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明細書 :加水分解又は脱水縮合酵素、及び当該酵素の生産方法、並びに当該酵素を用いたアミドの合成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4300289号 (P4300289)
公開番号 特開2004-081107 (P2004-081107A)
登録日 平成21年5月1日(2009.5.1)
発行日 平成21年7月22日(2009.7.22)
公開日 平成16年3月18日(2004.3.18)
発明の名称または考案の名称 加水分解又は脱水縮合酵素、及び当該酵素の生産方法、並びに当該酵素を用いたアミドの合成方法
国際特許分類 C12P  13/02        (2006.01)
FI C12P 13/02
請求項の数または発明の数 4
微生物の受託番号 IFO 13819
全頁数 15
出願番号 特願2002-247156 (P2002-247156)
出願日 平成14年8月27日(2002.8.27)
審査請求日 平成17年6月17日(2005.6.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】中西 一弘
【氏名】崎山 高明
【氏名】今村 維克
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】山中 隆幸
参考文献・文献 特許第3951008(JP,B2)
Appl. Microbiol. BIotechnol.,1999年,Vol.53,pp.81-84
Acta Biochimica Polonica,1978年,Vol.25, No.1,pp.3-14
Acta Biochimica Polonica,1978年,Vol.25, No.1,pp.15-21
J. Mol. Catal. B:Enzymatic,2001年,Vol.12,pp.15-25
JAOCS,2002年 4月 2日,Vol.79, No.1,pp.41-46
是石真友子 他,Streptomyces sp.由来カプサイシン加水分解酵素の精製,酵素工学研究会講演会講演要旨集,2001年10月26日,Vol.46th,p.33
是石真友子 他,Streptomyces sp.由来カプサイシン加水分解酵素の精製,日本生物工学会大会講演要旨集,2001年 9月26日,Vol.2001,p.159
是石真友子 他,カプサイシン誘導体の酵素合成,日本食品工学会年次大会講演要旨集,2001年 7月19日,Vol.2dn,p.108
LIST OF CULTURES,1992年,NINTH EDITION,p.203
調査した分野 C12N 9/80
PubMed
JSTPlus(JDreamII)
JMEDPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の理化学的性質を有するストレプトマイセス モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis) IFO 13819由来の加水分解又は脱水縮合酵素及びコバルトイオンの存在下、溶媒中でアミン(但し、バニリルアミンを除く)とカルボキシル基を有する物質とを反応させることを特徴とするアミド(但し、カプサイシン及びその類縁体を除く)の合成方法。
(1)作用及び基質特異性 アミド結合の加水分解反応及び/又は脱水縮合反応を触媒する。
(2)至適温度の範囲 55℃近傍である。
(3)至適pHの範囲 6~8である。
(4)分子量が約60kDaである。
【請求項2】
溶媒が、グリセリン、エタノール、アセトニトリルなどの水可溶性溶媒、ヘキサン、高級アルコール、酢酸エチルなどの水難溶性有機溶媒からなる群あるいはこれらの溶媒あるいは少量の水の混合溶液から適宜選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
下記の理化学的性質を有するストレプトマイセス モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis) IFO 13819由来の加水分解又は脱水縮合酵素及びコバルトイオンの存在下、アミド(但し、カプサイシン及びその類縁体を除く)をカルボキシル基を有する物質とアミン(但し、バニリルアミンを除く)に加水分解することを特徴とする加水分解方法。
(1)作用及び基質特異性 アミド結合の加水分解反応及び/又は脱水縮合反応を触媒する。
(2)至適温度の範囲 55℃近傍である。
(3)至適pHの範囲 6~8である。
(4)分子量が約60kDaである。
【請求項4】
アミドが、N-アシル-L-アミノ酸、Nε-アシル-L-Lys、N-アシル-L-ペプチド、Nε-L-Lys-L-ペプチド、アミド結合を有する抗生物質類及びN-(ベンジルオキシカルボニル)-L-アミノ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な酵素、及び当該酵素の生産方法に関し、特にアミド結合の加水分解又は脱水縮合反応を触媒する酵素、及び当該酵素の生産方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
微生物の中には、種々の有用なタンパク質を合成する能力を有するものが数多く存在する。遺伝子工学、細胞工学、及び微生物学等の研究におけるめざましい進歩発展の結果、これら微生物の有用性について再度検討されてきている。
有用なタンパク質として、まず生体触媒を例示することができる。生体触媒である酵素は、通常では、基質を反応させて生成物を得るのに高温等の高エネルギーを必要とするものであっても、常温付近で容易、かつ迅速に反応を完了させるという優れた性質を持つ。
【0003】
このような生体触媒である酵素は、通常、有機合成化学的方法により合成することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記有機合成化学的方法によれば、使用する試薬類が食品加工用として認められていないため、食品素材の製造方法として利用することができないという欠点を有する。加えて、上記有機合成化学的方法では、目的生産物を合成するのが非常に困難であるという欠点を有する。また、合成に際して高エネルギーを要求するため工業用途向けに低コストでの大量生産が困難である。したがって、大量生産が容易で、なおかつ高収率で、安定した有用な生体触媒の提供が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、大量生産が容易で、なおかつ高収率で、安定した有用な生体触媒の提供、当該酵素を用いたアミドの合成方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、発明者らは、特異的に加水分解及び脱水縮合する能力に優れた生体触媒を求めて種々の微生物について検討した結果、本発明の酵素及び当該酵素の生産方法を見出すに至った。
【0007】
本発明のアミド(但し、カプサイシン及びその類縁体を除く)の合成方法は、下記の理化学的性質、すなわち、(1)作用及び基質特異性 アミド結合の加水分解反応及び/又は脱水縮合反応を触媒する、
(2)至適温度の範囲 55℃近傍である、
(3)至適pHの範囲 6~8である、
(4)分子量が約60kDaである、ことを有するストレプトマイセス モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis) IFO 13819由来の加水分解又は脱水縮合酵素及びコバルトイオンの存在下、溶媒中でアミン(但し、バニリルアミンを除く)とカルボキシル基を有する物質とを反応させることを特徴とする
また、本発明のアミド(但し、カプサイシン及びその類縁体を除く)の合成方法の好ましい実施態様において、溶媒が、グリセリン、エタノール、アセトニトリルなどの水可溶性溶媒、ヘキサン、高級アルコール、酢酸エチルなどの水難溶性有機溶媒からなる群あるいはこれら溶媒あるいは少量の水の混合溶液から適宜選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
また、本発明の加水分解方法は、下記の理化学的性質、すなわち、(1)作用及び基質特異性 アミド結合の加水分解反応及び/又は脱水縮合反応を触媒する、
(2)至適温度の範囲 55℃近傍である、
(3)至適pHの範囲 6~8である、
(4)分子量が約60kDaである、ことを有するストレプトマイセス モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis) IFO 13819由来の加水分解又は脱水縮合酵素及びコバルトイオンの存在下、アミド(但し、カプサイシン及びその類縁体を除く)をカルボキシル基を有する物質とアミン(但し、バニリルアミンを除く)に加水分解することを特徴とする
また、本発明の加水分解方法の好ましい実施態様において、アミドが、N-アシル-L-アミノ酸、Nε-アシル-L-Lys、N-アシル-L-ペプチド、Nε-L-Lys-L-ペプチド、アミド結合を有する抗生物質類及びN-(ベンジルオキシカルボニル)-L-アミノ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の加水分解酵素又は脱水縮合酵素は、アミド結合を加水分解、又はアミド結合への脱水縮合反応を触媒する作用を有する酵素を広く意味するものである。本発明の分解合成酵素は、下記(1)~(3)の理化学的性質を有する。すなわち、(1)作用及び基質特異性 アミド結合の加水分解反応又は脱水縮合反応を触媒する。(2)至適温度の範囲 55℃近傍である。(3)至適pHの範囲 6~8である。
また、本発明の加水分解酵素又は脱水縮合酵素の分子量は、およそ45kDa~60kDaの間にある。電気泳動によって単一のバンドが得られることから、単量体であると考えられる。
【0009】
このような本発明の加水分解酵素又は脱水縮合酵素は、好ましくは、Streptomyces属に属する微生物由来のものである。より好ましくは、本酵素は、Streptomyces属に属する微生物のうち、Streptomyces mobaraensis IFO 13819又はStreptomysces luteoreticuli IFO 13422由来である。
【0010】
また、本発明の加水分解酵素又は脱水縮合酵素は、好ましくは、コバルトイオンの存在下で、酵素活性が促進する。このような酵素活性の高い酵素を利用すれば、後述するようなカプサイシン又はカプサイシン類縁体を含め、広く汎用性の高いアミドの高効率な合成に有益である。
【0011】
本発明のアミドの合成方法は、上述の本発明の加水分解酵素を用いる。具体的には、当該分解酵素の存在下、必要に応じて溶媒中で、アミンと脂肪酸とを反応させる。例えば、アミンとしてバニルアミンを用いた場合の反応式を以下に示す。
【0012】
【化1】
JP0004300289B2_000002t.gifなお、上記式において、一例としてバニリルアミンを用いたが、脂肪酸と反応させて目的とするカプサイシン類縁体を得るのに、バニリルアミンに類似する種々の類似アミン化合物を用いることができる。
カプサイシン類縁体(Capsaicin Analogues)やアミド結合を有する物質を得るのに、バニリルアミンの他に種々のアミン化合物を用いることができる。例えば、オリゴペプチド、ポリペプチドを含むペプチド、アミノ酸、アミノ基を有する抗生物質などを挙げることができる。
同様に、脂肪酸としては、特に限定されず、目的とするカプサイシン類縁体に応じて、種々の脂肪酸を用いることができる。例えば、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等を挙げることができる。
この他に、カルボキシル基を有する、ベンジルオキシカルボン酸などの種々の物質を使用することが可能である。
【0013】
パルミチン酸より高い炭素数の脂肪酸を用いる場合には、溶媒の種類によっては、溶媒に溶解しないことも生じるので、適宜溶媒を選択して反応させることができる。また、この場合、酸素濃度を高めたり、コバルトイオンを添加して反応を促進させることも可能である。
溶媒は、合成するアミドの種類により必要な場合、不要な場合がある。生成物が水に不溶な場合には、溶媒の添加は行わなくてもよいか、あるいは必要最小限にとどめることが可能である。
溶媒としてはグリセリン、エタノール、アセトニトリルなどの水可溶性溶媒、ヘキサン、高級アルコール、酢酸エチルなどの水難溶性有機溶媒からなる群あるいはこれらの混合溶液を使用できる。目的の反応にもよるが、酵素の安定性の維持という観点や高い収率が得られるという観点から、水可溶性溶媒としては、グリセリンを、また水難溶性有機溶媒としてはヘキサンなどが好ましい。
本発明において適用可能なアミドとしては、特に限定されるものではなく、例えば、アシルペプチド、アミド結合を有する抗生物質、アシルアミノ酸、ベンジルオキシカルボニルアミノ酸、ベンジルオキシカルボニルペプチド、Nε-アシルリジン、Nε-アシルリジルペプチドなどを挙げることができる。
例えば、アミドは、N-アシル-L-アミノ酸、Nε-アシル-L-Lys、N-アシル-L-ペプチド、Nε-L-Lys-L-ペプチド、アミド結合を有する抗物質類、N-(ベンジルオキシカルボニル)-L-アミノ酸、カプサイシン及びその誘導体からなる群から少なくとも1種を選択することができる。
【0014】
本発明の酵素を生産するのに用いることが可能な微生物は、下記(1)~(3)の理化学的性質を有する加水分解又は脱水縮合酵素の生産能を有するStreptomyces属に属する。(1)作用及び基質特異性 アミド結合の加水分解反応又は脱水縮合反応を触媒する。(2)至適温度の範囲 55℃近傍である。(3)至適pHの範囲 6~8である。
【0015】
Streptomyces 属に属する微生物の菌学的性質としては、放線菌に属し、菌糸状の状態で生育するグラム陽性(グラム染色性が陽性)の偏性好気性菌であることが挙げられる。
【0016】
本発明の加水分解酵素又は脱水縮合酵素の生産性が高いという観点から、微生物としては、Streptomyces mobaraensis IFO 13819又はStreptomysces luteoreticuli IFO 13422であることが好ましい。
【0017】
Streptomyces mobaraensis IFO 13819又はStreptomysces luteoreticuli IFO 13422は、大阪の財団法人発酵研究所(IFO)より入手可能であり、IFO 13819、 IFO 13422は、IFOの寄託番号を示す。
【0018】
なお、IFO13819は、他の微生物保存機関にも同一菌株が寄託されており、理化学研究所微生物系統保存施設(JCM)ではJCM4168、米国のAmerican Type Culture Collection(ATCC)ではATCC29032、同じく米国National Center for Agricultural Utilization Research(NRRL)ではNRRL B-3729である。また、IFO 13422は、同一菌株がATCCではStreptomyces mobaraensis ATCC 27446である。
【0019】
本発明の加水分解酵素の生産方法は、Streptomyces属に属し、アミド結合を加水分解する酵素を生産する能力を有する微生物を、通常の方法で培養し、その培養液から前記加水分解酵素を採取すればよい。また、上記微生物の自然的又は人工的変異株の培養物から、本発明の分解酵素を採取してもよい。培養の形態としては、液体培養、固体培養等を挙げることができ、いずれも適用可能である。工業的に有利に培養するために、振盪培養、通気攪拌培養等を行なっても良い。
【0020】
培地の栄養源としては、特に限定されることはなく、微生物の培養に通常用いられる炭素源、窒素源等を挙げることができる。炭素源としては、酵母エキス、グリセリン、グルコースなどを、または窒素源としては、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカー等の有機窒素化合物を挙げることができる。その他、無機塩類、例えば、食塩、リン酸塩類、硫酸塩類、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの金属塩類を適宜培地に加えても良い。培養温度、培養時間等の培養条件について、使用する微生物の発育に適し、かつ本発明の分解合成酵素の生産が最高になるような条件を適宜選択する。例えば、培地のpHは、中性、好ましくは6.0~8.0、より好ましくは7.0近傍である。また、放線菌の生育温度は一般的には28~37℃である。これらの菌体の好ましい培養温度としては28~32℃の範囲である。特に、IFOでは、以下に述べるStreptomyces mobaraensis IFO 13819及びStreptomysces luteoreticuli IFO 13422の2つの菌株の培養温度として28℃を推奨している。
【0021】
このようにして得られた培養物から本発明の加水分解酵素を得るには、代謝産物を採取するのに通常用いられる方法を適宜利用することができる。例えば、当該加水分解酵素と不純物との溶解度の差を利用する方法、親和力を利用する方法、分子量の差を利用する方法等を、単独又は組み合わせて、あるいは反復して使用することができる。例えば、本発明の加水分解酵素は、微生物の体外に分泌されるので、微生物の培養を行ない、培溶液から濾過、あるいは遠心分離によって微生物を取り除いた培養上清を得て、この培養上清から硫酸アンモニウムを用いた塩析、各種のイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等を組み合わせて本発明の分解合成酵素を精製すればよい。
【0022】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【0023】
実施例1
<加水分解酵素の精製>
まず、加水分解酵素が菌体内と菌体外のどちらに多く含まれているかを調べた。菌体を超音波破砕して得た溶液と、培養上清について活性測定したところ、菌体外の比活性は培養日数と共に増加するが、菌体内の活性は培養6日間で殆ど見られなくなった。よって、本菌株の産生する加水分解酵素は効率よく菌体外に分泌されていると考えられる。
【0024】
ついで、加水分解酵素活性の高いもの選別する目的で、種々のストレプトマイセス エスピー(Streptomyces sp.)についてスクリーニングを行った。スクリーニング方法は以下の通りである。この実施例においては、アミドがカプサイシンの場合について調べた。
【0025】
培地は4%ビーフ抽出物(Beef extract)、2%ポリペプトン(Polypepton)等を用いて精製し、初期pH7.0、振盪速度120strokes/min、温度30℃で7日間培養を行った。活性については、0.13mMカプサイシンを基質として、37℃でインキュベート後にHPLC測定を行った。なお、酵素活性1Uは、1μmolのカプサイシンを37℃、1時間で加水分解するのに必要な酵素量として定義した。その結果、Smobaraensis IFO 13819の活性が1.2(U/mL)、S.luteoreticuli IFO 13422の活性が1.0(U/mL)と相対的に高い活性を示した。ただし、S.luteoreticuliはATCCによる分類ではS.mobaraensisに分類されている。
【0026】
これらの知見から、菌株としてS.mobaraensis IFO 13819を用いて、培養を行った。可溶性澱粉2.0%、ポリペプトン2.0%、肉エキス4.0%、酵母エキス0.2%、リン酸水素カリウム0.2%、硫酸マグネシウム0.1%からなるpH7の液体培地にStreptomyces mobaraensis IFO 13819の胞子懸濁液を接種し、30℃で7日間培養した。
【0027】
その後、酵素を培養上清に終濃度50%になるように硫酸アンモニウムを加え、硫安沈澱を行った。得られた沈澱をバッファーに溶解後、CM Sephadex C-50で分画し、さらに二回ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーを用いて精製した。
【0028】
CM-Sephadex C-50カラムクロマトグラフィーの溶出曲線を図3に示す。タンパク質濃度は、OD280で、カプサイシン(CAP)加水分解活性は加水分解率で表した。活性分画は、NaCl濃度400mM付近で溶出した。この活性分画をヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーで分画して活性分画を得た(図4(a))が、不純なタンパク質の混在が認められたため、この活性分画を再度ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーで分画した。その結果、図4(b)に示すように、リン酸濃度350mM付近で精製酵素を得た。
【0029】
このようにして、遠心除菌して当該酵素を含む上清を得た。ついで、得られた上清についての活性を調べた。その結果、上清0.6L中の当該酵素の総活性は345U、比活性は0.061 U/mgであった。ここで、酵素活性1Uは、37℃、1時間で1μmolのカプサイシンを加水分解する酵素量であった。この上清に50%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加して沈澱画分を得た後、陽イオン交換クロマトグラフィー及びヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー(2回)を行なうことにより、比活性は197.0 U/mgとなり(表1)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動的に単一(分子量約60kDa)に精製された酵素が得られた(図1)。図1中の(1)は、培養上清、(2)は50%硫安分画画分、(3)は精製酵素である。なお、この比活性はこれまでに報告されているカプサイシン分解活性を有する諸酵素に比べると非常に高い値であった。
【0030】
【表1】
JP0004300289B2_000003t.gif【0031】
<加水分解酵素の特性>
次に、精製酵素の反応特性について検討した。種々の試薬に対する安定性について調べた結果、精製された当該酵素のカプサイシン加水分解活性はコバルトイオンにより増加した(表2)。また、セリンプロテアーゼの阻害剤として知られるPMSF(フェニルメタンスルホニルフルオリド)の添加により活性が阻害されることが示された。
【0032】
【表2】
JP0004300289B2_000004t.gif【0033】
また、加水分解酵素の至適pHは8付近であった(図2)。コバルトイオンを添加した場合と無添加の場合について、各温度で一時間インキュベートした後の残存活性を調べた。その結果を図3に示す。耐熱性に関しては、およそ50℃まで安定であった(図3)。50℃以上では、コバルトイオン添加時の方が、残存活性が高いことが示された。このことから、コバルトイオンは本酵素の活性促進に加え、安定性にも寄与している可能性が示唆される。また、活性の温度依存性について検討したところ、55℃で最も高い反応性を示した(図5)。
【0034】
実施例2
次に、本発明の加水分解酵素を用いて、カプサイシン類縁体の合成を試みた。
【0035】
当該酵素のカプサイシン類縁体合成能力を示す例は、以下の通りである。水/n-ヘキサン二相系(ヘキサン容積/水相容積=4)で、全反応液量20 ml、水相(0.5mM CoCl2含有100mMトリスー塩酸緩衝液)のpH6.9、40 mM バニリルアミン塩(終濃度)とラウリン酸400 mM の条件下で80U の酵素を用いて撹拌しながら、4日間反応を行った。反応温度は、37℃であった。
【0036】
比較例として、アミノアシラーゼを用いた。へキサン相のHPLC分析を行ってカプサイシン誘導体を定量した。表3に両酵素を用いた場合の種々の脂肪酸を基質とした反応の結果を示す。
【0037】
【表3】
JP0004300289B2_000005t.gif【0038】
その結果、初期バニリルアミン量に対して、収率が約55%でカプサイシン合成が確認できた(図6)。また、バニリルアミンと各種飽和脂肪酸とを基質とする合成反応活性に関しては、ラウリン酸(C12)の場合が最も高く、比較的炭素鎖の長い脂肪酸(パルミチン酸:C16)にも作用することが特徴である。
【0039】
実施例3
次に、アミドとして、N-アシル-L-アミノ酸を用いて、本酵素の加水分解能及び脱水縮合能を調べた。具体的に、N-アシル-L-アミノ酸として、N-アシル-L-Lys、Nα-アシル-L-Lys、Nε-アシル-L-Lysを用いて試験を行なった。反応溶媒として0.5 mM CoCl2を含有した50 mM トリス-塩酸緩衝液(pH 7.5)0.5 mlを用い、N-アシルアミノ酸の終濃度3.5 mMの条件下、0.1 Uの酵素を用いて37℃で30分間反応を行った。
【0040】
その結果、いずれのN-アシル-L-アミノ酸に関して、本発明の酵素によって、アシル-アミノ間のアミド結合を加水分解できることが判明した。
【0041】
一方、溶媒としてグリセリン水溶液(水分21%)0.5 mlを用い、7.5 mMラウリン酸(終濃度)、200 mMアミノ酸の条件下、0.2Uの酵素を用いて37℃で24時間反応を行い、アミドの合成を試みた。
当該酵素のNε-アシル-L-Lys合成能力を示す例は、以下の通りである。79%のグリセリンと0.5mM CoCl2を含む100mMトリスー塩酸緩衝液pH7.3、10ml中にラウリン酸7.5mMとL-Lys 200 mMの条件下で100 U の酵素を用いて撹拌しながら、2日間反応を行った。反応温度は、37℃であった。
その結果、初期ラウリン酸量に対して、収率が約95%でNε-アシル-L-Lysの合成が確認できた(図7)。
【0042】
最終的に、ラウリル酸とL-Lysとを反応させることにより、Nα-ラウリル-L-LysとNε-ラウリル-L-Lysが合成されることが判明した。
【0043】
実施例4
次に、アミドとして、N-アシル-L-ペプチドを用いて、本酵素の加水分解能を調べた。具体的に、N-アシル-L-ペプチドとして、N-ラウリル-L-Gln-Gly、Nα-ラウリル-L-Glu-L-Lys、N-ラウリル-L-Lys-Gly、N-ラウリル-L-Lys-L-Gln-Glyを用いて試験を行なった。基質であるN-アシル-L-ペプチドの終濃度を0.35 mMとした以外は実施例3と同様に行った。
【0044】
その結果、いずれのN-アシル-L-ペプチドに関して、本発明の酵素によって、アシル-ペプチド間のアミド結合を加水分解できることが判明した。すなわち、ラウリン酸と、それぞれ、L-Gln-Gly、L-Glu-L-Lys、L-Lys-Gly、L-Lys-L-Gln-Glyを生成した。
【0045】
一方、実施例3と同様の条件で、本発明の触媒下でアミドの合成を試みた。
【0046】
その結果、ラウリン酸とL-Lys-Gly、Gly-L-Lys、L-Lys-L-Glu、L-Glu-L-Lys、L-Met-L-Lys、L-Lys-L-Met、L-Lys-L-Val、L-Lys-L-Ile、L-Tyr-L-Lys、L-Lys-L-Tyr、L-Lys-L-Val, L-His-L-Lys を反応させることにより、それぞれNα-ラウロイル-L-Lys-Gly、Nα-ラウロイル-Gly-L-Lys、Nα-ラウロイル-L-Lys-L-Glu、Nα-ラウロイル-L-Glu-L-Lys、Nα-ラウロイル-L-Met-L-Lys、Nα-ラウロイル-L-Lys-L-Met、Nα-ラウロイル-L-Lys-L-Val、Nα-ラウロイル-L-Lys-L-Ile、Nα-ラウロイル-L-Tyr-L-Lys、Nα-ラウロイル-L-Lys-L-Tyr、Nα-ラウロイル-L-Lys-L-Val, Nα-ラウロイル-L-His-L-Lysが合成されることが判明した。また、ラウリン酸とL-Lys-Gly、Gly-L-Lys、L-Lys-L-Glu、L-Glu-L-Lys、L-Tyr-L-Lysを反応させた場合には、上記の生成物の他に、Nε-ラウロイル-L-Lys-Gly、Gly-Nε-ラウロイル-L-Lys、Nε-ラウロイル-L-Lys-L-Glu、L-Glu-Nε-ラウロイル-L-Lys、L-Tyr-Nε-ラウロイル-L-Lysが生成した。
当該酵素のNε-アシル-ペプチド合成能力を示す例は、以下の通りである。79%のグリセリンと0.5mM CoCl2を含む100mMトリスー塩酸緩衝液pH7.0~7.5、10ml中にラウリン酸7.5mMとそれぞれL-Lys-Gly 100 mM、Gly-L-Lys 100 mM、L-Lys-L-Met 100 mM、L-Met-L-Lys 100 mMの条件下で130 U の酵素を用いて撹拌しながら、3日間反応を行った。反応温度は、37℃であった。
その結果、初期ラウリン酸量に対して、Nα-ラウロイル-L-Lys-Gly、Nα-ラウロイル-Gly-L-Lys、Nα-ラウロイル-L-Lys-L-Met、Nα-ラウロイル-L-Met-L-Lysがそれぞれ、30%、20%、33%および42%の収率で合成された。
【0047】
実施例5
次に、アミド結合を有する抗生物質の加水分解について調べた。抗生物質としては、ペニシリンG(Penicillin G), ペニシリンV(Penicillin V), アンピシリン(Ampicillin), セファロースポリンC(Cephalosporin C)を用いた。
反応溶媒として0.1 mM CoCl2を含有した50 mM トリス-塩酸緩衝液(pH 7.5)0.1 mlを用い、抗生物質の終濃度10 mM(Cephalosporin Cの場合は4 mM)の条件下、20μgの酵素を用いて37℃で2分間反応を行った。
【0048】
その結果、pH 7.5 におけるCapsaicin に対する加水分解活性を200U/mg; Unit(これらは、37℃において1時間に基質1マイクロモルを加水分解する酵素量と定義した)とすると、Penicillin G, Penicillin V, Ampicillin, Cephalosporin Cに対して、それぞれ、2200U、6000U、1000U、2500Uであった。
【0049】
特に、アルカリ条件では極めて不安定なCephalosporin Cに対して、pH 7.5以下の中性あるいは微弱酸性領域でも高い加水分解活性を有することは興味深いものと思われる。以上のように、いずれの抗生物質についてもアミド結合を効率良く加水分解することが判明した。
【0050】
さらに、本酵素の有用性を示すために、既存のストレプトマイセス ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae)(Raquel Torres-Guzman et al., Biochemical and Biophysical Research Communications, Vol. 291, 593-0597 (2002))由来のペニシリンバシラーゼ(Penicillin Vacylase)との比較を行なった(活性 kcat (1/s) で比較)。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
JP0004300289B2_000006t.gif% Streptomyces mobaraensis(本酵素)の特徴:
本酵素は、既存のStreptomyces lavendulae由来のPenicillin Vacylaseと比較すると、活性も少し高く、基質特異性も広い事がわかる。既存の酵素はPenicillin G、AmpicillinおよびCephalosporin Cに対しては殆ど活性を示さないが、本酵素においては良好な活性を示すことが判明した。
【0052】
さらに、本酵素の有用性を示すために、既存の シュードモナス株N176由来のセファロースポリンCアシラーゼ(Cephalosporin C acylase from Pseudomonas strain N176)(Timothy J. Nobbs et al., Journal of Fermentation and Bioengineering, Vol. 77, 604-609 (1994))由来の酵素と比較試験を行なった(活性 kcat (1/s) で比較)。
【0053】
【表5】
JP0004300289B2_000007t.gif% Streptomyces mobaraensis(本酵素)の特徴:
本酵素は、既存のCephalosporin C acylase from Pseudomonas strain N176由来の酵素と比較すると、活性も高く、また基質のCephalosporin Cが安定な中性よりpHの低い弱酸性条件でも高い活性を示すのが特徴である。既存の酵素はpHがアルカリ性で最適な活性を示す。
【0054】
また、従来のウレタンヒドロラーゼIV(Urethane hydrolase IV) (strain F-86) (E. Matsumura et al., Agricultural Biological Chemistry, Vol. 49, 3643-3645 (1985))との比較を行なった。結果を表6に示す(活性をUnit /mg で比較)。
【0055】
【表6】
JP0004300289B2_000008t.gif【0056】
その結果、本酵素は、既存のUrethane hydrolase IVと比較すると、基質特異性が異なる。本酵素は、Urethane hydrolase IV低い活性しか示さない、Z-Phe、Z-Tyr、Z-Trpなどの芳香属アミノ酸に対して高い活性を示すことが特徴であることが判明した。
【0057】
実施例6
次に、アミドとして、N-ベンゾイルオキシカルボニル-L-アミノ酸(Z-L-アミノ酸)(N-benzyloxycarbonyl-L-amino acid (Z-L-amino acids)を用いて、本酵素の加水分解能及び脱水縮合能を調べた。反応溶媒として0.1 mM CoCl2を含有した50 mM トリス-塩酸緩衝液(pH 7.5)0.2 mlを用い、n-ベンゾイルオキシカルボニル-L-アミノ酸の終濃度10 mMの条件下、28μgの酵素を用いて37℃で30分間(Z-L-PheおよびZ-L-Tyr)または1時間(その他のZ-L-アミノ酸)反応を行った。
【0058】
その結果、N-ベンゾイルオキシカルボニル-L-アミノ酸(Z-L-アミノ酸)の加水分解反応も効率よく触媒することが判明した。
【0059】
特に、アミノ酸がL-Phe、L-Tyr、L-Trp、L-Met、L-Leu、L-Cys(Bzl) からなるZ-L-amino acidsは良好な基質であった。
【0060】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明したが、本発明は上記内容に限定されることを意図するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいてあらゆる変更が可能であることは、当業者にとって明白であろう。
【0061】
【発明の効果】
本発明によれば、大量生産が容易で、なおかつ高収率で、安定したアミドを合成するのに有用な酵素、及び当該酵素を用いたアミドの生産方法を提供し得るという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例である精製酵素のSDS-PAGEの結果を示す図である。
【図2】 酵素活性のpH依存性を示す図である。
【図3】 本発明の一実施例である精製酵素の熱安定性を示す図である。
【図4】 ヒドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィーの結果を示す図である。(a)が1回目、(b)が2回目を示す。
【図5】 本発明の一実施例である精製酵素の酵素活性に対する温度依存性を示す図である。
【図6】 カプサイシン誘導体合成反応の経過を示す図である。
【図7】 Nε-アシル-L-Lysの収率と反応時間との関係を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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