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明細書 :燃料電池用アノード電極及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4129763号 (P4129763)
公開番号 特開2004-031174 (P2004-031174A)
登録日 平成20年5月30日(2008.5.30)
発行日 平成20年8月6日(2008.8.6)
公開日 平成16年1月29日(2004.1.29)
発明の名称または考案の名称 燃料電池用アノード電極及びその製造方法
国際特許分類 H01M   4/90        (2006.01)
H01M   4/88        (2006.01)
H01M   4/86        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
C08G  75/00        (2006.01)
FI H01M 4/90 Y
H01M 4/88 Z
H01M 4/86 B
H01M 8/10
C08G 75/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2002-186933 (P2002-186933)
出願日 平成14年6月26日(2002.6.26)
審査請求日 平成17年4月26日(2005.4.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】北川 宏
【氏名】藤島 武蔵
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】原 賢一
参考文献・文献 特開昭58-057267(JP,A)
調査した分野 H01M 4/86-4/96
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式1で示されるジチオオキサミド誘導体dtoa(ここで、RはH、COHおよびCOHから選択される置換基である)と遷移金属Mとからなり、下記式2で示される層状の分子構造を有する配位高分子金属錯体RdtoaMの薄膜であって、上記層状の分子構造の層の間に水分子吸蔵されて室温において高いプロトン伝導性を備え、かつ、上記層状の分子構造の層の間に水素吸蔵されて室温において高い電子伝導性を備えたことを特徴とする、燃料電池用アノード電極。
【化1】
JP0004129763B2_000006t.gif
【化2】
JP0004129763B2_000007t.gif

【請求項2】
前記遷移金属Mが、銅(Cu),ニッケル(Ni),鉄(Fe),コバルト(Co)の何れか一つであることを特徴とする、請求項1に記載の燃料電池用アノード電極。
【請求項3】
前記Rの少なくとも1つがH(水素)であることを特徴とする、請求項に記載の燃料電池用アノード電極。
【請求項4】
前記Rの少なくとも1つが、COHであることを特徴とする、請求項に記載の燃料電池用アノード電極。
【請求項5】
下記式3で示されるジチオオキサミド誘導体Rdtoa(ここで、RはH、COHおよびCOHから選択される置換基である)と遷移金属Mとからなり、下記式4で示される層状の分子構造を有する配位高分子金属錯体RdtoaMを加圧成型して薄膜化する工程と、
上記薄膜化した配位高分子金属錯体に水素を吸蔵させる工程と、
上記薄膜化した配位高分子金属錯体に水分子を吸蔵させる工程とにより、
燃料電池用アノード電極を製造することを特徴とする、燃料電池用アノード電極の製造方法。
【化3】
JP0004129763B2_000008t.gif
【化4】
JP0004129763B2_000009t.gif

【請求項6】
前記RがH(水素)であり、且つ、前記遷移金属MがCuであることを特徴とする、請求項に記載の燃料電池用アノード電極の製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば固体高分子型燃料電池のアノード電極として利用される燃料電池用アノード電極に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題に関し、所謂クリーンなエネルギー源として燃料電池が注目されてきている。このような燃料電池は、効率が高く、天然ガス,メタノール等の多様な燃料の使用が可能であることから、石油代替の促進にも寄与するものとして、その環境保全上の効果が期待されている。特に、固体高分子型燃料電池は、高出力密度,低温作動等の特長を有していることから、家庭用,可搬型電源等としての普及が期待されている。
【0003】
ところで、固体高分子型燃料電池の電極としては、従来、白金を炭素に混ぜたものが使用されている。一般に、燃料電池の電極、特にアノード電極には、水素イオン(H+ :以下、プロトンと呼ぶ)の拡散性が高く、即ちプロトン伝導性が高く、しかも電子伝導性も高いという基本性能が要求される。
このため、このような基本性能を満たすものとして、白金やパラジウム等の金属のみが存在していることから、通常は比較的入手が容易である白金が使用されているのがその理由である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような燃料電池用アノード電極は、益々高性能化が要求されてきており、そのためには、電極,電解質及び気体活物質の三相界面の増大が重要であり、特に電極に関しては、触媒性が高く、電子とプロトンに対して高い伝導性を有するように設計されなければならない。
しかしながら、上述したように、燃料電池用アノード電極は、従来より白金から構成されており、その性能向上は限界に達している。それに加えて、白金を使用した燃料電池用アノード電極は、比較的高価であり、燃料電池のコストが高くなってしまうという課題がある。
【0005】
本発明は、以上の点にかんがみて、室温で高いプロトン伝導性及び電子伝導性を有すると共に、低コストで製造され得るようにした、燃料電池用アノード電極及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記式1で示されるジチオオキサミド誘導体Rdtoa(ここで、RはH、COHおよびCOHから選択される置換基である)と遷移金属Mとからなり、下記式2で示される層状の分子構造を有する配位高分子金属錯体RdtoaMの薄膜であって、上記層状の分子構造の層の間に水分子が吸蔵されて室温において高いプロトン伝導性を備え、かつ、上記層状の分子構造の層の間に水素が吸蔵されて室温において高い電子伝導性を備えたことを特徴とする、燃料電池用アノード電極により達成される。
【化5】
JP0004129763B2_000002t.gif【化6】
JP0004129763B2_000003t.gif
【0009】
この発明において、上記遷移金属Mは、銅(Cu),ニッケル(Ni),鉄(Fe)コバルト(Co)の何れか一つである。
【0011】
また、上記配位高分子金属錯体RdtoaMのアルキル基Rは、H、COHおよびCOHから選択される置換基である。
【0012】
上記構成によれば、燃料電池用アノード電極を構成する配位高分子金属錯体RdtoaMにおいて、上記配位高分子金属錯体RdtoaMの層間に水分子を吸蔵させ、かつ、水素を吸蔵させることで、室温において高いプロトン伝導性と、高い電子伝導性を有する。
従って、上記配位高分子金属錯体RdtoaMが、室温にて高いプロトン伝導性及び電子伝導性を有することから、燃料電池用アノード電極として使用することができ、従来の白金等による燃料電池用アノード電極と同様のプロトン伝導性及び電子伝導性を得ることができる。
【0013】
また、上記配位高分子金属錯体R2 dtoaMアルキル基Rの位置に水素(H)が配位した場合には、配位高分子金属錯体自体は公知の材料であり、ジチオオキサミドから容易に製造することができる。このように安価な材料から容易に合成することができるので、従来の白金等の金属と比較して、低コストで製造することができる。
さらに、燃料電池用アノード電極が配位高分子金属錯体、即ちポリマーから構成されているので、容易に任意の形状に形成されることができる。
【0014】
上記配位高分子金属錯体R2 dtoaMのアルキル基Rが、(C2 4 OH)である場合には、同様にして、配位高分子金属錯体自体は公知の材料であり、ジチオオキサミドから容易に製造することができる。
【0015】
また、上記目的は、本発明の第二の構成によれば、下記式3で示されるジチオオキサミド誘導体Rdtoa(ここで、RはH、COHおよびCOHから選択される置換基である)と遷移金属Mとからなり、下記式4で示される層状の分子構造を有する配位高分子金属錯体RdtoaMを加圧成型して薄膜化する工程と、薄膜化した配位高分子金属錯体に水素を吸蔵させる工程と、薄膜化した配位高分子金属錯体に水分子を吸蔵させる工程とにより、燃料電池用アノード電極を製造することを特徴とする燃料電池用アノード電極の製造方法により達成される。
【化7】
JP0004129763B2_000004t.gif【化8】
JP0004129763B2_000005t.gif
【0016】
本発明の燃料電池用アノード電極の製造方法において、前記配位高分子金属錯体R2 dtoaMは、アルキル基Rの位置にH(水素)が配位していると共に、MをCuとした、H2 dtoaCuであることを特徴とする。
【0017】
上記第二の構成によれば、配位高分子金属錯体R2 dtoaMの薄膜による燃料電池用アノード電極膜を、安価な材料により、容易に且つ低コストで製造することができる。この場合、配位高分子金属錯体R2 dtoaMは、H2 dtoaCuが好適である。
【0018】
このようにして、本発明によれば、例えば固体高分子型燃料電池等に使用される燃料電池用アノード電極を、プロトン伝導性を得るために水分子を吸蔵させ、かつ、電子伝導性を得るために水素を吸蔵させた配位高分子金属錯体R2 dtoaMにより構成することで、室温において高いプロトン伝導性及び電子伝導性を有する燃料電池用アノード電極を低コストで提供することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面に示した実施形態に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明による燃料電池用アノード電極の一実施の形態の構成を示している。図1において、燃料電池用アノード電極10は、R2 dtoaの配位高分子金属錯体R2 dtoaM(ここでMは、金属)の薄膜である。そして、この配位高分子金属錯体R2 dtoaMの薄膜は多層構造を有しており、その層間に水分子を吸蔵させることにより、室温において高いプロトン(H+ :水素イオン)伝導性を有している。さらに、この配位高分子金属錯体R2 dtoaMは、その層間に水素を吸蔵させることにより、室温において高い電子伝導性をも有している。
燃料電池用アノード電極10は、具体的にはアルキル基Rの位置に、水素Hが配位され、金属Mが、例えば遷移金属の銅(Cu)である銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの薄膜から構成されている。
これにより、本発明の燃料電池用アノード電極は、電子とプロトンに対して高い伝導性を有する。
【0020】
ここで、R2 dtoa(ジチオオキサミド)は、アルキル基Rが、(C2 4 OH)、(C3 6 OH)、また、アルキル基Rの位置に水素(H)が配位された高分子、即ちポリマー材料であり、図2に示す構造式で表わされる。
【0021】
以下、配位高分子金属錯体(C2 4 OH)2 dtoaM(ここでMは、金属)において、Mが遷移金属の銅(Cu)である場合を例にとって説明する。
銅配位高分子錯体R2 dtoaCuは、R2 dtoaに遷移金属のCuが図3に示すように結合した層状の分子構造を有しており、各層間の距離dを有し、層状となり高分子錯体となっている。
ここで、H2 toaCu,(C2 4 OH)2 dtoaCu,(C3 6 OH)2 dtoaCuのdは、それぞれ、5.7Å,9.95Å,11.82Åである。
【0022】
本発明実施形態の燃料電池用アノード電極は、銅配位高分子錯体R2 dtoaCuに、水分子を吸蔵させて高いプロトン伝導度を得ている。このプロトン伝導機構は、従来燃料電池の電解質として使用されているナフィオンにおけるプロトン伝導の機構に類似しているものと推察される。
【0023】
さらに、本発明の燃料電池用アノード電極は、銅配位高分子錯体R2 dtoaCuに、水素を吸蔵させて高い電子伝導度を得ている。
図4は、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの水素吸蔵による電子伝導を説明する図である。
銅配位高分子錯体H2 dtoaCuは、中心金属である銅(Cu)のダイマー骨格に関する酸化還元に伴って酸解離定数(pKa)が変化する、所謂プロトン共役酸化還元特性を有している。
図4において、左端は、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuに水素が吸蔵されていない状態で、pKaが小さい。つまり、銅(Cu)は酸化され、プロトンが離脱した状態である。また、右端は、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuに水素(H)の吸蔵が進んだ状態で、pKaが大きく、プロトンが付加された還元状態である。また図4の中央は、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの酸化から還元、または還元から酸化への中間の状態にある。
そして、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuが水素の吸蔵により還元されると、電子がCu2+に与えられてCu+ に還元すると共に、窒素(N)原子のローンペアに対してプロトンが弱く水素結合して、非解離状態に戻り、電子の伝導帯のエネルギー準位が下がると考えられる。
このようにして、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuに対して、水素の吸蔵、即ち水素ドーピングが行なわれ、水素の吸蔵に応じて、電気伝導性が変化する。
【0024】
次に、本発明の燃料電池用アノード電極におけるプロトン及び電子伝導度の測定方法について説明する。
銅配位高分子錯体R2 dtoaCuは、水素が吸蔵されると電子伝導が生起し、また水分が吸蔵されるとプロトン伝導が生起する。
これから、水素と水分子の両方が吸蔵された状態においては、電子伝導と、プロトン伝導の両方が起こるので、以下のようにしてプロトン伝導度を求めた。
銅配位高分子錯体R2 dtoaCuの伝導度を直流で測定すると、直流電源からはプロトンは供給されないので、直流の印加直後にプロトン伝導は起こるがすぐに消滅し、電子による伝導だけになる。これにより、直流伝導度の測定から直ちに電子伝導度が求まる。
また、銅配位高分子錯体R2 dtoaCuの交流の複素コンダクタンスを測定することにより、プロトン伝導と電子伝導の両方が寄与した伝導度を測定することができる。従って、複素コンダクタンス測定と、直流伝導度測定の差としてプロトン伝導度が計算できる。
【0025】
図5は、本発明の燃料電池用アノード電極のプロトン伝導率と相対湿度を示す図である。図において、横軸は相対湿度(RH)で、縦軸がプロトン伝導率σp (S・cm-1)である。ここで、相対湿度(RH)は、銅配位高分子錯体R2 dtoaCuに水分子を吸蔵させるときの湿度である。
図の●,□,◇は、それぞれ、H2 dtoaCu,(C2 4 OH)2 dtoaCu,(C3 6 OH)2 dtoaCuのプロトン伝導率を表している。図において、相対湿度RHが約15%から100%の場合のプロトン伝導率の変化を示している。
何れの銅配位高分子錯体R2 dtoaCuにおいても、相対湿度RHが100%のときに、プロトン伝導率が最大になっていることが分かる。
このとき、H2 dtoaCu,(C2 4 OH)2 dtoaCu,(C3 6 OH)2 dtoaCuのプロトン伝導率は、それぞれ、10-2S・cm-1,3×10-4S・cm-1,5×10-6S・cm-1となる。このときの、イオン輸率はほぼ1である。このH2 dtoaCuにより得られるプロトン伝導率の10-2S・cm-1という値は、個体高分子型燃料電池に実用化されているナフィオン膜のプロトン伝導率に匹敵する値である。
【0026】
相対湿度RHが低下すると、何れの銅配位高分子錯体R2 dtoaCuにおいても、プロトン伝導度は低下することが分かる。
このように、水分子が十分に吸蔵されないと、プロトン伝導度が低く燃料電池用アノード電極として動作しない。
【0027】
図6は、本発明の燃料電池用アノード電極である銅配位高分子錯体R2 dtoaCuのダイマー当たりの水分子数を示す表である。水分子数の値は、熱重量分析により測定した。本発明の燃料電池用アノード電極において水分子を吸蔵させる相対湿度RHが100%の条件においては、H2 dtoaCu,(C2 4 OH)2 dtoaCu,(C3 6 OH)2 dtoaCuのダイマー当たりの水分子数は、それぞれ、9.0,3.3,3.3である。
このことから、図6で示したように、プロトン伝導度の大きいH2 dtoaCuは、ダイマー当たりの水分子数が一番大きいことが分かる。
【0028】
また、相対湿度RHが75%においては、上記の銅配位高分子錯体R2 dtoaCuのダイマー当たりの水分子数は、それぞれ、2.8,1.8,2.2と減少することが分かる。このことから、本発明の燃料電池用アノード電極は、R2 dtoaCuの水分子が減少しないように、密封保持することが好ましい。
【0029】
図7は、本発明の燃料電池用アノード電極である銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの熱耐久性を示す図である。図において、横軸は周囲温度(℃)で、縦軸が重量損失(%)である。重量損失の値は、熱重量分析により測定した。
図では相対湿度RHが0%、75%、100%の場合を示している。相対湿度RHが100%の本発明の燃料電池用アノード電極は、20℃から50℃において約9%の重量損失があるが、50℃から150℃では、重量損失は温度により変化せず、ほぼ一定の約10%となる。そして、150℃以上で再び重量損失が増加する。
これより、本発明の燃料電池用アノード電極であるH2 dtoaCuは、150℃まで使用可能であることが分かる。
【0030】
次に、本発明の燃料電池用アノード電極における銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの水素吸蔵による電子伝導度の向上、すなわち抵抗率の低下について説明する。
銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの加圧成型ペレットに対して、発生期水素による水素吸蔵を行なった。そして、電子伝導だけが測定できる直流による定電圧二端子法,定電流擬似四端子法及び定電流四端子法を用いてアノード電極の抵抗率の変化を測定した。
【0031】
図8は、本発明のH2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の水素吸蔵時間に対する電子伝導による抵抗率の変化を示す図である。図において、横軸が水素吸蔵時間で、縦軸が抵抗率ρ(Ω・cm)である。
図によれば、水素吸蔵の開始と共に、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの抵抗率(ρ:Ω・cm)が急激に低下し、20時間経過後には、約9桁程度低下して、10-1~10-2Ω・cm(10~102 S・cm-1)という低い抵抗率、即ち高い電子伝導率が得られた。
これは、水素吸蔵により、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuのエネルギーバンドのエネルギー準位が低下して、電子がエネルギーバンドに入りやすくなり、電子伝導性が増大することによるものと推察される。
【0032】
次に、図9は、本発明のH2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の電子伝導による抵抗率の温度特性を示す図である。図において、横軸が温度(K)で、縦軸が抵抗率ρ(Ω・cm)である。H2 dtoaCuは、20時間水素吸蔵を行なった試料である。温度は、4Kから315Kの室温まで変化させた。
室温付近においては、0.12Ω・cmという低い抵抗率(8.3S・cm-1)が得られた。
図に示すように、H2 dtoaCuは、室温付近で高い電子伝導性を有すると共に、温度変化に対応して安定した特性を有している。
なお、上述した実験例は、H2 dtoaCuの加圧成型ペレットに対して行なったものであるが、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuを薄膜状に形成すれば、大幅に短い時間で水素吸蔵による抵抗率の変化が得られる。
このように、水素吸蔵により、実質的に絶縁体から半導体を経て金属に等しい電気抵抗率になることが確認された。
【0033】
図10は、本発明の(C2 4 OH)2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の水素吸蔵時間に対する電子伝導による抵抗率の変化を示す図である。図において、横軸が水素吸蔵時間で、縦軸が抵抗率ρ(Ω・cm)である。
図によれば、水素吸蔵の開始と共に、銅配位高分子錯体(C2 4 OH)2 dtoaCuの抵抗率(ρ:Ω・cm)が急激に低下し、20時間経過後には、約9桁以上程度低下し、約3Ω・cmと低い抵抗率、即ち高い電子伝導性が得られた。
【0034】
図11は、本発明の(C2 4 OH)2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の電子伝導による抵抗率の温度変化を示す図である。図において、横軸が温度(K)で、縦軸が抵抗率ρ(Ω・cm)である。(C2 4 OH)2 dtoaCuは、20時間水素吸蔵を行なった試料である。温度は、4Kから290Kの室温まで変化させた。
図に示すように、20時間水素吸蔵を行なった(C2 4 OH)2 dtoaCuは、室温付近で、約3Ω・cm-1と高い電子伝導性を有する。温度変化はH2 dtoaCuと比較すると、やや大きいという特性を有している。
【0035】
本発明による燃料電池用アノード電極10は、以上のように構成されており、以下のように動作する。すなわち、燃料電池用アノード電極10は、上述したように、上記銅配位高分子錯体がH2 dtoaCuの場合に吸蔵される水分子を媒介として、室温においてナフィオン膜に匹敵する10-2S・cm-1という高いプロトン伝導率を示す。また、H2 dtoaCuは、水素を吸蔵することにより、室温において10~100S・cm-1の高い電子伝導率を有する。
【0036】
次に、本発明の燃料電池用アノード電極の製造方法に係る実施の形態を説明する。
配位高分子金属錯体R2 dtoaMのアルキル基Rの位置に、H(水素)が配位している場合には、配位高分子金属錯体自体は、ジチオオキサミドから容易に製造することができる。なお、この場合、配位高分子金属錯体H2 dtoaMの層間に延びる側鎖が小さいことから、分子中の水分子量が多くなり、より高いプロトン伝導性を得ることが可能である。
このようにして生成された銅配位高分子錯体である(H)2 dtoaCu,(C2 4 OH)2 dtoaCu,(C3 6 OH)2 dtoaCuなどを、加圧成型することにより、所望の厚さのシート状薄膜を形成する。
【0037】
次に、シート状薄膜に水素をドーピングして、電子伝導度を向上させる。ここで、水素吸蔵時間は、例えば20時間以上行う。
最後に、水に浸漬し、水分子を吸蔵させ、プロトン伝導率が大きい状態に改質することにより、燃料電池用アノード電極を製造することができる。
【0038】
このようにして、燃料電池用アノード電極電解質に、好適な所望の厚さのシート状薄膜の燃料電池用アノード電極10が形成されることになる。この場合、各材料は安価であり、しかも大型の加熱装置等は不要であるので、銅配位高分子錯体R2 dtoaCuは、低コストで容易に製造できる。従って、本発明は、固体高分子型燃料電池等の燃料電池用アノード電極として、従来の白金等の金属とほぼ同等のプロトン伝導性及び電子伝導性を有すると共に、安価な材料により容易に製造され得るので、低コストで製造され、十分に実用化され得る。
【0039】
また、上記銅配位高分子錯体H2 dtoaCuがポリマーであることから、容易に薄膜として基板上にも形成することができる。
このようにして、銅配位高分子錯体H2 dtoaCuから成る燃料電池用アノード電極10は、室温にて、高いプロトン伝導性及び電子伝導性を有すると共に、低コストで製造される。
【0040】
ここで、上記燃料電池用アノード電極10は、本実施の形態では、R2 dtoaの銅配位高分子錯体R2 dtoaCuにてアルキル基Rの位置に、水素Hが配位されたH2 dtoaCuから構成されているが、これに限らず、アルキル基Rとして、例えば(C2 4 OH)や(C3 6 OH)を有する銅配位高分子錯体でもよい。
【0041】
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることは言うまでもない。また、上述した実施形態においては、銅を中心金属とする銅配位高分子錯体R2 dtoaCuの場合について説明したが、これに限らず、他の遷移金属である、例えばニッケル(Ni),鉄(Fe)またはコバルト(Co)等を使用してもよいことは勿論である。
【0042】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、燃料電池用アノード電極を構成する配位高分子金属錯体R2 dtoaM、特に金属が遷移金属、好ましくは銅(Cu),ニッケル(Ni),鉄(Fe)またはコバルト(Co)の何れか一つである配位高分子金属錯体において、層間に水分子を吸蔵させることによりプロトン伝導性を非常に高くすることができる。さらに、水素吸蔵させることで、配位高分子金属錯体は、その電子伝導性も、また高くなる。
従って、上記配位高分子金属錯体R2 dtoaMが、室温にて高いプロトン伝導性及び電子伝導性を有することから、燃料電池用アノード電極として使用することにより、従来の白金等による燃料電池用アノード電極と同様のプロトン伝導性及び電子伝導性を得ることができる。
【0043】
また、上記配位高分子金属錯体R2 dtoaMは、安価な材料から容易に合成することができるので、従来の白金等の金属と比較して、低コストで製造することができる。
さらに、燃料電池用アノード電極が配位高分子金属錯体、即ちポリマーから構成されているので、容易に任意の形状に形成され得る。
【0044】
上記配位高分子金属錯体R2 dtoaMのアルキル基Rが、(C2 4 OH)である場合には、同様にして、配位高分子金属錯体自体は公知の材料であり、ジチオオキサミドから容易に製造することができる。
【0045】
上記配位高分子金属錯体R2 dtoaMのアルキル基Rの位置に、H(水素)が配位している場合には、配位高分子金属錯体自体は公知の材料であり、ジチオオキサミドから容易に製造することができる。
このようにして、本発明によれば、室温で高いプロトン伝導性及び電子伝導性を有すると共に、低コストで製造され得るようにした、極めて優れた燃料電池用アノード電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による燃料電池用アノード電極の一実施形態の構成を示す概略斜視図である。
【図2】R2 dtoa(ジチオオキサミド)の構造式である。
【図3】銅配位高分子錯体の分子構造を示す概略斜視図である。
【図4】銅配位高分子錯体のプロトン共役酸化還元特性を示す概略図である。
【図5】本発明の燃料電池用アノード電極を構成する水分子を吸蔵させた銅配位高分子錯体のプロトン伝導率を示す図である。
【図6】本発明の燃料電池用アノード電極を構成する水分子を吸蔵させた銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの相対湿度における分子中に含まれる水分子数を示す図である。
【図7】本発明のH2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極を構成する水分子を吸蔵させた銅配位高分子錯体H2 dtoaCuの熱耐久性を示す図である。
【図8】本発明のH2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の水素吸蔵時間に対する電子伝導による抵抗率の変化を示す図である。
【図9】本発明のH2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の電子伝導による抵抗率の温度特性を示す図である。
【図10】本発明の(C2 4 OH)2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の水素吸蔵時間に対する電子伝導による抵抗率の変化を示す図である。
【図11】本発明の(C2 4 OH)2 dtoaCuによる燃料電池用アノード電極の電子伝導による抵抗率の温度特性を示す図である。
【符号の説明】
10 燃料電池用アノード電極
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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