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明細書 :リンゴ潜在性ウイルスを利用した果樹への遺伝子導入法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3977189号 (P3977189)
公開番号 特開2004-065009 (P2004-065009A)
登録日 平成19年6月29日(2007.6.29)
発行日 平成19年9月19日(2007.9.19)
公開日 平成16年3月4日(2004.3.4)
発明の名称または考案の名称 リンゴ潜在性ウイルスを利用した果樹への遺伝子導入法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
C12N 5/00 C
請求項の数または発明の数 22
全頁数 11
出願番号 特願2002-224813 (P2002-224813)
出願日 平成14年8月1日(2002.8.1)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成14年3月15日発行の「平成14年度日本植物病理学会大会プログラム・講演要旨集」に「リンゴ小球形潜在ウイルスの感染性cDNAクローンの構築」(李春江・吉川信幸著)として掲載された。
審査請求日 平成15年8月7日(2003.8.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】吉川 信幸
【氏名】李 春江
個別代理人の代理人 【識別番号】100102668、【弁理士】、【氏名又は名称】佐伯 憲生
審査官 【審査官】中村 正展
参考文献・文献 Annual Review of Phytopathology,1996年,Vol. 34,299-323
日本植物病理学会報,1999年,Vol. 65,301-304
J. Gen. Virol.,2000年,Vol. 541-547
調査した分野 C12N 15/00-15/90
A01H 1/00
A01H 5/00
C12N 5/00- 5/10
JSTPlus(JDream2)
PubMed
AGRICOLA/BIOSIS/CABA(STN)
CROPU/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
リンゴ小球潜在ウイルスのゲノムRNA1の完全長に対するDNAを含むベクター、及びリンゴ小球潜在ウイルスのゲノムRNA2の完全長に対するDNAを含むベクターから成る、果樹類用外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項2】
リンゴ小球形潜在性ウイルスのゲノムRNAの完全長に対するDNAがcDNAである、請求項1に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項3】
リンゴ小球形潜在性ウイルスのゲノムRNAの完全長に対するDNAが含まれている、請求項1~2のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項4】
ポリA配列をコードする領域を含む、請求項1~3のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項5】
ゲノムRNAに対するDNAの上流に転写調節因子を含む、請求項1~4のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項6】
転写調節因子がプロモーターを含む、請求項5に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項7】
プロモーターが植物ウイルス由来プロモーターである、請求項6に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項8】
プロモーターが35Sプロモーターである、請求項7に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項9】
新たに制限酵素部位が導入された、請求項1~8のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項10】
ゲノムRNA2における2つのタンパク質をコードする塩基配列の境界にあたる位置に制限酵素部位が導入された、請求項1~9のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項11】
細胞間移行タンパク質(MP)をコードする塩基配列と外被タンパク質(Vp25)をコードする塩基配列の間に制限酵素部位を含む、請求項10に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項12】
ゲノムRNA2におけるポリタンパク質中のプロテアーゼ切断部位をコードする塩基配列が反復され、その間に制限酵素部位を含む、請求項10又は11に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項13】
複数の制限酵素部位を含む、請求項9~12のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項14】
制限酵素部位に外来遺伝子が導入された請求項9~12のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物を含む、果樹類用外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項15】
制限酵素部位に外来遺伝子が導入された請求項9~13のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物を含む、リンゴ用外来遺伝子導入ベクター組成物。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物を果樹類に接種することから成る、果樹類への外来遺伝子の導入方法。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の外来遺伝子導入ベクター組成物を感染させた果樹類の葉を磨砕した後、得られた汁液を接種することから成る、請求項16に記載の果樹類への外来遺伝子の導入方法。
【請求項18】
果樹類がリンゴである、請求項16又は17に記載の外来遺伝子の導入方法。
【請求項19】
請求項1~15のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物を果樹類に接種し、果樹類へ外来遺伝子を導入し、該外来遺伝子を果樹類において発現させる方法。
【請求項20】
請求項1~15のいずれかに記載の外来遺伝子導入ベクター組成物を感染させた果樹類の葉を磨砕した後、得られた汁液を接種し、果樹類へ外来遺伝子を導入し、該外来遺伝子を果樹類において発現させる方法。
【請求項21】
外来遺伝子の発現する部位が接種した部位とは異なることを特徴とする、請求項19又は20に記載の外来遺伝子の導入方法。
【請求項22】
果樹類がリンゴである、請求項19~21のいずれかに記載の外来遺伝子の導入方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、果樹類の潜在性ウイルスを、外来遺伝子を運ぶウイルスベクターに改変することによって作成された果樹類への外来遺伝子導入ベクター、及び、当該外来遺伝子導入ベクターを用いた簡便な果樹類の外来遺伝子導入法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、植物への外来遺伝子の導入法としては、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens、Agrobacterium rhizogenes)を用いた形質転換法が一般に用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、リンゴなどの果樹類では成功例が少なく、外来遺伝子の簡便な導入法は確立していないのが現状である。
本発明者は、リンゴ樹に病気を起こすことなく潜在感染している潜在性ウイルス(latent virus)の一種である、径25nm程度の球状ウイルス(ALSV、リンゴ小球型潜在ウイルス)から採取・精製した一本鎖RNAがコードするアミノ酸配列を決定し、一本鎖RNAをテンプレートとしてcDNAの合成に成功した研究成果に基づき、このクローンを植物に接種して感染を確認し、さらに外来遺伝子をこのクローンのプロテアーゼ切断配列間に挿入し植物に接種して外来遺伝子を感染させ発現させることに成功し、本発明を完成した。
本発明の方法によれば、従来困難であった果樹類へ外来遺伝子を導入し形質転換させる新たな手段として現実に使用できる。
【0004】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、リンゴ等の果樹類の潜在性ウイルスのゲノムRNAに対するDNAを含む、果樹類への外来遺伝子導入ベクター、に係る。このベクターは果樹類に接種することで感染させることの出来る感染性ベクターである。
本発明は更に、該外来遺伝子導入ベクターに外来遺伝子を導入させて得られる、果樹類への外来遺伝子導入ベクター組成物、及び、該外来遺伝子導入ベクター組成物を果樹類に接種することから成る、果樹類への外来遺伝子の導入方法、に係る。また、本発明は、外来遺伝子導入ベクター組成物を果樹類に接種し、果樹類へ外来遺伝子を導入し、該外来遺伝子を果樹類の植物体(例えば、葉)において発現させる方法、にも係る。尚、植物体の接種した部位とは異なる部位で該外来遺伝子が発現することもある。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明において、ゲノムRNAの由来となる果樹類の潜在性ウイルスに特に制限はなく、例えば、リンゴ小球形潜在ウイルスのようなコモウイルス科に所属するウイルスを挙げることできる。リンゴ小球形潜在ウイルスを使用する場合には、リンゴ小球潜在ウイルスのゲノムRNA1の完全長に対するDNAを含むベクター、及びリンゴ小球潜在ウイルスのゲノムRNA2の完全長に対するDNAを含むベクターを含むものが好ましい。
本発明の果樹類の潜在性ウイルスのゲノムRNAに対するDNAは、当該ウイルスゲノム情報に基づいて、当業者であれば、当該技術分野における周知技術を用いて、容易に調製することが出来る。例えば、逆転転写酵素を使用して得られるcDNAとして容易に調製することが出来る。或いは、化学合成法によって、合成DNAとして調整することも可能である。
このようにして調製される外来遺伝子導入ベクターは、果樹類の潜在性ウイルスのゲノムRNAの少なくとも一部をふくむものであるが、果樹類への高い感染性を確保するためには、ゲノムRNAの完全長に対するDNAを含むことが好ましい。従って、このような場合には、ウイルスゲノムRNAに見られる適当な長さ(例えば、数十~数百個)のポリA配列も含まれる。
【0006】
更に、本発明の外来遺伝子導入ベクターにおいて、ゲノムRNAに対するDNAの上流にプロモーター、エンハンサー等の当業者に公知の適当な各種の転写調節因子を含むことが好ましい。
例えば、プロモーターの例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来の35Sプロモーター等の適当な植物ウイルス由来の各種プロモーターを挙げることが出来る。
【0007】
更に、本発明の外来遺伝子導入ベクターにおいては、外来遺伝子の挿入部位として、新たに制限酵素部位を導入することが好ましい。このような制限酵素部位は、本発明の外来遺伝子導入ベクターの果樹類への感染性を損なわない限り、任意の場所に導入することが出来る。即ち、ウイルスゲノムRANAにおいて、各タンパク質をコードする塩基配列の間に制限酵素部位が導入されることが好ましい。
例えば、リンゴ小球形潜在ウイルスの場合には、ゲノムRNA2における細胞間移行タンパク質(MP)をコードする塩基配列と外被タンパク質(Vp25)をコードする塩基配列の間に制限酵素部位が導入される。
このような制限酵素部位は当業者には周知の適当な方法によって導入することが出来る。例えば、ゲノムRNA2におけるポリタンパク質中のプロテアーゼ切断部位をコードする塩基配列が反復され、その間に制限酵素部位が導入される。尚、外来遺伝子の挿入を容易にするために、複数の異なる制限酵素部位が導入されることが好ましい。
【0008】
本発明の、果樹類への外来遺伝子導入ベクター組成物は、制限酵素部位に所望の外来遺伝子が導入された外来遺伝子導入ベクターを含むものである。この外来遺伝子導入ベクター組成物には、感染方法、及び感染対象等に応じて、その他の成分、例えば、適当な緩衝成分を適宜含むことが出来る。
該組成物中の、外来遺伝子導入ベクターの含有量は、感染方法及び、感染対象等に応じて当業者が適宜選択することが出来る。例えば、DNA濃度として0.01~数μg/μlの範囲の外来遺伝子導入ベクターをトリス-EDTA等の緩衝液中に含有させることが出来る。
【0009】
本発明の外来遺伝子導入ベクター組成物は、外来遺伝子が有意に果樹類に導入される限り、当業者に公知の任意の方法で果樹類の適用な部位へ接種することが出来る。例えば、果樹類に1葉当たり数μl~数十μl程度の外来遺伝子導入ベクター組成物を、一般的な方法であるカーボンランダム法によって接種することが出来る。あるいは、本発明の外来遺伝子導入ベクター組成物で予め感染させた果樹類の一部、例えば、葉を磨砕等の適当な手段で処理した後、得られた汁液を接種することも可能である。
【0010】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0011】
実施例1
コモウイルス科所属の新規ウイルスであるリンゴ小球形潜在ウイルスのゲノム構造
本発明で使用した小球形ウイルス(リンゴ小球形潜在ウイルス、Apple Latent Spherical Virus ; 「ALSV」と仮称)は輪状さび果病に罹病したリンゴ樹から小金沢ら(1985)により分離されたウイルスである。その後の研究により、ALSVは輪状さび果病の病原ではなく、リンゴに潜在感染するウイルスであることが明らかにされた。
本発明者等はALSVの分類学的所属を明らかにする目的で、ALSVの理化学的性質およびゲノム構造等の解析を行い、ALSVの分類所属を明らかにした(Li, Yoshizawa, et al., J. of General Virology (2000), 81, 541-547)。結果は以下のように要約される。
【0012】
ALSVの理化学的性質
(1)ALSV感染Chenopodium quinoaから小金沢らの方法によりウイルスの精製を行ったところ、ショ糖密度勾配遠心後に単一ピークの成分として粒子が精製された。精製標品は259nmに最大吸収、240nmに最小吸収をもつ典型的な核タンパク質の紫外部吸収曲線を示し、A260/280は1.85~1.90であった。また、精製ウイルス標品の電子顕微鏡観察では径25nmの小球形ウイルスが多数観察された。精製ウイルス収量は100gの感染葉から0.4~0.6mgであった。
(2)精製ウイルス標品を塩化セシウム平衡密度勾配遠心分離したところ、浮遊密度1.41g/cmと1.43g/cmの2つのピークに分かれ、ALSVが2粒子成分からなることが明らかになった。
(3)ALSVの外被タンパク質(CP)をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)で分析したとこと、分子量25キロダルトン(KDa)、24KDa、20KDaの3本のバンドが検出された。ウエスタンブロット分析において、これらのタンパク質は小金沢らにより作製された抗血清と反応した。以上の結果から、ALSVは3種類のCP(Vp25、Vp24、Vp20)から構成されていることが明らかになった。
(4)炭酸アンモニウム緩衝液とプロテアーゼKを用いて精製ウイルスから核酸を抽出し、ホルムアミド変性下で1%アガロースゲル電気泳動したところ、約6800塩基と3600塩基の2本のバンドが検出された。これらの核酸は2XSSCおよび0.1XSSCの条件下でRNA分解酵素により完全に消化された。以上の結果より、ALSVのゲノムは2分節の一本鎖RNA[RNA1(6800塩基)とRNA2(3600塩基)]からなると結論された。
【0013】
ALSVのゲノム構造
(1)ALSVゲノムのクローニング
精製ウイルスから抽出したRNAを鋳型として、オリゴ(dT)およびランダムプライマーを用いて常法によりcDNAを合成し、大腸菌でクローニングした。その結果、RNA1およびRNA2のほぼ全長を含むクローンが得られた。(2)ALSVゲノムの塩基配列の解析
ダイデオキシ法を用いてcDNAの塩基配列を解析した。またゲノムの5’末端領域の配列は5’-RACE法を用いてcDNAを合成後決定した。その結果、3’末端のポリ(A)を除いてRNA1は6815塩基、RNA2は3384塩基からなることが明らかになった。
尚、これらの塩基配列は、DDBJのAB030940(RNA1)及びAB030941(RNA2)に記載されている。
(3)ALSVゲノムにコードされたタンパク質
解析した塩基配列の中のタンパク質コード領域(ORF)を検索したところ、RNA1には、塩基番号6815番目のAUGで始まり、23KDaのタンパク質をコードするORF1と塩基番号388のAUGで始まり、ほぼ全長におよぶORF2(235KDaのタンパク質をコードする)が存在していた。235KDaタンパク質にはN-末端側からプロテアーゼcofactor、NTP結合ヘリカーゼ、プロテアーゼおよびRNAポリメラーゼの保存配列が認められた。これらのゲノム編成はコモウイルス科に所属するウイルスのゲノム編成と一致した。
RNA2には312番目のAUGで始まる分子量108KDaのポリタンパク質がコードされていた。このタンパク質のN-末端側には細胞間移行タンパク質(MP)と推定されるタンパク質がコードされていた。
(4)ALSVの外被タンパク質コード領域
Edman法を用いて、SDS-PAGEで分離したVp25、Vp24及びVp20の3種のCPのN-末端側アミノ酸配列を決定した。その結果、これら3種のCPのN末端15アミノ酸の配列は、RNA2がコードする108KDaタンパク質上の377~391番目(Vp25)、770~784番目(Vp20)、及び594~608番目(Vp24)の配列と一致した。以上の結果から、ALSVの外被タンパク質はRNA2にコードされる108KDaポリタンパク質のC末端側に存在し、プロテアーゼによる切断部位はQ-G(MP/Vp25)、Q-G (Vp25/Vp20)およびE-G(Vp20/Vp24)であることが明らかになった。
【0014】
ALSVの分類学的所属
このように明らかにしたALSVの理化学的性質およびゲノム編成から、ALSVはコモウイルス科に所属するウイルスと考えられた。現在、コモウイルス科にはコモウイルス属、ネポウイルス属、ファバウイルス属の3属が設立されている。ALSV粒子は3種類のCPから構成されている点でこれら3属のウイルスとは異なっており、さらにRNA1にコードされる235KDaタンパク質のポリメラーゼ領域のアミノ酸配列に基づいた系統解析では、ALSVは上記3属とは異なるクラスターを形成することが明らかになった。以上の結果から、ALSVはコモウイルス科に分類されるが、既設のいずれの属のウイルスとは異なり、今後新属を設立する必要があると結論された。
【0015】
実施例2
リンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)のベクターへの応用
リンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)は、リンゴに病気を起こさないで潜在感染する径約25nmの小球形ウイルスである。本ウイルスのゲノムは2種類の一本鎖RNA(RNA1, 6815塩基;RNA2, 3384塩基)からなり、RNA1は235キロダルトン(K)のポリタンパク質、RNA2は108Kのポリタンパク質をコードしている(図1)。
本課題の目的は、リンゴなどの果樹類への簡便な遺伝子導入のためにALSVをウイルスベクターとして利用しようとするものである。そのために、1)ALSVゲノムの感染性cDNAの構築、2)感染性cDNAクローンのウイルスベクターへの改変、3)改変したベクターへの外来遺伝子の導入と植物体での発現を以下のように行った。
【0016】
1. ALSVゲノムの感染性クローン(pEALSR1とpEALSR2)の構築
ALSVのRNA1およびRNA2の感染性クローンは以下のようにして構築した。
精製したウイルスからRNAを抽出して、逆転写酵素によりRNA1およびRNA2に対するcDNAを合成した。続いて、RNase HとDNAポリメラーゼを用いて2本鎖DNAを合成し、大腸菌プラスミドでクローニングした。ウイルスゲノムRNAの5’末端および3’末端については、塩基配列を基に合成したプライマーとExTaq DNA polymerase(TaKaRa)を用いてPCRにより合成した。これらのDNAを35Sプロモーター(El235S、農水省旧生物研大橋裕子博士より分譲)の下流に正確に連結し、RNA1に対する完全長cDNAクローン(pEALSR1)とRNA2に対する完全長cDNAクローン(pEALSR2)を構築した(図2)。pEALSR1から転写されるRNA1の3’末端に102個のポリA配列が、またpEALSR2から転写されるRNA2の3’末端には65個のポリA配列が存在することになる。
こうして調製された、本発明の外来遺伝子導入ベクターであるpEALSR1とpEALSR2で大腸菌(DH5α)を形質転換後、大量培養した。大腸菌からのプラスミド抽出キット(キアゲン社)を用いて両プラスミドDNAを抽出し、DNA濃度が2μg/μlになるように、トリス-EDTA (TE)緩衝液に懸濁後、以下の接種実験に用いた。
構築クローンの感染性試験にはChenopodium quinoaを供試した。ガラス温室で育成したC.quinoaの十分に展開した4枚の葉にカーボランダム法により、1葉あたり10μlのpEALSR1とpEALSR2混合液(終濃度がいずれも0.5μg/μl)を接種した。その結果、接種9-12日後から上葉に退緑斑が現れ、その後モザイクとなった。この病徴はウイルスを接種した植物での病徴と同じであった。この感染葉を磨砕後、再びC.quinoaに汁液接種すると、4-5日後に接種葉に退緑斑が現れ、その後上葉にはモザイクが生じた。また、ALSV抗血清(農水省果樹試験場リンゴ部より入手)を用いてウエスタンブロット分析したところ、ALSVの3種類の外被たんぱく質が検出された(図3)。以上の結果から、構築したpEALSR1とpEALSR2は感染性を有していることが明らかになった。
プラスミドDNAの濃度と感染率の関係を調べるため、pEALSR1とpEALSR2の濃度を5段階(0.5μg/μl,0.2μg/μl, 0.1μg/μl, 0.04μg/μl,0.02μg/μl)に希釈し、C.quinoaに接種した。その結果、0.04μg/μlの濃度以上で感染が認められた(図3)。
【0017】
2. 感染性cDNAクローン (pEALSR2)の改変
ALSV-RNA2は108Kの1種類のポリタンパク質をコードしているが、この中にはN末端側から42Kの細胞間移行タンパク質(MP)と3種類の外被タンパク質(Vp25、Vp20、Vp24)が含まれる。この108Kポリタンパク質は翻訳後にRNA1がコードするプロテアーゼにより切断されて、各タンパク質が生じる。ベクターへの改変の第一段階として、pEALSR2のMPとVp25のプロテアーゼ切断配列(Q/G)を2反復し、その間に3種類の制限酵素部位(XhoI-SmaI-BamHI)を含むプラスミド(pEALSR2XB)を構築した。制限酵素部位を導入したことにより、外来遺伝子を簡単に連結することができるようになった、本発明の外来遺伝子導入ベクターが得られた(図4)。
pEALSR2XBをpEALSR1と混合して(終濃度1μg/μl)、5個体のC.quinoaに接種したところ、9-12日後にすべてのC.quinoaの上葉に病徴が現れた。この感染葉からフェノール法によって全RNAを抽出して、ゲノムRNA2の全長のRT-PCRを行った後、その産物をBamHIとXhoIで処理した。野生型(pEALSR2)の感染葉のRT-PCR産物がこれら酵素では切断されないのに対して、pEALSR2XB感染葉の産物は切断されたことにより、pEALSR2XBは感染性を有し、かつ増殖したウイルスゲノムには制限酵素切断部位(XhoI-SmaI-BamHI)が存在していることが明らかになった(図5)。
【0018】
3.改変ベクターを用いた外来遺伝子(GFP)の植物体での発現
図6に示したように、pEALSR2XBのXhoIとBamHI切断部位にグリーン蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を導入したクローン(pEALSR2GFP)を作出した。pEGFP-1(CLONTECH社)を鋳型として、制限酵素切断配列を含む+鎖プライマーXhoGFP(+)[5’-CCCTCGAGATGGTGAGCAAGGGCGAGGA-3’]と-鎖プライマーBamHGFP(-) [5’-CGGGATCCCTTGTACAGCT CGTCCA-3’](アンダーラインは制限酵素切断配列を示す)を用いてKOD-plus DNA polymerase (TOYOBO)によってGFP遺伝子を増幅した。これを、XhoIとBamHIで処理後、同じ制限酵素で切断したpEALSR2XBとライゲーションした。得られたプラスミドをpEALSR2GFPとした。
pEALSR2GFPとpEALSR1を混合して(各0.5μg/μl)、本発明の外来遺伝子導入ベクター組成物を調製し、C.quinoaに接種した。一週間後の上葉を実体蛍光顕微鏡で観察したところ、接種葉の一部の葉脈にGFPの蛍光が観察された(図6)。さらに接種後9日には増殖したウイルスが直接接種した葉の上葉に移行して、その上葉全体にGFPの蛍光が葉脈に沿って観察された(図7)。これらの感染葉を磨砕後、C.quinoaに汁液接種したところ、種葉にはリング状の蛍光が大量に観察された。感染葉からフェノール法によりRNAを抽出後、逆転写酵素M-MLV reverse transcriptase(TOYOBO)とExTaq polymeraseでゲノムRNA2の全長を増幅した。このPCR産物をBamHIとXhoIによって処理後、1%アガロースの電気泳動分析したところ、GFP遺伝子断片の存在が確認された(図8)。
このことから、本研究で構築したGFP遺伝子を含むウイルスベクターは、C.quinoaの接種葉で複製し、上葉に移行すると同時に外来遺伝子(GFP)を植物体で発現することが確認された。
【0019】
【発明の効果】
本発明によって、非常に困難な技術である果樹類(例えば、リンゴ)への外来遺伝子導入及びその植物体での該外来遺伝子の発現が簡便で効率的に可能となった。
又、本発明方法は、リンゴ等に感染するウイルスベクターを作り外来遺伝子を果樹類へ導入し、形質転換を実現し、品種改良や新品種作出に使用することのできる新しい手法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、リンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)のゲノム構成(上)、及び、リンゴ小球形潜在ウイルスの電子顕微鏡写真(約25万倍)(下)を示す。
【図2】図2は、本発明の感染性cDNAクローンである、RNA1に対する完全長cDNAクローン(pEALSR1)とRNA2に対するクローン(pEALSR2)の構成、及び制限酵素地図を示す。
【図3】図3は、pEALSR1pEALSR2を含む本発明の外来遺伝子導入ベクターを用いた機械的接種によるChenopodium quinoaでの感染性を示す、ALSV抗血清を用いたウエスタンブロット分析の結果を示す(下)。プラスミドDNA濃度と感染率との関係を示す(上)。
【図4】図4は、本発明の外来遺伝子導入ベクターである感染性cDNAクローン (pEALSR2)の改変の様子を示す。
【図5】図5は、本発明の外来遺伝子導入ベクターであるpEALSR2XBが感染性を有し、かつ増殖したウイルスゲノムには制限酵素切断部位(XhoI-SmaI-BamHI)が存在していることを示す、模式図及び電気泳動の写真である。
【図6】図6は、本発明の外来遺伝子導入ベクター組成物である、pEALSR2GFPとpEALSR1の混合物をC.quinoaに接種し、一週間後に実体蛍光顕微鏡で観察した結果、接種葉の一部の葉脈にGFPの蛍光が観察された様子を示す写真である(約25万倍)。
【図7】図7は、本発明の外来遺伝子導入ベクター組成物である、pEALSR2GFPとpEALSR1の混合物をC.quinoaに接種し、9日後に実体蛍光顕微鏡で観察した結果、ウイルスを直接接種した葉ではない上葉全体にGFPの蛍光が葉脈に沿って観察された様子を示す写真である(約25万倍)。
【図8】図8は、本発明の外来遺伝子導入ベクター組成物であるpEALSR2GFPとpEALSR1の混合物による感染葉からフェノール法によりRNAを抽出後、逆転写酵素でゲノムRNA2の全長を増幅し、このPCR産物をBamHIとXhoIによって処理後、1%アガロースの電気泳動分析したところ、GFP遺伝子断片の存在が確認されたことを示す、模式図及び写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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