539-549, 1999)、ネクチン-3αもまたカドヘリン性細胞-細胞AJsに局在していることが示唆された。
2.6 ネクチン-3とアファディンとの直接結合
ネクチン-3αがアファディンと直接に結合するか否かを調べるため、アフィニティークロマトグラフイーを行った。ネクチン-3αの細胞質領域のGST融合蛋白質(GST-nectin-3α-CP)は、amylose resin beadsに固定化されたMBP-afadin-PDZ(アファディンのPDZ領域とのMBP融合蛋白質)に結合した(図10)。ネクチン-3αのアファディンへの結合の化学量論は約1:1であった。これに対して、細胞質領域のC端4アミノ酸残基を欠失したネクチンー3αとのGST融合蛋白質(GST-nectin-3α-CP-ΔC)は結合しなかった。同じく、C端の保存モチーフを欠失しているネクチン-3γの細胞質領域とのGST融合蛋白質もアフィニティービーズとは結合しなかった。
【0039】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、ネクチン-1および-2と同一の蛋白質ファミリーに属する新規蛋白質ネクチン-3が提供される。この蛋白質は、細胞結合の分子機構の全容を解明するための重要な情報を提供するばかりか、例えば癌腫の浸潤、転移のメカニズムの解明につながる可能性もあり、癌腫の悪性度の診断やその予防・治療法、治療薬等の開発に有用である。
【0040】
【配列表】
JP0003623710B2_000003t.gifJP0003623710B2_000004t.gifJP0003623710B2_000005t.gifJP0003623710B2_000006t.gifJP0003623710B2_000007t.gifJP0003623710B2_000008t.gifJP0003623710B2_000009t.gifJP0003623710B2_000010t.gifJP0003623710B2_000011t.gifJP0003623710B2_000012t.gifJP0003623710B2_000013t.gifJP0003623710B2_000014t.gifJP0003623710B2_000015t.gifJP0003623710B2_000016t.gifJP0003623710B2_000017t.gifJP0003623710B2_000018t.gifJP0003623710B2_000019t.gifJP0003623710B2_000020t.gifJP0003623710B2_000021t.gifJP0003623710B2_000022t.gifJP0003623710B2_000023t.gifJP0003623710B2_000024t.gifJP0003623710B2_000025t.gifJP0003623710B2_000026t.gifJP0003623710B2_000027t.gifJP0003623710B2_000028t.gifJP0003623710B2_000029t.gifJP0003623710B2_000030t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】ネクチン-3α、-2βおよび-3γのアミノ酸配列の比較図である。背景黒領域は3つのバリアントでの共通配列、背景灰色領域はネクチン-3βと-3γでの共通配列、下線はシグナルペプチド、2重下線は膜貫通領域、星印はアスパラギンのグリコシル化部位を示す。
【図2】ネクチン-3αのtrans homo-interactuionを確認した結果である。(A)はネクチン-3αの発現レベルであり、細胞の溶出物をSDS-PAGEに展開し、抗ネクチン-3αポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロット分析した。(B)は細胞凝集活性であり、○は親L細胞株、●はネクチン-3α発現L細胞株である。(C)は細胞凝集活性であり、C1は親L細胞株、C2はネクチン-2α発現L細胞株である。バーは100μmを示す。
【図3】ネクチン-3αのcis homo-dimer形成を確認した結果である。ネクチン-3α発現細胞をBS3の存在下かたは非存在下でインキュベートし、各細胞溶出物をSDS-PAGEに展開し、抗ネクチン-3αポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロット分析した。矢印は単量体、矢頭は2量体を示す。
【図4】混合細胞凝集活性を調べた結果である。A1-A3は標識化ネクチン-1α発現L細胞株と非標識化ネクチン-2αは発現L細胞株;B1-B3は標識化ネクチン-3α発現L細胞株と非標識化ネクチン-1α発現L細胞株;C1-C3は標識化ネクチン-3α発現L細胞株と非標識化ネクチン-2α発現L細胞株;A1、B1、C1は干渉コントラスト顕微鏡画像;A2、B2、C2は蛍光顕微鏡画像;A3、B3、C3は統計分析の結果である。バーは40μmを示す。
【図5】2種類のL細胞株の共培養の免疫蛍光顕微鏡画像である。A1-A3はネクチン-1α発現L細胞株と-2α発現L細胞株;B1-B3はネクチン-3α発現L細胞株と-1α発現L細胞株;C1-C3はネクチン-3α発現L細胞株と-2α発現L細胞株;A1、B2はネクチン-1α;A2、C2はネクチン-2α;B1はネクチン-3α(モノクローナル抗体);C1はネクチン-3α(ポリクローナル抗体);A3、B3、C3は併用染色である。バーは10μmを示す。
【図6】trans hetero-iteractionの親和性を確認した結果であり、2細胞凝集の組成(標識化細胞と陽標識化細胞)を定量的に分析した。Aは標識化ネクチン-1α発現L細胞株と非標識化ネクチン-2α発現L細胞株;Bは標識化ネクチン-3α発現L細胞株と非標識化ネクチン-1α発現L細胞株;Cは標識化ネクチン-3α発現L細胞株と非標識化ネクチン-2α発現L細胞株である。
【図7】ネクチン-3αとネクチン-1αまたは-2αとのcis hetero-dimer形成を調べた結果である。Aはcis dimer形成の比較である。A1はネクチン-1α発現L細胞株(レーン1)と-1α/3α発現L細胞株(レーン2);A2はネクチン-2α発現L細胞株(レーン1)と-2α/3α発現L細胞株(レーン2)である。Bは免疫沈降の結果であり、B1はネクチン-1α/3α発現L細胞株、B2はネクチン-2α/3α発現L細胞株、レーン1は細胞抽出物、レーン2は上清、レーン3は沈殿物である。矢印は単量体、矢頭は2量体である。
【図8】ネクチン-3の組織分布を調べた結果である。Aはネクチン-1、-2および-3のノーザンブロット分析の結果であり、A1はネクチン-1;A2はネクチン-2;A3はネクチン-3である。Bはネクチン-3α、-3βおよび-3γのノーザンブロット分析の結果であり、B1はネクチン-3α、B2はネクチン-3β、B3はネクチン-3γである。レーン1は心臓、レーン2は脳、レーン3は脾臓、レーン4は肺、レーン5は肝臓、レーン6は骨格筋、レーン7は腎臓、レーン8は精巣である。
【図9】マウス小腸吸収上皮におけるネクチン-3αの細胞内局在を調べた結果である。Aはネクチン-3α;Bはネクチン-2;Cは併用である。星印は小腸の内部空間を示す。バーは10μmである。
【図10】アファディンとネクチン-3αとの直接的な結合を調べた結果である。矢印は融合蛋白質GST-nectin-3α-CP、矢頭は融合蛋白質MBP-afadin-PDZを示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9