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明細書 :活性化抗体酵素および活性化抗体酵素の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4316194号 (P4316194)
公開番号 特開2004-041143 (P2004-041143A)
登録日 平成21年5月29日(2009.5.29)
発行日 平成21年8月19日(2009.8.19)
公開日 平成16年2月12日(2004.2.12)
発明の名称または考案の名称 活性化抗体酵素および活性化抗体酵素の製造方法
国際特許分類 C12N   9/00        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
C12P  21/06        (2006.01)
FI C12N 9/00
C07K 16/18
C12P 21/06
請求項の数または発明の数 7
全頁数 16
出願番号 特願2002-206284 (P2002-206284)
出願日 平成14年7月15日(2002.7.15)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本化学会第81春季年会講演予稿集II(平成14年3月11日)社団法人日本化学会発行第919ページに発表
審査請求日 平成17年6月2日(2005.6.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宇田 泰三
【氏名】松浦 欽司
【氏名】一二三 恵美
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
審査官 【審査官】池上 文緒
参考文献・文献 J. Biol. Chem. (1995) vol.270, no.25, p.15257-15261
J. Mol. Biol. (1997) vol.271, no.3, p.374-385
Mol. Immunol. (1997) vol.34, no.12/13, p.891-906
生化学辞典 第3版,株式会社東京化学同人,1998年10月,p.239
調査した分野 C12N 9/00
C07K 16/18
PubMed
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
酵素活性が向上した活性化抗体酵素の製造方法であって、
リシルエンドペプチダーゼにより、抗体酵素の少なくとも定常領域を除去する工程と、
定常領域を除去する前よりも酵素活性が向上した抗体酵素を選抜する工程とを含むことを特徴とする活性化抗体酵素の製造方法。
【請求項2】
上記少なくとも定常領域を除去する工程では、リシルエンドペプチダーゼにより、酵素の活性中心と超可変領域とを含む可変領域断片を取得することを特徴とする請求項1に記載の活性化抗体酵素の製造方法。
【請求項3】
上記抗体酵素は、ヒト型抗体酵素であることを特徴とする請求項1または2に記載の活性化抗体酵素の製造方法。
【請求項4】
上記抗体酵素は、抗体軽鎖であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の活性化抗体酵素の製造方法。
【請求項5】
上記抗体酵素は、ベンスジョーンズタンパクであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の活性化抗体酵素の製造方法。
【請求項6】
上記ベンスジョーンズタンパクのサブタイプが、HIR,YAM,MORおよびMOKのいずれかであることを特徴とする請求項に記載の活性化抗体酵素の製造方法。
【請求項7】
定常領域が除去され、かつ、定常領域が除去される前よりも酵素活性が向上していることを特徴とする活性化抗体酵素であって、
上記抗体酵素は、サブタイプがHIR,YAM,MORおよびMOKのいずれかであるベンスジョーンズタンパクであることを特徴とする活性化抗体酵素。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬品、バイオテクノロジーに属し、抗体酵素の活性向上法に関し、より詳細には、適切なプロテアーゼを用いて抗体酵素の定常領域を切断し抗体酵素の酵素活性を向上させる抗体酵素の活性法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
抗体酵素は抗体でありながら酵素作用を示す非常にユニークなタンパク質であり、抗体触媒、catalytic antibody、abzymeとも言われている。世界的にいくつかの抗体酵素が報告されているが、基礎的な研究が多いのが現状である。
【0003】
現在までに報告されている抗体酵素は、その酵素活性が低く、この点が抗体酵素の実用化を妨げている最も大きな要因の1つである。
【0004】
このため、抗体酵素の酵素活性を向上させるために、ファージディスプレイ法、遺伝子組換え、点突然変異といった方法が試みられている。これらのうち、ファージディスプレイ法を用いて抗体酵素の酵素活性を向上させることに成功した例がある。しかしながら、抗体酵素の酵素活性を向上させる研究は少なく、上記ファージディスプレイ法以外の方法で抗体酵素の酵素活性を向上させた例は知られていない。
【0005】
ファージディスプレイ法により抗体酵素の酵素活性を向上させる方法は、抗体遺伝子ライブラリーを組み込んだファージ群にそれぞれ組み込まれた遺伝子の抗体を表面に発現させ、目的とする標的または酵素阻害剤を固着させたプレートにそのファージを撒いた後洗い流して、目的とする標的または酵素阻害剤と結合するものと、結合しないものとに分別する。そして、結合したファージを再び溶出し集めて、前記と同様の方法によりプレートに撒き、更に結合の強い抗体成分を発現しているファージを集める。この操作を繰り返し、結合条件を強くしながら、標的物または酵素阻害剤と強い親和性を持った抗体をスクリーニングしていき、その遺伝子を大腸菌に組み込み、可溶性タンパク質として取得し、酵素活性を測定して、酵素活性の向上した抗体酵素を取得するものである(Methods in Molecular Biology, Vol 51 377-394: Antibody Engineering Protocols Edited by:S.Paul Humana Press Inc., Towa,NJ)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記ファージディスプレイ法によって抗体酵素の酵素活性を向上させる方法は、操作が多く煩雑であり、高度の技術が必要となる手法である。それゆえ、ファージディスプレイ法を用いた抗体酵素の活性向上法は、実用化することが困難であるという問題点を有している。
【0007】
それゆえ、抗体酵素を実用化するためには、簡単な操作で効率よく、しかも安価で工業的に有利な抗体酵素の酵素活性を向上させる方法を開発することが必須となる。
【0008】
ところで、抗体酵素の中には完全抗体よりもその部分断片である抗体結合部位(Fabフラグメント)、または、軽鎖(L鎖)の酵素活性が高いものがあることが今までの研究から分かっている。そこで、本願発明者等は、これらの領域が抗体酵素の酵素活性と密接に関連しており、その関連性を明らかにすれば抗体酵素の酵素活性を向上させる方法が開発できると考え、抗体酵素の酵素活性とFabフラグメントまたは軽鎖(L鎖)に着目して抗体酵素の活性向上法を開発したのである。
【0009】
すなわち、本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡便かつ容易に抗体酵素の酵素活性を向上させる方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意に検討した。その結果、ヒト型抗体軽鎖であるベンスジョーンズタンパク(Bence Jones Protein:BJP)をプロテアーゼ処理して定常領域を除去し可変領域断片とすれば、プロテアーゼ処理しない場合に比べて、抗体酵素の酵素活性が数倍から数十倍向上すること見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明にかかる抗体酵素の活性向上法は、上記の課題を解決するために、抗体酵素の少なくとも定常領域を除去することを特徴としている。換言すれば、本発明にかかる抗体酵素の活性向上法は、抗体酵素の可変領域断片を取り出すことを特徴としている。
【0012】
上記の方法によれば、抗体酵素の定常領域が除去されているので、当該抗体酵素は可変領域断片となっている。これにより、定常領域が除去され可変領域断片となった抗体酵素の酵素活性は、定常領域が除去されていない元の抗体酵素の酵素活性よりも向上する。
【0013】
上記定常領域は、例えば、プロテアーゼにより容易に除去することができる。
【0014】
上記プロテアーゼとしては、特に限定されるものではないが、エンドペプチダーゼ、より詳細には、リシルエンドペプチダーゼまたはサーモライシンを好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明において、上記抗体酵素は、ヒト型抗体酵素であることが好ましい。さらに、上記抗体酵素は、抗体軽鎖であってもよい。
【0016】
上記抗体酵素としては、例えば、ベンスジョーンズタンパクを用いることができる。
【0017】
このように、本発明の抗体酵素の活性向上法は、抗体酵素の定常領域を除去して、可変領域を取り出すだけでよいので、簡便かつ容易に抗体酵素の酵素活性を向上させることができる。それゆえ、本発明の抗体酵素の活性向上法により、抗体酵素の実用化が可能となる。
【0018】
本発明には上記した抗体酵素の活性向上法によって得られる抗体も含まれる。すなわち、本発明の抗体酵素は、定常領域が除去され、かつ、定常領域が除去される前よりも酵素活性が向上していることを特徴としている。
【0019】
従来、抗体酵素の酵素活性が低いことが抗体酵素の実用化を妨げている最も大きな要因であった。しかしながら、本発明の抗体酵素は、酵素活性が向上しているため十分実用化することができる。
【0020】
【本発明の実施の形態】
(1)本発明の抗体酵素の活性向上法
本発明の実施の一形態について、図1ないし図12に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
本発明にかかる抗体酵素の活性向上法は、抗体酵素の少なくとも定常領域を除去して抗体酵素の活性を向上させる方法である。換言すれば、抗体酵素の可変領域断片を取り出すことにより抗体酵素の活性を向上させる方法である。
【0022】
ここで、「抗体酵素」とは、抗体としての機能と酵素としての機能とを併せ持つ抗体のことであり、当該抗体酵素はモノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。また、上記抗体は、抗体と構造的に関連したタンパク質も包含する意味、すなわち免疫グロブリンの意味である。なお、酵素活性を向上させる試料となる抗体酵素は、例えば、ヒトの尿や血液から精製したものであってもよいし、公知の抗体酵素のアミノ酸配列に基づいて作製したものであってもよく、特に限定されるものではない。
【0023】
一般的に抗体は、2本の重鎖(H鎖)と相同の2本の軽鎖(L鎖)とからなり、重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)は、それぞれ可変領域と、定常領域とから構成されている。
【0024】
上記可変領域は、抗体を構成するアミノ酸配列上の変異頻度の高い領域をいい、同じクラスの同一抗原に特異的な抗体活性をもつ抗体でも、その重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)のN末端側約100残基に相当する可変領域は個々の抗体分子に固有の配列を示している。なお、重鎖(H鎖)の可変領域はVHおよびVL領域と表される場合もある。
【0025】
また、これらの可変領域中には、特に高次の変異を示す部分である超可変領域が存在し、抗体活性基を構成している。超可変領域は、抗体活性基を構成する相補性決定領域、CDR1、CDR2、CDR3およびCDR4(H鎖の場合)に分散して存在する。CDRは抗体分子ごとに固有のアミノ酸配列をもち、免疫グロブリン遺伝子の突然変異などの際に生じた多様性を表現する標識とされ、イディオタイプの抗原構造部位である。
【0026】
上記定常領域(C領域とも表される)は、同一クラスに属する抗体を構成するアミノ酸配列上で、極めて類似性の高い構造をもつ領域である。
【0027】
例えば、配列番号1にはヒト骨髄腫患者から精製されたベンスジョーンズタンパク(HIRタンパク)のアミノ酸配列が示される。また、図1にはHIRタンパクの一部と、ベンスジョーンズタンパク(REIタンパク)のアミノ酸配列のうちリジンのみを示した概略図が示される。図1に示されるように、抗体軽鎖(L鎖)であるベンスジョーンズタンパクは、可変領域(VL)と定常領域(CL)とから構成されている。そして、可変領域(VL)は、さらに、超可変領域または抗原相補決定領域(CDR1~3)と、構造領域(フレームワーク(FR1~4))とから構成されている。なお、配列番号1に示される(HIRタンパク)のアミノ酸配列において、FR1は1番~26番のアミノ酸、CDR1は27番~32番のアミノ酸、FR2は33番~49番のアミノ酸、CDR2は50番~52番のアミノ酸、FR3は53番~87番のアミノ酸、CDR3は88番~97番のアミノ酸、FR4は98番~107番のアミノ酸に相当し、定常領域は108番~214番のアミノ酸に相当する。また、配列番号1に示されるHIRタンパクの全アミノ酸配列は、本願発明者等によって今回始めて決定された。
【0028】
上記「少なくとも定常領域を除去」とは、定常領域を除去することはもちろん、さらに、可変領域の一部を除去してもよいことを意味する。可変領域には酵素の活性中心があり、また、特に変異が多く抗原相補性決定領域(CDR)または超可変領域として知られている領域も存在する。したがって、さらに可変領域の一部を除去する場合、酵素の活性中心およびCDR以外の領域を除去することが好ましい。換言すれば、酵素活性および抗体の性質に関与する領域を除去しなければ、可変領域も除去してもよいということになる。
【0029】
なお、酵素の活性中心は、例えば、セリン、メチオニン、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン酸などのアミノ酸である場合が挙げられるので、可変領域を除去する場合、これらのアミノ酸以外のアミノ酸を除去することが好ましい。また、超可変領域は、可変領域の中でも特に高次の変異を示している領域であるので、その領域は容易に認識できる。
【0030】
上記定常領域を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、タンパク質のペプチド結合を分解するプロテアーゼを用いれば、定常領域を容易に除去できる。プロテアーゼを用いて定常領域を除去した抗体酵素は、ゲル濾過カラム等の周知の方法で簡単に分離して精製することができる。このように、プロテアーゼにより定常領域を除去する方法は、操作が簡便であり、しかも容易に目的の抗体酵素を取得できるため、非常に好ましい。
【0031】
上記プロテアーゼは、タンパク質分子の内部からペプチド結合を分解するエンドペプチダーゼであっても、タンパク質分子のC末端またはN末端から分解するエキソペプチダーゼであってもよい。エンドペプチダーゼには、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、などが含まれる。エキソペプチダーゼには、C末端から分解するカルボキシペプチダーゼ、N末端から分解するアミノペプチダーゼが含まれる。
【0032】
エンドペプチダーゼには、タンパク質分子の特定のアミノ酸のペプチド結合を特異的に切断するものが多く存在する。それゆえ、定常領域に多く含まれ、目的とする断片(例えば、定常領域が除去された断片、可変領域の活性中心と超可変領域とを含む断片など)が切断されないエンドペプチダーゼを選択することにより、確実に定常領域を除去することができる。これにより、目的とする可変領域断片を取得することができる。
【0033】
例えば、エンドペプチダーゼであるリシルエンドペプチダーゼは、図2に示されるように、タンパク質分子のリジン残基とC末端側アミノ酸との間のペプチド結合を特異的に切断することができる。それゆえ、後述の実施例のように、ベンスジョーンズタンパク(HIR)は、定常領域にはリジンが多く、可変領域にはほとんどリジン存在しないため、効率よく定常領域を除去できる。
【0034】
このようにプロテアーゼ、特にエンドペプチダーゼは、抗体酵素において分解するアミノ酸の種類、分解する位置によって適宜選択することにより、定常領域の大部分もしくはすべてを除去できるので好ましい。なお、後述の実施例のように、ベンスジョーンズタンパクの定常領域を除去するためには、リシルエンドペプチダーゼ、または、サーモライシンを用いれば定常領域を除去して可変領域断片とすることができる。また、サーモライシンはエンドペプチダーゼ(詳細にはメタロプロテアーゼ)の一種であり、イソロイシン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン、メチオニンなどの疎水性側鎖を有するアミノ酸のペプチド結合を特異的に切断するものである。
【0035】
このように、本発明の抗体酵素の活性向上法は、抗体酵素の1次構造に基づき超可変領域を含む定常領域を取り出せるプロテアーゼを選択し、抗体酵素と当該プロテアーゼとを反応させる方法ということもできる。
【0036】
なお、プロテアーゼを用いて定常領域を除去して可変領域とする以外にも、例えば、PCR法によって目的とする可変領域のアミノ酸配列をコードする遺伝子等(目的とする可変領域又はその相同分子等をコードするcDNA等)を増幅し、当該遺伝子を導入した組換え発現ベクターを作成し、周知の方法により大腸菌や酵母等の微生物又は動物細胞などに組み入れて形質転換体として、そのcDNAがコードするタンパク質を発現させ精製することで、定常領域が除去され酵素活性が向上した可変領域断片の抗体酵素を容易に取得することができる。尚、このように宿主に外来遺伝子を導入する場合、外来遺伝子の組換え領域に宿主内で機能するプロモーターを組み入れた組換え発現ベクター及び宿主には様々なものがあるので、目的に応じたものを選択すればよい。また、産生されたタンパク質を取り出す方法は、用いた宿主、タンパク質の性質によって異なるが、例えば、タグの利用等により比較的容易に目的のタンパク質を精製することが可能である。
【0037】
なお、少なくとも定常領域が除去された可変領域断片は、さらに1またはそれ以上のアミノ酸が置換、挿入、および/または付加されてもよい。この場合、置換、挿入、および/または付加されるアミノ酸は特に限定されるものではないが、例えば、酵素の活性中心およびCDR以外の領域のアミノ酸を置換、挿入、および/または付加させればよい。
【0038】
本発明において、上記抗体酵素は、ヒト型抗体酵素であることが好ましい。ヒト型の抗体酵素であれば、ヒトの疾患の病態解析や、抗体カラムを作製して疾患の免疫学的診断薬として利用することができる。
【0039】
本発明において、上記抗体酵素は、抗体の機能と酵素の機能とを備えていれば特に限定されるものではなく、例えば、ベンスジョーンズタンパクのように軽鎖(L鎖)のみで抗体酵素となる抗体軽鎖であってもよいし、軽鎖(L鎖)と重鎖(H鎖)とからなる通常の完全抗体の抗体酵素であってもよい。
【0040】
なお、完全抗体の酵素活性を向上させたい場合、例えば、抗体を還元条件下、パパイン分解すればFabフラグメントとFcフラグメントとに分解できる。そのうち、Fabフラグメントについて、酵素処理することによって、目的とする可変領域断片を取得することできる。これにより、完全抗体であっても酵素処理することにより、酵素活性を向上させることができる。
【0041】
抗体軽鎖(L鎖)として知られているベンスジョーンズタンパクの酵素活性と骨髄腫の病態とは、関連性があることが示唆されている。それゆえ、本発明により活性が向上したベンスジョーンズタンパクは、骨髄腫の病態解析に利用可能であり、酵素活性と病態との関連性を解析することができる。
【0042】
以上のような抗体酵素の活性向上法によって、目的とする可変領域断片、すなわち、酵素活性の向上した抗体酵素を得ることができる。換言すれば、抗体酵素の定常領域が除去されることにより、酵素活性が向上した抗体酵素を得ることができる。したがって、本発明の抗体酵素の活性向上法は、酵素活性が向上した活性化抗体酵素の製造方法ということができる。なお、本発明には、上記本発明の抗体酵素の活性向上法によって得られた酵素も含まれる。すなわち、本発明の抗体酵素は、定常領域が除去され、かつ、定常領域が除去される前よりも酵素活性が向上している。
【0043】
なお、本発明の抗体酵素の活性向上法は、プロテアーゼにより抗体酵素を構成するアミノ酸を除去する方法ということもできる。前述のように、酵素活性を向上させるために除去するアミノ酸は、抗体酵素の定常領域のアミノ酸を除去すればよい。また、さらに可変領域のアミノ酸も除去してもよく、この場合酵素の活性中心となるアミノ酸(例えば、セリン、メチオニン、アスパラギン酸、ヒスチジン、グルタミン酸など)および超可変領域のアミノ酸は除去しない方が好ましい。これにより、抗体酵素の少なくとも定常領域を除去し、当該抗体酵素の可変領域断片を取り出すことができる。
【0044】
このような活性向上法によって得られる抗体酵素の酵素活性が向上していることを確認する方法は、抗体酵素の酵素活性の種類によって異なるため、特に限定されるものではない。例えば、酵素処理により抗体酵素の定常領域を除去する前と、除去した後との酵素活性を比較することにより、容易に酵素活性の向上が確認できる。例えば、後述の実施例のように、ベンスジョーンズタンパクの酵素活性の向上を確認する場合、クロモザイムトライを用いて、プロテアーゼにより定常領域を除去する前と除去した後とのアミダーゼ活性を比較することにより酵素活性の向上が確認できる。なお、クロモザイムトライは、z-Val-Gly-Arg-pNAで示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを意味する。そして、クロモザイムトライ切断活性によるアミダーゼ活性の測定は、酵素を用いてクロモザイムトライを分解することにより生成するp-NA(パラニトロアニリド;p-nitroanilide)の量を吸光度測定し、アミダーゼ活性を測定するものである。
【0045】
従来の抗体酵素は、酵素活性が低いために実用化が妨げられていた。また、抗体酵素の酵素活性を向上させることに成功した唯一の方法であるファージディスプレイ法は、操作が煩雑であり、実用化(工業化)するには適していなかった。これに対して、本発明の抗体酵素の活性向上法は、抗体酵素をプロテアーゼ処理などによって定常領域を除去して可変領域断片とする至って簡単便利な方法であり、経済的にも従来よりも遥かに有利な方法である。すなわち、本発明は極めて容易に抗体酵素の酵素活性の向上が図れるものであり、実用化に向けた価値は非常に高いものである。
【0046】
(2)本発明の利用および有用性
以上のような、本発明の抗体酵素の活性向上法および本発明の抗体酵素は以下に示すような有用性がある。
▲1▼抗体酵素を酵素処理して可変領域断片にするという非常に簡単な操作で、酵素活性を向上させることができる。そのため、酵素活性が向上した種々の抗体酵素を製造することができる。それゆえ、抗体酵素の実用化が可能となる。
▲2▼これまで、酵素活性を有することが知られていない抗体であっても、可変領域断片とすれば、高い酵素活性を得る可能性がある。そのため、新しい医薬品として有用性や利用が出来るだけでなく、将来は、これまでにない難病を克服する画期的な新薬の開発に繋がる可能性がある。
▲3▼生体内において、酵素活性のないあるいは弱いL鎖や抗体も、生体内の酵素で断片化されることにより酵素活性が向上し、病態生理に何らかの影響を与えている可能性がある。すなわち、抗体酵素およびBJPなどは生体中の酵素により活性化され、病原性を獲得する可能性を有している。例えば、炎症の際の白血球プロテアーゼ、補体、エンドサイトーシス後のライソゾーム等により、抗体が切断され、疾患を引き起こす可能性がある。それゆえ、本発明の方法により抗体を断片化すれば、疾患と抗体断片との関係が明らかとなり、様々な疾患の病態解析を行うことができる。
▲4▼酵素活性が向上された抗体酵素は、例えば、微生物の生存に不可欠なタンパク質(またはペプチド)を抗原して、特異的に認識すると共に、その抗原を酵素活性により分解することができる。それゆえ、抗生物質と異なり、薬剤耐性を示さない微生物の除菌のための予防または治療薬としての利用が期待される。
▲5▼抗体の高い分子認識能と酵素の持つ基質変換能力を併せ持つ抗体酵素は、新しいバイオマテリアルとして新型のバイオセンサにも応用可能で病気の診断、環境測定などに利用可能である。また、食品工業、化学工業における効果的な合成手段などにも展開できる。
▲6▼免疫学的診断にRIAやELISAが現在多用されているが、酵素活性が向上した抗体酵素により、新しい臨床診断法や診断薬の開発が期待される。
▲7▼酵素活性の強いベンスジョーンズタンパクは、細胞傷害作用も強いことが知られている。したがって、酵素活性が向上したBJPの中から、癌細胞を傷害および/または増殖抑制するBJPを選抜すれば、当該BJPを治療薬に利用することが可能である。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の記載に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0048】
以下の実施例では、抗体酵素として、軽鎖からなるモノクローナル抗体(すなわちモノクローナルな抗体軽鎖)として知られているベンスジョーンズタンパク(Bence-Jones Protein:BJP)を例に挙げて説明する。すなわち、抗体酵素であるBJPの活性向上法は、配列番号1に示されるBJP(サブタイプHIR;HIRタンパク)を酵素処理することにより、定常領域を除去する方法である。
【0049】
〔ベンスジョーンズタンパクについて〕
ベンスジョーンズタンパクはモノクローナルな抗体軽鎖であることは良く知られており、このベンスジョーンズタンパクが様々なタイプの酵素活性を持つという報告が最近多く見られる様になってきた。そのため、例えば、Paulをはじめ(Paul, S., Li, L., Kalaga, R., Wilkins-Stevens, P, Stevens, F.J., & Solomom, A. : Natural catalytic antibodies: Peptide-hydrolyzing activities of Bence Jones prptein and VL fragment. J . Biol. Chem., 270:15257, 1995.)、篠原らのグループにより精力的な研究が行われている。多発性骨髄腫患者の尿から採取されるベンスジョーンズタンパクは、患者間で基質に対する反応性がかなり異なっている。アミダーゼ活性(Matsuura, K., and Sinohara, H. : Catalytic cleavage of vasopressin by human Bence Jones proteins at the arginyglycinamide bond. Biol. Chem., 377:587, 1996)やペプチダーゼ活性(Matuura, K., Ikoma, S., Sugiyama, M., Funauchi, M., & Sinohara, H. Amidolytic and peptidolytic activities of immunoglobulin G present in sera from patients with rheumatoid arthritis, Sjogren's syndrome and systemic lupus erythematosus. Immunology, 95:26, 1998)さらにはDNA分解活性(Matsuura, K., Ikoma, S., Yoshida, K., and Sinohara, H., DNA-hydrolyzing activity of Bence Jones proteins. Biochem. Biophys, Res. Commun., 243:719, 1998.)を持つものなどが知られている。しかし、多くの場合その酵素活性は幅広い。健常人に存在するタンパク濃度は低く(nM程度)、この濃度では効果を発揮し得ないとされている。しかし、骨髄腫になりその濃度上昇し、mM程度にも達すると酵素活性がトータルで効果を発揮するようになり、生理学的に重要になると言われている。また、中には非常に高い酵素活性と特徴的な生化学的性質を示すベンスジョーンズタンパクも認められている。
【0050】
このように、多発性骨髄腫患者の尿中に存在するベンスジョーンズタンパクは、モノクローナル抗体軽鎖(L鎖)であるが、ベンスジョーンズタンパクには酵素活性を有するものがあることが報告されている。さらに、上記酵素活性が骨髄腫の病態との関連性があることも示唆されている。
【0051】
そこで、このような知見に基づいて、ベンスジョーンズタンパク(抗体軽鎖(L鎖))を断片化して、抗体酵素活性の酵素活性を検討した。
【0052】
〔実施例1〕
(a)リシルエンドペプチダーゼ処理(試料の調整)
ベンスジョーンズタンパクであるHIRタンパクは、骨髄腫患者の尿から硫安塩析、疎水性カラム、ゲル濾過カラム等を用いる常法により精製した。次に、
精製したHIRタンパクに約1/50濃度のリシルエンドペプチダーゼ( in Tris-HCl, pH 7.4)を加えTris-HCl, pH 7.4 buffer中、37℃で約1時間反応させた。
【0053】
なお、HIRタンパクのN末端アミノ酸配列をシークエンスしたところ、得られた49残基のN末端アミノ酸配列は、ベンスジョーンズタンパク(REI)と高い相同性を示した。そこで、HIRタンパクをリシルエンドペプチダーゼで処理すれば、どのように断片化されるのかをREIタンパクのアミノ酸配列に基づいて予測した。その結果、図1の概略図に示されるように、HIRタンパクのN末端から49残基までのアミノ酸配列にリジンが確認されなかったことから、HIRの可変領域は比較的長い領域の断片となり、また、REIタンパクと同様に定常領域にはリジンが多く含まれていると予測されることから、定常領域は細かな断片になることが予測された。
【0054】
(b)酵素活性(クロモザイムトライ(Cromozym-TRY)切断活性)の測定
次に、リシルエンドペプチダーゼ処理したHIRタンパクをゲル濾過カラム(superose12)にかけ、分画し蛋白画分fraction 14, 15, 16を得た(図5)。続いて、fraction 14, 15, 16およびfraction 14と同濃度のリシルエンドペプチダーゼ未処理のHIRの酵素活性を測定した。
【0055】
酵素活性の測定は、サンプルに終濃度0.1mMの(z-Val-Gly-Arg-pNA)を加えTris HCl ,pH 7.4 , 0.1% NaN3 buffer中で反応させ一定時間後の410nm吸光度を測定した。なお、サンプルを加えずTris bufferにクロモザイムトライを加えたものをコントロールとした。また、サンプルはfraction 14, 15, 16およびHIRタンパク6μL、クロモザイムトライ100μL、0.1%NaN3の条件で行った。
【0056】
(c)酵素活性の測定結果
酵素活性を測定した結果、図6に示されるように、Fraction 14は処理前に比べ酵素活性が有意に上昇していた。また、図7に示されるように、fraction 14および未処理のHIRタンパクを電気泳動した結果、fraction 14は11kDaに、未処理のHIRタンパクは22kDaにバンドを認めた。さらに、11kDaのバンドのN末端アミノ酸配列をシークエンスした結果、HIRタンパクのN末端アミノ酸配列(配列番号1に示される1番目~10番目のアミノ酸配列:DIQMTQSPSS)と一致した。これにより、fraction 14に含まれる酵素活性が向上した断片は、HIRタンパクの可変領域でることが推定される。
【0057】
なお、配列番号1には、HIRタンパクの全アミノ酸配列が示される。配列番号1に示されるように、HIRタンパクをリシルエンドペプチダーゼ処理すれば、103番目のリジンで切断されると考えられる。したがって、fraction 14は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のうち、1番目~103番目のアミノ酸であると推定される。このことは、fraction 14の分子量が11kDaであったことからも支持される。
【0058】
(d)カイネティック・パラメーターの測定
3.5uMの未処理のHIRタンパクと高い酵素活性が見られたfraction 14とについて、10,25,50,75,100,500mMの濃度のクロモザイムトライを加え37℃で23時間後の酵素活性を測定した。その結果、表1に示されるように、Km値については、未処理のHIRタンパクの方がfraction 14と比較して約7倍高く強い親和性を示していたが、Kcat値については、fraction 14の方が未処理のHIRタンパクと比較して約80倍も高く、基質転換能力が高いことが確認された。
その結果、リシルエンドペプチダーゼ処理して得られた断片のKcat(酵素反応速度)は約83倍上昇していた。なお、図3にはfraction 14のLineweaver-Burk plotが、図4には未処理のHIRタンパクのLineweaver-Burk plotがそれぞれ示される。
【0059】
【表1】
JP0004316194B2_000002t.gif【0060】
〔実施例2〕BJPの活性向上の可能性
5種類のベンスジョーンズタンパク(HIRタンパク、HIZタンパク、YAMタンパク、MORタンパク、MOKタンパク)について、実施例1と同様の方法で酵素活性の向上を検討した。なお、サンプルはベンスジョーンズタンパク13.4μL、クロモザイムトライ100μL、0.1%NaN3の条件で行った。
【0061】
すなわち、それぞれのベンスジョーンズタンパクを精製し、リシルエンドペプチダーゼ処理、および未処理の酵素活性を比較した。その結果、図8~図12に示されるように、5例中3例(HIRタンパク、YAMタンパク、MORタンパク)でリシルエンドペプチダーゼ処理後顕著な酵素活性が認められた。特に、YAMタンパクは、エンドペプチダーゼ未処理ではほとんど酵素活性が認められなかったにもかかわらず、酵素処理により断片化すると強い酵素活性が得られた。
【0062】
〔実施例3〕他の酵素(サーモライシン)による酵素活性の向上
ペプチダーゼとして、リシルエンドペプチダーゼの代わりにサーモライシンを用いる以外は、実施例1と同様の方法により、ベンスジョーンズタンパク(MORタンパク)の酵素活性の向上について検討した。
【0063】
すなわち、ベンスジョーンズタンパクであるMORタンパクに1/50濃度のサーモライシンを加え3時間37℃でインキュベーションした。続いて、この反応液をゲル濾過により分画した画分の酵素活性を測定した。その結果、実施例1のリシルエンドペプチダーゼ処理した場合と同様に、Fraction 14の画分は、未処理に比べて高い酵素活性を確認した。なお、図示しないが、この画分を電気泳動した結果、分子量は約12kDaで、アミノ酸シークエンスでは軽鎖のN末配列と一致した。これにより、サーモライシンにより断片化した場合でも、酵素活性が向上することが確認された。
【0064】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、酵素処理などにより、定常領域を除去して可変領域断片とする至って簡単便利な方法であり、経済的にも従来よりも遥かに有利な方法である。すなわち、本発明は極めて容易に抗体酵素の酵素活性の向上が図れるものであり、実用化に向けた価値は非常に高いものである。また、本発明によれば、酵素活性が弱い抗体酵素であっても、酵素処理などによって抗体酵素の断片化、または、可変領域を用いることにより、抗体酵素の酵素活性を向上させることができる。
【0065】
【配列表】
JP0004316194B2_000003t.gifJP0004316194B2_000004t.gifJP0004316194B2_000005t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態にかかる抗体軽鎖であるベンスジョーンズタンパク、HIRタンパクおよびREIタンパクの構成を示す概略図である。
【図2】リシルエンドペプチダーゼの分解位置を示す図である。
【図3】実施例1におけるfraction 14のLineweaver-Burk plotを示すグラフである。
【図4】実施例1における未処理のHIRタンパクのLineweaver-Burk plotを示すグラフである。
【図5】実施例1におけるリシルエンドペプチダーゼ処理したHIRタンパクをゲル濾過カラムにより分画した蛋白画分を示す図である。
【図6】実施例1におけるクロモザイムトライ切断活性により酵素活性を示す図である。
【図7】実施例1におけるフラクション14と未処理のHIRタンパクとの電気泳動した結果を示す図である。
【図8】実施例2における、酵素処理前のベンスジョーンズタンパク(HIZタンパク)と、酵素処理後のHIZ断片との酵素活性を比較したグラフである。
【図9】実施例2における、酵素処理前のベンスジョーンズタンパク(YAMタンパク)と、酵素処理後のYAM断片との酵素活性を比較したグラフである。
【図10】実施例2における、酵素処理前のベンスジョーンズタンパク(HIRタンパク)と、酵素処理後のHIR断片との酵素活性を比較したグラフである。
【図11】実施例2における、酵素処理前のベンスジョーンズタンパク(MORタンパク)と、酵素処理後のMOR断片との酵素活性を比較したグラフである。
【図12】実施例2における、酵素処理前のベンスジョーンズタンパク(MOKタンパク)と、酵素処理後のMOK断片との酵素活性を比較したグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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