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明細書 :リグニンのフェノール誘導体の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3654527号 (P3654527)
公開番号 特開2004-115736 (P2004-115736A)
登録日 平成17年3月11日(2005.3.11)
発行日 平成17年6月2日(2005.6.2)
公開日 平成16年4月15日(2004.4.15)
発明の名称または考案の名称 リグニンのフェノール誘導体の生産方法
国際特許分類 C08J  3/28      
C08L  1:00      
FI C08J 3/28 CEP
C08L 1:00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 22
出願番号 特願2002-284309 (P2002-284309)
出願日 平成14年9月27日(2002.9.27)
審査請求日 平成14年10月2日(2002.10.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】舩岡 正光
【氏名】永松 ゆきこ
個別代理人の代理人 【識別番号】110000017、【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
【識別番号】100105739、【弁理士】、【氏名又は名称】伊神 広行
【識別番号】100106035、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 敏博
【識別番号】100105728、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 敦子
審査官 【審査官】森川 聡
参考文献・文献 特開2001-342353(JP,A)
特開2001-131201(JP,A)
特開平01-104620(JP,A)
調査した分野 C08J 3/28
特許請求の範囲 【請求項1】
リグニンのフェノール誘導体の生産方法であって、
フェノール誘導体によりリグノセルロース系材料を親和する工程、及び
フェノール誘導体により予め親和されたリグノセルロース系材料に酸を添加して得られる反応系においてリグニンにフェノール誘導体を導入する工程、
の少なくとも一つの工程において、リグノセルロース系材料を含む混合系に対して超音波を照射する、方法。
【請求項2】
前記親和工程は、フェノール誘導体を含有する液相でリグノセルロース系材料を溶媒和する工程である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記親和工程は、フェノール誘導体を含有する溶媒を予めリグノセルロース系材料に浸透させる工程と当該溶媒を除去する工程とを備える、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記導入工程における前記酸を、少なくとも、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度で添加し、当該導入工程における混合系に超音波を照射する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記導入工程の前段において、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させない強度の酸を添加し、当該導入工程における混合系に超音波を照射する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物体の構成成分を分離及び変換する技術に関し、特に、細胞壁構成成分であるリグノセルロースマトリックスを分離し、利用可能な誘導体に変換する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物体の主たる構成成分である細胞壁構成成分、すなわち、リグニンとセルロースやヘミセルロースなどとの複合系含有材料(以下、リグノセルロース系材料という。)を、これをフェノール誘導体と酸とを用いて分離・誘導体化する技術がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
かかる技術においては、リグニンをリグニン-セルロースマトリックスから分離するために、相分離という手法を用いている。すなわち、予め、リグノセルロース系材料をフェノール化合物で溶媒和させておくかあるいは収着しておいた上で、リグノセルロース系材料を酸と接触させることにより、リグニンにフェノール化合物をグラフトさせると同時にリグニンをセルロースとのマトリックスから分離するというものである。
また、これらの方法において、分離効率を改善する技術もある(特許文献3)
【0003】
【特許文献1】
特開平2-233701号公報
【特許文献2】
特開平9-278904号公報
【特許文献3】
特開2001-131201号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
現在、この方法で得られるリグニン誘導体の物性等は、由来するリグノセルロース系材料に大きく由来しており、その分子量、フェノール化合物の導入効率、収率等を制御するにはいたっていない。
しかしながら、リグニン含有材料からかかる相分離を伴う構造変換によりリグニン誘導体を得ようとする場合、リグニン誘導体の収率、分子量、フェノール化合物の導入率等をある程度制御できることが望まれる。特に、リグニン誘導体を工業的に得ようとする場合、効率的な反応工程が望まれる。
そこで、本発明では、リグノセルロース系材料からリグニン誘導体を得るのに際して、リグニン誘導体の物性や生産効率等を制御できる技術を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、リグノセルロース系材料をセルロースとリグニン誘導体とに分離するのにあたり、分離変換に必要とされるファクターを検討し、リグノセルロース系材料に親和性の高い媒体であるフェノール誘導体との親和工程、リグニン-セルロース複合体からの成分分離媒体であり反応媒体でもある酸性媒体との接触工程に着目し、超音波などの物理的エネルギーの付加について検討したところ、超音波照射により、セルロース-リグニンマトリックスの変換システムによる脱複合を促進できることを見出した。また、超音波照射により、相分離変換により得られるリグニン誘導体の収率の他、分子量、フェノール化合物の導入比率等を制御できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0006】
(1)リグニンのフェノール誘導体の生産方法であって、
フェノール誘導体によりリグノセルロース系材料を親和する工程、及び
フェノール誘導体により予め親和されたリグノセルロース系材料に酸を添加して得られる反応系においてリグニンにフェノール誘導体を導入する工程、
の少なくとも一つの工程において、リグノセルロース系材料を含む混合系に対して超音波を照射する、方法。
(2)前記親和工程は、フェノール誘導体を含有する液相でリグノセルロース系材料を溶媒和する工程である、(1)記載の方法。
(3)前記親和工程は、フェノール誘導体を含有する溶媒を予めリグノセルロース系材料に浸透させる工程と当該溶媒を除去する工程とを備える、(1)記載の方法。
(4)前記導入工程における前記酸を、少なくとも、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度で添加し、当該導入工程における混合系に超音波を照射する、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記導入工程の前段において、前記リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させない強度の酸を添加し、当該導入工程における混合系に超音波を照射する、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の方法によって得られるリグニンのフェノール誘導体と前記リグノセルロース系材料由来の炭水化物とを含有する組成物。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のリグノフェノール誘導体の生産方法は、フェノール誘導体によりリグノセルロース系材料を親和する工程において、リグノセルロース系材料とフェノール誘導体との混合系に超音波を照射すること、あるいはフェノール誘導体により予め親和されたリグノセルロース系材料に酸を添加した混合系に対して超音波を照射することを特徴としている。
前記親和工程における混合系に超音波を照射することにより、フェノール誘導体とリグノセルロース系材料との接触を高め、リグノセルロース系材料へのフェノール誘導体の収着及び/又は溶媒和を促進させることができる。
また、フェノール誘導体で親和されたリグノセルロース系材料を酸と接触させることにより、リグニン-セルロースマトリックスのリグニンにフェノール誘導体を導入し構造変換すると同時に、ベンジルアリールエーテル結合の開裂により、複合体から分離される。従来は、外力、具体的には機械的攪拌によりフェノール誘導体で親和されたリグノセルロース系材料と酸との接触を図っていたが、超音波をこの混合系に照射することにより、酸による炭水化物の分解、リグニンと酸との接触確率の向上により、フェノール誘導体でリグニン相が親和されたリグニン-セルロース複合体の脱複合が促進され、同時にリグニンへのフェノール誘導体の導入も促進されると考えられる。
【0008】
脱複合の促進により、フェノール誘導体の導入率を高めることができる。特に、酸をリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させる強度で添加することにより、超音波照射によるリグノフェノール誘導体の変換・分離をスピードアップすることができる。
さらに、超音波の照射は他の側面においても有用である。すなわち、フェノール誘導体の導入にあたって使用する酸強度を低下させることができる。これにより、水層からの酸の除去工程などを効率化することができる。また、酸強度の低下は、多様なリグノフェノール誘導体の調製も可能とし、さらに、当該リグノフェノール誘導体とリグノセルロース系材料に由来する炭水化物との組成物において容易に炭水化物含有量を調節することができる。
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(リグノセルロース系材料)
本発明で用いる「リグノセルロース系材料」とは、植物細胞壁の構成成分であるリグニン-セルロース複合体を含有する材料であれば足り、特にその種類を問うものではない。例えば、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木材資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木材の種類としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用するこができる。さらに、ケナフ、稲、さとうきび、とうもろこしなどの各種草本植物の全体あるいは一部、それに関連するバガスなどの農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。
【0010】
(リグノフェノール誘導体及びその製造プロセス)
リグノフェノール誘導体は、リグニンのアリールプロパンユニット(C9ユニット)のC1位に、フェノール誘導体がC-C結合で導入された1、1-ビス(アリール)プロパン単位を含む重合体を意味するものである。ポリフェノールの一種である。
リグノフェノール誘導体は、また、リグニン含有材料から反応、分離して得られるリグニン由来のポリマーの混合物であり、また、得られるポリマーにおける導入フェノール誘導体の量や分子量は、原料となるリグニン含有材料(典型的にはリグノセルロース系材料である。)および反応条件により変動することが多いとされている。
【0011】
リグノフェノール誘導体は、通常、所定のフェノール誘導体により親和されたリグニン含有材料、好ましくはリグノセルロース系材料を酸に接触させることにより、得ることができる。なお、リグノフェノール誘導体に関するより一般的な記載及びその製造プロセスについては、既に、特開平2-23701号公報、特開平9-278904号公報及び国際公開WO99/14223号公報、2001-64494号公報、2001-261839号公報、2001-131201号公報、2001-34233号公報において記載されている(これらの特許文献に記載の内容は、全て引用により本明細書中に取り込まれるものとする)。
【0012】
本製造プロセスは、リグノセルロース系材料をフェノール誘導体相側に維持しながら、選択的に酸と接触させ、分解したセルロースを酸側に分配し、酸との接触を介してフェノール誘導体が導入されたリグニンをフェノール誘導体側に分配するというリグニンの構造変換と分離とを同時に達成するプロセスである。このような反応系を構築するのにあたり、特に、リグノセルロース系材料を予めフェノール誘導体で親和させておくことが好ましい。ここで、親和とは溶媒和、浸透、並びに吸収及び吸着(収着ともいう。)の意味で用いられている。すなわち、かかる反応系において、リグノセルロースの複合状態を緩和させ、同時に、天然リグニンのアリールプロパンユニットのC1位(ベンジル位)に選択的に前記フェノール誘導体をグラフティングさせて、リグノフェノール誘導体を生成させ、同時にセルロースとリグノフェノール誘導体とに分離できる方法である。
この方法によると、使用したフェノール誘導体のオルト位あるいはパラ位でリグニンのフェニルプロパンユニットのC1位に当該フェノール誘導体がグラフトされた、1、1-ビス(アリール)プロパンユニットを有するリグノフェノール誘導体を得ることができる。なお、得られるリグノフェノール誘導体においては、通常、フェノールがグラフトされていないアリールプロパンユニットも残存している。
【0013】
リグノセルロース系材料からリグノフェノール誘導体を得る方法としては、各種方法を例示することができる。
これらのいずれの形態においても、フェノール誘導体によりリグノセルロース系材料を親和する工程と、フェノール誘導体により予め親和されたリグノセルロース系材料に酸を添加して得られる反応系においてリグニンにフェノール誘導体を導入する工程とを備えている。
これらの方法は、親和工程が1段かあるいは2段かという点で区別することができ、また、得られたリグノフェノール誘導体の分離方法において区別することもできる。
なお、以下の例示に典型的な4種類の方法を例示するが、これら4種類の方法に限定することを意図するものではない。
【0014】
第1の方法は、特開平2-233701号公報に記載されている方法である。この方法は、1段の親和工程を備えている。1段の親和工程は、木粉等のリグノセルロース系材料に液体状のフェノール誘導体を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させる工程である。なお、フェノール誘導体はベンゼンなどの不活性溶媒によって希釈して用いることもできる。
次に、導入工程について説明する。導入工程は、リグノセルロース系材料に濃酸(上記で説明したもの、例えば、72%硫酸)を添加し混合して、セルロース成分を加水分解するとともに、フェノール誘導体をリグニンに導入する工程である。
この工程では、リグニンを溶媒和したフェノール誘導体と、セルロース成分を溶解した濃酸とが2相分離系を形成する。フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、フェノール誘導体相が濃酸相と接触する界面においてのみ、酸と接触され、反応が生じる。すなわち、酸との界面接触により生じたリグニン基本構成単位の高反応サイトである側鎖C1位(ベンジル位)のカチオンが、フェノール誘導体により攻撃される。その結果、前記C1位にフェノール誘導体がC-C結合で導入され、またベンジルアリールエーテル結合が開裂することにより低分子化される。これによりリグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のC1位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体がフェノール誘導体相に生成される。このフェノール誘導体相から、リグノフェノール誘導体が抽出される。リグノフェノール誘導体は、リグニン中のベンジルアリールエーテル結合が開裂して低分子化されたリグニンの低分子化体の集合体として得られる。なお、ベンジル位へのフェノール誘導体の導入形態は、そのフェノール性水酸基を介して導入されているものもあることが知られている。
図1には、アリールプロパンユニットを有する天然リグニンに対して相分離処理を行うことにより、各種のリグノフェノール誘導体が得られることを示している。
【0015】
フェノール誘導体相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、例えば、次の方法で行うことができる。すなわち、フェノール誘導体相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離などにより除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集める。この沈殿区分から溶媒留去し、リグノフェノール誘導体を得る。なお、粗リグノフェノール誘導体は、前記アセトン可溶部を単に減圧蒸留により除去することによって得ることができる。
【0016】
第2および第3の方法は、2段の親和工程を備えている。2段の親和工程は、リグノセルロース系材料に、固体状あるいは液体状のフェノール誘導体(例えば、p-クレゾール又は2、4-ジメチルフェノールなど)を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトンなど)を浸透させた後、溶媒を留去する工程である。
次に、このリグノセルロース系材料に濃酸を添加してセルロース成分を溶解する(上記導入工程に該当する。)。この結果、第1の方法と同様、フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、濃酸と接触して生じたリグニンの高反応サイト(側鎖C1位)のカチオンがフェノール誘導体により攻撃されて、フェノール誘導体が導入される。また、ベンジルアリールエーテル結合が開裂してリグニンが低分子化される。得られるリグノフェノール誘導体の特性は、第1の方法で得られるものと同様である。そして、第1の方法と同様にして、フェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体を液体フェノール誘導体にて抽出する。液体フェノール誘導体相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、第1の方法と同様にして行うことができる(これを第2の方法と称する)。あるいは、濃酸処理後の全反応液を過剰の水中に投入し、不溶区分を遠心分離にて集め、脱酸後、乾燥する。この乾燥物にアセトンあるいはアルコールを加えてリグノフェノール誘導体を抽出する。さらに、この可溶区分を第1の方法と同様に、過剰のエチルエーテル等に滴下して、リグノフェノール誘導体を不溶区分として得る(これを第3の方法と称する)。以上、リグノフェノール誘導体の調製方法の具体例を説明したが、これらに限定されるわけではなく、これらに適宜改良を加えた方法で調製することもできる。
【0017】
第4の方法は、特開2001-131201号公報に記載の方法であり、リグノセルロース系材料、フェノール誘導体、及び酸を含む混合物(本明細書においては反応系ともいう。)にベンゼン、キシレン、トルエン、ヘキサンまたはこれらの混合物から選択される不活性低沸点疎水性有機溶媒とを混合後、遠心分離して3層に分離し、リグノフェノール誘導体画分をバンド状に凝集した第2層として分取する方法である。上記反応系を得るまでの親和工程及び導入工程は、上記第1の方法~第3の方法と同様に実施することができる。また、分取したリグノフェノール誘導体は、上記第1及び第2の方法に示すようにエーテル不溶画分に分配後、アセトン可溶画分に分取することもできるし、上記第3の方法のように、過剰の水に投入して水不溶画分として得ることができる。好ましくは、上記第3の方法のように、水不溶画分に分取した後、酸を洗浄除去し、最終的にアセトン等に溶解する画分にリグノフェノール誘導体を得る。
【0018】
(フェノール誘導体)
リグノセルロース系材料を予め親和させるリグノフェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体、または3価のフェノール誘導体などを用いることができる。
1価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいフェノール、1以上の置換基を有していてもよいナフトール、1以上の置換基を有していてもよいアントロール、1以上の置換基を有していてもよいアントロキノンオールなどが挙げられる。
2価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいカテコール、1以上の置換基を有していてもよいレゾルシノール、1以上の置換基を有していてもよいヒドロキノンなどが挙げられる。
3価のフェノール誘導体の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいピロガロールなどが挙げられる。
本発明においては1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体及び3価のフェノール誘導体のうち、1種あるいは2種以上を用いることができるが、好ましくは1価のフェノールを用いる。
【0019】
前記1価から3価のフェノール誘導体が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1~4、好ましくは炭素数が1~3の低級アルキル基含有置換基である。導入率を考慮すれば、メチル基、あるいはエチル基などのバルキーでない置換基であることが好ましい。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
【0020】
これらのフェノール誘導体は、そのフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位の炭素原子がリグニンのフェニルプロパンユニットのC1位の炭素に結合することにより、フェニルプロパンユニットに導入されることになる。したがって、導入サイトを確保するには、オルト位及びパラ位のうち、少なくともひとつの位置に置換基を有していないことが好ましい。
【0021】
以上のことから、本発明では、無置換フェノール誘導体の他、少なくとも一つの無置換のオルト位あるいはパラ位を有する各種置換形態のフェノール誘導体の1種あるいは2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0022】
フェノール誘導体の好ましい具体例としては、p-クレゾール、2、6-ジメチルフェノール、2、4-ジメチルフェノール、2-メトキシフェノール(Guaiacol)、2、6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。好ましくは、p-クレゾールである。
【0023】
(酸)
導入工程において用いる酸としては、特に限定しない。例えば、硫酸、塩酸、リン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましくは、本来的にあるいは濃度によりリグニン-セルロースマトリックスを膨潤させうる強度の酸であることが好ましい。なお、ここで酸で膨潤させる対象は主としてセルロースである。かかる強度の酸としては、例えば、65wt%以上の硫酸、85wt%以上のリン酸、35wt%以上の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、及びギ酸などを挙げることができる。好ましい酸として、72wt%の硫酸、95wt%のリン酸、45wt%のトリフルオロ酢酸及びギ酸を挙げることができる。
なお、セルロース、ヘミセルロース由来の水溶性多糖、オリゴ糖、及び単糖を効率的に回収するには、硫酸を用いることが好ましく、セルロースに対する作用を抑制し、その高次構造をある程度保持した形で回収するには、リン酸など酸強度の低い酸を用いることが好ましい。
【0024】
なお、導入工程の当初あるいは導入工程に先だって、フェノール誘導体とリグノセルロース系材料に、リグニン-セルロースマトリクスを膨潤させない強度で酸を添加した混合系を調製する場合がある。当該混合系に超音波を照射することにより、フェノール誘導体の導入に先だってリグニン-セルロースマトリックスの脱複合を促進できる場合があるからである。ここで、リグニン-セルロースマトリクスを膨潤させない程度の酸としては、上記したリグニン-セルロースマトリクスを膨潤させうる酸の強度よりも弱い程度とすることができる。具体的には、65t%未満の硫酸、85wt%未満のリン酸、35wt%未満の塩酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、及びギ酸などを挙げることができる。好ましい酸として、しくは60wt%以下の硫酸、80wt%以下のリン酸、30wt%以下の塩酸、トリフルオロ酢酸及びギ酸を挙げることができる。なお、導入工程に先だつ混合系においては、さらに弱い酸強度であってもよい。
【0025】
なお、フェノール誘導体の導入頻度は、導入しようとするフェノール誘導体の置換基の有無、位置、大きさ等によって変動する。したがって、導入頻度を調節することができる。特に、置換基の大きさによる立体障害によって導入頻度を容易に調節することができる。置換基を利用して導入位置などを制御しようとする場合、置換基として低級アルキル基を利用すると、炭素数や分枝形態によって容易に導入頻度を調節できる。置換基をメチル基とすると、導入頻度を高く維持して導入位置を制御できる。
【0026】
以下に、リグノセルロース系材料から得られる一次誘導体の有する全体的、一般的性質を挙げる。ただし、本発明におけるリグノフェノール誘導体を、以下の性質を有するものに限定する趣旨ではない。
(1)重量平均分子量が約2000~20000程度である。
(2)分子内に共役系をほとんど有さずその色調は極めて淡色である。典型的には淡いピンク系白色粉末である。
(3)針葉樹由来で約170℃、広葉樹由来で約130℃に固-液相転移点を有する。
(4)メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどに容易に溶解する。
【0027】
(超音波の照射)
(親和工程における超音波の照射)
本発明方法においては、フェノール誘導体によるリグノセルロース系材料の親和工程において、リグノセルロース系材料及び/又はフェノール誘導体に超音波を照射することが好ましい。好ましくは、リグノセルロース系材料とフェノール誘導体とが同時に存在する状態において両者に超音波を照射するようにする。かかる超音波照射により、リグノセルロース系材料へのフェノール誘導体を効率的にかつ十分に浸透させて、両者が十分に親和した状態を容易にかつ速やかに得ることができる。この結果、その後の、リグニンへのフェノール誘導体の導入工程において、効率的にリグニンにフェノール誘導体を導入できるようになる。
【0028】
かかる親和工程は、上記した第1の方法及び第2の方法において例示した親和工程のいずれにも適用することができる。上記第1の方法にあっては、リグノセルロース系材料に液体のフェノール誘導体を浸透させた状態、あるいはリグノセルロース系材料をフェノール誘導体に浸漬した状態で、超音波を照射することができる。また、上記第2の方法にあっては、リグノセルロース系材料にフェノール誘導体を溶解させた有機溶媒(例えば、アセトン、エタノール、ベンゼン、ヘキサン、トルエン、キシレン、またはこれらの混合液)を浸漬あるいは浸透させた状態であって好ましくは有機溶媒の留去前の状態で超音波を照射することができる。なお、超音波を照射しながら有機溶媒を留去することもできる。
【0029】
なお、本発明にあっては、用いる超音波の電圧や周波数は特に限定しないで、フェノール誘導体とリグノセルロース系材料との親和性を向上できる程度以上の条件で照射すればよい。通常用いられ得る超音波発生器の電力及び周波数(電力約100W~約1500W、周波数約20kHz~約40kHz)であれば、数十秒~数十分程度の照射で上記効果を得ることができる。
超音波の照射形態は特に限定しないが、液体であるフェノール誘導体中に発振子を侵入させた状態でもよいし、また、液体であるフェノール誘導体が入った容器を浸漬した水槽等に発振子を配置して照射してもよい。
また、超音波照射に伴って、別途機械的攪拌を付随させてもよい。なお、超音波照射は必ずしも連続的である必要はなく、断続的であってもよい。また、親和工程の全時間にわたって使用することを要するものでもなく、親和工程の一部において使用するのみであってもよい。
【0030】
(導入工程における超音波照射)
また、本発明にあっては、上記フェノール誘導体の導入工程において、予め親和されたリグノセルロース系材料に酸を添加して得られる反応系に対して超音波を照射することが好ましい。当該反応系に対して超音波を照射する場合、好ましくはほぼその全域に超音波を照射する。あるいは、他の攪拌混合手段、具体的には攪拌子や攪拌羽根による機械的攪拌手段や噴流等による攪拌手段を付随させることも好ましい。
【0031】
リグニンへのフェノール誘導体の導入工程において、超音波を照射することにより、リグノセルロース系材料におけるリグニン-セルロースマトリックスの脱複合を促進できる。このため、当該マトリックスにおけるセルロース領域にセルロースを膨潤するのに十分程度の酸性下にある場合には、酸が速やかに浸透することにより、セルロースが速やかに膨潤し、分子量の大きい状態でリグニンがマトリックスから分離されやすくなる。したがって、超音波処理により、相対的に高分子領域のリグノフェノール誘導体を効率的に得ることができる。
【0032】
超音波の照射は、また、リグニンと酸との接触確率を向上させ、早期にリグノフェノール誘導体の生成量と高い導入率が得られるという側面がある。導入率の向上は、脱複合の促進によっても促進される。
したがって、単に機械的攪拌を用いる以外は同条件下において得られる導入率を、適度な超音波の照射を伴う導入工程を実施することにより、約4分の1~半分程度の時間で達成することができる。
また、導入工程でセルロースを膨潤するのに十分程度の酸性下で超音波照射を行うことにより、導入工程の比較的初期においても、分子量が高くかつフェノール誘導体の導入率も高いリグノフェノール誘導体を容易に得ることができる。
なお、親和工程で超音波照射を行っている場合には、リグノセルロース系材料とフェノール誘導体とがよく親和しているので、酸との接触によるリグニン-セルロースマトリックスの脱複合がより一層導入が速やかであり、また、導入後も安定的にフェノール誘導体相への分配され、セルロースとの分離を容易化することができる。
【0033】
第1の方法及び第4の方法における導入工程で超音波照射を行うことにより、生成したリグノフェノール誘導体のフェノール誘導体相への分配を促進することができる。すなわち、相分離が早期に達成される。これはリグニンに効率的にフェノール導入体が導入され変換が促進されたことによるものと推定される。
【0034】
導入工程における超音波照射の電圧や周波数は、親和工程と同様、特に限定しない。フェノール誘導体とリグノセルロース系材料との接触確率は、通常用いられ得る超音波発生器の電力及び周波数(電力約100W~約1500W、周波数約20kHz~約40kHz)であれば、数十秒~数十分程度の照射で十分向上させることができる。
超音波の照射形態は特に限定しないが、液体であるフェノール誘導体中に発振子を侵入させた状態でもよいし、また、液体であるフェノール誘導体が入った容器外部に発振子を配置して照射してもよい。また、親和工程と同様、超音波照射に伴って、別途機械的攪拌を付随させることもできるし、照射は、連続的でも断続的であってもよい。また、導入工程の全時間にわたって使用することを要するものでもなく、導入工程の一部において使用するのみであってもよい。なお、上記したように、超音波照射によりリグニン-セルロースマトリクスの脱複合とリグノフェノール誘導体の導入が促進されることから、超音波照射工程は、導入工程の少なくとも初期において実施することが好ましい。より好ましくは、導入工程の前半において実施するようにする。
なお、導入工程における超音波以外の攪拌あるいは分散手段の強度を変えることによって超音波照射による作用効果を調節することもできる。
【0035】
なお、超音波の照射は、導入工程の前段あるいはその一部として、予めフェノール誘導体で親和されたリグノセルロース系材料と水あるいはセルロースを全くあるいは殆ど加水分解しない程度の酸を含有する希酸溶液との混液に対して行うこともできる。このような予備的照射後に、適切な酸性度、すなわち、リグニン-セルロースマトリクスを膨潤できる程度となるように酸を添加し、導入工程(超音波照射あり、なしのいずれでもよい)を実施することができる。かかる予備的な超音波照射は、親和工程で行う超音波照射同様、リグニンやセルロースがただちに分解あるいは反応することが抑制された状態での照射ではあるが、リグニンやセルロースの複合状態の緩和あるいは解除を促進する。このため、導入工程でのフェノール誘導体と導入やリグニン-セルロースマトリックスの脱複合を促進することができる。
【0036】
超音波照射を伴う導入工程で、使用する酸の強度によって以下の効果を奏する。
例えば、リグニン-セルロースマトリックスを十分に膨潤できる、換言すれば、セルロースを十分に溶解できる酸性下の場合、例えば、72wt%あるいはそれ以上の濃度の硫酸を用いた場合には、当該導入工程で超音波処理を行うと、非常に早期に高い収率でリグノフェノール誘導体を得ることができる他、最終的に生成するリグノフェノール誘導体の生成量を高めることができる。特に、前記第3の方法における水不溶区分におけるリグノフェノール誘導体の比率を容易に高める(換言すればセルロース含量を低下させる)ことができ、その後のリグノフェノールの分取工程を容易化することができる。
【0037】
また、導入工程で超音波処理を用いない場合、酸濃度が確実にセルロースを溶解できる程度の濃度では、効率的なリグノフェノール誘導体の製造は困難であったが、導入工程で超音波を照射することにより、62wt%以上72wt%未満(好ましくは65wt%以上、また、好ましくは70wt%以下)の硫酸でも、十分にセルロースを溶解し、導入工程を促進することができる。したがって、酸の使用量を低減できる他、例えば、第3の方法の分取方法のように、フェノール誘導体導入後の反応系を大量の水に投入して水不溶区分とし、当該水不溶区分から酸を洗浄除去するにあたり、洗浄工程を簡略化することができるという利点がある。
【0038】
さらに、62wt%以上72wt%未満の硫酸を用いた場合、リグノフェノール誘導体の収率やフェノール誘導体の導入効率を超音波照射の条件(時間と強さ)が増強されるのに伴って、フェノール誘導体の導入率やリグノフェノール誘導体の生成量が広い範囲で変化(増加)する。すなわち、かかる程度の酸性下で超音波処理条件を調整することで、広い範囲でフェノール誘導体の導入効率やリグノフェノール誘導体の生成量を容易に調整できる。
すなわち、導入工程における超音波照射条件に酸強度の調整を組み合わせることにより、リグノフェノール誘導体の収率、フェノール誘導体の導入率、得られるリグノフェノール誘導体の分子領域を容易に調整することができる。
【0039】
さらに第3の方法の分取方法を採用する場合、酸の強度が、複合体中のセルロースを加水分解できない程度の酸強度、例えば、約60wt%の硫酸あるいはそれ以下の濃度の硫酸の場合、セルロース含量がリグニンあるいはリグノフェノール誘導体含量を上回る水不溶画分を超音波処理条件の調整により容易に得ることができる。特に、リグノセルロース系材料中のセルロースの非結晶領域あるいはヘミセルロースのみを超音波によって選択的かつ効果的に加水分解して水溶化し、セルロースの結晶領域を高度に含有した水不溶画分を得ることができる。
さらに、65wt%程度の硫酸の場合には、超音波処理条件の調整により、セルロース含量がリグニン(あるいはリグノフェノール誘導体)含量を上回る水不溶画分からリグニン(あるいはリグノフェノール誘導体)含量がセルロース含量を上回る水不溶画分までを容易に得ることができる。さらに、72wt%程度以上の硫酸の場合、超音波処理条件の調整により容易にリグニン含量がセルロース含量を上回る水不溶画分を容易に得ることができる。
なお、65wt%以上の硫酸の場合には、セルロースの結晶領域まで膨潤・加水分解すると同時に、ネットワーク高分子である天然リグニンをリニア型のリグノフェノール誘導体に変換することができる。このため、リグノフェノール誘導体と炭水化物区分との均一な複合系を容易に得ることができる。かかる複合系は、熱可塑性を発現し、成形用、充てん用等の組成物として好ましく使用できる。
【0040】
なお、本発明における超音波の照射は、親和工程及び導入工程のいずれか一工程における混合系に対して行われ、両方の工程において行うこともできる。好ましくは、超音波の照射は、少なくとも導入工程において行う。
【0041】
(リグノフェノール誘導体組成物)
第2~第4の方法における導入工程において得られる酸性の反応混合物を水に投入して得られる水不溶画分(水不溶画分組成物)は、リグノフェノール誘導体の他、リグノセルロース系材料由来の水不溶性のセルロース等の炭水化物を含有しており、リグノフェノール誘導体含有組成物であるといえる。
既に説明したように、超音波処理と酸強度の組み合わせにより、水不溶画分におけるリグノフェノール誘導体とセルロースなどの炭水化物の含有比率を調節することができる。また、同時に、フェノール誘導体の導入率や分子量も調節することができる。
したがって、導入工程で超音波処理を行うことにより、必要に応じてリグノフェノール誘導体と炭水化物の含有比率やフェノール誘導体の導入比率が調整されたリグノフェノール誘導体含有組成物を得ることができる。
以上のことから、本発明によれば、親和工程及び/又は導入工程において超音波処理を行うリグノフェノール誘導体含有組成物の生産方法を提供することもできる。
【0042】
【実施例】
以下、本発明を具体例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1:第1の方法によるリグノフェノール誘導体の調製)
脱脂木粉2種(Douglas fir(60~80メッシュ)及びBeech(60~80メッシュ)各1gを精秤し、50ml容ビーカーに移し、p-クレゾール10mlを加え、超音波に5分間照射し、木粉にクレゾールを収着させた。遠沈管を水温30度に調整した超音波装置に固定し、上から攪拌棒を入れて400回転/分で攪拌しながら62wt%硫酸20mlを加えて、同時に超音波を照射した。硫酸を添加後の反応時間を5,10、15、30、45、60分として、その間、継続して超音波を照射した。なお、超音波照射は、出力100W、40kHzで行った。
反応後の処理液を遠心分離し、クレゾール層をジエチルエーテルに滴下し、その沈殿物をアセトンに溶かし、アセトン溶液を濃縮し、再びジエチルエーテルに滴下し、その沈殿物を遠心分離により回収した。
なお、酸処理時に超音波を使用しない以外は上記と同様の実験を行い対照試料を調製した。
【0043】
(実施例2)
実施例1で得た超音波処理によるリグノフェノール誘導体(リグノクレゾール)とコントロールのリグノフェノール誘導体について、GPCにより重量平均分子量を測定し、NMRにてクレゾール導入量を測定した。
結果を、図2~図5に示す。
【0044】
図2及び図3に示すように、重量平均分子量は、特に反応初期において超音波処理試料よりもコントロール試料が高く、60分処理試料においては、両者の差はわずかであった。これに対し、図4及び図5に示すように、クレゾール導入量は超音波処理試料がコントロール試料をおおよそ上回っていた。
これらのことから、まず、超音波処理試料においてクレゾールの導入率が促進された結果、特に反応初期~前半において、超音波処理試料においてクレゾールの導入率が高くなっていることが明らかである。
また、超音波処理試料とコントロール試料における重量平均分子量の差異については、実施例1における超音波処理条件が緩やかであり、超音波処理によるリグニン-セルロースマトリックスの脱複合の促進効果があるものの緩やかである一方、超音波によってクレゾールの導入が効率よく(速やかに)行われた結果を反映している。
すなわち、実施例1の超音波処理条件では、リグニン-セルロースマトリックスの脱複合が緩やかに促進され、大きな分子領域のリグノフェノール誘導体がゆっくりと生成分離した一方、クレゾールの導入がよく促進され、クレゾールの導入効率が高い低分子領域のリグノフェノール誘導体が同時にあるいは早期に生成分離してきたため、当初の重量平均分子量がコントロール試料よりも低くなったと考えられる。また、コントロール試料では、超音波処理試料に比較してクレゾールの導入が緩慢なため、クレゾールの導入率が低い高分子量域のリグノフェノール誘導体が先行して抽出される一方、反応が促進されるにつれ、徐々にクレゾールが高頻度に導入された比較的低分子領域のリグノフェノール誘導体が、先の高分子領域のリグノフェノール誘導体に遅れて抽出されてきた結果、当初の分子量が高くなったと考えられる。
【0045】
(実施例3:第1の方法によるリグノフェノール誘導体の調製)
リグノセルロース系材料としてベイツガ(Tsuga canadensis)木粉を使用した。ベイツガ脱脂木粉1g(絶乾重量相当)にp-クレゾール10mlを加え,150r.p.m.にて5分間撹拌し,材料中のリグニンをクレゾールにて溶媒和した。次いで、72wt%硫酸を加え、500r.p.m.にて激しく撹拌しながら,超音波発生器(BRANSON SONIFIER450D)にて超音波(20kHz,180W)を照射して、15分、20分及び40分それぞれ反応させた。なお、超音波照射は最大で20分とし、反応時間15分及び20分の系では全反応時間連続照射し、同40分の系では、前半の20分間のみ照射した。
反応後,反応物を遠心分離し,上層のクレゾール相を冷却撹拌下,ジエチルエーテルに滴下した。得られた不溶解区分をアセトンにて24時間抽出し,ろ液を減圧濃縮後、撹拌下、冷却したジエチルエーテルに滴下し,リグノフェノール誘導体を得た。
なお、酸処理時に超音波照射を行わない以外は、上記手法と同様にしてコントロール試料を得た。
【0046】
酸との反応時においては、以下のことが観察された。
すなわち、p-クレゾールによるリグニン溶媒和工程の後、酸を加えると系の粘度は急激に増加し,数分後から低下し続けた。これは炭水化物の高次構造が酸によって膨潤し,その後加水分解によって低分子化することに起因する。超音波照射試料では、初期に増加した粘度が極めて短時間で減少した。すなわち,これらの結果から、超音波の微視的振動により,高次構造を構築した炭水化物分子内へ迅速に水系媒体が浸透し,その膨潤・加水分解が促進されたことがわかった。
なお、酸処理後,反応系を遠心分離すると,処理時間の延長とともに中間層は減少し,透明な緑色を呈したフェノール相と黄色の水相とに明確に分離され,水相の透明度が上昇した。これは、分子混合体あるいは複合体として中間層に混在する高分子炭水化物とリグノフェノールが,相分離反応の進行につれてそれぞれフェノール相および水相へ移行し,さらに水相の炭水化物は高度に加水分解を受け,水可溶性へと変換したためであるといえる。
【0047】
(実施例4:第2の方法によるリグノフェノール誘導体の調製)
実施例3で用いたのと同様の脱脂木粉1g(絶乾重量相当)にp-クレゾールをリグニンC9単位当たり3mol倍量(約0.48g)収着後,72wt%硫酸を加え,超音波を照射しながら500r.p.m.で撹拌しながら,超音波発生器(BRANSON SONIFIER450D)にて超音波(20kHz,180W)を照射して、15分、20分及び40分それぞれ反応させた。なお、超音波照射は最大で20分とし、反応時間15分及び20分の系では全反応時間連続照射し、同40分の系では、前半の20分間のみ照射した。
反応物を大過剰の脱イオン水に投入し,不溶解区分を遠心分離にて洗浄・脱酸後,凍結乾燥して水不溶解区分組成物(リグノフェノール誘導体とリグノセルロース系材料由来の炭水化物を含有する)を得た。さらに、この組成物をアセトン抽出し、溶解区分を減圧濃縮後、撹拌下、氷冷したジエチルエーテルに滴下し、リグノフェノール誘導体を得た。
なお、酸処理時に超音波照射を行わない以外は、上記手法と同様にしてコントロール試料を得た。
酸との反応工程においては、実施例3と同様、反応時間の延長および超音波照射によって反応混合系の粘度低下が認められ、その傾向は超音波処理試料において顕著であった。また,相分離反応後,反応混合物を大過剰の水に分散させると,反応時間の延長および超音波照射によりその分散性が向上し、不溶解区分のの収量が少なかった。
【0048】
(実施例5)
実施例3及び実施例4で調製したリグノフェノール誘導体試料とコントロール試料について、リグノフェノール誘導体の収率、重量平均分子量(GPCによる)を測定した。結果を図6~図10に示す。
【0049】
(リグノフェノール誘導体等の収率)
図6に示すように、実施例3におけるリグノフェノール誘導体、すなわち、リグノクレゾールの収率は、いずれの処理時間においても、超音波処理試料がコントロール試料を大きく上回った。
すなわち、超音波を付加した系ではコントロールに比べていずれも収率が2倍程度増加していることから,外部エネルギーとしての超音波は,フェノール‐酸相の接触頻度増加に寄与し,炭水化物区分の加水分解およびリグニンのフェノールグラフティング反応を効果的に促進するといえる。また,反応開始から15分ですでに80%以上の高収率でリグノフェノールが誘導されていることから,超音波照射の効果は相分離反応の極初期段階で発現しており,これにより実質的な相分離反応時間が短縮されたということができる。
【0050】
また、図7に示すように、実施例4の超音波照射試料については、水不溶解区分として得られる炭水化物-リグノフェノール複合試料の収率が明らかに低下していた。反応時間に関わらずその収率は木粉当たり約20~26%程度であった。すなわち,超音波の照射によって,炭水化物の加水分解が促進され,水可溶の低分子糖区分へと効果的に変換されるとともに,水不溶性の炭水化物-リグノフェノール複合粒子間での凝集が抑制されたため,収率が低下したと考えられる。
一方、図8に示すように、得られた水不溶解区分組成物から抽出,精製したリグノフェノールの収率はいずれの処理においてもほぼ同等であった。このことから、超音波照射により、炭水化物の加水分解及びリグニンC1位への選択的なフェノールグラフティング反応及びアリールエーテル単位間結合の開裂によるフラグメンテーションが効果的に促進されていることがわかった。すなわち,これらの結果から超音波によって炭水化物の加水分解およびリグニンのフェノールグラフティング反応が著しく促進されていることがわかった。
【0051】
(リグノフェノール誘導体の重量平均分子量)
図9に示すように、実施例3のコントロール試料では、反応時間の延長に伴い、得られたリグノフェノールの重量平均分子量が徐々に増加したのに対して,超音波処理にて得られたリグノフェノールはコントロールに比べて高分子量かつ多分散であり、反応時間20分でほぼ一定となった。これは超音波の付加により,炭水化物の高次構造が迅速に解放され、変換されたリグノフェノールが総体的かつ効果的にフェノール相へと移行していることを示している。一方,炭水化物の加水分解速度の遅いコントロール試料では、変換されたリグノフェノールのうち比較的低分子の区分のみがフェノール相へと移行したため,反応初期に低分子量であったと考えられる。
【0052】
また、図10に示すように、実施例4において得られた各試料においても実施例3の試料における重量平均分子量(図9)と同様の傾向が認められた。しかしながら、実施例4の超音波照射の有無による分子量の差は小さく、超音波処理試料がやや重量平均分子量および分散比ともコントロールより高い程度にとどまった。これは,超音波付加により、高度に変換されたリグノフェノールを水分散工程でロスした結果、比較的限定された区分のみが最終生成物として得られたことに起因すると考えられる。
【0053】
(実施例6)リグノフェノール誘導体の調製
(1)親和工程-フェノール誘導体の収着
針葉樹のベイマツ(Pseudotsuga menziessi以下、Douglas firと称する。)を、Retsh社製の超遠心粉砕機ZM100にかけて微粉化し、その後、IIDA製作所製の80メッシュのふるいかけて、80メッシュパスの木粉を得た。
この木粉を、エタノール:ベンゼン=1:2(V/V)溶液にてソックスレー抽出器を用いて、48時間抽出した。抽出後、木粉をステンレスバットに広げ、ドラフト内で溶媒を完全に留去した。さらに、送風乾燥機にて105℃で24時間乾燥させ、絶乾木粉を得た。
【0054】
絶乾木粉3g相当の木粉を、100ml容セパラブルフラスコに入れ、フェノール誘導体のアセトン溶液約30ml(リグニンC9単位あたり3mol倍相当のフェノール誘導体を含む)を加えた。次に、木粉内部に存在する気泡を除去するため攪拌用の羽で少し攪拌し、アルミホイルおよびパラフィルムでビーカーに蓋をして約24時間静置した。静置後、ドラフト内で激しく攪拌してアセトンを完全に留去した。アセトン留去した試料を、フェノール誘導体収着木粉とした。
【0055】
(2)フェノール誘導体の導入工程-硫酸処理
(1)で親和処理したフェノール誘導体収着木粉に、あらかじめ30℃に調整しておいた60wt%、65wt%、72wt%濃度の各硫酸水溶液60mlを加え攪拌機より、500rpmで所定時間攪拌しつつ、超音波発生器(BRANSON SONIFIER450D、20kHz、出力180W)により超音波を照射して、5分、10分、20分の3種類の処理時間で導入工程を行った。工程終了後、それぞれの内容物を11容三角フラスコ中の大過剰の水(約600ml、強制攪拌下)に投入し、硫酸濃度を10%以下に低下させ、約1時間攪拌した。なお、超音波を照射しない以外は、上記と同様に操作を行い、それぞれのコントロールとした。
【0056】
(3)脱酸処理
三角フラスコ内容物を脱イオン水にて遠沈管(ポリプロピレン製)に移し、遠心分離〔8800rpm(10560G)、20min、5℃〕により水可溶区分(浮遊物を含む)と水不溶区分とに分離した。分離後、遠沈管中の可溶区分(浮遊物を含む)を駒込ピペットで51容三角フラスコに取り出し、水不溶区分はさらに脱イオン水を加え、攪拌および遠心分離を行い、未反応のフェノール誘導体および酸を可溶区分として除去した。なお、5l容三角フラスコに取った可溶区分は約1日静置した後、沈殿を乱さないように上澄みを吸引濾過鐘でビーカーに取り、あらかじめ恒量を求めておいたガラス繊維濾紙にてろ過し後、濾紙に残留した浮遊物の恒量を測定した。
【0057】
(4)水不溶区分の乾燥
脱酸処理後の不溶区分は少量の脱イオン水を使用してあらかじめ恒量を測定しておいたプラスチック容器に移し、凍結乾燥し、その後、五酸化二リン上で減圧乾燥し、恒量を求め当初の木粉に対する収率を測定した。
【0058】
(5)導入工程における超音波照射における反応系の観察
[60wt%硫酸水溶液を用いた超音波処理]
60wt%硫酸を用いた反応系において、コントロール試料では、硫酸水溶液を加えた直後に、黄緑色に変化し、約5~6分程度で少し暗い緑色に変化した。木粉粒子に関しては、硫酸処理後も、木粉粒子状のものが確認された。超音波処理試料においても、反応後に同様の粒子が確認できた。また、硫酸水溶液を添加時に、試料における粘性の上昇は超音波照射の有無に関係なく、確認できなかった。これらの結果は、60%硫酸水溶液が植物細胞壁の十分な膨潤を引き起こすことができないことを意味している。水分散後、処理試料の色は、コントロール試料および超音波処理試料のそれぞれにおいて、処理時間が5分、10分、20分と変化するにつれて赤色化する傾向が得られた。また、超音波処理試料の方がコントロール試料よりも暗色化していた。この試料の赤色化は、木材中の発色成分であるリグニン分子の変換程度に由来している。
【0059】
[65wt%硫酸水溶液を用いた超音波処理]
65wt%硫酸水溶液を用いた処理において、コントロール試料では、硫酸水溶液を加えた直後に緑色へ変化し、その後、約3~4分でより暗い緑色へと変化した。超音波処理試料では、木粉粒子は約5~6分で確認できなくなったが、コントロール試料では、木粉粒子が処理時間10分~13分で確認できなくなった。水分散後、各処理試料の色は、処理時間が5分、10分、20分と増加するにつれて赤色化した。60wt%硫酸処理の場合と同様に、超音波処理試料の方が、コントロール試料よりも暗色化していた。また、コントロール試料では、不溶区分の回収時に白色の沈殿区分が確認された。この白色区分は超音波処理5分、10分試料においても同様に確認されたが、20分の超音波処理においては確認されなかった。この白色区分は、植物細胞壁中の加水分解不十分の炭水化物区分が凝集したものと考えられ、超音波20分処理試料ではこの炭水化物の白色区分が確認されなかったことから、超音波エネルギーにより、炭水化物の加水分解が促進されることが示された。相分離処理試料の赤色化については、60wt%硫酸処理と同様に、木材中の発色成分であるリグニン分子の変換程度に由来している。
【0060】
[72wt%硫酸水溶液を用いた超音波処理]
72wt%硫酸水溶液を用いた処理では、60%硫酸水溶液や65%硫酸水溶液を加えた場合とは異なり、硫酸水溶液を加えた直後にかなり暗い緑色へと変化した。その後、約4~5分で少し暗色化した。超音波処理試料では、木粉の粒子は約5~6分で確認できなくなり、コントロール試料では9~11分で確認できなくなった。水分散後、相分離処理試料の色は緑色をしていた。超音波処理試料の色は、処理時間が5分、10分、20分と増加してもほとんど変化がなかったが、コントロール試料では、処理時間が5分、10分、20分と増加するにつれて緑色化した。また、コントロール試料において、処理時間が5分、10分のものにおいては、65wt%硫酸処理時に確認された白色区分が確認されが、処理時間が20分のものではその白色区分は確認されなかった。超音波処理試料においては、65wt%硫酸処理時に観察された白色区分は確認されなかった。このことから、72wt%硫酸水溶液は炭水化物を十分に加水分解する能力がを持つこと、さらに、超音波エネルギーにより炭水化物の加水分解速度が加速されたこととが示された。
【0061】
なお、あくまで推論であって、本発明を拘束するものではないが、以上のリグニンの酸を添加してからの色の変化は、反応初期の緑色がリグニンの未端に存在するコニフェリルアルデヒドに、1分子のp-クレゾールが導入された際に、分子内の共役系が伸びることにより生じると考えられる。さらに、時間とともに濃緑色へと色が変化するのは、p-クレゾールの導入が十分に生じ、様々な種類の共役系が発生することによって、光の吸収波長を拡大することが可能となることに起因すると考えられる。また、超音波処理試料の明度の減少は、白色成分である炭水化物の加水分解が進行し、重合度の低いオリゴマーレベルの糖になることによつて、溶媒中へ溶解したことに起因すると考えられる。合成された相分離試料の色の違いは、酸化の程度および変換されたリグニン分子の分散程度の違いによって生じたと考えられる。
【0062】
(6)水不溶区分(リグノフェノール誘導体含有組成物)の収率
図11に、絶乾木紛あたりのリグノフェノール誘導体含有組成物の収率のグラフを示す。
60wt%硫酸水溶液を用いた場合、超音波処理試料の方が、コントロール試料に比べやや低い収率を示した。60%硫酸処理での収率低下は、酸に対する抵抗性の低い木材中のヘミセルロース区分およびセルロースの非晶性区分が、酸による加水分解作用を受け、水相へ流出した結果生じたと考えられる。
【0063】
65wt%硫酸水溶液を用いた場合、コントロール試料では、60wt%硫酸処理時とほとんど変わらない収率減少傾向(すなわち、緩やかな減少傾向)がえられた。一方、超音波処理試料においては、大幅な収率減少傾向を示した。コントロール試料については、65wt%硫酸水溶液がセルロースの結晶領域を膨潤させることができ、セルロース区分の加水分解も不十分ではあるが進むため、60wt%硫酸を用いた場合よリセルロース区分の流出が進行することがその原因と考えられる。超音波処理試料における大幅な収率低下は、65wt%硫酸による細胞壁の膨潤と加水分解とを超音波エネルギーが促進し、炭水化物区分と酸との接触性が上昇したため、炭水化物区分の加水分解が促進されたことに起因すると考えられる。
【0064】
72wt%硫酸水溶液を用いた場合では、コントロール試料において、超音波照射65wt%硫酸処理試料とほぼ同等の収率減少傾向を示した。このことは、72%硫酸水溶液に細胞壁の膨潤を引き起こし、さらに十分に炭水化物区分を加水分解する能力があることを示している。一方、超音波処理試料の場合、5分、10分、20分と処理時間を増加させてもその収率に大きな変化がみられなかったことから、超音波エネルギーにより植物細胞壁中の炭水化物の加水分解速度が加速され、約5分の処理で反応が平衡に達したと推測される。
【0065】
(実施例7)
リグノフェノール誘導体組成物中のリグニン含有量測定
十分乾燥させた実施例6の各組成物約200mgを10ml容サンプル管に精秤し、72%硫酸水溶液を3mlを少量ずつガラス棒で練りこみながら加え、20℃の水浴中で反応が均一に進行するように十分に攪拌しながら4時間反応させた。反応後、予め115mlに印をした200ml容三角フラスコに定量的に移し、脱イオン水を加えて、硫酸濃度を3%まで希釈した。希釈した処理物は、ガスバーナーで加熱し、硫酸濃度を3%に保ちつつ、なおかつ炭水化物由来のフルフラール及びメチルフルフラールを系内から除去するため、リービッヒ冷却機を使わずに、脱イオン水を適宜加えながら2時間煮沸した。処理後、恒量既値のlG4ガラスフィルターを用いて内容物を濾過し、不溶解物を熱水で洗浄後、105℃で乾燥させ、恒量を測定し、相分離処理試料中の酸不溶性リグニン量を求めた。濾液は、JASCOV‐520にて205nmでの紫外線吸収を測定し、次式より酸可溶性リグニン量を求め、酸不溶性リグニン量との総和として全リグニン量を算出した。
B=A/(110×D)
リグニン(%)=B×V×100/(1000×W)
A:吸光度
D:希釈率
V:全濾液量(ml)
W:試料重量(g)
【0066】
図12にリグノフェノール誘導体含有組成物中のリグニン含有量のグラフを示す。
硫酸水溶液を添加した直後に全ての試料で黒色化が観察された。60wt%硫酸を用いた試料では、超音波照射の有無に関係なく反応初期にかねりの粘性があったが、65wt%及び72wt%硫酸処理試料では、いずれも酸添加時においてもはや粘性の発現は認められなかった。このことは、60wt%硫酸処理時には、細胞壁の膨潤が十分に生じていないため後段で72wt%硫酸添加時にはじめて粘性が生じ、65wt%硫酸及び72wt%硫酸処理時には、細胞壁の膨潤が既に生じていたため、後段で72wt%硫酸を添加しても粘性上昇が生じなかったと考えられる。
【0067】
硫酸濃度を3wt%に希釈した段階では、超音波処理試料の方がコントロール試料に比べて黒色化していたが、煮沸に伴い赤色化した。これは、リグニンの変換により2次的な変性が抑制されたためであると考えられる。
全体として、導入工程における処理時間が延長されるほど、リグニン含有量が高くなる傾向が得られた。これは、反応時間が長くなるほど、炭水化物がより多く加水分解され、低分子化された炭水化物区分が水相へ流出することに対応する。また、酸可溶性リグニンが通常よりも高い値を示していた。このことは、超音波処理によってリグニン母体中の活性側鎖であるC1位にフェノール誘導体が導入され、二次変性が抑制されたために自己縮合できなかった低分子区分がろ液中に流出したことに起因すると考えられる。
【0068】
(実施例8)リグノフェノール誘導体への追加のフェノール誘導体の導入
この追加のフェノール誘導体の導入、すなわち、第2次変換処理は、既に行った第1次の変換処理により得られた第1次リグノフェノール誘導体中に残存している活性側鎖量を検定するための手法である。本実施例では、1次処理時に用いたフェノール誘導体と異なる別のフェノール誘導体を用いた相分離処理により、リグニン母体中に2種類のフェノール誘導体を導入する。以下、この1次変換処理および2次変換処理によりリグニン母体に導入されたフェノール誘導体の導入頻度を比較することによって1次処理時の細胞壁の解放程度およびリグニンの変換程度を検討した。
【0069】
実施例6で得られた組成物(1次処理試料)を規定量(総体量が少ない72wt%硫酸処理試料は400mg、超音波照射照射65wt%硫酸処理試料は600mg、その他のものは700mg)を50ml容遠沈管に精秤し、そこにフェノール誘導体(エチルフェノール:ベンゼン=7:3の混合媒体)を規定量(総体量が少ない72wt%硫酸処理試料は4ml、超音波照射65wt%硫酸処理試料は6ml、その他のものは7ml)加え、撹枠用の羽で叩くように約10分攪拌した。その後、予め30℃にしておいた72wt%硫酸水溶液を規定量(総体量が少ない72wt%硫酸処理試料は8ml、超音波照射65wt%硫酸処理試料は12ml、その他のものは14ml)加え、約1分攪拌した後、撹幹機に設置し、30℃の水浴中で計60分間攪拌した(500rpm)。攪拌後、遠心分離〔25℃、3500rpm(2200G)、3分〕にて有機相と水相に分離した。
【0070】
200ml容三角フラスコに150mlのジエチルエーテルを加え、水で冷やしながらスターラーで激しく攪拌しながら有機相を滴下した後、界面洗浄のためフェノール誘導体を数ml反応容器へ加え遠心分離〔25℃、3500rpm(2200G)、3分〕し、有機相をエーテルに滴下した。洗浄は計3回行った。その後油状物質が沈降し、上澄み液がクリアになるまで攪拌した。しかし、1時間攪拌を続けても上澄みがクリアにならない時は、遠心分離〔5℃、3500rpm(2220G)、10分〕にて不溶解物を回収した。上澄み液を取り除き、沈殿物および容器をさらに約15mlのジエチルエーテルで2回洗浄後、沈殿物に40~60mlのアセトンを加え、完全に溶解するまで攪拌し、遠沈管に移すとともに、容器を少量のアセトンで洗浄した。上澄み液は、遠沈管に移し、遠心分離〔5℃、3500rpm(2220G)、5分〕した後、ガラス繊維濾紙を用いて濾過した。その後100ml容ナスフラスコヘ移し、エバポレーターで約10mlになるまで濃縮し、ジエチルエーテルに滴下後、生成した沈殿区分を遠心分離〔5℃、3500rpm(2220G)、5分〕にて回収し、洗浄のため沈殿物にジエチルエーテルを加え約3回洗浄した。
生成した沈殿を室温暗所で1日保管し、ジエチルエーテルを除いた。その後、遠沈管のまま五酸化ニリン上で減圧乾燥させ恒量を測定し、収率を求めた。これを2次リグノフェノール誘導体とした。
【0071】
(実施例9)フェノール誘導体の導入量の測定
各種2次リグノフェノール誘導体約20mg、内部標準物質としてp-ニトロベンズアルデヒド(PNB)約3mgをlmI容テフロン(テフロンは登録商標である)ライナー付きスクリューバイアルに精秤し、lml容メスピペットにて重水素化ピリジンを150μl加え完全に溶解させた。溶解後テトラメチルシラン0.03%含有重水素化クロロホルムを1ml容メスピペットにて450μl加えた。完全に溶解していることを確認した後、試料溶液を綿ろ過し、NMR測定管(径5mm)に入れて、ALPHAFTNMR Spectrometer(JEOL社製)にて測定した。
【0072】
なお、p-エチルフェノールの導入率は次の式(1)及び(2)によってって求めた。
【数1】
JP0003654527B2_000002t.gif【数2】
JP0003654527B2_000003t.gif
【0073】
Iwt(%):導入フェノール(Wt%)
Pwt:PNBの重量(mg)
Pm:PNBの分子量=151
Pn:PNBにおける芳香核H数=4
Pi:PNBにおける芳香核4Hシグナルを示す領域(8.40~7.80ppm)の積分値
Ci:クレゾールにおけるメチル基3Hシグナルを示す領域(2.30~1.80ppm)の積分値
Ei:P-エチルフェノールにおけるエチル基のメチル3Hシグナルを示す領域(1.40~0.80ppm)の積分値
En:P‐エチルフェノールにおけるエチル基のメチルプロトン数=3
Em:P‐エチルフェノールの分子量=122
Lwt:リグノフェール重量
Imo1/C9:導入フェノール量は(mo1/C9
Lm:リグニン1ユニットの分子量=2000(針葉樹)
【0074】
2次リグノフェノール誘導体中のp-エチルフェノールの導入量を図13に示す。
図13に示すように、全ての2次リグノフェノール誘導体において、p-エチルフェノールの導入が確認された。いずれの酸濃度においても、コントロール試料の方が高いp-エチルフェノール導入量を示した。このことは、超音波照射により、リグニンへのフェノール誘導体の導入が促進され、1次リグノフェノール誘導体中の残存活性側鎖が減少したことを示している。
【0075】
【発明の効果】
本発明によれば、リグノセルロース系材料からリグニン誘導体を得るのに際して、リグニン誘導体の物性や生産効率等を制御できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リグノセルロース系材料中のリグニンにフェノール誘導体を導入して得られる各種リグノフェノール誘導体を例示する図である。
【図2】実施例1で得られたベイマツ由来のリグノフェノール誘導体の反応時間と重量平均分子量との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1で得られたブナ由来のリグノフェノール誘導体の反応時間と重量平均分子量との関係を示すグラフである。
【図4】実施例1で得られたベイマツ由来のリグノフェノール誘導体の反応時間と導入クレゾール量との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1で得られたブナ由来のリグノフェノール誘導体の反応時間と導入クレゾール量との関係を示すグラフである。
【図6】実施例3で得られたリグノフェノール誘導体の反応時間と収率を示すグラフである。
【図7】実施例4で調製した水不溶解区分の反応時間と収率を示すグラフである。
【図8】実施例4で得られたリグノフェノール誘導体の反応時間と収率との関係を示すグラフである。
【図9】実施例3において得られたリグノフェノール誘導体の反応時間と重量平均分子量との関係を示すグラフである。
【図10】実施例4において得られたリグノフェノール誘導体の反応時間と重量平均分子量との関係を示すグラフである。
【図11】絶乾木紛あたりのリグノフェノール誘導体含有組成物の反応時間と収率との関係を示すグラフである。
【図12】実施例6で得た各種リグノフェノール誘導体含有組成物中のリグニン含有量のグラフを示す
【図13】実施例8で得られた2次リグノフェノール誘導体におけるp-エチルフェノールの導入量を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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