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明細書 :液晶レンズ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3913184号 (P3913184)
公開番号 特開2004-004616 (P2004-004616A)
登録日 平成19年2月9日(2007.2.9)
発行日 平成19年5月9日(2007.5.9)
公開日 平成16年1月8日(2004.1.8)
発明の名称または考案の名称 液晶レンズ
国際特許分類 G02F   1/13        (2006.01)
G02F   1/1333      (2006.01)
G02F   1/1347      (2006.01)
FI G02F 1/13 505
G02F 1/1333 505
G02F 1/1347
請求項の数または発明の数 9
全頁数 12
出願番号 特願2003-071921 (P2003-071921)
出願日 平成15年3月17日(2003.3.17)
優先権出願番号 2002081922
優先日 平成14年3月22日(2002.3.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年8月3日(2004.8.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】佐藤 進
【氏名】葉 茂
個別代理人の代理人 【識別番号】100058479、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴江 武彦
【識別番号】100113099、【弁理士】、【氏名又は名称】和田 祐造
【識別番号】100117547、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 浩史
【識別番号】100103034、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信久
審査官 【審査官】藤田 都志行
参考文献・文献 特開昭61-103116(JP,A)
特開2001-133918(JP,A)
特開2003-029001(JP,A)
特開2003-161810(JP,A)
調査した分野 G02F 1/13
G02F 1/1333
G02F 1/1347
特許請求の範囲 【請求項1】
透明な第1の電極を有する第1の基板、孔を有する第2の電極、および前記第1と第2の基板との間に、前記第1の電極と対向するように収容された、液晶分子を一方向に配向させる第1の液晶層を備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を加えて液晶分子の配向制御を行なう液晶レンズにおいて、
前記孔を有する第2の電極と前記第1の液晶層との間に、配向膜部分とは異なり、前記第2の電極と前記第1の液晶層との間の距離を設定する透明絶縁層とを配置したことを特徴とする液晶レンズ。
【請求項2】
前記第2の電極上に、透明な第3の電極を有する第2の基板、および前記第2の基板と前記第2の電極との間に、前記第3の電極と対向するように収容された、液晶分子を一方向に配向させた第2の液晶層を更に備え、
前記孔を有する前記第2の電極と前記第2の液晶層との間に、配向膜部分とは異なり、前記第2の電極と前記第2の液晶層との間の距離を設定する透明絶縁層とを配置したことを特徴とする請求項1に記載の液晶レンズ。
【請求項3】
前記第2の電極の孔の周辺に、前記孔よりもサイズの小さい開口部を有する、前記孔を通過する光を制限する光遮断部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶レンズ。
【請求項4】
前記第2の電極の孔が、円形、楕円形、4角形、6角形、又は多角形であることを特徴とする請求項1~3のいずれかの項に記載の液晶レンズ。
【請求項5】
前記第1の電極に電位勾配を形成する手段を更に具備することを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載の液晶レンズ。
【請求項6】
前記第1の電極に電位勾配を形成する手段は、前記第1の電極を通過する光軸とは垂直方向の両端に取付けられた電極間に電圧を印加する手段であることを特徴とする請求項5に記載の液晶レンズ。
【請求項7】
前記第1の電極は、100Ω~1MΩの電気抵抗を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の液晶レンズ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかの項に記載の液晶レンズを2次元アレイ状に配置したことを特徴とする液晶レンズアレイ。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかの項に記載の液晶レンズの前記第1の液晶層は重合硬化性液晶からなり、前記第1の液晶層に所定の電圧を印加して、液晶分子の配向を制御した状態で紫外線又は可視光線を照射して硬化させてなる高分子レンズ。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、簡単な構造を有し、外部電圧により焦点距離を変えることの可能な液晶レンズに関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶は、液体のような流動性を有し、電気的光学的特性に異方性を示し、かつ分子配向状態を種々制御できるという特徴を有している。かかる液晶の特徴を使用した液晶表示素子は、薄型軽量の平板型表示素子として、近年、目覚ましい発展を続けている。
【0003】
液晶分子の配向状態は、液晶表示素子を構成する2枚の透明導電膜を付したガラス基板の表面の処理や、外部印加電圧により容易に制御することができるので、液晶は、電圧印加により実効的な屈折率を異常光に対する値から常光に対する値まで連続的に可変できるという、他の光学材料にないすぐれた特性を有している。
【0004】
これまで、ネマティック液晶における電気光学効果を利用することで、通常の液晶ディスプレイにおける平行平板形の素子構造とは異なり、2枚の透明電極を付けたガラス基板を互いに傾けて液晶層をプリズム形構造とした光偏向素子や、基板面が湾曲し、液晶層がレンズ構造となるようにした焦点可変レンズが考案されている(例えば、非特許文献1、特許文献1参照)。
【0005】
また、光学媒質に空間的な屈折率分布を与えることでレンズ効果を得る方法が知られており、セルフォックレンズとして市販されている。ネマティック液晶セルにおいて、液晶分子は電界の方向に配向するという性質を利用すると、軸対称的な不均一電界による液晶分子配向効果により、空間的な屈折率分布特性を有する液晶レンズを得ることができることが知られている(例えば、特許文献2参照)。また、このような液晶を用いたレンズでは、多数の微小なレンズ(マイクロレンズ)を平板状に2次元的に配列したマイクロレンズアレイとすることが比較的容易にできるという特徴がある。
【0006】
これらの液晶を用いた光学素子は、通常の受動型の光学素子とは異なり、媒質である液晶の屈折率を電圧印加により容易に可変制御できるため、偏向角を可変できるプリズム素子や焦点距離を可変できる液晶レンズとして実現することが出来る。
【0007】
さらに、同心円状の輪帯の電極に異なる電圧を加えることで電位の空間分布を形成し、液晶分子の配向分布に基づく屈折率の空間分布を利用した液晶レンズが報告されており、補償光学系への応用が試みられている。
【0008】
一般に、ネマティック液晶セルにおいて電圧印加により液晶分子が電界方向に配向する場合の電界に対する応答特性は、液晶層の厚みの2乗にほぼ比例して長くなることが知られている。また、液晶層の厚みが数100μm程度になると、液晶セルの基板界面による液晶分子の配向効果が液晶層の中央領域にまで及ばなくなるため、液晶層が白濁し、透過率が減少するという問題点も知られている。
【0009】
なお、上述したように、液晶レンズは、電圧を印加することにより焦点距離を変えることが出来るが、光軸と垂直な方向へ焦点を変えることは出来なかった。これに対し、円形穴型パターンを有する2枚の対向する電極をスリットで分割して、各分割電極に異なる電圧を印加することで軸対称的な屈折率分布を非対称的な分布とし、入射光に対する偏向効果を生じさせ、光軸と垂直な方向へ焦点の位置を変える技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
【非特許文献1】
応用物理45巻10号938頁(1976)
【0011】
【特許文献1】
特開昭54-151854号公報
【0012】
【特許文献2】
特開平10-239676号公報
【0013】
【特許文献2】
特開平11-109304号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
以上挙げた従来技術のうち、液晶層がレンズ構造となるようにした液晶レンズでは、凸レンズの場合にレンズの中央部分が、また、凹レンズの場合にレンズの周辺部分の液晶層の厚みが厚くなるため、直径が数mm以上のレンズを構成しようとすると、液晶層の厚みが数100ミクロン以上の厚みになってしまい、応答回復時間が数秒から数十秒という長い時間を要し、また液晶が白濁してしまうという問題があった。
【0015】
また、電界により液晶分子が再配向する場合に、液晶のダイレクタが基板面から立ち上がる方向がセルの中央付近で互いに逆の方向になるために、液晶分子配向が不連続となるディスクリネーションラインが発生して、レンズの光学特性が劣化するという問題点があった。
【0016】
一方、軸対称の不均一電界による液晶分子の空間配向分布特性を利用する液晶マイクロレンズにおいては、片側の基板にのみ円形の穴型パターンを有する場合にはレンズとしての光学的特性が悪く、またディスクリネーションラインの発生が生じやすいと言う問題があり、両方の基板に円形の穴型パターンを設けることが必要とされていた。この場合には、両基板における穴型パターンの位置を正確に合わせることが要求されると言う問題点があった。
【0017】
更に、円形穴型パターンの直径と液晶層の厚みの比が2対1から3対1程度の場合に、レンズとしての特性が良好になることが知られているが、レンズの直径が1mm程度になると液晶層の厚みを数100μm程度としなければならないので、前述の応答特性が極めて遅くなり、また液晶層の白濁現象が生じるという問題があった。
【0018】
また、電極を微細なスリットで分割して互いに異なる電圧を印加して、入射光に対する偏向効果を生じさせ、光軸と垂直な方向へ焦点を変える技術は、液晶レンズの構造や駆動方法が複雑になるという問題があり、また各電極間において液晶分子の配向が不連続となるディスクリネーションが発生することが多いという問題があった。
【0019】
本発明の目的は、上述の各問題を解決し、簡単な構造で、きわめて容易に且つ迅速に焦点を可変制御することが可能な液晶レンズを提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、透明な第1の電極を有する第1の基板、孔を有する第2の電極、および前記第1と第2の基板との間に、前記第1の電極と対向するように収容された、液晶分子を一方向に配向させる第1の液晶層を備え、前記第1の電極と前記第2の電極との間に電圧を加えて液晶分子の配向制御を行なう液晶レンズにおいて、前記孔を有する第2の電極と前記第1の液晶層との間に、配向膜部分とは異なり、前記第2の電極と前記第1の液晶層との間の距離を設定する透明絶縁層とを配置した構成とする。
【0021】
本発明に係る液晶レンズにおいて、2つの液晶レンズを、孔を有する第2の電極を共通にして背中合わせに積層した構成とすることが出来る。即ち、第2の電極上に、透明な第3の電極を有する第2の基板、および第2の基板と第2の電極との間に、第3の電極と対向するように収容された、液晶分子を一方向に配向させた第2の液晶層を更に備え、孔を有する第2の電極と第2の液晶層との間に、第2の絶縁層を配置した構成とすることが出来る。
【0022】
また、第2の電極の孔の周辺に、孔よりもサイズの小さい開口部を有する、孔を通過する光を制限する光遮断部材を設けることが出来る。
【0023】
第2の電極の孔は、任意の形状でよく、例えば、円形、楕円形、4角形、6角形、又は多角形とすることが出来る。
以上のように構成される本発明の液晶レンズは、構造が極めて簡単であり、第1および第2の電極間に電圧を印加することにより、容易に焦点距離を変ることができ、また、任意の形状寸法で構成することが可能である。
【0024】
本発明に係る液晶レンズは、第1の電極に電位勾配を形成する手段を更に具備することが出来る。この第1の電極に電位勾配を形成する手段は、第1の電極を通過する光軸とは垂直方向の両端に取付けられた電極間に電圧を印加する手段とすることが出来る。
【0025】
この場合、第1の電極は、比較的高抵抗、例えば100Ω~1MΩの電気抵抗を有するものであることが好ましい。
【0026】
このように、第1の電極に電位勾配を形成することにより、液晶層を通過する光を偏向させることが出来るため、液晶レンズの焦点の位置を光軸と垂直の方向にも変化させることが出来る。
【0027】
以上の液晶レンズを2次元アレイ状に配置して、液晶レンズアレイを構成することが出来る。
【0028】
なお、以上の液晶レンズにおいて、第1の液晶層を重合硬化性液晶により構成し、この第1の液晶層に所定の電圧を印加して、液晶分子の配向を制御した状態で紫外線又は可視光線を照射して硬化させてことにより、高分子レンズを得ることが出来る。この高分子レンズは、液晶層に印加される電圧を制御することにより、焦点の位置を3次元的に容易に調整することが出来るため、高精度のものを得ることが可能である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る液晶レンズのセル構成を示す断面図である。図1において、一対のガラス基板1,2間に液晶層3が挟まれている。下部基板1の液晶層3に対向する面には、ITO(インジウム・スズ酸化物)からなる透明電極4が被覆されている。上部基板2の液晶層3に対向する面とは反対側の面には、アルミニウム薄膜電極5が被覆されており、このアルミニウム薄膜電極5の中央には円形の孔6が形成されている。
【0031】
上部基板2の液晶層3に対向する面には電極は形成されておらず、従って、アルミニウム薄膜電極5と液晶層3との間に、ガラス基板2である絶縁層が介在していることになる。
【0032】
本実施形態に係る液晶レンズにおいて、液晶層3の厚さは、130μm、基板1,2の厚さは1.3mm、孔6の径は7.0mmとしたが、これらの値は、種々変えることが可能である。
【0033】
しかし、本実施形態に係る液晶レンズにおいて、特に上部基板2の厚さは、アルミニウム薄膜電極5と液晶層3との間の距離を規定するため、重要である。上部基板2の厚さは1μm~5mm、特に数μm~数mm、例えば2μm~3mmであるのが望ましい。即ち、上部基板2はガラス基板に限らず、それ以外の絶縁層とすることも可能である。この場合、薄い絶縁層を保持するために、別途、基板を用いてもよい。絶縁層としては、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜等を用いることが出来る。
【0034】
なお、孔6の径は、数μm~数10mm程度が望ましいが、特に限定されるものではない。
下部基板1および上部基板2の液晶層3に対向する面は、それぞれポリイミド膜7,8が被覆されており、それらの表面は、液晶分子が均一に配列するように、一方向にラビングされている。
【0035】
孔6の周辺に、例えば、上部基板2とアルミニウム薄膜電極5との間に、孔6よりもサイズの小さい開口部を有し、孔6を通過する光を制限する光遮断部材、いわゆるブラックマトリクスを設けてもよい。即ち、孔6の周辺部の特性は悪いが、ブラックマトリクスを設けることにより、孔6の周辺部においても、良好な特性を得ることが出来る。ブラックマトリクスとしては、カーボン等を用いることが出来る。
【0036】
以上のように構成される、図1に示す液晶レンズにおいて、孔6を有するアルミニウム薄膜電極5と液晶層3との間には上部基板2が介在しており、従って、両者には一定の距離があるので、アルミニウム薄膜電極5と透明電極4の間に印加された電圧により生じた不均一な電界が、液晶層3の広い領域全体にわたって分布し、屈折率の勾配の分布がその領域に形成される。このようにして、大きなサイズのレンズが実現される。
【0037】
屈折率分布は、印加される電圧により変化する。そのため、レンズの焦点距離は、外部電圧の関数であり、外部電圧によって、レンズの焦点距離を任意に変えることが可能である。
【0038】
出射光の異常光成分の位相プロファイルを試験するために、液晶レンズを、偏光軸が直交する2つの偏光板の間に配置した。また、ポリイミド膜7,8のラビングの方向を、2つの偏光板それぞれの偏光軸とπ/4の角度をなすようにした。
【0039】
図2は、第1および第2の電極間に周波数1kHzの35Vrmsの電圧を印加した場合の、異常光線と常光線の間の干渉パターンを示す。干渉リングの数と位置は、印加される電圧により変化する。2つの隣接するリング間の位相差は、2πである。常光線の位相リターデーションは、孔6の領域内ではどこでも同一であるので、干渉パターンは、ラビングの方向に直線偏光した入射光の位相リターデーションプロファイルを表している。
【0040】
図3は、干渉パターンから導かれた光の相対位相リターデーションのプロファイルを示す。図中、黒丸および白丸は測定点であり、曲線は二次曲線である。白丸はラビング方向に沿って測定した結果を示し、黒丸はそれと垂直方向に沿って測定した結果を示している。
【0041】
干渉パターンの最外リングの位置から出る異常光線は、ゼロの位相リターデーションであると考えられる。位相リターデーションの近似二次曲線は、この液晶レンズが、適当な幾何学的パラメーターにより、光学レンズと同様に挙動することを示している。
【0042】
従来の液晶マイクロレンズにおける場合と同様、ラビング方向に沿った位相リターデーションのプロファイルと、垂直方向に沿った位相リターデーションのプロファイルは異なっている。更に、ラビング方向に垂直方向に沿った位相リターデーションのプロファイルは対称であり、一方、ラビング方向に沿った位相リターデーションのプロファイルは、基板表面におけるダイレクタのプレチルト角のため、非対称である。プレチルト角を小さくすることで、非対称性は軽減される。
【0043】
図4は、印加電圧が35Vrmsであるときの、焦点面におけるライトスポットと集束ビームの強度分布の写真を示す。この図から、スポットの半値全幅(FWHM)が約100μmであることが計算される。
【0044】
液晶セルの焦点距離は、印加電圧により変化する。図5は、印加電圧の関数としての焦点距離を示している。集束力は、第1に、電圧により変化する。最小の焦点距離は約76cmであり、35Vrmsの近傍で得られる。電圧が増加し続けるに従って、中央付近のダイレクタが回転し続け、一方、孔の近傍のダイレクタは飽和する。屈折率のプロファイルは平坦化し、焦点距離はより長くなる。
【0045】
位相リターデーションのプロファイルは、孔の径と基板の厚さにより調整することが出来る。良好な性能を得るためには、孔のサイズを基板の厚さに従って増加させることが必要である。このような構造では、中間絶縁層として種々の厚さのガラス基板又は薄膜を用いることにより、殆ど任意のサイズの液晶レンズを実現することが出来る。
【0046】
本発明では、液晶層を薄くすることが出来るので、そのため、動作速度を、従来の液晶レンズよりもはるかに高速にすることが可能である。更に、この液晶レンズの構造における液晶中の電界の分布は、従来の液晶分子における電界の分布とは異なっている。即ち、従来の液晶マイクロレンズでは、孔の境界における電界は傾斜しており、それは種々の部分におけるダイレクタを反対の方向に回転可能にし、高電圧下ではディスクリネーションラインを生じさせてしまう。
【0047】
これに対し、本発明の液晶レンズのセル構造では、金属のような導電体の近傍では電界は面に垂直であるという事実により、電界と、液晶レンズの任意の位置にあるダイレクタとの間の角度は、殆ど同一であり、すべてのダイレクタは同じ方向に回転する。そのため、電圧を印加した場合でも、ディスクリネーションラインは生じない。このことは、動作速度を速めるために高電圧を印加することが出来ることを示している。
【0048】
通常の液晶マイクロレンズでは、2つのオーバーラップした孔を有する構造が、1つの孔を有する構造よりも高性能であることが見出されている。本発明においても、両方の電極にそれぞれ円形の孔を設け、2つの電極をガラス基板によって分離する構成とすることが出来る。
【0049】
しかし、ガラス基板の厚さは液晶層の厚さよりもはるかに厚いので、電界へのダイレクタの再配列の影響が無視できるならば、液晶の電界分布の点で、従来の2孔構造と本発明の構造との差は殆どない。本発明の電極構造は、動作電圧が、従来の2孔構造に必要とされる動作電圧の半分であり、かつ製造が非常に簡単であるという利点を有する。
【0050】
図1に示す実施形態の変形例として、透明電極4に電位勾配を形成した液晶レンズがある。即ち、図1に示す液晶レンズにおいて、透明電極4を比較的高抵抗な材料により構成し、透明電極4とアルミニウム薄膜電極5との間に電圧を印加すると同時に、透明電極4の両端部にも電圧を印加することにより、透明電極4に電位勾配を形成することが出来る。このような透明電極4に形成された電位勾配により、液晶層3の液晶分子が電位勾配の方向に配向する。その結果、透明電極4に電位勾配がないときに軸対称であった屈折率分布が、電位勾配の方向に非対称な分布となり、入射光が直進する方向から偏向するという効果が得られる。
【0051】
この場合、透明電極4の電圧が印加される部分、即ち、透明電極4の両端に設ける電極の位置を適宜変えることにより、入射光の偏向の方向を変化させることが出来る。
【0052】
透明電極4を構成する比較的高抵抗な材料としては、例えば、酸化亜鉛にインジウム酸化物を添加したもの、又は酸化スズを挙げることが出来る。電気抵抗は、100Ω~1MΩ程度が好ましい。
【0053】
図7は、酸化亜鉛にインジウム酸化物を約5%添加したターゲットを用いて高周波スパッタリングにより作成した約10kΩの抵抗値の透明電極4を用いて液晶レンズを構成し、透明電極4とアルミニウム薄膜電極5との間に電圧を印加すると同時に、透明電極4の両端部にも電圧を印加した場合の、透明電極4の両端部に印加された電圧と、焦点の位置との関係を示すグラフである。なお、焦点距離は、透明電極4とアルミニウム薄膜電極5との間に印加する電圧を変化させることにより変化する。
【0054】
図7から、透明電極4とアルミニウム薄膜電極5との間に印加する電圧、及び透明電極4の両端部に印加する電圧を変化させることにより、3次元的な焦点可変特性を得ることが可能であることがわかる。
【0055】
従来、電場や磁場により光を偏向させることは出来なかったが、透明電極4に電位勾配をもたせることにより、容易に光を偏向させることが出来、その結果、焦点を3次元的に変えることが可能な液晶レンスを実現することが出来る。この液晶レンズは、自由空間での光スイッチや光ファイバー間の切り替えスイッチ等の種々の広範囲の用途への適用が可能である。
【0056】
図6は、本発明の他の実施形態に係る液晶レンズを示す断面図である。図1と同一の部材は、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0057】
図6に示す液晶レンズは、2つの液晶レンズを、アルミニウム薄膜電極5を共通にして背中合わせに積層した構成を有する。即ち、アルミニウム薄膜電極5上にガラス基板12が配置され、このガラス基板12上に透明電極14を有するガラス基板11が配置され、これらガラス基板11とガラス基板12との間に液晶層13が更に収容されている。この場合、ガラス基板11,12の液晶層13に対向する面は、それぞれポリイミド膜17,18が被覆されており、それらの表面は、液晶分子が均一に配列するように、一方向にラビングされている。
【0058】
このような構造の液晶レンズにおいて、ポリイミド膜7,8のラビング方向とポリイミド膜17,18のラビング方向とを同一とし、2枚の偏光板で挟むことにより、焦点距離を短くすることが出来る。
【0059】
また、ポリイミド膜7,8のラビング方向とポリイミド膜17,18のラビング方向とを直交させることにより、偏光板を配置することなく、液晶レンズを動作させることが可能である。
【0060】
図6に示す実施形態に係る液晶レンズにおいても、入射光を偏向させる構成とすることが出来る。即ち、透明電極4の両端に電極を取付け、電圧を印加し、透明電極4に電位勾配を設けることにより、液晶層3に入射する光を偏向させ、焦点の位置を変えることが可能である。
【0061】
本発明の更に他の実施形態は、図1に示す液晶レンズにおいて、液晶層3として紫外線や可視光線により重合硬化可能な液晶を用い、透明電極4及びアルミニウム電極5を介して液晶層3に電圧を印加した状態で、液晶層3に紫外線や可視光線を照射し、液晶を硬化させ、それによって焦点が所定の位置に制御された高分子レンズを得るものである。なお、焦点の位置は、光軸方向に制御されるだけでなく、上述した方法で透明電極4に電位勾配を設けることにより、光軸とは垂直の方向にも制御されていてもよい。
【0062】
本実施形態では、重合硬化性液晶として、UCL-001(商品名:大日本インキ株式会社製)を用い、透明電極4及びアルミニウム電極5を介して液晶層3に50Vrmsを印加した状態で、高圧水銀灯により10mWの紫外線を10分間液晶層3に照射した。その結果、液晶は光重合し、硬化した。電圧の印加を解除しても、液晶分子の配向状態は変化せず、レンズ特性はそのまま保持されていた。
【0063】
その後、液晶層3が重合硬化した高分子膜を基板から剥離し、取り外すことにより、プラスチックフィルム状の高分子レンズを得ることが出来た。
【0064】
本実施形態に使用可能な重合硬化性液晶としては、例えば、下記一般式(1)により表される化合物を好ましく用いることが出来る。
【0065】
【化1】
JP0003913184B2_000002t.gif(式中、Xは水素原子又はメチル基を表わし、6員環A、B及びCはそれぞれ独立に下記式(2)により表される原子団を表わし、nは0又は1を表わし、mは1~4の整数を表わし、Y1及びY2はそれぞれ独立に単結合、-CH2CH2-、-CH2O-、-OCH2-、-COO-、-OCO-、-C≡C-、-CH=CH-、-CF=CF-、-(CH24-、-CH2CH2CH2O-、-OCH2CH2CH2-、-CH2=CHCH2CH2-、又は-CH2CH2CH=CH-を表わし、Y3は水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基又はアルケニルオキシ基を表わす)
【化2】
JP0003913184B2_000003t.gif
【0066】
なお、以上挙げた重合硬化性液晶には、重合硬化性を持たない液晶を添加してもよく、また従来公知の光重合開始剤、増感剤、保存安定剤等を添加することが出来る。
【0067】
以上、本発明の実施形態に係る液晶レンズ及び高分子レンズについて説明したが、本発明は図1および図6に示す構造に限らず、種々変更を加えることが可能である。
【0068】
また、以上説明した液晶レンズ又は高分子レンズを多数個、平面状に束ね、2次元アレイ状に配置することも可能である。
【0069】
【発明の効果】
本発明によると、簡単な構成で、数10ミクロン程度から数cm程度までの大きさの、焦点の位置を極めて容易に変えることが出来る、任意の形状寸法の液晶レンズ及び高分子レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る液晶レンズを示す断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る液晶レンズを2つの偏光板により挟み、電圧を印加することにより得た干渉パターンを示す図。
【図3】干渉パターンから誘導された光の相対位相リターデーションのプロファイルを示す特性図。
【図4】焦点面におけるライトスポットと集束ビームの強度分布を示す写真図。
【図5】印加電圧と焦点距離の関係を示す特性図。
【図6】本発明の他の実施形態に係る液晶レンズを示す断面図。
【図7】透明電極とアルミニウム薄膜電極との間に電圧を印加すると同時に、透明電極の両端部にも電圧を印加した場合の透明電極の両端部に印加された電圧と、焦点の位置との関係を示す解く製図。
【符号の説明】
1・・・下部基板
2・・・上部基板
3,13・・・液晶層
4,14・・・透明電極
5・・・アルミニウム薄膜電極
6・・・孔
7,8,17,18・・・ポリイミド膜
11,12・・・ガラス基板
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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