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明細書 :プラズマ表面処理方法及び装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4484421号 (P4484421)
公開番号 特開2004-031461 (P2004-031461A)
登録日 平成22年4月2日(2010.4.2)
発行日 平成22年6月16日(2010.6.16)
公開日 平成16年1月29日(2004.1.29)
発明の名称または考案の名称 プラズマ表面処理方法及び装置
国際特許分類 H01L  21/265       (2006.01)
C23C  14/48        (2006.01)
FI H01L 21/265 F
C23C 14/48 Z
請求項の数または発明の数 2
全頁数 13
出願番号 特願2002-182259 (P2002-182259)
出願日 平成14年6月21日(2002.6.21)
審判番号 不服 2007-008008(P2007-008008/J1)
審査請求日 平成16年6月8日(2004.6.8)
審判請求日 平成19年3月19日(2007.3.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】池畑 隆
個別代理人の代理人 【識別番号】100107009、【弁理士】、【氏名又は名称】山口 隆生
参考文献・文献 特開平10-226882(JP,A)
特開平3-120362(JP,A)
調査した分野 H01L21/26-21/268
H01L21/322-21/326
特許請求の範囲 【請求項1】
接地された真空容器と、該真空容器の内部に導電性の支持体に支持されて配置され接地電位にある被処理物と、前記真空容器の内部に正電位にバイアスされたプラズマを発生させるプラズマ発生用電源及びプラズマ発生用アンテナ又は電極と、プラズマに正パルスバイアスを印加するための陽極と、プラズマに接触する接地電位にある陰極とを含むプラズマ表面処理装置を用いたプラズマ表面処理法であって、接地された真空容器内に配置され接地電位に保たれた被処理物の周囲に正電位にバイアスされたプラズマを発生させ、前記被処理物とプラズマとの間にパルス電圧を加えることにより前記被処理物とプラズマとの間にイオンシースを形成させ、プラズマ内の正イオンをイオンシース内の電界によって加速し、前記被処理物の表面に堆積させることにより、あるいは前記被処理物の内部にイオン注入させることによって、被処理物の表面物性を物理的ないし化学的に改質するプラズマ表面処理法において、前記被処理物の周囲を覆うように設けられる導電性包囲体であって、前記陽極の面積をSA前記被処理物及び前記導電性包囲体のプラズマに接する面積である前記陰極の面積をSK前記陰極のイオン衝撃2次電子放出係数をγ、イオン質量をmi 、電子質量をme としたとき、SA >1.50(1+γ)(me/mi1/2・SK の条件を満たすべ接地電位の前記導電性包囲体を形成して、X線の抑制と前記被処理物の表面処理の電力効率を向上することを特徴とするプラズマ表面処理法。
【請求項2】
接地された真空容器と、該真空容器の内部に導電性の支持体に支持されて配置され接地電位にある被処理物と、前記真空容器の内部に正電位にバイアスされたプラズマを発生させるプラズマ発生用電源及びプラズマ発生用アンテナ又は電極と、プラズマに正パルスバイアスを印加するための陽極と、プラズマに接触する接地電位にある陰極と、X線の抑制と前記被処理物の表面処理の電力効率を向上するために前記被処理物の周囲を覆うように設けられた導電性包囲体であって、前記陽極の面積をSA前記被処理物及び前記導電性包囲体のプラズマに接する面積である前記陰極の面積をSK前記陰極のイオン衝撃2次電子放出係数をγ、イオン質量をmi 、電子質量をme としたとき、SA >1.50(1+γ)(me/mi1/2・SK の条件を満たすべく形成された接地電位の前記導電性包囲体とからなることを特徴とするプラズマ表面処理装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は被処理物の表面物性を物理的ないし化学的に改質するプラズマ表面処理法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のプラズマ表面処理手段について、図にその原理の概要を説明する。また、図10は図の真空容器と被処理物との間の電位分布を模式的に表したものである。図において、接地された真空容器2の内部に、別に設けられたプラズマ発生用電源7及びプラズマ発生用アンテナ又は電極6によってプラズマ3を発生させる。プラズマ発生法としては、熱陰極を用いた直流アーク放電、高周波容量結合放電、高周波誘導結合放電、マイクロ波放電、ECR放電等が用いられる。
【0003】
導電性の支持体に支持された被処理物1がこのプラズマの中に浸される。支持体は被処理物に電圧電流を供給するための真空フィードスルー8を介して真空容器外のパルス発生器9に接続される。パルス発生器9は、パルスの振幅、時間幅、繰り返し周波数が可変であり、負電圧パルスを連続して発生することができる。更に、パルスの立ち上がり時間ないしは立ち下がり時間等の波形を制御することも行われる。
【0004】
真空フィードスルー8は真空容器壁を貫通して、内部の被処理物1と支持体を支えるのに必要十分な強度と電気伝導性を有するものであり、かつプラズマ3ないし真空容器2とは電気的絶縁を保つために、絶縁処理が施されているものである。
【0005】
パルス発生器9から被処理物1に対して負のパルス電圧を印加すると、プラズマ3と被処理物1の間にイオンシース4が形成される。イオンシース4は被処理物1の表面全体をほぼ一様に覆うことを特徴とする。プラズマ中の電荷Qクーロンの正イオン5はイオンシース4内の電界で加速され、印加された電圧Vボルトにほぼ等しい運動エネルギーQVジュールを持って被処理物1の表面に達する。
【0006】
ここで、印加パルス電圧が数百ボルト乃至数千ボルトのときは、正イオン5は被処理物1の表面に堆積して被膜を形成し、被処理物1の表面を改質する。これをイオンプレーティング法と呼んでいる。印加パルス電圧が20キロボルト乃至100キロボルトのときは、正イオン5が被処理物1の内部に注入され、被処理物1の表面を改質する。これをプラズマイオン注入法と呼んでいる。イオンプレーティング法とプラズマイオン注入法とを合わせてプラズマ表面処理法と称する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図に示されるように、真空フィードスルー8及び支持体を介して被処理物1に、直接、負バイアスを加える従来法は、真空容器2内の被処理物1を外部から運動又は移動させることが困難であった。従って、表面処理が終了するごとに真空を破って(容器内を大気圧に戻して)被処理物1を取り出し、次の未処理物を設置して真空排気する、所謂、バッチ処理形態が主であった。(課題1)
【0008】
また、被処理物1の表面や内部にイオンエネルギーあるいはイオン照射量等を計測する測定器を設置すること、又は被処理物1の表面、内部あるいは周辺に異なるイオン種を発生するための補助プラズマ源を設置することについては、前者においては、表面処理過程を監視あるいは制御して処理品質を保証するために、後者においては、複数のイオンを用いた表面処理を可能にする等のために、極めて有用であるが、従来法では、被処理物1に、直接、負のパルスバイアスを印加し、従って被処理物1の電位が時間的に変動するので、これらのことは極めて困難であった。(課題2)
【0009】
従来法のうち、被処理物1に対して20キロボルト乃至100キロボルトの負のパルスバイアスを加えるプラズマイオン注入法では、イオンの衝撃によって、被処理物1の表面から1乃至10の2次電子が発生し、これらの2次電子はシースの電界で印加電圧に対応する運動エネルギーまで加速され、真空容器2の壁を衝撃し、強いX線と熱を発生した。このX線は作業環境の安全上極めて有害であった。米国ジェッセ・エヌ・マトッシアンの発明(特開平7ー169437号公報参照)では、被処理物と容器壁との間に導電性の包囲体を設け、被処理物と同じ負パルスバイアスを印加する。そして、発生した2次電子を包囲体で反射してX線の発生を防止する。しかしながら、大型の包囲体を真空中に固定して、しかも高電圧パルスが印加できるように絶縁処理を施すことは、実用装置としてはいかにも煩雑である。(課題3)
【0010】
そして、上記課題3で発生する2次電子は、同時に、負電圧パルス発生器が供給する電力の内、多くの割合を消費し、かつ2次電子が消費するこれらの電力は、何ら表面処理効果に寄与しないので、表面処理法及び装置全体の電力効率を著しく低下させる問題があった。(課題4)
【0011】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、被処理物を常に接地電位に保ちながら、従来法と同等の表面処理効果を得ることができ、同時に被処理物から放出される2次電子による強いX線の発生及び電力効率の低下を著しく軽減することのできる、プラズマ正パルスバイアスを特徴とするプラズマ表面処理法及び装置(以下、「正パルスバイアス法及び装置」と略称する)を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るプラズマ表面処理法は、接地された真空容器と、該真空容器の内部に導電性の支持体に支持されて配置され接地電位にある被処理物と、前記真空容器の内部に正電位にバイアスされたプラズマを発生させるプラズマ発生用電源及びプラズマ発生用アンテナ又は電極と、プラズマに正パルスバイアスを印加するための陽極と、プラズマに接触する接地電位にある陰極とを含むプラズマ表面処理装置を用いたプラズマ表面処理法であって、接地された真空容器内に配置され接地電位に保たれた被処理物の周囲に正電位にバイアスされたプラズマを発生させ、前記被処理物とプラズマとの間にパルス電圧を加えることにより前記被処理物とプラズマとの間にイオンシースを形成させ、プラズマ内の正イオンをイオンシース内の電界によって加速し、前記被処理物の表面に堆積させることにより、あるいは前記被処理物の内部にイオン注入させることによって、被処理物の表面物性を物理的ないし化学的に改質するプラズマ表面処理法において、前記被処理物の周囲を覆うように設けられる導電性包囲体であって、前記陽極の面積をSA前記被処理物及び前記導電性包囲体のプラズマに接する面積である前記陰極の面積をSK前記陰極のイオン衝撃2次電子放出係数をγ、イオン質量をmi 、電子質量をme としたとき、SA >1.50(1+γ)(me/mi1/2・SK の条件を満たすべ接地電位の前記導電性包囲体を形成して、X線の抑制と前記被処理物の表面処理の電力効率を向上するように構成した。
【0013】
こうして、被処理物を常に接地電位に保ち、プラズマを正電位にパルスバイアスすることによって、従来法と同等の処理効果を確保しながら、新規な有用効果を発現させることができるものであり、被処理物が容器と同じ接地電位にあるので、支持機構を大いに簡素化できるので、装置の設計・製作・維持が容易になる。また、被処理物の表面や内部にイオンエネルギー又はイオン照射量等を計測する測定器を設置することが可能になる。更に、被処理物の表面、内部又は周辺に異なるイオン種を発生するための補助プラズマ源を設置することが可能になる。また、被処理物の周囲に、所定条件の面積を有する接地電位の包囲体を設けることにより、被処理物の表面から放出される2次電子の量やエネルギーを減少させる効果があるため、有害なX線の発生量を低く抑えることができると共に、2次電子はパルス発生器が供給する電力のかなりの部分を消費し、電力効率を低下させる問題があったが、この電力効率の改善にも寄与することができる。
【0014】
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【0015】
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【0016】
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【0017】
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【0018】
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【0019】
本発明の請求項に係るプラズマ表面処理装置は、接地された真空容器と、該真空容器の内部に導電性の支持体に支持されて配置され接地電位にある被処理物と、前記真空容器の内部に正電位にバイアスされたプラズマを発生させるプラズマ発生用電源及びプラズマ発生用アンテナ又は電極と、プラズマに正パルスバイアスを印加するための陽極と、プラズマに接触する接地電位にある陰極と、X線の抑制と前記被処理物の表面処理の電力効率を向上するために前記被処理物の周囲を覆うように設けられた導電性包囲体であって、前記陽極の面積をSA前記被処理物及び前記導電性包囲体のプラズマに接する面積である前記陰極の面積をSK前記陰極のイオン衝撃2次電子放出係数をγ、イオン質量をmi 、電子質量をme としたとき、SA >1.50(1+γ)(me/mi1/2・SK の条件を満たすべく形成された接地電位の前記導電性包囲体とで構成した。
【0020】
こうして、被処理物を常に接地電位に保ち、プラズマを正電位にパルスバイアスすることによって、従来法と同等の処理効果を確保できるものであり、被処理物が容器と同じ接地電位にあるので、支持機構を大いに簡素化できるので、装置の設計・製作・維持が容易になる。また、被処理物の表面や内部にイオンエネルギー又はイオン照射量等を計測する測定器を設置することが可能になる。更に、被処理物の表面、内部又は周辺に異なるイオン種を発生するための補助プラズマ源を設置することが可能になる。また、被処理物の周囲に接地電位の包囲体を設けることにより、被処理物の表面から放出される2次電子の量やエネルギーを減少させる効果があるため、有害なX線の発生量を低く抑えることができると共に、2次電子はパルス発生器が供給する電力のかなりの部分を消費し、電力効率を低下させる問題があったが、この電力効率の改善にも寄与することができる。
【0021】
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【0022】
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【0023】
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【0024】
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【0025】
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【0026】
【発明の実施の形態】
本願発明者は、上述の課題を解決するために鋭意研究の結果、プラズマ内に適切な面積を有する電極(以下、「陽極」という)を新たに挿入し、これに正のパルス電圧を印加すると、プラズマ電位が陽極電圧とともに上昇し、接地電位にある被処理物との間にイオンシースが形成されること、その結果、プラズマ内の正イオンが被処理物表面に向かって加速され、従来技術と同等の表面処理効果が達成されること、一方、本発明の方式では、上述の課題1乃至4が原理的に解決されることを知見し、この知見に基づいて本発明のプラズマ表面処理方法及び装置を達成したものである。
【0027】
即ち、本発明は、被処理物の周囲にプラズマを発生させ、更に被処理物とプラズマとの間にパルス電圧を加え、それによって被処理物とプラズマとの間にイオンシースを形成させ、プラズマ内の正イオンをイオンシース内の電界によって加速して、被処理物の表面に堆積させることにより、あるいは電圧が十分高い場合には、被処理物の内部にイオン注入させることによって、被処理物の表面物性を物理的ないしは化学的に改質するプラズマ表面処理法及び装置に関し、特に、被処理物を常に接地電位(ゼロボルト)に保ち、プラズマを正電位にバイアスすることによって、従来法と同等の処理効果を確保しながら、同時に新規な有用効果を発現させることを特徴とする表面処理方法及び装置を提供するものである。
【0028】
まず、本願発明の基礎となる、プラズマ正パルスバイアスの理論モデル及び正パルスバイアス印加の条件について説明する。図1は、面積SA(厳密には、プラズマに接する面 積)の陽極と、面積SK(同様に、プラズマに接する面積)の陰極をプラズマ内に配置し、両電極間に直流電圧Vを加えた時の電極間の電位分布V(z)(上図)と回路に流れる電流I(下図)を示したものである。
【0029】
図1は、プラズマ診断の際に多用される静電プローブの中でも、非対称ダブルプローブのモデルと等価であることに注目すべきである。この時、プラズマ電位Vp は陽極電圧Vと同等か、又はその電圧Vよりも電子温度Te(但し、電圧に換算したもの)の数倍程度 高くなる傾向がある。同時に、陰極の前面にイオンシースが形成され、電源電圧の殆ど全てがこのイオンシースにかかる傾向がある(これを特に陰極降下という)。電極近傍を除くプラズマ全体は、等しい電位Vp になる傾向がある。その理由は電子がイオンに比べて極めて質量が小さく、かつ移動性が高いことによる。即ち、プラズマの特性に基づいている。
【0030】
陽極電流IA(A)は、電子の流入によるもので、電子電流密度Je(A/m2)、プラズマ密度n(m-3)、電子の平均速度ve(m/s)、ボルツマン定数k=1.38×10-23J/K、 電子温度Te(K)、電子電荷e(C)、電子質量m(kg)、電子飽和電流Ies(A)を用いて 次の(1)式のように、
【数1】
JP0004484421B2_000002t.gifと表される。
【0031】
また、陰極電流IK は、正イオンの流入とイオンの衝撃によって陰極から放出される2次電子流とから成り、イオン飽和電流密度Jis(A/m2)、2次電子電流密度Jse 、被処 理物の2次電子放出係数γ、イオン質量mi(kg)、ボーム速度uB(m/s)を用いて、( 2)式のように、
【数2】
K =SK(Jis+Jse)=SK(1+γ)Jis=SK(1+γ)0.6enuB ・・(2)と表される。
【0032】
ここで、γはイオンの種類とエネルギーE(eV)、そして被処理物
の材質や表面状態で変わるが、エネルギーが概ね1keVを超えると、
【数3】
γ=αE1/2 ・・・・(3)
と近似できる。αは係数である。γの例は文献(例えば、M.M. Shamin, J.T. Scheuer, R.P. Fetherton and J.R. Conrad: J. Appl. Phys., 70,4756(1991))に記されている。
【0033】
回路の電流連続から、
【数4】
A =IK =I ・・・・(4)
である。
【0034】
従って、式(1),(2)を式(4)に代入すると、
【数5】
JP0004484421B2_000003t.gifが導かれる。
【0035】
プラズマ電位Vpが陽極電圧Vより常に高くなる条件は、Vp-V>0、から、
【数6】
JP0004484421B2_000004t.gif 又は、
【数7】
JP0004484421B2_000005t.gifと求められる。こうして、正パルスバイアスを印加するための陽極面積SA の下限が決定された。
【0036】
次に本発明を実施するための基本構成と動作を、前述の従来技術(図9及び図10を参照)と対比させて、図2の装置構成と図3の被処理物の周囲のイオンシース形成と電位分布図を用いて説明する。図2において、接地された真空容器11の内部に、別に設けたプラズマ発生用電源16及びプラズマ発生用アンテナ又は電極15によってプラズマ12を発生させる。プラズマ発生法は、熱陰極を用いた直流アーク放電、高周波容量結合放電、高周波誘導結合放電、マイクロ波放電、ECR放電等が用いられる。
【0037】
導電性の支持体19に支持された被処理物10がこのプラズマ12の中に浸される。被処理物10及び支持体等19は接地電位にある。被処理物10のプラズマに接する面積をST、真空容器壁のプラズマに接する 面積をSW と表すと、陰極面積SK は、
【数8】
K =ST +SW ・・・・(8)
と表される。(尚、被処理物10と真空容器11の間に、接地電位の導電性包囲体を設ける場合がある。この時は、包囲体のプラズマに接する面積がSW となる。
【0038】
次に、真空容器11内に正パルスバイアスを印加するための電極(陽極)20を真空フィードスルー17を介して挿入する。陽極面積SA は式(6)又は式(7)を満たすように設定される。更に、陽極20は真空容器11外で正の電圧パルスを発生するパルス発生器18に接続される。パルス発生器18は、パルスの振幅、時間幅、繰り返し周波数が可変であり、正電圧パルスを連続して発生することができる。更に、パルスの立ち上がり時間あるいは立ち下がり時間等の波形を制御することも行われる。
【0039】
パルス発生器18から被処理物10に対して正のパルス電圧を印加すると、プラズマ12と被処理物10の間にイオンシース13が形成される。イオンシース13は被処理物10の表面全体をほぼ一様に覆うことを特徴とする。プラズマ内の電荷Qの正イオン14はイオンシース内の電界で加速され、印加された電圧Vにほぼ等しい運動エネルギーQVを持って被処理物10の表面に達する。
【0040】
ここで、印加パルス電圧が数百ボルト乃至数千ボルトの時は、正イオン14は被処理物10の表面に堆積して被膜を形成し、被処理物10の表面を改質する、所謂、イオンプレーティング法となり、印加パルス電圧が20キロボルト乃至100キロボルトの時は、正イオン14が被処理物10の内部に注入され、被処理物10の表面を改質する、所謂、プラズマイオン注入法となる。
【0041】
本願発明の基本構成によって、上述の課題1乃至課題4がどのように解決されるかを説明する。正パルスバイアス法および装置では、被処理物10は真空容器11と同じ接地電位におかれるので、まず課題1及び課題2が解決する。
【0042】
本願発明の基本構成による方式では、接地電位の被処理物の表面から放出された2次電子は、同じく接地電位の真空容器の壁にほぼ速度ゼロで吸収されるか、あるいは反射されてプラズマ中を往復運動する。この間、2次電子はプラズマ内の電子やイオンと衝突を繰り返し、徐々に減速する。2次電子が発生するX線の強度は極めて弱いものになる。
【0043】
従って、X線の遮蔽等は全く必要なくなるか、あるいは軽微なもので良いことになる。こうして、上記課題3は解決される。前記したマトッシアン特許では、被処理物と同じに負パルスバイアスされた包囲体を導入するが、本願発明の基本構成では真空容器自体がすでに包囲体となって、X線の発生を抑止する。しかし、被処理物の周囲に接地電位の包囲体を設置すればさらに有効である。何故ならば、このとき式(8)より、面積SW と面積SK が減少するので、正パルスバイアス印加のための条件、式(6)又は式(7)が容易に満たされるようになり、同時に、回路電流が減少するので、表面処理の電力効率が向上する。
【0044】
削除
【0045】
次に、本発明の基本構成について図4を参照して説明する。これはプラズマ正パルスバイアス法の原理を実証するために実施した基礎実験の構成である。ステンレス鋼(SUS304)製真空容器(接地電位)の下部から直径6cmの円板ターゲット陰極(SUS304,ST=28cm2 )を挿入する。真空容器の上部には、直径7cmの石英管が取り付けられている。
【0046】
マスフローコントローラ(図示せず)を介してアルゴンガスが導入され、バラトロン真空計(図示せず)で常に0.1Paの圧力に調整される。石英管の外側 にはループアンテナが巻かれ、140MHz、20Wの高周波電力を供給して、アルゴンの誘導放電プラズマが生成される。石英管の上部には、真空フィードスルーを介して直径3cmの陽極(SA=7cm2)が導入される。陽極もSUS304製で、裏面はセラミックスで絶縁されている。
【0047】
常にプラズマに接する陽極表面には、しばしば絶縁性の酸化膜が形成されることがある。酸化膜が形成されると、陽極面積が減少するので正パルスバイアスがかかりにくくなるので、陽極材料を選ぶことは重要である。金や白金などを蒸着すると、表面が酸化されにくくなる。あるいは、正電圧パルス発生器に-300V乃至-500Vの直流電圧を重畳すると、パルスとパルスの間に陽極に負電圧がかかって、正イオン(ここでは、アルゴンイオン)が陽極表面を衝撃し、スパッタリング作用によって酸化膜を除去するか、膜の堆積を抑止することができる。
【0048】
正パルスバイアス印加の条件を実験的に調べるには、面積SW を変化できることが重要がある。そのために、真空容器内面の一部又は全部を絶縁材のマイラーで覆った。絶縁材で覆われた面には電流が流れないので、これを除く残りの面がSW を決める。
【0049】
そして、SW は次のようにして求められる。式(4)は式(9)のように、
【数9】
I=IA =IK =IT+IW =STis +SWis ・・・・(9)
と書き換えられる。IA ,ITは同時に測定できるので、IW がIW =IA-ITとして求まる。ST は既知であるから、結局、SW =ST(IA/IT-1)としてSW が求まる。
【0050】
本実施例では、2つのケースを比較した。ケース1は、SK =311cm2,SK/SA=44であり、ケース2は、絶縁材を全て除去した場合で、SK =2580cm2,SK/SA=368である。一方、正パルスバイアスが印加されるための理論的条件は、式(6)から、10keVのアルゴン正イオン(Ar+)として、γの経験値を用 いると、
【数10】
K /SA <45 ・・・・(10)
となり、ケース1は条件を満たすが、ケース2は満たさないことになる。
【0051】
図5は、上記ケース1(図5A),ケース2(図5B)について、10kV,5μsの正電圧パルスを印加した場合の高電圧パルスモジュレータ出力、陽極電圧、プラズマ内(ターゲット面から13cm)のフローティング電位の測定結果を示したものである。
【0052】
ケース1では、陽極に10kVの電圧が印加され、プラズマ中のフローティング電位も8.5kVに達している。プラズマ電位はフローティング電位より常に正になることを考 慮すると、プラズマに正パルスバイアスが印加されていることがわかる。一方、ケース2では、陽極電圧、フローティング電位ともに小さい。
【0053】
また、このとき陽極に大電流が観測されている。即ち、ケース2ではプラズマにブレークダウン(絶縁破壊)が発生し、パルスバイアスが印加できない。このことは、面積比をいくつか変化させた実験において、正パルスバイアス印加の条件として、式(6)又は式(7)の妥当性が証明されている。
【0054】
次に、ターゲット陰極表面からの距離とフローティング電位の関係を図6に示す。プラズマ中では電位が一定で、陰極付近にのみ電位勾配がある。ここにイオンシースが形成されていることがわかる。図7は陽極への正パルス入力電圧とフローティング電位の関係で,電位は入力電圧に比例して増加している。
【0055】
本発明の実施形態を図8に示す。図中、図2と同一物には同じ符号を付している。この実施形態の動作原理は図2の基本構成のものと同じであり、接地された真空容器11の内部に、別に設けたプラズマ発生用電源16及びプラズマ発生用アンテナ又は電極15によってプラズマ12を発生させる。プラズマ発生法は、熱陰極を用いた直流アーク放電、高周波容量結合放電、高周波誘導結合放電、マイクロ波放電、ECR放電等が用いられる。導電性の支持体19に支持された被処理物10がこのプラズマ12の中に浸される。被処理物10及び支持体等19は接地電位にある。図2との相違点は、被処理物10の周囲を接地電位の導電性包囲体21で覆うことであり、被処理物10からの2次電子を反射して、結果的にX線の発生量を減少させ、かつ電力効率を向上させることができる。
【0056】
削除
【0057】
削除
【0058】
削除
【0059】
削除
【0060】
【発明の効果】
以上のように本発明のプラズマ表面処理方法及び装置は、被処理物を常に接地電位に保ち、プラズマを正電位にパルスバイアスすることによって、従来法と同等の処理効果を確保しながら、同時に新規な有用効果を発現させることができるものであり、被処理物の周囲を覆う導電性包囲体と同じ接地電位にあるので、支持機構を大いに簡素化できるので、装置の設計・製作・維持が容易になる。
【0061】
また、被処理物の表面や内部にイオンエネルギー又はイオン照射量等を計測する測定器を設置することが可能になる。更に、被処理物の表面、内部又は周辺に異なるイオン種を発生するための補助プラズマ源を設置することが可能になる。
【0062】
また、被処理物の表面から放出される2次電子の量やエネルギーを減少させる効果があるため、有害なX線の発生量を低く抑えることができると共に、2次電子は、パルス発生器が供給する電力のかなりの部分を消費し、電力効率を低下させる問題があったが、この電力効率の改善にも寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 非対称ダブルプローブの電圧電流と電位分布を説明する図。
【図2】 本発明の正パルスバイアス法および装置の構成と原理を説明する図。
【図3】 本発明の正パルスバイアス法および装置における被処理物の周囲のイオンシース形成と電位分布を示す図。
【図4】 プラズマ正パルスバイアス法の原理を実証するための実施形態。
【図5】 高電圧パルスモジュレータ出力、陽極電圧、フローティング電位の比較。
【図6】 フローティング電位のターゲット陰極表面からの距離依存性。
【図7】 フローティング電位の正パルス入力電圧依存性。
【図8】 被処理物の周囲を接地電位の導電性包囲体で覆った本発明の実施形態。
【図9】 従来技術(負パルスバイアス)の構成と原理を説明する図。
【図10】 従来技術における被処理物の周囲のイオンシース形成と電位分布を示す図。
【符号の説明】
1,10 被処理物
2,11 真空容器(導電性)
3,12 プラズマ
4,13 イオンシース
5,14 正イオン
6,15 プラズマ発生用アンテナ又は電極
7,16 プラズマ発生用電源
8,17 真空フィードスルー及び支持体
9 負電圧パルス発生器又は負電圧パルスモジュレータ
18 正電圧パルス発生器又は正電圧パルスモジュレータ
19 支持体(接地電位)
20 正パルスバイアス印加電極(陽極)
21 接地電位の導電性包囲体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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