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明細書 :人工シャペロン用キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3668091号 (P3668091)
公開番号 特開2001-261697 (P2001-261697A)
登録日 平成17年4月15日(2005.4.15)
発行日 平成17年7月6日(2005.7.6)
公開日 平成13年9月26日(2001.9.26)
発明の名称または考案の名称 人工シャペロン用キット
国際特許分類 C07K  1/08      
FI C07K 1/08
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2000-071533 (P2000-071533)
出願日 平成12年3月15日(2000.3.15)
審査請求日 平成14年10月21日(2002.10.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人食品総合研究所
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】町田 幸子
【氏名】林 清
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
審査官 【審査官】斎藤 真由美
調査した分野 C12N 15/00-90
C12Q 1/00ー70
G01N 33/00-98
C12N 1/00-9/99
C07K 14/00-16/46
PubMed、MEDLINE(STN)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
特許請求の範囲 【請求項1】
重合度25~50もしくは40~150の環状糖質サイクロアミロースとポリオキシエチレン系界面活性剤を含有することを特徴とする人工シャペロン用キット。
【請求項2】
重合度40~150の環状糖質サイクロアミロースとイオン性界面活性剤を含有することを特徴とする人工シャペロン用キット。
【請求項3】
αヘリックス構造を取る変性タンパク質に過剰量のポリオキシエチレン系界面活性剤を添加することにより、タンパク質を変性状態にしている物質を希釈すると共に、タンパク質分子同士の凝集を防ぎ、次いで重合度25~50もしくは40~150の環状糖質サイクロアミロースを添加し、その包接能を利用して前記界面活性剤を除き、タンパク質を正しい高次構造に戻し、活性を有する正しい高次構造にフォールディングさせる方法。
【請求項4】
βシート構造を取る変性タンパク質および/または分子内S-S結合を有する変性タンパク質に過剰量のイオン性界面活性剤を添加することにより、タンパク質を変性状態にしている物質を希釈すると共に、タンパク質分子同士の凝集を防ぎ、次いで重合度40~150の環状糖質サイクロアミロースを添加し、その包接能を利用して前記界面活性剤を除き、タンパク質を正しい高次構造に戻し、活性を有する正しい高次構造にフォールディングさせる方法。
【請求項5】
ポリオキシエチレン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタメチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルまたはスクロース脂肪酸エステルである請求項1記載の人工シャペロン用キット。
【請求項6】
イオン性界面活性剤が、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ] -1-プロパンスルホン酸、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドまたはミリスチルサルホォベタインである請求項2記載の人工シャペロン用キット。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は人工シャペロン用キットとその利用に関し、詳しくは環状糖質サイクロアミロースと特定の界面活性剤とからなる人工シャペロン用キットとその利用に関する。さらに詳しくは、本発明は環状糖質サイクロアミロースとポリオキシエチレン系界面活性剤を含有する人工シャペロン用キットあるいは環状糖質サイクロアミロースとイオン性界面活性剤を含有する人工シャペロン用キット並びに該人工シャペロン用キットを用いて変性状態にあるタンパク質を活性を有する高次構造に正しくフォールディングさせる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
タンパク質は高次構造といわれる立体的なコンフォメーションをとっており、正しい高次構造をとることがタンパク質の機能には必須である。これらの高次構造のうち、2次構造としてはαヘリックス構造やβシート構造などが知られており、こうした2次構造がさらに折りたたまれて3次構造を形成している。3次構造の安定化の要因として疎水結合,水素結合、システイン残基間のS-S結合等が挙げられる。
この高次構造は、加熱,凍結,紫外線やX線の照射などの物理的な原因に加えて、極端な酸性やアルカリ性,有機溶媒,尿素やグアニジン塩酸等の変性剤や界面活性剤などの化学的な原因によっても変性を起こし、秩序正しく折り畳まれたコンパクトな構造からアンフォールドな状態であるランダムコイルに変化する。
【0003】
上記のような変性状態にあるタンパク質を、正しい高次構造を有した状態に巻き戻すフォールディングには、解決しなければならない2つの段階的な問題がある。すなわち、1段階目の問題はタンパク質同士の凝集を防ぐこと、2段階目の問題はアンフォールドされた状態からいかに正しく折り畳まれることである。
生体内では、この2つの段階に分子シャペロンと名付けられた一群の介添え役のタンパク質が関与している。分子シャペロンとは、合成直後のタンパク質に結合して折り畳みを停止させて運搬されやすい状態に保ったり、うまく折り畳みができないタンパク質の折り畳みを助ける等の機能を有するタンパク質である。
【0004】
最近、分子シャペロンを模倣した人工シャペロンを用いて、上記の2つの問題を解決しようとする人工シャペロンの構築を目指した試みが報告されている。
Daugherty ら(The J. Biol. Chem.,vol. 273, No.51, p.33961-33971,(1998))は、タンパク質の凝集を防ぐ役割をする人工シャペロンとして非イオン性界面活性剤であるTritonX-100 やアルキル基の鎖長の短いポリオキシエチレン系の界面活性剤を使用して、タンパク質・界面活性剤複合体を形成させた後に、該複合体から徐々に界面活性剤を除去することによって、変性タンパク質に自然な高次構造を取らせる方法を報告している。
この方法においては、界面活性剤を除去する際、介添え役として、その疎水性空洞内に種々の物質を取り込んで包接化合物を形成することのできる環状糖であるβ-サイクロデキストリン(以下、β-CDと略記することもある。)を用いている。
また、Sivakama Sundariら(FEBS Letters, 443, p.215-219(1999))には、変性した炭酸脱水素酵素B(以下、CABと略記することもある。)やリゾチームとカチオン系界面活性剤であるセチルメチルアンモニウムブロミド(以下、CTABと略記することもある。)を結合させた後、直鎖状のdextrin-10または環状のβ-CDを作用させることにより、該変性タンパク質を正しくフォールディングさせる方法が示されている。
【0005】
しかしながら、上記したいずれの方法においても、変性した不活性なタンパク質が再び活性型にフォールディングされる割合は60~70%程度にとどまっており、さらにβ-CDには溶解度の低さや老化によって水溶液が不安定になる等の安定性に問題があるため、完全な人工シャペロンとして利用するには満足のいくものではなかった。
また、変性状態のタンパク質から変性剤をゆっくり除去する希釈透析法によって正しい高次構造を取らせようとする試みもあったが、適応可能なタンパク質は特別な処理をしなくても正しい高次構造に自然に戻るものなど、自発的なフォールディング能を有しているものに限られていた。
このように、上記した試みはいずれも、タンパク質が活性型としてフォールディングされる割合が低かったり、自発的フォールディング能が低く分子シャペロンの介添えなしに正しい高次構造をとることができないタンパク質には適用することができない等の問題を抱えているのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、自発的フォールディング能が低く、分子シャペロンの介添えなしには正しい高次構造を取ることが困難もしくは不能であるタンパク質についても正しい高次構造に戻し、しかも活性型としてフォールディングさせるために有用な人工シャペロンを構築することである。
【0007】
そこで、本発明者らは種々の非イオン性界面活性剤が、親水性部分の糖またはポリオキシエチレンの構造、あるいはアルキル基の長さの違い等により、タンパク質を分散状態に保つ能力に大きな差異があることに着目し、フォールディングの第一段階(タンパク質の凝集を防ぐ)に機能する人工シャペロンとして有用な界面活性剤について検討した。
また、環状糖が、その疎水性空洞内に種々の物質を取り込んで、包接化合物を形成することに着目し、その包接能を人工シャペロンに利用することができるか検討した。ところが、β-CDは包接能力には優れているが、溶解度が低いことや老化による水溶液の不安定さ等の問題を抱えている。
そこで、β-CDと同様に包接能を有している環状糖質のサイクロアミロースは、水への溶解度が高く、老化しないという特性を有していることに注目して、フォールディングの第二段階(正しい高次構造に戻す)に働く人工シャペロンとして機能させるための条件について検討した。
その結果、前記したように、環状糖質サイクロアミロースとポリオキシエチレン系界面活性剤の組み合わせ、あるいは環状糖質サイクロアミロースとイオン性界面活性剤の組み合わせが人工シャペロンとして有用であることを見出し、本発明に到達したのである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、重合度25~50もしくは40~150の環状糖質サイクロアミロースとポリオキシエチレン系界面活性剤を含有することを特徴とする人工シャペロン用キットである。
請求項2記載の本発明は、重合度40~150の環状糖質サイクロアミロースとイオン性界面活性剤を含有することを特徴とする人工シャペロン用キットである。
【0009】
請求項3記載の本発明は、αヘリックス構造を取る変性タンパク質に過剰量のポリオキシエチレン系界面活性剤を添加することにより、タンパク質を変性状態にしている物質を希釈すると共に、タンパク質分子同士の凝集を防ぎ、次いで重合度25~50もしくは40~150の環状糖質サイクロアミロースを添加し、その包接能を利用して前記界面活性剤を除き、タンパク質を正しい高次構造に戻し、活性を有する正しい高次構造にフォールディングさせる方法である。
請求項4記載の本発明は、βシート構造を取る変性タンパク質および/または分子内S-S結合を有する変性タンパク質に過剰量のイオン性界面活性剤を添加することにより、タンパク質を変性状態にしている物質を希釈すると共に、タンパク質分子同士の凝集を防ぎ、次いで重合度40~150の環状糖質サイクロアミロースを添加し、その包接能を利用して前記界面活性剤を除き、タンパク質を正しい高次構造に戻し、活性を有する正しい高次構造にフォールディングさせる方法である。
【0010】
請求項5記載の本発明は、ポリオキシエチレン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタメチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルまたはスクロース脂肪酸エステルである請求項1記載の人工シャペロン用キットである。
請求項6記載の本発明は、イオン性界面活性剤が、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ] -1-プロパンスルホン酸、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドまたはミリスチルサルホォベタインである請求項2記載の人工シャペロン用キットである
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、目的とする人工シャペロンを構築するにあたり、モデルタンパク質として、天然状態では2次構造のほとんどがαヘリックス構造からなるクエン酸シンターゼ(以下、CSと略記することもある。)、天然状態では2次構造の80%近くがβシート構造からなる炭酸脱水素酵素B(以下、CABと略記することもある。)および天然状態ではαヘリックス構造とβシート構造の両者からなり、かつ分子内S-S結合を有するリゾチームの3種類のタンパク質を選択した。
これらは、自然界に存在するタンパク質が取る代表的な高次構造であるαヘリックス構造,β-シート構造および分子内S-S結合をそれぞれ有しており、なおかつ、自発的フォールディング能が低く、分子シャペロンなどの介添えなしに正しい高次構造をとるとは考え難いものである。このため、この3種のモデルタンパク質を変性状態から正しく高次構造を取るように巻き戻すこと(リフォールディング)ができ、しかも活性を有する高次構造にフォールディングすることのできる人工シャペロンは、多くのタンパク質に適応可能で、汎用性に優れた人工シャペロンの構築に適するものであると考えた。
【0012】
そこで、この3種のモデルタンパク質を強力な変性剤であるグアニジン塩酸により完全に変性させ、各種の界面活性剤と環状糖の組み合わせにより、正しい高次構造を取り、活性を回復させる条件について検討した。
その結果、重合度25~50のもの〔CA(S)〕もしくは重合度40~150のもの〔CA(L)〕である環状糖質サイクロアミロースとポリオキシエチレン系界面活性剤の組み合わせあるいは重合度40~150のもの〔CA(L)〕である環状糖質サイクロアミロースとイオン性界面活性剤の組み合わせが人工シャペロンとして優れた働きをし、変性CSを短時間に正しい高次構造に戻し、完全に活性を回復させることを見出した。
【0013】
以上のことから、特定の環状糖質サイクロアミロースと界面活性剤を含有するキットが人工シャペロン用に適することが分かった。
本発明では、フォールディングの第1段階であるタンパク質の凝集防止に機能する人工シャペロンとしてポリオキシエチレン系またはイオン性の界面活性剤が用いられ、フォールディングの第2段階である包接能により界面活性剤を除去してタンパク質を正しい高次構造に戻すために機能する人工シャペロンとして環状糖質サイクロアミロースが用いられる。
次いで、CSやその他のモデルタンパク質に対して用いることができる人工シャペロンについて、より具体的に検討した。
【0014】
まず、モデルタンパク質であるCSを変性状態にするため、グアニジン塩酸を用いて変性した。すなわち、CSに最終濃度で6Mになるように調製したグアニジン塩酸溶液を加え、室温で1時間以上放置することにより、高次構造が解かれてアンフォールドされた状態の変性タンパク質とした。この変性モデルタンパク質は、全く活性を保持していない。
変性状態にあるモデルタンパク質は、生体内における翻訳直後の立体構造を取っていない新生タンパク質であると解釈できる。新生タンパク質は、翻訳終了直後から、凝集や異常な構造を取ることを防ぐために、DnaJなどと名付けられているフォールディング過程の上流で働く一群の分子シャペロンが結合する。
【0015】
本発明では、この機能を果たす人工シャペロンとして界面活性剤を使用する。変性状態にあるモデルタンパク質溶液1容量に対して、70容量の界面活性剤溶液を添加し、室温で1時間放置する。希釈透析法と呼ばれている手法では、変性状態にあるタンパク質から徐々に変性剤(グアニジン塩酸や尿素など)を除くことにより、変性状態にあるタンパク質をリフォールドさせ、正しい立体構造を取らせるが、この場合、変性剤が除去されるに従いタンパク質が凝集する等の問題が生じる。
そのため、フォールディング過程の上流で働く人工シャペロンとして、界面活性剤を機能させることにより、大過剰の溶液で変性剤が希釈される際に生じるタンパク質の凝集という問題を解決することができる。
多くの非イオン系の界面活性剤について、人工シャペロンとしての機能を検討した。その結果、αヘリックス構造を有する変性タンパク質については、非イオン性界面活性剤のうち一般式 Cn H2n+1(OCH2CH2)x OHと表され、通常Cnx と略記されるポリオキシエチレン系界面活性剤、好ましくはポリオキシエチレンソルビタンエステル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプタメチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルまたはスクロース脂肪酸エステルを用いる。この他に、オクチルグルコシド、ヘプチルチオグルコシド、デカノイル-N-メチルグルカミド等の非イオン性界面活性剤を用いることもできる。なお、界面活性剤は適当な緩衝液に溶解し、溶液として用いる。
【0016】
上記ポリオキシエチレン系界面活性剤のうち、ポリオキシエチレンソルビタンエステル系界面活性剤はCn ソルビタン EXと略記され、ポリオキシエチレン鎖の長さが20のものが好適に用いられる。具体的には、Tween20,40,60,80(Atlas Powder社製もしくはSigma社製)等がこれに相当し、特にアルキル基の長さが、それぞれ16と18のTween 40とTween 60が好ましい。
当該界面活性剤のアルキル基の長さが上記の範囲を外れると、タンパク質を分散状態に保つ能力が弱まり、目的とするタンパク質の凝集防止効果を十分に得ることができないため好ましくない。
【0017】
一方、βシート構造や分子内S-S結合を有する変性タンパク質に対しては、第一段階で機能する人工シャペロンとしてイオン性界面活性剤を用いる。該イオン性界面活性剤については特に限定されることはなく、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ] -1-プロパンスルホン酸、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(以下、CTABと略記することもある。)、ミリスチルサルホォベタイン(以下、SB3-14と略記することもある。)などが挙げられ、特にCTABSB3-14などのカチオン系界面活性剤が好ましい。
【0018】
次に、フォールディングの第2段階において、包接作用の働きによって上記の界面活性剤を除去してタンパク質を正しい高次構造に戻す作用をする人工シャペロンとしては、変性タンパク質の高次構造の種類によらず、すなわち、どのようなモデルタンパク質の場合であっても、環状糖質サイクロアミロースが用いられる。サイクロアミロース(CA)は、包接能のある環状糖質でありながら、水への溶解度が高く、しかも老化しないという優れた特性を有している。なお、αヘリックス構造を有する変性タンパク質に対しては、CAの代わりにβ-CDを用いも、同等の効果を奏することができる。
【0019】
環状糖質サイクロアミロースとしては、様々な重合度のものが知られているけれども、本発明においては重合度が25~50のもの、すなわちCA(S)または40~150のもの、すなわちCA(L)を使用し、前記界面活性剤としてポリオキシエチレン系界面活性剤などの非イオン性界面活性剤を用いるときは、CA(S)とCA(L)のいずれも使用することができるが、界面活性剤としてイオン性界面活性剤を用いるときは、CA(L)を使用する。
【0020】
前記した新生タンパク質は、フォールディングの過程がさらに進行すると、GroEと名付けられているフォールディングの下流で働く分子シャペロンの機能によって、徐々に正しい高次構造を取りはじめ、最終的に活性を有するタンパク質に折り畳まれ、その過程において介添え役であった分子シャペロンは離れて行く。
この分子シャペロンと同様の機能を発揮するものが、環状糖質サイクロアミロースである。このものは、包接能を有しており、タンパク質に結合して凝集などの異常な構造を取ることを防いでいる前記界面活性剤を自身の疎水性空洞内に取り込んで、包接化合物を形成する。
その結果、タンパク質・界面活性剤複合体から界面活性剤が徐々に除かれ、タンパク質はゆっくりと、正しい高次構造に巻き戻されて行き、その活性も回復する。CA(S)とCA(L)のいずれを使用した場合も、添加後2時間以内にタンパク質は完全に活性が回復する。
【0021】
人工シャペロンによるタンパク質のリフォールドの過程は、タンパク質の活性を測定することにより評価することができる。ここで、タンパク質の活性を測定する方法としては、比色定量法(アセチルコエンザイム法、ρNPAエステラーゼ法)、溶菌活性法等が挙げられる。また、タンパク質の凝集状態は光散乱法により、立体構造が形成されているか否かは、円偏光二色性により確認することができる。
【0022】
本発明のように、環状糖質サイクロアミロースと特定の界面活性剤との組み合わせによる人工シャペロンは、高次構造タイプの異なった種々のモデルタンパク質にも有効に機能することができ、汎用性がある。したがって、この人工シャペロンは、封入体を形成する等の発現系に問題を抱えている多くの有益なタンパク質のリフォールド系への利用が期待される。
【0023】
【実施例】
以下に、本発明を実施例等により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 (天然状態ではαヘリックス構造を主に含むモデルタンパク質、CSの活性測定)
本実施例では、変性させたαヘリックス構造モデルタンパク質であるCSのリフォールドに関して、人工シャペロンとして有効に機能する界面活性剤と環状糖質との組み合わせについて検討した。
(1)変性CSの調製
クエン酸シンターゼ(CS)の変性は、グアニジン塩酸を用いる常法により、以下の手順で行った。
まず、グアニジン塩酸溶液にCS溶液(ベーリンガー・マンハイム社製)を添加し、25℃で1時間反応させることによって、CSの高次構造を破壊し、完全に酵素活性を失活させた変性タンパク質溶液を調製した。なお、変性溶液中のCS濃度は2.4mg/mLであり、グアニジン塩酸の濃度は6M、ジチオトレイトールの濃度は40mMである。
【0024】
(2)リフォールド方法
界面活性剤溶液は、0.1%界面活性剤、0.71mM EDTA、145mM Tris-HCl緩衝液(pH7.6)となるように用時調製した。該界面活性剤溶液を、上記(1)の変性状態にあるCS溶液1容量に対して70容量の割合で添加し、室温で1時間放置した。
このようにして形成した界面活性剤・CS複合体溶液80容量に対して20容量の環状糖質サイクロアミロース溶液(16mM)を添加し、25℃で一晩反応させた。
反応終了後、前処理として、反応液をポアサイズが0.2μmのセルロースアセテートフィルターに通すことにより、凝集物を除去した後、酵素活性を測定した。
なお、本実施例では、変性タンパク質のリフォールドされている状態を経時的に調べるため、一定時間毎に反応溶液を少量採取し、これらについても同様の前処理を行った後、酵素活性を測定した。
【0025】
(3)酵素活性の測定
上記(2)で得たリフォールドされたCSを含む反応液20μLを、基質としてアセチルCoAとオキザロ酢酸を溶解させた反応液380μLに加え、25℃で412nmにおける吸光度を分光光度計を用いて0.5秒毎に60秒間測定し、これより反応の初速度を算定し、酵素活性とした。なお、基質溶液の組成は、反応時の最終濃度として158mM Tris-HCl緩衝液(pH7.6)、0.092mM アセチルCoA、2mM オキザロ酢酸、0.48mM ジチオビスである。CSの酵素活性の測定結果を第1表に示す。酵素活性は、未変性のCSを同じ濃度となるように上記の緩衝液で希釈した場合を100%として表した。また、図1には界面活性剤としてTween 40(アルキル基の長さが16)を用いた場合の環状糖質による酵素活性の経時的な変化を、図2にはTween 60(アルキル基の長さが18)を用いた場合の環状糖質による酵素活性の経時的な変化を示した。
【0026】
【表1】
第 1 表
JP0003668091B2_000002t.gif* (‐) ほとんど活性なし
【0027】
第1表に示した通り、各種イオン性および非イオン性界面活性剤の中で、非イオン性界面活性剤であるアルキルポリオキシエチレンエーテル系界面活性剤とβ-CD、CA(S)またはCA(L)の組み合わせが人工シャペロンとして有効であった。とりわけ、アシルポリオキシエチレンソルビタンエステル系界面活性剤(Cn ソルビタンEx)のうち、ポリオキシエチレン鎖の長さが20のものが有効で、具体的にはTween 20、40、60、80(Atlas Powder社製もしくはSigma社製)が相当するが、最良のシャペロンは、アルキル基の長さが、それぞれ16と18のTween 40とTween 60とCA(S)またはCA(L)の組み合わせであり、活性を100%回復させることが明らかとなった。
【0028】
また、酵素活性の経時的な変化については、図1および図2より明らかなように、環状糖質としてCA(S)とCA(L)を用いた人工シャペロンの場合は、該糖質添加後2時間という短時間で速やかに活性型にリフォールドされることが明らかとなった。すなわち、本発明の人工シャペロンが、高次構造の破壊された変性タンパク質を正しく、しかも短時間にリフォールドする能力を有していることを示している。
これに対して、環状糖質としてβ-CDを用いた場合には、該糖質添加後2時間では約30~40%程度しか酵素活性が回復されておらず、その酵素活性が100%回復するには一晩以上の時間が必要であった。
したがって、本発明の人工シャペロンとして用いる環状糖質としてはサイクロアミロースの方がより好ましいことが明らかとなった。
また、未変性のCSを希釈したものを数日放置したところ、酵素活性が低下したが、本発明の人工シャペロンでリフォールドしたCSは室温で6日間放置しても活性の低下が認められなかった。
【0029】
実施例2 (天然状態では80%近くのβ-シート構造を含むモデルタンパク質、CABの活性測定)
(1)変性CABの調製
CAB(シグマ社製)の変性は、常法に従いグアニジン塩酸を用いて、以下の手順で行った。
まず、6Mのグアニジン塩酸溶液にCAB(30mg/mL)の溶液を添加して25℃で16時間反応させることによって、CABの高次構造を破壊し、完全に酵素活性を失活させた。
【0030】
(2)リフォールド方法
界面活性剤溶液は、0.1%界面活性剤、0.23mM Tris-硫酸緩衝液(pH7.8)となるように用時調製した。界面活性剤としては、CTAB、SB3-14、Tween 40,60(Atlas Powder社製もしくは Sigma社製)を用いた。
該界面活性剤溶液を、上記(1)の変性状態にあるCAB溶液1容量に対して700容量の割合で添加して室温で10分間放置し、界面活性剤・CAB複合体を形成させた。
次に、該界面活性剤・CAB複合体溶液35容量に対して15容量の割合で、別途調製した16mM 環状糖質溶液を添加し、25℃で一晩反応させた。
反応終了後、前処理として反応液をポアサイズが0.2μmのセルロースアセテートフィルターに通すことにより、反応液中の凝集物を除去した。しかる後、実施例1と同様にして酵素活性を測定した。
【0031】
(3)CABの活性測定方法
上記(2)で得たリフォールドされたCABを含む反応液450μLを、基質としてパラニトロフェニルアセテイト(ρNPAC)を溶解させた反応液50μLに加え、25℃で400nmにおける吸光度を分光光度計を用いて0.5秒毎に60秒間測定し、これより反応の初速度を算定し、酵素活性とした。基質溶液の組成は、反応時の最終濃度として52mM ρNPAC、23mM Tris-硫酸緩衝液(pH7.8)である。環状糖質と一晩反応させた後のCABの酵素活性の測定結果を第2表に示す。なお、酵素活性は未変性のCABを同じ濃度となるように上記の緩衝液で希釈した場合を100%として表した。
【0032】
【表2】
第 2 表
JP0003668091B2_000003t.gif【0033】
その結果、イオン性界面活性剤であるCTABとCA(L)の組み合わせにより、CABの活性を100%回復させることが明らかとなった。これに対して、イオン性界面活性剤であるSB3-14や非イオン性界面活性剤であるTween 40、Tween 60では好ましい効果が得られなかった。
本実施例の結果が、CSをモデルタンパク質とした実施例1の結果とは全く異なっていることから、リフォールディングの対象とするタンパク質の高次構造に応じた人工シャペロンを確立することが必要であることが示された。
【0034】
実施例3 (天然状態でαヘリックス構造とβシート構造の両方を含み、なおかつ分子内S-S結合を有するモデルタンパク質、リゾチームの活性測定)
(1)変性リゾチームの調製
リゾチームの変性は、グアニジン塩酸を用いる常法により、以下の手順で行った。
グアニジン塩酸溶液にリゾチーム溶液を添加して25℃で16時間反応させ、リゾチームの高次構造を破壊し、完全に酵素活性を失活させたた。なお、変性溶液中の各成分濃度は、リゾチームが15mg/mLで、グアニジン塩酸が5M、ジチオトレイトールが50mMである。
【0035】
(2)リフォールド方法
界面活性剤としてCTABを用い、0.1% CTAB,2mM DL-シスチン,0.23mM Tris-酢酸緩衝液(pH8.1)となるように界面活性剤溶液を用時調製した。
該界面活性剤溶液を、上記(1)で得た変性状態にあるリゾチーム溶液1容量に対して100容量を添加して室温で一晩放置し、界面活性剤・リゾチーム複合体を形成させた。
【0036】
続いて、該界面活性剤・リゾチーム複合体溶液140容量に対して60容量の割合で、別途調製した16mM 環状糖質溶液を添加し、25℃で一晩反応させた。
反応終了後、前処理としてポアサイズが0.2μmのセルロースアセテートフィルターに反応液を通すことによって、リフォールドされたリゾチームを含む反応液中の凝集物を除去した。その後、酵素活性を実施例1と同様の方法で測定した。
【0037】
(3)酵素活性測定方法
上記(2)で得たリフォールドされたリゾチームを含む反応溶液20μLを、基質としてMicrococcus lysodeikticus を懸濁させた反応液500μLに加え、25℃で450nmにおける吸光度を分光光度計を用いて0.5秒毎に60秒間測定し、これより反応の初速度を算定し、酵素活性とした。なお、基質溶液の組成は、反応時の最終濃度として0.16mg/mL Micrococcus lysodeikticus 、50mM リン酸緩衝液(pH6.2)である。環状糖質と一晩反応させた後のリゾチームの酵素活性の測定結果を第3表に示す。酵素活性は、未変性のリゾチームを同じ濃度となるように上記の緩衝液で希釈した場合を100%として表した。
【0038】
【表3】
第 3 表
JP0003668091B2_000004t.gif【0039】
第3表に示したように、イオン性界面活性剤であるCTABCA(L)の組み合わせが、人工シャペロンとして有効に機能することが明らかとなった。本実施例で変性させたリゾチームは、高次構造として分子内にシステイン残基間のS-S結合を有しており、該結合を還元剤であるジチオトレイトールにより切断されたにもかかわらず、シスチン存在下で本発明の人工シャペロンを作用させることによって、酵素活性が80%回復することが明らかとなった。
このことは、高次構造として分子内S-S結合を有するタンパク質でも、適切な人工シャペロンを設計することにより、不活性な変性状態から活性型にリフォールドさせることが可能なことを示している。
【0040】
【発明の効果】
本発明の人工シャペロン用キットは、自発的フォールディング能が低く、分子シャペロンの介添えなしには正しい高次構造をとることができないタンパク質に対して、正しい高次構造を取るように短時間で巻き戻すことができ、しかも活性型としてフォールディングさせる割合が高いという優れた性質を有している。
【0041】
【図面の簡単な説明】
【図1】 界面活性剤としてTween 40(アルキル基の長さが16)を用いた場合の環状糖質による酵素活性の経時的変化を示したグラフである。
【図2】 界面活性剤としてTween 60(アルキル基の長さが18)を用いた場合の環状糖質による酵素活性の経時的変化を示したグラフである。
【符号の説明】
図中、□は界面活性剤および環状糖質を添加していない対照、●はβ-CD、▲は重合度25の環状糖質サイクロアミロース(CA(S))、◆は重合度40の環状糖質サイクロアミロース(CA(L))を表す。
図面
【図1】
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【図2】
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