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明細書 :電気注入法を用いた動物細胞への細胞内導入物質の導入方法及びその装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5010793号 (P5010793)
公開番号 特開2004-041023 (P2004-041023A)
登録日 平成24年6月8日(2012.6.8)
発行日 平成24年8月29日(2012.8.29)
公開日 平成16年2月12日(2004.2.12)
発明の名称または考案の名称 電気注入法を用いた動物細胞への細胞内導入物質の導入方法及びその装置
国際特許分類 C12M   1/00        (2006.01)
C12M   1/42        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12M 1/00 A
C12M 1/42
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 12
全頁数 11
出願番号 特願2002-200223 (P2002-200223)
出願日 平成14年7月9日(2002.7.9)
審判番号 不服 2008-024158(P2008-024158/J1)
審査請求日 平成17年6月17日(2005.6.17)
審判請求日 平成20年9月22日(2008.9.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】藤森 俊彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
参考文献・文献 特開平5-192171(JP,A)
特開平9-187278(JP,A)
特開平9-224528(JP,A)
特開平10-165166(JP,A)
Plant Science(1994)Vol.102,p.81-89
Mol.Cell Biol.(1983)Vol.3,No.10,p.1803-1814
Theor.Appl.Genet.(1989)Vol.77,p.469-472
Anal.Chem.(2000)Vol.72,p.5857-5862
J.Cell Biol.(1978)Vol.78,p.58-75
Acta Medica Okayama(1981)Vol.35,Iss.5,aRT.9,p.381-384
細胞(1986)Vol.18,No.1,p.36-40
化学技術誌MOL(1987)Vol.25,No.3,p.21-27
調査した分野 C12N15/00-89
C12M1/00-42
JSTPLUS
JMEDPLUS
JST7580
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞内導入物質導入針のガラスピペット内に設置された一方の電極と、細胞内導入物質導入細胞の細胞外に位置し、細胞内導入物質導入針による細胞内導入物質の細胞内導入方向に設置された細胞内導入物質導入細胞保持用ピペット内に設置されたもう一方の電極の間に、電場を形成させ、細胞内導入物質の電気泳動により、細胞内導入物質を動物細胞内に導入することを特徴とするイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法。
【請求項2】
二つの電極の間に形成される電場が、電気パルスにより形成される電場であることを特徴とする請求項1記載のイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法。
【請求項3】
電極の間に形成される電場が、方形パルス発生装置により形成され、電圧、電気パルスの通電時間、パルスの切断時間、パルスの回数を変更することにより、細胞内導入物質の動物細胞への導入を調整可能としたことを特徴とする請求項1又は2記載のイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法。
【請求項4】
細胞内導入物質が、外来遺伝子であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法。
【請求項5】
請求項1記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入方法を用い、非ヒト動物の胚の核に、細胞内導入物質を直接注入することを特徴とする細胞内導入物質の非ヒト動物細胞への導入方法。
【請求項6】
動物の胚が置かれている注入用チャンバー内及び細胞内導入物質導入細胞保持用ピペット内を、非ヒト動物細胞培養用液体培地で満たし、注入用ピペット内には導入に用いるDNA溶液で満たしたことを特徴とする請求項5記載の細胞内導入物質の非ヒト動物細胞への導入方法。
【請求項7】
ガラスピペット内に、方形電気パルス発生装置に接続した一方の白金電極を設置した細胞内導入物質導入用導入針と、細胞内導入物質導入細胞の細胞外に位置し、細胞内導入物質導入針による細胞内導入物質の細胞内導入方向に設置された、ホルダー内に方形電気パルス発生装置に接続したもう一方の白金電極を設置した細胞内導入物質導入細胞保持用ピペットホルダーを装備した細胞内導入物質の動物細胞への導入装置。
【請求項8】
細胞内導入物質導入用導入針を、該導入針を動作するための注入用油圧インジェクターへ、細胞内導入物質導入細胞保持用ピペットホルダーを、該ピペットホルダーを動作するための保持用油圧インジェクターへ連結したことを特徴とする請求項7記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置。
【請求項9】
ピペットホルダーが、ピペットホルダーの途中に穴をあけ、白金電極を通し、油圧がもれないように樹脂で封入してあり、ホルダーの両端からのみオイルが通過するように作製されていることを特徴とする請求項8記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置。
【請求項10】
白金電極の長さを、電極の先端部がピペットの先端部に到達する長さにし、ホルダーを金属製とし、絶縁のためにホルダー全体を樹脂コーティングしたことを特徴とする請求項7~9のいずれか記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置。
【請求項11】
導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極は、方形パルス発生装置に連結されており、電圧、電気パルスの通電時間、パルスの切断時間、パルスの回数を変更可能にされており、細胞内導入物質の動物細胞への導入を調整できるようにされていることを特徴とする請求項7~10のいずれか記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置。
【請求項12】
導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極は、陰極及び陽極が相互に変換可能に設けられていることを特徴とする請求項11記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電場を用いた細胞内導入物質の動物細胞内への導入方法(電気注入法)及びそのための装置、特には、外来遺伝子のような遺伝物質を動物の胚のような動物細胞内へ導入するに際して、電場を形成させ、細胞内導入物質の電気泳動により、細胞内導入物質を動物細胞内に導入する細胞内導入物質の動物細胞への導入方法及びそのための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、遺伝子や蛋白質のような生体高分子からなる細胞内導入物質を動物生体組織や細胞内に導入するには、ガラス針を動物細胞又は組織細胞にさして該細胞内導入物質を注入するマイクロインジェクション法が利用されている(発生工学実験マニュアル、講談社)。また、同様に物理機械的操作によって遺伝子や蛋白質のような細胞内導入物質を動物生体組織や細胞内に導入する方法として、電気パルスを印加することによって細胞膜に穴を開けるエレクトロポーレーション法が知られている(EMBO J.,1(1982),841-845;Gene,96(1990),23-28)。
【0003】
これらの細胞内導入物質を動物細胞内へ導入する方法において、一般的には、その操作が直接的であり、かつ簡便であることから、通常マイクロインジェクション法が利用されている。マイクロインジェクション法は、中空状のガラスキャピラリーを注入針として用いて、細胞内導入物質を動物細胞内へ導入する。例えば、トランスジェニック動物の作製に際して、外来遺伝子のような細胞内導入遺伝物質を動物の胚等に導入するには、ガラスキャピラリー内に保持した細胞内導入遺伝物質の溶液を、空気或いは油圧によって操作することにより、細胞内へ注入することが行われる。しかし、この方法は、細胞内導入物質を保持している溶液等を細胞内導入物質と一緒に細胞内へ送り込むため、その量の増大により細胞内導入物質が導入された細胞に大きな負荷がかかったり、或いは細胞を破壊したりして、細胞内導入物質の導入が確実に行えないという問題があった。したがって、マイクロインジェクション法によって、細胞内導入物質を細胞内に導入するに際しては、微量の細胞内導入物質を細胞内へ注入する必要があるが、その操作は難しく、熟練者でないと効率の良い注入ができないという問題があった。
【0004】
そこで、微量の細胞内導入物質の細胞内への導入を可能とするために、いくつかの方法が開発されている。例えば、特開平2-269583号公報及び特開平3-119989号公報には、先端に慣性体を取り付けた圧電素子又は電歪素子を摩擦面に置かれた移動体に取り付け、該圧電素子又は電歪素子に電界を加えることにより圧電素子又は電歪素子を運動させ、この運動エネルギーと慣性体の慣性作用及び前記移動体に作用する反力を利用し移動体を微小駆動させる微小駆動力発生体を利用して、動作の操作精度の高いマイクロマニピュレーターが開示されている。
【0005】
また、特開平6-343478号公報には、微動な動作が可能な位置決め装置に固定した針の先に、予め細胞に注入したい物質を電着法により塗布しておき、該針を細胞に近づけゆっくりと挿入し、該針とは別の針を、該針とは反対側から挿入し、両方の針の間に電源から電圧を加えることにより電着固定した物質を細胞内に開放することによってマイクロインジェクションを行う方法が開示されている。更に、特開平8-322568号公報には、前核期受精卵の前核内にDNAを顕微注入するに当たり、前核期受精卵の核膜にDNAを入れた注入ピペットの針先を圧し当てた後、針先に微振動を与えることにより核膜を貫通させてDNAを注入する方法が開示されている。
【0006】
一方で、マイクロインジェクションにより細胞内に導入する物質を、試料溶液として細胞内に導入する場合に、細胞への負荷を軽減するために、導入物質を電気泳動により移動させて、注入する方法が提案されている。該方法は、マイクロインジェクションに用いるガラスキャピラリーインジェクターにおける試料に、電圧を印加して、試料を電気泳動により移動させて微量の試料のみを細胞内に移動し、注入する方法である。特開平5-192171号公報には、細胞内への試料の導入を行うガラスキャピラリーの両端に高電圧を印加することにより、荷電した物質を電気泳動させて、細胞内に導入する方法が開示されている。しかし、この開示された方法では、電極がガラスキャピラリー外の両端に位置しているため、試料導入に際しての微妙なコントロールが難しいという問題がある。
【0007】
更に、電気泳動を用いたマイクロインジェクション法に関して、Cecilca W. Loらの報告がある。Loらの報告の方法は、「イオン電気導入法(Iontophoretic microinjection)」と称して、マウスの組織培養細胞やマウスの胚に、DNAを導入して形質転換を行うに際して、パルス電流のような電流を用いて、注入用のマイクロピペットから、導入細胞内へDNAを導入する方法(ミクロ電気泳動と呼ぶ)が報告されている(Mol. Cell. Biol., 3(10)(1983), 1803-14、Mouse Genome. 90(4)(1992), 684-686)。しかし、これらの報告には、具体的方法やそれに用いた装置の具体的なものは、開示されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、動物の細胞や受精卵等に、細胞内導入物質を導入する場合に、細胞内導入物質が導入される細胞の負荷を減少させ、容易かつ確実に細胞内導入物質を導入できる方法及び装置を提供すること、特には、外来遺伝子のような遺伝物質を動物の細胞や胚のような動物細胞内へ、遺伝物質のような細胞内導入物質を導入するに際して、従来用いられているマイクロインジェクション法のような方法の問題点を解消して、細胞内導入物質が導入される細胞の負荷を減少させると共に、容易かつ確実に細胞内導入物質を導入できる実用上有用な方法及び装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明者は従来動物細胞内への細胞内導入物質の導入に用いられてきたマイクロインジェクション法を利用して、この方法に細胞内導入物質を電気泳動により移動する方法を適用し、細胞内導入物質を動物細胞内に、細胞の過剰な負荷を生ずることなく、容易かつ確実に導入できる実用的な方法及び装置を開発した。本発明の方法によれば、例えば、トランスジェニック動物の作製に際して、外来遺伝子のような遺伝物質を胚に導入する場合に、微量の遺伝物質を直接、胚の核内に注入し、確実に遺伝物質を胚に導入にすることができる。
【0010】
すなわち本発明は、細胞内導入物質導入針のガラスピペット内に設置された一方の電極と、細胞内導入物質導入細胞の細胞外に位置し、細胞内導入物質導入針による細胞内導入物質の細胞内導入方向に設置された細胞内導入物質導入細胞保持用ピペット内に設置されたもう一方の電極の間に、電場を形成させ、細胞内導入物質の電気泳動により、細胞内導入物質を動物細胞内に導入することを特徴とするイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法(請求項1)や、二つの電極の間に形成される電場が、電気パルスにより形成される電場であることを特徴とする請求項1記載のイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法導入方法(請求項2)や、電極の間に形成される電場が、方形パルス発生装置により形成され、電圧、電気パルスの通電時間、パルスの切断時間、パルスの回数を変更することにより、細胞内導入物質の動物細胞への導入を調整可能としたことを特徴とする請求項1又は2記載のイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法(請求項3)や、細胞内導入物質が、外来遺伝子であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のイン ビトロにおける細胞内導入物質の動物細胞への導入方法(請求項4)や、請求項1記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入方法を用い、非ヒト動物の胚の核に、細胞内導入物質を直接注入することを特徴とする細胞内導入物質の非ヒト動物細胞への導入方法(請求項5)や、動物の胚が置かれている注入用チャンバー内及び細胞内導入物質導入細胞保持用ピペット内を、非ヒト動物細胞培養用液体培地で満たし、注入用ピペット内には導入に用いるDNA溶液で満たしたことを特徴とする請求項5記載の細胞内導入物質の非ヒト動物細胞への導入方法(請求項6)からなる。
【0011】
また本発明は、ガラスピペット内に、方形電気パルス発生装置に接続した一方の白金電極を設置した細胞内導入物質導入用導入針と、細胞内導入物質導入細胞の細胞外に位置し、細胞内導入物質導入針による細胞内導入物質の細胞内導入方向に設置された、ホルダー内に方形電気パルス発生装置に接続したもう一方の白金電極を設置した細胞内導入物質導入細胞保持用ピペットホルダーを装備した細胞内導入物質の動物細胞への導入装置(請求項7)や、細胞内導入物質導入用導入針を、該導入針を動作するための注入用油圧インジェクターへ、細胞内導入物質導入細胞保持用ピペットホルダーを、該ピペットホルダーを動作するための保持用油圧インジェクターへ連結したことを特徴とする請求項7記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置(請求項8)や、ピペットホルダーが、ピペットホルダーの途中に穴をあけ、白金電極を通し、油圧がもれないように樹脂で封入してあり、ホルダーの両端からのみオイルが通過するように作製されていることを特徴とする請求項8記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置(請求項9)や、白金電極の長さを、電極の先端部がピペットの先端部に到達する長さにし、ホルダーを金属製とし、絶縁のためにホルダー全体を樹脂コーティングしたことを特徴とする請求項7~9のいずれか記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置(請求項10)や、導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極は、方形パルス発生装置に連結されており、電圧、電気パルスの通電時間、パルスの切断時間、パルスの回数を変更可能にされており、細胞内導入物質の動物細胞への導入を調整できるようにされていることを特徴とする請求項7~10のいずれか記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置(請求項11)や、導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極は、陰極及び陽極が相互に変換可能に設けられていることを特徴とする請求項11記載の細胞内導入物質の動物細胞への導入装置(請求項12)からなる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の細胞内導入物質の動物細胞への導入方法は、導入針や保持用ピペットの構造部分を除いて、従来から用いられているマイクロインジェクションの装置を用いて実施することができる。本発明の方法は、動物細胞や動物の胚のような細胞内に、DNA遺伝物質のような細胞内導入物質を動物細胞へ導入するに際して、細胞内導入物質導入針のガラスピペット内に設置された一方の電極と、細胞内導入物質導入細胞の細胞外に位置し、細胞内導入物質導入針による細胞内導入物質の細胞内導入方向(導入方向延長線上)に設置されたもう一方の電極の間に、電場を形成させ、細胞内導入物質の電気泳動により、細胞内導入物質を動物細胞内に導入することにより、細胞内導入物質を該物質が導入される細胞内へ、細胞の過剰な負荷を生ずることなく、容易かつ確実に導入することよりなる。
【0013】
該方法において、細胞内導入物質導入細胞の細胞外に位置し、細胞内導入物質導入針による細胞内導入物質の動物細胞内導入方向に設置されたもう一方の電極は、通常、細胞内導入物質導入細胞の細胞外に位置した保持用ピペット内に設置された電極が用いられる。動物細胞が置かれている注入用チャンバー内及び保持用ピペット内を、動物細胞培養用液体培地で満たし、注入用ピペット内は導入物質の溶液で満たす。細胞内導入物質の導入に際しては、上記のように導入針内に導入物質をセットし、細胞を保持用ピペットで保持すると共に、該導入物質をセットした導入針を保持用ピペットで保持した細胞に突き刺す。その後、導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極の間に、接続された電気パルス発生装置からの電気パルスにより電場を形成させ、そのパルス電流により導入物質を電気泳動させて移動することにより、導入物質を細胞内へ導入する。
【0014】
この場合、使用する電気パルスとしては、より低い電圧での実施が可能で、細胞への負荷がかからないということから、方形パルスを使用するのが望ましい。
本発明においては、二つの電極の間に形成する電場の電気パルス発生装置として、方形パルス発生装置を用い、電圧、電気パルスの通電時間、パルスの切断時間、パルスの回数を変更・調整可能とすることにより、動物細胞内導入物質の細胞内導入を、極微量に、再現性良く、確実に導入することを可能としている。
例えば、本発明の方法により、動物の胚に外来遺伝子を導入する場合には、その導入に際して胚に与えるダメージが小さいことから、遺伝子を直接胚の核内に注入することが可能である。
【0015】
本発明の方法を実施するに当たっては、本発明の方法は、電気泳動により、細胞内導入物質の荷電状態によって、その移動を行うものであるから、細胞内導入物質の溶液は、導入する物質によって、バッファー等の利用により適宜pHを調整して、導入物質の荷電状態を調整することにより実施することができる。本発明の方法を実施するに際してのその他の試料の調製や操作の条件は、従来のマイクロインジェクション法で用いられているものを適宜使用することができる。
【0016】
本発明の装置は、全体的には従来動物細胞や受精卵への遺伝子等の導入物質の導入に用いられていたマイクロインジェクションの装置を利用することができる。
本発明においては、該マイクロインジェクションの装置において、特に、導入物質導入用導入針部や導入細胞保持用ピペットホルダーのような細胞内導入物質導入部を新しく開発して、細胞内導入物質を電気泳動を用いて、極微量で、定量的な導入が可能な新規な細胞内導入物質の動物細胞への導入装置を構築した。本発明の細胞内導入物質導入部は、基本的には、ガラスピペット内に、方形電気パルス発生装置に接続した一方の白金電極を設置した細胞内導入物質導入用導入針と、ホルダー内に方形電気パルス発生装置に接続したもう一方の白金電極を設置した細胞内導入物質導入細胞保持用ピペットホルダーを装備した構造よりなる。
【0017】
細胞内導入物質導入用導入針は、該導入針を動作するための注入用油圧インジェクターへ、細胞内導入物質導入細胞保持用ピペットホルダーは、該ピペットホルダーを動作するための保持用油圧インジェクターへ連結されている。細胞保持用ピペットホルダーは、ピペットホルダーの途中に穴をあけ、白金電極を通し、油圧がもれないように樹脂で封入してある構造であり、ホルダーの両端からのみオイルが通過するように作製されている。白金電極の長さは、電極の先端部がピペットの先端部に到達する長さにし、ホルダーを金属製とし、絶縁のためにホルダー全体を樹脂コーティングしている。
【0018】
本発明の装置において、導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極は、方形パルス発生装置に連結されており、電圧、電気パルスの通電時間、パルスの切断時間、パルスの回数を変更可能にして、細胞内導入物質の細胞内導入を調整できるようにされている。更に、導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極は、陰極及び陽極が相互に変換可能に設けることができる。導入針及び保持用ピペット内に設置された二つの電極は、通常、導入針すなわち注入用ピペット側が陰極、保持用ピペット側が陽極にセットし、通電により細胞内導入物質を泳動させて、注入用ピペットから導入細胞内へ導入する。装置を、注入用ピペット側及び保持用ピペット側の電極を、それぞれ正負変換可能な構造にしておけば、予め注入用ピペット内に細胞内導入物質をセットするに際して、電極を正負反対にして、細胞内導入物質を注入用ピペット内に泳動させ、セットすることが可能となる。なお、注入用ピペット内に細胞内導入物質をセットするに際しては、従来のように、注入用油圧インジェクターの動作によりセットすることもできる。
本発明の装置において用いられるパルス発生装置は、一般に使用されている方形波を用いたエレクトロポーレーション用の汎用機(CUY21(国産)或いはECM830(外国:BTX社))をそのまま使用することが出来る。
【0019】
本発明の装置は、上記するように電気注入法を実施するための装置として使用されるが、この装置をエレクトロポーレーション法を実施するための装置として使用することも出来る。エレクトロポーレーション法を実施するための装置として使用する場合には、例えば、DNA溶液を細胞内に導入する場合を例にとって説明すると、まず濃いめ(1マイクログラム/マイクロリットル、以上)のDNA溶液を多めにキャピラリー(陰極側)に詰め、油圧又は空気圧でDNAを細胞の周りにはき出し、その上で本発明の装置の電極を用いて電場をかける。この場合、電圧の条件は、電気注入法を実施する場合に比べて、もう少し高い条件(10v~50v程度)設定で行うと効率が良くなる。本発明の装置を、エレクトロポーレーション法に使用する場合には、本発明の装置の陰極の電極に対して、板状或いは線上の陽極を用いるなど、適宜その電極の形状等を変更することが出来る。
【0020】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1 装置の構築
本実施例において、装置の全体構造としては、従来から、マイクロインジェクションに用いられている装置を用いた(Manipulating the mouse embryo, 1994 p238)。その装置の概念図を図1に示す。図中、1はベース、2は顕微鏡部、3はインジェクター部、4はミクロマニピュレーター部、5はミクロメーターシリンジ部、6はミクロメーター、7はグラスシリンジ、8は保持用ピペット、9は注入用ピペット、10は保持用ピペットホルダー、11は注入用ピペットホルダーを示す。該装置には、顕微鏡操作装置、カメラ(図示せず)を搭載する。なお、装置には、テレビモニターや装置の動作を制御するコントローラー等従来からマイクロインジェクション装置に装備されている機能を適宜装備することができる。
この実施例の装置においては、ホフマンモジュレーションレンズを備えた倒立顕微鏡(DMIRB、Leica社製)、顕微操作装置(Leica社製)、及びインジェクター(Cell Tram Oil、Eppendorf社製)からなるシステムを用いた。細胞への試料導入のための注入用ピペット及び保持用ピペットを備えた培養皿注入用チャンバーの構造を図2に示す。チャンバーはオイルで表面をカバーした液体培地が充填される。
【0021】
本発明の装置においては、注入用ピペット及び保持用ピペットによる細胞内への試料の導入を電気パルスを用いた電気泳動が可能なように改良した。注入用ピペット及び保持用ピペットのキャピラリホルダーには、ユニバーサルキャピラリーホルダー(Eppendorf社製)を用いた。該ユニバーサルキャピラリーホルダーの途中に小さな穴を開け、直径0.2mmの白金ワイヤを上記ホルダーに挿入し、その穴を油圧が漏れないようにエポキシ系の樹脂で封入して電極とした(図3)。ホルダーの外側は絶縁体で覆い、電気を封じ込めた(図示せず)。電極の長さは、注入針又は保持用ピペットの長さに合わせて、白金ワイヤがチップ先端部に届くようにした。ホルダー内にはパラフィンオイルが満たされており、油圧ライン(フッ素樹脂管)を経て油圧のインジェクター(エッペンドルフ社、セルトラムオイル)に連結されている。ホルダー内のオイルはホルダーの両端からのみ通過するように作製されている。
【0022】
保持用ピペット及び注入用ピペットは、それぞれ専用のホルダーに挿入される。注入用ピペット内には導入に用いる細胞内導入物質の溶液(例えば、DNA溶液)が満たされる。目的に応じて1ナノグラム/マイクロリットルから、1マイクログラム/マイクロリットルの間の適切な濃度になるようにTrisバッファー(0.5mM Tris pH7.8、0.1mM EDTA)に細胞内導入物質(DNA)を懸濁し、それを細胞内導入物質(DNA)溶液として用いる。
【0023】
注入用ピペット及び保持用ピペット内の電極は、注入用ピペット及び保持用ピペットのコネクターを通して方形電気パルス発生装置へ連結される。方形電気パルス発生装置として、Nepa Gene社製CUY21を用いた。方形電気パルス発生装置は、電圧、電気パルスの通電時間、パルスの切断時間、及びパルスの回数を変更可能に設けられている。したがって、これらの条件及び導入する細胞内導入物質(例えば遺伝子)の濃度、量のような条件は、それぞれの場合に応じて、調整される。例えば、本実施例では、DNA濃度;10ナノグラム/マイクロリットル、電圧20V、通電時間(Pon);60m秒、切断時間(Poff);500m秒、パルス数5回の条件を用いた。これにより、20ボルト、60m秒間の方形パルスが500m秒の間隔を経て5回電極間に発生する。動物細胞への細胞内導入物質の導入(例えば、胚へのDNAの導入)の為には、顕微鏡下で細胞(胚)を保持用ピペットで保持し、核に注入用ピペットを物理的に挿入した後、パルスをかける。装置には、顕微鏡が装備され、顕微鏡下で、注入用ピペットの先端から液体がパルスに応じて発射されるのが観察可能な構造となっている。
【0024】
実施例2 マウス胚への外来遺伝子の導入
本発明の実施例の装置を用いて、トランスジェニックマウス作製のための、マウス胚への外来遺伝子の導入を行った。
(マウス及び発現ベクター)
BDF1株の4~6週齢雌マウスをブリーダー(Chales river Japan社製)から購入し、実験に供した。文献記載の方法によりPMS及びhCG(帝国臓器社製)による過剰排卵処理後、卵管から胚を回収した。核局在化シグナルを有するEGFPの発現ベクターを構築した。Clonetech社から発売されているEGFPのN末端にSV40ラージT抗原由来の核局在シグナルをつけたcDNAを含むプラスミドは吉田博士から供与されたものを使用した。このプラスミドをNheI及びNotIで切断し、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントにより平滑末端とした。このフラグメントを、EcoRIで切断された平滑末端発現ベクターであるpCAGGSに連結させた。
【0025】
(マウス胚への遺伝子の導入)
上記マウスの2細胞期胚を用いた。
上記本発明の実施例の装置を用い、陽極を保持用ピペットに配し、陰極を注入針に配した。これらの電極をパルス発生装置(CUY-21、Nepa gene社製)に連結した。35mm培養皿の蓋を注入用チャンバーとした。少量のM2培地をチャンバーの上に置き、その表面をライトミネラルオイルで覆った。注入、操作はこのM2培地の中で行った。保持用ピペットをM2培地で満たし、陽極の先端部も培地に差し込んだ。注入針の開口部は直径0.5~1μmだった。Trisバッファーで希釈したDNA溶液(M2液体培地溶液)で、注入針を満たした。導入するDNAは、CAGプロモーターカセットによって転写されるNLS-EGFPの発現ベクターを用い、生きた胚におけるタンパク質産物の合成を視覚化した。
【0026】
この発現ベクター1μg/μlを注入用ピペットに入れた。顕微鏡下で、保持用ピペットでそれぞれの胚を保持して操作を行った。卵割球表面の透明帯の下に注入針を刺入した。細胞表面に注入針を置いていた従来法に代え、本実施例では、注入針の先端を直接核に刺入することにより行った。DNAの移動は、注入針及び保持用ピペット内の電極に、10~50ボルト/cmの方形電場を流すことによって行われる。導入する遺伝子の濃度、量の調整は条件によって異なる。本実施例では、例えば、DNA濃度;10ナノグラム/マイクロリットル、電圧20V、通電時間(Pon);60m秒、切断時間(Poff);500m秒、パルス数5回の条件を用いた。これにより、20ボルト、60m秒間の方形パルスが500m秒の間隔を経て5回電極間に発生する。
【0027】
(胚のインキュベーション及びその時間差顕微鏡観察)
DNA導入後、胚をCO2インキュベーター内のKSOM培地で培養した。CCDカメラ(Photometrics Sensys、Roper Scientific社製)を備えた倒立蛍光顕微鏡(DMIRBE、Leica社製)により、NLSEGFPの発現を調べた。Openlab(Improvision社製)をソフトウエアとして用いた顕微鏡及びCCDカメラの自動操作により胚発達の時間差像を得た。本実施例では、2細胞期の胚の一つの細胞に注入後、2時間から8時間の間に導入したDNAからの遺伝子産物が観察された。また、注入を行った半数以上の胚が正常に発生を続け、遺伝子産物を発現していることが可能であった。
【0028】
(導入条件の検討)
本実施例において、本発明の装置を用いた場合の細胞内導入物質の導入条件について検討した。導入液体の圧力平衡は注入用チャンバー内の溶液フローを顕微鏡観察して概算し、胚の核に注入針の先端を刺入してDNA溶液又は培地のフローを完全に除外することにより確認した。本実施例における方形パルス発生装置は、電気穿孔法に一般に使用される従来式パルス発生装置(CUY-21, Nepa Gene社製)を用いた。この装置は、プログラミング次第で、低電圧の方形パルスを発生させることができる。電気パルスのパラメーター及びDNA濃度を種々変化させ、電気注入条件を調べた。マウスの2細胞期胚の卵割球にDNAを導入し、導入しなかった側を実験用対照とした。電気注入を行っている間に、核における溶液のパルスフローを観察することにより、核へのDNA導入がモニターでき、そのフロー量をみて条件を変更させることができる。
【0029】
1μg/μlのDNA濃度下で、通電時間(Pon)及び切断時間(Poff)を変える、異なる条件下での実験を2種類の電圧で行った結果、DNAフローの観察結果からは、PonだけでなくPoffを変えることによってもDNA量を調節できることが見い出された。Poffを長く設定すると、より多くのDNAが細胞に導入される。かかる実験の結果、電気パルスを長時間かけることにより、DNA導入効率は上がり、低電圧の方が効率がよいことが明らかになった。また、例えばDNAが1μg/μlと高濃度であって、そのDNA溶液が多少粘度をもち、物理的圧力のみでは操作が困難な場合でも、開口部が約1μm直径の注入用ピペットを用いることにより、かかる高濃度DNAの操作が可能になる。
【0030】
1つの実験においては、胚を損傷しないように、開口部が約0.5μmと狭い注入針を使用した。また、注入針の先端からの溶液フローを観察することにより、同量のDNAが注入できるように通電時間を長くした。DNA電気穿孔後に多くの細胞が死んでしまうため、次にDNA濃度を低くして実験を行った。2種類のDNA濃度、100ng/μlと30ng/μlの場合を比較した。両条件とも結果は良好だったが、30ng/μlの方がより良好だった。例えば、ある実験例では、2細胞期の卵割球に(DNAを)注入された15個の胚の内、13個の胚がEGFP蛍光に対し陽性となった。7個の胚では、かかる陽性卵割球がさらに分裂した。これらの結果から、DNAを注入された胚は正常に発達し、トランスジェニック産物を発現させたことが示唆される。
【0031】
【発明の効果】
本発明により、従来の動物細胞内への細胞内導入物質の導入に用いられてきたマイクロインジェクション法を利用して、この方法に細胞内導入物質を電気泳動により移動する方法を適用し、細胞内導入物質を動物細胞内に、細胞の過剰な負荷を生ずることなく、また熟練者でなくても、困難なく、容易かつ確実に導入できる実用的な方法及び装置が提供される。本発明の方法によれば、例えば、トランスジェニック動物の作製に際して、外来遺伝子のような遺伝物質を胚に導入する場合に、微量の遺伝物質を直接、胚の核内に注入し、確実に遺伝物質を胚に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例において用いられた、マイクロインジェクション装置の概念図を示す。
【図2】本発明の実施例において用いられた装置の、注入用ピペット及び保持用ピペットを備えた培養皿注入用チャンバーの構造を示す図である。
【図3】本発明の実施例において用いられた装置の、ユニバーサルキャピラリーホルダーの改変された構造を示す図である。
【図4】本発明の実施例において用いられた装置の、注入用ピペット及び保持用ピペットにおける方形電気パルス付与システムの概念図を示す。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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