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明細書 :キチンビーズ、キトサンビーズ、これらビーズの製造方法及びこれらビーズからなる担体並びに微胞子虫胞子の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3368323号 (P3368323)
登録日 平成14年11月15日(2002.11.15)
発行日 平成15年1月20日(2003.1.20)
発明の名称または考案の名称 キチンビーズ、キトサンビーズ、これらビーズの製造方法及びこれらビーズからなる担体並びに微胞子虫胞子の製造法
国際特許分類 C08B 37/08      
A01N 25/10      
A23K  1/16      
A23L  1/00      
A61K  9/50      
A61K 47/36      
C09B 67/02      
C11B  9/00      
C12N  1/10      
C12N 11/10      
C12P 19/26      
FI C08B 37/08 A
A01N 25/10
A23K 1/16
A23L 1/00
A61K 9/50
A61K 47/36
C09B 67/02
C11B 9/00
C12N 1/10
C12N 11/10
C12P 19/26
請求項の数または発明の数 13
全頁数 15
出願番号 特願平10-549014 (P1998-549014)
出願日 平成9年10月16日(1997.10.16)
国際出願番号 PCT/JP1997/003741
国際公開番号 WO1998/051711
国際公開日 平成10年11月19日(1998.11.19)
優先権出願番号 1997124255
優先日 平成9年5月14日(1997.5.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成12年3月1日(2000.3.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】999999999
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】塚田 益裕
【氏名】白田 昭
【氏名】早坂 昭二
個別代理人の代理人 【識別番号】999999999、【弁理士】、【氏名又は名称】東田 潔 (外4名)
審査官 【審査官】内藤 伸一
調査した分野 C08L 37/08
A01N 25/10
A23K 1/16 303
A23L 1/00
A61K 9/50
A61K 47/36
C09B 67/02
C11B 9/00
C12N 1/10
C12N 11/10
C12P 19/26
特許請求の範囲 【請求項1】
昆虫又は培養細胞内で増殖された微胞子虫胞子からなる、キチンを主要な細胞壁物質とする均一微細粒径のキチンビーズ及び該細胞壁物質のキチンをN-脱アセチル化させたキトサンビーズ。

【請求項2】
前記キチンビーズ及びキトサンビーズが蛋白質の除去された非抗原性のものである請求項1記載のキチンビーズ及びキトサンビーズ。

【請求項3】
前記増殖微胞子虫胞子がその細胞壁に孔を有するものであり且つ前記キチンビーズ及びキトサンビーズが中空である請求項1又は2記載のキチンビーズ及びキトサンビーズ。

【請求項4】
昆虫若しくは培養細胞内で増殖された微胞子虫胞子からなる、キチンを主要な細胞壁物質とする均一微細粒径のキチンビーズ又は該細胞壁物質のキチンをN-脱アセチル化させたキトサンビーズからなる担体。

【請求項5】
前記キチンビーズ及びキトサンビーズが蛋白質の除去された非抗原性のものである請求項4記載の担体。

【請求項6】
前記増殖微胞子虫胞子がその細胞壁に孔を有するものであり且つ前記キチンビーズ及びキトサンビーズが中空である請求項4又は5記載の担体。

【請求項7】
前記担体が、生理活性物質、抗生物質、生体細胞、微生物、染料、医薬品、農薬、香料、飼料素材、若しくは食品素材を固定させ又は導入するために用いられるものである請求項4~6のいずれかに記載の担体。

【請求項8】
昆虫に濃度5×102~5×108個/mlの微胞子虫胞子を経口又は経皮的に接種して増殖させた後、生育した昆虫体内より増殖した該微胞子虫胞子を取り出し、精製して、均一の微細粒子であるキチンビーズを得ることを特徴とする均一微細粒径のキチンビーズの製造法。

【請求項9】
前記昆虫が2齡期蚕であり、前記生育後の昆虫が5齡期であることを特徴とする請求項8記載の均一微細粒径のキチンビーズの製造法。

【請求項10】
前記昆虫が家蚕幼虫であることを特徴とする請求項8又は9記載の均一微細粒径のキチンビーズの製造法。

【請求項11】
昆虫に濃度5×102~5×108個/mlの微胞子虫胞子を経口又は経皮的に接種して増殖させた後、生育した昆虫体内より増殖した該微胞子虫胞子を取り出し、精製して、均一の微細粒子であるキチンビーズを得、次いでキチンビーズのキチンをN-脱アセチル化してキトサンビーズを得ることを特徴とする均一微細粒径のキトサンビーズの製造法。

【請求項12】
前記昆虫が2齡期蚕であり、前記生育後の昆虫が5齡期であることを特徴とする請求項11記載の均一微細粒径のキトサンビーズの製造法。

【請求項13】
前記昆虫が家蚕幼虫であることを特徴とする請求項11又は12記載の均一微細粒径のキトサンビーズの製造法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】
本発明は、主要な細胞壁物質がキチンである微胞子虫胞子からなる均一微細粒径のキチンビーズ、該キチンをN-脱アセチル化せしめた均一微細粒径のキトサンビーズ、これらビーズの製造方法及びこれらビーズからなる担体に関するものである。

【0002】

【従来の技術】
キトサンは、物理化学的吸着性、生体適合性及び微生物分解性が良好であるため、医薬・医療用、香料用、化粧品用、接着材・塗料用及び複写・記録表示用の材料等として、幅広い産業分野で利用できる生体高分子である。一方、粒径にばらつきの少ない多孔質ビーズは酵素等の固定化用担体として化学分野、医療分野、食品分野及び工業プロセス分野等幅広い各種産業分野で利用されている。そこで、キトサンの均一粒径の多孔質ビーズが提供できれば、多様な方面で利用・活用することが期待できる。

【0003】

従来、キトサンビーズは、例えば、次のような複雑な方法で調製されていた。先ず、甲殻類の外骨格を形成する成分から無機物を除去してキトサンとし、これを有機酸で十分に溶解させた均一なドープとする。このドープを塩基性凝固液中に滴下又は放出して凝固させることによりキトサンビーズを製造していた(Knorr,D.,M.Daly:Mechanics and diffusional changes observed in multi-layer chitosan/alginate coacervate capsules,Process Biochemistry,4,48-50(1988))。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】
上記従来方法では、キトサンビーズの粒径及び多孔状態は、脱溶媒の速さや生成ビーズ中への凝固液の浸透、拡散速度等により大幅に変化してしまう。このため、ビーズの粒径を揃えることは容易ではなく、粒径が均一なキトサンビーズを製造するには、繁雑な調製作業と熟練とが必要であり、多量生産することは困難であった。従って、収率、効率、経済面で優れ且つ取扱いが容易な調製作業により、均一微細粒径のキトサンビーズを製造する方法の開発が望まれている。

【0005】

本発明においては、主要な細胞壁物質がキチンからなる均一微細粒径の微胞子虫類の胞子が昆虫の体内又は培養細胞内で効率良く生産され得るという特質を利用することによって、前記の問題点を解消したものである。すなわち、本発明の目的は、粒状の微胞子虫胞子の細胞壁物質の主要成分がキチンであることを利用し、均一微細粒径のキチンビーズ及びキトサンビーズを効率的且つ経済的に製造する方法を提供するとともに、かくして得られた均一微細粒径のビーズ及びこれらの均一微細粒径のビーズからなる担体を提供することにある。また、本明細書中では関連する発明として微胞子虫胞子の製造方法についても説明する。

【0006】

【課題を解決するための手段】
本発明者らは、昆虫由来の生体高分子の新しい利用技術の開発について鋭意検討を進めてきた。微胞子虫胞子が昆虫の体内又は培養細胞内で効率良く生産され、且微胞子虫胞子が均一粒径で球状、楕円球状を呈することに着目し、微胞子虫胞子の主要な細胞壁物質がキチンであることから、粒径が均一のキチンビーズ又はキトサンビーズに抗生物質や生理活性物質等を固定させると、徐放担体として利用できることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。

【0007】

家蚕、野蚕若しくはその他多くの昆虫又は培養細胞に微胞子虫胞子を接種すると、主要な細胞壁物質がキチンで、数μmの大きさの微胞子虫胞子が多量に増殖する。本発明者らは、増殖した微胞子虫胞子を精製・分離し、粒径が一定のキチンビーズ、キトサンビーズ及び微胞子虫胞子を得る方法、また、これらのビーズを抗生物質や生理活性物質等の固定化用担体とする簡易な方法を見出した。
先ず、本発明者らは、微胞子虫胞子を昆虫又は培養細胞に接種する時期、接種量、接種方法及び昆虫体内等で増殖した微胞子虫胞子の精製・分離方法等、微胞子虫胞子を効率的に生産するための最適条件を明らかにした。

【0008】

昆虫又は培養細胞に微胞子虫胞子を接種するには、従来から、例えば、昆虫の飼料に目的とする微胞子虫胞子を添加して経口接種する方法、飼育過程の昆虫に微胞子虫胞子を経皮的に直接接種する方法等がある。
微胞子虫胞子の形状は多様であるが、種類によって一定のビーズ形状を保ち、その主要な細胞壁物質はキチン及び蛋白質の複合体である。そこで、胞子を、増殖後の微胞子虫胞子そのもののキチンビーズとして、また、微胞子虫胞子のキチンをN-脱アセチル化させたキトサンビーズとして利用できる。また、微胞子虫胞子表面のキチンをN-脱アセチル化処理することにより、微粒子表面がキトサンからなるキトサンビーズを調製できる。また、細胞内物質を活性化させ、胞子の細胞壁から外に出すことで、微胞子虫胞子細胞壁に微細な孔があいた中空ビーズを調製することもできる。

【0009】

前記したように、本発明のキチンビーズは、昆虫又は培養細胞内で増殖された微胞子虫胞子からなる、キチンを主要な細胞壁物質とする均一微細粒径のビーズであり、また、キトサンビーズは、該細胞壁物質のキチンをN-脱アセチル化させたものである。これらのキチンビーズ及びキトサンビーズは蛋白質の除去された非抗原性のものであってもよい。この蛋白質の除去は通常の加水分解処理により行われる。また、前記増殖微胞子虫胞子は必要に応じてその細胞壁に孔を有するものであってもよく、前記キチンビーズ及びキトサンビーズは中空であってもよい。この孔は、過酸化水素処理又はアルカリ処理により開けられ得る。

【0010】

本発明の担体は、前記したような増殖微胞子虫胞子からなる、キチンを主要な細胞壁物質とする均一微細粒径のキチンビーズ又は該細胞壁物質のキチンをN-脱アセチル化させたキトサンビーズからなるものである。これらのキチンビーズ及びキトサンビーズは蛋白質の除去された非抗原性のものであってもよい。この蛋白質の除去は通常の加水分解処理により行われる。前記したように、この増殖微胞子虫胞子は必要に応じてその細胞壁に孔の開けられたものであってもよく、このキチンビーズ及びキトサンビーズは中空であってもよい。この孔は、アルカリ処理又は過酸化水素処理により開けられ得る。

【0011】

本発明の担体は、生理活性物質、抗生物質、生体細胞、細菌等の微生物、無色及び有色の染料、医薬品、農薬、香料、飼料素材並びに食品素材等を固定させ又は導入するために用いられるものである。
なお、本発明のキチンビーズ及びキトサンビーズは、ヒトなどの体内に埋め込む場合、非抗原性であることが望ましい。

【0012】

本発明の均一微細粒子(キチンビーズ及びキトサンビーズ)の製造法は、昆虫に濃度5×102~5×108個/ml、好ましくは5×102~5×107個/mlの微胞子虫胞子を経口又は経皮的に接種して増殖させた後、生育した昆虫体内より増殖した胞子を取り出し、精製して、均一微細粒子(キチンビーズ)を得ること、次いで所望によりこのキチンビーズのキチンをN-脱アセチル化して均一微細粒子のキトサンビーズを得ることからなる。胞子濃度5×102個/ml未満であると、昆虫への感染効率が低く、また感染率にバラツキが生じるため有効ではなく、また、胞子濃度が5×108個/mlを超えると昆虫体内で胞子の形成が完全に起こる前に昆虫が死亡してしまうため経済的にも不利である。微胞子虫の接種時期は該昆虫が2齡期蚕の時であること、胞子の採集は5齡期の昆虫から行われることが好ましい。該昆虫は家蚕幼虫であることが好ましい。
上記微胞子虫胞子の製造法は、家蚕幼虫の体液の上清を細胞培養培地重量基準で5~50重量%、好ましくは10~40重量%含む細胞培養培地に昆虫由来の培養細胞を加え、これに微胞子虫胞子を接種して増殖させた後、増殖した細胞より微胞子虫胞子を取り出すものであることが好ましい。家蚕幼虫の体液の上清の添加量が5重量%未満である場合も、該添加量が50重量%を超える場合も、胞子はほとんど増殖しない。また、好ましい範囲では胞子がさらに効率的に増殖する。

【0013】

【発明の実施の形態】
本発明で用いられる微胞子虫としては、特に制限はなく、形状が一定のビーズ形状を保ち且つ主要な細胞壁物質がキチンであるような胞子を有する微胞子虫であればよい。例えば、ノゼマ ボンビシス(Nosema bombycis)、ノゼマ ボンビシス(No.402)、ノゼマ ボンビシス(No.408)、ノゼマ ボンビシス(No.520)、ノゼマ ボンビシス(No.611)、ノゼマsp.(M 11)、及びノゼマsp.(M 14)のようなノゼマ属微胞子虫、バイリモルファ(Vairimorpha)(M 12)、プリストフォーラ(Plestophola)(M 25)、プリストフォーラ(M 27)、並びにテロファニア(Thelophania)sp.等が用いられ得る。

【0014】

本発明では、家蚕、オオモンシロチョウ、エゾシロチョウ、オビヒトリ、ヒマサン、アメリカシロヒトリ及びシンジュサン等の広範囲の昆虫が微胞子虫胞子の宿主として利用できる。昆虫のうち、特に望ましいのは、飼育方法、飼育技術が確立しており、遺伝的、育種的、生理的、生態的な全ての側面から総合的に研究が行われてきた家蚕である。家蚕幼虫を用いることにより微胞子虫類胞子を多量に生産することが可能である。家蚕を対象にして、微胞子虫胞子を調製するには、接種量は家蚕1頭あたり、5×102~5×107個/mlの微胞子虫胞子を2齡期蚕に経口又は経皮的に接種し、5齡期に多量に増殖した微胞子虫胞子を精製・分離することが望ましい。微胞子虫胞子を1齡起蚕の家蚕に経口接種すると、微胞子虫胞子形成前に病死するためである。ノゼマ ボンビシスの原虫を家蚕に投与する場合には、2齡期蚕に1頭当たり好ましくは5×102~3×103個の胞子を食下するように接種し、幼虫が死亡し始める接種12日目頃の幼虫個体より胞子を採取すると微胞子虫胞子が最も効率的に入手できる。

【0015】

本発明では、前記したように、昆虫体内又は培養細胞内で目的とする微胞子虫胞子を多量に入手でき、家蚕等の昆虫そのものでも可能であるし、哺乳動物及び広く脊椎動物、無脊椎動物由来の培養細胞を用いても同様に入手できる。接種後の昆虫は15~32℃で通常の方法で飼育することが可能であり、好ましくは飼育温度は25~28℃である。一方、接種後の培養細胞は20~30℃で、好ましくは25~28℃で培養するとよい。
本発明に用いられる培養細胞としては、次のようなものが例示できる。
家蚕由来の培養細胞としては、Bombyx mori S.P.C.Bm36、Bombyx mori Bm N-4、Bombyx mori SES-BoMo-15Aが、柞蚕由来のものとしては、Antheraea pernyi NIS ES-AnPe-428が、シンジュ蚕由来のものとしては、Philosamia cynthia pernyi NIS ES-SaCy-12が例示できる。また、クワゴマダラヒトリ由来のものとしては、Spilosoma imparilis FRI-SpIm-1229、ヨトウガ由来の培養細胞としては、Mamestra brassicae SES-MaBr-4が例示できる。

【0016】

上記の培養細胞のうち、Antheraea pernyi NIS ES-AnPe-428は家蚕幼虫の体液の上清を5~50%含んだグレース(Grace)の培養液を用いると、培養温度20~30℃、好ましくは25~28℃で培養細胞内で効率的に微胞子虫胞子が増殖できる。Antheraea pernyi NIS ES-AnPe-428以外の培養細胞は、通常一般的に用いられる培養液で培養すればよい(横田ら、九州蚕糸、34(1995))。
培養細胞を用いて培養する際、培養培地に一定濃度の家蚕体液の上清を入れることで微胞子虫胞子は培養細胞内で容易に増殖し、多量の胞子を形成する。微胞子虫胞子を経済的、効率的に生産するための家蚕体液の上清の添加量は、培養液に対し好ましくは10~40重量%である。培養条件は、上清を添加しない場合と同一でよい。体液の調製は、5齡家蚕幼虫の脚をハサミで切断し、氷で冷却したガラス製の試験管に体液を集める方法が簡便かつ有効である。こうして集めた体液をウォーターバスで60℃で15分間加熱し、体液中に含まれる蛋白質を沈殿させ、デカンテーション法で除去し、こうして得られる体液の上清を用いると良い。

【0017】

昆虫由来の培養細胞を用いれば、昆虫の飼育、採取等、昆虫の入手に制約を受けることなく、タンク培養により微胞子虫胞子を簡易にかつ効率的に生産させることができる。
野蚕由来の培養細胞であるアンテラエア ユーカリプティ(Antheraea eucalypti)細胞に微胞子虫胞子を投与する場合には、家蚕幼虫体液の上清を最大40%まで加えた市販の細胞培養液(例えば、グレース(Grace)培養液、ギブコ(Gibco)社製)中の細胞に微胞子虫胞子を直接接種することにより培養細胞中で微胞子虫胞子を生産させることが効率的である。

【0018】

昆虫又は昆虫由来の培養細胞に微胞子虫胞子を接種することにより生産された胞子は、家蚕に対して強い伝染性を持っているので、家蚕への汚染防除の立場から、取り出した胞子は、ホルマリン、アルコール又は熱処理等により無毒化することが望ましい。無毒化させた後の微胞子虫胞子は、そのまま用いれば水に不溶解性のキチン微粒子(キチンビーズ)として利用することができる。
本発明の均一微細粒径のキチンビーズを製造する際の増殖微胞子虫胞子の精製は、次のようにして行われる。すなわち、体内で微胞子虫胞子が増殖した昆虫幼虫を、例えば、0.85%塩化ナトリウム水溶液中で磨砕した後、脱脂綿で濾過して胞子を集め、遠心分離器で遠心操作を2回繰り返す。次に、パーコール(商品名:ファーマシア社製、スェーデン)(Percoll(Pharmacia Sweden))に重層し、3,000rpmで30分間遠心分離を行うことによって微胞子虫胞子の精製ができる。

【0019】

キチンをキトサンへと変換するN-脱アセチル化処理は、通常の方法、例えば、微胞子虫胞子のキチンビーズを30~50%水酸化ナトリウム溶液中、80~120℃で数時間処理することにより、細胞壁物質のキチンをN-脱アセチル化して、キトサンビーズへと変える方法で行われ得る。なお、N-脱アセチル化に用いる薬剤、pH等の操作条件としては従来知られている方法が適用できる(Brineら、Comp.Biochem.Physiol.69B、283(1983))。

【0020】

本発明のキチンビーズ、キトサンビーズの細胞壁物質は、非抗原性のキチン、キトサン及びグルカンと抗原性の蛋白質とから成る。蛋白質は酸及び/又はアルカリによる加水分解処理によって溶出除去でき、その際ビーズの形態は変化しない。この加水分解処理は、0.1~3N、好ましくは0.5~2N、さらに好ましくは0.9~1.3Nの水酸化ナトリウム、塩化水素の水溶液を用いて、温度5~35℃で1~25時間、好ましくは20~25℃で8~15時間、さらに好ましくは室温で10~12時間で行われ、これにより非抗原性ビーズが得られる。加水分解処理は、初めに酸性の水溶液で次の、プロセスとしてアルカリ水溶液を用いて行ってもよいし、初めにアルカリ水溶液で、次のプロセスとして酸性の水溶液を用いて行ってもよい。酸処理とアルカリ処理とを1サイクルとし、これを繰り返し、合計5サイクル以上処理することが望ましい。最後に、水で洗浄した後、殺菌・脱水を行うため95重量%以上のエタノールで所定の時間洗浄処理する。かくして、微胞子虫胞子の細胞壁物質である蛋白質を完全に除去できる。

【0021】

微胞子虫胞子に抗生物質、バクテリア、生理活性物質、医薬品及び生体細胞を固定させたり、内部に導入するには、微胞子虫胞子の細胞壁に微細な孔を開けておくことがより有効である。微胞子虫胞子に微細な孔を開ける方法としては、特に制限はされないが、例えば、次の2つの方法が好ましい。
1~6重量%H2O2と胞子浮遊液とを等量宛混合する方法。
25℃の0.2N KOHで微胞子虫胞子を30分間浸漬処理した後、pH7.2のリン酸緩衝液を少量づつ加えて浸漬溶液のpHを中性に調整する方法。

【0022】

微胞子虫胞子をアルカリ水溶液で処理することにより胞子内の細胞物質を活性化せしめると、細胞物質が、胞子の大きさによって例えば約0.1~0.3μm程度の微細な孔を胞子壁に開けて胞子外に放出されるので、その際に生じる微胞子虫胞子壁の微細な孔を活用するとよい。具体的には、先ず、0.2Nの水酸化カリウム水溶液を用いて微胞子虫胞子を15~20℃で30分処理し、更にその後、pH7.2のリン酸緩衝液で中和処理すると、胞子内細胞物質が活性化して、昆虫培養細胞用培地に胞子内細胞物質が放出される際に微細な孔ができる。
増殖後の微胞子虫胞子そのものは抗原になるが、前記したように酸、アルカリで加水分解処理して細胞壁物質の蛋白質を除去したキチンビーズ及びキトサンビーズは抗原にはならない。

【0023】

上記したように、本発明によれば、昆虫又は培養細胞中で極めて多量に増殖する微胞子虫胞子を用いることにより、球形又は楕円球形を呈し、数μm程度の大きさでかつ均一は微細粒径を持つキチンビーズが得られ、また、キチンビーズをN-脱アセチル化してキトサンビーズが得られる。本発明によると、従来の製造法では極めて困難とされる均一微細粒径のビーズ、特に粒径が約1~6μm程度で粒径英にむらが無いビーズ、また、中空のキトサンビーズの製造が可能である。こうした方法で作製された均一微細粒径のキチンビーズ及びキトサンビーズは、薬物デリバリーシステム用担体として、さらには化粧ファンデーション素材として利用できる。本発明によるキチンビーズ及びキトサンビーズについては、微胞子虫の種類によって各種の大きさのものを生産することが可能である。また、キトサンビーズに酵素や生体細胞を付着、固定することにより、バイオリアクターとして、食品工業分野において、また、その他の広い産業分野において利用できる。

【0024】

本発明のキチンビーズ及びキトサンビーズは反応性に富む化学組成成分を持っているので、その表面に酵素若しくは免疫抗体を化学的、又は物理的に結合させることもできる。例えば、免疫グロブリンなどの抗原・抗体を粒子表面及び/又は内部に固定化することにより、免疫担体として利用できる。また、キチンをグリコールキチン及びカルボキシメチルキチンへと化学反応により改質した改質キチンビーズは、保湿性に優れているため、化粧品材料として利用できる。また、微胞子虫胞子又はキチンビーズに、ビニル化合物等をグラフト加工した後、これにα-アミラーゼ等の酵素を固定化させれば、酵素活性の安定性を高めるだけでなく、有効表面積の広い微粒子という特徴を活かして、さらに効率的な酵素機能を発揮させることが可能である。

【0025】

昆虫由来のキチンビーズ及びキトサンビーズの場合、加水分解処理したものの細胞壁物質は、上記したように、キチン、キトサン及びグルカンなどからできており、いずれも抗原とはなりにくい成分である。そのため、キチンビーズ及びキトサンビーズを徐放担体として、ヒトを含めた動物の体内に埋め込んでも抗原抗体反応が起こらない。微胞子虫胞子の細胞壁物質の蛋白質を除去したものの抗原性は消失するからである。また、キチンビーズ及びキトサンビーズは、所定の時間後、体内の酵素により分解されてしまうので、生体内で分解される安全素材として利用できる。

【0026】

本発明のキチンビーズ及びキトサンビーズはいずれも内部に空隙のある中空ビーズであることができ、細胞壁組織には微細な孔が開いている。そこで、生体細胞、細菌、抗生物質、生理活性物質等を陰圧環境下で微細な空隙に導入することが可能となる。細菌等の微生物を該ビーズに封入した場合、封入された微生物は外界の紫外線等の蛋白質変性要因の影響を受けにくいので、該ビーズは天敵微生物保護材としても利用できる。

【0027】

本発明のキチンビーズ及びキトサンビーズは、例えば、アフィニティークロマトグラフィー用担体、細胞培養用担体及び医薬補助材として利用でき、医薬品、生理活性物質、ホルモン及びワクチン等のマイクロカプセル化基材としても優れた特性を発揮する。農薬若しくは肥料等を微胞子虫胞子、キチンビーズ又はキトサンビーズに封入してカプセル化したものは、土壌改質材として利用できるし、また、微量で有効な飼料成分や食品素材をキチンビーズ又はキトサンビーズに封入してカプセル化したものは、家畜飼料や養魚飼料として利用することも可能である。また、細菌等を封入、固定化した微胞子虫胞子、キチンビーズ及びキトサンビーズは、紫外線照射に対する細菌等の保護作用があることから、生物防除材用の資材として利用できる。特に、キチンビーズ及びキトサンビーズの粒径が揃っていると、ファインケミカル分野等で特殊な利用が可能となる。また、本発明によるキチン、キトサンを成分とするマイクロカプセルを感圧複写紙として応用する場合には、塗抹工程時の乾燥性を向上させることができ、また、発色印字性を大幅に改善することができる。

【0028】

このように、キチン・キトサン微粒子は農業、工業、医学、食品等の広い分野で有効に利用できる。
前記したように、微胞子虫胞子、キチンビーズ又はキトサンビーズに細菌等の微生物や生理活性物質等を封入したものに紫外線を照射した場合、細胞壁物質のキチン、キトサンが紫外線を吸収し紫外線のエネルギーを遮断してしまうので、微胞子虫胞子、キチンビーズ及びキトサンビーズに封入された細菌等の微生物や生理活性物質等の生物的及び生理的な活性を長く保つことが可能となる。このように、微胞子虫胞子、キチンビーズ及びキトサンビーズは、封入された生理活性物質、細菌等の微生物の活性低下を防止する上で有効である。

【0029】

本発明の、蛋白質の除去されたキチンビーズ及びキトサンビーズは、上記したように生体組織体内に入れても抗原とはなり難く、生体に悪影響を及ぼすことがないので、生理作用を持つ医薬品等を固定化させて、それをヒト等の体内に埋め込んでも抗原抗体反応に基づく問題は起こらない。そこで、特に、抗ガン作用を持つ医薬品を封入したキチンビーズ、キトサンビーズは特定患部の治療のためのミサイルキャリアーとして先端的な医療分野で利用できる。
また、加水分解処理の程度により、又は、微胞子虫胞子の細胞物質を活性化させ、内容物を放出させて微胞子虫胞子に微細な孔を開ける程度を加減することにより、担持せしめた又は封入せしめた医薬品、生理活性物質、抗生物質等の徐放速度、徐放量さらには生分解性の程度を簡単に制御できる。

【0030】

【実施例】
次に、微胞子虫胞子の製造例も含めて本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、微胞子虫には多くの種があるが、特にことわらない限り家蚕幼虫に由来するノゼマ ボンビシスを用いた。
実施例中の細菌活性及び抗原性の評価は次の方法に基づいて行った。

【0031】

A.細菌活性の評価
加熱溶解後、55℃に保持した半合成脇本培地又はキングB培地15mlと、検定菌の胞子液(濃度:109-10個/ml)2mlとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固めた。この菌液混合平板培地上に被検試料を10μl滴下し、2日間、20~25℃に保った後、被検試料直下の培地における細菌増殖阻害度を下記の判定基準により4段階で評価した。
+++:強い(菌はほとんど増殖せず、培地透明度は高く透明ガラスの感じ)
++:やや強い
+:弱い(菌はわずかに増殖するため、培地透明度は透明ガラスとすりガラスの中間程度)
±:軽微(菌の増殖は1/5程度であり、培地透明度はすりガラス程度)
-:菌は良く増殖し、培地は不透明

【0032】

B.糸状菌に対する抗菌活性の評価方法
加熱溶解後、55℃に保持したPSA培地と、検定菌の胞子液(濃度:105-6個/ml)2mlとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固め、上記細菌活性の評価の場合と同様に処理し、観察した。
C.抗原性の評価
微胞子虫胞子の抗血清をつぎのように調製した。家蚕幼虫で継代した胞子をパーコール(Percoll)密度勾配管法で精製し、2,000rpm、10分間の遠心分離を行い、沈殿した胞子を0.85%NaCl液に浮遊させて得た胞子浮遊液(2×108個/ml)を抗原とし、これとフロインズ コプリート アジュバント(Freund's Complete adjuvant)と等量宛混合し、得られた混合物の2.0mlを1回ウサギに筋肉注射した。その後、胞子浮遊液1mlを1週間間隔で4回静脈注射し、最後の注射から7日後に採血した。血清は56℃で30分間非動化し-20℃で保存した。

【0033】

凝集反応用抗原については、精製した微胞子虫胞子を1%ホルムアルデヒドで処理した後、蒸留水で遠心洗浄し、この胞子を0.85%NaCl液に浮遊(4×107個/ml)させることで調製した。
上記抗血清を0.85%NaCl液で2倍段階希釈後、胞子浮遊液とスライドグラス上で等量宛混合し、37℃で1時間反応せしめた後、倒立顕微鏡で観察して凝集素価を調べた。抗体(抗血清)の希釈倍率は16、32、64、128、256、512、1024、2040とし、下記の判定基準により2段階評価した。
+:抗原抗体反応が認められる。
+:抗原抗体反応が全く認められない。

【0034】

実施例1
家蚕幼虫に各種の微胞子虫胞子を接種し、培養して、家蚕幼虫から分離できる各種の微胞子虫胞子の種名、胞子の大きさ及び抗原性を調べた。微胞子虫としては、表-1に示すように、ノゼマ ボンビシス(Nosema bombycis)(他の微胞子虫の特性を比較するための基準種)、ノゼマ ボンビシス(No.402)、ノゼマ ボンビシス(No.408)、ノゼマ ボンビシス(No.520)、ノゼマ ボンビシス(No.611)、ノゼマsp.(M 11)、バイリモルファ(Vairimorpha)(M 12)、ノゼマsp.(M 14)、プリストフォーラ(Plestophola)(M 25)、プリストフォーラ(M 27)、及びテロファニア(Thelophania)sp.を用いた。検討の結果を表-1に示す。

【0035】

使用した微胞子虫胞子の形は、概ね楕円形であり、長径と短径とは、それぞれ、3~5μm及び1~3μmであり、その形状と大きさは微胞子虫の種によって一定であった。すなわち、特定種の微胞子虫を用いることにより、均一な形のキチンビーズ、キトサンビーズが自由に調製できる。各種の微胞子虫胞子の長径は、最大5μm程度であり、所望の用途に合った微胞子虫を対象に用いることができる。なお、カイコの寄生部位も合わせて表-1に示す。
JP0003368323B2_000002t.gif【0036】
実施例2
前記表-1記載のノゼマ ボンビシス、ノゼマsp.(M-11)及びプリストフォーラsp.の微胞子虫原虫を用い、2齡期蚕の家蚕幼虫(日135号×支135号)1頭当たりに3×103個の各微胞子虫胞子をそれぞれ経口接種し、蚕体内で微胞子虫胞子を増殖させた後、得られた胞子を取り出し、これをまず-30℃で凍結乾燥させ、つづいて東西通商株式会社製の凍結乾燥機で乾燥させて乾燥粉末を得た。胞子溶液から得られた乾燥粉末の化学成分を簡便に定性するため、乾燥試料粉末を臭化リチウムと混ぜ合わせて錠剤ペレットにして、900~1200cm-1の波数範囲における赤外吸収スペクトルを日本分光工業社製の赤外分光計を用いて測定した。なお、標準試料として、和光純薬工業株式会社製の市販標準サンプルのキチンを用いた。その結果を図1に示す。図1において、赤外吸収スペクトル曲線aは市販のキチンを示し、また、曲線b、c及びdはそれぞれ微胞子虫のノゼマ ボンビシス、ノゼマsp.及びプリストフォーラsp.についての結果を示す。得られた標準試料のキチンの赤外吸収スペクトルでは985、1025、1065、1100、1145cm-1に吸収が現れた。微胞子虫原虫の種類が異なっても、標準キチン試料の赤外吸収スペクトルの場合とほぼ同一の波数領域(1000~1200cm-1)に同一の吸収が認められたことから、各種微胞子虫胞子の細胞壁を構成する主要成分がキチンであることが確かめられた。

【0037】

また、経口接種の代わりに経皮接種した場合も、上記と同様な結果が得られる。
また、家蚕幼虫の代わりに、オオモンシロチョウ、エゾシロチョウ、オビヒトリ、ヒマサン、アメリカシロヒトリ及びシンジュサン等を微胞子虫胞子の宿主として用いた場合にも、上記と同様に細胞壁を構成する主要成分がキチンである微胞子虫胞子が得られる。

【0038】

実施例3
実施例2と同じ微胞子虫原虫から得られる乾燥胞子粉末の結晶形態を定性的に解明するため、X線回折装置(理学電機株式会社製)を用いてX線回折写真を撮影した。得られた各試料の面間距離の測定値を基準品キチンと共に表-2に示す。微胞子虫原虫の種類が異なっても、試料のX線回折写真には、いずれも8.53、6.70、4.64、3.31Åの面間距離に対応した回折が見られるが、これはいずれも幅広いハローを示した。キチン標準品のX線回折図には、9.30、6.90、4.64、3.36、3.00、2.80Åの面間距離に対応した回折が現れており、胞子のX線回折図と類似していた。微胞子虫胞子の細胞壁を構成する主要物質がキチンであることが、X線回折写真によっても確認できた。
JP0003368323B2_000003t.gif【0039】
実施例4
蚕糸・昆虫農業技術研究所保存の微胞子虫、ノゼマ ボンビシスの胞子を供試し、2齡期蚕の家蚕幼虫(日135号×支135号)1頭当たりに3×103個/mlのノゼマボンビシス胞子を経口接種した。家蚕幼虫体内では微胞子虫胞子が極めて多量に増殖し、胞子形成が起こったため、家蚕幼虫は5齡期にすべて微粒子病にかかって死亡した。死亡幼虫を0.85%塩化ナトリウム水溶液中で磨砕した後、脱脂綿で濾過し胞子を採集した。胞子の精製は、0.85%塩化ナトリウム水溶液の胞子浮遊液2部を8部のパーコール(商品名:ファーマシア社製、スェーデン)(Percoll(Pharmacia Sweden))に重層し、3,000rpm、25℃、30分間遠心分離して行った。
家蚕幼虫1頭から得られたノゼマ ボンビシス胞子数は、全体で約1×1010個であった。胞子の水溶液を乾燥することにより粉末状の胞子100mgが得られた。

【0040】

実施例5
アンテラエア ユーカリプティ培養細胞に対する微胞子虫ノゼマ ボンビシスの胞子形成状態を次のようにして検討した。異なる量の家蚕の血清(家蚕体液の上清)を加えた市販の細胞培養培地(グレース(Grace)培養液、ギブコ(Gibco)社製)に、アンテラエア ユーカリプティ培養細胞を接種した後、微胞子虫ノゼマボンビシス胞子の一定量を加え、所定の時間培養し、1ml当たりに含まれる胞子数を血球密度計算板を用いて顕微鏡観察により測定した。5齡家蚕幼虫の脚をハサミで切断し、氷で冷却したガラス製の試験管に体液を集め、集約した体液をウォーターバスで60℃で15分間加熱し、体液中に含まれる蛋白質を除去し、かくして得られた体液の上清を用いた。測定結果を表-3に示す。

【0041】

この結果から明らかなように、培養細胞を増殖する際に、培養液に一定濃度の家蚕体液の上清を入れると、微胞子虫胞子は培養細胞内で容易に多量増殖し胞子を形成した。微胞子虫胞子を経済的且つ効率的に生産するための家蚕体液の上清の添加量は、培養液に対し一般に約5~50重量%の範囲、好ましくは約10~40重量%の範囲である。
JP0003368323B2_000004t.gif【0042】
実施例6
実施例5とは違った、他の昆虫由来の培養細胞を用いて、培養細胞中での微胞子虫胞子の増殖状態を検討した。ノゼマ ボンビシス及びノゼマsp.(M11)の2種類を異なる種類の昆虫培養細胞に接種し、昆虫培養細胞中で増加する微胞子虫胞子の数を調べた。なお、培養細胞の増殖方法は実施例5と同様であり、培養液に加える体液量を細胞培養培地重量基準で0%と20%とした場合について評価した。得られた結果を表-4に示す。
JP0003368323B2_000005t.gif【0043】
実施例7
前記実施例4で調製した微胞子虫、ノゼマ ボンビシス胞子の細胞壁物質から次の方法でキトサン微胞子を調製した。まず、この微胞子虫胞子を40%水酸化ナトリウム溶液中、80℃で4時間処理後、水を加えて洗浄した。その結果、微胞子細胞壁の主要成分のキチンはN-脱アセチル化された。各微胞子虫胞子を、光学顕微鏡観察及び走査型電子顕微鏡観察したところ、N-脱アセチル化処理しても微胞子虫胞子が溶解することはなく、微胞子形状は保たれたままであることが確認された。

【0044】

実施例8
実施例4と同様に処理したノゼマ ボンビシス胞子であって、加水分解処理により胞子の内容物を除去して得た粉末状キチン胞子2mgの細胞壁組織に次のようにして抗生物質を吸着させた。加水分解処理にあたっては、室温の1N NaOHで12時間処理した後、1N HClで再度12時間処理した。NaOH及びHCl処理を1サイクルとして、合計5サイクル繰り返した後、胞子を脱水するため最後に95%エタノールで2時間処理した。こうした微胞子虫胞子の細胞壁物質である蛋白質を完全に除去できた。また、抗生物質の吸着については、リファンピシン又はテトラサイクリン10mgを3mlの蒸留水に溶解させたもの及び該キチン胞子をチューブにいれ、水道アスピレーターで減圧、脱気を3回繰り返し、更に抗生物質が細胞壁組織に浸透するように超音波を10分間かけることによって行った。次に、遠心器で2500rpm、20分間遠心分離させ、抗生物質を含んだキチン胞子を沈殿させた。さらに、蒸留水を10ml加えて再度遠心分離させ、上清をデカンテーション法で除去してリファンピシン又はテトラサイクリンを包含したキチン胞子を単離した。

【0045】

ノゼマ ボンビシス胞子にリファンピシン又はテトラサイクリンが担持されているかどうかを次のようにして確認した。ノゼマ ボンビシス胞子を丁寧に3回水洗いした後、3000rpm、20分の遠心分離操作で回収した胞子が、トマトかいよう病細菌(Clavibacter michiganensis pv.michiganensis)の増殖をどの程度阻害するかを評価することにした。その結果、水洗いを繰り返して行ったノゼマ ボンビシス胞子でもトマトかいよう病細菌の増殖を完全に阻害することから、抗生物質が胞子に担持されているものと判断した。

【0046】

実施例9
実施例2に示した赤外吸収スペクトル測定用試料ディスクの作成方法を応用して、臭化リチウムを全く用いずにノゼマ ボンビシス胞子のみからなる円形板ディスクを次のようにして調製した。
実施例4で得られた粉末状のノゼマ ボンビシス胞子200mgを、日本分光工学工業社製の直径10mmφの赤外吸収スペクトル錠剤成型器に入れ、真空ポンプで20分間脱気したのち、油圧式の加圧装置を用いて錠剤成型器に150kg/cm2の圧力を加え、この状態で10分間圧力を保持させることで、厚さが約0.3mmで強靭な円形板ディスクを調製した。かくして、得られる微胞子虫胞子等は塊状材料として用いることができる。

【0047】

実施例10
実施例4で得られた粉末状のノゼマ ボンビシス胞子200mgを冷却器付きの50mlナス型フラスコに入れ、40重量%の水酸化ナトリウム水溶液30mlを加えオイルバスを用いて100℃で3.0時間処理することにより脱アセチル化度93.6%の均一微細粒径のキトサンビーズを得た。

【0048】

実施例11
天敵微生物の保護効果(微胞子虫胞子利用による紫外線からの細菌保護効果):
微胞子虫胞子に細菌を次のようにして封入した。実施例8の場合と同様の条件下での加水分解処理により胞子の内容物を除去したもので、実施例4と同様に処理して得た粉末状のノゼマ ボンビシス胞子2mgを細胞培養用の遠心管に入れ、これにヒラタケ腐敗病細菌(Pseudomonas tolaasii)又はトマトかいよう病細菌(Clavibacter michiganensis pv.michiganensis)の109個/ml濃度の懸濁液2.0mlを加えて、水道を利用したアスピレーターで10分間滅圧にした後、減圧を解除して空気を導入した。減圧と空気導入を3回繰り返した。次に、遠心器で1000rpmで10分間遠心分離し、胞子を遠心管底に集めた。沈殿した胞子(以下、有胞子区という)0.2mlを取り、直径9cmのガラス製シャーレ内の寒天培地上にL字棒で一様に広げた。胞子液が培地上で水状でなくなるまで風乾してから、紫外線(UV)ランプより20cmの距離に培地を置き、10秒、30秒、1分、2分、5分間照射した。なお、UV照射実験は、クリーンベンチ内で行い、光源にはナショナルGL-15(15W)の殺菌灯を用いた。紫外線照射3日後シャーレの1/6面積に出現した菌数を数えて照射による微胞子虫胞子の保護効果を評価した。得られた結果を表-5に示す。なお、微胞子虫胞子を全く含まない系で、上記と同様に遠心管で沈殿させて得た細菌液を対照区として用いた(以下、無胞子区という)。

【0049】

JP0003368323B2_000006t.gif【0050】
上記表-5において、シャーレの1/6面積中に出現した細菌集落(コロニー)数が多過ぎて測定できない場合は、「多」と表示し、また、コロニー数は多いが量的に区別可能なものについては、+++~-(無)の4段階で表示した。
紫外線照射に対する胞子による細菌の保護効果は次のようにして定量化した。片対数方眼用紙を用い、シャーレの1/6面積に出現した菌数の対数を縦軸にとり、照射時間を分単位で横軸にとる。このグラフからシャーレに出現する菌数が減少しておよそ20個になる照射時間を求めると、無胞子区では30秒、有胞子区では5分であった。
この結果から、ヒラタケ腐敗病細菌をノゼマ ボンビシス胞子に封入することで、紫外線が当たっても内部に封入した細菌の死滅割合は無胞子区に比較して低く、約10倍の保護効果があることが明らかとなった。また、トマトかいよう病細菌の場合も保護効果があることが明らかである。封入による保護効果が認められたことから、細菌、酵素、生理活性物質等を封入した本発明の微胞子虫胞子は、天敵微生物用の保護担体等として有用である。

【0051】

実施例12
キチン胞子への抗生物質の吸着試験:
キチンビーズを濃度の濃いアルカリ溶液で次のようにしてキトサンビーズに改質した。キチンビーズ100mgを冷却還元器付のナス型フラスコに入れ、30重量%のNaOH水溶液を50ml加え、オイルバスを用いて100℃で2時間処置した。反応終了後、十分な蒸留水で洗浄し、遠心器で3000rpmで10分間回転させ、キトサンビーズを調製した。次いで、リファンピシン10mgを水3mlに溶かして調製した抗生物質の水溶液0.2mlに、上記キトサンビーズ0.5mgを加えた後、水道アスピレーターで脱気を5回繰り返した区を作製した。実施例8と同じ方法によりトマトかいよう病細菌の増殖阻害を調べたところ、リファンピシン脱気5回繰り返し区のキトサンビーズには抗生物質が吸着されていることが明らかになった。リファンピシンを吸着させた微胞子虫胞子のキトサンビーズが徐放担体として有効であるかを調べるため、トマトかいよう病細菌を用いて徐放効果を評価した。

【0052】

上記したように、0.5mgの微胞子虫胞子のキトサンビーズの粉末を上記のリファンピシン水溶液0.2mlに分散させ、この分散液を、遠心管中に入れた。次いで、5000rpmで3分間速心分離し、微胞子虫胞子沈殿物と上清とを分離した。沈殿物0.1mlを別の遠心管に入れ、これに新たに1mlの蒸留水を加えて再度遠心分離し、上清と微胞子虫胞子沈殿物とを同様の方法で分離した。かくして得られた沈殿物と上清部分について、一定の時間毎に、トマトかいよう病細菌の増殖抑制に及ぼす抗菌作用を調べた。このようにして得られた結果を表-6に示す。
JP0003368323B2_000007t.gif【0053】
微胞子虫胞子を含む沈殿物は、上清に比べて常に高い抗菌活性を示し、8日後でも抗菌活性が認められたことから、抗生物質の吸着された微胞子虫胞子は抗生物質の徐放担体として有効であると判断された。対照として用いた上清希釈液は、経過時間0日に対応した上清を原液として用い、経過時間2、4、6、8日ごとに1/10に希釈したものである(経過時間2、4、6、8日に対応した10、100、1000、10000倍に希釈された)。1000倍に希釈すると対照上清希釈液の抗菌作用は失われているが、同試料に対応した上清の抗菌性は依然発現している。このことからも、微胞子虫胞子が抗生物質用徐放担体として有効であることがわかる。

【0054】

実施例13
培養細胞を用いる微胞子虫胞子の生産:
昆虫培養細胞として、ヤママユガ科の一種アンテラエア ユーカリプティの培養細胞系、鱗翅目昆虫由来のBm36培養細胞系を用いた。アンテラエア ユーカリプティの培養細胞系及びBm36培養細胞系のそれぞれを、グレース(Grace)培地に60℃、15分間の加熱処理をした家蚕幼虫体液の上清及びウシ胎児血清をそれぞれ5%加えた培養液を用いて、26℃で培養した。培養細胞への微胞子虫胞子の接種は、次のようにして行われた。すなわち、部分精製した微胞子虫胞子をパーコールを用いて精製し、0.2N-KOHで25℃、30分間処理後、得られた精製胞子を培養細胞と混合して接種した。
接種10日以降にこれらの培養細胞を採取し、超音波洗浄器で処理して破壊した培養細胞浮遊液をパーコールに重層し、遠心分離操作することにより、微胞子虫胞子が多量に調製された。

【0055】

実施例14
実施例1で用いたものと同一の微胞子虫胞子(ノゼマ ボンビシス)の細胞壁物質の蛋白質を次のようにして除去することにより非抗原性のキチンビーズを製造した。
まず、加水分解処理にあたっては、室温の1N NaOHで12時間処理した後、1N HClで再度12時間処理した。NaOH及びHCl処理を合計5回繰り返した後、胞子を脱水するため最後に95%エタノールで2時間処理した。次に、2000rpmで20分間遠心分離処理して胞子を沈殿させ、この沈殿物に水を加えるという遠心分離操作を7回繰り返し、胞子細胞壁物質の蛋白質を完全に除去したキチンビーズを製造した。かくして得られたキチンビーズの抗原抗体反応を血清反応的に調べるため、無処理の微胞子虫胞子を用いてウサギから作った抗血清を供試し、この抗血清の希釈液を用いて、非処理胞子(対照区試料)及び処理胞子(加水分解処理試料)に対する血清反応がどの程度の希釈液まで起こるかを比較した。その結果を表-7に示す。

【0056】

JP0003368323B2_000008t.gif 非処理胞子(対照区試料)では希釈倍率が1024倍になっても血清反応がみられたのに対し、処理胞子(加水分解処理試料)では16倍希釈でも反応は全く見られなかった。かくして、加水分解処理によって胞子の細胞壁成分中の抗原となる蛋白類は完全に除去され、得られたキチンビーズは非抗原性であると判断された。

【0057】

酸及び/又はアルカリにより微胞子虫胞子の細胞壁物質の蛋白質が除去され、主要成分のキチン量が相対的に増加するのは、X線回折強度測定からも確認された。微胞子虫胞子をコロジオンで固めてX線回折測定すると、前述の表-2に見られるように、R1、R2、R3、R4の回折環(干渉環)があらわれるが、いずれも散漫な回折環を示す。しかし、酸及び/又はアルカリで細胞壁物質のうち蛋白質のみを除去すると、この処理微胞子虫胞子のキチンが示すR1~R2の回折強度がシャープになり、キチン含有量が増していることが実証された。
また、加水分解処理試料を25℃で1%のニンヒドリンと20時間反応させても、呈色反応は一切起こらず、試料中にアミノ酸が全く存在しないことが確かめられた。

【0058】

実施例15
微細な孔を有するキチンビーズ及びキトサンビーズ:
実施例1で用いたのと同一の微胞子虫胞子(プリスト フォーラ M27)の浮遊液を0.2Nの水酸化カリウム水溶液中に入れ、25℃で30分間放置した。1時間後に和光純薬工業製の生化学用pH7.2リン酸緩衝液でこの試料を中和した。この簡単な処理で微胞子虫胞子内の細胞物質が活性化し、細胞内容物が胞子から放出され、この際に、大きさ約0.3μmの孔が1つあくことが走査型電子顕微鏡観察により確認された。この細胞物質放出後の微胞子虫胞子は、長径1.7μm×短径0.9μmのサイズで、細胞膜厚が約0.13μmで、細胞壁内が完全に空隙の楕円球状を呈し、細胞物質を放出した跡の孔は、楕円球状の長径方向の一端にあった。このような孔ができるため、この微胞子虫胞子の環境圧力を減圧、又は減圧解除することにより、酵素、抗生物質、金属イオン、医薬品、ウイルス、生理活性物質等を微胞子内空隙に簡易に封入することができるので、本発明のキチンビーズ及びキトサンビーズは、大きさの揃った、微粒状態で、これらの薬効成分の徐放支持体として有用である。

【0059】

実施例16
微細な孔を有するキチンビーズ及びキトサンビーズ:
実施例15で用いた微胞子虫胞子の代わりにノゼマ ボンビシスNo.520を用いて、実施例15と同様に処理した。かくして得られた細胞物質放出後の微胞子虫胞子は、長径2.6μm×短径1.4μmのサイズで、細胞膜厚が約0.13μmで、細胞壁内が完全に空隙の楕円球状を呈し、細胞物質を放出した跡には、楕円球体の長径方向の一端に直径が0.1μmの孔が1つあくことが透過型電子顕微鏡観察により確認された。このような孔ができるため、実施例15の場合と同様に薬効成分の徐放支持体として有効である。

【0060】

実施例17
微胞子虫胞子の細胞壁物質より蛋白質だけを除去したものの安全性の試験を次のようにして行った。
実施例1で調製した微胞子虫胞子を酸で加水分解処理した胞子浮遊液(4×108胞子/ml)を、1週間間隔で4回ウサギの静脈に注射し、ウサギの成育経過を観察した。接種6ケ月後、注射をしない対照区のウサギと比べて、注射をした処理区のウサギについては体重変化の異常も、外見上の異常も全く確認されなかった。

【0061】

【発明の効果】
本発明によれば、均一微細粒径のキチンビーズ及びキトサンビーズは、薬物デリバリーシステム用担体として、さらには化粧ファンデーション素材として利用できる。キトサンビーズに酵素や生体細胞等を付着、固定することにより、バイオリアクターとして、食品工業分野、その他の広い産業分野において利用できる。
また、これらのビーズの表面及び/又は内部に酵素若しくは免疫抗体等を結合させることにより、免疫担体としても利用できる。また、キチンをグリコールキチン、カルボキシメチルキチンへと改質した改質キチンビーズは、保湿性に優れているため、化粧品材料として利用できる。また、微胞子虫胞子又はキチンビーズに、ビニル化合物等をグラフト加工した後、これに酵素を固定化させれば、酵素活性の安定性を高めるだけでなく、有効表面積の広い微粒子という特徴を活かして、さらに効率的な酵素機能を発揮させることが可能である。

【0062】

本発明の蛋白質除去処理を行ったキチンビーズ、キトサンビーズをヒトを含めた動物の体内に埋め込んでも、抗原抗体反応は起こらないので、徐放用担体として利用できる。また、キチンビーズ、キトサンビーズは、所定の時間経過後、体内の酵素により分解されるので、生体内で分解される安全素材として利用できる。キチンビーズ、キトサンビーズは、生体組織体内に入れても抗原とはなり難いため、これに生理作用を持つ医薬品を固定化させて、それを体内に埋め込んで使用することが可能であり、特に、抗ガン作用の医薬品を封入したキチンビーズ、キトサンビーズは、ミサイルキャリアーとして先端的な医療分野で利用できる。
また、本発明のキチンビーズ、キトサンビーズは内部に空隙のある中空ビーズとすることもでき、細胞壁組織には微細な孔が開いているので、生体細胞、細菌、抗生物質、生理活性物質等を微細な孔を通して空隙に封入することができる。封入された物質は、外界のタンパク質変性要因(紫外線等)の影響を受けにくいので、その生物的な活性を長く保つことが可能となる。かくして、かかるビーズは、例えば、天敵微生物保護材の新しい素材としても利用できる。

【0063】

本発明で用いる微胞子虫胞子は、医薬品、生理活性物質、ホルモン、ワクチン等のマイクロカプセル基材としても優れており、農薬、肥料等を微胞子虫胞子に封入してカプセル化したものは土壌改質材として利用できる。また、飼料成分を封入してカプセル化したものは、家畜飼料や養魚飼料として利用することができる。
本発明によれば、加水分解処理の程度、又は、微胞子虫胞子の細胞壁に微細な孔をあける程度を加減することで、医薬品、生理活性物質、抗生物質等の徐放速度、徐放量、生分解性の程度を簡単に制御できる。さらには、キチンビーズ、キトサンビーズな生体内の酵素により次第に分解が進むので、生分解性素材としても利用できる。
[図面の簡単な説明]
【図1】 実施例2で得られた乾燥粉末(キチンビーズ)と標準サンプルのキチンとを比較して示す赤外線吸収スペクトルである。
図面
【図1】
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