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明細書 :9-BBNを開始剤とするスチレンのヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合の新規溶媒系

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4445188号 (P4445188)
公開番号 特開2004-083727 (P2004-083727A)
登録日 平成22年1月22日(2010.1.22)
発行日 平成22年4月7日(2010.4.7)
公開日 平成16年3月18日(2004.3.18)
発明の名称または考案の名称 9-BBNを開始剤とするスチレンのヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合の新規溶媒系
国際特許分類 C08F   4/52        (2006.01)
C08F   2/06        (2006.01)
C08F  12/00        (2006.01)
FI C08F 4/52
C08F 2/06
C08F 12/00 510
請求項の数または発明の数 2
全頁数 8
出願番号 特願2002-246123 (P2002-246123)
出願日 平成14年8月27日(2002.8.27)
審判番号 不服 2007-013735(P2007-013735/J1)
審査請求日 平成16年7月30日(2004.7.30)
審判請求日 平成19年5月10日(2007.5.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】菅野 修一
個別代理人の代理人 【識別番号】100095359、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 篤
参考文献・文献 特開2002-194014(JP,A)
特開2003-252919(JP,A)
特開2002-234902(JP,A)
特開2002-145973(JP,A)
菅野修一、斉藤いづみ、須藤美嘉、千葉聡子、鈴木みゆき、山田さやか,9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナンを用いたスチレンのリビング重合,高分子学会予稿集,日本,社団法人高分子学会,2000年 9月 8日,第49巻,第1559頁~第1560頁
菅野修一、斉藤いづみ、須藤美嘉、千葉聡子、鈴木みゆき、山田さやか、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナンを用いたスチレンのリビング重合、第49回高分子討論会における発表文書(ポスター)、日本、社団法人高分子学会、2000月9月28日
調査した分野 C08F 4/52
C08F 2/06
C08F12/00-12/36
特許請求の範囲 【請求項1】
トルエン溶媒に9-BBNに対し1~3倍当量のp-クロロアニリンを存在させることを特徴とする、9-BBNを開始剤として酸素存在雰囲気下でスチレンのリビングラジカル重合を維持するスチレンをヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合するための新規溶媒系。
【請求項2】
ベンゼン溶媒に9-BBNに対し1~3倍当量のp-クロロアニリンを存在させることを特徴とする、9-BBNを開始剤として酸素存在雰囲気下でスチレンのリビングラジカル重合を維持するスチレンをヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合するための新規溶媒系。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リビングラジカル性を維持する濃度の、p-クロロアニリンの存在する芳香族溶媒系反応媒体において、9-BBNを開始剤とし、スチレンのヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合する新規な重合系。換言すれば、p-クロロアニリンを加えた芳香族溶媒系から成る9-BBNを開始剤とする新規リビングラジカル重合溶媒系に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、単分散に近い分子量を持つポリマー、規則性を持つポリマー、機能性の官能基を持つ調整(制御)されたポリマー類を製造する方法として、モノマーの存在する雰囲気において重合鎖末端に活性ラジカルを安定に、長寿命で維持して、逐次的にモノマー、またはマクロマーを付加する重合に関する技術が研究されてきた(例えば文献1;大津 隆行、高分子、37巻3月号、248-251、参照)。前記モノマーの存在する雰囲気において重合鎖末端に活性ラジカルを安定に、長寿命で維持しての概念には、一時的に可逆的に不活性化された結合状態で存在する場合、すなわち、ブロック重合可能に再活性化しうる可逆的結合により不活性化されている、いわゆるドーマント状態の場合が含まれる。
このような中で、Chungらは、9-BBNをアルキル化した、アルキル-9-BBNを開始剤として用いて、種々のビニルモノマーを酸素を過剰酸化を押さえながら、換言すれば酸素供給を微妙に制御しながら後添加することによって、該アルキル-9-BBNを酸化して該モノマーを重合する研究をし、該重合の反応機構にリビングラジカル性を見出し、メタクリル系モノマーなどをリビングラジカル重合する技術を報告している(文献2:A.C.S.Sympo.Series.36(1)(1995)241-242、文献3:J.Am.Chem.Soc.1996,118,705-706)。
【0003】
しかし、前記Chungらのリビングラジカル重合は、9-BBNのアルキル化化合物を、酸素供給による酸化により始まる重合開始剤として利用するもので、9-BBNのアルキル化、例えば、ヘキシル化またはオクチル化の工程が必要である。これに対して、本発明者は、9-BBNをそのまま用いて、種々のビニルモノマーを空気雰囲気の下で重合する技術の研究をし、モノマーのヒドロホウ素化、これに続くヒドロホウ素化化合物の自動酸化による重合系を提案した(文献4;東北高分子ミニフォーラム2000:平成12年3月10日、山形大学工学部において開催の予稿集において、「9-ボラビシクロ〔3.3.1〕ノナンを用いたビニルモノマーの重合」と題する発表において、また、文献5;第49回(2000年)高分子学会年次大会5月29~31日、名古屋国際会議場において「9-ボラビシクロ〔3.3.1〕ノナンを開始剤とするビニルモノマーのラジカル重合」と題する発表において)。しかし、これらにおいては、バルク条件、あるいは芳香族溶媒のような溶媒を用いない重合条件において重合の実験を行っており〔ここでは、重合系への9-BBNの導入は、Aldrich:0.5M テトラヒドロフラン(以下THFと表現する場合もある)溶液を用いているが〕この重合条件では9-BBN重合開始剤1モルに対して0.25モルのTHFを配合することにより、スチレンをモノマーとする重合系においては、リビング性、すなわちモノマーの転化率の増加に伴って、得られる高分子化合物の分子量が増加する特性が認められることを発表している。しかしながら、ここでは芳香族の溶媒は使用されていない。更に、第49回(2000年)高分子討論会、9月27日~29日、東北大学川内北キャンパスにて開催の予稿集(文献6;で表題「IIPa019 9-ボラビシクロ〔3.3.1〕ノナンを用いたスチレンのリビング重合」)の発表において、バルク重合におけるアミン類の効果について検討している〔「TABLE2」の「9-BBNを開始剤とするスチレン重合におけるアミンの効果」〕。p-クロロアニリンなどのアミン類の添加におけるpKa値と重合の抑制効果について検討して、9-BBNの重合開始剤としての特性を明らかにしている。しかしながら、ここでは、前記化合物の添加剤として技術的効果については、ヒドロホウ素化過程での競合抑制効果を推測しているだけで、9-BBNを重合開始剤とするスチレンの重合におけるリビング重合性維持効果については全く考察も言及もしていない。
【0004】
また、本発明者は、α,β-不飽和カルボニルモノマーの重合開始剤として9-BBNを用いて、空気雰囲気中の酸素を利用することにより、該モノマーのヒドロホウ素化、これに続く該ヒドロホウ素化化合物の自動酸化、そしてホモリシス分解でのラジカルの生成による該α,β-不飽和カルボニルモノマーのリビングラジカル重合方法において、前記リビングラジカル重合を維持するために、モノマー1モルに対して1.2モル~7モルのTHFおよび/またはジオキサンを加えることを提案した(文献7;特開2002-194014号公報)。しかしながら、ここにおいても芳香族の溶媒は使用されていない。
【0005】
ところで、ポリスチレンは、需要の大きなポリマーであり、工業的にはその大部分がラジカル重合法で製造されている。またポリスチレンの特殊用途では、分子量と共に分子量分布の制御されたポリマーが望まれ、リビング重合は前記需要との関連から見れば理想的なポリスチレンの生産技術であるが、未だ本格的な生産技術とはなっておらず、新規なリビングラジカル重合技術の提供が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、新規なリビングラジカル重合技術の開発の観点から、反応溶媒として汎用されている芳香族溶媒、例えばベンゼン、トルエン中においてリビング性が維持される9-BBNを重合開始剤として用いたスチレンの重合系を提供することである。
前記先行技術において、本発明者は、テトラヒドロフランおよびジオキサンの様な環状体分子構造中にエーテル酸素を有する溶媒を用いたスチレンの重合反応系では、9-BBNを重合開始剤として用いた重合において一層リビング性が発現するすることを見出しているが(図1)、重合反応溶媒として芳香族溶媒を用いた系におけるリビング重合については全く検討されていなかった。また、化合物中に酸素が存在する化合物でもジエチレングリコールジメチルエーテル(慣用名として、ジグリムと証されている)のような非環状化合物中にエーテル酸素を有する化合物については前記考察が一切なされていない。しかしながら、9-BBNを重合開始剤として用いた重合系にリビングラジカル性を安定に維持する化合物を存在させることが重要であることを示唆している。そこで、9-BBNを重合開始剤として芳香族溶媒を用いてスチレンのリビングラジカル重合を可能にするリビングラジカル性を安定に維持する化合物を見出すべく、種々の化合物について前記リビングラジカル性の安定化効果について検討する中で、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、およびp-クロロアニリンを芳香族溶媒中に存在させたところ、存在させなかった芳香族溶媒を用いてスチレンの重合を行った場合に比べて、転化率と数平均分子量の増加に一次相関が見られ、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、およびp-クロロアニリン、特にジエチレングリコールジメチルエーテル、およびp-クロロアニリンもリビング性の発現に寄与することが判り、前記課題を解決することができた。図2に、芳香族溶媒にp-クロロアニリンを共存させた溶媒中で、9-BBNを重合開始剤として用いてスチレンをリビングラジカル重合する工程におけるp-クロロアニリンのリビング性安定化の機構を説明する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)トルエン溶媒に9-BBNに対し1~3倍当量のp-クロロアニリンを存在させることを特徴とする、9-BBNを開始剤として酸素存在雰囲気下でスチレンのリビングラジカル重合を維持するスチレンをヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合するための新規溶媒系、または、(2)ベンゼン溶媒に9-BBNに対し1~3倍当量のp-クロロアニリンを存在させることを特徴とする、9-BBNを開始剤として酸素存在雰囲気下でスチレンのリビングラジカル重合を維持するスチレンをヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合するための新規溶媒系、である。
【0008】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
A.本発明のp-クロロアニリンを配合した芳香族溶媒のリビングラジカル重合効果について、溶媒としてp-クロロアニリンを加えたトルエン、溶媒としてトルエンのみ、溶媒なしでp-クロロアニリンを添加した系でのスチレンの重合の転化率と数平均分子量の相関を表1に示し説明する。
【0009】
【表1】
JP0004445188B2_000002t.gif
【0010】
前記表1のp-クロロアニリンを、9-BBNを重合開始剤とするスチレンの重合系存在させた効果は、溶媒としてトルエンを用いた場合に現れる特異なものである。このことは、トルエン溶媒を用いない、すなわちバルク重合での9-BBNを重合開始剤とするスチレンの重合系にp-クロロアニリンを存在させてもリビングラジカル重合性が見られないこと(参考例5~8)から理解される。因みに、前記先行技術において、エーテル酸素をその分子構造中に有する溶媒を用いた9-BBNを重合開始剤とするα,β-不飽和カルボニルモノマーの重合において、前記溶媒がリビング性に寄与する。このことは、p-クロロアニリンによるリビング性の発現は前記エーテル酸素を有する化合物とは異なるものと推測され、前記先行技術文献から予測できないことである。
前記p-クロロアニリンを存在させることの効果は、溶媒としてベンゼンを用いた場合にも観察されることから、p-クロロアニリンと芳香族溶媒の組み合わせは、9-BBNを重合開始剤とするスチレンの重合のリビングラジカル重合の新規反応溶媒系であることが理解できる。
【0011】
前記重合における反応温度は、溶媒、モノマーが液状である条件であればよい。p-クロロアニリンの9-BBNに対する配合量は等モル~3倍当量までである。あまり多いとリビング性はなくなる。
芳香族溶媒にジオキサン、テトラヒドロフラン、およびジエチレングリコールジメチルエーテルから選択される少なくとも1種の化合物を存在させた場合にもp-クロロアニリンを存在させた場合と同様に9-BBNを重合開始剤とするスチレンの重合のリビングラジカル重合の安定化に寄与することも確認された。
【0012】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、この例示により本発明が限定的に解釈されるものではない。
実施例1~4、参考例1~8
実施例1ラバーセプタム(ゴム栓)付き褐色重合管を4本(1時間毎のサンプルとする)(実施例1~4)用い、該管中にスチレンモノマー4.30mmol、トルエン1.0mL、9-BBN重合開始剤0.043mmol、p-クロロアニリン0.043mmolを入れる。該反応管の温度を80℃に暖め重合を開始させた。重合開始後、1時間毎に4時間まで、前記重合管の1本の内容物を大量のメタノール中に入れて、ポリマーを得る。それぞれのサンプリング時間における得られたポリマーの転化率および分子量、すなわち、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnなどを求めた。分子量は、溶出溶剤としてTHFを用い、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定した。
対比のために、p-クロロアニリンを加えない系(参考例1~4)、p-クロロアニリンを加えトルエンを加えない系(参考例5~8)を用いて重合した場合を示した。
これらの結果は、前記表1に示した。
【0013】
実施例5~8、参考例9~12
溶媒をベンゼンに換え、p-クロロアニリンの添加量を0.129mmol(9-BBN重合開始剤の量の3倍量)に換えた以外実施例1~4に従ってスチレンのリビングラジカル重合性を調べた。結果を表2に示す。
【0014】
【表2】
JP0004445188B2_000003t.gif
【0015】
表2の結果より、転化率と数平均分子量の比例的相関から、この重合のリビン性が認められる。これらの結果は、重合の制御が可能であることを示しており、バッチ重合においても、連続重合においても利用可能である。特に溶媒は重合系においてそのまま残り、ポリマーの搬送を容易にし得るから、連続重合系の装置における製造が可能と考えられ、産業上の利用性が期待できる。
【0016】
実施例9~12
溶媒をトルエンに換え、共存させる化合物をジグリムとし、トルエン/ジグリムの容量比(v/v)を1/1とし、かつ、スチレン:トルエン:ジグリムの容量比を1:1:1として、また、スチレンモノマーに対して1/100当量の9-BBM重合開始剤を用いて、表3の条件でスチレンのリビングラジカル重合性を調べた。結果を表3に示す。
【0017】
【表3】
JP0004445188B2_000004t.gif
【0018】
の結果より、転化率と数平均分子量の比例的相関から、この重合のリビン性が認められる。これらの結果は、重合の制御が可能であることを示しており、バッチ重合においても、連続重合においても利用可能である。特に溶媒は重合系においてそのまま残り、ポリマーの搬送を容易にし得るから、連続重合系の装置における製造が可能と考えられ、産業上の利用性が期待できる。
【0019】
【発明の効果】
以上述べたように、芳香族溶媒系を用いた、新規な9-BBN重合開始剤を用いたスチレンのリビングラジカル重合系を確立できたことは、分子量分布の改善が必要であるという問題はあるものの、生成ポリマーの分子量を制御した連続重合の工程の設計を可能にする可能性をもたらした点で、優れた効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ジオキサン中での9-BBNを重合開始剤として用いたスチレンのヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合
【図2】 p-クロロアニリン添加ベンゼンあるいはトルエン中での9-BBNを重合開始剤として用いたスチレンのヒドロホウ素化-自動酸化リビングラジカル重合
図面
【図1】
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【図2】
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