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明細書 :セメント系組成物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4028966号 (P4028966)
公開番号 特開2002-234024 (P2002-234024A)
登録日 平成19年10月19日(2007.10.19)
発行日 平成20年1月9日(2008.1.9)
公開日 平成14年8月20日(2002.8.20)
発明の名称または考案の名称 セメント系組成物の製造方法
国際特許分類 B28C   7/00        (2006.01)
B09B   3/00        (2006.01)
C04B  18/10        (2006.01)
C04B  28/02        (2006.01)
FI B28C 7/00
B09B 3/00 ZAB
B09B 3/00 301S
B09B 3/00 301M
C04B 18/10 A
C04B 28/02
請求項の数または発明の数 5
全頁数 12
出願番号 特願2001-031622 (P2001-031622)
出願日 平成13年2月7日(2001.2.7)
審査請求日 平成15年3月10日(2003.3.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】松藤 泰典
【氏名】小山 智幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100094835、【弁理士】、【氏名又は名称】島添 芳彦
審査官 【審査官】山崎 直也
参考文献・文献 特公昭39-004866(JP,B1)
特開平11-171615(JP,A)
特開昭63-282145(JP,A)
特開2001-002459(JP,A)
特開平11-221821(JP,A)
調査した分野 B28C 1/00 -9/04
特許請求の範囲 【請求項1】
石炭灰、セメント、水及び骨材を配合してセメントモルタル又はコンクリートを調合するセメント系組成物の製造方法において、
石炭灰を24時間以上連続的に混水攪拌してスラリー化し、かくして得られた石炭灰スラリーをセメント、水及び骨材と混合し、セメントモルタル又はコンクリートを調合することを特徴とするセメント系組成物の製造方法。
【請求項2】
石炭灰は、72時間以上混水攪拌されることを特徴とする請求項1に記載のセメント系組成物の製造方法。
【請求項3】
混水攪拌により生成した石炭灰スラリーを半日以上静置した後、セメント、水及び骨材と混合することを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント系組成物の製造方法。
【請求項4】
石炭灰の混水攪拌時間を制御することにより、セメント系組成物のフレッシュ性状を制御することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のセメント系組成物の製造方法。
【請求項5】
石炭灰の混水攪拌時間を制御することにより、セメント系組成物の硬化時又は硬化後の物性を制御することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載のセメント系組成物の製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント系組成物の製造方法に関するものであり、より詳細には、石炭灰をセメント及び骨材と混合してセメントモルタル又はコンクリートを製造するセメント系組成物の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
石炭火力発電所の微粉炭燃焼ボイラ等から副産物として多量に発生する石炭灰は、セメント混合材、コンクリート混和材、コンクリート用骨材等の用途に有効利用され、残余の石炭灰は、埋立て処分等により廃棄処理されている。近年では、約30~40%程度の石炭灰がリサイクル材料として有効利用されているが、約60~70%の石炭灰は、破棄処分されており、石炭灰の有効利用率は、依然として低率である。現状では、石炭灰の有効利用率を高めることができたとしても、50%程度の利用率が、その限界であろうと一般に認識されている。
【0003】
石炭灰は、その平滑且つ球状の粒子形状により、コンクリートの流動性を向上する性質を備えるので、ワーカビリティ、コンシステンシー、プラスティシティー、フィニッシャビリティ等のコンクリートのフレッシュ性状を改善し得る混和材として知られている。
【0004】
また、セメントの水和反応の際には、水酸化カルシウムが生成するが、石炭灰に含まれる可溶性シリカは、可溶性水酸化カルシウムとポゾラン反応して珪酸カルシウムを生成し、コンクリートの硬化組織を緻密化する性質を有するので、長期強度の増大、水密性の向上、化学薬品に対する抵抗性の向上、更には、水和熱の低減など、硬化時又は硬化後のコンクリートの性状を改善する石炭灰の作用が既に認められている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように高流動性コンクリートの原料として有利な性質を備える石炭灰は、大量利用可能なリサイクル材として、近年殊に注目されている。
【0006】
しかしながら、石炭灰を使用したコンクリートの製造においては、石炭灰中の未燃カーボンが化学混和剤(AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤)を吸着することから、例えば、石炭灰を含まないコンクリートと同一量のAE剤(空気連行剤)を配合した場合、コンクリートの目標空気量を所望の如く達成し難く、このため、多量のAE剤をコンクリート原料に混入して、所要の空気量を確保する必要が生じるので、セメント系組成物の製造コストが高額化してしまう。また、減水剤又は高性能AE減水剤は、主として、セメント系組成物の流動性付与を目的とした化学混和剤として知られているが、石炭灰の灰種によっては、所期の流動性を確保すべく、減水剤又は高性能AE減水剤等の化学混和剤を大量に添加しなければならない場合がある。しかし、この種の化学混和剤の多量混合は、一般に、セメント系組成物の製造コスト増大、凝結時間の遅延等につながる。かくして、多量の化学混和剤(AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤)の使用は、凝結遅延、初期強度低下、低温時の強度発現の遅延等の諸問題を生じさせるなど、コンクリートの施工性及び強度を損なう結果を招くので、望ましくない。
【0007】
同時に、石炭灰は、酸化カルシウム(CaO)及び二酸化硫黄(SO3) 等の膨張成分を比較的多量に含有するので、石炭灰を混合したコンクリートにおいては、膨張ひび割れに起因するコンクリート組織の部分破壊が、硬化時又は硬化後に発生する懸念がある。
【0008】
このような事情より、現状では、コンクリート原料としての石炭灰の大量消費は実現しておらず、石炭灰をコンクリート原料として使用する上で、何らかの対策が必要であると一般に把握されている。例えば、特開平10-310457号公報に開示されたコンクリート製造方法では、石炭灰、セメント及び水を混合し且つ硬化した硬化体を粉砕して骨材を製造し、かくして製造した骨材を更にセメント及び水と混合してコンクリートを製造しており、また、特開平11-228203号公報に開示されたコンクリート製造方法においては、膨張抑制材として短繊維をコンクリート内に混入し、短繊維により膨張成分の膨張エネルギーを吸収するとともに、コンクリートの全域にケミカルプレストレスを導入している。しかしながら、このようなコンクリート製造方法は、コンクリート製造工程を極端に煩雑化したり、膨張抑制材等の補強材料を混入する必要を生じさせるなど、容易に実現し難い工程を要することから、現状では、実用化するには至っていない。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、石炭火力発電所の副産物である石炭灰をコンクリート原料として大量に有効利用するとともに、コンクリート原料としての石炭灰の諸問題、即ち、化学混和剤の多量使用による製造コストの高額化、凝結の遅延、初期強度の低下等の問題や、石炭灰中の膨張成分による膨張ひび割れの問題を解決し、産業副産物である石炭灰の大量消費を可能にするセメント系組成物の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段及び作用】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、石炭灰を混合攪拌機内で混水攪拌してスラリー化した後にセメント及び骨材等と混合にすることにより、上記課題を解決し得ることを見い出し、かかる知見に基づき、本発明を達成したものである。
即ち、本発明は、石炭灰、セメント、水及び骨材を配合してセメントモルタル又はコンクリートを調合するセメント系組成物の製造方法において、石炭灰を24時間以上連続的に混水攪拌してスラリー化し、かくして得られた石炭灰スラリーをセメント、水及び骨材と混合し、セメントモルタル又はコンクリートを調合することを特徴とするセメント系組成物の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の製造方法によれば、石炭灰は、混合攪拌機により水と一緒に攪拌され、スラリー化した後、所定の配合比でセメント、水及び骨材と混合され、セメントモルタル又はコンクリートに調合される。石炭灰の混水攪拌は、好適には半日、更に好適には1日(24時間)以上の間、連続的に実施される。混水攪拌工程により均一化した石炭灰スラリーは、攪拌停止後直ちに、或いは、静置時間を経た後、セメント、水及び骨材と混合される。なお、24時間以内の混水攪拌であっても、或いは、非連続攪拌又は断続的攪拌であっても、同等の効果が認めれるが、24時間以上の連続混水攪拌により石炭灰スラリーの品質ないし性状が安定する現象が認められたので、スラリーの分散性又は安定性の観点からは、連続攪拌を行うことが望ましいと考えられる。所望により、石炭灰は、3日(72時間)以上連続の混水攪拌工程によりスラリー化される。
【0012】
石炭灰スラリーを配合したセメント系組成物(セメントモルタル又はコンクリート)は、乾燥状態の石炭灰や、単に加水後静置した石炭灰を配合したセメント系組成物に比べて、著しく高い流動性を示す。ほぼ1日(24時間)以上の連続的な混水攪拌工程により生成した石炭灰スラリーは、均一且つ安定した物性を既に備え、その後の静置時間の長短は、セメント系組成物の流動性に大きく影響しない。
【0013】
本発明に従って石炭灰スラリーを配合したセメント系組成物によれば、化学混和剤(AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤)の使用量を増大することなく、コンクリートの所望の流動性を達成し得る。3日以上の混水攪拌工程を経た石炭灰スラリーを使用した場合、化学混和剤の添加量又は添加率は、乾燥状態の石炭灰を使用したセメント系組成物に比べて、灰種によっては、1/2以下に大幅削減することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る製造方法によれば、乾燥状態の石炭灰をセメント、水及び骨材と混合する従来の製造方法における問題点、即ち、石炭灰を配合したセメント系組成物の膨張性及び強度低下の問題を少なくとも部分的に解消することができる。
【0015】
3日以内の混水攪拌を行った石炭灰スラリーを配合した場合、セメント系組成物は、攪拌時間の増大に相応して、膨張性及び強度低下傾向を喪失し、3日以上の混水攪拌時間を確保した石炭灰スラリーを配合した場合、セメント系組成物の膨張性及び圧縮強度低下は、概ね解消した。これは、石炭灰の混水攪拌により、石炭灰中の遊離石灰(CaO)が概ね消化し尽くしたことに起因すると考えられる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の好適な実施形態によれば、石炭灰は、24時間(1日)以上、更に好ましくは、72時間(3日)以上の間、連続的に混水攪拌される。24時間(1日)以上の連続混水攪拌により生成した石炭灰スラリーは、安定したスラリー性状を示すので、攪拌停止後に半日以上静置した石炭灰スラリーをセメント系組成物の配合に使用することができる。
【0017】
本発明の好適な実施形態において、石炭灰及び水は、強制練りパン型の混合攪拌機(ミキサー)に投入され、混合攪拌機は、24時間(1日)以上の所定時間、連続的に作動し、石炭灰をスラリー化する。他の混和剤及び骨材は、混合攪拌機内に添加又は投入されず、石炭灰及び水のみが混練され、この結果、石炭灰が均等に分散した石炭灰スラリーが混合攪拌機内に生成する。所望により、石炭灰スラリーは、半日以上の時間、混合攪拌機内に静置される。一般には、石炭灰として、石炭火力発電所の副産物である廃棄石炭灰が使用され、混練水として、上水道水、地下水、工業用水等の一般的な練混ぜ水が、使用される。
【0018】
石炭灰スラリーは、所定の配合に従って、セメント、水、化学混和剤及び骨材と更に混合され、セメントモルタル又はコンクリートが調合される。化学混和剤として、AE剤、減水剤、AE減水剤及び/又は高性能AE減水剤が使用される他、所望の化学混和剤が任意に使用される。セメントとして、普通ポルトランドセメント(JIS R 5210)を好適に使用し得るが、他の種類のセメント、例えば、早強セメント等を使用しても良い。骨材として、一般的に使用される粗骨材及び細骨材を使用することができる。粗骨材として、砕石又は川砂利等を使用し、細骨材として、川砂等の天然砂又は砕砂等の人工砂を使用し得る。
【0019】
本発明の石炭灰スラリーを使用したコンクリート又はセメントモルタルでは、化学混和剤、例えば、高性能AE減水剤の添加量又は添加率は、好ましくは、従来の配合の1/2以下に配合設計され、例えば、2kg/m3 以下又は0.5%( 重量比) 以下に設定される。
【0020】
他の観点より、本発明によれば、石炭灰の混水攪拌時間を制御することにより、セメント系組成物のフレッシュ性状、或いは、硬化時又は硬化後の物性を制御することが可能となる。例えば、石炭灰の混水時間を24時間~72時間の範囲内で適切に設定することにより、石炭灰スラリーを混合したセメントモルタル又はコンクリートのフロー値、或いは、コンクリートの膨張性及び強度等を可変設定し又は調節することが可能となる。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。
以下の実施例1及び2において使用した石炭灰は、「JIS A 6201-1999」に規定されたII種の石炭灰である。第1実施例として1日(24時間)、第2実施例として3日(72時間)の時間、石炭灰及び水を強制練りパン型の混合攪拌機(ミキサー)に投入して連続的に攪拌し、石炭灰をスラリー化した。図1は、混合攪拌機による石炭灰及び水の攪拌状態を示す図(写真)である。AE剤等の化学混和剤、砂等の骨材の如く、他のモルタル原料又はコンクリート原料は、混合攪拌機内の流動体に一切混入せず、石炭灰及び水のみを混合攪拌したが、石炭灰は、水に良好に分散し、均一な石炭灰スラリーが攪拌機内に生成した。
【0022】
1日(24時間)又は3日(72時間)の時間、石炭灰及び水を混合攪拌機で連続攪拌した後、混合攪拌機を完全に停止し、石炭灰スラリーを静置した。スラリー化した石炭灰を約半日の間、混合攪拌機内に静置した後、混合攪拌機内の任意の数箇所において試料を採取し、石炭灰スラリーの含水率を測定した。含水率の測定結果が、表1に示されている。
【表1】
JP0004028966B2_000002t.gif
【0023】
表1に示す如く、各試料の含水率は、各実施例において均等な値を示しており、採取位置による実質的差異は、観られない。この結果、少なくとも1日程度の混水攪拌によって石炭灰及び水が混合攪拌機内の全域に良好に分散し、実質的に均一な石炭灰スラリーが生成することが確認された。
【0024】
コンクリートのフレッシュ性状に対する石炭灰スラリー化の影響を考察すべく、石炭灰スラリーを使用してセメントモルタルを調合し、セメントモルタルのフロー値試験を行った。比較例として、浸水後、未攪拌状態に静置した石炭灰を使用してセメントモルタル調合し、セメントモルタルのフロー値試験を行った。フロー値試験に使用したセメントモルタルの配合表が、表2に示されている。なお、セメントとして、普通ポルトランドセメントを使用した。
【表2】
JP0004028966B2_000003t.gif
【0025】
図2は、表2の配合表に示す配合比で調合したセメントモルタルのフロー値試験結果を示す線図である。図2には、乾燥状態の石炭灰を使用して調合したセメントモルタルのフロー値(A値)、混水攪拌後のスラリー化石炭灰(第1実施例に相当)を使用して調合したセメントモルタルのフロー値(B:C:D値)、更には、比較例として用意した石炭灰(単に含水静置した石炭灰)を使用して調合したセメントモルタルのフロー値(a:b:c:d:e:f値)が示されている。フロー値試験は、「JIS R 5201」(セメントの物理試験方法)に従って行われた。なお、「JIS R 5201」の試験方法では、フロー値の測定基盤(フローテーブル)の直径が300mmであるので、300mmを超えるフロー値は、測定不能である。
【0026】
乾燥した石炭灰(加水前の石炭灰)をそのまま使用し、表2の配合比に従ってセメント、水及び細骨材(砂)と混合した場合、セメントモルタルのフロー値(A値)は、180mmの値を示すにすぎなかった。これに対し、加水後に24時間(1日間)の連続混合攪拌(混水攪拌)を行って得られた石炭灰スラリー(上記第1実施例に相当する石炭灰スラリー)を使用し、上記配合表のセメントモルタルを調合した場合、セメントモルタルのフロー値(B値)は、280mmに達した。
加水後2日以上の連続混合攪拌を行って得られた石炭灰スラリーを使用し、上記配合表のセメントモルタルを調合した場合、セメントモルタルの流動性は更に向上した。セメントモルタルのフロー値(E値)は、顕著に増大し、図2に二点鎖線矢印で示す如く、「JIS R 5201」の試験方法による測定可能限界(300mm)を超えたことから、もはや測定不能であった。
これらの試験結果によれば、石炭灰をスラリー化した後にセメント、水及び細骨材(砂)と混合したセメントモルタルでは、乾燥状態の石炭灰を使用したセメントモルタルに比べて、フロー値が著しく増大するとともに、石炭灰の混水攪拌時間を長時間に設定すればするほど、セメントモルタルが高フロー値を示しており、この結果、石炭灰のスラリー化がセメントモルタルの流動性向上に大きく寄与すると判明した。
【0027】
更に、混合攪拌後の石炭灰スラリーの安定性を考察すべく、攪拌停止後に石炭灰スラリーを所定時間静置し、静置時間経過後の石炭灰スラリーを使用してセメントモルタルを調合し、セメントモルタルのフロー値を測定した。図2には、24時間混水攪拌してスラリー化した石炭灰スラリーに関し、攪拌停止後に2日間静置した石炭灰スラリーを使用して上記配合表のセメントモルタルを調合し、セメントモルタルのフロー値を測定した試験結果(C値)が示されている。同様に、攪拌停止後に6日間静置した石炭灰スラリーを用いて上記配合表のセメントモルタルを調合し、セメントモルタルのフロー値を測定した試験結果(D値)が図2に示されている。スラリー化後に約2日間静置した石炭灰スラリーを使用したセメントモルタルにおいては、フロー値(C値)は、約300mmであり、スラリー化後に約6日間静置した石炭灰スラリーを使用したセメントモルタルにおいても、ほぼ同様な値のフロー値(D値=約290mm)が測定されており、攪拌停止後の静置に伴うフロー値の低下は、観られなかった。このような試験結果によれば、24時間混水攪拌により、概ね安定した石炭灰スラリーが得られると考えられる。
前述の如く、混水攪拌の長期化によりセメントモルタルのフロー値(E値)が更に増大する点を考慮した上で、混水攪拌停止後の静置時間の長短がセメントモルタルのフロー値向上又フロー値低下に大きく影響していない現象を考察すると、セメントモルタルの流動性向上の主要因は、混水攪拌による石炭灰のスラリー化行為自体にあると考えられる。
【0028】
比較例として、石炭灰を水に浸漬し、混水攪拌を全く行わずに所定時間、静置した石炭灰を用意し、この石炭灰を使用して、表2に示す配合のセメントモルタルを調合し、上記試験方法によるセメントモルタルのフロー値試験を実施した。図2に示す如く、浸水時間が2日以内の石炭灰を使用したセメントモルタルでは、200~210mm(a値、b値)のフロー値が測定され、乾燥状態の石炭灰を使用したセメントモルタル(フロー値=180mm(A値))よりも若干高い値のフロー値が測定されたが、以下に示す如く、7日以上の浸水・静置時間を経た石炭灰を使用した場合、セメントモルタルのフロー値(d、e、f値)は、乾燥状態の石炭灰を使用したセメントモルタルのフロー値(約180mm(A値))と同等、若しくは、それ以下の値に低下しており、長時間に亘って浸水・静置した石炭灰を配合したセメントモルタルのフロー値は、却って低下すると判明した。
加水静置後3日経過の石炭灰使用:フロー値=約180mm(c値)
加水静置後7日経過の石炭灰使用:フロー値=約170mm(d値)
加水静置後14日経過の石炭灰使用:フロー値=約170mm(e値)
加水静置後28日経過の石炭灰使用:フロー値=約140mm(f値)
【0029】
即ち、石炭灰をスラリー化せず、単に未攪拌の浸水状態に保持するだけでは、長時間の浸水時間を確保しても、流動性向上の効果は得られず、逆に、浸水後の静置時間の長期化は、却って、セメントモルタルの流動性を低下させる要因となり得る。
【0030】
以上のフロー値試験の結果より、以下の現象が判明した。
(1) 約24時間程度の連続攪拌によって、安定したスラリー性状の石炭灰スラリーが得られるとともに、加水後の混合攪拌時間(スラリー化時間)を更に長期化することによって、セメントモルタルの流動性を更に向上し得る。
(2) 単に加水・静置した石炭灰、即ち、スラリー化していない石炭灰を使用してセメントモルタルを調合するだけでは、セメントモルタルの流動性を所望の如く向上することができないのに対し、石炭灰を加水・混合攪拌してスラリー化した後に、石炭灰スラリーを配合したセメントモルタルを調合することにより、セメントモルタルの流動性を大きく向上することができる。
【0031】
更に、セメントモルタルが180mm(180±10mm)のフロー値を示すように石炭灰スラリー、セメント、水、骨材及び高性能AE減水剤を調合し、高性能AE減水剤の添加量及び添加率に関する実験を行った。図3は、混水攪拌時間(スラリー化時間)と、高性能AE減水剤の添加量及び添加率との関係を示す線図である。図3には、高性能AE減水剤の添加量(kg/m3)が実線で示され、高性能AE減水剤の添加率(%)が破線で示されている。
【0032】
上記石炭灰スラリーを使用したセメントモルタルに関し、高性能AE減水剤を使用して単位水量及び単位セメント量を適度に配合設計した上で目標フロー値=180mmを達成するように調合した結果、フロー値=180mmを達成する上で必要な高性能AE減水剤の添加量(h~j値)又は添加率(H ~J値)は、図3に示す如く、石炭灰の混水攪拌時間の増大に伴って徐々に低下することが判明した。3日以上の混水攪拌を行った石炭灰スラリーを使用したセメントモルタルにあっては、高性能AE減水剤の添加量(j値)又は添加率(J値)は、乾燥状態の石炭灰を使用したセメントモルタルの場合における添加量(g値)又は添加率(G値)に比べて、約1/3に低減することが可能であった。
【0033】
更に他の実験として、石炭灰スラリーを配合したセメントモルタルに関し、長さ変化率(%)及び圧縮強度(N/m3) を測定した。図4は、長さ変化率(%)及び圧縮強度(N/m3) の測定結果を示す線図である。
前述の如く、多量の石炭灰をコンクリートに混合した場合、石炭灰の膨張成分が硬化時又は硬化後のコンクリート内で膨張し、コンクリートに膨張ひび割れが発生するとともに、コンクリートの圧縮強度が低下する事態が憂慮される。これに対し、スラリー化後の石炭灰を混合したコンクリートにおいては、このような膨張ひび割れ及び圧縮強度低下の現象は、観られなかった。
【0034】
このようなスラリー化石炭灰の膨張抑制作用及び強度低下防止効果を実証すべく行われたセメントモルタルの長さ変化試験及び圧縮強度試験の試験結果が、図4に示されている。試験に使用したセメントモルタルの配合は、表3に示すとおりであり、図4に示す試験結果の各数値(長さ変化率(%)及び圧縮強度(N/m3) )は、表4に示すとおりである。なお、長さ変化試験及び圧縮強度試験においては、石炭灰スラリーを配合したセメントモルタルの供試体が、「JIS A 1132」(コンクリートの強度試験用供試体の作り方)に従って作製され、20℃(20±3℃)の水中で水中養生された。水中養生後の材齢7日の供試体が長さ変化試験及び圧縮強度試験に使用された。なお、長さ変試験の試験結果は、供試体の寸法をノギスで実測したものであり、また、圧縮強度試験は、「JIS A 1108」(コンクリート圧縮強度試験方法)に準じた測定方法により実施された。
【表3】
JP0004028966B2_000004t.gif【表4】
JP0004028966B2_000005t.gif
【0035】
長さ変化試験の結果、乾燥状態の石炭灰を配合したセメントモルタルは、約0.45%の長さ変化(k値)を示すのに対し、3日未満の混水攪拌時間によりスラリー化した石炭灰を配合したセメントモルタルでは、混水攪拌時間の増大に伴って、長さ変化率(l値)が低下するものの、セメントモルタルは、ある程度の膨張傾向を示した。これに対し、3日以上の混水攪拌時間を経た石炭灰を配合したセメントモルタルにあっては、長さ変化率が全く計測できなかった(m,n値)。これは、3日未満の混水攪拌時間(スラリー化時間)では、石炭灰中の遊離石灰(CaO)が完全に消化しきれずに、遊離石灰(CaO)の消化、即ち、CaO+H2 O→Ca(OH)2 の反応が養生期間中に進行し、この結果、セメントモルタルが膨張したのに対し、3日以上の混水攪拌時間を確保した場合、石炭灰中の遊離石灰(CaO)が混水攪拌中にほぼ消化し、遊離石灰(CaO)の消化反応に伴う膨張現象が養生期間中のセメントモルタルに顕れなかったことに起因すると考えられる。
【0036】
また、圧縮強度試験の試験結果によれば、乾燥状態の石炭灰を配合したセメントモルタルは、約25N/m3の圧縮強度(K値)を発現するにすぎないのに対し、スラリー化時間が3日以下の石炭灰を使用したセメントモルタルにあっては、石炭灰の混水攪拌時間が増大するにつれて、相対的に高い圧縮強度(L値)を発現した。
図4には、表3に示す配合のセメントモルタルを封緘養生した供試体の圧縮強度試験結果が、基準線(一点鎖線で示す)として図示されている。なお、封緘養生した供試体は、外部からの水分供給を遮断され、遊離石灰(CaO)の消化反応(CaO+H2 O→Ca(OH)2)が養生期間中に進行しないことから、遊離石灰の消化に伴う膨張現象が発生せず、従って、セメントモルタルの圧縮強度低下は、実質的に生じない。このため、封緘養生の供試体の圧縮強度を基準値(約35N/mm2)として、水中養生の共試体の圧縮強度低下を判定することができる。
【0037】
乾燥状態の石炭灰を使用した場合(スラリー化時間=0)、前述の如く、セメントモルタルが膨張するばかりでなく、基準値(約35N/mm2)と対比すると、圧縮強度が約10N/mm2 低下しており、かなりの圧縮強度低下が観られた(K値)。これに対し、石炭灰スラリーを使用した場合、供試体の圧縮強度(L値)と、基準値との差は、スラリー化時間が増大すればする程、縮小した。加水後に3日以上の時間、連続的に混合攪拌した石炭灰スラリーを配合した場合、セメントモルタルの強度低下は測定されなかった(M,N値)。即ち、セメントモルタルは、石炭灰のスラリー化により膨張性を喪失するとともに、圧縮強度低下を抑制され、3日以上のスラリー化時間を確保した場合、実質的に完全に膨張性を喪失するとともに、基準値と同等の圧縮強度(M,N値)を発現し、圧縮強度低下の傾向を示さなかった。この結果、石炭灰の使用に伴うセメントモルタルの強度低下現象は、石炭灰のスラリー化により、防止することができると判明した。
【0038】
これらの試験結果より、以下の技術的事項が確認された。
(1)加水後に1日(24時間)の連続的な混合攪拌を行うことにより、実質的に均一且つ安定した石炭灰スラリーが得られる。
(2)スラリー化時間(混水攪拌時間)の増大により、セメント系組成物の流動性を漸増することができる。
(3)スラリー化後の静置時間は、セメント系組成物の流動性に実質的に影響しない。
(4)石炭灰のスラリー化により、化学混和剤の添加量又は添加率を低減することができる。
(5)スラリー化時間の増大に伴って、所要の化学混和剤の添加量又は添加率は漸減する。
(6)石炭灰のスラリー化により、石炭灰を配合したセメント系組成物の膨張性を抑制するとともに、セメント系組成物の強度低下を規制することができる。
(7)3日以上のスラリー化時間を確保することにより、石炭灰を配合したセメント系組成物の膨張性及び強度低下の現象を実質的に解消することができる。
【0039】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能であり、該変形例又は変更例も又、本発明の範囲内に含まれるものであることは、いうまでもない。
例えば、化学混和剤として、セメント系組成物の使用目的に応じた任意の化学混和剤、例えば、凝結遅延剤、増粘剤等を石炭灰スラリー、セメント及び骨材と一緒に混合しても良い。
また、混合攪拌機の速度又は攪拌能力の向上や、攪拌機の構造の改良等により、スラリー化時間を短縮したり、或いは、混合攪拌機の非連続攪拌、非定常的運転又は断続的運転により、連続攪拌と同等の良好な分散性を有する石炭灰スラリーを生成することも可能である。
【0040】
【発明の効果】
以上説明したとおり、石炭灰を24時間以上連続的に混水攪拌してスラリー化する本発明の製造方法によれば、コンクリートの流動性向上、流動性の安定、AE剤使用量の低減、膨張作用の抑制及び圧縮強度の増大という顕著な効果が得られる。従って、本発明の上記構成によれば、石炭火力発電所の副産物である石炭灰をコンクリート原料として大量に有効利用するとともに、コンクリート原料としての石炭灰の諸問題、即ち、化学混和剤の多量使用による製造コストの高額化、凝結の遅延、初期強度の低下等の諸問題、更には、石炭灰中の膨張成分による膨張ひび割れの問題を解決し、産業副産物である石炭灰の大量消費を可能にするセメント系組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】混合攪拌機による石炭灰のスラリー化工程を示す図(写真)である。
【図2】石炭灰スラリー、セメント、水及び骨材を調合したセメントモルタルのフロー値試験の試験結果を示す線図である。
【図3】石炭灰スラリー、セメント、水、骨材及び高性能AE減水剤を調合した所定フロー値のセメントモルタルにおける高性能AE減水剤の所要添加量及び添加率を示す線図である。
【図4】石炭灰スラリー、セメント、水及び骨材を調合したセメントモルタルに関する長さ変化試験及び圧縮強度試験の試験結果を示す線図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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