TOP > 国内特許検索 > ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体酵素、それをコードする遺伝子、その遺伝子が導入された形質転換体、及びそれらを利用したヘリコバクター・ピロリ菌感染患者の治療薬と感染予防剤 > 明細書

明細書 :ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体酵素、それをコードする遺伝子、その遺伝子が導入された形質転換体、及びそれらを利用したヘリコバクター・ピロリ菌感染患者の治療薬と感染予防剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4330947号 (P4330947)
公開番号 特開2004-097212 (P2004-097212A)
登録日 平成21年6月26日(2009.6.26)
発行日 平成21年9月16日(2009.9.16)
公開日 平成16年4月2日(2004.4.2)
発明の名称または考案の名称 ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体酵素、それをコードする遺伝子、その遺伝子が導入された形質転換体、及びそれらを利用したヘリコバクター・ピロリ菌感染患者の治療薬と感染予防剤
国際特許分類 C12N   9/50        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
FI C12N 9/50
C12N 15/00 ZNAA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 C
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 37
出願番号 特願2003-198281 (P2003-198281)
出願日 平成15年7月17日(2003.7.17)
優先権出願番号 2002211768
優先日 平成14年7月19日(2002.7.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年6月15日(2006.6.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】宇田 泰三
【氏名】一二三 恵美
【氏名】藤井 亮治
【氏名】森原 史子
【氏名】近本 肥干
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
【識別番号】100080034、【弁理士】、【氏名又は名称】原 謙三
【識別番号】100113701、【弁理士】、【氏名又は名称】木島 隆一
【識別番号】100116241、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 一郎
審査官 【審査官】高堀 栄二
参考文献・文献 国際公開第99/033968(WO,A1)
平成13年度日本生物工学会大会講演要旨集(2001)p.13
平成13年度日本生物工学会大会講演要旨集(2001)p.339
日本化学会講演予稿集,Vol.79th,No.2(2001)p.882
J.Ferment.Bioeng.,Vol.86,No.3(1998)p.271-276
日本化学会バイオテクノロジー部会シンポジウム講演要旨集,Vol.4th(1999)p.53
平成11年度日本生物工学会大会講演要旨集(1999)p.50
BIO INDUSTRY,Vol.18,No.8(2001)p.5-15
調査した分野 BIOSIS/WPI(DIALOG)
PubMed
CA(STN)
JSTPlus(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体断片であり、かつ、前記ウレアーゼの分解酵素として作用する抗体酵素であって、
配列番号3に示すアミノ酸配列を含んでなることを特徴とする抗体酵素。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体酵素をコードする遺伝子。
【請求項3】
配列番号16に示す塩基配列からなることを特徴とする請求項2に記載の遺伝子。
【請求項4】
請求項2または3に記載の遺伝子が導入された形質転換体。
【請求項5】
前記遺伝子を植物に導入し、発現させることを特徴とする請求項4に記載の形質転換体。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する抗体酵素、それをコードする遺伝子、その遺伝子が導入された形質転換体、及びそれらを利用したヘリコバクター・ピロリ菌の感染患者に対する治療薬・感染予防剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter Pylori)菌は、細長いS字型のグラム陰性菌であり、組織学的に胃潰瘍発症者や消化性潰瘍発症者の胃の生体試料から高い頻度で検出される。このことから、ヘリコバクター・ピロリ菌は胃潰瘍・胃炎の原因菌であると考えられ、かつ最終的には胃癌の発生にも関わっていることが示唆される。このことは、WHO(世界保健機関)からも報告されている。
【0003】
このヘリコバクター・ピロリ菌(以下、HPと称する)に感染している日本人の割合は、50歳以上の成人では80%にものぼると言われており、HP菌の除菌と迅速診断に関する研究開発が社会的に要請されている。HPを除菌するために、これまでにいくつかの抗生物質が開発されているが、最近では3種の抗生物質を併用した形でHP感染患者への投与が行われており、かなりの治癒効果が認められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、細菌やウィルスを除去するための抗菌剤や抗ウィルス剤として、抗生物質がその主役を担ってきた。ところが近年、抗生物質に対する薬剤耐性菌の出現スピードが非常に早くなってきている。抗生物質の開発に約10年の期間を必要とするにもかかわらず、最近では抗生物質を投与後、早いものであれば数ヶ月で耐性菌が出現して抗生物質が効かなくなるというケースが報告されて問題となっている。
【0005】
ヘリコバクター・ピロリ菌に関しても同様の問題が発生しており、抗生物質投与開始後間もないにもかかわらず、すでにHPに対する耐性菌の出現が報告されている。また、抗生物質による除菌後に胃潰瘍を再発するケースも見られることが明らかとなってきた。こうした背景から、HPに対してこれまでとは違う新しい薬剤の開発が望まれている。
【0006】
ところで、ヒトの胃内は胃酸の分泌によって酸性が強くなっているため、通常外部から侵入した細菌は生存することができないが、ヘリコバクター・ピロリ菌は、自身の細胞外膜に発現しているウレアーゼの作用によって、酸性の強い胃内でも生存することができる。そこで、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼの活性を抑制すれば、当該菌は胃内で生存することが不可能になり、感染を防ぐことができる。
【0007】
本発明はこの点に着目し、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼに対する分解作用を示すことによって、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に有効であり、かつ、薬剤耐性菌の出現を回避することができる抗体酵素を提供するものである。さらに本発明は、その抗体酵素をコードする遺伝子、その遺伝子が導入された形質転換体、及びそれらを利用したヘリコバクター・ピロリ菌感染患者の治療薬・感染予防剤を提供するものでもある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、上記課題を解決するために、抗体でありながら酵素作用を有し、標的としたタンパク質を完全分解することのできる抗体酵素に着目し、HPウレアーゼに対する抗体酵素を得るために鋭意検討した。その結果、HPウレアーゼに対する抗体のうち、抗体酵素としての機能を発揮するものが存在することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る抗体酵素は、ヘリコバクター・ピロリ菌のウレアーゼを抗原とする抗体またはその抗体断片であり、かつ、上記ウレアーゼの分解酵素として作用するものである。ここで、上記「抗体断片」とは、HPウレアーゼを抗原とする抗体を構成する各ペプチド鎖、さらにはこの各ペプチド鎖内の一部の領域のペプチド断片を意味する。
【0010】
また、上記「抗体酵素」とは、抗体でありながら酵素作用を有するものであり、その中でも特に、その抗原タンパク質を標的として高い分解活性を示すものは「スーパー抗体酵素」と呼ばれる。上記「スーパー抗体酵素」は、標的としたタンパク質を完全分解することができ、しかも天然型酵素に近い活性を有する(参考文献:Super Catalytic Antibody [I] : Decomposition of targeted protein by its antibody light chain. Hifumi, E., Okamoto, Y., Uda, T., J. Biosci. Bioeng., 88(3), 323-327 (1999))。本発明の抗体酵素は、HPウレアーゼを抗原とする抗体であり、当該HPウレアーゼを完全分解するため、「スーパー抗体酵素」に含まれる。
【0011】
上記抗体酵素は、HPウレアーゼの抗体としての性質を色濃く残した状態で、その抗原であるHPウレアーゼを分解するという性質を持っている。そのため、上記抗体酵素は特異性が高く、ヘリコバクター・ピロリ菌の生存に不可欠なウレアーゼのみを狙って分解することができる。
【0012】
また、抗菌剤や抗ウィルス剤として抗生物質を用いた場合、細菌やウィルスが自身のタンパク質を変異させることで、抗生物質に対する耐性を獲得し、薬剤耐性菌(細胞)が出現してしまう。しかしながら、細菌やウィルスは自身の生存に必須となる部分は変異させることができない。上記抗体酵素はその必須部分であるウレアーゼを狙って攻撃し、その生理活性を完全に消失させることができるため、症状の回復はもちろん、薬剤耐性菌(細胞)の出現も回避することができる。
【0013】
上記抗体酵素は、HPウレアーゼの抗体の可変領域を含むことが好ましい。この「可変領域」とは、抗体を構成するH鎖及びL鎖のうち、N末端から約110残基のアミノ酸からなる部分のことである。この可変領域は、抗体の種類によって一次構造に多様性が見られ、抗体が酵素としての活性を有する場合にその活性中心が含まれている可能性が高い。それゆえ、上記抗体酵素が抗体の可変領域を含めば、酵素として高い活性を有することができる。
【0014】
また、上記抗体酵素は触媒三つ組残基構造を有することが好ましい。なお、「触媒三つ組残基構造」とは、少なくともセリンを含む3つのアミノ酸残基が活性部位に含まれ活性中心を形成していると推定される構造のことを言う。この触媒三つ組残基構造を有するプロテアーゼは、活性部位にセリンが含まれることからセリンプロテアーゼと呼ばれる。従って、上記抗体酵素はセリンプロテアーゼの一種であると言うこともできる。この触媒三つ組残基と推定される構造を有していれば、プロテアーゼとして高い活性を有していると予測できる。
【0015】
本発明に係る抗体酵素として、具体的には、配列番号1に示すアミノ酸配列、又は、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含んでなるものを挙げることができる。
【0016】
上記配列番号1に示すアミノ酸配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-18のL鎖の可変領域である。このHpU-18のL鎖の可変領域は、後述の実施例にも示されるように、HPウレアーゼの分解酵素として高い活性が認められた。
【0017】
また、上記「1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加」とは、例えば、遺伝子工学的手法を用いて部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異タンパク質作製法により置換、欠失、挿入、および/または付加できる程度の数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されるものであればよい。このように、遺伝子工学的手法を用いた場合、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなる抗体酵素は、換言すれば、配列番号1に示すアミノ酸配列からなる抗体酵素の変異体である。
【0018】
本発明に係る抗体酵素の他の例として、配列番号2、3、4、6、8の何れかに示すアミノ酸配列を含んでなるもの、さらに、配列番号2、3、4、6、8の何れかに示されるアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を含んでなるものを挙げることができる。
【0019】
配列番号2に示すアミノ酸配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-9のL鎖の可変領域であり、配列番号3に示すアミノ酸配列はHPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-2のH鎖の可変領域である。また、配列番号4に示すアミノ酸配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-20のL鎖の可変領域であり、配列番号6に示すアミノ酸配列は、上記HpU-20のH鎖の可変領域である。さらに、配列番号8に示すアミノ酸配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体UA-15のL鎖の可変領域である。これらのアミノ酸配列を有する抗体酵素についても、後述の実施例に示されるようにHPウレアーゼの分解酵素として高い活性が認められた。
【0020】
上記抗体酵素は、HP菌の生存に必須であるHPウレアーゼを分解する作用があるため、HP菌の除菌に利用することができる。それゆえ、本発明に係るHP菌の感染患者に対する治療薬は、上記抗体酵素を含んでなるものである。この治療薬は経口で服用したら、胃内に生存しているHP菌を直接攻撃することが可能であるため、副作用が少ないとともに、即時的に効果を発揮することができる。
【0021】
なお、上記抗体酵素は、治療薬として利用できるだけでなく、経口摂取が可能なことから食品などに含ませ、日常的に摂取しHP菌の感染を予防することが可能である。従って、本発明には、上記抗体酵素を含んでなるHP菌の感染予防剤も含まれる。
【0022】
本発明には上記抗体酵素をコードする遺伝子も含まれ、この遺伝子を適当な宿主(例えば細菌、酵母)に導入すれば、本発明の抗体酵素をその宿主内で発現させることができる。
【0023】
本発明に係る遺伝子として具体的には、配列番号5、7、9、14、15、16の何れかに示す塩基配列からなるものを挙げることができる。配列番号5に示す塩基配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-20の軽鎖(L鎖)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列であり、配列番号7に示す塩基配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-20の重鎖(H鎖)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列である。また、配列番号9に示す塩基配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体UA-15の軽鎖(L鎖)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列である。
【0024】
また、配列番号14に示す塩基配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-18の軽鎖(L鎖)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列のうちの一つである。配列番号15に示す塩基配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-9の軽鎖(L鎖)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列のうちの一つである。配列番号16に示す塩基配列は、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-2の重鎖(H鎖)の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列のうちの一つである。
【0025】
なお、上記「遺伝子」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。さらに、上記「遺伝子」は、上記本発明のペプチドをコードする配列以外に、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0026】
さらに本発明には、上記遺伝子が導入された形質転換体も含まれる。上記形質転換体は、自身の体内において上記抗体酵素を発現させることができる。従って、上記形質転換体の宿主として植物を用い、この植物に上記遺伝子を導入し、発現させれば、上記抗体酵素を含む形質転換体を得ることができる。この形質転換体は、HPの感染を予防するという機能を備えた上記抗体酵素を含んでいるため、これを日常的に摂取すればHPの感染を抑制することができ、機能性食品として利用することができる。上記抗体酵素は加熱によってその構造が破壊されるため、上記遺伝子が導入される植物としては、生食に適した野菜であることが好ましい。このような野菜として、具体的にはトマト、キュウリ、ニンジンなどを挙げることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0028】
(1-1)本発明に係る抗体酵素、および遺伝子について
本発明に係る抗体酵素について、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-18、HpU-9、HpU-2の抗体断片を例に挙げて説明する。このHpU-18、HpU-9、HpU-2の抗体断片は、具体的には、それぞれHpU-18抗体のL鎖の可変領域、HpU-9抗体のL鎖の可変領域、HpU-2抗体のH鎖の可変領域である。これら3つの抗体酵素は、HPウレアーゼの複数のモノクローナル抗体の中から、その可変領域のアミノ酸配列を分子モデリングすることによってその立体構造を推定した結果、セリン、ヒスチジン(又はグルタミン酸)、アスパラギン酸からなる触媒三つ組残基を構成できるアミノ酸配列(抗体断片)として探し出されたものである。
【0029】
上記HpU-18抗体のL鎖の可変領域(以下、HpU-18-Lと呼ぶ)、上記HpU-9抗体のL鎖の可変領域(以下、HpU-9-Lと呼ぶ)、及び上記HpU-2抗体のH鎖の可変領域(以下、HpU-2-Hと呼ぶ)は、HPウレアーゼの分解酵素として作用する。これは、後述の実施例に示されるように、HPウレアーゼの一部の領域に相当するペプチドを完全に分解するという結果からも明らかである。なお、分解された上記ペプチドは、HPウレアーゼの酵素活性を発揮するために重要な領域の一つである。そのため、この領域を分解することによってHPウレアーゼの機能を完全に破壊し、それに伴ってHP菌が酸性の強いヒト胃内で生存することを不可能にさせることができる。即ち、上記ペプチドを分解できる本発明の抗体酵素は、HP菌を効率よく除菌することができる。
【0030】
続いて、上記HpU-18-Lの構造について以下に詳細に説明する。HpU-18-Lは、上述のようにHPウレアーゼのモノクローナル抗体の一つHpU-18のL鎖の可変領域であり、配列番号1に示すアミノ酸配列を一次構造として有している。図1には、HpU-18-Lのアミノ酸配列、及びその下段にそれをコードする遺伝子の塩基配列の一例を示す。なお、この塩基配列は、本実施例においてクローニングしたHpU-18抗体L鎖の遺伝子の塩基配列である。図1では、抗原分子(HPウレアーゼ)と相補的な立体構造を形成し、抗体の相補性を決定する相補性決定部位を、CDR-1、CDR-2、CDR-3として二重下線を付して示している。
【0031】
図2には、上記HpU-18-Lのアミノ酸配列を分子モデリングした結果、推定される立体構造を模式的に示す。図2に示すように、配列番号1に示すアミノ酸配列において第1番目のアスパラギン酸(図2ではカバット(KABAT)の分類によってD1と示す)、第98番目のヒスチジン(図2ではカバットの分類によってH93と示す)、第97番目のセリン(図2ではカバットの分類によってS92と示す)又は第28番目のセリン(図2ではカバットの分類によってS27aと示す)が触媒三つ組残基を構成していると推定される。またあるいは、配列番号1に示すアミノ酸配列において第33番目のアスパラギン酸(図2ではカバットの分類によってD28と示す)、第31番目のヒスチジン(図2ではカバットの分類によってH27dと示す)、第32番目のセリン(図2ではカバットの分類によってS27eと示す)が触媒三つ組残基を構成していると推定される。
【0032】
また、本発明の抗体酵素は、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、即ち、上記HpU-18-Lの変異体であって、HPウレアーゼの分解酵素として作用するものであってもよい。さらに上記抗体酵素は、配列番号1に示すアミノ酸配列のC末端側にHpU-18抗体L鎖の残りのアミノ配列が適宜付加されたものでもよく、HpU-18抗体L鎖全長であってもよい。
【0033】
次に、上記HpU-9-Lの構造について以下に詳細に説明する。HpU-9-Lは、上述のようにHPウレアーゼのモノクローナル抗体の一つであるHpU-9のL鎖の可変領域であり、配列番号2に示すアミノ酸配列を一次構造として有している。図3には、HpU-9-Lのアミノ酸配列、及びその下段にそれをコードする遺伝子の塩基配列の一例を示す。なお、この塩基配列は、本実施例においてクローニングしたHpU-9抗体L鎖の遺伝子の塩基配列である。図3では、相補性決定部位を、CDR-1、CDR-2、CDR-3として二重下線を付して示している。
【0034】
図4には、上記HpU-9-Lのアミノ酸配列を分子モデリングした結果、推定される立体構造を模式的に示す。図4に示すように、配列番号2に示すアミノ酸配列において第1番目のアスパラギン酸(図4ではカバット(KABAT)の分類によってD1と示す)、第98番目のヒスチジン(図4ではカバットの分類によってH93と示す)、第26番目のセリン(図4ではカバットの分類によってS26と示す)又は第28番目のセリン(図4ではカバットの分類によってS27aと示す)が触媒三つ組残基を構成していると推定される。
【0035】
また、本発明の抗体酵素は、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、即ち、上記HpU-9-Lの変異体であって、HPウレアーゼの分解酵素として作用するものであってもよい。さらに上記抗体酵素は、配列番号2に示すアミノ酸配列のC末端側にHpU-9抗体L鎖の残りのアミノ配列が適宜付加されたものでもよく、HpU-9抗体L鎖全長であってもよい。
【0036】
次に、上記HpU-2-Hの構造について以下に詳細に説明する。HpU-2-Hは、上述のようにHPウレアーゼのモノクローナル抗体の一つであるHpU-2のH鎖の可変領域であり、配列番号3に示すアミノ酸配列を一次構造として有している。図5には、HpU-2-Hのアミノ酸配列、及びその下段にそれをコードする遺伝子の塩基配列の一例を示す。なお、この塩基配列は、本実施例においてクローニングしたHpU-2抗体H鎖の遺伝子の塩基配列である。図5では相補性決定部位を、CDR-1、CDR-2、CDR-3として下線を付して示している。
【0037】
図6には、上記HpU-2-Hのアミノ酸配列を分子モデリングした結果、推定される立体構造を模式的に示す。図6に示すように、配列番号3に示すアミノ酸配列において第90番目のアスパラギン酸(図6ではカバット(KABAT)の分類によってD86と示す)、第89番目のグルタミン酸(図6ではカバットの分類によってE85と示す)、第88番目のセリン(図6ではカバットの分類によってS84と示す)又は第91番目のセリン(図6ではカバットの分類によってS87と示す)が触媒三つ組残基を構成していると推定される。
【0038】
また、本発明の抗体酵素は、配列番号3に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、即ち、上記HpU-2-Hの変異体であって、HPウレアーゼの分解酵素として作用するものであってもよい。さらに上記抗体酵素は、配列番号3に示すアミノ酸配列のC末端側にHpU-2抗体H鎖の残りのアミノ配列が適宜付加されたものでもよく、HpU-2抗体H鎖全長であってもよい。
【0039】
本発明に係る遺伝子は、上記抗体酵素をコードする遺伝子であり、例えば配列番号14、15、16に示す塩基配列からなる遺伝子を挙げることができる。しかしながら、本発明に係る遺伝子はこれに限定されることなく、配列番号1、2、3に示すアミノ酸配列有する抗体酵素をコードする種々の遺伝子、さらには、その変異体をコードする遺伝子であってもよい。
【0040】
(1-2)本発明の抗体酵素の他の例
続いて、本発明の抗体酵素の他の例として、HPウレアーゼのモノクローナル抗体HpU-20の抗体断片を例に挙げて説明する。このHpU-20の抗体断片は、具体的には、HpU-20抗体のL鎖の可変領域、および、HpU-20抗体のH鎖の可変領域である。これら2つの抗体酵素も、上述のHpU-18-Lなどと同様に、HPウレアーゼの複数のモノクローナル抗体の中から、その可変領域のアミノ酸配列を分子モデリングすることによってその立体構造を推定した結果、セリン、ヒスチジン(又はグルタミン酸)、アスパラギン酸からなる触媒三つ組残基を構成できるアミノ酸配列(抗体断片)として探し出されたものである。
【0041】
上記HpU-20抗体のL鎖の可変領域(以下、HpU-20-Lと呼ぶ)、上記HpU-20抗体のH鎖の可変領域(以下、HpU-20-Hと呼ぶ)は、HPウレアーゼの分解酵素として作用する。これは、後述の実施例に示されるように、HPウレアーゼのβサブユニットを分解するという結果からも明らかである。なお、分解された上記ペプチドは、HPウレアーゼの酵素活性を発揮するために重要な領域の一つである。そのため、この領域を分解することによってHPウレアーゼの機能を完全に破壊し、それに伴ってHP菌が酸性の強いヒト胃内で生存することを不可能にさせることができる。即ち、上記ペプチドを分解できる本発明の抗体酵素は、HP菌を効率よく除菌することができる。
【0042】
続いて、上記HpU-20-Lの構造について以下に詳細に説明する。HpU-20-Lは、上述のようにHPウレアーゼのモノクローナル抗体の一つHpU-20のL鎖の可変領域であり、配列番号4に示すアミノ酸配列を一次構造として有している。図11には、HpU-20-Lのアミノ酸配列、及びその下段にそれをコードする遺伝子の塩基配列の一例を示す。なお、この塩基配列は、本実施例においてクローニングしたHpU-20抗体L鎖の遺伝子の塩基配列である。図11では、抗原分子(HPウレアーゼ)と相補的な立体構造を形成し、抗体の相補性を決定する相補性決定部位を、CDR-1、CDR-2、CDR-3として下線を付して示している。
【0043】
図9には、上記HpU-20-Lのアミノ酸配列を分子モデリングした結果、推定される立体構造を模式的に示す。図9に示すように、配列番号4に示すアミノ酸配列において第1番目のアスパラギン酸(図9ではカバット(KABAT)の分類によってD1と示す)、第98番目のヒスチジン(図9ではカバットの分類によってH93と示す)、第97番目のセリン(図9ではカバットの分類によってS92と示す)又は第28番目のセリン(図9ではカバットの分類によってS27aと示す)が触媒三つ組残基を構成していると推定される。なお、HpU-20-Lのgermlineは、cr1である。
【0044】
また、本発明の抗体酵素は、配列番号4に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、即ち、上記HpU-20-Lの変異体であって、HPウレアーゼの分解酵素として作用するものであってもよい。さらに上記抗体酵素は、配列番号4に示すアミノ酸配列のC末端側にHpU-20抗体L鎖の残りのアミノ配列が適宜付加されたものでもよく、HpU-20抗体L鎖全長であってもよい。
【0045】
次に、上記HpU-20-Hの構造について以下に詳細に説明する。HpU-20-Hは、上述のようにHPウレアーゼのモノクローナル抗体の一つであるHpU-20のH鎖の可変領域であり、配列番号6に示すアミノ酸配列を一次構造として有している。図12には、HpU-20-Hのアミノ酸配列、及びその下段にそれをコードする遺伝子の塩基配列の一例を示す。なお、この塩基配列は、本実施例においてクローニングしたHpU-20抗体H鎖の遺伝子の塩基配列である。図12では、相補性決定部位を、CDR-1、CDR-2、CDR-3として下線を付して示している。
【0046】
図10には、上記HpU-20-Hのアミノ酸配列を分子モデリングした結果、推定される立体構造を模式的に示す。図10に示すように、配列番号6に示すアミノ酸配列において第90番目のアスパラギン酸(図10ではカバット(KABAT)の分類によってD86と示す)、第89番目のグルタミン酸(図10ではカバットの分類によってE85と示す)、第88番目のセリン(図10ではカバットの分類によってS84と示す)が触媒三つ組残基を構成していると推定される。
【0047】
また、本発明の抗体酵素は、配列番号6に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、即ち、上記HpU-20-Hの変異体であって、HPウレアーゼの分解酵素として作用するものであってもよい。さらに上記抗体酵素は、配列番号6に示すアミノ酸配列のC末端側にHpU-20抗体H鎖の残りのアミノ配列が適宜付加されたものでもよく、HpU-20抗体H鎖全長であってもよい。
【0048】
本発明に係る遺伝子は、上記抗体酵素をコードする遺伝子であり、例えば配列番号5、7に示す塩基配列からなる遺伝子を挙げることができる。この配列番号5に示す塩基配列からなる遺伝子は、HpU-20のL鎖の可変領域をコードする遺伝子(cDNA)の塩基配列の一つであり、配列番号7に示す塩基配列からなる遺伝子は、HpU-20のH鎖の可変領域をコードする遺伝子(cDNA)の塩基配列の一つである。しかしながら、本発明に係る遺伝子はこれに限定されることなく、配列番号4、6に示すアミノ酸配列有する抗体酵素をコードする種々の遺伝子、さらには、その変異体をコードする遺伝子であってもよい。
【0049】
(1-3)本発明の抗体酵素のさらに他の例
続いて、本発明の抗体酵素のさらに他の例として、HPウレアーゼのモノクローナル抗体UA-15の抗体断片を例に挙げて説明する。このUA-15の抗体断片とは、具体的には、UA-15抗体のL鎖の可変領域である。この抗体酵素も、上述のHpU-18-Lなどと同様に、HPウレアーゼの複数のモノクローナル抗体の中から、その可変領域のアミノ酸配列を分子モデリングすることによってその立体構造を推定した結果、セリン、ヒスチジン、アスパラギン酸からなる触媒三つ組残基を構成できるアミノ酸配列(抗体断片)として探し出されたものである。
【0050】
上記UA-15抗体のL鎖の可変領域(以下、UA-15-Lと呼ぶ)は、HPウレアーゼの分解酵素として作用する。そして、HPウレアーゼを分解することによってHPウレアーゼの機能を完全に破壊し、それに伴ってHP菌が酸性の強いヒト胃内で生存することを不可能にさせることができる。即ち、上記ペプチドを分解できる本発明の抗体酵素は、HP菌を効率よく除菌することができる。
【0051】
続いて、上記UA-15-Lの構造について以下に詳細に説明する。UA-15-Lは、上述のようにHPウレアーゼのモノクローナル抗体の一つUA-15のL鎖の可変領域であり、配列番号8に示すアミノ酸配列を一次構造として有している。
【0052】
図18には、軽鎖と重鎖からなるUA-15の可変領域の立体構造モデリング(分子モデリング)を行った結果、推定された立体構造を模式的に示す。図18においては、軽鎖をLで示し、重鎖をHで示している。図18に示すように、配列番号8に示すアミノ酸配列を有するUA-15L鎖において、第1番目のアスパラギン酸(図18では、カバット(KABAT)の分類によって、Asp1と記す)、第28番目のセリン(図18では、カバットの分類によって、Ser27aと記す)、第94番目のヒスチジン(図18では、カバットの分類によって、His90と記す)が、触媒三つ組残基を構成していると推測される。
【0053】
また、本発明の抗体酵素は、配列番号8に示すアミノ酸配列において、1またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなるもの、即ち、上記UA-15-Lの変異体であって、HPウレアーゼの分解酵素として作用するものであってもよい。さらに上記抗体酵素は、配列番号8に示すアミノ酸配列のC末端側にUA-15抗体L鎖の残りのアミノ配列が適宜付加されたものでもよく、UA-15抗体L鎖全長であってもよい。
【0054】
本発明に係る遺伝子は、上記抗体酵素をコードする遺伝子であり、例えば配列番号9に示す塩基配列からなる遺伝子を挙げることができる。この配列番号9に示す塩基配列からなる遺伝子は、UA-15のL鎖の可変領域をコードする遺伝子(cDNA)の塩基配列の一つである。しかしながら、本発明に係る遺伝子はこれに限定されることなく、配列番号8に示すアミノ酸配列を有する抗体酵素をコードする種々の遺伝子、さらには、その変異体をコードする遺伝子であってもよい。
【0055】
なお、UA-15の重鎖の可変領域は、配列番号10に示すアミノ酸配列を一次構造として有しているが、このUA-15の重鎖には、触媒三つ組残基と推測される構造は存在しないため、抗体酵素としての活性を有しない。また、このUA-15の重鎖の可変領域をコードする遺伝子の塩基配列を、配列番号11として併せて記載する。
【0056】
(2)本発明に係る抗体酵素の取得方法について
本発明に係る抗体酵素が、HpU-18L鎖やHpU-2H鎖、あるいは、HpU-20のL鎖およびH鎖や、UA-15L鎖などのようにHPウレアーゼの抗体のH鎖やL鎖の全長である場合には、従来公知の抗体取得方法を利用して、該当するHPウレアーゼのモノクローナル抗体を取得しH鎖とL鎖とに分離すればよい。また、本発明に係る抗体酵素が、HPウレアーゼの抗体断片である場合には、先ず該当するモノクローナル抗体を取得し、その後、上記モノクローナル抗体を適当なプロテアーゼを用いて目的とする抗体断片が得られるように切断すればよい。
【0057】
また、上述のHpU-18-L、HpU-9-L、HpU-2-H、HpU-20-L、HpU-20-H、UA-15-Lなどのようにそのアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子配列が明らかとなっている抗体酵素については、遺伝子組み換え技術などを用いて取得することができる。この場合、上記抗体酵素をコードする遺伝子をベクターなどに組み込んだ後、発現可能に宿主細胞に導入し、細胞内で翻訳されたペプチドを精製するという方法などを採用することができる。なお、大量発現させることができる適当なプロモーターとともに上記抗体酵素をコードする遺伝子を組み込めば、目的とする抗体酵素を効率よく取得できる可能性がある。
【0058】
上記抗体酵素のアミノ酸配列が明らかでない場合には、後述の実施例に示すように、先ずモノクローナル抗体産生細胞からmRNAを取得し、当該mRNAからcDNAを合成しその遺伝子配列を読み取る。その後、その遺伝子配列からアミノ酸配列を推定し、分子モデリングによって3次元構造を予測して触媒三つ組残基様構造が含まれているか否かを確認すればよい。そして、上記触媒三つ組残基様構造が含まれている抗体断片を抗体酵素として取得することができる。
【0059】
なお、HpU-18-L、HpU-9-L、HpU-2-H、HpU-20-L、HpU-20-H、及びUA-15-Lの変異体のうち、そのC末端に各抗体のL鎖あるいはH鎖の残りのアミノ酸配列が任意の数だけ付加されている場合には、例えば、後述の実施例における実験7において3’側のプライマーを適宜変更すればよい。
【0060】
また、本発明に係る抗体酵素をコードする遺伝子については、その塩基配列が明らかとなっているものの場合には、そのcDNA(あるいはゲノムDNA)を取得した後、それを鋳型として適当なプライマーを用いてPCRを行うことによって該当する領域を増幅させることで取得することができる。また、部位特異的突然変異誘発法を利用して、変異が導入された遺伝子が得られれば、それを導入した形質転換体においては、配列番号1、2、3、4、6、8に示すアミノ酸からなる抗体酵素の変異体が翻訳産物として得られる。
【0061】
(3)本発明の抗体酵素、及びそれをコードする遺伝子の利用方法について
上述のようにして得られた抗体酵素は、抗体としての性質を残した状態で抗原であるHPウレアーゼを分解することができる。そのため、HPウレアーゼに対して特異的に作用するHP菌の除菌剤として使用することができる。また、上記抗体酵素は、HP菌の生存に不可欠なウレアーゼを破壊するため、従来除菌剤として使用されてきた抗生物質とは異なり、HP菌に対する薬剤耐性を与えないと考えられる。さらに、上記抗体酵素は、薬として開発できるだけでなく、経口摂取が可能なことから、例えば健康飲料に混ぜる、あるいはヨーグルト、バターなどの乳製品に混ぜるなどとったHP菌感染予防のための健康食品の開発にも利用できる可能性がある。
【0062】
また、本発明に係るHP菌感染患者に対する治療薬は、上述のような性質を持った抗体酵素を含んでいるため、従来治療薬として使用されていた抗生物質と比較して優れた面を有する。即ち、上記治療薬はHPウレアーゼに対する特異性が高いので、副作用を軽減させることができる。また、従来の治療薬は、薬を服用後、腸で吸収されてから身体全体に回り、各細胞に分け隔てなく入っていくが、本発明の治療薬は、経口で服用したら胃内に送られ、胃内に生存しているHP菌を直接攻撃することが可能である。従って、副作用が少ないのは勿論であるが、即時的に効果を発揮することができると考えられる。さらに、上記治療薬に含まれる抗体酵素は、HPウレアーゼを分解した後、いずれ他のプロテアーゼに分解されるため、副作用がより少ないことが期待できる。
【0063】
さらに、本発明の抗体酵素は、それをコードする遺伝子を適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することに利用できる。即ち、本発明に係る形質転換体は、上記抗体酵素をコードする遺伝子が導入された形質転換体である。ここで、「遺伝子が導入された」とは、公知の遺伝子工学的手法(遺伝子操作技術)により、遺伝子が対象細胞(宿主細胞)内に発現可能に導入されることを意味する。この形質転換体は、自身の体内で上記抗体酵素を発現させることができる。
【0064】
また、上記「形質転換体」とは、形質転換植物を含む意味であり、上記遺伝子を植物に発現可能に導入すれば形質転換植物となる。形質転換体、形質転換植物の範疇には、生物個体;根、茎、葉、生殖器官(花器官および種子を含む)などの各種器官;各種組織;細胞;などが含まれ、さらにはプロトプラスト、誘導カルス、再生個体およびその子孫なども含まれるものとする。このような形質転換植物はHP菌感染患者に対する治療薬、あるいはHP菌の感染予防剤などとして利用することができる。なお、上記形質転換植物を作製する場合に、宿主植物として例えばトマト、キュウリ、ニンジンなどを用いれば、上記抗体酵素を含む高機能植物が得られる可能性があり、それを日常的に摂取すればHP菌の感染を抑制することができる。上記高機能植物は、HP菌感染予防用の機能性食品としての商品化が期待できる。
【0065】
なお、本実施の形態において説明した図1、図3、図5、図11、図12に示す各抗体酵素のアミノ酸配列におけるアミノ酸番号は、カバットの分類による番号であるため、それに該当する各配列番号に示すアミノ酸の番号とは異なっている。
【0066】
【実施例】
本発明の実施例について、実験1ないし実験15として以下に説明する。
【0067】
〔実験1〕(HPウレアーゼの精製)
HP菌は、7%FBS含有ブルセラ液体培地で非好気性下、37℃で培養を行った。培養したHP菌体を遠心分離することによって回収し、0.15MNaClで洗浄した後、菌体を蒸留水に懸濁し、激しく攪拌することによって菌体成分を抽出した。そして、遠心・透析後の可溶成分を蒸留水抽出物(DWExtract)とした。これをQ Sepharose Fast Flowを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー、次いでSuperose6を用いたゲル濾過を行い、陰イオン交換クロマトグラフィーにかけた。さらにこれをゲル濾過し、SDS-PAGEによってHPウレアーゼの精製純度が高純度であることを確認した。
【0068】
〔実験2〕(抗体産生細胞の作製)
実験1で精製した高純度HPウレアーゼを抗原として脾細胞をNS-1ミエローマとポリエチレングリコールとで融合し、HAT選択の後、スクリーニング、クローニングを行って、HpU-2、HpU-9、HpU-18という3種の抗HPウレアーゼマウスモノクローナル抗体産生細胞を作製した。
【0069】
〔実験3〕(H鎖及びL鎖の調製)
各抗体産生細胞より得られた各精製抗体(HpU-2、HpU-9、HpU-18)に対して限外濾過を繰り返すことによって、低分子のプロテアーゼインヒビターを除去した。これに続いて、0.2Mβ-mercaptoethanolによる還元反応(15℃、3hr)と、0.3Miodoacetamideによるアルキル化反応(15℃、15min)とを行い、H鎖とL鎖とに分離した。これを限外濾過濃縮後、Protein-Pak300カラム(Millipore Corporation Waters Chromatography Division)を用いてHPLC精製した。移動相には6Mguanidine溶液(pH6.5)を使用し、流速は0.15ml/minとした。
【0070】
分取したH鎖及びL鎖の溶液は、6Mguanidine溶液で希釈調製後、PBSに対して透析してrefoldingした後に、実験条件に合わせてバッファー交換した。
【0071】
〔実験4〕(抗体産生細胞の培養)
実験2で作製した3つの抗ヘリコバクター・ピロリモノクローナル抗体(HpU-2、HpU-9、HpU-18)を産生する細胞を凍結ストックより起こした。そして、各抗体産生細胞を20%の牛胎児血清を含んだIMDM培地で培養した。温度37℃、二酸化炭素濃度5.5%の条件下、継代を繰り返しながら細胞数が5×107個になるまで培養を続けた。細胞は遠心によって回収された。
【0072】
〔実験5〕(HpU抗体産生細胞からmRNAの抽出)
PharmaciaのquickPrepTMmRNAPurification Kitのプロトコールに準じて実験を行った。回収した各抗体産生細胞にExtraction Bufferを加えてホモジナイズ後、遠心分離を行った。上澄みをOligo(dT)-cellulose Spun Columnに添加し十分に混合した。軽く遠心しゲルを沈殿させ溶液を除去した。洗浄操作を3回繰り返し、最後にElution Bufferを添加し溶出してきた溶液を回収した。溶出液は260nmの吸光度を測定することでmRNAの定量を行った後、エタノール沈殿を行い-80℃で保存した。
【0073】
〔実験6〕(mRNAからcDNAの合成)
AMW Reverse Trascriptase First-Strand cDNA Synthesis Kit(LIFE SCIENCE,INC.)のプロトコールに準じて実験を行った。各抗体産生細胞より抽出した各mRNAを遠心分離によって回収し、Rnase-freeの水に溶解した。これにpd(T)12-18Primerを加えて70℃で10分処理した。その後ジチオトレイトールとRnase Inhibitor、AMW Reverse Trascriptaseを加え混合後41℃で60分間反応させた。これによって、各抗体産生細胞のmRNAからそれぞれのcDNAが合成された。
【0074】
〔実験7〕(PCRによる抗体遺伝子の増幅)
合成したcDNAを鋳型としてMouse Ig-Prime Kit(NOVEGEN)に含まれている抗体H鎖及びL鎖の可変領域の5’側と3’側とに相補的に結合するプライマーと、dNTP Mix、AmpliTaq DNAポリメラーゼ(Roche)とを混合し、十分に攪拌した。95℃10分間インキュベート後94℃1分、50℃1分、72℃2分の反応を40回繰り返した。アガロースゲル電気泳動で増幅産物を確認した。
【0075】
HpU-2については、その結果を図8に示すように、予測した位置(HpU-2H鎖では約500bp、HpU-2L鎖では約450bp)にDNAの強いバンドを確認することができた。なお、図8において、レーン1はマーカー、レーン2はH鎖、レーン3はL鎖を電気泳動させたものである。また、図示はしないが、HpU-9H鎖では約500bp、HpU-9L鎖では約450bp、HpU-18H鎖では約500bp、HpU-18では約450bpのところに、DNAの強いバンドを確認することができた。それぞれのDNA断片を切り出して精製を行った。
【0076】
〔実験8〕(精製したそれぞれのDNA断片のクローニング)
精製した断片とpGEM-Tベクター(Promega)をT4 DNA polymeraseを用いてライゲーション反応を行った。室温で1時間インキュベート後コンピテント細胞JM109と混合し氷上で20分放置した。その後、42℃45秒、氷上2分して培地を加え、37℃で1時間培養を行った。IPTG/X-galを塗り広げた寒天プレートに培養した菌液を広げ、37℃で一昼夜インキュベートした。形成された白いコロニーを任意に選び出し、37℃で一昼夜、液体培養した。アルカリ-SDS法によって菌体からプラスミドを精製し、目的の断片が挿入されているかを確認した。
【0077】
〔実験9〕(クローニングしたHpU抗体の塩基配列及びアミノ酸配列の決定)
Thermo Sequenase II dye terminator cycle sequencing kit(Amersham Pharmacia)のプロトコールに準じて実験を行った。精製したプラスミドにプライマーとdNTP、各ddNTP、サイクルシークエンス用耐熱性DNAポリメラーゼを混合し、軽く攪拌した。95℃、10分インキュベート後94℃1分、60℃1分、72℃2分の反応を40回繰り返した。反応終了後エタノール沈殿し、最終的にDNAはstop solutionに溶解し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い塩基配列を読み取った。HpU-18(L鎖)、HpU-9(L鎖)、HpU-2(H鎖)の可変領域について、塩基配列の読み取り結果及びその塩基配列からアミノ酸配列に変換した結果をそれぞれ図1、図3、図5に示す。何れの配列も上段がアミノ酸配列、下段が塩基配列である。なお、図示はしないがHpU-18(H鎖)、HpU-9(H鎖)、HpU-2(L鎖)の可変領域についても、その塩基配列及びアミノ酸配列を決定した。
【0078】
〔実験10〕(決定したアミノ酸配列から3次元構造の予測)
抗体可変領域立体構造予測プログラムAbM(Oxford Molecular社)にHpU-2、HpU-9、HpU-18のH鎖およびL鎖のアミノ酸配列を入力し立体構造を構築した。次いでInsightII(Discover)(MSI社)でエネルギーの最小化を行い、HpU-2、HpU-9、HpU-18それぞれの可変領域の立体構造とした。
【0079】
その結果、3次元構造の分子モデリングによって推定されるHpU-18(L鎖)の可変領域の立体構造を図2に、HpU-9(L鎖)の可変領域の立体構造を図4に、HpU-2(H鎖)の可変領域の立体構造を図6に模式的に示す。上記3つの抗体断片については、触媒三つ組残基様構造が認められた。一方、図示はしないがHpU-18(H鎖)、HpU-9(H鎖)、HpU-2(L鎖)には、触媒三つ組残基様構造は認められなかった。
【0080】
〔実験11〕(HpU抗体による酵素活性試験)
HpU-2抗体のH鎖、HpU-9及びHpU-18抗体のH鎖またはL鎖とHPウレアーゼの部分ペプチドであるHPU2EPI(アミノ酸配列:183SVELDIGGNRRIFGNALVD204(配列番号12))とを15mMリン酸バッファー(PB:pH6.5)中で反応させた。なお、上記HPU2EPIは、238アミノ酸からなるHPウレアーゼタンパク質のαユニット一次構造中の第183番目から204番目の領域に相当するペプチドである。この操作はクリーンベンチ内で行った。精製済みのペプチド粉末を15mMPB(pH6.5)で溶解し、ウルトラフリーMC(ミリポア製、0.22μm)で濾過滅菌した。また、HpU-2、HpU-9、HpU-18抗体H鎖またはL鎖溶液は、反応液中の濃度がそれぞれH鎖は、0.4μM(20μg/ml)、L鎖は0.8μM(20μg/ml)、ペプチドは80μM(184.4μg/ml)になるように混合した。反応温度は25℃、反応容器は乾熱滅菌済みの小試験管で行った。反応液をHPLCで分析し、ペプチドの経時変化を追跡した。この時の分析条件は、流速0.5ml/min、波長214nm、移動相0.1%TFA・13%アセトニトリル・超純水である。反応液の分取はクリーンベンチ内で行い、サンプルをウルトラフリーC3(ミリポア製、0.5μm)に取り、10,000r.p.m、約1min遠心し、濾過してからHPLCにインジェクトした。また、コントロールとして、H鎖のみ、L鎖のみ、およびペプチドのみのものを15mMPB(pH6.5)で調製した。
【0081】
その結果を図7に示す。図7のグラフにおいて、横軸は反応時間(時間)、縦軸は基質であるペプチド(HPU2EPL)の濃度(μM)である。また、▲1▼はHpU-2(H)と上記ペプチドとを混合した場合、▲2▼はHpU-9(H)と上記ペプチドとを混合した場合、▲3▼はHpU-18(H)と上記ペプチドとを混合した場合、▲5▼はHpU-9(L)と上記ペプチドとを混合した場合、▲6▼はHpU-18(L)と上記ペプチドとを混合した場合、▲7▼は上記ペプチドのみの場合である。図7に示すように、HpU-18(L)では上記ペプチドと混合した結果、反応開始から約20時間で上記ペプチドの濃度はゼロになり、ほぼ完全に分解された。HpU-9(L)では、上記ペプチドは約90時間で完全に分解された。HpU-2(H)では反応初期に上記ペプチドの濃度がほとんど変化しない誘導期が現れ、それに続く活性期を経て、約160時間で上記ペプチドは完全に分解された。
【0082】
なお、この実験11において上記ペプチドに対する酵素活性が認められたもの(HpU-2(H)、HpU-9(L)、HpU-18(L))については、実験10の3次元構造分子モデリングにおいて触媒三つ組残基を持っていると推定された。一方、本実験11において酵素活性が認められなかったもの(HpU-18(H)、HpU-9(L))については、実験10において触媒三つ組残基を構成できないと推定された。このことより、触媒三つ組残基を有する抗体には、抗体酵素としての活性が認められることが示唆される。
【0083】
〔実験12〕(HpU-20抗体、UA-15抗体のH鎖およびL鎖の調製)実験1および実験2と同様にして、HpU-20、UA-15という2種の抗HPウレアーゼマウスモノクローナル抗体産生細胞を作製した。そして、実験3と同様の方法で、HpU-20、UA-15のH鎖およびL鎖が調製された。
【0084】
〔実験13〕(HpU-20抗体、UA-15抗体の配列決定および分子モデリング)
実験4~8と同様の方法で、HpU-20のL鎖およびH鎖、UA-15のL鎖およびH鎖のcDNAがそれぞれクローニングされた。そして、実験9と同様の方法で、HpU-20のL鎖およびH鎖、UA-15のL鎖およびH鎖の可変領域のcDNAについて、塩基配列が決定され、その塩基配列からアミノ酸配列も決定された。さらにその後、実験10と同様の方法で、HpU-20のL鎖およびH鎖、UA-15のL鎖およびH鎖について、3次元構造の分子モデリングによって立体構造が推定された。
【0085】
その結果、推定されたHpU-20(L鎖)の可変領域の立体構造を図9に、HpU-20(H鎖)の可変領域の立体構造を図10に、UA-15(H鎖およびL鎖)の可変領域の立体構造を図18に模式的に示す。これらの立体構造予測から、HpU-20のL鎖およびH鎖、UA-15のL鎖については、触媒三つ組残基様構造が認められた。一方、UA-15(H鎖)には、触媒三つ組残基様構造は認められなかった。
【0086】
〔実験14-1〕(HpU-20L鎖およびH鎖を用いた酵素活性試験1)
HpU-20-LおよびHpU-20-HのTP41-1ペプチド(配列番号13)に対する酵素活性試験を実施した。この分解反応は、以下のような材料、条件、手順で実施された。
【0087】
(材料)
▲1▼:HpU-20 mAb(in15mM PB pH6.5、精製・透析終了後、濾過滅菌されたもの。)
▲2▼:HpU-20抗体
▲2▼-1:Lot.1[HpU-20-L]( in15mM PB pH6.5、濃度94.4μg/ml)
▲2▼-2:Lot.1[HpU-20-H]( in15mM PB pH6.5、濃度70.8μg/ml)
▲2▼-3:Lot.2[HpU-20-L]( in15mM PB pH6.5、濃度96.7μg/ml)
▲2▼-4:Lot.2[HpU-20-H]( in15mM PB pH6.5、濃度103.3μg/ml)
▲3▼:精製された TP41-1 ペプチド
(反応液)
▲1▼:HpU-20-L:0.8μM(20μg/ml)
▲2▼:HpU-20-H:0.4μM(20μg/ml)
▲3▼:HpU-20 mAb:0.8μM(120μg/ml)
▲4▼:TP41-1 ペプチド:120μM(284μg/ml)
(反応条件)
反応温度:25℃
小試験管、マイクロチップ、15mM PB(pH6.5):滅菌処理
実験操作:クリーンベンチ内
(方法)
(1):TP41-1を15mM PB pH6.5で1.7mg/mlに調製し、濾過滅菌する。
(2):次に、(1)の1.7mgTP41-1を15mM PB pH6.5で568μg/mlに調製する。
(3):20抗体のH、L鎖を15mM PB pH6.5でそれぞれ40μg/mlに調製する。
(4):(2)と(3)を1:1の割合で混合する。
(5):HPLCでペプチドの経時変化を追跡する。
【0088】
この実験の結果については、Lot.1を図13に、Lot.2を図14に示す。図13、図14のグラフでは、横軸に反応時間(時間)を、縦軸に基質であるTP41ペプチドの濃度(μM)を示す。
【0089】
図13、14のグラフに示すように、調製したLot.1およびLot.2において、若干の反応性の違いはあるものの、ともに再現性よくTP41ペプチドを完全に分解した。これらの結果から、HpU-20-LおよびHpU-20-Hは、TP41-1ペプチドの分解反応において酵素活性を有することが確認された。
【0090】
〔実験14-2〕(HpU-20L鎖およびH鎖を用いた酵素活性試験2)
続いて、活性化したHpU-20L鎖およびH鎖を用いて、タンパク質分解実験を以下のような材料、反応液の組成・種類、反応条件、方法で実施した。
【0091】
(材料)
▲1▼:活性化した(一度TP41ペプチドを完全に分解した)Lot.2[HpU-20-L](in15mM PB pH6.5、02.10.15分離、 02.10.16精製、02.10.21 PBS透析終了、02.10.21~22 PBにbuffer交換。4.2ヶ月保存、濃度96.7μg/ml)
▲2▼:HP菌ウレアーゼ(M.W=522600)02.07.01精製、濃度1.84mg/ml
▲3▼:BSA SIGUMA A-6003 Lot51K7600
▲4▼:HSA WAKO 019-10503 LotKSH6886
(反応液組成)
▲1▼:HpU-20-L:0.4μM(20μg/ml)
▲2▼:HP菌ウレアーゼ:52nM(28μg/ml)
▲3▼:BSA:0.4μM(28μg/ml)
▲4▼:HSA:0.4μM(28μg/ml)
(反応条件)
反応温度:25℃
小試験管、マイクロチップ、15mM PB(pH6.5):滅菌処理
実験操作:クリーンベンチ内
(方法)
(1)HSA、BSAを15mM PB pH6.5で2.2mg/mlに調製し、濾過滅菌する。
(2)次に、(1)の1.7mg/ml TP41-1を15mM PB pH6.5で55μg/mlに調製する。
(3)1.84mg/ml HP菌ウレアーゼを15mM PB pH6.5で55μg/mlに調製する。
(4)活性化したHpU-20-Lと(2)、(3)を1:1の割合で混合する。
(5)SDS-PAGEで抗体及び、各タンパクの変化を追跡する
(反応液の種類)
▲1▼:0.4μM HpU-20-L+0.4μM BSA:320μl
▲2▼:0.4μM HpU-20-L+0.4μM HSA:320μl
▲3▼:0.4μM HpU-20-L+52nM HP菌ウレアーゼ:320μl
▲4▼:0.4μM HpU-20-Lのみ:320μl
▲5▼:0.4μM BSAのみ:320μl
▲6▼:0.4μM HSAのみ:320μl
▲7▼:52nM HPウレアーゼのみ:320μl
本実験の結果を図15~図17に示す。図15~図17は、反応開始1時間後の試料のSDS-PAGEの結果を示す図である。なお、各レーンにおける試料については、Mはマーカーであり、▲1▼~▲7▼は、上記の各反応液である。
【0092】
図15~図17に示す結果から、約1時間の反応でHpU-20-LはBSAを全く分解しないことがわかる。HSAに対しては28.5kDaに薄いバンドが見られるがコントロールのHSAはほとんど変化しておらず非常に弱い分解しか起こしていないことがわかる。これに対し、HP菌ウレアーゼに対しては、約1時間の反応で、50kDaに強いバンドが、26kDaに弱いバンドが観察された、また、βサブユニットのバンドはコントロールに比べ、26.7%減少していた。αサブユニットのバンドについては反応前後でほとんど変化していなかった。この結果から、HpU-20-Lは、HP菌ウレアーゼのβサブユニットを特異的に分解することが明らかとなった。
【0093】
〔実験15〕(UA-15L鎖およびH鎖を用いた酵素活性試験)
UA-15-LおよびUA-15-Hを用いて、TP41-1ペプチド(配列番号13)に対する酵素活性試験を実施した。この分解反応は、以下のような反応液を用いて、以下のような反応条件で実施された。
【0094】
(反応液)
▲1▼:Lot.1[UA-15-L]:0.8μM(20μg/ml)
▲2▼:Lot.1[UA-15-H]:0.4μM(20μg/ml)
▲3▼:Lot.2[UA-15-L]:0.8μM(20μg/ml)
▲4▼:Lot.2[HpU-20-H]:0.4μM(20μg/ml)
▲5▼:TP41-1ペプチド:120μM(284μg/ml)
(反応条件)
反応温度:25℃
小試験管、マイクロチップ、15mM PB(pH6.5):滅菌処理
実験操作:クリーンベンチ内
この実験の結果については、Lot.1を図19に、Lot.2を図20に示す。図19、図20のグラフでは、横軸に反応時間(時間)を、縦軸に基質であるTP41ペプチドの濃度(μM)を示す。図19および図20に示すグラフからも分かるように、UA-20のL鎖についてはTP41-1ペプチドを分解する酵素活性が確認されたがUA-20のH鎖については、酵素活性は確認されなかった。
【0095】
続いて、反応液にLot.2におけるUA-15-Lの反応液に、ペプチド基質(TP41-1)を再添加して、15℃、25℃、37℃の各温度でペプチドの分解実験を実施した。
【0096】
結果を図21に示す。この結果から、反応温度が25℃の場合が、UA-15-Lの酵素活性が最も高いことが明らかとなった。
【0097】
さらに、上記の反応条件で、反応液にLot.1[UA-15-L]を用いて、一度TP41-1ペプチドを完全に分解した後、この溶液にTP41-1ペプチドを、5μM、10μM、15μM、20μM、30μM、65μM、80μMの各濃度で添加して、UA-15-Lによる速度論的解析を行った。その結果を図22および表1に示す。
【0098】
【表1】
JP0004330947B2_000002t.gif【0099】
【発明の効果】
以上のように、本発明の抗体酵素によれば、HP菌のウレアーゼを特異的に分解することができ、HP菌を効率よく除菌することができる。上記抗体酵素は、従来の除菌剤とは異なりHP菌に薬剤耐性を与えないと考えられるため、HP菌感染患者の治療薬として有効に利用することができる。さらに、上記抗体酵素は経口で摂取してHP菌の除菌効果を発揮するため、HP菌の感染予防剤として利用することもできる。
【0100】
【配列表】
JP0004330947B2_000003t.gifJP0004330947B2_000004t.gifJP0004330947B2_000005t.gifJP0004330947B2_000006t.gifJP0004330947B2_000007t.gifJP0004330947B2_000008t.gifJP0004330947B2_000009t.gifJP0004330947B2_000010t.gifJP0004330947B2_000011t.gifJP0004330947B2_000012t.gifJP0004330947B2_000013t.gifJP0004330947B2_000014t.gifJP0004330947B2_000015t.gifJP0004330947B2_000016t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】HpU-18L鎖の可変領域のアミノ酸配列、及びそれをコードする遺伝子の塩基配列を示す模式図である。
【図2】HpU-18L鎖の可変領域の立体構造を示す模式図である。
【図3】HpU-9L鎖の可変領域のアミノ酸配列、及びそれをコードする遺伝子の塩基配列を示す模式図である。
【図4】HpU-9L鎖の可変領域の立体構造を示す模式図である。
【図5】HpU-2H鎖の可変領域のアミノ酸配列、及びそれをコードする遺伝子の塩基配列を示す模式図である。
【図6】HpU-2H鎖の可変領域の立体構造を示す模式図である。
【図7】本実施例におけるHpU抗体による酵素活性試験を行った結果を示すグラフである。
【図8】本実施例においてPCRで増幅したHpU-2抗体断片遺伝子を含む増幅産物についてアガロースゲル電気泳動を行った結果を示す模式図である。
【図9】HpU-20L鎖の可変領域の立体構造を示す模式図である。
【図10】HpU-20H鎖の可変領域の立体構造を示す模式図である。
【図11】HpU-20L鎖の可変領域のアミノ酸配列、及びそれをコードする遺伝子の塩基配列を示す図である。
【図12】HpU-20H鎖の可変領域のアミノ酸配列、及びそれをコードする遺伝子の塩基配列を示す図である。
【図13】HpU-20-LおよびHpU-20-Hを用いてTP41-1ペプチド(図中では、TPと記す)の分解実験を行った結果(Lot.1)を示す図である。
【図14】HpU-20-LおよびHpU-20-Hを用いてTP41-1ペプチド(図中では、TPと記す)の分解実験を行った結果(Lot.2)を示す図である。
【図15】HpU-20L鎖を用いたタンパク質分解実験において、反応開始1時間後の試料についてSDS-PAGEを行った結果を示す図である。
【図16】HpU-20L鎖を用いたタンパク質分解実験において、反応開始1時間後の試料についてSDS-PAGEを行った結果を示す図である。
【図17】HpU-20L鎖を用いたタンパク質分解実験において、反応開始1時間後の試料についてSDS-PAGEを行った結果を示す図である。
【図18】軽鎖と重鎖からなるUA-15の可変領域の立体構造モデリング(分子モデリング)を行った結果、推定された立体構造を示す図である。なお、本図では、軽鎖上にのみ触媒三つ組残基様構造が現れていることを示している。
【図19】UA-15-L(図中では、Lと示す)およびUA-15-H(図中では、Hと示す)を用いてTP41-1ペプチドの分解実験を行った結果(Lot.1)を示す図である。
【図20】UA-15-L(図中では、Lと示す)およびUA-15-H(図中では、Hと示す)を用いてTP41-1ペプチドの分解実験を行った結果(Lot.2)を示す図である。
【図21】UA-15-L(図中では、Lと示す)を用いて、15℃、25℃、37℃の各温度でTP41-1ペプチド(図中では、TPと記す)の分解実験を行った結果を示す図である。なお、この分解実験は、図19に結果を示す実験を行った後に、TP41-1ペプチドを再度加え、反応温度の違いを見たものである。
【図22】UA-15-Lを用いたTP41-1ペプチド分解反応の速度論的解析の結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21