TOP > 国内特許検索 > トンネル磁気抵抗素子および磁気ランダムアクセスメモリ > 明細書

明細書 :トンネル磁気抵抗素子および磁気ランダムアクセスメモリ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3815601号 (P3815601)
公開番号 特開2003-086863 (P2003-086863A)
登録日 平成18年6月16日(2006.6.16)
発行日 平成18年8月30日(2006.8.30)
公開日 平成15年3月20日(2003.3.20)
発明の名称または考案の名称 トンネル磁気抵抗素子および磁気ランダムアクセスメモリ
国際特許分類 H01L  43/08        (2006.01)
H01F  10/16        (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
H01L  21/8246      (2006.01)
FI H01L 43/08 Z
H01F 10/16
H01L 27/10 447
請求項の数または発明の数 5
全頁数 8
出願番号 特願2001-279289 (P2001-279289)
出願日 平成13年9月14日(2001.9.14)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本物理学会講演概要集第56巻第2号(2001年秋季大会)第3分冊(平成13年9月3日印刷・発行)日本物理学会発行第355ページに発表
審査請求日 平成13年9月28日(2001.9.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】湯浅 新治
【氏名】長濱 太郎
【氏名】鈴木 義茂
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】松田 成正
参考文献・文献 Wu-Shou Zhang et al.,Conductance, Magnetoresistance, and interlayer coupling in tunnel junctions modulated by nonmagnetic,Journal of Applied Physice,米国,1998年 5月15日,Volume83, Number10,p.5332-5336
Jagadeesh S. Moodera et al.,Quantum Well States in Spin-Dependent Tunnel Structures,Physical Review Letters,米国,1999年10月11日,Volume 83、Number 15,p.3029-3032
調査した分野 H01L 43/08
H01F 10/16
H01L 27/105
特許請求の範囲 【請求項1】
バリヤ層と強磁性電極の間にCuの(100)面からなる非磁性金属単結晶中間層を挿入した構造を有することを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項2】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗素子において、前記中間層の厚さが2~32Åであることを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項3】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗素子において、前記強磁性電極の下地層または基板がMgO(100)単結晶であることを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項4】
請求項1記載のトンネル磁気抵抗素子において、前記強磁性電極の下地層または基板がGaAs(100)単結晶であることを特徴とするトンネル磁気抵抗素子。
【請求項5】
請求項1~の何れか一項記載のトンネル磁気抵抗素子をマトリックス型磁気ランダムアクセスメモリのワード線とビット線の交差点に接続配置することを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トンネル磁気抵抗素子に係り、特に、その磁気抵抗効果のバイアス電圧依存性を制御したトンネル磁気抵抗素子および磁気ランダムアクセスメモリに関する。
【0002】
【従来の技術】
トンネル磁気抵抗効果とは、絶縁体を強磁性金属の電極で挟んだトンネル接合において、その電気抵抗が二つの強磁性電極の磁化の相対的な向きによって変化する現象である。磁気抵抗の大きさは以下の式で表される。
【0003】
【数1】
JP0003815601B2_000002t.gif この現象は、1995年に発見され〔T.Miyazaki and N.Tezuka,J.Magn.Magn.Mater.,Vol.139(1995)L231.〕、現在では、固定磁気ディスクのピックアップヘッドの磁場センサーや強磁性ランダムアクセスメモリーへの応用研究が進んでいる。この効果を利用して磁気センサーや強磁性ランダムアクセスメモリーを実現するには、有限のバイアス電圧下の磁気抵抗効果の大きさを人為的に制御できることが望ましい。
【0004】
しかし、一般にトンネル磁気抵抗効果はバイアス電圧の増加にともない単調に減少してしまう。このバイアス電圧の増加に伴う磁気抵抗効果の減少は、マグノン散乱やフォノン散乱の増大に起因する本質的なものなので簡単には制御できない。そこで、例えば、トンネル障壁層を二重にしてバイアス電圧の増加に対する磁気抵抗効果の減少を抑える試みがなされている。
【0005】
一方、Moodera等は、強磁性電極とバリヤ層の間に多結晶非磁性中間層を挟んで磁気抵抗のバイアス依存性を変化させることを試みた(Moodera,Phys.Rev.Lett.,vol.83,1999,page 3029-3032.)。
【0006】
図7はかかる磁気抵抗効果素子のゼロバイアス、77KでのAu中間層の膜厚に対する接合磁気抵抗効果の依存性を示す図であり、横軸にAu中間層の厚さ(nm)、縦軸に磁気抵抗効果を示している。また、図8はそのバイアス電圧に対する磁気抵抗効果の依存性を示す図であり、横軸にバイアス電圧(V)、縦軸に磁気抵抗効果を示している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した強磁性電極とバリヤ層の間に非磁性中間層を挿入したものにおいては、その非磁性中間層として多結晶試料を用いたために極僅かの変化しか見出せなかった。特に、多結晶中間層による電子の散乱のために磁気抵抗効果がその膜厚の増加に伴い急激に減少してしまい、磁気抵抗効果のバイアス電圧依存性をある程度制御することに成功したものの、実用に足る特性は得られなかった。
【0008】
そこで、非磁性中間層の電子散乱を抑えて、大きな中間層膜厚に対しても磁気抵抗効果が大きく減少せず、非磁性層内のスピン偏極の振動を磁気抵抗効果として取り出すことの出来る素子の開発が望まれる。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑み、非磁性中間層の電子散乱を抑える素子構造を開発し、非磁性中間層の挿入による磁気抵抗効果の減少の抑制を図るとともに、非磁性中間層の精密な膜厚制御により磁気抵抗効果のバイアス電圧依存性を人為的に制御することができるトンネル磁気抵抗素子および磁気ランダムアクセスメモリを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を達成するために、
〔1〕トンネル磁気抵抗素子において、バリヤ層と強磁性電極の間にCuの(100)面からなる非磁性金属単結晶中間層を挿入した構造を有することを特徴とする。
【0011】
〕上記〔1〕記載のトンネル磁気抵抗素子において、前記中間層の厚さが2~32Åであることを特徴とする。
【0012】
〕上記〔1〕記載のトンネル磁気抵抗素子において、前記強磁性電極の下地層または基板がMgO(100)単結晶であることを特徴とする。
【0013】
〕上記〔1〕記載のトンネル磁気抵抗素子において、前記強磁性電極の下地層または基板がGaAs(100)単結晶であることを特徴とする。
【0014】
〕磁気ランダムアクセスメモリであって、上記〔1〕~〔〕の何れか一項記載のトンネル磁気抵抗素子をマトリックス型磁気ランダムアクセスメモリのワード線とビット線の交差点に接続配置することを特徴とする。
【0015】
すなわち、本発明は、図1に示すように、強磁性電極1上に非磁性金属単結晶中間層又は非磁性金属高配向多結晶中間層2を積層する。次いで、絶縁層3、強磁性電極4を形成する。このように、非磁性中間層を持つトンネル磁気抵抗素子の非磁性層を(100)面からなる非磁性金属単結晶または非磁性金属高配向多結晶中間層2とした。つまり、非磁性金属単結晶の単結晶方位を、立方晶系の(100)±10度以内の高配向とすることにより電子の伝導特性と平坦性を改良する。また、前記非磁性金属高配向多結晶の単結晶方位を、立方晶系の(100)±10度以内で分布する高配向とすることにより電子の伝導特性と平坦性を改良する。これらの素子をMgO(100)またはGaAs(100)単結晶下地層または基板の上に形成することにより特に平坦性と配向性を改善できる。また、Cr(100)下地層を用いることによっても平坦性と配向性を改善できる。
【0016】
また、中間層2をCu,Au,Ag,Cr又はこれらを母材とする合金膜として、その厚さを制御して、最適な厚さを選定することにより、磁気抵抗効果を高いものに設定することができる。
【0017】
さらに、中間層2に印加されるバイアス電圧を制御することにより、極性が反転される磁気抵抗効果を得ることができる。
【0018】
そして、その非磁性中間層の結晶方位を立方晶系の(100)±10度以内と高配向して、より大きな効果を得ることが出来る。
【0019】
また、他の素子とのクロストークなしにマトリックス型磁気ランダムアクセスメモリの交差点の素子の磁気状態を読み出すことができる。
【0020】
さらに、他の素子とのクロストークなしにマトリックス型磁気ランダムアクセスメモリの交差点の素子の磁気状態を二次の高調波によって選択的に読み出すことも可能である。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0022】
以下、その実施例を詳細に説明する。
【0023】
図2は本発明の実施例を示すトンネル磁気抵抗素子の断面図である。
【0024】
例えば、MgO(100)単結晶又は高配向多結晶基板上にPt,Co,Cuの順にバッファー層を成長し、表面を非常に平坦にした後に、Co(100)単結晶電極11及びCu(100)非磁性単結晶中間層12を成長し、その上にアルミナバリヤ(Al-O barrier)13と強磁性多結晶上部電極(Ni-Fe poly-crystal)14を成長した素子では、低バイアスにおける磁気抵抗効果がCu層の膜厚に対して図3に示すように振動的に変化する。この結果からCu層の挿入によりスピン偏極が制御されているのが明らかである。
【0025】
また、磁気抵抗効果が1/10になる膜厚は2nm程度であり、図7に示す従来のMooderaの結果の5倍程度に改善されている。
【0026】
また、磁気抵抗のバイアス依存性をいろいろな形に制御することが出来る。特に適当な膜厚を選ぶと、図4に示すようにバイアスの正負によって磁気抵抗の符号が反転する素子も作ることができる。このときの磁気抵抗の大きさも、図8に示す従来のMoodera等の多結晶の場合に比較して10倍程度大きくなる。
【0027】
この他に基板としてSi又はGaAs(100)単結晶を用いることができる。非磁性単結晶又は高配向多結晶膜として、Au,Ag,Cr(100)を用いる場合は、基板としてMgO(100)又はGaAs(100)を用いる。
【0028】
特に、Cr(100)の場合には、基板としてMgO(100)又はGaAs(100)を用いることが望ましい。
【0029】
このような特性を利用すると、例えば高安定度な磁場センサーが可能となる。磁気抵抗素子の抵抗は温度変化するので、磁気抵抗効果の測定には二つの特性のそろった磁気抵抗素子を用意して、片方の素子にのみ測定磁場を加えて、そのときの抵抗の変化をもう一方の素子と比較して検出する差動検出が通常用いられる。ところがこの方法では装置の回路が複雑になるし、素子間のばらつきにより測定を誤るという問題がある。
【0030】
さて、図4に示すような特性を持つ素子に交流電圧を加えると磁気抵抗に起因する非線形応答によって高調波が発生する。この高調波の強度・符号及び位相は磁化の向きに依存する。このような非線形応答はバリスティックな伝導成分によって決まるので電気抵抗の温度変化と無関係で外部環境の変化に対して非常に安定である。従って、差動検出なしに磁化の方向を超高安定度・超高感度に測定することが出来る。
【0031】
上記したように、本発明では、下部電極に強磁性金属と非磁性金属からなる単結晶人工格子を用い、量子サイズ効果、特にスピン偏極量子井戸準位の形成とTMR効果の関係を調べた。単結晶fcc Co(100)電極とアモルファスAl-Oトンネルバリア層の間に非磁性のCu(100)層(2~32Å)を挿入したMTJ(マグネティック・トンネル・接合)(図2参照)を作製し、TMR効果のCu膜厚依存性を測定した結果を図3に示した。この図から明らかなように、MR比はCu膜厚に対して12.5Å周期の減衰振動を示した。特筆すべきこととして、MR比の符号が反転するほど大きな振動が観測された。この振動周期はCo(100)/Cu(100)多層膜の層間結合の周期(Period)と一致しており、Cu(100)層中に生成したスピン偏極量子井戸準位に起因していると考えられる。
【0032】
図5は本発明のトンネル磁気抵抗素子を適用した第1の回路構成例を示す図である。
【0033】
この図において、21はワード線、22はビット線、23は本発明のトンネル磁気抵抗素子、24は直流電源、25は電流計である。
【0034】
また、本発明のトンネル磁気抵抗素子を用いて非常に単純な強磁性ランダムアクセスメモリを構成することが出来る。今までの強磁性ランダムアクセスメモリでは、記録の担体であるトンネル磁気抵抗素子にアクセスするためにMOS-FETをパストランジスタとして用いる必要があった。
【0035】
ところが、本発明のトンネル磁気抵抗素子を用いると、図5に示すような単純なマトリックスから記録情報を選択的に読み出すことが出来る。一対のワード・ビット線間に直流電圧Vを加えると、その交差点にあるトンネル素子にこの電圧が加わるが周辺の素子にも例えばV/3の電圧が加わる。
【0036】
従って、通常の素子を使うと回りの素子とのクロストークが問題となる。そこで、本発明の図4に示すような特性を持つトンネル磁気抵抗素子を使うとバイアス電圧Vに対しては磁気抵抗効果を示すが、V/3に対しては磁気抵抗効果を示さないので、他の素子とのクロストークなしに交差点の素子の磁気状態を読み出すことが出来る。
【0037】
図6は本発明のトンネル磁気抵抗素子を適用した第2の回路構成例を示す図である。この図において、31はワード線、32はビット線、33は本発明のトンネル磁気抵抗素子、34は高調波検出器、35は高周波電源である。
【0038】
また、別の方法として、二次の高調波によって信号を選択的に読み出すことも可能である。線形応答によって磁気抵抗を測定すると、磁気抵抗にバイアス依存が無い場合、目的の素子とその周辺の素子との信号への寄与率は1:1/3だが非線形応答である2次の応答による高調波の発生やパルス形状の変化を使って検出すると、その信号比は1:1/9となり大幅に周辺の素子からのクロストークを減らすことが出来る。さらに、応答のバイアス依存性を最適に設計すれば、この比をもっと大きく取ることも可能である。
【0039】
さらに、上記実施例では中間層として、単結晶fcc Cu(100)を用いたが、これに代えて、Au,Ag,Cr又はこれらを母材とする合金の単結晶又は高配向多結晶を用いるようにしてもよい。
【0040】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0041】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0042】
(A)非磁性中間層の電子散乱を抑える素子構造を開発し、非磁性中間層の精密な膜厚制御により磁気抵抗効果を抑え、磁気抵抗効果のバイアス電圧依存性を人為的に制御することができる。
【0043】
(B)強磁性トンネル磁気抵抗膜において原子層のオーダーの非磁性極薄膜を強磁性電極とバリヤ層の間に挿入することにより、磁気抵抗効果がバイアス電圧に対して振幅動的に変化するトンネル磁気抵抗素子を得ることができる。
【0044】
(C)中間層をCu,Au,Ag,Cr又はこれらを母材とする合金膜として、その厚さを制御して、最適な厚さを選定することにより、磁気抵抗効果を高いものに設定することができる。
【0045】
(D)さらに、中間層に印加されるバイアス電圧を制御することにより、極性が反転される磁気抵抗効果を得ることができる。
【0046】
(E)非磁性中間層の結晶方位を立方晶系の(100)±10度以内に分布するように制御することにより、より大きな磁気抵抗効果を得ることが出来る。
【0047】
(F)他の素子とのクロストークなしにマトリックス型磁気ランダムアクセスメモリの交差点の素子の磁気状態を読み出すことができる。
【0048】
(G)さらに、他の素子とのクロストークなしにマトリックス型磁気ランダムアクセスメモリの二次の高調波によって信号を選択的に読み出すことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかるトンネル磁気抵抗素子の断面図である。
【図2】 本発明の実施例を示すトンネル磁気抵抗素子の断面図である。
【図3】 本発明の実施例を示すトンネル磁気抵抗素子の低バイアスにおける室温での磁気抵抗のCu層の膜厚依存性を示す図である。
【図4】 本発明の実施例を示すトンネル磁気抵抗素子の室温での磁気抵抗のバイアス依存性を示す図である。
【図5】 本発明のトンネル磁気抵抗素子を適用した第1の回路構成例を示す図である。
【図6】 本発明のトンネル磁気抵抗素子を適用した第2の回路構成例を示す図である。
【図7】 従来の磁気抵抗効果素子のゼロバイアス、77KでのAu中間層の膜厚に対する磁気抵抗効果の依存性を示す図である。
【図8】 従来の磁気抵抗効果素子のゼロバイアス、77KでのAu中間層の膜厚に対する磁気抵抗効果の依存性を示す図である。
【符号の説明】
1 強磁性電極
2 非磁性金属単結晶又は高配向非磁性金属多結晶中間層
3 絶縁層
4 強磁性電極
11 Co(100)単結晶電極
12 Cu(100)非磁性単結晶中間層
13 アルミナバリヤ(Al-O barrire)
14 強磁性多結晶上部電極(Ni-Fe poly-crystal)
21,31 ワード線
22,32 ビット線
23,33 トンネル磁気抵抗素子
24 直流電源
25 電流計
34 高調波検出器
35 高周波電源
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7