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明細書 :結像光学装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3942861号 (P3942861)
公開番号 特開2003-131138 (P2003-131138A)
登録日 平成19年4月13日(2007.4.13)
発行日 平成19年7月11日(2007.7.11)
公開日 平成15年5月8日(2003.5.8)
発明の名称または考案の名称 結像光学装置
国際特許分類 G02B  21/00        (2006.01)
G02B  21/02        (2006.01)
G02B  21/08        (2006.01)
G02B  27/58        (2006.01)
H01J  37/153       (2006.01)
H01J  37/22        (2006.01)
FI G02B 21/00
G02B 21/02 Z
G02B 21/08
G02B 27/58
H01J 37/153 A
H01J 37/22 501Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 15
出願番号 特願2001-325067 (P2001-325067)
出願日 平成13年10月23日(2001.10.23)
審査請求日 平成15年10月31日(2003.10.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】生田 孝
【氏名】志水 隆一
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】谷山 稔男
参考文献・文献 特開平01-309478(JP,A)
特開平10-275580(JP,A)
特開平10-333053(JP,A)
特開平09-298682(JP,A)
調査した分野 G02B 19/00-21/00,21/06-21/36
H01J 37/00-37/295
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)波動性ビームを使用した結像光学系と、
(b)該結像光学系の焦点位置に配置された、画像蓄積特性を有する検知器アレイと、
(c)適切な範囲で前記結像光学系の焦点はずれ量を高速に制御する焦点はずれ制御機構と、
(d)前記検知器アレイから得られた画像情報に対する中・高域空間周波数強調フィルタリング機構とを備え、
(e)前記結像光学系の焦点移動平均を通して、観察される干渉縞に寄与する2平面の進行方向が制限され、ここで、2平面波の進行方向と光軸のなす角度の差Δθは、焦点はずれ量の変化幅をΔL、波長をλとすれば、Δθ・ΔL=2λ/sin(θ)になり、焦点はずれ量の中心値をΔf、対物レンズの主球面収差係数をCsとおく時、波面収差関数γ(θ)のΔθによる最大変化量Δγは、Δγ=4π(Cs・sin2 θ-Δf)/ΔLであるレイリーの4分の1波長則となるようにし、前記焦点はずれ量の中心位置(Δf)と焦点はずれ量の変化幅(ΔL)とに基づいて前記結像光学系の焦点はずれ量(焦点位置)を制御し、前記結像光学系の球面収差と色収差の影響除去を行うことを特徴とする結像光学装置。
【請求項2】
請求項1記載の結像光学装置において、前記波動性ビームは、電磁波(光波含む)、音波、電子ビーム又は荷電粒子ビームであることを特徴とする結像光学装置。
【請求項3】
請求項1記載の結像光学装置において、前記検知器アレイは、取り外し可能なフィルム、蓄積プレート又は電気的出力が可能な各種エリアセンサーであることを特徴とする結像光学装置。
【請求項4】
請求項1記載の結像光学装置において、前記焦点はずれ制御機構を、前記結像光学系自体の焦点制御機構、観察対象物の機械的移動機構、前記結像光学系が0でない色収差係数を持つ場合の波動性ビーム波長変調あるいは強制的な外的色収差付加機構、又は等価的に円環状瞳を有する結像レンズに置き換えることを特徴とする結像光学装置。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、球面収差や色収差の無い高分解能な観察像を取得する結像光学装置に関する。本発明により、光学系に含まれる球面収差(回転不変型波面収差)と色収差の影響が除去され、解像力の高い像が再生される。さらに、本発明は光波のみならず、同等の原理で動作する、電磁波、音波、電子ビームや荷電粒子ビームなどを用いた波動性ビーム結像装置にも広く利用できるものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、光波を用いる光学顕微鏡、望遠鏡、カメラなどを代表として、電磁波、音波、電子ビームや荷電粒子ビームなどを用いた波動性ビーム結像光学装置が広く実用化されている。よく知られているように、結像光学装置を構成する広い意味でのレンズには各種の収差が含まれている。とりわけ回転不変型波面収差として分類される主球面収差と高次球面収差は、光学結像装置の解像力を決める極めて重要なファクターである。
【0003】
さて、光波を用いる光学顕微鏡や望遠鏡、カメラなどでは、光学系を構成する凸レンズに凹レンズを組み合わせることで、わずかに高次球面収差が残留する程度にまで主球面収差を除去することが可能となっている。しかしながら電子ビームや荷電粒子ビームなどを用いた顕微鏡で使用される磁場型や静電型レンズには原理的に凹レンズが作り得ないという欠点があるため、光学レンズで行われているように凸凹レンズの組み合わせで球面収差を除去することが出来ない。
【0004】
このため、この種の顕微鏡における高分解能化の努力はまずレンズの球面収差係数低減に注がれてきた。しかしながら現在、この方向での努力は材料、技術の両面で限界に直面している。このため今日達成されている分解能は波長限界からみて、はるかに低いところに留まっている。
【0005】
一方、原理的に異なる手段で凹レンズを作り、凸レンズと組み合わせて球面収差を補正しようとする試みがいくつか報告されている。例えば、静電型電子レンズの一部に導電性を有する薄膜を挿入して凹レンズを構成する方法や、非回転不変型の多極子レンズにより球面収差補正を実現する方法が挙げられる。とりわけ後者の多極子レンズによる球面収差補正光学系は最近、透過型電子顕微鏡に適用され良好な結果を得ている。しかしながら、この方法は原理的に高次球面収差を完全補正できるわけではない。
【0006】
もう1つの方向として、球面収差の影響を受けた観察像を画像処理的手段で修復する試みがある。よく知られた例として、ガボアーによるインラインホログラムがあり、これは電子線と光によるインラインホログラムの記録・再生過程において、記録時における電子レンズの正の球面収差係数を、再生時に負の球面収差係数をもつ光学レンズで補償するものである。
【0007】
さらに焦点はずれ量の異なった複数枚の観察像からフーリエ空間でフィルタリング・荷重付き積算演算して球面収差の影響を補正する手法もいくつか報告されているが、実時間収差補正は困難であること、ならびにガボアーのインラインホログラムも含めて強い散乱体からの散乱波相互の干渉縞が球面収差補正の妨げになり、観察対象が弱散乱体に限られることが欠点である。
【0008】
このようなガボアーのインライン電子線ホログラムによる球面収差補正手法の欠点である、弱散乱体試料に限られる問題点はその後、電子線パイプリズムを用いたオフアクシス電子線ホログラムの実現によって改善されているが、いまだ、従来型電子顕微鏡の最高分解能を大幅に上回る球面収差補正効果を示すには至っていないのが現状である。
【0009】
また、先に示した焦点はずれ量の異なった複数枚の観察像を使用する方式の延長として、能動的に焦点はずれ量を変調して得られた観察像を正負荷重付き積算する方式の実時間球面収差補正手法〔T.Ikuta:J.E1ectron Microsc.38,415(1989).,Y.Takai et.a1.:J.E1ectron Microsc.48,879(1999).〕が最近開発されている。
【0010】
これによれば、実時間補正手法であることと、瞬時に振幅・位相像を切り替え観察可能であることが最大の特徴であるが、残念ながら強い散乱体からの散乱波相互の干渉縞成分には誤った補正処理が作用してしまう。このため、観察対象が弱散乱体に限定される。
【0011】
このような画像処理的手段に基づく収差補正法では、一般的に空間的コヒーレンスの高い光源(電子源、波動性ビーム源)によるコヒーレント照明法が用いられる。このような照明法を用いた透過型顕微鏡(光学/電子光学/波動性ビーム光学)で、弱散乱性の試料を用いた場合を考える。この場合、直接透過波の振幅が大きく、後側焦点近傍での干渉縞の形成には主として直接透過波と散乱波の干渉を考えれば良い。
【0012】
そこで、直接透過波の進行方向は判っているので観察された干渉縞の空間周波数から寄与する散乱波の進行方向を決定することができる。これから両波の位相ずれ量の差(波面収差関数の差)を求めると、位相補正がフーリエ空間上で可能になる。これが画像処理的手段による収差補正の基本原理であり、先の電子線ホログラムにも当てはまる。もちろんこのような収差補正適用の前提条件として、結像光学系の波面収差関数が既知である必要がある。
【0013】
また、先に示したように、試料からの散乱が大きく散乱波相互の干渉縞の寄与が無視できなくなると、観察された干渉縞の空間周波数から干渉に寄与した2波の進行方向を特定できなくなり、誤った補正処理が作用してしまう結果になる。
【0014】
さて、いわゆる天体望遠鏡は主として恒星、星雲などの自己発光体を観測する。光学顕微鏡においても自己発光体や蛍光を観察することがある。自己発光体や蛍光では観察対象物上の異なった点から出た光波(波動)は干渉しない(インコヒーレント)。同一点から異なった方向に射出された光波のみが干渉を起こす。
【0015】
結像現象とは観察対象物上の1点1点から各方向に射出する光波が光学系を通じ波面収差関数に対応する位相変化を受けて再度後側焦点近傍で干渉縞を形成、それらが重なり合ったものとして記述できる。空間的にインコヒーレントである光源を観察対象物の照明(インコヒーレント照明)に用いた場合の望遠鏡、透過/反射型顕微鏡、カメラなどもほぼ同様な考え方で結像現象を捉える事が可能である。
【0016】
自己発光体や蛍光の結像と同等の考え方を行える例としては、紫外線、X線励起の光電子を観察する光電子顕微鏡がある。直接透過光(直接反射光)を対物瞳に入れない暗視野顕微鏡(光学/電子光学)の結像もこれに近い考え方を行って良い。このような結像をまとめて以下、便宜上インコヒーレント照明型結像と呼ぶ。
【0017】
以上のインコヒーレント照明型結像に共通した事情として、進行方向が定まった直接透過波などが存在しないことが挙げられる。このため、観察された干渉縞の空間周波数を基にして、干渉縞形成に寄与した2波の進行方向を特定できない(複数の2波の組が同一空間周波数の干渉縞に寄与している)。これは既知の波面収差関数を基にした収差補正手法が適用できないことを意味する。さらに球面収差に加えて結像光学系に波長分散性が含まれる場合、照明光(自己発光、蛍光)の波長広がりによって色収差を生じる。球面収差による分解能低下に色収差が追い討ちをかける形になり、分解能はさらに低下する。
【0018】
幸い光波を用いた結像光学装置では、凸凹レンズの組み合わせと波長分散の異なるレンズ材料を使用することで、球面収差や色収差をかなりの程度除去出来る。
【0019】
このため、インコヒーレント照明型結像に対する両収差補正の必要性は高くなかった。しかし、光波以外の結像光学装置については、原理的に異なる新しい収差補正法の登場が強く嘱望される現状である。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、近年、コヒーレント照明型の結像光学装置(コヒーレント照明透過型光学・電子顕微鏡)について、画像処理的手段に基づく収差補正手法が活発に研究され始めている。これらの収差補正手法はすべて結像光学系の波面収差関数が既知でないと適用できないものであった。しかしながら、きわめて最近提案された画像処理的手段に基づく球面・コマ収差補正手法に、傾斜コヒーレント照明を用いる方法〔T,Ikuta:J.E1ectron Microsc.47,427(1998)〕があり、主・高次球面収差にあたる回転不変波面収差やコマ収差型の軸反対称波面収差に関して、原理的にそれらの大きさ・方向を知ることなく収差補正を行うことができることを最大の特徴としている。
JP0003942861B2_000002t.gif【0021】
最近、光学の分野に導入され始めた3次元結像理論によれば、このホイスラー式の焦点深度拡大法は回転不変波面収差関数を持つ結像光学系において、波面収差を打ち消せる条件であることが容易に示唆される。焦点はずれ(デフォーカス)が回転不変波面収差関数の一部分であると見なすと、逆の立場で、焦点はずれによる波面収差を打ち消すことが焦点深度を拡大することにあたると理解されるであろう。また、加えて、結像光学系で生じる色収差現象は実効的に焦点深度を深める作用がある。このことから色収差の存在は、逆に回転不変波面収差の影響を抑制すると示唆される。
【0022】
さて、上記したように、インコヒーレント照明型結像、もしくは部分的インコヒーレント照明型結像を行う結像光学装置での結像は、観察された干渉縞の空間周波数を基にして、干渉縞形成に寄与した2波の進行方向を特定することはできない。既知である波面収差関数を拠り所にした収差補正手法は、この段階で破綻する。しかしながら、上記したホイスラー式の焦点深度拡大法を利用した無収差結像法は、波面収差関数を知ることなく適用可能である。さらに色収差の存在を焦点深度拡大に利用可能であることは、色収差の影響を抑制する上でまことに具合が良い。
【0023】
本発明は、上記状況に鑑みて、球面収差や色収差を含んだ光学系の下で、両収差の影響を除去した高分解能観察が可能な結像光学装置を提供する。すなわち、インコヒーレント照明型結像、もしくは部分的インコヒーレント照明型結像を行う結像光学装置について、ホイスラー式の焦点深度拡大法を利用した無収差結像法を実用的に実現し、積極的に球面収差と色収差の影響を除去した高分解能化を実現可能な結像光学装置を提供する。
【0024】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕結像光学装置において、波動性ビームを使用した結像光学系と、この結像光学系の焦点位置に配置された、画像蓄積特性を有する検知器アレイと、適切な範囲で前記結像光学系の焦点はずれ量を高速に制御する焦点はずれ制御機構と、前記検知器アレイから得られた画像情報に対する中・高域空間周波数強調フィルタリング機構とを備え、前記結像光学系の焦点移動平均を通して、観察される干渉縞に寄与する2平面の進行方向が制限され、ここで、2平面波の進行方向と光軸のなす角度の差Δθは、焦点はずれ量の変化幅をΔL、波長をλとすれば、Δθ・ΔL=2λ/sin(θ)になり、焦点はずれ量の中心値をΔf、対物レンズの主球面収差係数をCsとおく時、波面収差関数γ(θ)のΔθによる最大変化量Δγは、Δγ=4π(Cs・sin2 θ-Δf)/ΔLであるレイリーの4分の1波長則となるようにし、前記焦点はずれ量の中心位置(Δf)と焦点はずれ量の変化幅(ΔL)とに基づいて前記結像光学系の焦点はずれ量(焦点位置)を制御し、前記結像光学系の球面収差と色収差の影響除去を行うことを特徴とする。
【0025】
〔2〕上記〔1〕記載の結像光学装置において、前記波動性ビームは、電磁波(光波含む)、音波、電子ビーム又は荷電粒子ビームであることを特徴とする。
【0026】
〔3〕上記〔1〕記載の結像光学装置において、前記検知器アレイは、取り外し可能なフィルム、蓄積プレート又は電気的出力が可能な各種エリアセンサーであることを特徴とする。
【0027】
〔4〕上記〔1〕記載の結像光学装置において、前記焦点はずれ制御機構を、前記結像光学系自体の焦点制御機構、観察対象物の機械的移動機構、前記結像光学系が0でない色収差係数を持つ場合の波動性ビーム波長変調あるいは強制的な外的色収差付加機構、又は等価的に円環状瞳を有する結像レンズに置き換えることを特徴とする。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明は、以下の特色を有する。
【0030】
(1)結像光学(荷電ビームを含む)装置を用いて結像パラメータを高速で連続的に変化させながら観察像を取得し、そのまま積算する。その積算画像に中・高域空間周波数強調フィルタリング処理をする。
【0031】
(2)結像パラメータの変化は焦点はずれ量とする。電子顕微鏡では高圧を振る。
【0032】
(3)収差の影響を受けた像成分は焦点位置を変えることにより流れ、コントラストはバックグラウンドの中に拡散する。収差を受けない像成分がそのままの位置で積算される。ただし、中・高域では信号成分を回復する必要がある。
【0033】
(4)焦点はずれ量の可変範囲を球面収差係数で決まる値に比べ十分大きくすると積算画像は焦点深度が深くなる。
【0034】
各種の波動性ビームを用いる結像光学装置の分解能(解像力)は主として結像光学系の球面収差と色収差で決定される。ここではインコヒーレント照明型結像、もしくは部分的インコヒーレント照明型結像を行う結像光学装置について、球面収差と色収差の影響除去(無収差観察)による高分解能化を対象とする。
【0035】
まず、回転不変型の波面収差関数をもつ主・高次球面収差の影響除去を図る。このためにホイスラー式の焦点深度拡大法を利用する。以下焦点はずれ量移動平均法による焦点深度拡大処理と無収差情報抽出の原理を説明する。
【0036】
まず、自己発光体(蛍光含む)の結像と球面収差の影響を示す。
【0037】
図1には試料1上の1点から発せられた光波が、凸レンズ2で描かれる結像光学系を通り、後側メモリ(結像面)3に達する様子を、幾何光学と波面光学の両面から示した。
【0038】
前述したように、試料1上の異なった点から発せられた光波は干渉しない。同一点から発せられた光波のみが干渉に寄与する。波面光学では点状試料から発せられる球面波を、各方向に進行する平面波の集まりと捉える。結像光学系は瞳に入射したこれらの平面波の向きを変え、後側焦点位置に集める役目を果たす。
【0039】
図2に示す無収差光学系では後側焦点位置4でこれらの平面波の位相が一致して、小さいスポットが形成される。
【0040】
一方、図3に示す球面収差のある光学系では、光軸と平面波進行方向のなす角度の4乗に比例して平面波の位相が変化する(波面が移動する)。この結果、後側焦点位置4でこれらの平面波の位相が一致せず、大きいスポットになる。
【0041】
以上の状況を進行方向の異なった2平面波の組に限定して考察する。
【0042】
現実の結像はこれら異なった多数の平面波の組によって生じた干渉縞の寄せ集めで記述できる。
【0043】
図4には点状試料から発せられ、結像光学系5を通過した2平面波が後側焦点位置(焦点面)6周囲に作る3次元干渉縞7を示した。波面は光速で移動するが、3次元干渉縞7は移動しないことに注意されたい。2平面波の進行方向が光軸8に対し同じ角度になる場合、図4に示すように3次元干渉縞7は光軸8に対し並行になる。
【0044】
一方、図5には2平面波の進行方向が光軸8に対し同じでより大きな角度になる場合を示した。このように焦点面6で見た干渉縞間隔は2平面波進行方向のなす角度にほぼ反比例する。
【0045】
さて、図4及び図5に示すように、球面収差が無ければ干渉縞の峰(強度が強い)の一つが後側焦点の原点位置に位置する。かつ、2平面波の進行方向が光軸に対し同じ角度になる場合、焦点位置を変えた時、観察される干渉縞は不動である。
【0046】
一方、図6に示すように、光軸8と2平面波進行方向のなす角度が異なると、焦点位置6を変えた時、干渉縞は移動するように観察される。このように、2平面波進行方向のなす角度が等しい場合のみ焦点位置6を変えても、観察される干渉縞は不動になる。
【0047】
球面収差があると2平面波の位相は、図7に示すように、光軸8と平面波進行方向のなす角度の4乗に比例して変化する。これに伴い、3次元干渉縞7もこれら2平面波の位相ずれの差に比例して移動する。この結果、干渉縞の峰(強度が強い)が後側焦点の原点位置からずれてしまう。
【0048】
しかし、図8に示すように、2平面波進行方向のなす角度が等しい場合には2平面波の位相ずれの差が0になるので、無収差の場合と同様、干渉縞の峰(強度が強い)の一つが後側焦点の原点位置に位置する。また、この時、焦点位置6を変えても干渉縞は不動であるように観察される。このような光軸8に平行な3次元干渉縞7はすべて球面収差の影響を受けない。逆に考えると、焦点位置6を変えても不動であるように観察される干渉縞のみ、すなわち、焦点深度拡大された干渉縞のみを取り出せば、球面収差の影響を受けない無収差結像が実現できる。これが焦点深度拡大に基づく無収差結像法の原理である。
【0049】
次に、ホイスラーが行った焦点深度拡大手法を説明する。
【0050】
まず、焦点位置を連続的に変化させ観察された画像を積算する(焦点移動平均法)。これにより焦点位置の変化で移動する干渉縞(光軸に並行でない3次元干渉縞)が大部分取り除かれ、焦点深度の深い像になる。本発明の原理によれば、これにより無収差結像が実現できる。ただし、焦点位置の変化に伴って移動する干渉縞が取り除かれてしまうのでそれらの寄与を補償するための中・高域強調が不可欠である。球面収差係数が大きい場合、無収差結像に必要な焦点移動距離は増大する。また、より大きな中・高域強調処理が必要になる。
【0051】
一方、結像光学系に含まれる色収差について言えば、これは本質的に焦点移動平均と同じ作用を持つ。この無収差結像法では色収差を焦点移動平均の過程に取りこむことが可能で、実質的に色収差を除去、無視できる。色収差による焦点移動範囲が無収差結像に必要な焦点移動距離に近いか、あるいはそれを上回る場合、焦点移動平均はまったく不必要になる。
【0052】
本発明の球面収差除去法の特徴・利点は、
(1)焦点移動平均という極めて単純な操作で実現でき、実時間処理可能である。
【0053】
(2)球面収差係数を知る必要が無い。
【0054】
(3)電子光学系等で重要な色収差を、実質的に除去、無視できる。
【0055】
(4)自己発光体(蛍光含む)の場合と同様の結像特性を示す、インコヒーレント照明下の透過・反射顕微鏡や暗視野照明顕微鏡にも光波(電磁波)・電子、荷電粒子ビーム・音波を問わず適用可能である。等が挙げられる。
【0056】
なお、本発明はホイスラー式の焦点深度拡大法を利用するが、あくまでも結像光学系の球面・色面収差を処理の対象とするものであって、観察試料の深さ方向情報を集約して見せる焦点深度拡大処理とは適用方向がまったく異なり、違った応用分野に属するものである。
【0057】
以下、具体化された、本発明の顕微鏡における球面・色面収差補正装置の基本的構成を例示的方法により図9に示す。なお、図9では光学顕微鏡の明視野透過モードについて例示しているが、暗視野モード、反射モード、蛍光モードあるいは自己発光体観察についても原理的には同一である。さらに電磁波、音波、電子ビーム、荷電粒子ビーム等の波動性ビームを用いた結像光学装置である、光学顕微鏡、望遠鏡、カメラなどについても同様に本発明を適用することができる。
【0058】
図9において、10は光源、11Aは収束レンズ、11Bはフィルター、11Cは視野絞り、12は光路絞り、13はコンデンサーレンズ、14は試料ステージ、15は試料、16は対物レンズ、17はTVカメラ、18はマイクロCPU、19はビデオ入出力ユニット、20はモニタースコープである。
【0059】
そこで、インコヒーレントな照明光を発生する光源10を用い、光源10から発せられた光は収束レンズ11A、フィルター11Bと視野絞り11C、及び光路絞り12を通過してコンデンサーレンズ13に導かれる。コンデンサーレンズ13は照明光を収束して試料ステージ14の上に置かれた試料15を照射する。
【0060】
コンデンサーレンズ13の照明光収束角が対物レンズ16の取り込み角(瞳の張る角度)に比べ十分小さい時はコヒーレント照明と呼ばれる。一方、同じかより大きい場合はインコヒーレント照明である。さらに中間的な場合は部分的コヒーレント照明と呼ばれる。本発明ではインコヒーレント照明または部分的コヒーレント照明条件を前提とする。
【0061】
対物レンズ16が無収差であると、試料15上の一点から各方向に発せられた散乱波は対物レンズ16を通り、後面に配置されたTVカメラ17上の焦点面でこれらの平面波の位相が一致して重なり合い、小さいスポットが形成される。
【0062】
一方、対物レンズ16に球面収差があると、図3に示すように後側焦点位置4でこれらの平面波の位相が一致せず、大きいスポットになる。この結果、顕微鏡の解像力が低下することになる。この状況に対処する目的で顕微鏡の焦点はずれ量を連続的に変化させ、画像積算を行う(焦点移動平均法)。
【0063】
上記したように、焦点移動平均を通して、観察される干渉縞に寄与する2平面波の進行方向が制限される。2平面波の進行方向と光軸のなす角度の差Δθは、焦点はずれ量の変化幅をΔL、波長をλとすれば、Δθ・ΔL=2λ/sin(θ)になる。さて、焦点はずれ量の中心値をΔf、対物レンズ16の主球面収差係数をCsとおく時、波面収差関数γ(θ)のΔθによる最大変化量Δγは、Δγ=4π(Cs・sin2 θ-Δf)/ΔLである。ΔLは|Δγ|がπ/2に収まるように選ぶ必要がある(レイリーの4分の1波長則)。
【0064】
焦点はずれ量を一定幅、連続的に可変する手段としては、顕微鏡付属の焦点調節機構を利用することが一般的であろう。この場合には高速の焦点制御が困難であるため、焦点移動平均操作として、TVカメラ17から出力される映像信号を焦点制御開始時から終了時までの一定時間、所定ビデオフレーム分をフレームインテグレーター(図示なし)で画像積算すれば良い。
【0065】
しかしながら、TVカメラ17に用いられるビディコンやCCD素子などの撮像素子には、収集ビデオフレーム内での画像蓄積特性があり(写真フィルム、蓄積プレートにも同等の機能あり)、焦点制御を高速化すれば、これを利用して焦点移動平均操作を1ビデオフレーム時間内に実現できる。
【0066】
このような高速焦点制御機構として、光学装置では対物レンズ自体の振動機構(光軸方向)や光学装置の試料ステージ上に設置された試料振動機構(光軸方向)を用いることが可能である。また、あるいは照明光の波長変調機構により、結像系の色収差係数を利用して等価的に焦点制御を行うことも出来る。
【0067】
さらに、色収差が焦点移動平均と同等の作用を持つことから、必要な焦点はずれ量の幅に対応する波長域を通過させる分光器を照明系に導入すれば、変調操作を省くことも可能になる。その他、変調操作の不要な焦点深度拡大の方式として、円環状(アニュラー型)瞳を有する結像レンズの採用が挙げられる。
【0068】
試料から見た円環状瞳の角度をΔθとすれば、これはまさに先に示した2平面波の進行方向と光軸のなす角度の差、Δθを与えることになる。これらの方法は本発明における、電磁波(光波含む)、音波、電子ビームや荷電粒子ビームのいずれかを用いる各種の結像光学装置に状況に応じて適宜適用することができ、1ビデオフレーム以内の焦点移動平均操作を保証するものとなる。
【0069】
以上の焦点移動平均操作によって、本質的に球面収差の影響が除去された観察像を得ることになる。しかしながらこの焦点移動平均操作は分解能を低下させてしまう。これは先に述べたように、焦点位置の変化に伴って移動する干渉縞が取り除かれてしまうので、分解能に対するそれらの寄与が無くなることによる。これを補償するため、焦点移動平均後の観察像に対し、中・高域空間周波数の強調処理が不可欠である。
【0070】
さて、3次元結像理論によれば、用いるべき強調処理の係数は、空間周波数の絶対値をρとする時、{〔(1/λ)2 -(NA/λ-ρ)2 1/2 -〔(1/λ)2 -(NA/λ)2 1/2 }ΔLとなる。ただし、この値が1以下の場合、1とする。
【0071】
図10にフィルター処理係数の例を示した。この中・高域空間周波数の強調処理によって、無収差結像系のインコヒーレント照明時と同等の分解能に回復できる。実用的には高域部分をさらに持ち上げることで、視覚上、より鮮明な再生像を得ることが可能である。
【0072】
図9において、TVカメラ17からのビデオ出力をマイクロCPU18に接続されたビデオ入出力ユニット19に取りこんだ後、マイクロCPU18に転送、プログラム処理で中・高域空間周波数の強調を行う。強調処理された画像は再度ビデオ入出力ユニット19に送られ、最終的にモニタースコープ20にて表示される。
【0073】
今日のマイクロCPU18の演算能力から見て、中・高域空間周波数強調フィルタリングについては数十分の1秒以内で実行可能であることから、処理全体はビデオフレームレートで実時間実行できるものと期待される
【0074】
また、このような中・高域空間周波数強調フィルタリングは検知器の固定雑音にも作用するので、固定雑音起源のアーティファクトを生じさせることがある。このようなアーティファクトを生じさせない中・高域空間周波数調フィルタリング手法として、能動型コンボルバー〔T.Ikuta:App1.Opt.,24.2907(1985)〕が提案されている。
【0075】
結像光学系に能動的な外乱を加えて劣化した観察像を、劣化していない観察像から荷重付け減算するもので、ビデオレートに近い処理速度と固定雑音にフィルター作用が及ばない事が特徴である。イメージ増倍管などの欠陥画素を比較的多く含む検知器アレイを用いる場合に有効であろう。
【0076】
一方、取り外し可能なフィルムや蓄積プレートを検知器アレイに用いる場合は実時間処理に対応できないが、コヒーレント光学系やハイブリッド光学系による中・高域空間周波数強調フィルタリングが適用可能である。
【0077】
図11は本発明の実施例を示す電子顕微鏡における球面・色面収差補正(無収差観察)装置の基本的構成図である。
【0078】
この図において、21は電子銃、22はコンデンサーレンズ、23は試料及びホルダー、24は対物レンズ、25は投影レンズ、26は蛍光面、27は焦点変調信号源、28はTVカメラ、29はビデオ入出力ユニット、30はマイクロCPU、31はモニタースコープである。
【0079】
このように構成することにより、透過型電子顕微鏡の最高分解能を大幅に上回る球面収差補正効果を示すことができる。
【0080】
本発明によれば、上記したように、波動性ビーム〔光波を含む各波長域の電磁波、音波(超音波)、電子ビームや荷電粒子ビームなど〕を使用した、球面収差や色収差を有する結像光学装置において、焦点はずれ量を一定範囲内で連続的に変化させながら観察像を積算する(焦点移動平均)。焦点はずれ量の可変範囲が球面収差係数で決まる値に比べ十分に大きければ、積算画像は焦点深度が深くなる事に加えて、光学系の球面収差(回転不変型波面収差)の影響を受けなくなる。
【0081】
しかしながら、この際、積算画像は中・高域空間周波数成分が抑制されるのでこれを回復し鮮明な像を再生できるよう、中・高域空間周波数強調フィルタリングを適用する。これにより球面収差の影響が除去され、かつ付随的に焦点深度の深い観察像を再生することができる。さらに光学系の色収差の影響は、焦点はずれ量を色収差係数で定まる範囲内で連続的に変化させながら観察像を積算することと本質的に等価である。この結果、適切な色収差があれば上記処理での焦点移動範囲を狭めることが可能になる。さらにより大きな色収差があれば、焦点移動画像積算処理そのものが不要になる。このように色収差は本手法での焦点移動画像積算処理に組み込めるものであり、球面収差と同様に実質除去できることになる。
【0082】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0083】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0084】
(A)光波(電磁波)、音波、超音波、電子線、荷電粒子線などの波動性ビームを照明光源とする各種の結像光学装置において、波動性ビームを使用した結像光学系と、この結像光学系の焦点位置に配置された、画像蓄積特性を有する検知器アレイと、適切な範囲で前記結像光学系の焦点はずれ量を高速に制御する焦点はずれ制御機構と、前記検知器アレイから得られた画像情報に対する中・高域空間周波数強調フィルタリング機構とを備えることにより、前記結像光学系の球面収差の影響除去(無収差結像)を行うことができる。
【0085】
(B)結像光学系の色収差を無収差結像法での焦点移動平均の過程に取りこむことが可能であり、実質的に色収差を除去、無視できる。この焦点移動平均の過程は検知器アレイの画像蓄積特性を利用して瞬時に実現できること、ならびに中・高域空間周波数強調フィルタリングについては現在のマイクロCPUの能力から見て数十分の1秒以内で実行可能であることから、処理全体はビデオフレームレートで実行できるものと期待される。
【0086】
このように光波(電磁波)、音波、超音波、電子線、荷電粒子線などの波動性ビームを照明光源とする各種の結像光学装置において、無収差高分解能観察が実時間で実現できることは、工学、医学、生物学、天文学などの極めて広い分野における研究、開発、評価を著しく効率化できると共に、これにより多数の新しい知見を得るであろうと期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 自己発光体(蛍光含む)の結像に関する幾何光学的解釈と波動光学的解釈を示す図である。
【図2】 点発光体から無収差結像系を通して後側焦点面に合成される波面と強度分布を示す図である。
【図3】 点発光体から球面収差のある無収差結像系を通して後側焦点面に合成される波面と強度分布を示す図である。
【図4】 点状試料から発せられ、無収差結像光学系を通過した2平面波が後側焦点位置周囲に作る3次元干渉縞を示した図である。
【図5】 2平面波の進行方向が光軸に対し同じで、図4の場合よりより大きな角度になる場合の3次元干渉縞を示した図である。
【図6】 点状試料から発せられ、無収差結像光学系を通過した2平面波が後側焦点位置周囲に作る3次元干渉縞を、光軸と2平面波進行方向のなす角度が異なる場合について示した図である。
【図7】 点状試料から発せられ、球面収差を有する結像光学系を通過した2平面波が後側焦点位置周囲に作る3次元干渉縞を、光軸と2平面波進行方向のなす角度が異なる場合について示した図である。
【図8】 点状試料から発せられ、球面収差を有する結像光学系を通過した2平面波が後側焦点位置周囲に作る3次元干渉縞を、光軸と2平面波進行方向のなす角度が等しい場合について示した図である。
【図9】 本発明の実施例を示す光学顕微鏡における球面・色面収差補正(無収差観察)装置の基本的構成図である。
【図10】 本発明の実施例を示す中・高域空間周波数の強調処理用フィルター処理係数の例を示した(無収差結像系のインコヒーレント照明時と同等の分解能に回復できる例)図である。
【図11】 本発明の実施例を示す電子顕微鏡における球面・色面収差補正(無収差観察)装置の基本的構成図である。
【符号の説明】
1,15 試料
2 凸レンズ
3 後側焦点面(結像面)
4 後側焦点位置
5 結像光学系
6 後側焦点位置(焦点面)
7 3次元干渉縞
8 光軸
10 光源
11A 収束レンズ
11B フィルター
11C 視野絞り
12 光路絞り
13,22 コンデンサーレンズ
14 試料ステージ
16,24 対物レンズ
17,28 TVカメラ
18,30 マイクロCPU
19,29 ビデオ入出力ユニット
20,31 モニタースコープ
21 電子銃
23 試料及びホルダー
25 投影レンズ
26 蛍光面
27 焦点変調信号源
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10