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明細書 :トリカフェオイルアルダル酸、その製造法及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3039864号 (P3039864)
登録日 平成12年3月3日(2000.3.3)
発行日 平成12年5月8日(2000.5.8)
発明の名称または考案の名称 トリカフェオイルアルダル酸、その製造法及びその用途
国際特許分類 C07C 69/732     
C07C 67/58      
C09K 15/08      
FI C07C 69/732 Z
C07C 67/58
C09K 15/08
請求項の数または発明の数 4
全頁数 7
出願番号 特願平11-191823 (P1999-191823)
出願日 平成11年7月6日(1999.7.6)
審査請求日 平成11年7月9日(1999.7.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591031360
【氏名又は名称】農林水産省食品総合研究所長
【識別番号】399035009
【氏名又は名称】竹中 真紀子
【識別番号】598026699
【氏名又は名称】小野 裕嗣
発明者または考案者 【氏名】竹中 真紀子
【氏名】小野 裕嗣
【氏名】永田 忠博
【氏名】亀山 眞由美
【氏名】イェン シャオジュン
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎 (外1名)
審査官 【審査官】唐木 以知良
参考文献・文献 特開 平6-292479(JP,A)
特開 平10-298009(JP,A)
Plant Physiol.,92[1](1990),41-47.
J.Agric.Food Chem.,46[2](1998),361-367.
Electroanalysis,10[13](1998),908-912.
日本土壌肥料学雑誌,60[2](1989),122-126.
J.Agric.Food Chem.,47[11](1999),4711-4713.
調査した分野 C07C 69/732
C09K 15/00
要約 【課題】 食品用の抗酸化剤などとして有用な新規アルダル酸誘導体であるトリカフェオイルアルダル酸と、その製造法と、その用途の提供。
【解決手段】 式(I)
【化1】
JP0003039864B1_000006t.gif(式中、Rは、式(II)
【化2】
JP0003039864B1_000007t.gifで表わされるものである。)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸、前記記載のトリカフェオイルアルダル酸からなる抗酸化剤、ヤーコンから水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出すること、或いはヤーコンから水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出した後固相抽出すること、を特徴とする前記記載のトリカフェオイルアルダル酸を製造する方法、をそれぞれ提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
次の式(I)
【化1】
JP0003039864B1_000002t.gif(式中、Rは、式(II)
【化2】
JP0003039864B1_000003t.gifで表わされるものである。)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸。

【請求項2】
請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸からなる抗酸化剤。

【請求項3】
ヤーコンから、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出することを特徴とする請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を製造する方法。

【請求項4】
ヤーコンから、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出した後、固相抽出することを特徴とする請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を製造する方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、食品産業分野、化学産業分野等において有用な新規トリカフェオイルアルダル酸、その製造法及びその用途に関する。

【02】

【従来の技術】アルダル酸は、アルドースの酸化などによって得られることが知られているが、天然物に含まれる例は少ない。また、アルダル酸自身の機能としては、グルカル酸について、ラットの血中コレステロール値降下作用が知られている程度である。さらに、アルダル酸の有機酸エステルは極めて稀であり、これらの化合物の機能性については、これまでほとんど知られていない。

【03】

【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、食品用の抗酸化剤などとして有用な新規アルダル酸誘導体であるトリカフェオイルアルダル酸と、その製造法と、その用途とを提供することにある。

【04】

【課題を解決するための手段】本発明者は、様々な生理活性を有しながらもわが国への普及が遅れている、南米のアンデス原産の農産物であるヤーコンについて研究を行っており、このヤーコンの新たな健康維持機能を見出すべく、鋭意検討を重ねる過程において、このヤーコン塊根の粗抽出液が強い抗酸化性を有することを見出した。なお、ヤーコン自体は、フラクトオリゴ糖などの特殊な糖を貯蔵する農産物として近年注目を集めているが、ヤーコン塊根の粗抽出液が強い抗酸化性を有することは、これまで全く知られていない。本発明者は、その活性が、多量に含まれるフェノール性化合物であると推定してさらに研究を進め、ヤーコン塊根のメタノール抽出物について、各種クロマトグラフィーを行い、活性成分を単離することに成功し、その化学構造の解析を行った。その結果、本発明者は、その活性成分が、アルダル酸の一種であるアルトラル酸とカフェ酸とがエステル結合した化合物であると同定した。これは、文献未記載の化合物であった。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。

【05】
すなわち、請求項1に係る本発明は、次の式(I)
【化3】
JP0003039864B1_000004t.gif(式中、Rは、式(II)
【化4】
JP0003039864B1_000005t.gifで表わされるものである。)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸を提供するものである。

【06】
次に、請求項2に係る本発明は、請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸からなる抗酸化剤を提供するものである。

【07】
また、請求項3に係る本発明は、ヤーコンから、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出することを特徴とする請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を製造する方法を提供するものである。

【08】
さらに、請求項4に係る本発明は、ヤーコンから、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出した後、固相抽出することを特徴とする請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を製造する方法を提供するものである。

【09】

【発明の実施の形態】以下に、本発明について詳しく説明する。請求項1に係る本発明は、上記式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸である。上記式(I)中において、Rは式(II)で表わされるものである。このものは、2,3,5-トリカフェオイルアルダル酸又は2,4,5-トリカフェオイルアルダル酸であって、文献未記載の新規化合物である。

【10】
請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸は、強い抗酸化性を有しており、例えば食品用抗酸化剤として知られているBHA(3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール)と比較して、モル比で3.6倍の活性が認められる。しかも、この請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸は、後述するように、食用とされているヤーコンの塊根などから得られるため、安全性の点でも問題がない。

【11】
従って、請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸は、請求項2に記載したように、抗酸化剤、特に食品用の抗酸化剤として有用である。請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を食品に添加することにより、食品中の油脂などの酸化が抑制される。すなわち、食品中の油脂類に含まれる不飽和脂肪酸の酸化などが抑制される。また、その食品摂取後は、体内で何らかの抗酸化性を発揮することが期待される。請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を、請求項2に記載したように、抗酸化剤、特に食品用の抗酸化剤として用いる場合、その使用量は、特に制限されないが、通常、食品1kg当たり、0.01~0.3g程度で充分な効果を発揮する。また、請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を、請求項2に記載したように、抗酸化剤、特に食品用の抗酸化剤として使用する場合の使用方法には特に制限はないが、例えば油脂、バターなどにそのまま添加することができるし、或いは請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸の溶液に魚介類などを浸漬することもできる。

【12】
なお、請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を、請求項2に記載したように抗酸化剤として用いる場合、必要に応じて適宜、他の公知の抗酸化剤(例えば、BHA、BHTなど)やアスコルビン酸、クエン酸などを相乗剤として併用することもできる。一般に、抗酸化性の発現機作には、ラジカル捕捉作用と金属キレート作用の2つがあるが、請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸は、その分子構造から、これら2つの作用(フェノール性芳香環や炭素二重結合によるラジカル捕捉作用、及び炭素鎖にカルボキシル基や水酸基が付いた構造を持つことによる金属キレート作用)を併せ持っており、これらどちらの作用を持つ抗酸化剤と併用しても相乗効果を発揮する。

【13】
上記式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸は、例えば請求項3に記載したように、ヤーコンから、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出することによって製造することができる。請求項3に係る本発明においては、ヤーコンから、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出することによって、上記式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸を製造することができる。ヤーコンとしては、通常、塊根が用いられるが、葉や茎なども使用することができる。

【14】
請求項3記載の方法に基づき、上記式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸を製造するにあたっては、ヤーコンは、通常、抽出効率を高めるため、細かく粉砕しておき、これを水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出すれば良い。抽出溶媒としては、水で十分であるが、親水性有機溶媒を用いたり、さらには両者を併用しても良い。ここで親水性有機溶媒としては、例えばメタノール,エタノール,2-プロパノール,1-プロパノール,アセトン,ジオキサンなどを挙げることができ、これらの中でも特にメタノール,エタノールが好ましい。

【15】
抽出条件としては特に制限はないが、通常、ヤーコン1kgあたり、0.5~5L程度の水及び/又は親水性有機溶媒を用いる。ヤーコンに水及び/又は親水性有機溶媒を添加し攪拌した後、静置すれば良い。静置温度は特に制限はなく、通常は常温以下程度である。また、静置時間も特に制限はなく、通常は例えば一晩程度以上静置すれば良い。

【16】
得られた抽出液から、常法に従い分離精製を行うことにより、例えばゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などを組合せることにより、目的とする化合物を得ることができる。得られた化合物は、新規アルダル酸誘導体である、上記式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸、すなわち、2,3,5-トリカフェオイルアルダル酸又は2,4,5-トリカフェオイルアルダル酸である。このものは、より具体的には、アルダル酸の異性体の一つであるアルトラル酸とカフェ酸とがエステル結合した2,3,5-トリカフェオイルアルトラル酸(2,3,5-tricaffeoylaltraric acid)又は2,4,5-トリカフェオイルアルトラル酸(2,4,5-tricaffeoylaltraric acid)であることは、精密質量分析により決定した分子式、核磁気共鳴スペクトル及び加水分解実験から確認された。これら2,3,5-トリカフェオイルアルトラル酸と2,4,5-トリカフェオイルアルトラル酸とを合わせて、単に「トリカフェオイルアルトラル酸」と称することがある。なお、アルダル酸の異性体には、上記アルトラル酸の他に、アラル酸、グルカル酸、マンナル酸、イダル酸、ガラクタル酸が存在することは既知のことである。従って、トリカフェオイルアルトラル酸以外のトリカフェオイルアルダル酸であっても、請求項1~4に係る本発明に包含される。特に、物質の分離精製法や抗酸化活性は、同等である。

【17】
但し、この場合、操作中に酵素的褐変が進行し、目的とする化合物の収率が必ずしも十分でない。果物、野菜における酵素的褐変は、ポリフェノール化合物を基質としたポリフェノールオキシダーゼによる酸化重合反応であるため、ポリフェノールの一種であるトリカフェオイルアルダル酸が褐変と共に消費され、収率の低下をもたらしたと考えられる。従って、これを抑制するためには、アスコルビン酸などの還元剤の添加、酵素の至適pHを避けるためのpH調整(酸やアルカリを加える、或いは緩衝溶液を用いる)、酵素失活のための加熱或いは阻害剤の添加などが有効であり、これらの酵素的褐変の抑制手段の1乃至それ以上を適宜組合せると良い。

【18】
上記した如き請求項3に記載の抽出精製法(溶媒抽出に通常の分離精製を組み合わせた方法、すなわち溶媒抽出+ゲル濾過クロマトグラフィー+HPLC)は、操作中に酵素的褐変が進行し、目的とする化合物の収率が必ずしも十分に満足し得るものではない。そこで請求項4に記載したように、抽出~精製の方法を変更することにより、目的とする化合物を高収率で製造することができた。

【19】
請求項4に係る本発明は、ヤーコンから、水及び/又は親水性有機溶媒を用いて溶媒抽出した後、固相抽出することを特徴とする請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を製造する方法である。請求項4に係る本発明は、溶媒抽出によって抽出された抽出液中の目的物質を含む成分について、酵素的褐変を抑えながら、疎水基の疎水性相互作用などを利用した固相抽出によって迅速に分離精製することを特徴とする。すなわち、目的とする化合物の分子構造に着目し、適切な固相を選択することで、分離精製に固相抽出の手法を有効に取り入れることができる。請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸は、疎水性官能基を分子内に有しているために、エチル、オクチル、フェニル,シクロヘキシル,オクタデシルなどの疎水基による疎水性相互作用を利用した固相抽出によって、効率良く分離精製を行うことができる。後述の実施例では、固相としてオクタデシル化シリカゲル(ODS)を用いた。エチル、オクチル、フェニル,シクロヘキシル,オクタデシルなどの疎水基を化学的に結合させたシリカゲルでは、疎水的な部位が水中の無極性成分を疎水性相互作用によって捕捉する。

【20】
この固相抽出は、カラム法、バッチ法、膜法のいずれで行っても良い。例えば、カラム法を例にとって説明すると、固相を充填したカラムに試料を通過させ、目的成分を捕集した後、適当な洗浄液を通して洗浄し、次いでアルコールなどからなる溶離液を通して捕集した目的成分を溶出する。なお、固相抽出するにあたっては、予めエタノールなどの親水性の溶媒をカラムに通すコンディショニングを行い、固相表面を濡らしておくと良い。なお、ODSの固相抽出において、ヤーコン中のポリフェノール類は、溶離液としてメタノール-水(3:7)混合溶媒を用いた場合に最も良く溶出されると考えられる。また、陰イオン交換樹脂などの静電相互作用を利用した固相抽出によっても、効率良く抽出することが可能である。

【21】
得られた抽出液から、常法に従い分離精製を行うことにより、例えばゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などを組合せることにより、目的とする化合物を得ることができる。最も好ましい抽出・分離精製方法は、溶媒抽出と固相抽出とHPLCとを組み合わせた方法である。請求項4に係る本発明においては、溶媒抽出液を固相抽出用のカラムに直接流すことで、褐変酵素を迅速に除去することができ、分離操作の時間を短縮することができる。

【22】
請求項4に係る本発明においては、抽出時にアスコルビン酸を添加することが好ましい。アスコルビン酸の添加により、抽出時又はそれ以降の酵素的褐変(ポリフェノール化合物の酸化重合反応)を抑えることができ、収率を大幅に向上させることができる。これはアスコルビン酸の添加により抽出液のpHを下げ、酵素活性を低下させると共に、アスコルビン酸の還元力により、酸化が抑えられたためと考えられる。また、添加したアスコルビン酸は固相抽出条件により、褐変酵素などと同時に容易に除去されるため、分離精製にあたって問題とならない。

【23】

【実施例】次に、本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

【24】
実施例1(溶媒抽出+ゲル濾過クロマトグラフィー+HPLC)
(1)化合物〔式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸〕の単離
ヤーコンの抗酸化性は、多量に含まれるフェノール性化合物によると考え、紫外部吸収を指標に分離精製を進めた。まず、1.4kgのヤーコン塊根を細かく刻み、1.5Lのメタノールで抽出した。抽出液を乾固し、40mlの10%メタノール溶液に溶解し、ゲル濾過クロマトグラフィー(Toyopearl HW-40;TOSOH,450×40mm i.d.)に供した。200mlの水を流した後、5%酢酸水溶液中5-90%メタノールのリニアグラジエントで溶出し、15ml×120画分を分取した。このうち、60から100の画分を集め濃縮し、これをHPLCで分離した。カラムは、Wakosil-II 5C18 HG;Wako(250×20mm i.d.)、溶離液は30%メタノール/5%酢酸、流速は8ml/min、検出は 300nmで行った。45.5分のピークにあたる部分を分取し、減圧濃縮後、凍結乾燥を行い、純粋な化合物 6.7mgを得た。

【25】
(2)化合物〔式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸〕の構造解析
上記(1)で得られた化合物について、NMR(核磁気共鳴)及びMS(質量分析法)により、構造解析を行った。以下に、各データを示す。
1H NMR(600MHz, DMSO-d6); δ(ppm) 4.63 (1H, d, J=9.4Hz), 5.02 (1H, d, J=1.5Hz), 5.42 (1H, brd), 5.43 (1H, d, J=9.4Hz), 6.18 (1H, d, J=15.9Hz), 6.25 (1H, d, J=15.9Hz), 6.26 (1H, d, J=15.9Hz), 6.72-6.77 (3H, m), 6.95-7.01 (4H, m), 7.04-7.05 (2H, m), 7.41 (1H, d,J=15.8Hz), 7.49 (1H, d, J=15.9Hz), 7.52 (1H, d, J=15.9Hz)
FAB-MS;m/z 695([M-H]-), 533, 371, 209
高分解能 FAB-MS(高速原子衝撃質量分析法);計算値C332717=695.1248, 実測値 695.1235

【26】
また、上記(1)で得られた化合物のUV,VIS吸収スペクトルは、λmax(MeOH)nm:326,297,250であった。この結果、上記(1)で得られた化合物は、前記式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸であることが確認された。

【27】
(3)トリカフェオイルアルダル酸の加水分解
上記(1)で得られた化合物のアルダル酸部分を同定するため、加水分解を行い、分解物のNMRスペクトルを標品のスペクトルと比較した。NMR測定後のトリカフェオイルアルダル酸DMSO-d6溶液(約10mg/ml)10μlを0.1M K2CO3/D2O溶液に溶解し、NMRサンプルチューブ内で80℃にて1時間加熱したもののNMRを測定し、アルダル酸部分のスペクトルをアルダル酸標品のグルカル酸及びアルトラル酸のスペクトルと比較した。NMRのスペクトルの強度から、分解はほぼ定量的に進行したと考えられ、加水分解物のスペクトルは、アルトラル酸のスペクトルと重なったため、アルトラル酸と同定された。ここでは約10μgのトリカフェオイルアルトラル酸を分解して、約2.6μgのアルトラル酸が得られた。この結果、上記(1)で得られた化合物は、式(I)で表わされるトリカフェオイルアルトラル酸であることが確認された。

【28】
(4)化合物〔式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸〕の抗酸化試験
上記(1)で得られた化合物について、DPPH(ジフェニルピクリルヒドラジル)ラジカル消去能を利用した抗酸化試験を行った。比較対照に、食品用抗酸化剤であるBHA(3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール)を用いた。この抗酸化試験の詳細は以下の通りである。

【29】
試料溶液の調製
上記(1)で得られた式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸(トリカフェオイルアルトラル酸)の39μg/ml(0.056μmol/ml)50%エタノール溶液を試料溶液として用いた。

【30】
活性の測定
DPPHラジカルの減少を、520nmの吸光度を指標に評価した。標準溶液として、BHAの25μg/ml(0.14μmol/ml)50%エタノール溶液を用いた。200mMのDPPHエタノール溶液300μlに、水300μl、50%エタノール(600-a)μl(a=0,60,120,240)、試料(標準)溶液aμlを加え、2分後に520nmにおける吸光度を測定した。試料(標準)溶液無添加のときの吸光度を100(%)として、それぞれの吸光度の補正値をプロットしたものが図1である。DPPHラジカル(0.06μmol)を50%消去するのに必要な試料(標準)溶液量を図1のグラフから読み取り、その物質量を算出して活性の比較を行った。その結果、DPPHラジカルを50%消去するのに必要な上記試料及びBHAの物質量は、それぞれ4.5nmol(0.056μmol/ml×80μl=4.5×10-9mol)、16nmol(0.14μmol/ml×112μl=1.6×10-8mol)であった。従って、モル数で比較すると、上記(1)で得られた化合物、すなわち式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸(トリカフェオイルアルトラル酸)は、BHAと比較して、3.6倍(16/4.5=3.6倍)の活性があるといえる。

【31】
実施例2(溶媒抽出+固相抽出+HPLC)
(1)化合物〔式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸〕の単離と構造解析
ヤーコンの塊根160gに20mMアスコルビン酸水溶液160mlを加え、ホモジナイズした。ガーゼで濾過し、濾液を遠心分離(5000rpm×10min)し、約260mlの上清を得た。このうち250mlを直接ODS(Cosmosil 140C18-OPN;nacalai tesque,190×26mm i.d.)の固相に通し、洗浄液に紫外部の吸収がなくなるまで水を650ml流してカラムを洗浄した。次に、メタノール-水(3:7)混合溶媒を500ml流して、100mlずつの画分に分け、3-4番目の画分を合わせて濃縮し、4mlのメタノールに溶解した。これを分取用HPLC(条件は実施例1と同じ)に供し、単一の化合物 16.4mg(生のヤーコン塊根に対し、0.01重量%の割合)を得た。なお、上記固相抽出用のオープンカラムは、メタノール-水(1:1)溶液にODS充填剤を懸濁してガラスカラムに注ぎ入れ、これにカラム容量の約5倍の水を流して溶液を置換することにより作製し、これを固相抽出に用いた。

【32】
この化合物のNMRを測定し、式(I)で表わされるトリカフェオイルアルダル酸(トリカフェオイルアルトラル酸)と同定した。

【33】
(2)前項におけるODSによる固相抽出の条件の検討
ODS充填カートリッジ(Sep-Pak Plus C18 Cartridges;Waters)を用いて、メタノール-水(1:1)混合溶媒を4ml流した後、水を10ml流し、50倍に希釈したヤーコン抽出液を5ml流した()。続いて、水4ml()、メタノール-水(3:7)混合溶媒4ml()、メタノール-水(1:1)混合溶媒4ml()、メタノール4ml()を流し、~のUV,VIS吸収スペクトル(300~400nm)を測定した。上記におけるスペクトル強度が最も大きかったため、ヤーコン中のポリフェノール類のほとんどは、ODSの固相抽出において、メタノール-水(3:7)混合溶媒を用いて溶出されると考えられた。

【34】

【発明の効果】請求項1に係る本発明によれば、新規アルダル酸誘導体であるトリカフェオイルアルダル酸、すなわち2,3,5-トリカフェオイルアルダル酸又は2,4,5-トリカフェオイルアルダル酸が提供される。

【35】
請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸は、請求項2に係る本発明のように、抗酸化剤として有用であり、特に食用とされているヤーコンの塊根から得られるため、食品用の抗酸化剤として用いたときにも、安全性の点で問題がない。すなわち、請求項1記載のトリカフェオイルアルダル酸を食品に添加することにより、食品中の油脂などの酸化が抑制される。すなわち、食品中の油脂類に含まれる不飽和脂肪酸の酸化などが抑制される。また、その食品摂取後は、体内で何らかの抗酸化性を発揮することが期待される。ヤーコンは、フラクトオリゴ糖などの特殊な糖を貯蔵する農産物として近年注目されているが、本発明により、抗酸化性を有するアルダル酸誘導体の原料としての利用も期待することができる。さらに、アルダル酸類の製造は、化学合成によるものが一般的であって、食品への応用は好ましくなかったが、本発明により、農産物からの安定的な供給が可能となる。

【36】
請求項3に係る本発明によれば、そのような新規アルダル酸誘導体であるトリカフェオイルアルダル酸の製造法が提供される。

【37】
さらに、請求項4に係る本発明によれば、そのような新規アルダル酸誘導体であるトリカフェオイルアルダル酸のより効率的な製造法が提供される。すなわち、請求項4に係る本発明においては、溶媒抽出液を固相抽出用のカラムに直接流すことで、褐変酵素を迅速に除去することができ、分離操作の時間を短縮することができる。また、請求項4に係る本発明においては、抽出時にアスコルビン酸を添加することで、抽出時又はそれ以降の酵素的褐変(ポリフェノール化合物の酸化重合反応)を抑えることができ、収率を大幅に向上させることができる。

【38】
従って、本発明は、特に食品産業分野において有効に利用することができる。さらに、本発明のトリカフェオイルアルダル酸或いはこれを加水分解して得られるアルダル酸は、医薬品などの高付加価値化学物質の合成原料として供給されることが期待され、化学産業分野等においても有効に利用することが可能である。
図面
【図1】
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