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明細書 :ナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4124432号 (P4124432)
公開番号 特開2004-149871 (P2004-149871A)
登録日 平成20年5月16日(2008.5.16)
発行日 平成20年7月23日(2008.7.23)
公開日 平成16年5月27日(2004.5.27)
発明の名称または考案の名称 ナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法
国際特許分類 C25C   1/08        (2006.01)
C25C   5/02        (2006.01)
C25D   3/12        (2006.01)
FI C25C 1/08
C25C 5/02
C25D 3/12
請求項の数または発明の数 2
全頁数 7
出願番号 特願2002-317547 (P2002-317547)
出願日 平成14年10月31日(2002.10.31)
審査請求日 平成16年10月6日(2004.10.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】星野 勝義
【氏名】櫃岡 祥之
【氏名】杉浦 聡哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】瀬良 聡機
参考文献・文献 特開平11-007954(JP,A)
特開平09-231972(JP,A)
特開平05-254846(JP,A)
調査した分野 C25C 1/00-7/08
C25D 3/12
B82B 1/00,3/00
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
コバルトアンミン錯体[Co(NH]Clの濃度が13mMを超える水溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位-0.90~-1.05Vの範囲で電解し陰極上に金属コバルト単結晶ナノワイヤーを析出させることを特徴とするナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法。
【請求項2】
コバルトアンミン錯体[Co(NH]Clの濃度が13mM以下の水溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位-0.90~-1.25Vの範囲で電解するか、又は該濃度が13mMを超える水溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位-1.05V~-1.25Vの範囲で電解し、陰極上に金属コバルトの木の葉状構造の結晶を析出させることを特徴とするナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水溶液からのナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナノサイズの金属材料である金属単結晶ウイスカーは、内部に格子欠陥を殆ど有しない高強度材料として高強度複合材料の強化材料や高強度繊維材料として用いられ、亜鉛や亜鉛-ニッケル合金の単結晶ウイスカー等を電気化学的手法で製造する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
近年、カーボンナノチューブやナノワイヤーの発見がなされ、金属ナノワイヤーへの関心も高まっている。平均径が数十nm~数百nm程度で、平均長さが1μm程度以上の金属ナノワイヤーは、導電性材料、磁性材料、触媒、電子放出素子、カーボンナノチューブのテンプレート、等の用途に用いられ、種々の製造方法が知られている(例えば、特許文献2~5)。これらの特許文献に開示されているナノワイヤーの金属は、銅、銀、鉄、チタンである。
【0004】
コバルトについては、硫酸コバルト(CoSO4)水溶液を用いてアルマイト皮膜の微細孔中にアスペクト比の大きなコバルト針状磁性体を電析させた磁性皮膜(特許文献6)や化学重合法を用いて細孔を持つポリマーの鋳型(テンプレートと呼ばれている)を作り、しかる後にその細孔の中で硫酸コバルトの電解還元を行うことによって、細孔の中で金属コバルトを析出させ細孔の形にそってワイヤー状のコバルト細線を形成する方法(非特許文献1)が報告されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平1-312050号公報
【特許文献2】
特開平11-246300号公報
【特許文献3】
特開2001-279305号公報
【特許文献4】
特開2002-67000号公報
【特許文献5】
特開2002-266007号公報
【特許文献6】
特開平11-31619号公報
【0006】
【非特許文献1】
H.Cao,Z.Xu,H.Sang,D.Sheng,C.Tie,Advanced Materials,13巻,121-123頁,2001年
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ナノサイズの金属コバルト微粒子の一形態であるナノワイヤー状電析出物について、上記の特許文献6と非特許文献1で報告された方法があるが、作製法は非常に手が込んでいて煩雑な面がある。鋳型を作るのに大変な手間を要するし、さらに、その鋳型を用いたコバルトの電気化学堆積反応もプロセスが煩雑であり、極めて条件が厳しい。そして、鋳型を除く場合にもまた、煩雑な鋳型溶解反応を利用しなければならない。コバルトナノワイヤーの生成量は、鋳型のサイズによって限定されるので、大量生産にも向かない。
コバルトは、触媒、二次電池電極材料、磁性材料などに使われているが、その単結晶ウイスカーやその他の形態のナノサイズの金属コバルト微粒子の効率的な製造方法については殆ど報告が無い。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先に、[Co(NH3)5Cl]Cl2の電解還元により生成したコバルト膜を電解酸化した酸化コバルト膜が充放電可能な膜であり、リチウムイオン電池の正極材料となることを見出した(特願2001-387206)。この電解還元の原料を少しだけ組成の異なるものとしたところ、偶然にも一段階の電気分解反応で優れた特性が期待されるナノワイヤー構造や新規な木の葉状構造のナノサイズの金属コバルト微粒子が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、コバルトアンミン錯体[Co(NH]Clの濃度が13mMを超える水溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位-0.90~-1.05Vの範囲で電解し陰極上に金属コバルト単結晶ナノワイヤーを析出させることを特徴とするナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法である。
また、本発明は、コバルトアンミン錯体[Co(NH]Clの濃度が13mM以下の水溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位-0.90~-1.25Vの範囲で電解するか、又は該濃度が13mMを超える水溶液を飽和カロメル参照電極に対し、電解電位-1.05V~-1.25Vの範囲で電解し、陰極上に金属コバルトの木の葉状構造の結晶を析出させることを特徴とするナノサイズの金属コバルト微粒子の電解析出方法である。
【0010】
本発明の方法によると、従来のコバルトナノワイヤーの形成技術のようなテンプレートは必要ではないし、有機溶媒、強アルカリ水溶液又は強酸水溶液を用いてテンプレートを除去する必要もない。また、用いる陰極の面積に応じて一度に大量のコバルトナノワイヤーを生産できる利点もあり、生産性にも優れている。
【0011】
本発明の方法で製造したナノサイズの金属コバルト微粒子は、ナノサイズのワイヤーや木の葉状構造の結晶なので膨大な表面積が稼げる、すなわち反応の効率を上げられるので、(1)リチウムイオン電池の正極材料(ただし、この場合には、電解酸化を施して酸化コバルトに変えて正極材料とする必要がある。)や(2)原油のクラッキングのための触媒として有用である。また、コバルトナノワイヤーは、主に、(3)エレクトロクロミックディスプレイへの応用(酸化コバルト膜は、電気分解電位を変えることにより色変化を伴う)、(4)コバルトが磁性を持つことから磁気記録媒体としての利用、(5)カーボンナノチューブ形成のための触媒、(6)カーボンナノチューブと同様に、ディスプレイ用の電子放出源としての利用、(7)プローブ顕微鏡のプローブ先端としての利用、が挙げられる。その他に、(8)ガラス製品・陶磁器製品の着色のための顔料としても有用である。
【0012】
【発明の実施の形態】
市販されている[Co(NH3)6]Cl3を水に溶かし、コバルトアンミン錯体[Co(NH3)6]Cl3の水溶液を準備する。
電解液中の[Co(NH3)6]Cl3の濃度の上限は、水溶液中での[Co(NH3)6]Cl3の溶解度(24.9mM)で制限を受ける。水溶液中には導電性塩を添加することが好ましい。導電性塩としては、-0.9V~-1.25Vの印加電位で電気分解を起こさない塩、例えば、NaCl,NaBr, NaI, Na2SO4, NaNO3, CH3COONaなどのナトリウム塩、LiCl,LiBr, LiI, Li2SO4, LiNO3, CH3COOLiなどのリチウム塩、KCl,KBr, KI, K2SO4, KNO3, CH3COOKなどのカリウム塩、さらには二価の金属(カルシウム塩、マグネシウム塩)などの塩(要するにアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属の塩、及びテトラアルキルアンモニウムの塩)が好適に用いられる。
【0013】
効率よくコバルト金属微粒子が生成し始める電解電位の下限は、飽和カロメル参照電極に対し-0.90V程度であり、電位が-1.25V程度になると水の還元反応によって微粒子からなる膜構造が破壊される。-0.9V~-1.25Vの電解電位領域は、もし、電解液中に酸素が含まれている場合、酸素の電気化学的還元が起き始める領域であるため、酸素還元を回避するためには窒素雰囲気として窒素バブリングを行うことが望ましいが、通常の大気下でも金属コバルト微粒子は析出する。電解温度は、室温程度、すなわち20~30℃程度でよい。
【0014】
陰極としては、導電性材料であればよく、Pt,Au,Co,Al,Cu,Ni,ステンレス鋼など殆どの金属が使用できる。また、酸化インジウム・錫(ITO)などの導電性酸化物や導電性プラスチックスでもよい。陽極材料としては、溶解等を起こして電解液を汚染することがないような白金板や線が好ましい。電気化学的な酸化に耐えるその他の材料、例えば、金、カーボン、ステンレス鋼などでもよい。
【0015】
[Co(NH3)6]Cl3の水溶液中の濃度と電解電位の値によって、析出する微粒子の物理的な形態が変化する。図1は、水溶液の温度が25℃の場合の析出する微粒子の形態に及ぼす[Co(NH3)6]Cl3の濃度と印加電位の値の関係を示す。
[Co(NH3)6]Cl3の水溶液中の濃度13mMはナノワイヤー結晶ができるか、木の葉状構造の結晶ができるかの境界濃度であり、13mMを超える濃度でワイヤー構造の形成が優先的となり、13mM以下の濃度で木の葉状構造の形成が優先的となる。
【0016】
水溶液中の[Co(NH3)6]Cl3の濃度が13mMを超える場合、飽和カロメル参照電極に対し、印加電解電位-0.90~-1.05Vの範囲でコバルトナノワイヤーが陰極上に析出する。印加電解電位が-1.05Vを超えるとコバルトナノワイヤは殆ど析出せずに木の葉状構造のコバルト結晶が析出するようになる。一方、[Co(NH3)6]Cl3の濃度が13mM以下の場合、電解電位-0.90~-1.25Vの範囲で木の葉状構造のコバルト結晶が析出する。13mMの濃度においては、電解電位が、-0.90~-1.10の範囲でナノワイヤー構造と木の葉状構造が共存する。
【0017】
コバルト金属は銀色であるが、析出した金属コバルト単結晶ナノワイヤーは微粒子であるため黒色を示し、ナノワイヤーより粒子のサイズが少し大きい木の葉状構造のコバルト結晶は黒みがかった灰色を示す。
【0018】
図1からも明らかなように、コバルト単結晶ナノワイヤーを効率的に形成するためには、[Co(NH3)6]Cl3の水溶液中の濃度はより高濃度、電解電位はより低電位の条件が望ましいのに対し、木の葉状構造の結晶を得るには、より低濃度であれば電解電位は-0.90~-1.25Vの広い範囲が許容されることがわかる。
【0019】
陰極上に析出した金属コバルト単結晶ナノワイヤーは、そのままで、例えば、化学反応の触媒、電池の正極材料、エレクトロクロミックディスプレイ材料などに利用できる。一方、電界放射型ディスプレイの電子放出源やプローブ顕微鏡のプローブ先端材料として用いる場合には、陰極から適宜の方法で剥離して利用する。
【0020】
【実施例】
実施例1
[Co(NH3)6]Cl3(24.9mM)と硫酸カリウム(100mM)を溶解した水溶液を耐熱ガラス製の電解セルに入れて電解液とし、窒素雰囲気下で、液温度25℃、酸化インジウム・スズ(ITO)膜170nmがコートされたガラス板を動作電極としてITOに-1.025V(飽和カロメル参照電極に対する電位で示される)の電位を印加した。電解時間は10分である。なお、陽極としては、白金板を用いた。
【0021】
この操作により、ITO膜上に黒色膜が形成された。黒色膜を形成したガラス板を電解液から取り出し、蒸留した脱イオン交換水で洗浄した。エネルギー分散型X線分析(EDX)により、黒色膜は金属コバルトであり、また、膜表面は水酸化コバルト及び酸化コバルトになっていることがX線光電子分光分析(XPS)により分かった。
【0022】
図2に、黒色膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す。右の写真は左の一部を拡大したものであり、写真下のスケールバーは10μmの長さを示す。膜は大量のワイヤーから構成されていることが分かる。一本のワイヤーのX線回折パターンから、この構造はコバルトの単結晶であることが判明した。すなわち、黒色膜は、大量のコバルト単結晶ナノワイヤーから構成されていることが判明した。なおワイヤー以外の部分、すなわちワイヤーの根元部分や単にコバルトの塊の部分は非晶質であった。
【0023】
実施例2
[Co(NH3)6]Cl3の濃度を13mMとした以外は実施例1と同じ条件で電解した。
[Co(NH3)6]Cl3(13mM)と硫酸カリウム(100mM)を溶解した水溶液を電解液とし、酸化インジウム・スズ膜(ITO)がコートされたガラス板を動作電極としてITOに-1.025V(飽和カロメル参照電極に対する電位で示される)の電位を印加した。電解時間は10分である。
【0024】
図3及び図4に、このとき、ITO膜上に得られた黒色膜の走査型電子顕微鏡写真を示す。写真下のスケールバーは10μmの長さを示す。これらの図に示されるように、黒色膜中には2種類の結晶構造物があり、一つは、図3に示すとおり、上記実施例1と同様のナノワイヤー構造、もう一つは、図4に示すとおり、木の葉状構造である。
【0025】
この木の葉状構造の結晶についても種々の化学分析を行った。その結果、EDX測定から、木の葉内部は金属コバルト、表面は酸化コバルトと水酸化コバルトの混合物となっていることが判明した。なお、このケースのナノワイヤーの場合、ナノワイヤー表面の構造を詳細に検討すると、表面には棘のような突起物が生成している。
【0026】
実施例3
電解電位を-1.2Vとした以外は実施例2と同じ条件で電解した。形成された黒色膜の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。写真右横のスケールバーは10μmの長さを示す。木の葉状構造が優先的に形成されている。
【0027】
比較例1
電解電位を-1.3Vとした以外は実施例2と同じ条件で電解した。形成された黒色膜の走査型電子顕微鏡写真を図6に示す。写真右横のスケールバーは10μmの長さを示す。電解電位を-1.3Vにまで増大すると、水の電解還元反応が生じてしまうため、木の葉状構造が破壊され、全体が丸みを帯びた形態の析出物が得られた。
【0028】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、触媒はもとより、ディスプレイ用の電子放出源、プローブ顕微鏡のプローブ先端等としての実用化が有望な金属コバルト単結晶ナノワイヤー及び新たな特性を期待できる金属コバルトの木の葉状構造の結晶を実用的なプロセス(簡便かつ安価な大量生産可能なプロセス)で製造できる。また、本発明の方法は、水溶液系なので環境に優しいプロセスである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、電解析出したコバルト微粒子の形態に及ぼす[Co(NH3)6]Cl3の濃度と印加電位の関係(25℃における関係)を示す説明図である。
【図2】図2は、実施例1で析出した黒色膜の微粒子の形態を示す図面代用の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図3】図3は、実施例2で析出した黒色膜の微粒子中のナノワイヤーの形態を示す図面代用の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図4】図4は、実施例2で析出した黒色膜の微粒子中の木の葉状構造の形態を示す図面代用の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図5】図5は、実施例3で析出した黒色膜の微粒子の形態を示す図面代用の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図6】図6は、比較例1で析出した黒色膜の微粒子の形態を示す図面代用の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5