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明細書 :波動圧ストレス負荷装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3660993号 (P3660993)
公開番号 特開2004-061189 (P2004-061189A)
登録日 平成17年4月1日(2005.4.1)
発行日 平成17年6月15日(2005.6.15)
公開日 平成16年2月26日(2004.2.26)
発明の名称または考案の名称 波動圧ストレス負荷装置
国際特許分類 G01N 33/48      
C12M  1/00      
FI G01N 33/48 Z
C12M 1/00 G
請求項の数または発明の数 2
全頁数 8
出願番号 特願2002-217322 (P2002-217322)
出願日 平成14年7月25日(2002.7.25)
審査請求日 平成14年7月26日(2002.7.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人 北海道大学
発明者または考案者 【氏名】飯塚 健治
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100100125、【弁理士】、【氏名又は名称】高見 和明
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
審査官 【審査官】竹中 靖典
調査した分野 G01N 33/48
C12M 1/00
特許請求の範囲 【請求項1】
加圧ポンプ、デジタルリレーボックス、電磁弁付き圧力トランスミッター及び生体試料を収容する容器である本体から構成されることを特徴とする、波動圧ストレス負荷装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置を用いて、生体試料に波動圧ストレス負荷をかける方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、心臓の拍動などの生体内における生理的な圧力変動を再現する、波動圧ストレス負荷装置に関する。更に本発明は、当該波動圧ストレス負荷装置を用いて、細胞などの生体試料に波動圧ストレス負荷をかける方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より心血管領域の研究において、心拍動や高血圧によって心臓や血管に引き起こされる物理的な刺激の要素を培養細胞などのin vitroで再現するモデルの作製が各方面で試みられている。これまでに、血管の拍動に伴う組織の引き延ばしを再現する「伸展刺激装置」や血流によって引き起こされる「ずり応力」を再現する装置に代表される様に、物理的刺激を幾つかの構成要素に分けて負荷するシステムが開発されている。
【0003】
本発明者らは、数年前よりこの物理的刺激の3つめの構成要素である「圧力」に注目し、これを再現する装置の開発を試みた。このシステムによって、披検体に一定の大気圧をかけることで静圧的ストレスを負荷することが可能となり、内部に導入する披検体の種類を様々に入れ替えることで、複数の組織での圧負荷を検討できるのみならず、様々な降圧剤の薬理反応を細胞レベルで検討することが可能となった。
【0004】
しかしながら、生体においては血圧に見られるように、負荷される圧力は一定の値に保持されるものではなく、心臓の拍動に伴って一定範囲で変動することから、より生理的条件に近い圧力の変動(波動圧ストレス)を再現するシステムの構築が必要であると考えられた。さらに、培養細胞に対して加圧負荷を加える概念は以前より存在し、実際に加圧負荷を用いた実験結果の報告も行われているが、これらの系では細胞培養に用いるディッシュやプレートを直接加圧することはできず、またシステムを繰り返し使用することや、実際に細胞に負荷されている圧力を逐次モニターすることは困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の課題は、心臓の拍動が生み出す物理的負荷要素の一つである圧力のみを安定的に再現性を以て負荷でき、特にこれまで使用してきた圧変動を伴わない静圧的ストレスに代わって、披検体に対してより生理的条件に近い波動圧ストレスを負荷することができる装置と、波動圧ストレスを負荷する方法を提供することである。なお本願明細書において、波動圧ストレスとは、圧変動を伴う動的な圧力により生じるストレスを意味する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の課題を解決するための第1の手段として、加圧ポンプ、デジタルリレーボックス、電磁弁付き圧力トランスミッター及び生体試料を収容する容器である本体から構成されることを特徴とする、波動圧ストレス負荷装置を提供する。
【0007】
更に本発明は上記の課題を解決するための第2の手段として、前記の装置を用いて生体試料に波動圧ストレス負荷をかける方法を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の装置は、(1)細胞等の生体試料を収容するための本体、(2)圧力制御部、及び(3)加圧ポンプから構成されることを特徴とする。本装置において、かけられた圧力を検出するための圧力モニター部を更に有することは好ましい。
【0009】
下記の実施例においては、本体として(株)サンプラテック社製のアクリル真空デシケーター(コード番号0181A, SB型)を使用した。当該アクリル真空デシケーターは内寸が180 x 180 x 195 mmであり、上部フタ固定ヒンジが3カ所増設されている。また圧力制御部として(株)長野計器社製のデジタルメーターリレーGC94と、圧力トランスミッターKH25を使用した。更に圧力モニター部として(株)YAMASU社製の圧力ゲージ(コード番291101)を使用した。圧力モニター部は、アネロイド型血圧計を使用しているが、他の形式の血圧計も用いることも可能である。本発明の装置を構成する各部分は上記に限定されるものではなく、同等の機能を有する他のものに置き換えることも可能である。
【0010】
本体内部に、ヒトの生体細胞を培養できるシャーレや収容可能な披検体を直接収納し、これに大気もしくは必要な混合気体を送気して、内圧を指定の値の範囲で波動させることができる。通常、ヒトの血圧最高値は一時的な値も含め最高値220mmHg程度であるが、本装置ではこの圧力を含め、任意の一定範囲の内圧を自由設定することができ、この内圧変動を24時間以上に渡って維持することが可能である。内圧はパスカル単位でデジタルで設定できるが、アネロイド型の血圧計を内圧の監視機器として代用することにより、実際の内圧変動をモニターする事も可能である。
【0011】
本装置により、被検体としてヒト血管構成細胞の一つである平滑筋細胞を用いた場合は、血管内圧すなわち血圧が高くなった環境を人工的に作り出す事が可能となり、血圧上昇によってもたらされる様々な細胞内外の変化を再現し、血圧降下薬剤の効果を検討したり、高血圧に伴って発生する様々な障害を阻止、予防する手段を検討する事が可能になると予想される。
【0012】
一方、本システムの中心的な機能である加圧機能は、これまで述べてきた用途に留まらず高圧環境下(例えば深海など)での生体の機能を検討する為のシュミレーション装置として様々な転用、応用が可能と考えられる。さらに、本システムを構成している本体は、陽圧のみならず、陰圧にも耐えうる構造を具備しており、圧力ゲージを陰圧用のものと交換する事により低気圧環境(例えば高層大気圏や宇宙空間)を再現するシステムとしても転用、応用が可能である。
【0013】
即ち、本発明の要点は以下の通りである。
1)培養細胞や組織などの被検体を、閉鎖容器の中で再現性を持って一定範囲の変動する圧力の環境下で加圧負荷を加えることができる。
2)加圧には通常大気を用いるが、炭酸ガスや不活性ガス、さらにはこれらの混合気など任意のガスを用いる事が可能である。
3)負荷する圧力は、上限、下限それぞれについて、パスカル単位で小数点以下1位までの精度でデジタル設定が可能である。特に、内圧の制御は、実際のタンク内の圧変動を圧力センサーで感知しながら調整する機能を持っている。
4)設定した圧力が、実際にタンク内に負荷されているか否かをモニターする内圧モニターが存在する。
5)細胞を培養しながら負荷を行うなど、加圧タンクを含むシステム全体を保温する必要性が有る場合に対応するため、通常の恒温インキュベーター(300×300×300 (mm)程度)の内部に設置できる小型のものである。
6)圧力を負荷する被検体の出し入れが簡便に行われる様に、負荷タンクは上部開閉が可能な形となっている。
【0014】
本発明の波動圧ストレス負荷装置の構成を図1に示す。各主要部の機能は、以下のとおりである、
1)デジタルリレーボックス;
本装置において、変動させるタンク内部の圧力の上限と下限を設定する。本装置はまた、圧力トランスミッターで感知したタンク本体の内圧を加圧ポンプの電源をON/OFFすることで制御する。
2)電磁弁付き圧力トランスミッター;
加圧タンク本体の内圧を感知し、その情報をデジタルリレーボックスへ送信する。
3)圧力ゲージ;
タンク内部に負荷されている圧力の実測値をモニターする。
【0015】
加圧ポンプの下流にデジタルリレーボックスを介して電磁弁と圧力トランスミッターを内蔵した圧センサーを設置し、デジタルリレーボックスであらかじめ設定した圧力に応じて内圧を一定範囲の間で波動させる。時間あたりの波動の頻度は、圧力ポンプからの送気量に依存しており、送気量をコントロールすることで設定が可能である。
【0016】
【実施例】
以下の実施例において、ラット骨格筋培養細胞を用いて、本発明の装置を用いて波動圧ストレスをかけることにより細胞の情報伝達経路に及ぼす影響を検討した。本発明の装置は、培養細胞を含む種々の生体試料に波動圧ストレスをかける目的で使用することが可能であり、下記の実施例に限定されるべきではない。
【0017】
骨格筋は、体重の約50%を占める。骨格筋は、身体活動に応じてその組織学的構成を変化させることができ、その適用性、順応性は他の臓器に比較して顕著である。細胞間の情報伝達は、細胞内シグナルとして細胞核に伝わり、細胞の増殖・分化などが決定される。圧縮、伸長、ねじれの力など、細胞には常に物理的刺激が加わっており、細胞はそれに応答してその機能を調節しており、これらのストレスが、血管への障害発生の一因となっていることも明らかにされている1)
【0018】
高血圧により発生した圧負荷は血管にも作用し、動脈の構造要素である内皮細胞や平滑筋細胞に様々に物理的ストレスを加えることで、障害や肥大を生じて動脈硬化病変を形成する。血圧が高いほど、またその状態が長く続くほど小動脈硬化は促進されると考えられる2
【0019】
extracellular signal-regulated protein kinase(ERK), c-Jun N-terminal kinase(JNK)を含む細胞内シグナル伝達経路であるmitogen-activated protein kinase(MAPK)は細胞に対する圧ストレスにより活性化することが示されている3。本研究では、より生理的条件に近い波動圧ストレスを再現することができるシステムを用いて、これまでに報告されている静的圧ストレスにおける反応と波動圧ストレスにおける反応にどのような違いがあるのかについて比較検討を行った。対象としては、ラット骨格筋培養細胞(L6細胞)を使用した。
【0020】
(サンプルの作製)
L6細胞をDulbecco’s modified Eagle medium(DMEM), 5%fetal bovine serum(FBS)の存在下で100mm-dishを用いて5%CO2, 37℃で培養した。100mm-dishをストレスチャンバー内で0, 10, 20, 30, 60分間加圧した。このとき、それぞれのシャーレにHEPES(20mM)を加えた。圧は静的圧ストレス実験では180mmHgで一定とし、温度は37℃とした。また、 波動圧ストレス実験では20mMとなるようにHEPESを加えた100mm dishを90から180mmHg, 約6回/分の頻度で内圧を変化させた。約6回/分の頻度で内圧を変化させたチャンバー内で0, 10, 20, 30, 60分間加圧した。温度は37℃とした。
【0021】
3時間後、 phosphate-buffered saline(PBS)で3回洗い、 L6細胞を回収した。TBS+1%TritonX100、フォスファターゼインヒビビター、プロテアーゼインヒビター(ペプスタチンA 1.5μM、ベンザミジンHCl 100μM、ロイペプチン2μM、APMSF 100μM、アプロチニン0.15μM)を加え、超音波を用いて細胞を破砕し、15000rpm,30分間遠心の後、上清を回収した。
【0022】
(イムノブロット)
濃度測定(Lowry変法)により各サンプルのタンパク含有量を統一し、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(9%)でサンプルを展開した後、 ニトロセルロース膜に転写した。一次抗体にはanti-active ERK antibody, anti-JNK antibodyの2種類を用い、それぞれover nightで反応させた(4℃)。検出は化学発光法でにより行い、X線フィルムに感光させ、スキャナー(EPSON,GT-6500ART2)を用いてデジタル処理し、NIH imageで数値化の後、post hocテスト(Bonferroni/Dunn)により統計解析(分散解析)を行った。
【0023】
(結果)
L6細胞における静的圧ストレス下での活性型ERKの変化を調べた結果, 0から30分では明らかな変化は示さず、 加圧時間60分で活性上昇を示した(図2)。図2において、圧を180mmHgに保ち、加圧時間毎の活性型ERKの変化を検討した。一方、 波動圧ストレス下では、より早期の 20分で最大値を示し、 加圧時間60分ではむしろ減少を示した(図3)。図3において、圧を90から180mmHgで変化させ、加圧時間毎の活性型ERKの変化を検討した。
【0024】
静的圧ストレス下での活性型JNKは, 加圧時間30分で上昇がみられた(図4)。図4において、圧を180mmHgに保ち、加圧時間毎の活性型JNKの変化を検討した。一方、波動圧ストレス下では二相性の変化を示す傾向が認められた(図5)。図5において、圧を90から180mmHgで変化させ、加圧時間毎の活性型JNKの変化を検討した。図5において、統計的な有意差は認められなかった。
【0025】
(考察)
静的ストレスを用いた実験の結果、活性型ERKは、加圧時間30分で明らかな活性は示さないが、60分間の加圧では活性上昇を示すことが明らかになった。このことから、波動圧刺激における反応についても同様のタイムコースで検討を行った。
【0026】
波動圧ストレスを与えたとき、 加圧時間20分でERKの活性型はピークを示し、その後、 加圧時間が長くなるとともにERKにおける反応は減少を示したことから、細胞に波動圧負担がかかった状態では、ERKは比較的短時間で活性を示すと考えられた。また、静的圧ストレスを与えた場合に比べ、早い段階で活性の上昇がみられたことから、波動圧ストレスのシグナルは、静的圧ストレスよりも早期に細胞内へ伝達されると予想された。
【0027】
活性型JNKは、 静的圧ストレスでは加圧時間30分でのみ高い活性を示したのに対し、波動圧ストレスでは有意な差は認められなかったものの、一部に二相性の変化を示す傾向が認められた。この波動圧ストレス下でのJNKの2相性の活性化のうちの第1相は、静圧的ストレスで認められた30分でのピークよりも早期であった。これらERK並びにJNKの反応の様子から、圧刺激を受容, 伝達するシステムにおいて、静的圧ストレスと波動圧ストレスでは時間的な伝達様式の違いだけでなく、タンパク質リン酸化カスケード内の伝達様式にも違いがあると推測された。
【0028】
ERK,JNKは24時間単位で継続的な負荷をかけた場合、活性の程度に変動がみられることが報告されていることから4、加圧時間をさらに延長すると、60分以降にも新たな上昇パターンを示す可能性も考えられた。
【0029】
(結論)
波動圧ストレスを細胞に負荷することができるシステムを用いて, 骨格筋L6細胞に対する作用を静的圧ストレスでの反応と比較検討した。波動圧システムでは、 圧刺激における骨格筋細胞の反応が、 静的圧システムでのものとは異なっており、 これら両者のストレスを受容するメカニズム並びにその情報を伝達する経路には、 違いがあると考えられた。
【0030】
(参考文献)
1) Xu Q, Biomechanical-stress-induced signaling and gene expression in the development of arteriosclerosis, Trends Cardiovasc Med, 2000, 35-41.
2) GLASSER SP, Selwyn AP, and GANZ P, Atherosclerosis; risk factors and vascular endothelium, Am Heart J, 1996, 131, 379-384.
3) Martineau LC and Gandiner PF, Insight into skeletal muscle mechanotransduction : MAPK activation is quantitatively related to tension, J Appl Physiol, 2001, 91, 693-702.
4) Carlson CJ Fan Z, Gordon SE and Booth FW, Time course of the MAPK and PI3-kinase response within 24h of skeletal muscle overload, J Appl Physiol, 2001, 91, 2079-2
【0031】
【発明の効果】
本発明により、心臓の拍動などの生体内における生理的な圧力変動を再現する、波動圧ストレス負荷装置が与えられた。本発明の波動圧ストレス負荷装置は、加圧ポンプ、デジタルリレーボックス、電磁弁付き圧力トランスミッター及び生体試料を収容する容器である本体から構成され、細胞などの生体試料に例えば生体内における血流に伴う圧変化を模倣した波動圧ストレス負荷をかけることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明の波動圧ストレス負荷装置の機構を示す模式図である。
【図2】 図2は、L6細胞における静的圧ストレス下の活性化ERKの変化を示すグラフとブロッティングの写真である。
【図3】 図3は、L6細胞における波動圧ストレス下の活性化ERKの変化を示すグラフとブロッティングの写真である。
【図4】 図4は、L6細胞における静的圧ストレス下の活性化JUNの変化を示すグラフとブロッティングの写真である。
【図5】 図5は、L6細胞における静的圧ストレス下の活性化JUNの変化を示すグラフとブロッティングの写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4