TOP > 国内特許検索 > リグニンのフェノール誘導体の生産方法 > 明細書

明細書 :リグニンのフェノール誘導体の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4044413号 (P4044413)
公開番号 特開2004-137347 (P2004-137347A)
登録日 平成19年11月22日(2007.11.22)
発行日 平成20年2月6日(2008.2.6)
公開日 平成16年5月13日(2004.5.13)
発明の名称または考案の名称 リグニンのフェノール誘導体の生産方法
国際特許分類 C08H   5/04        (2006.01)
FI C08H 5/04
請求項の数または発明の数 11
全頁数 24
出願番号 特願2002-302149 (P2002-302149)
出願日 平成14年10月16日(2002.10.16)
審査請求日 平成14年10月16日(2002.10.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】舩岡 正光
【氏名】永松 ゆきこ
【氏名】永松 和成
個別代理人の代理人 【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
審査官 【審査官】内田 靖恵
参考文献・文献 特開2004-123918(JP,A)
調査した分野 C08H 5/00-5/04
特許請求の範囲 【請求項1】
リグニンのフェノール誘導体の生産方法であって、
(a)第1のフェノール化合物で予め親和したリグノセルロース系材料に酸を添加して第1次リグニンフェノール誘導体を得る工程、及び
(b)第(n+1)のフェノール化合物で予め親和した前記n次リグニンフェノール誘導体に酸を添加して第(n+1)次のリグニンフェノール誘導体を得る工程、
を備え、nが1からN(Nは1以上の整数である)までの計N回の前記(b)工程を順次実施し、各(b)工程において第(n+1)次リグニンフェノール誘導体を得る方法。
【請求項2】
前記(b)工程において、Nは1以上3以下の整数である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(b)工程において用いる前記第n次リグニンフェノール誘導体は前記(a)工程で同時に生成したリグノセルロース系材料由来の炭水化物の少なくとも一部を含む組成物として供給されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記(b)工程の少なくとも1工程で用いる酸は、前記(a)工程で用いる酸とは異なる種類の酸であるか、前記(a)工程で用いられる酸と異なる強度で用いられる請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記(a)工程で用いる酸は、リグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度で添加されている、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記(a)工程で用いる酸は、リグニン-セルロースマトリックスを膨潤させない強度で添加されている、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記リグニンフェノール誘導体を得るいずれかの工程において、前記リグノセルロース系材料あるいは前記リグニンフェノール誘導体と前記フェノール化合物とを含む混合系に対して超音波を照射する、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
リグニンフェノール誘導体を得るいずれの工程において、リグノセルロース系材料あるいはリグノフェノール誘導体とフェノール化合物と酸とを含む混合系に対して超音波を照射する、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記(a)工程における酸を、少なくとも、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度で添加し、前記第1のフェノール化合物と前記リグノセルロース系材料と酸とを含む混合系に超音波を照射する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記(a)工程における酸を、少なくとも、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させない強度で添加し、前記第1のフェノール誘導体と前記リグノセルロース系材料と酸とを含む混合系に超音波を照射する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記第1のフェノール化合物と前記第2のフェノール化合物とは互いに異なる種類のフェノール化合物を含んでいる、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物体の構成成分であるリグニンの構成ユニットにフェノール誘導体を導入して、リグニンのフェノール誘導体を形成する技術に関し、特に、2種類以上のフェノール誘導体の導入に際して導入量や導入比率等の制御を容易に実現してリグニンのフェノール誘導体の構造を精密に制御する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物体の主たる構成成分である細胞壁構成成分、すなわち、リグニンとセルロースやヘミセルロースなどとの複合系含有材料(以下、リグノセルロース系材料という。)を、これをフェノール誘導体と酸とを用いて分離・誘導体化する技術がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
かかる技術においては、リグニンをリグニン-セルロースマトリックスから分離するために、相分離という手法を用いている。すなわち、予め、リグノセルロース系材料をフェノール化合物で溶媒和させておくかあるいは収着しておいた上で、リグノセルロース系材料を酸と接触させることにより、リグニンにフェノール化合物をグラフトさせると同時にリグニンをセルロースとのマトリックスから分離するというものである。
また、これらの方法において、分離効率を改善する技術もある(特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】
特開平2-233701号公報
【特許文献2】
特開平9-278904号公報
【特許文献3】
特開2001-131201号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
現在、この方法で得られるリグニン誘導体の物性等は、由来するリグノセルロース系材料に大きく由来しており、フェノール化合物の導入効率を制御するには至っていない。また、2種以上のフェノール化合物を導入しようとする場合、用いるフェノール化合物の反応性の相違により必ずしも意図する比率でフェノール化合物を導入することができなかった。
しかしながら、リグニンを目的に応じて誘導体化していくためには、フェノール化合物の導入効率や導入比率を高度にコントロールすることが望まれる。
そこで、本発明では、リグノセルロース系材料からリグニンのフェノール誘導体を得るのに際して、導入するフェノール化合物の導入率や2種以上のフェノール化合物の導入比率を制御できる技術を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、リグノセルロース系材料をフェノール化合物で親和した後、酸を添加してリグニンをフェノール誘導体化するのにあたり、一旦フェノール誘導体化した後のリグノフェノール誘導体に対して、更にフェノール化合物で親和後、酸を添加することにより更なるフェノール化合物の導入が可能であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0006】
(1)リグニンのフェノール誘導体の生産方法であって、
以下の工程:
(a)第1のフェノール化合物で予め親和したリグノセルロース系材料に酸を添加して第1次リグニンフェノール誘導体を得る工程、及び
(b)第(n+1)のフェノール化合物で予め親和した前記n次リグニンフェノール誘導体に酸を添加して第(n+1)次のリグニンフェノール誘導体を得る工程、
を備え、nが1からN(Nは1以上の整数である)までの計N回の(b)工程を順次実施し、各(b)工程において第(n+1)次リグニンフェノール誘導体を得る方法。
(2)前記(b)工程において、Nは1以上3以下の整数である、(1)記載の方法。
(3)前記(b)工程において用いる前記第n次リグニンフェノール誘導体は前記(a)工程で同時に生成したリグノセルロース系材料由来の炭水化物の少なくとも一部を含む組成物として供給されている、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記(b)工程の少なくとも1工程で用いる酸は、前記(a)工程で用いる酸とは異なる種類の酸であるか、前記(a)工程で用いられる酸と異なる強度で用いられる(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記(a)工程で用いる酸は、リグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度で添加されている、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記(a)工程で用いる酸は、リグニン-セルロースマトリックスを膨潤させない強度で添加されている、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(7)リグニンフェノール誘導体を得るいずれかの工程において、リグノセルロース系材料あるいはフェノール誘導体とフェノール化合物とを含む混合系に対して超音波を照射する、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)リグニンフェノール誘導体を得るいずれの工程において、リグノセルロース系材料あるいはリグノフェノール誘導体とフェノール化合物と酸とを含む混合系に対して超音波を照射する、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(9)前記(a)工程における酸を、少なくとも、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度で添加し、前記第1のフェノール化合物と前記リグノセルロース系材料と酸とを含む混合系に超音波を照射する、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(10)前記(a)工程における酸を、少なくとも、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させない強度で添加し、前記第1のフェノール誘導体と前記リグノセルロース系材料と酸とを含む混合系に超音波を照射する、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(11)第1のフェノール化合物と第2のフェノール化合物とは互いに異なる種類のフェノール化合物を含んでいる、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の方法によって得られる、2種以上のフェノール化合物が導入されたリグニンのフェノール誘導体を含有する組成物。
(13)さらに、前記(a)工程で生成したリグノセルロース系材料由来の炭水化物の少なくとも一部を含有する、(12)記載の組成物。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のリグニンのフェノール誘導体の生産方法は、少なくとも、
(a)第1のフェノール化合物で予め親和したリグノセルロース系材料に酸を添加して第1次リグニンフェノール誘導体を得る工程、及び、
(b1)第2のフェノール化合物で予め親和した前記第一次リグニンフェノール誘導体に酸を添加して第2次リグニンフェノール誘導体を得る工程、を備えることを特徴としている。そして、第3次以上のリグニンフェノール誘導体を得る工程を備えることを特徴としている。なお、以下の説明において、第1次リグニンフェノール誘導体に対して2次以上のフェノール化合物による1段あるいは2段以上の誘導体化工程からなる工程を(b)工程と総称するものとする。
【0008】
本発明の生産方法は、多段的あるいは逐次的に変換処理(フェノール化合物による誘導体化工程)を実施するに特徴がある。かかる方法によれば、各段の工程で用いるフェノール化合物の種類、酸強度あるいは外部からのエネルギーの付加などの多様な調整が可能となる。この結果、高い導入比率でフェノール化合物が導入されたリグニンフェノール誘導体や、異なるフェノール化合物の導入比率が制御されたリグニンフェノール誘導体を得ることができるようになる。
【0009】
また、本発明方法では、リグニンのフェノール誘導体を得るいずれかの工程において、酸の強度を調節することを特徴としている。
酸強度を調節することにより、酸との接触効率が変化してフェノール化合物の導入反応を変化させ、フェノール化合物の導入量を調節することができる。
さらに、本発明方法では、リグニンのフェノール誘導体を得るいずれかの工程において、フェノール化合物とリグノセルロース系材料とを含む混合系、及び/又はフェノール化合物とリグノセルロース系材料と酸とを含む混合系に対して超音波を照射することを特徴としている。
超音波を照射することにより、フェノール化合物の導入及びリグニンとセルロースとのマトリックスの脱複合が促進される。このため超音波照射条件、あるいは超音波照射条件と他の条件とを組み合わせることにより、より高いフェノール化合物の導入制御を行うことができる。
さらに、超音波の照射は他の側面においても有用である。すなわち、フェノール誘導体の導入にあたって使用する酸強度を低下させることができる。これにより、フェノール化合物の導入量や導入比率の制御が容易になる。
【0010】
なお、従来より、相分離処理においては、リグニンのアリールプロパンユニットのC1位にフェノール化合物が導入されてリグニンのフェノールプロパンユニットを有するリグニンフェノール誘導体が得られることが知られている。しかしながら、当該相分離処理においては、酸によるセルロース(炭水化物)の膨潤を達成しなければ、フェノール化合物の導入も困難であった。一方、セルロースの膨潤を達成できる程度の酸の存在下における相分離変換処理は、反応速度が非常に迅速であり、フェノール化合物の導入量をコントロールすることは非常に困難であった。すなわち、フェノール化合物の導入量を安定化する、あるいは導入量を制御するには、十分時間相分離変換処理を行い、当該処理によってフェノール化合物が導入されうるC1位にフェノール化合物を導入するしかなかった。結果として、多段階に、更なるフェノール化合物の導入を想定することが困難であった。また、追加のフェノール化合物の導入可能性についても予測困難であった。したがって、相分離処理後においても、更にC1位へのフェノール化合物の導入については予測しえない知見であった。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0011】
さらに、このような状況下、複数のフェノール化合物の導入に際しては、それぞれの反応性と配合比とを選択することで導入量や比率を調整していたが、上述のように、迅速な反応速度下では、これらの調整による制御は非常に困難であった。本発明の別の側面によれば、酸の強度を調節すること、さらにこれに超音波照射などを組み合わせることにより、第1段の相分離変換処理において、フェノール化合物の導入量の制御を可能にした。特に、第1段の処理において従来困難であった、フェノール化合物の低導入量を達成することができる。さらに、このことにより、第2段以降の変換処理の多様性を高めると同時に、高精度なフェノール化合物の導入制御が可能となる。
【0012】
また、少なくとも、本発明における第1段のフェノール誘導体化工程において、及びそれに続くフェノール化合物の誘導体化工程において、リグノセルロース系材料由来の炭水化物とともにリグニンフェノール誘導体を分離する手法を採用すると、得られるリグニンフェノール誘導体は、少なくとも部分的に当該炭水化物と複合状態となっている。したがって、かかる複合体組成物においては、リグニンフェノール誘導体は活性なC1位、すなわち、フェノール化合物が導入されていないC1位を安定して保持することができる。したがって、当該複合体組成物によれば、当該活性なC1を利用した更なるフェノール誘導体化工程や他の誘導体化工程(架橋性基の導入処理、アルカリ処理、水酸基保護処理など)を容易に実施することができる材料組成物が提供される。なお、当該複合体組成物は、可塑性を有するため、当該可塑性に基いて成形素材等として各種用途に用いることができることが本発明者らにより既に見出されている(2001-342353号公報参照)。したがって、当該複合体組成物によれば、活性なC1位を保持し、長期にかつ多段階に活用可能な材料組成物(熱可塑性組成物)が提供される。
【0013】
なお、第1次リグニンフェノール誘導体(以下、第1次リグノフェノール誘導体ともいう。)とは、リグノセルロース系材料から得られ、リグニンのアリールプロパンユニットのC1位に第1のフェノール化合物がグラフトされた1,1-ビス(アリール)プロパンユニット(以下、第1のユニットともいう。)を有するリグニン誘導体を意味している。また、第2次リグノフェノール誘導体とは、前記第1のユニットに加え、リグニンのアリールプロパンユニットのC1位に第2のフェノール化合物がグラフトされた1,1-ビス(アリール)プロパンユニット(以下、第2のユニットともいう。)を有するリグニン誘導体を意味している。以下、第3次リグノフェノール誘導体以降の高次のリグノフェノール誘導体は、いずれも、第1のユニット、第2のユニットに加えて、更なるフェノール化合物がアリールプロパンユニットのC1位にグラフトされた1,1-ビス(アリール)プロパンユニットを備えたリグニン誘導体を意味している。
【0014】
以下に、リグノセルロース系材料から得られる一次リグノフェノール誘導体の有する全体的、一般的性質を挙げる。ただし、本発明における1次あるいは2次以上の高次リグノフェノール誘導体を、以下の性質を有するものに限定する趣旨ではない。
(1)重量平均分子量が約2000~20000程度である。
(2)分子内に共役系をほとんど有さずその色調は極めて淡色である。典型的には淡いピンク系白色粉末である。
(3)針葉樹由来で約170℃、広葉樹由来で約130℃に固-液相転移点を有する。
(4)メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどに容易に溶解する。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(リグノセルロース系材料)
本発明で用いる「リグノセルロース系材料」とは、植物細胞壁の構成成分であるリグニン-セルロース複合体を含有する材料であれば足り、特にその種類を問うものではない。例えば、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木材資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木材の種類としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用するこができる。さらに、ケナフ、稲、さとうきび、とうもろこしなどの各種草本植物の全体あるいは一部、それに関連するバガスなどの農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。
【0016】
(1次あるいは高次リグノフェノール誘導体及びその製造プロセス)
リグノフェノール誘導体は、リグニンのアリールプロパンユニット(C9ユニット)のC1位に、フェノール誘導体がC-C結合で導入された1、1-ビス(アリール)プロパン単位を含む重合体を意味するものである。ポリフェノールの一種である。
このリグノフェノール誘導体は、また、リグニン含有材料から反応、分離して得られるリグニン由来のポリマーの混合物であり、また、得られるポリマーにおける導入フェノール誘導体の量や分子量は、原料となるリグニン含有材料(典型的にはリグノセルロース系材料である。)および反応条件により変動することが多いとされている。
【0017】
1次リグノフェノール誘導体は、通常、所定のフェノール誘導体により親和されたリグニン含有材料、好ましくはリグノセルロース系材料を酸に接触させることにより、得ることができる。なお、リグノフェノール誘導体に関するより一般的な記載及びその製造プロセスについては、既に、特開平2-23701号公報、特開平9-278904号公報及び国際公開WO99/14223号公報、2001-64494号公報、2001-261839号公報、2001-131201号公報、2001-342353号公報において記載されている(これらの特許文献に記載の内容は、全て引用により本明細書中に取り込まれるものとする)。
【0018】
本製造プロセスは、リグノセルロース系材料をフェノール誘導体相側に維持しながら、選択的に酸と接触させ、分解したセルロースを酸側に分配し、酸との接触を介してフェノール誘導体が導入されたリグニンをフェノール誘導体側に分配するというリグニンの構造変換と分離とを同時に達成するプロセスである。このような反応系を構築するのにあたり、特に、リグノセルロース系材料を予めフェノール誘導体で親和させておくことが好ましい。ここで、親和とは溶媒和、浸透、並びに吸収及び吸着(収着ともいう。)の意味で用いられている。すなわち、かかる反応系において、リグノセルロースの複合状態を緩和させ、同時に、天然リグニンのアリールプロパンユニットのC1位(ベンジル位)に選択的に前記フェノール誘導体をグラフティングさせて、リグノフェノール誘導体を生成させ、同時にセルロースとリグノフェノール誘導体とに分離できる方法である。
この方法によると、使用したフェノール誘導体のオルト位あるいはパラ位でリグニンのアリールプロパンユニットのC1位に当該フェノール誘導体がグラフトされた、1、1-ビス(アリール)プロパンユニットを有するリグノフェノール誘導体を得ることができる。なお、得られるリグノフェノール誘導体においては、通常、フェノールがグラフトされていないアリールプロパンユニットも残存している。
【0019】
上記反応に基くリグノセルロース系材料からリグノフェノール誘導体を得る方法、すなわち、第1次リグノフェノール誘導体を得る(a)工程としては、各種方法を例示することができる。また、第2次より高次のリグノフェノール誘導体を得る(b)工程は、以下に例示されるリグノセルロース系材料が、前段において得られたリグノフェノール誘導体あるいはそれを含有する組成物とする以外は共通の操作によって構成される。
なお、(b)工程は、特にその工程数を限定するものではない。通常は1~3回程度、すなわち、2次リグノフェノール誘導体~4次リグノフェノール誘導体程度の高次リグノフェノール誘導体であることが多い。なお、少なくとも2種類のフェノール化合物が導入された2次リグノフェノール誘導体であれば、かなりの範囲の多様性あるリグノフェノール誘導体を得ることができる。
【0020】
リグノフェノール誘導体を得るいずれの形態においても、フェノール化合物によりリグノセルロース系材料(あるいはリグノフェノール誘導体)を親和する工程と、フェノール化合物により予め親和されたリグノセルロース系材料(あるいはリグノフェノール誘導体)に酸を添加して得られる反応系においてリグニンにフェノール化合物を導入する工程とを備えている。
これらの方法は、親和工程が1段かあるいは2段かという点で区別することができ、また、得られたリグノフェノール誘導体の分離方法において区別することもできる。
なお、以下に典型的な4種類の方法を例示するが、(a)あるいは(b)工程をこれら4種類の方法に限定することを意図するものではない。
【0021】
第1の方法は、特開平2-233701号公報に記載されている方法である。この方法は、1段の親和工程を備えている。1段の親和工程は、木粉等のリグノセルロース系材料に液体状のフェノール誘導体を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させる工程である。なお、フェノール誘導体はベンゼンなどの不活性溶媒によって希釈して用いることもできる。
次に、導入工程について説明する。導入工程は、リグノセルロース系材料に濃酸(上記で説明したもの、例えば、72%硫酸)を添加し混合して、セルロース成分を加水分解するとともに、フェノール誘導体をリグニンに導入する工程である。
この工程では、リグニンを溶媒和したフェノール誘導体と、セルロース成分を溶解した濃酸とが2相分離系を形成する。フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、フェノール誘導体相が濃酸相と接触する界面においてのみ、酸と接触され、反応が生じる。すなわち、酸との界面接触により生じたリグニン基本構成単位の高反応サイトである側鎖C1位(ベンジル位)のカチオンが、フェノール誘導体により攻撃される。その結果、前記C1位にフェノール誘導体がC-C結合で導入され、またベンジルアリールエーテル結合が開裂することにより低分子化される。これによりリグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のC1位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体がフェノール誘導体相に生成される。このフェノール誘導体相から、リグノフェノール誘導体が抽出される。リグノフェノール誘導体は、リグニン中のベンジルアリールエーテル結合が開裂して低分子化されたリグニンの低分子化体の集合体として得られる。なお、ベンジル位へのフェノール誘導体の導入形態は、そのフェノール性水酸基を介して導入されているものもあることが知られている。
図1には、アリールプロパンユニットを有する天然リグニンに対して相分離処理を行うことにより、各種のリグノフェノール誘導体が得られることを示している。
【0022】
フェノール誘導体相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、例えば、次の方法で行うことができる。すなわち、フェノール誘導体相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離などにより除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒留去し、リグノフェノール誘導体を得る。なお、粗リグノフェノール誘導体は、前記アセトン可溶部を単に減圧蒸留により除去することによって得ることができる。
【0023】
第2および第3の方法は、2段階の親和工程を備えている。2段の親和工程は、リグノセルロース系材料に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体(例えば、p-クレゾール又は2、4-ジメチルフェノールなど)を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトンなど)を浸透させた後、溶媒を留去する工程である。
次に、このリグノセルロース系材料に濃酸を添加してセルロース成分を溶解する(上記導入工程に該当する。)。この結果、第1の方法と同様、フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、濃酸と接触して生じたリグニンの高反応サイト(側鎖C1位)のカチオンがフェノール誘導体により攻撃されて、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が開裂してリグニンが低分子化される。得られるリグノフェノール誘導体の特性は、第1の方法で得られるものと同様である。そして、第1の方法と同様にして、フェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体を液体フェノール誘導体にて抽出する。液体フェノール誘導体相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、第1の方法と同様にして行うことができる(これを第2の方法と称する)。あるいは、濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、リグノフェノール誘導体を不溶区分として得る(これを第3の方法と称する)。以上、リグノフェノール誘導体の調製方法の具体例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、これらに適宜改良を加えた方法で調製することもできる。
【0024】
第4の方法は、特開2001-131201号公報に記載の方法であり、リグノセルロース系材料、フェノール誘導体、及び酸を含む混合物(本明細書においては反応系ともいう。)にベンゼン、キシレン、トルエン、ヘキサンまたはこれらの混合物から選択される不活性低沸点疎水性有機溶媒とを混合後、遠心分離して3層に分離し、リグノフェノール誘導体画分をバンド状に凝集した第2層として分取する方法である。上記反応系を得るまでの親和工程及び導入工程は、上記第1の方法~第3の方法と同様に実施することができる。また、分取したリグノフェノール誘導体は、上記第1及び第2の方法に示すようにエーテル不溶画分に分配後、アセトン可溶画分に分取することもできるし、上記第3の方法のように、過剰の水に投入して水不溶画分として得ることができる。好ましくは、上記第3の方法のように、水不溶画分に分取した後、酸を洗浄除去し、最終的にアセトン等に溶解する画分にリグノフェノール誘導体を得る。
【0025】
本発明方法は、従来の(a)工程に加え、1工程以上の(b)工程を備えることを特徴とするが、(b)工程以降に供給される、フェノール化合物がグラフトされるべきリグノフェノール誘導体は、必ずしも、リグノフェノール誘導体として分離されたものに限定しない。既に例示した方法においても明らかであるように、最終的にリグノフェノール誘導体を分離する前段階の画分(組成物)であってもよい。例えば、上記第2~4の方法において、酸反応後の反応系を大量の水に投入して得られるリグノフェノール誘導体の他リグノセルロース系材料由来の炭水化物を含む画分(組成物)として採取されるものであってもよい。以下の説明において、(b)工程において供給されるリグノフェノール誘導体というときは、リグノフェノール誘導体単体の他、リグノセルロース系材料由来の炭水化物を含む場合や他成分を含有する組成物を意味して用いられる。
【0026】
本発明方法においては、リグニンのアリールプロパンユニットのC1位にグラフトさせるのに用いるフェノール化合物を(a)工程と(b)工程とそれぞれ変更することができる。これにより、2種以上のフェノール化合物がグラフトされた異なるユニットを備えるリグニン誘導体を容易に得ることができる。異なるフェノール化合物を異なる工程にて用いることにより、これらのフェノール化合物の導入率をそれぞれ制御できるようになる。なお、フェノール化合物は、これらの工程中、一部の工程あるいは全部の工程で一部一致あるいは全部一致していてもよい。
【0027】
なお、異なるフェノール化合物を2段で逐次的に導入する場合の概念図を図2に示す。この図においては、第1のフェノール化合物としてp-クレゾールを、第2のフェノール化合物としてp-エチルフェノールが用いられている。
図2の上段の例では、第1のフェノール化合物を低い導入率で導入し、第1のフェノール化合物と異なる第2のフェノール化合物を相対的に高い導入率で導入する工程を示している。
図2の中段の例では、第1のフェノール化合物を半分程度の導入率で導入し、第2のフェノール化合物を同程度の導入率で導入する工程を示している。
図2の下段の例では、第1のフェノール化合物を高い導入率で導入し、第2のフェノール化合物を低い導入率で導入する工程を示している。
【0028】
また、図3には、(a)工程を上記第3の方法で実施し、計1回(b)工程を上記第1方法ないし第4の方法にて実施する本発明方法の一形態の工程フローを示している。このフローでは、1次リグノフェノール誘導体は、リグノセルロース系材料由来の炭水化物を含む組成物として(b)工程に供給されている。
【0029】
また、本発明方法においては、(a)工程と(b)工程とでそれぞれ用いる酸の種類や強度を変更することができる。これにより、炭水化物の分解や分離程度、フェノール化合物の導入率も制御することができる。特に、工程間で異なるフェノール化合物を用いた場合、異なるフェノール化合物の導入率を容易に制御することができる。
以下、フェノール化合物と酸とについて説明する。
【0030】
(フェノール化合物)
本発明方法における(a)工程他、高次のリグノフェノール誘導体を得るために使用するリグノフェノール化合物としては、1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物、または3価のフェノール化合物などを用いることができる。1価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいフェノール、1以上の置換基を有していてもよいナフトール、1以上の置換基を有していてもよいアントロール、1以上の置換基を有していてもよいアントロキノンオールなどが挙げられる。
2価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいカテコール、1以上の置換基を有していてもよいレゾルシノール、1以上の置換基を有していてもよいヒドロキノンなどが挙げられる。
3価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいピロガロールなどが挙げられる。
本発明においては1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物及び3価のフェノール化合物のうち、1種あるいは2種以上を用いることができるが、好ましくは1価のフェノールを用いる。
各工程におけるフェノール化合物は1種あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
前記1価から3価のフェノール化合物が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1~4、好ましくは炭素数が1~3の低級アルキル基含有置換基である。導入率を考慮すれば、メチル基、あるいはエチル基などのバルキーでない置換基であることが好ましい。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
【0032】
これらのフェノール化合物は、そのフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位の炭素原子がリグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素に結合することにより、アリールプロパンユニットに導入されることになる。したがって、導入サイトを確保するには、オルト位及びパラ位のうち、少なくともひとつの位置に置換基を有していないことが好ましい。
【0033】
以上のことから、本発明では、無置換フェノール化合物の他、少なくとも一つの無置換のオルト位あるいはパラ位を有する各種置換形態のフェノール化合物の1種あるいは2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0034】
なお、フェノール化合物の導入頻度は、導入しようとするフェノール化合物の置換基の有無、位置、大きさ等によって変動する。したがって、フェノール化合物を選択することにより導入頻度を調節することができる。特に、置換基の大きさによる立体障害によって導入頻度を容易に調節することができる。置換基を利用して導入位置などを制御しようとする場合、置換基として低級アルキル基を利用すると、炭素数や分枝形態によって容易に導入頻度を調節できる。置換基をメチル基とすると、導入頻度を高く維持して導入位置を制御できる。
【0035】
本発明においては、2段階以上の工程でフェノール化合物を導入するため、(a)工程や(b)工程で用いるフェノール化合物の種類や組み合わせを変えることで、置換基等によるフェノール化合物の導入位置や導入率制御を精度よく実現することが可能となる。また、後述するように、反応条件のコントロール、すなわち、酸の強度、攪拌強度、あるいは超音波の照射条件のコントロールによって、工程毎にフェノール化合物の導入量や比率を制御することができるようになる。したがって、導入反応性の相違のあるフェノール化合物についてもその導入比率を一層容易に制御することができる。この結果、例えば、架橋反応性や架橋時の構造制御を高い精度で実現できるようになる。
なお、2段階以上の工程で同じフェノール化合物を導入する場合であっても、高い導入率を容易に得ることができる点において有効である。
【0036】
なお、用いられるフェノール化合物の具体例としては、p-クレゾール、p-エチルフェノール、2、6-ジメチルフェノール、2、4-ジメチルフェノール、2-メトキシフェノール(Guaiacol)、2、6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。
【0037】
(酸)
(a)工程及び(b)工程において用いる酸としては、特に限定しない。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましくは、本来的にあるいは濃度によりリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度の酸であることが好ましい。なお、ここで酸で膨潤させる対象は主としてセルロースである。かかる強度の酸としては、例えば、65wt%以上の硫酸、85wt%以上のリン酸、35wt%以上の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、及びギ酸などを挙げることができる。好ましい酸として、72wt%の硫酸、95wt%のリン酸、45wt%のトリフルオロ酢酸及びギ酸を挙げることができる。
セルロース、ヘミセルロース由来の水溶性多糖、オリゴ糖、及び単糖を効率的に回収するには、硫酸を用いることが好ましく、セルロースに対する作用を抑制し、その高次構造をある程度保持した形で回収するには、リン酸など酸強度の低い酸を用いることが好ましい。
【0038】
本発明においては、特に、(a)工程及び(b)工程の各工程において、酸の種類や酸の強度を替えることができる。酸に関連する条件を調整することによって、炭水化物の分解や分離程度、ひいてはフェノール化合物の導入率を調節することができる。例えば、弱い強度の酸を用いる場合には、フェノール化合物の導入率は低下し、強い強度で酸を用いる場合には、フェノール化合物の導入率を向上させることができる。また、(a)工程、すなわち、リグノセルロース系材料から第1次リグノフェノール誘導体を生成分離する工程においては、強い強度で酸を用いることにより、セルロースの分解分離を促進し、フェノール化合物のグラフトを促進するため、第1のフェノール化合物が高い導入率でグラフトされた第1次リグノフェノール誘導体を得ることができる。また、リグノセルロース系材料由来の炭水化物がリグノフェノール誘導体画分に含まれうる上記第3の方法などによる場合には、当該炭水化物含有量が顕著に低下される。なお、ここで、強い強度とは、リグニン-セルロースマトリックスが膨潤させうる強度で添加されていることが好ましく、既に例示した各酸を好ましく用いることができる。なお、強い酸強度を採用するとともに、リグノセルロース系材料と第1のフェノール化合物と酸とを含む混合系(反応系)に後述する超音波照射を実施することにより、一層フェノール化合物の導入率を向上させることができる。
【0039】
一方、(a)工程、すなわち、リグノセルロース系材料から第1次リグノフェノール誘導体を生成分離する工程においては、弱い強度で酸を用いることにより、セルロースの分解分離を遅延させ、フェノール化合物のグラフトを遅延させるため、第1のフェノール化合物が低い導入率でグラフトされた第1次リグノフェノール誘導体を得ることができる。また、リグノセルロース系材料由来の炭水化物がリグノフェノール誘導体画分に含まれうる上記第3の方法などによる場合には、当該炭水化物含有量が顕著に増加される。なお、ここで、弱い酸強度とは、リグニン-セルロースマトリックスが膨潤させない強度で添加されていることが好ましい。ここで、リグニン-セルロースマトリクスを膨潤させない程度の酸としては、上記したリグニン-セルロースマトリクスを膨潤させうる酸の強度よりも弱い程度とすることができる。具体的には、65t%未満の硫酸、85wt%未満のリン酸、35wt%未満の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、及びギ酸などを挙げることができる。好ましい酸として、60wt%以下の硫酸、80wt%以下のリン酸、30wt%以下の塩酸、トリフルオロ酢酸及びギ酸を挙げることができる。なお、酸との反応工程に先立つ親和時における混合系においては、さらに弱い酸強度であってもよい。なお、弱い酸強度を採用するとともに、リグノセルロース系材料と第1のフェノール化合物と酸とを含む混合系(反応系)に対して後述する超音波照射を実施することにより、フェノール化合物の導入率を向上させることができる。当該組み合わせによれば、低い酸強度を採用しているため、超音波照射の強度によって容易にフェノール化合物の導入率を調整することができる。
【0040】
なお、上記例示においては、(a)工程において酸の強度や超音波を利用する場合について説明したが、(b)工程においても酸強度や超音波照射を利用して、第2以降のフェノール化合物の導入率や炭水化物の分離を制御することができる。
【0041】
(超音波の照射)
本発明の(a)工程及び(b)工程においては、リグノセルロース系材料あるいは前段で得られたリグノフェノール誘導体とフェノール化合物との混合系(親和時における混合系である。)、あるいはこれら2成分に加えて酸との混合系(酸との反応時における混合系である。)に対して超音波照射を実施することにより、親和及び反応を促進させることができる。したがって、これらの混合系に対する超音波照射の有無により、フェノール化合物の導入率他、炭水化物の分離分解程度を調節することができる。
【0042】
(フェノール化合物との親和時における超音波の照射)
本発明方法においては、フェノール化合物によるリグノセルロース系材料の親和時に、リグノセルロース系材料及び/又はフェノール誘導体に超音波を照射することにより、酸との反応を促進させることができる。好ましくは、リグノセルロース系材料とフェノール誘導体とが同時に存在する状態(混合系)において両者に超音波を照射するようにする。かかる超音波照射により、リグノセルロース系材料へのフェノール化合物を効率的にかつ十分に浸透させて、両者が十分に親和した状態を容易にかつ速やかに得ることができる。この結果、その後のリグニンへのフェノール化合物の導入工程において、効率的にリグニンにフェノール化合物を導入できるようになる。したがって、親和時における超音波照射の有無や強度によってフェノール化合物の導入率や比率を制御可能である。
【0043】
かかる親和時における超音波照射は、上記した第1の方法及び第2の方法において例示した親和時のいずれにも適用することができる。上記第1の方法にあっては、リグノセルロース系材料に液体のフェノール誘導体を浸透させた状態、あるいはリグノセルロース系材料あるいはリグノフェノール誘導体をフェノール誘導体に浸漬した状態で、超音波を照射することができる。また、上記第2の方法にあっては、リグノセルロース系材料にフェノール誘導体を溶解させた有機溶媒(例えば、アセトン、エタノール、ベンゼン、ヘキサン、トルエン、キシレン、またはこれらの混合液)を浸漬あるいは浸透させた状態であって好ましくは有機溶媒の留去前の状態で超音波を照射することができる。なお、超音波を照射しながら有機溶媒を留去することもできる。
【0044】
なお、親和時の混合系に対して照射する超音波の電圧や周波数は特に限定しないで、フェノール化合物とリグノセルロース系材料あるいはリグノフェノール誘導体との親和性を向上できる程度以上の条件で照射すればよい。通常用いられ得る超音波発生器の電圧及び周波数(電力約100W~約1500W、周波数約20kHz~約40kHz)であれば、数十秒~数十分程度の照射で上記効果を得ることができる。
超音波の照射形態は特に限定しないが、液体であるフェノール誘導体中に発振子を侵入させた状態でもよいし、また、液体であるフェノール誘導体が入った容器を浸漬した水槽等に発振子を配置して照射してもよい。
また、超音波照射に伴って、別途機械的攪拌を付随させてもよい。なお、超音波照射は必ずしも連続的である必要はなく、断続的であってもよい。また、親和時の全時間にわたって使用することを要するものでもなく、親和時の一部において使用するのみであってもよい。
【0045】
(酸との反応時における超音波照射)
また、既に述べたように、本発明にあっては、予め親和されたリグノセルロース系材料に酸を添加して得られる反応系に対して超音波を照射することもできる。当該反応系に対して超音波を照射する場合、好ましくはほぼその全域に超音波を照射する。あるいは、他の攪拌混合手段、具体的には攪拌子や攪拌羽根による機械的攪拌手段や噴流等による攪拌手段を付随させることも好ましい。
【0046】
リグニンへのフェノール化合物の導入工程において、超音波を照射することにより、リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスの脱複合を促進できる。脱複合の促進は、また、リグニンと酸との接触確率を向上させ、早期にフェノール誘導体の高い導入率が得られるという側面がある。例えば、例えば、機械的攪拌を用いる以外は同条件下において得られる導入率を、適度な超音波の照射を伴う導入工程を実施することにより、約4分の1~半分程度の時間で達成することができる。また、超音波の照射により、フェノール化合物の導入率とリグノフェノール誘導体の生成量はいずれも増大させることができる。なお、親和混合系に対して超音波照射を行っている場合には、リグノセルロース系材料あるいはリグノフェノール誘導体とフェノール化合物とがよく親和しているので、より一層導入が速やかであり、また、導入後も安定的にフェノール化合物相へ分配され、セルロースとの分離を容易化することができる。
したがって、反応系に対する超音波照射の有無、強度の調節により、フェノール化合物の導入率や比率を調節することができるようになる。
【0047】
リグニンへのフェノール化合物の導入工程において、超音波を照射することにより、リグノセルロース系材料あるいはリグノフェノール誘導体と酸との接触確率が向上し、効率的に導入工程を実施できる。また、例えば、機械的攪拌を用いる以外は同条件下において得られる導入率を、適度な超音波の照射を伴う導入工程を実施することにより、約4分の1~半分程度の時間で達成することができる。また、超音波の照射により、フェノール化合物の導入率とリグノフェノール誘導体の生成量はいずれも増大させることができる。
なお、親和混合系に対して超音波照射を行っている場合には、リグノセルロース系材料とフェノール誘導体とがよく親和しているので、より一層導入が速やかであり、また、導入後も安定的にフェノール誘導体相への分配され、セルロースとの分離を容易化することができる。
【0048】
反応系に対する超音波照射の電圧や周波数は、親和工程と同様、特に限定しない。フェノール誘導体とリグノセルロース系材料との接触確率は、通常用いられ得る超音波発生器の電圧及び周波数(電力約100W~約1500W、周波数約20kHz~約40kHz)であれば、数十秒~数十分程度の照射で十分向上させることができる。
超音波の照射形態は特に限定しないが、液体であるフェノール誘導体中に発振子を侵入させた状態でもよいし、また、液体であるフェノール誘導体が入った容器外部に発振子を配置して照射してもよい。また、親和工程と同様、超音波照射に伴って、別途機械的攪拌を付随させることもできるし、照射は、連続的でも断続的であってもよい。また、導入工程の全時間にわたって使用することを要するものでもなく、導入工程の一部において使用するのみであってもよい。
【0049】
(リグノフェノール誘導体組成物)
(b)工程において得られる酸性の反応混合物を水に投入して得られる水不溶画分(水不溶画分組成物)は、2次以上の高次のリグノフェノール誘導体の他、リグノセルロース系材料由来の水不溶性のセルロース等の炭水化物を含有しており、リグノフェノール誘導体含有組成物であるといえる。当該組成物においては、リグノフェノール誘導体の少なくとも一部分はリグノセルロース系材料由来の炭水化物(セルロース)と複合体を構成している。また、当該組成物は熱可塑性を有している。
既に説明したように、超音波処理と酸強度の組み合わせにより、水不溶画分におけるリグノフェノール誘導体とセルロースなどの炭水化物の含有比率を調節することができる。また、同時に、フェノール化合物の導入率や導入比率も調節することができる。
したがって、所望のフェノール化合物が高度に制御された導入率あるいは比率で導入されたリグノフェノール誘導体を含有し、必要に応じて炭水化物の含有比率が調整されたリグノフェノール誘導体含有組成物を得ることができる。
なお、当該組成物においては、残存する活性なC1位が安定的に保持されているため、次なるフェノール化合物の誘導体化工程あるいは他の誘導体化工程に供する材料組成物として好ましいものなっている。また、当該組成物に形状を付与した成形体等も次なる変換に適した状態でリグノフェノール誘導体を保持することができる点において好ましいリグノセルロース系複合体が提供される。
【0050】
このようにして得られた2次以上の高次リグノフェノール誘導体に対しては、アシル化保護処理等による水酸基保護処理、ヒドロキシメチル基等の架橋性基の導入、クマランユニットの生成を伴うアルカリ処理など各種の他の誘導体化工程を施すことができる。
【0051】
【実施例】
以下、本発明を具体例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
1次リグノフェノール誘導体の調製
(1)親和工程-フェノール誘導体の収着
針葉樹のベイマツ(Pseudotsuga menziessi以下、Douglas firと称する。)を、Retsh社製の超遠心粉砕機ZM100にかけて微粉化し、その後、IIDA製作所製の80メッシュのふるいかけて、80メッシュパスの木粉を得た。
この木粉を、エタノール:ベンゼン=1:2(V/V)溶液にてソックスレー抽出器を用いて、48時間抽出した。抽出後、木粉をステンレスバットに広げ、ドラフト内で溶媒を完全に留去した。さらに、送風乾燥機にて105℃で24時間乾燥させ、絶乾木粉を得た。
【0052】
絶乾木粉3g相当の木粉を、100ml容セパラブルフラスコに入れ、フェノール化合物であるp-クレゾールのアセトン溶液約30ml(リグニンC9単位あたり3mol倍相当のフェノール化合物を含む)を加えた。次に、木粉内部に存在する気泡を除去するため攪拌用の羽で少し攪拌し、アルミホイルおよびパラフィルムでビーカーに蓋をして約24時間静置した。静置後、ドラフト内で激しく攪拌してアセトンを完全に留去した。アセトン留去した試料を、フェノール化合物収着木粉とした。
【0053】
(2)フェノール化合物の導入工程-硫酸処理
(1)で親和処理したフェノール化合物収着木粉に、あらかじめ30℃に調整しておいた60wt%、65wt%、72wt%濃度の各硫酸水溶液60mlを加え攪拌機より、500rpmで所定時間攪拌しつつ、超音波発生器(BRANSON SONIFIER450D、20kHz、出力180W)により超音波を照射して、5分、10分、20分の3種類の処理時間で導入工程を行った。工程終了後、それぞれの内容物を11容三角フラスコ中の大過剰の水(約600ml、強制攪拌下)に投入し、硫酸濃度を10%以下に低下させ、約1時間攪拌した。なお、超音波を照射しない以外は、上記と同様に操作を行い、それぞれのコントロールとした。
【0054】
(3)脱酸処理
三角フラスコ内容物を脱イオン水にて遠沈管(ポリプロピレン製)に移し、遠心分離〔8800rpm(10560G)、20min、5℃〕により水可溶区分(浮遊物を含む)と水不溶区分とに分離した。分離後、遠沈管中の可溶区分(浮遊物を含む)を駒込ピペットで51容三角フラスコに取り出し、水不溶区分はさらに脱イオン水を加え、攪拌および遠心分離を行い、未反応のフェノール誘導体および酸を可溶区分として除去した。なお、5l容三角フラスコに取った可溶区分は約1日静置した後、沈殿を乱さないように上澄みを吸引濾過鐘でビーカーに取り、あらかじめ恒量を求めておいたガラス繊維濾紙にてろ過し後、濾紙に残留した浮遊物の恒量を測定した。
【0055】
(4)水不溶区分の乾燥
脱酸処理後の不溶区分は少量の脱イオン水を使用してあらかじめ恒量を測定しておいたプラスチック容器に移し、凍結乾燥し、その後、五酸化二リン上で減圧乾燥し、恒量を求め当初の木粉に対する収率を測定した。
【0056】
(5)導入工程における超音波照射における反応系の観察
[60wt%硫酸水溶液を用いた超音波処理]
60wt%硫酸を用いた反応系において、コントロール試料では、硫酸水溶液を加えた直後に、黄緑色に変化し、約5~6分程度で少し暗い緑色に変化した。木粉粒子に関しては、硫酸処理後も、木粉粒子状のものが確認された。超音波処理試料においても、反応後に同様の粒子が確認できた。また、硫酸水溶液を添加時に、試料における粘性の上昇は超音波照射の有無に関係なく、確認できなかった。これらの結果は、60%硫酸水溶液が植物細胞壁の十分な膨潤を引き起こすことができないことを意味している。水分散後、処理試料の色は、コントロール試料および超音波処理試料のそれぞれにおいて、処理時間が5分、10分、20分と変化するにつれて赤色化する傾向が得られた。また、超音波処理試料の方がコントロール試料よりも暗色化していた。この試料の赤色化は、木材中の発色成分であるリグニン分子の変換程度に由来している。
【0057】
[65wt%硫酸水溶液を用いた超音波処理]
65wt%硫酸水溶液を用いた処理において、コントロール試料では、硫酸水溶液を加えた直後に緑色へ変化し、その後、約3~4分でより暗い緑色へと変化した。超音波処理試料では、木粉粒子は約5~6分で確認できなくなったが、コントロール試料では、木粉粒子が処理時間10分~13分で確認できなくなった。水分散後、各処理試料の色は、処理時間が5分、10分、20分と増加するにつれて赤色化した。60wt%硫酸処理の場合と同様に、超音波処理試料の方が、コントロール試料よりも暗色化していた。また、コントロール試料では、不溶区分の回収時に白色の沈殿区分が確認された。この白色区分は超音波処理5分、10分試料においても同様に確認されたが、20分の超音波処理においては確認されなかった。この白色区分は、植物細胞壁中の加水分解不十分の炭水化物区分が凝集したものと考えられ、超音波20分処理試料ではこの炭水化物の白色区分が確認されなかったことから、超音波エネルギーにより、炭水化物の加水分解が促進されることが示された。相分離処理試料の赤色化については、60wt%硫酸処理と同様に、木材中の発色成分であるリグニン分子の変換程度に由来している。
【0058】
[72wt%硫酸水溶液を用いた超音波処理]
72wt%硫酸水溶液を用いた処理では、60%硫酸水溶液や65%硫酸水溶液を加えた場合とは異なり、硫酸水溶液を加えた直後にかなり暗い緑色へと変化した。その後、約4~5分で少し暗色化した。超音波処理試料では、木粉の粒子は約5~6分で確認できなくなり、コントロール試料では9~11分で確認できなくなった。水分散後、相分離処理試料の色は緑色をしていた。超音波処理試料の色は、処理時間が5分、10分、20分と増加してもほとんど変化がなかったが、コントロール試料では、処理時間が5分、10分、20分と増加するにつれて緑色化した。また、コントロール試料において、処理時間が5分、10分のものにおいては、65wt%硫酸処理時に確認された白色区分が確認されが、処理時間が20分のものではその白色区分は確認されなかった。超音波処理試料においては、65wt%硫酸処理時に観察された白色区分は確認されなかった。このことから、72wt%硫酸水溶液は炭水化物を十分に加水分解する能力がを持つこと、さらに、超音波エネルギーにより炭水化物の加水分解速度が加速されたこととが示された。
【0059】
なお、あくまで推論であって、本発明を拘束するものではないが、以上のリグニンの酸を添加してからの色の変化は、反応初期の緑色がリグニンの未端に存在するコニフェリルアルデヒドに、1分子のp-クレゾールが導入された際に、分子内の共役系が伸びることにより生じると考えられる。さらに、時間とともに濃緑色へと色が変化するのは、p-クレゾールの導入が十分に生じ、様々な種類の共役系が発生することによって、光の吸収波長を拡大することが可能となることに起因すると考えられる。また、超音波処理試料の明度の減少は、白色成分である炭水化物の加水分解が進行し、重合度の低いオリゴマーレベルの糖になることによつて、溶媒中へ溶解したことに起因すると考えられる。合成された相分離試料の色の違いは、酸化の程度および変換されたリグニン分子の分散程度の違いによって生じたと考えられる。
【0060】
(6)水不溶区分(リグノフェノール誘導体含有組成物)の収率
図4に、絶乾木紛あたりのリグノフェノール誘導体含有組成物の収率のグラフを示す。
60wt%硫酸水溶液を用いた場合、超音波処理試料の方が、コントロール試料に比べやや低い収率を示した。60%硫酸処理での収率低下は、酸に対する抵抗性の低い木材中のヘミセルロース区分およびセルロースの非晶性区分が、酸による加水分解作用を受け、水相へ流出した結果生じたと考えられる。
【0061】
65wt%硫酸水溶液を用いた場合、コントロール試料では、60wt%硫酸処理時とほとんど変わらない収率減少傾向(すなわち、緩やかな減少傾向)がえられた。一方、超音波処理試料においては、大幅な収率減少傾向を示した。コントロール試料については、65wt%硫酸水溶液がセルロースの結晶領域を膨潤させることができ、セルロース区分の加水分解も不十分ではあるが進むため、60wt%硫酸を用いた場合よリセルロース区分の流出が進行することがその原因と考えられる。超音波処理試料における大幅な収率低下は、65wt%硫酸による細胞壁の膨潤と加水分解とを超音波エネルギーが促進し、炭水化物区分と酸との接触性が上昇したため、炭水化物区分の加水分解が促進されたことに起因すると考えられる。
【0062】
72wt%硫酸水溶液を用いた場合では、コントロール試料において、超音波照射65wt%硫酸処理試料とほぼ同等の収率減少傾向を示した。このことは、72%硫酸水溶液に細胞壁の膨潤を引き起こし、さらに十分に炭水化物区分を加水分解する能力があることを示している。一方、超音波処理試料の場合、5分、10分、20分と処理時間を増加させてもその収率に大きな変化がみられなかったことから、超音波エネルギーにより植物細胞壁中の炭水化物の加水分解速度が加速され、約5分の処理で反応が平衡に達したと推測される。
【0063】
(実施例2)
1次リグノフェノール誘導体組成物中のリグニン含有量測定
十分乾燥させた実施例1の各組成物約200mgを10ml容サンプル管に精秤し、72%硫酸水溶液を3mlを少量ずつガラス棒で練りこみながら加え、20℃の水浴中で反応が均1に進行するように十分に攪拌しながら4時間反応させた。反応後、予め115mlに印をした200ml容三角フラスコに定量的に移し、脱イオン水を加えて、硫酸濃度を3%まで希釈した。希釈した処理物は、ガスバーナーで加熱し、硫酸濃度を3%に保つために、脱イオン水を適宜加えながら2時間煮沸した。処理後、恒量既値のlG4ガラスフィルターを用いて内容物を濾過し、不溶解物を熱水で洗浄後、105℃で乾燥させ、恒量を測定し、相分離処理試料中の酸不溶性リグニン量を求めた。濾液は、JASCOV‐520にて205nmでの紫外線吸収を測定し、次式より酸可溶性リグニン量を求め、酸不溶性リグニン量との総和として全リグニン量を算出した。
B=A/(110×D)
リグニン(%)=B×V×100/(1000×W)
A:吸光度
D:希釈率
V:全濾液量(ml)
W:試料重量(g)
【0064】
図5に1次リグノフェノール誘導体含有組成物中のリグニン含有量のグラフを示す。
硫酸水溶液を添加した直後に全ての試料で黒色化が観察された。60wt%硫酸を用いた試料では、超音波照射の有無に関係なく反応初期にかねりの粘性があったが、65wt%及び72wt%硫酸処理試料では、いずれも酸添加時においてもはや粘性の発現は認められなかった。このことは、60wt%硫酸処理時には、細胞壁の膨潤が十分に生じていないため後段で72wt%硫酸添加時にはじめて粘性が生じ、65wt%硫酸及び72wt%硫酸処理時には、細胞壁の膨潤が既に生じていたため、後段で72wt%硫酸を添加しても粘性上昇が生じなかったと考えられる。
【0065】
硫酸濃度を3wt%に希釈した段階では、超音波処理試料の方がコントロール試料に比べて黒色化していたが、煮沸に伴い赤色化した。これは、リグニンの変換により2次的な変性が抑制されたためであると考えられる。
全体として、導入工程における処理時間が延長されるほど、リグニン含有量が高くなる傾向が得られた。これは、反応時間が長くなるほど、炭水化物がより多く加水分解され、低分子化された炭水化物区分が水相へ流出することに対応する。また、酸可溶性リグニンが通常よりも高い値を示していた。このことは、超音波処理によってリグニン母体中の活性側鎖であるC1位にフェノール誘導体が導入され、二次変性が抑制されたために自己縮合できなかった低分子区分がろ液中に流出したことに起因すると考えられる。
【0066】
(実施例3)
1次リグノフェノール誘導体への追加のフェノール化合物の導入(2次フェノール誘導体の調製)
本実施例では、1次処理時に用いたフェノール誘導体と異なる別のフェノール誘導体を用いた相分離処理により、リグニン母体中に2種類のフェノール誘導体を導入する。以下、この1次変換処理および2次変換処理によりリグニン母体に導入されたフェノール誘導体の導入頻度を比較する。
【0067】
1次処理組成物を規定量(総体量が少ない72wt%硫酸処理組成物は400mg、超音波照射照射65wt%硫酸処理試料は600mg、その他のものは700mg)を50ml容遠沈管に精秤し、そこにフェノール化合物(フェノール化合物としてp-エチルフェノールを用い、p-エチルフェノール:ベンゼン=7:3の混合媒体で使用)を規定量(総体量が少ない72wt%硫酸処理組成物は4ml、超音波照射65wt%硫酸処理組成物は6ml、その他のものは7ml)加え、撹枠用の羽で叩くように約10分攪拌した。その後、予め30℃にしておいた72wt%硫酸水溶液を規定量(総体量が少ない72wt%硫酸処理組成物は8ml、超音波照射65wt%硫酸処理組成物は12ml、その他のものは14ml)加え、約1分攪拌した後、撹幹機に設置し、30℃の水浴中で計60分間攪拌した(500rpm)。攪拌後、遠心分離〔25℃、3500rpm(2200G)、3分〕にて有機相と水相に分離した。
【0068】
200ml容三角フラスコに150mlのジエチルエーテルを加え、水で冷やしながらかつスターラーで激しく攪拌しながら有機相を滴下した後、界面洗浄のためフェノール誘導体を数ml反応容器へ加え遠心分離〔25℃、3500rpm(2200G)、3分〕し、有機相をエーテルに滴下した。洗浄は計3回行った。その後油状物質が沈降し、上澄み液がクリアになるまで攪拌した。しかし、1時間攪拌を続けても上澄みがクリアにならない時は、遠心分離〔5℃、3500rpm(2220G)、10分〕にて不溶解物を回収した。上澄み液を取り除き、沈殿物および容器をさらに約15mlのジエチルエーテルで2回洗浄後、沈殿物に40~60mlのアセトンを加え、完全に溶解するまで攪拌し、遠沈管に移すとともに、容器を少量のアセトンで洗浄した。上澄み液は、遠沈管に移し、遠心分離〔5℃、3500rpm(2220G)、5分〕した後、ガラス繊維濾紙を用いて濾過した。その後100ml容ナスフラスコヘ移し、エバポレーターで約10mlになるまで濃縮し、ジエチルエーテルに滴下後、生成した沈殿区分を遠心分離〔5℃、3500rpm(2220G)、5分〕にて回収し、洗浄のため沈殿物にジエチルエーテルを加え約3回洗浄した。
生成した沈殿を室温暗所で1日保管し、ジエチルエーテルを除いた。その後、遠沈管のまま五酸化ニリン上で減圧乾燥させ恒量を測定し、収率を求めた。これを2次リグノフェノール誘導体とした。
【0069】
(実施例4)
第1及び第2のフェノール誘導体の導入量
各種2次リグノフェノール誘導体約20mg、内部標準物質としてp-ニトロベンズアルデヒド(PNB)約3mgをlmI容テフロン(登録商標)ライナー付きスクリューバイアルに精秤し、lml容メスピペットにて重水素化ピリジンを150μl加え完全に溶解させた。溶解後テトラメチルシラン0.03%含有重水素化クロロホルムを1ml容メスピペットにて450μl加えた。完全に溶解していることを確認した後、試料溶液を綿ろ過し、NMR測定管(径5mm)に入れて、ALPHAFTNMR Spectrometer(JEOL社製)にて測定した。
【0070】
得られるNMRのチャートにおいて、1次処理で導入されたp-クレゾールのメチル基のプロトンシグナルと2次処理で導入されたp-エチルフェノール核のエチレン基のプロトンシグナルとの重なりが認められた。このため、p-クレゾールの導入量はp-クレゾールのメチル基のプロトンシグナルとp-エチルフェノールのエチレン基のプロトンシグナルの境界(2.30ppm)で区分分けを行い、p-クレゾールの積分値を計算する計算式(2)と、p-エチルフェノールにおけるエチル基のメチルプロトンシグナル(1.40~0.80ppm)の積分値よりp-エチルフェノールのメチレン基のプロトンシグナル量を算出し、そこからp-クレゾール核の導入量を補正する計算式(3)とからそれぞれ導入量を求め、さらにこれらから計算式(4)を用いて導入フェノール量を求めた。
また、p-エチルフェノールの導入量は、以下の計算式(1)及び(4)により求めた。
【0071】
【数1】
JP0004044413B2_000002t.gif計算式(1)
【数2】
JP0004044413B2_000003t.gif計算式(2)
【数3】
JP0004044413B2_000004t.gif計算式(3)
【数4】
JP0004044413B2_000005t.gif計算式(4)
【0072】
IWt(%):導入フェノール(Wt%)
Pwt:PNBの重量(mg)
Pm:PNBの分子量=151
Pn:PNBにおける芳香核H数=4
Pi:PNBにおける芳香核4Hシグナルを示す領域(8.40~7.80ppm)の積分値
Ci:p-クレゾールにおけるメチル基3Hシグナルを示す領域(2.30~1.80ppm)の積分値
Cn:p-クレゾールにおけるメチル基のプロトン数=3
Cm:p-クレゾールの分子量=108
Ei:p-エチルフェノールにおけるエチル基のメチル3Hシグナルを示す領域(1.40~0.80ppm)の積分値
En:p-エチルフェノールにおけるエチル基のメチルプロトン数=3
Em:p-エチルフェノールの分子量=122
si:p-クレゾールのメチルプロトンシグナルとp-エチルフェノールにおけるエチル基のメチレンプロトンのシグナルを示す領域(2.60~1.80ppm)の積分値Lwt:リグノフェール重量
Imo1/C9:導入フェノール量は(mo1/C9
Lm:リグニン1ユニットの分子量=2000(針葉樹)
【0073】
2次リグノフェノール誘導体中のp-クレゾールの導入量を図6及び図7に示す、p-エチルフェノールの導入量を図8に示す。また、p-クレゾールとp-エチルフェノールの導入量を合わせて図9及び図10に示す。なお、図6及び7は、それぞれ計算式(2)及び(3)によりそれぞれ求められたp-クレゾール導入量に基いている。同様に図9及び10も、それぞれ計算式(2)及び(3)によりそれぞれ求められたp-クレゾール導入量に基いている。
【0074】
図6~10に示すように、全ての2次リグノフェノール誘導体において、第2のフェノール化合物であるp-エチルフェノールの導入が確認された。図8に示すように、いずれの酸濃度においても、コントロール試料の方が高いp-エチルフェノール導入量を示した。このことは、1次処理時において超音波照射により、リグニンへの第1のフェノール化合物であるp-クレゾールの導入が促進され、1次リグノフェノール誘導体中の残存活性側鎖が減少したことを示している。
【0075】
また、第1のフェノール化合物であるp-クレゾールの導入量に着目すると、60wt%硫酸処理試料では、両者において大きな差は見られなかった。また、65wt%硫酸処理試料では、超音波処理試料の方が導入量がやや多かった。一方、72wt%硫酸処理試料では、超音波処理試料の方が導入量が多いが、いずれも、おおよそ10分で導入量の増加が停止した。これは、72wt%硫酸は十分に植物細胞壁を膨潤してリグニンの分解を促進するため、2次リグノフェノール誘導体中の低分子量画分であってフェノール化合物の導入量が高い部位がエーテル可溶画分に流出したためであると思われる。超音波処理試料は10分を境に導入量が減少し、コントロール試料は10分以降も導入量が増加する傾向があった。
【0076】
また、図9及び10に示すように、導入フェノール化合物の総量は、72wt%硫酸処理試料において最も高かった。これは、1次変換時で十分にセルロース及びリグニンの複合状態が緩和され、リグニンへのフェノール化合物や酸のアクセスビリティーが向上して、1次リグノフェノール誘導体におけるフェノール化合物が高度に導入された結果であるといえる。
また、図9及び図10から明らかなように、1次処理において使用する酸の強度が高いほど、第1のフェノール化合物の導入率が高く、第2のフェノール化合物の導入率が低かった。第1のフェノール化合物と第2のフェノール化合物との比率が顕著に変化した。
さらに、超音波処理を行わなかったコントロール試料と超音波処理試料とを対比すると、超音波処理試料においては、全体的に第1のフェノール化合物の導入量が高いとともに、導入量の総量も高かった。
以上の結果によれば、使用する酸の強度や超音波処理の有無等を1次変換工程と2次変換工程において変化させることにより、それぞれの工程におけるフェノール化合物の導入量を調節でき、結果として2種類以上のフェノール化合物の導入比率を制御できることがわかった。特に、相対的に多くの導入量を得たいフェノール化合物にあっては、高い強度でかつ超音波照射を行う1次変換工程にて導入することが好ましいこともわかった。また、2種類以上のフェノール化合物の導入率を近似させるかあるいは高度に制御するには、1次工程側、あるいは前段側の工程において、中程度あるいは弱い酸強度で超音波処理条件あるいは超音波処理の有無をコントロールすることにより可能であることもわかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】リグノセルロース系材料のリグニンにフェノール化合物を導入して得られる各種のリグノフェノール誘導体を示す図である。
【図2】1次変換工程((a)工程)及び2次変換工程((b)工程)を行うことによって多様な2次リグノフェノール誘導体が得られることを示す概念図である。
【図3】(a)工程及び1回の(b)工程を実施する本発明の一方法の工程フローを示す図である。
【図4】絶乾木紛あたりのリグノフェノール誘導体含有組成物の収率のグラフを示す図である。
【図5】1次リグノフェノール誘導体含有組成物中のリグニン含有量のグラフを示す図である。
【図6】実施例において得られた2次リグノフェノール誘導体におけるp-クレゾールの導入量を示す図である(計算式(2)による算出に基く)。
【図7】実施例において得られた2次リグノフェノール誘導体におけるp-クレゾールの導入量を示す図である(計算式(3)による算出に基く)。
【図8】実施例において得られた2次リグノフェノール誘導体におけるp-エチルフェノールの導入量を示す図である。
【図9】実施例において得られた2次リグノフェノール誘導体におけるp-クレゾールとp-エチルフェノールの導入量を示す図である(計算式(2)による算出に基く)。
【図10】実施例において得られた2次リグノフェノール誘導体におけるp-クレゾールとp-エチルフェノールの導入量を示す図である(計算式(3)による算出に基く)。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9