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明細書 :赤外光集光装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3760196号 (P3760196)
公開番号 特開2004-028900 (P2004-028900A)
登録日 平成18年1月20日(2006.1.20)
発行日 平成18年3月29日(2006.3.29)
公開日 平成16年1月29日(2004.1.29)
発明の名称または考案の名称 赤外光集光装置
国際特許分類 G01N  13/14        (2006.01)
G12B  21/06        (2006.01)
FI G01N 13/14 A
G12B 1/00 601C
請求項の数または発明の数 10
全頁数 15
出願番号 特願2002-188508 (P2002-188508)
出願日 平成14年6月27日(2002.6.27)
審査請求日 平成14年6月27日(2002.6.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小宮山 進
【氏名】生嶋 健司
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】小野 忠悦
参考文献・文献 特開2001-189359(JP,A)
特開2001-236685(JP,A)
特開平11-120610(JP,A)
特開2002-033618(JP,A)
特開平11-352002(JP,A)
調査した分野 G01N 13/10-13/14
G12B 21/00-21/24
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
入射光を入力する、または、出射光を出力するソリッドイマージョンレンズと、このソリッドイマージョンレンズの底面から有効波長の1/4以下の距離を離して配設したプローブを有するアンテナと、このアンテナを保持する保持具と、上記プローブの先端の位置を上記保持具を介して制御する位置制御手段とを有し、
上記位置制御手段を操作して、上記ソリッドイマージョンレンズの底面に配置した試料の所望の位置に、入射光を近接場として集中する、または、上記試料の所望の位置からの近接場を伝搬波に変換して上記ソリッドイマージョンレンズから上記出射光として出力することを特徴とする、赤外光集光装置。
【請求項2】
前記ソリッドイマージョンレンズは、前記入射光または出射光の波長において、吸収係数が小さく、かつ、誘電率が大きい媒質から構成することを特徴とする、請求項1に記載の赤外光集光装置。
【請求項3】
前記アンテナは、前記入射光または出射光の有効波長の半分の長さの導電体から成り、上記入射光を幾何学的に共鳴させて集光するか、または、前記試料の前記プローブ先端近傍の近接場を幾何学的に共鳴してピックアップし、前記ソリッドイマージョンレンズの媒質中に伝搬波として放射することを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外光集光装置。
【請求項4】
前記プローブは、このプローブの先端の曲率が前記入射光または出射光の回折限界以下の先鋭な突端を有する棒状導電体から成り、前記導電体上に前記被測定試料に向かって突出して配設され、前記アンテナに幾何学的に共鳴して集光した入射光を上記プローブ先端に近接場として集中する、または、上記試料表面から近接場を取り出すことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の赤外光集光装置。
【請求項5】
前記保持具がアームであり、前記位置制御手段がXYZ-3軸メカニカルステージであることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の赤外光集光装置。
【請求項6】
前記保持具がカンチレバーであり、このカンチレバーの背面に当てられたレーザー光の反射角の変化により、前記位置制御手段が前記プローブ先端と前記試料表面との距離を制御することを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の赤外光集光装置。
【請求項7】
入射光を入力するまたは出射光を出力する、赤外光領域又はマイクロ波帯域で大きな屈折率を有するソリッドイマージョンレンズと、このソリッドイマージョンレンズの底面に配設したアンテナと、このアンテナに近接して配設した試料を保持するカンチレバーと、このカンチレバーの位置を制御する位置制御手段とを有し、
上記位置制御手段を操作して、上記カンチレバーに保持した試料の所望の位置に上記入射光を近接場として集中する、または、上記試料の所望の位置からの近接場を伝搬波に変換して上記ソリッドイマージョンレンズから上記出射光として出力することを特徴とする、赤外光集光装置。
【請求項8】
前記アンテナは、平面ダイポールアンテナまたは平面スロットアンテナであり、前記ソリッドイマージョンレンズの底面上の焦点位置に配設され、前記入射光を幾何学的に共鳴させて集光し上記焦点位置に近接場として集中する、または、前記試料の上記焦点位置近傍の近接場を幾何学的に共鳴してピックアップし、上記ソリッドイマージョンレンズの媒質中に伝搬波として放射することを特徴とする、請求項7に記載の赤外光集光装置。
【請求項9】
前記平面ダイポールアンテナは、略三角形の2つの導体の頂点を、前記入射光または出射光の回折限界以下の微細距離を離して対向させたボータイアンテナであり、かつ、このボータイアンテナの差し渡し長が上記入射光または出射光の有効波長の1/2であることを特徴とする、請求項8に記載の赤外光集光装置。
【請求項10】
前記平面スロットアンテナは、導体に開けられた略三角形の2つの窓の頂点を前記入射光または出射光の回折限界以下の微細距離を離して対向させたボータイアンテナであり、かつ、このボータイアンテナの差し渡し長が上記入射光または出射光の有効波長の1/2の長さであることを特徴とする、請求項8に記載の赤外光集光装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、赤外光、または、マイクロ波を微細な領域へ集光する、または、微細な領域から出射される赤外光・マイクロ波を集光する装置(赤外光集光装置と称する)に関する。
【0002】
【従来の技術】
幾何光学レンズの組み合わせだけでは、光の回折限界のために波長の半分以下の微小領域に集光することは不可能であり、また、波長の半分以下の微小領域からの光のみをピックアップすることは不可能である。しかしながら、光には、マックスウェルの方程式で記述される伝搬波のみではなく、物体の表面の極近傍のみに存在する近接場がある。先端が回折限界以下の微小径を有する先が鋭く尖ったプローブを物体表面の極近傍に近づければ近接場結合が生じ、物体表面に近接場を励起することができ、また、物体の近接場を伝搬光として取り出すことができる。この方法を用いれば、回折限界以下の分解能で物体の光学像を観察でき、また、回折限界以下の分解能でラマン散乱等の物性測定ができる。
しかしながら、従来は、回折限界以下の先鋭な先端を有するプローブ、及び、プローブと物体との位置関係を回折限界以下の分解能で制御する技術がなかったために、近接場の応用はほとんどなされていなかった。
【0003】
近年、AFM(Atomic Force Microscopy)に代表されるように、原子サイズレベルの径を有するプローブと、プローブ先端と被測定物体との位置関係を3次元方向にわたって原子間距離以下の分解能で制御できるようになり、近接場応用技術が拡がっている。
しかしながら、近接場応用技術は極めて微小領域の光を利用するため、極めて信号強度が小さく、意味のある情報を得るためには、入射光を極めて効率よく微小領域に集光すること、及び、微小領域の近接場を極めて効率よく集光することが必要であり、すなわち、集光効率が極めて高いシステムを必要とする。また、試料の近接場像を得るためには、集光位置を、回折限界以下の分解能で走査できる必要がある。
従来の近接場応用技術には、集光位置を走査できるが集光効率が低い、あるいは、集光効率は高いが集光位置を走査できないといった課題があり、高い集光効率を有し、かつ、高い位置分解能で走査可能な、実用に供し得る装置がない。以下に、従来技術の課題をさらに詳細に説明する。
【0004】
近接場応用技術の1つには、散乱型の走査近接場学顕微鏡(scattering-type scanning near-field optical microscope:s-SNOM)がある。この装置は、サブミクロン以下の微小領域に赤外光・マイクロ波等の長波長の光を集中し、また、サブミクロン以下の微小領域から出射される赤外光・マイクロ波を集光する装置であり、微小な導電体の先鋭な突端と被測定対象物との間に生ずる近接場結合を利用して、光学的回折限界以下の分解能で各種の測定をおこなう装置である。
【0005】
図8は、上記走査近接場学顕微鏡の動作原理を説明する図であり、導電体でコーティングしたAFMのカンチレバーに赤外光を集光するs-SNOMの概念図(文献:1999年5月113日ネイチャー誌第399巻134ページ(B.Knoll and F.Keilmann、Nature 399(1999)134-137))である。
赤外光701が、外部の自由空間からカンチレバー702にコートされた導電体703に入射し、導電体703の突端704に近接場として集中する。この近接場は、試料保持台705に搭載された試料706の突端704に近接した領域と近接場結合する。また、試料706の近接場は、導電体703の突端704と近接場結合して伝達され、導電体703がアンテナとなって外部空間に赤外光706を出射する。入射赤外光701も出射赤外光706も、共に通常の光学レンズ(図示されていない)によって集光される。
【0006】
この装置によれば、カンチレバー702を走査することにより、微小試料706全体の近接場による像を回折限界以下の分解能で観察することができる。
しかしながら、赤外光701がアンテナ703に結合する割合は、外部空間の誘電率をε0 、試料保持基板705の誘電率をεs とすると、因子(ε0 /εs 3/2 に比例し、ε0 <εs であるので、導電体703のアンテナとしての効率が低い。同様に、微小試料706からの近接場は、誘電率の大きな試料保持基板705と結合する割合が大きく、試料保持基板705の内部に大部分出射されてしまい、赤外光706として出射される割合が少ない。このように、このシステムは、入射赤外光を試料に集光する効率、及び試料からの近接場を出射赤外光として集光する効率、すなわち、集光効率が低いという課題がある。
【0007】
従来の近接場応用技術の他の例を示す。
図9は、試料保持基板側から光を入射させてラマン散乱光を得る方法(文献:2001年5月2日ケミカル・フィジックス・レターズ誌第355巻369ページ(H.Hayazawa et al.、Chem.Phys.Lett.355(2001)369))を示す図である。
入射光801が、通常の光学レンズ802によって集光され、オイル803と銀薄膜804でコートした基板805を通過して試料806へ集中し、その集中した光による近接場が、導電体807でコートしたカンチレバー808の突端809に励起される表面プラズモンポラリトン(surfaceplasmon polariton)により強められる。同様に、試料806からのラマン散乱光810は、突端809に励起される表面プラズモンポラリトンにより強められて取り出され、基板805およびオイル803を通過してレンズ802によって集光される。
この方法によれば、カンチレバー808を走査することにより、試料806のラマン散乱走査像を回折限界以下の分解能で観察することができる。
【0008】
しかしながらこの方法においては、導電体807全体の幾何学的大きさが考慮されていないために、導電体807のアンテナとしての機能が小さい。さらに、アンテナとしての機能は、試料保持基板805の銀コーティング804が及ぼす遮蔽効果のためにさらに抑えられる。このように、アンテナとしての集光作用が欠如しているため、微小試料806からの近接場を出射光810に変換する変換効率が低い。すなわちこのシステムは、集光効率が小さいという課題がある。
【0009】
ところで、遠赤外技術分野においては、遠赤外領域の微細な吸収器のための効率の良い集光方法が知られている。
図10は、遠赤外領域の微細な吸収器のために従来から一般的に用いられている、効率の良い集光方法を示す概念図である(文献参照:1983年、“インフラレッド アンド ミリメーター ウエイブス 10巻”、ミリメーター コンポーネンツ アンド テクニクス 分冊II、第一章、アカデミック プレス社(“Infrared and Millimeter Waves、Volume10”、Millimeter Components and Techniques、Part II、Chapter 1(1983)、ed.by Academic Press Inc.))。
入射光901が誘電体製のソリッドイマジョンレンズ902に入射して焦点位置にある平面ダイポールアンテナ(planar dipole antenna)または平面スロットアンテナ(planar slot antenna)903に集光される。さらに、アンテナに集光された入射光は、アンテナにより幾何学的に共振して、アンテナの中心位置に配置された微少な遠赤外ピックアップ器904に集中する。この方法は、遠赤外光がアンテナによって幾何学的に共鳴するため効率良く高感度に吸収できる。
従って、遠赤外吸収器904の位置に遠赤外吸収器に替えて被測定試料を配置すれば、近接場905を効率良く取り出すことができる。
【0010】
しかしながら、ソリッドイマージョンレンズ902の平面上に、平面ダイポールアンテナ(planar dipole antenna)903、または、平面スロットアンテナ(planar slot antenna)903が固定されているため、集光位置を走査することができない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このように、光の回折限界以下の微小領域に集光し、また、光の回折限界以下の微小領域からの近接場を取り出して集光する装置、例えば、サブミクロン以下の微細な領域に数十ミクロン以上の波長を持つ赤外光を集光し、また、サブミクロン以下の微細な領域の近接場を取り出して集光する従来の装置は、集光効率が低いか、または集光、または、取り出し位置を走査することが不可能であるという課題がある。
【0012】
本発明は、サブミクロン以下の微細な領域に数十ミクロン以上の波長を持つ赤外光を高い効率で集光でき、サブミクロン以下の微細な領域の近接場を高い効率で取り出し集光することができ、かつ、集光位置を走査できる赤外光集光装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題に鑑み本発明の第1の赤外光集光装置は、入射光を入力する、または、出射光を出力するソリッドイマージョンレンズと、ソリッドイマージョンレンズの底面から有効波長の1/4以下の距離離して配設したプローブを有するアンテナと、アンテナを保持する保持具と、プローブの先端の位置を保持具を介して制御する位置制御手段とを有し、位置制御手段を操作して、ソリッドイマージョンレンズの底面に配置した試料の所望の位置に入射光を近接場として集中する、または、試料の所望の位置の近接場を伝搬波に変換してソリッドイマージョンレンズから出射光として出力することを特徴とする。
【0014】
ソリッドイマージョンレンズは、入射光または出射光の波長において、吸収係数が小さく、かつ、誘電率が大きい媒質から構成し、また、アンテナとソリッドイマージョンレンズの底面との距離は、入射光または出射光の有効波長の1/4より短くする。これは、高誘電率媒質中を伝搬する入射光が高効率でアンテナに結合するため、または、アンテナが高い効率で高誘電率媒質中に出射光を放射するためである。ともに、アンテナの集光効率を高めたことを特徴とする。
すなわち、高誘電率媒質側における、入射光または出射光のアンテナとの結合は、ε0 を真空誘電率、εs をソリッドイマージョンレンズ側の誘電率とすれば、自由空間(真空、あるいは空気)中におけるアンテナとの結合に比べ、(εs /ε0 3/2 倍程度改善される(文献:“Infrared and Millimeter Waves、Volume 10”、Millimeter Components and Techniques、Part II、Chapter 1(1983)、ed.by Academic Press Inc.参照)。例えば、ソリッドイマージョンレンズとしてシリコン(εs =12.8ε0 )、ガリウム砒素(εs =12.5ε0 )、ゲルマニウム(εs =16ε0 )等を用いれば、自由空間の場合に比べ、効率が数十倍に達する。
このように、本発明の第1の特徴は、入射光または出射光とアンテナとの結合を高誘電率媒質側で行うようにして、アンテナの集光効率を高めたことにある。
【0015】
また、アンテナは、入射光または出射光の有効波長の半分の長さの導電体からなり、入射光または出射光を幾何学的に共鳴(geometrical resonance)させるので、入射光を極めて高効率で集光でき、また、出射光を極めて効率よく放射できる。なお、有効波長とは、ε0 を真空誘電率、εs をソリッドイマージョンレンズの誘電率、真空波長をλとして、λeff =λ/〔ε0 +εs 1/2 で定義する波長である。また、プローブは、プローブの先端の曲率が入射光または出射光の回折限界以下の先鋭な突端を有する棒状導電体から成り、導電体上に被測定試料に向かって突出して配設されているので、試料の回折限界以下の微小領域に近接場を集中することができ、また、試料の回折限界以下の微小領域の近接場をプローブでピックアップすることができる。
このように、本発明の第2の特徴は、幾何学的な共鳴の生ずるアンテナを使用して入射光または出射光の集光効率を高めたことにある。
【0016】
また、保持具がアームであり、位置制御手段がXYZ-3軸メカニカルステージであれば、XYZ-3軸メカニカルステージでアームを操作して、プローブ先端と試料表面との位置関係を3次元方向に、入射光または出射光の回折限界以下の分解能で制御できる。
また、保持具にカンチレバーを使用し、カンチレバーの背面に当てられたレーザー光の反射角の変化により位置を制御するAFM等で周知の位置制御手段により制御すれば、プローブ先端と試料表面との位置関係が3次元方向に、入射光または出射光の回折限界以下のさらに高い分解能で制御できる。
また、位置制御手段によって有効波長の1/2の範囲内で試料を走査しても、ソリッドイマージョンレンズの焦点がアンテナから外れないので、集光効率を低下させることなく、入射光を近接場に変換して所望の位置に集中でき、また、所望の個所の近接場を出射光に変換して取り出すことができる。
このように、本発明の第三の特徴は、高い集光効率を維持したまま、走査できるようにしたことにある。
【0017】
また、本発明の第2の赤外光集光装置は、入射光を入力する、または、出射光を出力するソリッドイマージョンレンズと、ソリッドイマージョンレンズの底面に配設したアンテナと、アンテナに近接して配設した試料を保持する保持具と、保持具の位置を制御する位置制御手段とを有し、位置制御手段を操作して、保持具に保持した試料の所望の位置に入射光を近接場として集中する、または、試料の所望の位置からの近接場を伝搬波に変換してソリッドイマージョンレンズから出射光として出力することを特徴とする。
また、ソリッドイマージョンレンズは、上記第1の装置と同様に、入射光または出射光の波長における吸収係数が小さく、かつ、誘電率の大きな媒質で構成し、入射光または出射光とアンテナとの結合を高誘電率媒質側で行うようにして、集光効率を高めている。
【0018】
また、アンテナは、平面ダイポールアンテナまたは平面スロットアンテナであり、ソリッドイマージョンレンズ底面上の焦点位置に形成されている。平面ダイポールアンテナは、略三角形の2つの導体の頂点を入射光または出射光の回折限界以下の微細距離を離して対向して配設したボータイ型アンテナであり、かつ、ボータイ型アンテナの差し渡し長が入射光または出射光の有効波長の1/2である。また、平面スロットアンテナは、導体に開けられた略三角形の2つの窓の頂点を入射光または出射光の回折限界以下の微細距離を離して対向して配設したボータイ型アンテナであり、かつ、ボータイ型アンテナの差し渡し長が入射光または出射光の有効波長の1/2の長さである。
【0019】
この構成によれば、平面ダイポールアンテナまたは平面スロットアンテナで入射光を幾何学的に共鳴させて近接場を発生させ、試料の微細領域に高効率に集中させることができ、または、試料の近接場を高効率に伝搬波に変換して取り出すことができる。また、略三角形の形状を調整することにより、インピーダンスを整合させれば、さらに効率を高めることができる。
【0020】
また、保持具がアームであり、位置制御手段がXYZ-3軸メカニカルステージであれば、XYZ-3軸メカニカルステージでアームを操作して、アンテナの焦点位置と試料表面との位置関係を3次元方向に、入射光または出射光の回折限界以下の分解能で制御できる。
また、保持具がカンチレバーであり、カンチレバーの背面に当てられたレーザー光の反射角の変化により位置を制御するAFM等で周知の位置制御手段により制御すれば、アンテナ焦点位置と試料表面との位置関係が3次元方向に、入射光または出射光の回折限界以下のさらに高い分解能で制御できる。
【0021】
このように、位置制御手段を操作して、保持具に保持した試料の所望の位置を、平面ダイポールアンテナまたは平面スロットアンテナの焦点位置に近接させることにより、試料の所望の個所に入射光を近接場として集中でき、また、所望の個所の近接場をピックアップし、伝搬波に変換して、ソリッドイマージョンレンズの媒質中に放射することができる。
【0022】
本発明の第2の赤外光集光装置は、本発明の第1の赤外光集光装置がアンテナを走査して走査像を得るのに対し、試料を走査して走査像を得ることができる。また、本発明の第2の装置の特徴は、第1の装置の分解能がプローブ先端の曲率によって決まるのに対し、ボータイ型アンテナの中心に位置する微細領域によって決まり、ボータイ型アンテナの設計によって微細領域の形状、面積等を容易に変えることができる点にある。ボータイ型アンテナは、例えば、ソリッドイマージョンレンズの底面に金属被膜をパターンニングすることによって容易に形成できるので、測定試料、測定目的に応じた最適の分解能の装置を容易に実現することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の赤外光集光装置の第1の実施の形態を示す図である。図2は図1の装置の作用を説明するための要部拡大図である。
本発明の装置1は、ソリッドイマージョンレンズ2と、ソリッドイマージョンレンズ2の底面3から所定の距離を離して配置されるアンテナ4と、アンテナ4を保持するカンチレバー5と、図示しないカンチレバー5の位置を制御する位置制御手段と、より構成されている。アンテナ4は、図2に拡大して示すように、有効波長λeff の半分の長さを有する導電体4aと、導電体4a上に底面3の方向に突出したプローブ4bとよりなる。ただし、有効波長λeff とは、ε0 を真空誘電率、εs をソリッドイマージョンレンズ2の誘電率、真空波長をλとして、λeff =λ/〔ε0 +εs 1/2 で定義する波長である。また、プローブ4bは導電性を有するか、または表面を導電体でコートしてあり、導電体4aと電気的に一体物である。プローブ4bは、先端の曲率半径がサブミクロン以下であり、先鋭な突端を有する棒状導電体である。
【0024】
アンテナ4の各部位は、ソリッドイマージョンレンズ2の底面3からλeff /4以内の距離に配置されている。被測定試料6は、ソリッドイマージョンレンズ2の底面3上の中心付近に配置する。
カンチレバー5は、AFM等で周知の位置制御手段により位置を制御される。例えば、プローブ4bの先端と試料6の表面原子との間の原子間力によるカンチレバー5の撓みを、カンチレバー5の背面に当てられたレーザー光の反射角変化としてとらえ、撓み量が一定になるようにカンチレバー5の高さを制御すれば、0.1nm以下の精度でプローブ4bの先端と試料6の間隔を制御できる。また、試料面内方向には、ピエゾステージを用いて高精度に制御できる。
【0025】
次に、本装置の作用を説明する。
図1において、下方から、通常の光学レンズ7を介し、ソリッドイマージョンレンズ2に入射した赤外光8は、底面3上の試料6を通過してアンテナ4に集光され、アンテナ4の高周波電流に変換される。この際、アンテナ4と底面3との間が十分狭いため、赤外光8が感じる誘電率はソリッドイマージョンレンズ2の誘電率εs である。すなわち、赤外光8は誘電率εs の高誘電率媒質からアンテナ4に入射するので、赤外光8の電磁界パワーが大きく、アンテナ4に励起される高周波電流が大きくなる。この赤外光のアンテナとの結合効率は、自由空間(真空、あるいは空気)からの結合効率に比べ、(εs /ε0 3/2 倍程度改善される。例えば、ソリッドイマージョンレンズや試料保持台の媒質としてシリコン(εs =12.8ε0 )、ガリウム砒素(εs =12.5ε0 )、ゲルマニウム(εs =16ε0 )等を用いれば、自由空間の場合に比べ、数十倍大きくなる。
【0026】
また、図2に示すように、アンテナ4の長さが、有効波長の半分の長さであるので、赤外光8が幾何学的に共鳴(geometrical resonance)し、アンテナ4に高効率で結合する。その結果、赤外光8は、図の白矢印で示すように導電体4a中に高効率で高周波電流を誘起し、高周波電流はプローブ4bの先端(tip apex)に近接する試料部分6aに集中的に強い近接場を形成する。このように、本発明の装置は、高誘電率ソリッドイマージョンレンズ2によるアンテナ4への集光と、アンテナ4の幾何学的共鳴によるプローブ4bの先端への近接場の集中という2段階の集光作用によって、入射する赤外光8を効率良く試料のサブミクロン領域6aに集中することができる。
【0027】
また、サブミクロン領域6aからの光も同様に高効率でピックアップすることができる。すなわち、試料の微小部位6aが赤外光9を発光または散乱する場合、プローブ先端4bとの近接場結合を通して赤外光9をピックアップし、アンテナ4における幾何学的共鳴を介して高誘電率ソリッドイマージョンレンズ2へ放射するので、赤外光9を高効率で出射光として外部に取り出すことができる。
さらに、アンテナ4の長さが有効波長λeff の半分の長さを有しているので、この範囲でカンチレバー5の位置を走査しても、集光効率に影響が無く、有効波長λeff の半分の長さにわたる走査像を得ることができる。また、AFM等に使用される位置制御手段を用いて走査するので、極めて高分解能の走査像が得られる。
【0028】
図3は、本発明の第1の実施の形態の他の構成例を示す図である。
この装置は、図1の装置と比べて、試料6を保持する試料保持台6bを有する点が異なる。試料保持台6bを構成する媒質は、ソリッドイマージョンレンズ2と同じであることが好ましいが、異なる場合には、赤外光8または出射光9の波長において、ピックアップが少なく、かつ、誘電率が高いことが望ましい。またこの場合、ソリッドイマージョンレンズ2と試料保持台6bを通過する赤外光8が、アンテナ4a上に焦点を結ぶように、ソリッドイマージョンレンズ2と試料保持台6bの厚さを設計する。
【0029】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
図4は、本発明の赤外光集光装置の第2実施の形態を示す図である。
本発明の第2の装置10は、ソリッドイマージョンレンズ11と、ソリッドイマージョンレンズ11の底面11a上に形成されたアンテナ12と、アンテナ12に近接して配置される試料保持用カンチレバー13と、図示しないカンチレバー13の位置を制御する位置制御手段とから構成されている。
【0030】
図5は、ソリッドイマージョンレンズ11の底面11a上に形成されるアンテナの構成を示す図であり、(a)は平面ダイポールアンテナ14、(b)は平面スロットアンテナアンテナ16の構成を示している。
平面ダイポールアンテナ14及び平面スロットアンテナアンテナ16は、ソリッドイマージョンレンズ11の底面11a上の焦点位置に導電性薄膜で形成される。図5(a)に示すように、平面ダイポールアンテナ14は、略三角形の2つの導体14aの頂点を入射光または出射光の回折限界以下の微細距離12aを離して対向して配設したボータイ型アンテナであり、かつ、このボータイ型アンテナの差し渡し長が上記入射光の有効波長λeff の1/2である。
図5(b)に示すように、平面スロットアンテナ16は、底面11a上に配設した導体17に開けられた略三角形の2つの窓17aの頂点を入射光または出射光の回折限界以下の微細距離12aを離して対向して配設したボータイ型アンテナであり、かつ、このボータイ型アンテナの差し渡し長が上記入射光の有効波長λeff の1/2の長さである。
【0031】
次に、本装置の作用を説明する。
図4において、下方から、通常の光学レンズ7を介し、ソリッドイマージョンレンズ11に入射した赤外光8は、ソリッドイマージョンレンズ11の通常の幾何光学的集光作用によりアンテナ12に集光されて、アンテナ12の高周波電流に変換され、さらにアンテナ12の微小領域12aに近接場が集中する。この際、赤外光8は誘電率εs の高誘電率媒質からアンテナ12へ入射するので、赤外光8の電磁界パワーが大きく、アンテナ12に励起される高周波電流が大きくなることは上記第1の装置と同様である。
【0032】
また、ボータイ型アンテナ14及び16は、図5に示したように、ボータイ型アンテナの差し渡し長が有効波長λeff の1/2であるので集光された赤外光8は幾何学的に共鳴し、微小領域12aに赤外光8の近接場(電場成分)が高効率で集中する。微小領域部分12aに近接した試料6の部分に、高効率で集中した近接場が近接場を形成する。試料6はカンチレバー13に取り付られており、本発明の第1の装置と同様に、位置制御手段により近接場を形成する位置を走査することができる。
【0033】
本装置の分解能はボータイ型アンテナ14及び16の中心に位置する微細領域12aのサイズによって決まる。微細領域12aは赤外光の波長および測定に要する空間分解能に応じて、一辺10ミクロンから0.05ミクロンまでのサイズが可能である。ボータイ型アンテナは、金属被膜をパターンニングすることによって容易に形成できるので、測定試料、測定目的に応じた最適の分解能の装置を容易に実現することができる。
【0034】
また、微小領域12aからの近接場も同様に高効率に伝搬波として取り出すことができる。すなわち、微細領域12aに近接する試料6の部分が赤外光9を発光または散乱する場合、ボータイ型アンテナ14(または16)の微細領域12aとの近接場結合を通してボータイ型アンテナ14(または16)中に振動電流が誘起され、ボータイ型アンテナ14(または16)の幾何学的共鳴を介して高誘電率媒質から構成されたソリッドイマージョンレンズ11中に伝搬波として赤外光9が放射されるので、放射された赤外光9はソリッドイマージョンレンズ11によって高効率で外部に出射光9として取り出すことができる。また、カンチレバー13を使用した位置制御により、サブミクロンの分解能の走査像を得ることができる。
【0035】
なお、平面ダイポールアンテナと平面スロットアンテナは、図5(a)と(b)の代表的形態以外に、測定する試料の性質と形状に応じて様々な変型が可能である。必要とする近接場領域の面積を明確に設定し、この面積に応じて、アンテナ全体の大きさと形状が入射光に対して幾何学的共鳴を起こし、かつインピーダンス整合を満たすように設計すればよい。これらの要求は、媒質上のアンテナに関する既知の理論により、実際の被測定試料と赤外光の波長領域に応じて最適の設計が可能である(文献:1983年、“インフラレッド アンド ミリメーター ウエイブス10巻”、ミリメーター コンポーネンツ アンド テクニクス分冊II、第一章、アカデミックプレス社(“Infrared and Millimeter Waves、Volume 10”、MillimeterComponents and Techniques、Part II、Chapter 1(1983)、ed.by Academic Press Inc.)参照)。
【0036】
次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。
図6は、本発明の赤外光集光装置の第3実施の形態を示す図である。
本発明の第3の装置20は、図4に示した装置10の構成において、試料を保持するカンチレバー13の替わりに、試料6を保持する試料保持台21と、試料保持台21を支持するアーム22を用い、アーム22の位置を制御する位置制御手段としてXYZ-3軸精密メカニカルステージ23を用いる点が異なり、その他は装置10と同等である。また、図示しないが、図1に示した装置1の構成において、アンテナ4を保持するカンチレバー5の替わりに、アームを用い、このアームの位置を制御する位置制御手段にXYZ-3軸精密メカニカルステージを用いても良い。
【0037】
次に、実施例を示す。
本実施例に用いた装置は図6に示した構成の装置である。
本装置は、シリコン結晶からなるソリッドイマージョンレンズを用いて製作した。ソリッドイマージョンレンズの曲率半径は1.4mm、中心軸上における厚さは1.98mmである。
【0038】
図7は本発明の装置による量子ホール効果に基づく測定結果を示す図であり、図7(a)は被測定試料の量子ホール効果を示すグラフ、図7(b)は検出された遠赤外発光の分布を示している。
被測定試料は、アルミニウムガリウム砒素/ガリウム砒素ヘテロ構造基板中の2次元電子系である。基板の厚さは0.5mmであり、2次元電子系は基板表面から0.1ミクロンの深さに存在する。2次元電子系を長さ4mm、幅1.5mmのホールバー(Hall bar device)に形成した試料を作製した。ホールバー試料は図7の上段の抵抗値で示すように、液体ヘリウム温度における強磁場下で量子ホール効果を示す。
ホールバー試料保持基板を液体ヘリウム温度で動作するXYZ-3軸精密メカニカルステージ23のアーム22に保持し、ソリッドイマージョンレンズの表面にそって試料を挿引しつつ、試料の端からの極めて微弱な遠赤外発光の強度分布をピックアップした。測定結果を図7の(b)に示す。約6Tの磁場中で測定しており、遠赤外光の真空波長は125μmである。図7(b)の曲線(II)が本発明の装置による測定結果であり、曲線(I)は、従来法により測定したものである。
【0039】
本発明の装置と従来法による装置とで測定結果を比較した結果、第一に、本発明の装置による観測された遠赤外光の強度は、従来法の装置により観測された遠赤外光の強度よりも、20倍程度向上している(ただし、図7(b)では、次に述べる空間分解能の違いを表示するため、双方の光強度の最大値を見かけ上一致させて表示している)。
第二は、図7(b)の(■)と(II)の比較から明らかなように、空間分解能が0.5mm程度から0.06mm程度に著しく向上していることである。
【0040】
このように、本発明の装置によれば、高屈折率媒質のソリッドイマージョンレンズを介して集光し、また、近接場をソリッドイマージョンレンズを介して取り出すために、感度、及び、分解能が著しく増大していることがわかる。
ただし、この実施例ではソリッドイマージョンレンズの表面にアンテナを形成していない。そのためにサブミクロンの分解能は得られていない。しかし、表面にアンテナを形成した場合の効果は従来のピックアップ器の実施例(文献:1983年、“インフラレッド アンド ミリメーター ウエイブス 10巻”、ミリメーターコンポーネンツ アンド テクニクス 分冊II、第一章、アカデミックプレス社(“Infrared and Millimeter Waves、Volume 10”、Millimeter Components and Techniques、Part II、Chapter 1(1983)、ed.by Academic Press Inc.)参照)から明らかである。
【0041】
【発明の効果】
上記説明から理解されるように、本発明によれば、赤外光を高屈折率媒質を介して、また、幾何学的共鳴を介して集中するので、極めて高効率にサブミクロン以下の微細な領域に数十ミクロン以上の波長の赤外光を近接場として集中でき、かつ、サブミクロン以下の微細な領域の近接場を高い効率で取り出すことができる。また、カンチレバーを介した高精度の位置制御が行えるので、サブミクロン以下の分解能の走査像を得ることができる。
従って、特に強度の大きい入射光源を必要とすることなく、回折限界以下の分解能を有し、かつ、走査像を得ることが可能な、赤外顕微鏡、遠赤外顕微鏡、マイクロ波顕微鏡、ラマン分光顕微鏡、赤外蛍光顕微鏡等の光学機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の赤外光集光装置の第1の実施の形態を示す概略図である。
【図2】図1の装置の作用を説明するための要部拡大図である。
【図3】図1の装置の他の実施形態を示す概略図である。
【図4】本発明の赤外光集光装置の第2実施の形態を示す概略図である。
【図5】ソリッドイマージョンレンズの底面上に形成されるアンテナの構成を示すもので、(a)は平面ダイポールアンテナ、(b)は平面スロットアンテナの構成を示している。
【図6】本発明の赤外光集光装置の第3の実施の形態を示す概略図である。
【図7】本発明の装置による量子ホール効果に基づく端電流の測定結果を示すもので、(a)は被測定試料の量子ホール効果を示す図であり、(b)は測定された端電流の分布を示している。
【図8】従来の近接場集光装置の構成図である。
【図9】従来のラマン分光に用いられる集光装置の構成図である。
【図10】従来の遠赤外吸収器に用いられる集光装置の構成図である。
【符号の説明】
1 第1の実施形態の赤外光集光装置
2 ソリッドイマージョンレンズ
3 ソリッドイマージョンレンズの底面
4 アンテナ
4a 導電体
4b プローブ
5 カンチレバー
6 試料
6a 試料微細領域
6b 試料保持台
7 通常の光学レンズ
8 赤外光、入射光
9 赤外光、出射光
10 第2の実施形態の赤外光集光装置
11 ソリッドイマージョンレンズ
11a ソリッドイマージョンレンズの底面
12 平面ダイポールアンテナ
12a 微小領域、微小距離
14a ボータイ型アンテナの略三角形部分
16 平面スロットアンテナ
17 導電体
17a ボータイ型アンテナの略三角形部分
20 第3の実施形態の赤外光集光装置
21 試料保持台
22 アーム
23 XYZ-3軸精密メカニカルステージ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9