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明細書 :ガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3926690号 (P3926690)
公開番号 特開2004-043874 (P2004-043874A)
登録日 平成19年3月9日(2007.3.9)
発行日 平成19年6月6日(2007.6.6)
公開日 平成16年2月12日(2004.2.12)
発明の名称または考案の名称 ガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法
国際特許分類 C23C  14/22        (2006.01)
C23C  14/32        (2006.01)
G02B   5/28        (2006.01)
FI C23C 14/22 F
C23C 14/32 F
G02B 5/28
請求項の数または発明の数 14
全頁数 12
出願番号 特願2002-201897 (P2002-201897)
出願日 平成14年7月10日(2002.7.10)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 「第49回応用物理学関係連合講演会」29a-YA-8,29a-YA-9(2002年3月29日)に発表。
特許法第30条第1項適用 「第49回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 第2分冊」627頁 29a-YA-8,29a-YA-9の記載として、刊行物(2002年3月27日発行)に発表。
特許法第30条第1項適用 「Japanese Journal of Applied Physics Vol.41(2002)No.68<Part1>」(2002年6月30日発行)4291-4294頁の記載として、刊行物及び「Japanese Journal of Applied Physics」のインターネットホームページに発表。
審査請求日 平成15年8月13日(2003.8.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】山田 公
【氏名】松尾 二郎
【氏名】豊田 紀章
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】新居田 知生
参考文献・文献 特開2001-143534(JP,A)
特開平11-326633(JP,A)
特開平09-143700(JP,A)
特公平07-065166(JP,B2)
特開2003-279703(JP,A)
調査した分野 C23C 14/00~58
特許請求の範囲 【請求項1】
金属、金属酸化物もしくは半導体酸化物を蒸着源から蒸発させて固体基板上に酸化物薄膜を形成する際に、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に酸素ガスもしくは酸素化合物ガスのうちの少なくともいずれかのガスクラスターイオンを照射するガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、酸化物薄膜形成を一時停止して、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンと同種のガスあるいは異種のガス、またはそれらのガスの混合ガスからなるガスクラスターイオンを照射し、酸化物薄膜表面をエッチングして所定の膜厚を得ることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンを形成するガスが酸素であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンとは異種のガスがアルゴンであることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項4】
金属がTaであること、もしくは金属酸化物がTa25であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項5】
半導体酸化物がSiO2であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて複数の種類の異なる材料からなる酸化物薄膜を交互に堆積して多層酸化物薄膜を形成する際に、基板にガスクラスターイオンを照射して堆積した酸化物薄膜の表面にガスクラスターイオンを照射することで平坦化した後、次に堆積する酸化物薄膜の形成を行い、これらの工程を繰り返し多層酸化物薄膜を形成することを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて複数の種類の異なる材料からなる酸化物薄膜を交互に堆積して多層酸化物薄膜を形成する際に、各層の酸化物薄膜にガスクラスターイオンを照射することによって酸化物薄膜を所定の膜厚にエッチングし、さらに各層の酸化物薄膜表面にガスクラスターイオンを照射することによって酸化物薄膜表面を平坦化し、各層間の界面が急峻でかつ膜厚を制御した多層酸化物薄膜を形成することを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項8】
多層酸化物薄膜が光学フィルタ用多層酸化物薄膜であることを特徴とする請求項6または7に記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項9】
多層酸化物薄膜が、Ta25とSiO2からなることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項10】
酸化物薄膜形成と平坦化のそれぞれに適したガスを混合し、その混合比率を変化させて供給し、この混合ガスのガスクラスターイオンを用いて酸化物薄膜あるいは多層酸化物薄膜を形成することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項11】
請求項10に記載のガスのうち、酸化物薄膜形成に適したガスが酸素であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項12】
請求項10に記載のガスのうち、平坦化に適したガスがアルゴンであることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、蒸着源として電子ビーム蒸着源を用いることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
【請求項14】
形成される酸化物薄膜の平均表面粗さが1.0nm以下であることを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、ガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、電子デバイス、光学デバイス、磁気デバイスに応用が期待され、とくに光学フィルタ多層酸化物薄膜に活用が見込まれる、超平坦で高精度に膜厚が制御され、特性の経時変化の極めて少ない酸化物薄膜が形成可能なガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来より、金属、金属酸化物や半導体酸化物を用いて形成する酸化物薄膜は、電子デバイス、光学デバイスや磁気デバイスに必須の構成要素であり、デバイスの高機能化に対応すべく、その酸化物薄膜形成方法に関する研究開発が活発に行われている。とくに光通信における波長多重通信用の光学フィルタの層数は、数十から中には百を超える多層酸化物薄膜フィルタが用いられ、その多層酸化物薄膜中における各々の酸化物薄膜の膜厚はÅオーダーでの制御が求められている。また、光学フィルタの特性としては表面、界面が平坦であることが重要であり、表面や界面が平坦でない場合、光学フィルタの表面および界面において光が透過、屈折および反射する際の光の損失に繋がってしまうのである。
【0003】
しかしながら、現在、通常電子ビームやスパッタを用いた蒸着法によって酸化物薄膜が形成されているが、これらの方法では緻密な酸化物薄膜が得られないため、製造される多層酸化物薄膜フィルタでは上記のような要求を満たすことができず、また耐湿性においても、湿度の影響によって透過波長がシフトするという特性変化が起こるといった問題を有していた。
【0004】
これまで上記の方法以外に、単原子や分子イオンビーム、さらにクラスターイオンビームを援用する酸化物薄膜形成方法などが考案されており実用化されている。しかしながら、単原子や分子イオンビームを照射する場合、実用に際してはそれらのエネルギーを数百eV以下にすることができないため、酸化物薄膜の品質の向上には限界があった。また単原子や分子イオンビームの照射は酸化物薄膜中に照射イオンが混入してしまい、アルゴンなどの不活性ガスを用いた場合には酸化物薄膜の品質を損なう結果を招いていた。また酸化物薄膜表面はスパッタ効果が併発するためイオン照射特有の表面凹凸が増加し、多層酸化物薄膜形成の場合、それら層の界面が急峻である多層酸化物薄膜の形成は極めて困難であった。
【0005】
一方、ガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法は、原子または分子の塊状集団であるガスクラスターをイオン化し、イオンビームとして基板表面に照射して平坦化や薄膜形成を行うものであり、クラスターで基板に照射されるため一個一個の原子や分子はきわめて低エネルギーで基板に衝突するのであるが、クラスターとしては高いエネルギーを有しており、半導体プロセスでの低エネルギー注入、ダイヤモンド等の表面平坦化、ガスクラスターイオン援用によるITO薄膜形成等への応用、シリコンなどの固体表面をガスクラスターイオンによりその表面を酸化して薄膜を形成する方法などとして実用化研究が進められている。
【0006】
これまでにもインジウムや酸化インジウムなどを電子ビームで蒸発させ、同時に酸素ガスクラスターイオンビームを照射する酸化インジウム薄膜の形成やSiO2やTiO2を蒸発させて同様にガスクラスターイオンビームを照射して行う酸化物薄膜形成方法が開発されてきた。
【0007】
しかしながらこのガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法においても、最適な酸化物薄膜形成を行うための実際的な条件が明らかにされていなかったため、その利用がこれまで十分に行われてこなかったのが現状である。
【0008】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、超平坦で、高精度に膜厚が制御され、特性の経時変化の極めて少ない酸化物薄膜を製造する方法を提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、金属、金属酸化物もしくは半導体酸化物を蒸着源から蒸発させて固体基板上に酸化物薄膜を形成する際に、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に酸素ガスもしくは酸素化合物ガスのうちの少なくともいずれかのガスクラスターイオンを照射するガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、酸化物薄膜形成を一時停止して、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンと同種のガスあるいは異種のガス、またはそれらのガスの混合ガスからなるガスクラスターイオンを照射し、酸化物薄膜表面をエッチングして所定の膜厚を得ることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供する。
【0012】
第2には、第1の発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンを形成するガスが酸素であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供し、また、第3には、第1または2の発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンとは異種のガスがアルゴンであることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供する。
【0013】
第4には、第1ないし3のいずれかの発明において、金属がTaであること、もしくは金属酸化物がTa25であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供し、第5には、第1ないし3のいずれかの発明において、半導体酸化物がSiO2であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供する。
【0014】
第6には、第1ないし5のいずれかの発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて複数の種類の異なる材料からなる酸化物薄膜を交互に堆積して多層酸化物薄膜を形成する際に、基板にガスクラスターイオンを照射して堆積した酸化物薄膜の表面にガスクラスターイオンを照射することで平坦化した後、次に堆積する酸化物薄膜の形成を行い、これらの工程を繰り返し多層酸化物薄膜を形成することを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を、第7には、第1ないし5のいずれかの発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて複数の種類の異なる材料からなる酸化物薄膜を交互に堆積して多層酸化物薄膜を形成する際に、各層の酸化物薄膜にガスクラスターイオンを照射することによって酸化物薄膜を所定の膜厚にエッチングし、さらに各層の酸化物薄膜表面にガスクラスターイオンを照射することによって酸化物薄膜表面を平坦化し、各層間の界面が急峻でかつ膜厚を制御した多層酸化物薄膜を形成することを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供する。
【0015】
第8には、第6または7の発明における多層酸化物薄膜が光学フィルタ用多層酸化物薄膜であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供し、第9には、第6ないし8のいずれかの発明における多層酸化物薄膜がTa25とSiO2からなることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法をも提供する。
【0016】
また、第10には、第1ないし9のいずれかの発明において、酸化物薄膜形成と平坦化のそれぞれに適したガスを混合し、その混合比率を変化させて供給し、この混合ガスのガスクラスターイオンを用いて酸化物薄膜あるいは多層酸化物薄膜を形成することを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を、また第11には、第10の発明におけるガスのうち、酸化物薄膜形成に適したガスが酸素であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を、第12には、第10の発明におけるガスのうち、平坦化に適したガスがアルゴンであることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供する。
【0017】
第13には、第1ないし12のいずれかの発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法において、蒸着源として電子ビーム蒸着源を用いることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供し、第14には、第1ないし13のいずれかの発明において形成される酸化物薄膜の平均表面粗さが1.0nm以下であることを特徴とするガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を提供する。
【0018】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、金属、金属酸化物もしくは半導体酸化物を蒸着源から蒸発させて固体基板上に酸化物薄膜を形成する際に、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に酸素ガスもしくは酸素化合物ガスのうちの少なくともいずれかのガスクラスターイオンを照射するガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法であるが、この出願の発明においては、ガスクラスターイオンビームの加速電圧を3kV以上10kV以下の範囲とし、成膜速度を0.1Å以上500Å/sec以下とし、電流密度を0.5×成膜速度(Å/sec)μA/cm2以上としていることを大きな特徴としている。すなわち、成膜速度を1Å/secとしたときには電流密度を0.5μA/cm2以上とし、成膜速度を2Å/secとしたときには電流密度を1μA/cm2以上とする。
【0019】
上記のように加速電圧、成膜速度および電流密度の範囲を限定することによって、ガスクラスターイオンのエッチング/平坦化効果を利用し、酸化物薄膜形成後に酸化物薄膜の膜厚を数Åの誤差で制御することができるようになり、また通常の蒸着で生ずる柱状構造やドーム構造を持たない極めて均一なアモルファス構造の酸化物薄膜を形成することができ、しかも、平均表面粗さが1.0nm以下にまで平坦化された酸化物薄膜を形成することが可能となる。
【0020】
なお、この出願の発明において、“ガスクラスターイオン援用”とは、援用するガスクラスターイオンが酸化物薄膜を構成する分子となる場合、もしくはガスクラスターイオンが酸化物薄膜を構成する分子とならない場合、さらにはそれら両方となる場合を含んでおり、援用するガスクラスターイオンが酸化物薄膜を構成する分子となるかならないかはガスクラスターイオンの成分によって決まる。
【0021】
また、ガスクラスターイオンを形成する酸素ガス以外の酸素化合物ガスとしては、CO2、CO、Nxyといった酸素化合物ガスや、あるいはアルコールなどの有機酸素化合物などを用いることができるが、好適には酸素ガスによる酸素ガスクラスターイオンが用いられる。金属としてTaを、また金属酸化物としてTa25を好適に用いることができ、また半導体酸化物としてSiO2を好適に用いることができ、これらの酸化物薄膜を上記の方法を用いて形成した場合、平均表面粗さを0.5nm以下とすることが可能となる。またとくにTa25は高屈折率材料として知られているが、この発明の方法を用いることにより従来の酸化物薄膜形成方法によるTa25薄膜と比べてより高屈折率なTa25薄膜を得ることができる。さらに、この発明の方法により形成される酸化物薄膜は、高密度であることから、湿度の影響による波長シフトを従来品のものよりも1/10に抑えることが可能となる。
【0022】
すなわちこの出願の発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いることによって、表面平坦性の優れた酸化物薄膜を形成することができ、しかも光学特性および対環境性のきわめて優れた酸化物薄膜を形成することができるのである。
【0023】
また、この出願の発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法は、上記の発明と同様に、金属、金属酸化物もしくは半導体酸化物を蒸着源から蒸発させて固体基板上に酸化物薄膜を形成する際に、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に酸素ガスもしくは酸素化合物ガスのうちの少なくともいずれかのガスクラスターイオンを照射するガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法であるが、酸化物薄膜形成を一時停止して、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンと同種のガスあるいは異種のガス、またはそれらのガスの混合ガスからなるガスクラスターイオンを照射し、酸化物薄膜表面をエッチングして所定の膜厚を得ることも可能である。
【0024】
このとき酸素化合物ガスとしては、CO2、CO、Nxyといった酸素化合物ガスや、あるいはアルコールなどの有機酸素化合物などを用いることができる。
【0025】
また、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンとは異種のガスであるエッチング用のガスとして、たとえば、Ar、Heなどの希ガスやN2、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンと同種のガス以外のNxy、CO2、COなどの酸素化合物や、F2などのハロゲン(X2)あるいはAsF3やSF6などに代表されるAsX3、SX6などのハロゲン化物が用いられる。
【0026】
なお、とくに酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンを形成するガスを酸素とし、酸化物薄膜形成と同時または間歇的に基板に照射するガスクラスターイオンとは異種のガスをアルゴンとすることによって酸化物薄膜形成およびエッチングをとくに良好に行うことができる。
【0027】
また、上記に示すガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて複数の種類の異なる材料からなる酸化物薄膜を交互に堆積して多層酸化物薄膜を形成する際に、基板にガスクラスターイオンを照射して堆積した酸化物薄膜の表面にガスクラスターを照射することで平坦化した後、次に堆積する酸化物薄膜の形成を行い、これらの工程を繰り返し、多層酸化物薄膜を形成することも可能であり、また、上記に示すガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて複数の種類の異なる材料からなる酸化物薄膜を交互に堆積して多層酸化物薄膜を形成する際に、各層の酸化物薄膜にガスクラスターイオンを照射することによって酸化物薄膜を所定の膜厚にエッチングし、さらに各層の酸化物薄膜表面にガスクラスターイオンを照射することによって酸化物薄膜表面を平坦化し、各層間の界面が急峻でかつ膜厚を制御した多層酸化物薄膜を形成することも可能である。
【0028】
この出願の発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて多層酸化物薄膜を形成した場合、各々の酸化物薄膜の平均表面粗さは1.0nm以下となり、また、高屈折率である多層酸化物薄膜を形成することができることから、光学フィルタ用多層酸化物薄膜として好適に用いることができる。
【0029】
また、酸化物薄膜形成と平坦化のそれぞれに適したガスを混合し、その混合比率を変化させて供給し、この混合ガスのガスクラスターイオンを用いて酸化物薄膜あるいは多層酸化物薄膜を形成することも可能である。
【0030】
すなわち酸化物薄膜形成と平坦化のそれぞれに適したガスの混合比率として、酸化物薄膜形成を主に行いたい場合は、酸化物薄膜形成に適したガスの比率を高くした混合比率とし、また平坦化を主に行いたい場合は、平坦化に適したガスの比率を高くした混合比率とするといったようにすることで、酸化物薄膜形成と平坦化を都合に合わせて良好に行うことができるのである。
【0031】
このとき、酸化物薄膜形成に適したガスとして酸素を用い、平坦化に適したガスとしてアルゴンを用いることで、良好に酸化物薄膜形成および平坦化を行うことができる。
【0032】
また、上記のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法においては、蒸着源として電子ビーム蒸着源を好適に用いることができるのであるが、電子ビーム蒸着源以外にも、抵抗加熱ヒータ、スパッタ源など電子ビーム以外の加熱手段による蒸着源と組み合わせた蒸着方法、ならびにCVDなどの酸化物薄膜形成方法にガスクラスターイオン照射を加えた、種々の酸化物薄膜形成方法にガスクラスターイオンビーム照射を援用することができる。
【0033】
また、とくにTa25とSiO2を用いて多層酸化物薄膜を形成した場合に、酸化物薄膜表面がきわめて平坦で高屈折率の光学特性が優れた多層酸化物薄膜を形成することができる。
【0034】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0035】
【実施例】
<実施例1>
この発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法の効果を調べるため、Ta25とSiO2の薄膜形成を行いその平坦性および光学特性を測定した。光学フィルタ用の薄膜の製作では屈折率の大きい材料と小さい材料の組合せの積層多層酸化物薄膜が好ましいため、Ta25とSiO2を用いた。
【0036】
図1は、この発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を行うためのガスクラスターイオン援用蒸着装置の一例を示したものである。この例では酸化物薄膜形成と同時に基板に照射するガスクラスターイオンを形成するガスとして酸素(O2)を用いた。実際には原料ガスとして酸素ヘリウム混合ガス(O2:He=7:3)を用いた。このガスクラスターイオン援用蒸着装置(1)は、主に電子ビーム蒸着源(2)、ガスクラスターイオンビーム照射装置(3)および基板(4)が保持される基板ホルダ(5)から形成されている。また、基板ホルダ(5)に電子ビーム蒸着源(2)から蒸発したTa25、SiO2やガスクラスターイオンが基板(4)の適切な部分に照射されるように基板(4)の前に遮蔽板(6)を設けている。また、このガスクラスターイオン援用蒸着装置(1)は、油拡散ポンプ(図示省略)によって内部は真空排気された状態としておく。
【0037】
Ta25またはSiO2は電子ビーム蒸着源(2)から蒸発し、O2のガスクラスターイオン照射もガスクラスターイオンビーム照射装置(3)から同時に行われる。成膜速度(蒸着速度)は水晶振動子式蒸着レートモニター(7)により測定され、この例では成膜速度は1.0Å/secとした。また、酸化物薄膜の厚さの測定には、光学式膜厚モニターおよび水晶振動子式モニター(8)を用いた。また電子ビーム蒸着源(2)からの蒸着を行っている間は基板(4)の温度は電子ビーム蒸着源(2)からの放射のため100℃程度であった。
【0038】
ここで、図2にガスクラスターイオンビーム照射装置(3)単体の構造の一例を示す。
【0039】
このガスクラスターイオンビーム照射装置(3)は、ガスクラスター生成室(9)、差動排気部(10)、イオン化部(11)、加速照射部(12)から構成されている。ガスクラスター生成室(9)において、原料ガスであるO2ガスを高圧で口径が0.1mmのラバーノズル(13)から噴出させることによりクラスターを生成する。生成されたクラスターはスキマー(14)を通して開口(15)からイオン化部(11)に導入され、電子衝撃法により1価にイオン化される、イオン化されたクラスターは加速照射部(12)において加速装置(16)により加速され、偏向器(17)での偏向電圧によってスキャンされた後、ターゲットである基板(18)に照射される。なお(19)はファラデーカップであり、(20)は減速電界電極である。
【0040】
図1のガスクラスターイオン援用蒸着装置(1)において、このガスクラスターイオンビーム照射装置(3)(加速装置および偏向器等は図示省略)を用いてO2のガスクラスターイオンを基板(4)に照射するのであるが、その際のガス圧力はTa25の場合3atmまたは4atmとし、SiO2の場合には4atmとした。またガスクラスターイオンの平均サイズは1000原子/クラスターであり、加速電圧を0~11kVで変化させた。またイオン電流密度を0~2μA/cm2で変化させた。
【0041】
そして、Ta25やSiO2を電子ビーム蒸着源(2)から蒸発させ、それと同時にガスクラスターイオンビーム照射装置(3)からO2ガスクラスターイオンを照射して行う酸化物薄膜形成を行った。
【0042】
Ta25薄膜の屈折率の加速電圧依存性と照射電流密度依存性を図3および図4に示す。
【0043】
図3は、酸素のガスクラスターイオンの圧力が3atmおよび4atmのときのガスクラスターイオン援用方法を用いた場合のTa25の薄膜形成後のTa25の屈折率の加速電圧依存性を示しており、加速電圧3kVぐらいから増加し7kVを超えると低下し始める。最適加速電圧は5~9kVの範囲にある。このとき、成膜速度(蒸着速度)は1Å/secである。基板は石英ガラスを用い、膜厚は1800Åであった。
【0044】
このグラフよりも明らかなように、従来のTa25薄膜の屈折率が2.0であったのに対し、この発明の方法による酸化物薄膜形成では、屈折率2.1以上という高屈折率のTa25薄膜が得られた。
【0045】
また図4は、酸素のガスクラスターイオンの圧力が4atmで、加速電圧7kV、成膜速度1.0Å/secとしたときの、ガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法によって酸化物薄膜形成を行い、1800Åの膜厚のTa25薄膜を形成した際の屈折率のイオン電流密度依存性を示している。図4からも明らかなように、電流密度が高いほど、高屈折率となりほぼ2.2となる。
【0046】
また、図5はTa25とSiO2の薄膜の表面平坦性の電流密度依存性を示しており、ガスクラスターイオンの圧力が4atm、加速電圧が7kVであり、成膜速度が1.0Å/secの場合、膜厚が1800Åであったときに、電流密度が約0.5μA/cm2以上で平坦度が最小となり、平均表面粗さが0.5nmオーダー以下になったことがわかる。
<実施例2>
次にTa25とSiO2の多層酸化物薄膜を作製した。
【0047】
図6(a)に、加速電圧7kVおよび電流密度1μA/cm2のO2ガスのガスクラスターイオンを援用してTa25とSiO2の多層酸化物薄膜を作製した場合のTa25とSiO2の薄膜(2~4層目と7層目)と、O2ガスのガスクラスターイオンを援用しないでTa25とSiO2の多層酸化物薄膜を作製した場合のTa25とSiO2の薄膜(5、6層目)のSEM写真を示す。
【0048】
図6からも明らかなように、この発明の方法でガスクラスターイオンを援用して作製した場合のTa25とSiO2の薄膜は、平均の平均表面粗さが0.7nmであり、ガスクラスターイオンを援用しない場合は平均表面粗さが1.5nmよりも大きいことから、この発明の方法を用いてガスクラスターイオンを援用して作製した場合のTa25とSiO2の薄膜の方がガスクラスターイオンを援用していない場合のものよりも圧倒的に薄膜表面が平坦であることがわかる。
<実施例3>
次に、この出願の発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法を用いて作製した場合とガスクラスターイオン援用を行わないで作製した場合の石英基板上に形成された9層からなるTa25/SiO2の多層酸化物薄膜の耐湿試験を行った。このとき、ガスクラスターイオンの加速電圧は7kVであった。
【0049】
まず、各々の多層酸化物薄膜を煮沸中の水(100℃)の中に1時間入れ、その後フィルタの中央波長シフト量を測定した。その結果を図7に示す。
【0050】
なお、この中央波長シフト量は耐湿性を示しており、次の式で表される。
【0051】
シフト量(%)=(λwet-λdry)/λwet×100
λwetとλdryは、各々耐湿試験の前後の中央波長を示している。
【0052】
図7からも明らかなように、ガスクラスターイオン援用がない場合には、中央波長シフト量は約1.1%であったが、この出願の発明のガスクラスターイオン援用を行った場合は、中央波長シフト量は0.1%以下であり、きわめて小さいものであった。したがって、この出願の発明のガスクラスターイオン援用を行った場合きわめて耐湿性の良い薄膜あるいは多層酸化物薄膜が得られることがわかる。
<実施例4>
ガスクラスターイオン援用方法を用いた蒸着において製作する多層酸化物薄膜からなる光学フィルタでは、Ta25とSiO2薄膜をそれぞれ交互に定められた厚みで積層を行った。このとき、各層の膜厚は数Åの精度で行う必要があるため、膜厚が設計値より多く蒸着した場合には、蒸着のみを止め、酸素クラスターイオンをアルゴンイオンに変えてクラスターイオンのみを照射してエッチングを行い設計値に調整した。このとき、ガスの圧力を3atmまたは4atmとし、加速電圧を20kVとした。またドーズ量は1015~1016イオン/cm2で、この量で、平坦化およびエッチングを行った。
【0053】
酸素に任意の量のアルゴンを混合して酸化と平坦化効果を同時に行う酸化物薄膜形成では、蒸着を中止し、クラスターイオンビームのみ照射し、所定の膜厚までエッチングと平坦化を同時に行った。続いて次の酸化物薄膜の蒸着プロセスに移るのであるが、その際所定の膜厚を得られない場合には再び同様に平坦化を行うエッチングプロセスを行った。これにより光学特性の良い平坦な多層酸化物薄膜が形成された。
【0054】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、電子デバイス、光学デバイス、磁気デバイスに応用が期待され、とくに光学フィルタ多層酸化物薄膜に活用が見込まれる、超平坦で高精度に膜厚が制御され、特性の経時変化の極めて少ない酸化物薄膜が形成可能なガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明におけるガスクラスターイオン援用蒸着装置を例示した正面斜視図である。
【図2】この発明におけるガスクラスターイオンビーム照射装置を例示した概念図である。
【図3】この発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法によって形成された酸化物薄膜の屈折率と加速電圧との関係を示したグラフである。
【図4】この発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法によって形成された酸化物薄膜の屈折率と電流密度との関係を示したグラフである。
【図5】この発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法によって形成された酸化物薄膜の平均表面粗さと加速電圧との関係を示したグラフである。
【図6】この発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法の有無によるTa25とSiO2の多層酸化物薄膜の表面粗さの違いを示したSEM写真である。
【図7】この発明のガスクラスターイオン援用酸化物薄膜形成方法の有無によるTa25とSiO2の多層酸化物薄膜の耐湿性の違いを示したグラフである。
【符号の説明】
1 ガスクラスターイオン援用蒸着装置
2 電子ビーム蒸着源
3 ガスクラスターイオンビーム照射装置
4 基板
5 基板ホルダ
6 遮蔽板
7 水晶振動子式蒸着レートモニター
8 光学式膜厚モニターおよび水晶振動子式モニター
9 ガスクラスター生成室
10 差動排気部
11 イオン化部
12 加速照射部
13 ラバーノズル
14 スキマー
15 開口
16 加速装置
17 偏向器
18 基板(ターゲット)
19 ファラデーカップ
20 減速電界電極
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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