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明細書 :マイクロキャピラリーアレイ、その製造方法、及び物質注入装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3035608号 (P3035608)
公開番号 特開2000-023657 (P2000-023657A)
登録日 平成12年2月25日(2000.2.25)
発行日 平成12年4月24日(2000.4.24)
公開日 平成12年1月25日(2000.1.25)
発明の名称または考案の名称 マイクロキャピラリーアレイ、その製造方法、及び物質注入装置
国際特許分類 C12M  1/00      
C12N  5/10      
C12N 15/09      
G01N  1/00      
FI C12M 1/00 A
C12M 1/00
G01N 1/00
C12N 5/00
C12N 15/00
請求項の数または発明の数 11
全頁数 11
出願番号 特願平10-193931 (P1998-193931)
出願日 平成10年7月9日(1998.7.9)
審査請求日 平成10年7月9日(1998.7.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591031360
【氏名又は名称】農林水産省食品総合研究所長
発明者または考案者 【氏名】菊池 佑二
【氏名】全 教錫
【氏名】年吉 洋
【氏名】藤田 博之
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔 (外1名)
審査官 【審査官】斎藤 真由美
参考文献・文献 特開 平1-112976(JP,A)
横田 崇、新井賢一編集、実験医学別冊バイオマニュアルシリーズ4 遺伝子導入と発現・解析法、株式会社 羊土社、1994年4月20日、p.36
調査した分野 C12M 1/00
C12N 15/09
特許請求の範囲 【請求項1】
外径2~10μmの薄膜材質からなる複数の中空キャピラリーが、基板を貫通し、前記基板の一方の表面から突出して2次元アレイ状に設けられていることを特徴とするマイクロキャピラリーアレイ。

【請求項2】
前記基板はシリコン基板であり、前記薄膜材質は酸化シリコン又は窒化シリコンであることを特徴とする請求項記載のマイクロキャピラリーアレイ。

【請求項3】
前記中空キャピラリーの先端部は、最先端部以外の部分で外部と連通していることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロキャピラリーアレイ。

【請求項4】
基板の一方の表面から内部に向かって細穴を加工する工程と、
前記穴の内壁に薄膜を形成する工程と、
前記穴を加工した表面と反対側の表面から前記基板をエッチングして前記細穴の内壁に形成した薄膜からなる中空構造を露出させる工程と、
前記薄膜からなる中空構造の先端部を開口させる工程とを含むことを特徴とするマイクロキャピラリーの作製方法。

【請求項5】
前記先端部を開口させる工程は、前記中空構造の最先端部を残して開口させることを特徴とする請求項記載のマイクロキャピラリーの作製方法。

【請求項6】
基板の一方の表面から内部に向かって所定の配列で複数の細穴を加工する工程と、
前記複数の細穴の内壁に薄膜を形成する工程と、
前記細穴を加工した表面と反対側の表面から前記基板をエッチングして前記細穴の内壁に形成した薄膜からなる複数の中空構造を露出させる工程と、
前記薄膜からなる複数の中空構造の先端部を開口させる工程とを含むことを特徴とするマイクロキャピラリーアレイの作製方法。

【請求項7】
前記先端部を開口させる工程は、前記中空構造の最先端部を残して開口させることを特徴とする請求項記載のマイクロキャピラリーアレイの作製方法。

【請求項8】
前記複数の細穴を加工する工程及び中空構造の先端部を開口させる工程は集束イオンビーム加工によって行うことを特徴とする請求項又は記載のマイクロキャピラリーアレイの作製方法。

【請求項9】
前記複数の細穴を加工する工程及び中空構造の先端部を開口させる工程はICP・RIE加工によって行うことを特徴とする請求項又は記載のマイクロキャピラリーアレイの作製方法。

【請求項10】
前記基板はシリコン基板であり、前記薄膜は酸化シリコン又は窒化シリコンからなることを特徴とする請求項4~9のいずれか1項記載のマイクロキャピラリーアレイの作製方法。

【請求項11】
複数の細胞を所定のピッチ配列で2次元アレイ状に保持する細胞保持手段と、
先端が基板から突出した外径2~10μmの薄膜材質からなる複数の中空キャピラリーを前記所定のピッチ配列で2次元アレイ状に備えるマイクロキャピラリーアレイと、
前記マイクロキャピラリーアレイに物質を吸入あるいは吐出させるための手段と、
前記細胞保持手段と前記マイクロキャピラリーアレイとを相対的に駆動する手段とを含むことを特徴とする物質注入装置。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、細胞に遺伝子等を注入するのに使用されるマイクロインジェクションアレイシステムと、それに使用されるマイクロキャピラリーアレイ及びその製造方法に関する。

【02】

【従来の技術】近年、生物学、医学、薬学、生化学、遺伝子工学などを基礎として急速に進歩しつつあるいわゆるバイオテクノロジーの研究と開発は、日進月歩のスピードで進んでおり、組織や細胞レベルでの研究からDNAレベルでの生物機能の解明へと進展している。なかでも、将来バイオテクノロジーの応用面で中核技術と目されている遺伝子組換えDNA技術は、当初の微生物を対象とした医薬品生産から発展し、農作物、家畜などの高等動植物の改良、食品素材や化学品の生産、遺伝子治療、さらには動物複製(cloning)など広範多岐にわたった研究開発が進められている。このようなバイオテクノロジーの研究では、細胞、核、染色体、DNA、タンパクなどの生体高分子のハンドリングに対するニーズが高く、また生物の持っている優れた機能を工学的にあるいは産業的に応用しようとする試みも数多くなされている。

【03】
細胞にDNA等の物質を注入する方法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法、膜融合法などが知られている。エレクトロポレーション法は、細胞に電場パルスをかけてその細胞を一時的に透過性にする方法である。パーティクルガン法は、DNA等の物質を付着させた金属粒子を加速して細胞に当て、細胞内に打ち込む方法、マイクロインジェクション法は細胞にマイクロキャピラリーを刺入してDNA等の物質を注入する方法、膜融合法は物質を封入したリポソーム等をポリエチレングリコール等の化学物質を用いて細胞膜に融合させ細胞と一体化させる方法である。細胞は数μmから数十μmとマイクロメータサイズの大きさを持つので、これらの微細な対象を上手に扱うには、対象にあわせた微細なツールが必要となる。細胞に遺伝子を注入するツールとしては、上記の方法が用いられている。

【04】

【発明が解決しようとする課題】バイオテクノロジーの研究に当っては細胞に遺伝子を注入することから作業が始まるが、現在まで、多数の細胞に効率よく遺伝子を注入することの出来る方法あるいはツールは開発されていない。前述のエレクトロポレーション法は、細胞を個別的ではなく集団として扱って注入を行う方法であるため、細胞の無駄遣いが多く、また遺伝子導入操作の効率が非常に悪いという問題があった。パーティクルガン法も同様である。マイクロインジェクション法は確実に遺伝子導入を行える方法ではあるが、一回に一個の細胞にしか遺伝子導入ができないので遺伝子導入操作の効率が非常に悪いという問題があった。

【05】
本発明は、このように細胞を個別的にかつ正確にハンドリングできる操作ツールや操作技術が確立されていない現状に鑑みてなされたもので、細胞を個別的にかつ正確にハンドリングすることのできる操作ツールを提供することを目的とする。本発明は、また、個別操作の特性を保持した上で大量の細胞を処理することのできる処理方法を提供することを目的とする。

【06】

【課題を解決するための手段】本発明は、半導体デバイスの製造などに用いられている微細加工技術を利用して微細キャピラリーをアレイ化することにより、細胞の個別的な操作と同時に多くの細胞を対象として遺伝子導入操作の一括処理が可能なマイクロインジェクションアレイシステムを開発し、遺伝子導入作業の効率向上を図るものである。

【07】
図1は、本発明のマイクロインジェクションアレイシステムによる遺伝子注入法の概念図である。本発明のマイクロインジェクションアレイシステムは、マイクロチャンバーアレイ10とマイクロキャピラリーアレイ15を備える。マイクロチャンバーアレイ10は、一個一個の細胞13を個別に保持することのできる多数のマイクロチャンバー11を備える。マイクロチャンバー11は表面から窪んだピットとピットの底部に連通する連通孔12からなり、ピットの大きさを細胞13の直径より少し小さめに作れば、一個の細胞だけの捕捉が可能となる。細胞捕捉の時は、マイクロチャンバー11の上に細胞が入った浮遊液を流し、そして連通孔12を介して背後からピットに陰圧をかけてやると一つのチャンバー11に一個の細胞13が負圧吸引固定される。マイクロチャンバーをアレイ化することにより、多くの細胞を一括してアレイ状に配列、固定することができる。

【08】
マイクロキャピラリーアレイ15は、マイクロチャンバー11の配列と同じ配列でアレイ状に並べて形成された外径2~10μm程度の先端を有する多数のマイクロキャピラリー16を備え、そのマイクロキャピラリー16を用いて、マイクロチャンバー11に保持されたすべての細胞13に対してDNA等の物質注入を一括して行なう。本発明によるマイクロキャピラリーアレイは、外径2~10μmの複数の中空キャピラリーが、基板を貫通し、基板の一方の表面から突出して設けられていることを特徴とする。

【09】
本発明によるマイクロキャピラリーアレイは、また、基板表面に形成される薄膜材質からなる複数の中空キャピラリーが、基板を貫通し、基板の一方の表面から突出して設けられていることを特徴とする。基板はシリコン基板とすることができ、薄膜材質は酸化シリコン又は窒化シリコンとすることができる。中空キャピラリーの先端部は、最先端部以外の部分で外部と連通しているのが好ましい。

【10】
本発明によるマイクロキャピラリーの作製方法は、基板の一方の表面から内部に向かって細穴を加工する工程と、穴の内壁に薄膜を形成する工程と、穴を加工した表面と反対側の表面から基板をエッチングして細穴の内壁に形成した薄膜からなる中空構造を露出させる工程と、薄膜からなる中空構造の先端部を開口させる工程とを含むことを特徴とする。先端部を開口させる工程では、中空構造の最先端部を残して開口させるのが好ましい。

【11】
本発明によるマイクロキャピラリーアレイの作製方法は、また、基板の一方の表面から内部に向かって所定の配列で複数の細穴を加工する工程と、複数の細穴の内壁に薄膜を形成する工程と、細穴を加工した表面と反対側の表面から基板をエッチングして細穴の内壁に形成した薄膜からなる複数の中空構造を露出させる工程と、薄膜からなる複数の中空構造の先端部を開口させる工程とを含むことを特徴とする。先端部を開口させる工程では、中空構造の最先端部を残して開口させるのが好ましい。複数の細穴を加工する工程及び中空構造の先端部を開口させる工程は集束イオンビーム加工、あるいはICP・RIE加工によって行うことができる。

【12】
基板はシリコン基板とすることができ、薄膜は酸化シリコン又は窒化シリコンで形成することができる。薄膜は、蒸着等の方法で形成した金属薄膜としてもよい。本発明による物質注入装置は、複数の細胞を所定のピッチ配列で保持する細胞保持手段と、先端が基板から突出した外径2~10μmの複数の中空キャピラリーを前記所定のピッチ配列で備えるマイクロキャピラリーアレイと、マイクロキャピラリーアレイに物質を吸入あるいは吐出させるための手段と、細胞保持手段と前記マイクロキャピラリーアレイとを相対的に駆動する手段とを含むことを特徴とする。

【13】
また、本発明による物質注入方法は、複数の細胞を所定のピッチで保持するステップと、前記所定のピッチで配列されたマイクロキャピラリーアレイに物質を吸引するステップと、物質を吸引したマイクロキャピラリーアレイの先端を各キャピラリーに対応する細胞に突き刺すステップと、キャピラリー中の物質を細胞に注入するステップとを含むことを特徴とする。

【14】
本発明による物質注入方法は、また、複数の細胞を所定のピッチで保持するステップと、前記所定のピッチで配列されたマイクロキャピラリーアレイの先端を各キャピラリーに対応する細胞に突き刺すステップと、キャピラリーを突き刺された細胞中の物質をキャピラリー中に吸引するステップと、キャピラリー中に吸引された物質を他の細胞に注入するステップとを含むことを特徴とする。本発明は、また、前述の方法によって物質を注入された細胞及びその細胞から分裂増殖した細胞である。本発明は、また、前述の方法によって物質を注入された細胞から分裂増殖して得られた成体である。

【15】
本発明の物質注入装置あるいは物質注入方法は、細胞にDNAや蛋白質等の生体高分子、標識用の蛍光色素等を注入するために利用することができ、動植物の人工的改良・育種に利用することができる。本発明によると、遺伝子導入機構のアレイ化により、多くの細胞を対象とした遺伝子導入操作が可能となり、作業効率やDNA導入効率を大幅に向上することができる。また、本発明の遺伝子注入法は、直接注入方式であるため、他の方式と比べ遺伝子導入を確実に行うことができる。

【16】

【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。最初に、図2~図4を用いてマイクロキャピラリーアレイの作製方法について説明する。図2は、マイクロキャピラリーが形成されるシリコン基板の加工工程を示すものである。図2(a)のように、例えば厚さ200~400μm程度のシリコン基板20を用意し、それに図2(b)に示すように、2~10μm程度の外径を有し、50μm以上の深さを有する多数の穴21を格子状に整列させて形成する。この穴21を形成する工程は、例えば集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用いた加工によって、あるいは高密度プラズマエッチング(Inductively Coupled Plasma Reactive Ion Etching:ICP-RIE)によって行うことができる。

【17】
FIBによる加工は、シリコン基板20を精密ステージでステップ的に移動させながら穴21を1個ずつ開けるため、加工に時間を要するものの、穴の先端部が尖った構造を形成することができる。その結果、後述の工程を経て、先端部の曲率半径が約0.1μmと鋭く尖ったマイクロキャピラリーを作製することができる。遺伝子導入用のキャピラリー構造としては当然ながら先端部が鋭く尖った方が望ましい。

【18】
また、ICP-RIEによる加工は、シリコン基板表面に塗布したフォトレジストにフォトリソグラフィ工程によって穴のパターンを形成し、そのフォトレジストをマスクとして反応性イオンの高密度プラズマによるエッチングで穴を形成するものである。ICP-RIE法は、短時間の処理で多数の穴を一度に形成することができるが、FIB加工のようには穴の先端を細くすることができない。

【19】
穴を形成したシリコン基板20に対して、その後、熱酸化、ヘビードープ、気相堆積法、スパッタリング等の方法を用いて薄膜形成を行う。例えば、図2(c)に示すように、全面を酸化させて、穴21の内壁部分も含めて酸化シリコン(SiO2)膜22で覆う。基板表面及び穴21の内壁への酸化シリコン膜22の形成は、例えば酸素雰囲気中でシリコン基板を1150℃程度に加熱することで行うことができる。1時間の加熱で0.2μm程度の厚さの酸化膜が形成され、10時間の加熱で1μm程度の厚さの酸化膜を形成することができる。最終的に形成されるマイクロキャピラリーの強度を確保するためには、酸化シリコン膜22の膜厚は1μm程度とする必要がある。酸化シリコン膜に代えて窒化シリコン膜を形成する場合には、低圧気相堆積法(LPCVD)でSiH4とアンモニアを混合して800℃で反応させることにより形成することができる。

【20】
次に、図3に示すように、ガラス基板を加工する。図3(a)に示すように、厚さ0.5mm程度のガラス基板30を用意する。そのガラス基板30をクロム・金をレジストとしてフッ酸中でエッチングすることにより、図3(b)に示すように、片面に周縁部31を残して凹部32を形成して、皿状に加工する。更に、図3(c)に示すように、ガラス基板30の中心付近に、ドリルあるいは超音波加工によって凹部32から基板の反対側の面まで連通する貫通孔33を形成する。

【21】
次に、図4に示すように、図2の工程で作製したシリコン基板20と、図3の工程で作製したガラス基板30とを接合し、更に加工してマイクロキャピラリーアレイを作製する。まず、図4(a)に示すように、図2の工程で作製したシリコン基板20の穴21が開口している側の面と、図3の工程で作製したガラス基板30の凹部32が形成された側の面を合わせ、陽極接合する。次に、図4(b)に示すように、シリコン基板20を、穴21が開口している側と反対側の面24からTMAHが薄く含まれている有機アルカリ溶液を用いて大きくエッチングする。酸化シリコンあるいは窒化シリコンはエッチングされないので、図示するように、酸化シリコンあるいは窒化シリコンからなる中空針を基板から突出させることができる。しかしながら、酸化シリコンあるいは窒化シリコン膜も少しずつエッチングされてしまうので、酸化シリコンあるいは窒化シリコン膜22に対する保護膜が必要である。シリコン基板20の穴21が開口している側の面に接合したガラス基板30は、この保護膜の役割を果たす。また、エッチング後、シリコン基板20の厚さが非常に薄くなるので、シリコン基板20の保持の面からもガラス基板30は必要である。

【22】
こうして、シリコン基板20から多数の酸化シリコンあるいは窒化シリコン膜製の袋状中空針25が突出した状態となる。ただし、この段階では袋状中空針25は有底であり、上面のみが開放している。なお、シリコンをエッチングしていく間に酸化シリコンあるいは窒化シリコン膜22も次第に薄くなっていくので、中空針25の長さを充分に確保するためには、図2(c)の工程で形成する酸化シリコンあるいは窒化シリコン膜22を充分厚くしておかなければならない。

【23】
酸化シリコンあるいは窒化シリコン以外の薄膜を用いる場合も同様であり、薄膜材質に比べてシリコンのエッチング速度が十分に速くなる条件でエッチングを行う。それによって、薄膜材質からなる中空針を基板から突出させて形成することができる。酸化シリコンあるいは窒化シリコン以外の薄膜としては、例えば蒸着によって形成した金属薄膜などがある。続いて、図4(c)に示すように、袋状中空針25の先端付近に穴26を開けて軸方向に連通するキャピラリー27とする。この袋状中空針25の穴開け加工について、次に説明する。この穴開け加工の方法としては、FIB加工あるいはRIE加工を利用することができる。

【24】
図5は、FIB加工によって袋状中空針に穴を開ける方法の説明図である。FIB加工装置は、試料に対して弱いイオンビームを走査することで試料から放出される二次電子を検出して走査イオン顕微鏡(SIM)像を観察することができる。SIM像によって袋状中空針50を観察しながら、所定の位置で照射するFIB51を強くして、図5(a)に示すように袋状中空針25の先端付近に穴52を開ける。この方法によると、図示したように袋状中空針50の先端位置を外して側面に穴52を開けることができる。そのため、図5(b)に模式的に示すように、中空針50の先端部の鋭さを維持することができ、細胞に刺しやすいマイクロキャピラリー55を形成することができる。

【25】
図6は、RIE加工によって袋状中空針に穴を開ける方法の説明図である。この場合には、まず図6(a)に示すように、シリコン基板20の酸化シリコン膜22からなる袋状中空針25が突出している側に、袋状中空針25が埋まるまでレジスト63を塗布する。次いで、図6(b)に示すように、レジスト63を塗布したシリコン基板20を電極66,67間に配置して、RIEでレジスト65をエッチングしていく。袋状中空針25の先端が出ると、レジスト63とともに袋状中空針25の先端もエッチングする。レジスト層63の厚さを計測しながらエッチングしていき、袋状中空針25の先端に穴が開いた段階でエッチングを停止する。こうして図6(c)に断面模式図を示し、図6(d)に模式的に斜視図を示すように、先端に穴62が開いて、軸方向に連通したマイクロキャピラリー65を形成することができる。RIE加工によると、多数の袋状中空針25に一度に穴を開けることができる利点がある。

【26】
以上のようにして、マイクロキャピラリーアレイが作製される。このマイクロキャピラリーアレイは、マイクロチャンバーアレイと対で用いられる。マイクロチャンバーアレイは、遺伝子導入操作の際に対象細胞が逃げないように特定の場所に保持する微細ツールである。以下に、マイクロチャンバーアレイの作製方法を説明する。

【27】
図7は、マイクロチャンバーアレイの作製方法の一例を説明する工程図である。まず、図7(a)に示すように、厚さ約100μmの石英基板70を用意し、表面及び裏面に金属レジスト層71a,71bを形成する。表面側のレジスト層71aはフォトリソグラフィー工程により、マイクロキャピラリーアレイの配列ピッチと同じピッチで直径10μm程度の円形領域のレジストを除去しておく。このレジスト層71a,71bが形成された石英基板70をフッ酸で図7(b)に示すように異方性エッチングする。異方性エッチング終了後、レジスト層71a,71bを除去すると、図7(c)に示すように、マイクロキャピラリーアレイの配列ピッチと同じピッチでテーパ状の貫通孔(マイクロチャンバー)72が形成された石英基板が得られる。

【28】
次に、図7(d)に示すように、このテーパ状の貫通孔72が形成された石英基板70に、図3に示したのと同様の工程で作製された凹部75及び貫通孔76を有する下地ガラス基板74を接着する。その後、図7(e)に示すように、下地ガラス基板74の下面にガラスもしくは透明プラスチック材料からなるポンプ接続部材77を接着する。ポンプ接続部材77は、下地ガラス基板74の貫通孔76を図示しないポンプに連通させるためのものであり、貫通孔76に連通る流路78と、側面にその流路78に接続する接続部79を有する板状の部材である。接続部79とポンプの間をチューブ90で接続して吸引することにより、図7(e)に模式的に示すように、細胞91を1個ずつ石英基板70のテーパ状の貫通孔72の中に吸引して保持することができる。部材74と部材77は別体とせず、一体化した1つの部材としても良い。マイクロチャンバーアレイの基板として石英基板70を用いると、石英基板は透明であるため、後述のように基板の下面から倒立顕微鏡を用いた位置決めが可能となり、位置合わせが容易になるという利点がある。

【29】
図8は、マイクロチャンバーアレイの作製方法の他の例を説明する工程図である。この例では、基板として図8(a)に示すように、(100)方位の単結晶シリコン基板80を用いる。このシリコン基板80の表面及び裏面にレジスト層81a,81bを形成する。表面側のレジスト層81aはフォトリソグラフィーの工程により、マイクロキャピラリーアレイの配列ピッチと同じピッチで直径20μm角程度の角形領域のレジストを除去しておく。このレジスト層81a,81bを形成したシリコン基板80をKOH溶液に浸漬して、図8(b)に示すように異方性エッチングする。異方性エッチング終了後、レジスト層81a,81bを除去すると、図8(c)に示すように、マイクロキャピラリーアレイの配列ピッチと同じピッチでテーパ状のピット82が形成されたシリコン基板80が得られる。

【30】
次に、表面側にテーパ状のピット82が形成されたシリコン基板80の裏面側にレジスト層を形成し、テーパ状のピット82の真下に相当する部分のレジスト層を直径2~5μm程度除去する。そして、このレジスト層をマスクとしてIPC-RIEで加工することにより、図8(d)に示すように、シリコン基板80の裏面から表面のテーパ状のピット82に至る基板貫通孔83を形成する。

【31】
続いて、図8(e)に示すように、貫通孔83が形成されたシリコン基板80に、図3に示したのと同様の工程で作製された凹部85及び貫通孔86を有する下地ガラス基板84を陽極接合法により接着する。更に、下地ガラス基板84の下面にガラスもしくは透明プラスチック材料からなるポンプ接続部材87を接着する。ポンプ接続部材87は、下地ガラス基板84の貫通孔86を外部のポンプに連通させるためのものであり、貫通孔86に連通する流路88を有し、側面にその流路88に連通する接続部89を有する板状の部材である。接続部89とポンプの間をチューブ90で接続して吸引することにより、図8(e)に模式的に示すように、細胞93を1個ずつシリコン基板80のテーパ状のピット82の中に吸引して保持することができる。部材84と部材87は別体とせず、一体化した一つの部材としても良い。

【32】
マイクロチャンバーアレイの基板としてシリコン基板80を用いた場合には、細胞93を保持するテーパ状のピット82に接続する貫通孔83の径を小さくできるため、小さな細胞でも保持することができるという利点がある。

【33】
図9は、本発明によるマイクロインジェクションアレイシステムの一例の全体構成図である。このシステムは、石英基板によって構成されたマイクロチャンバーアレイ100とDNA容器150を載置して2次元方向に移動可能な透明XYステージ110、XYステージ110上でマイクロキャピラリーアレイ120を上下方向(Z方向)に移動操作可能なマニピュレータ130を備える。マイクロチャンバーアレイ100は圧電アクチュエータ160上に配置されている。マイクロチャンバーアレイ100にはチューブ111を介してポンプ112が接続されており、マイクロキャピラリーアレイ120にはチューブ121を介してシリンジ122が接続されている。XYステージ110の下方には、位置合わせのための倒立顕微鏡140が配置されている。図9に示したマイクロインジェクションアレイシステムを用いた細胞へのDNA注入操作は、以下の手順に従って行われる。

【34】
(1) マイクロチャンバーアレイ上に細胞浮遊液を流し、ポンプ112によって負圧をかけて各チャンバーに細胞115を1個ずつ吸引固定する。固定されなかった細胞は流し去る。
(2) XYステージ110を移動してDNA容器150をマイクロキャピラリーアレイ120の下方に位置決めする。
(3) マニピュレータ130を操作してマイクロキャピラリーアレイ120を下方に移動し、DNA容器150の溶液中に浸漬する。

【35】
(4) シリンジ122を操作してマイクロキャピラリーアレイ120にDNA容器150中のDNA溶液を吸引する。DNA溶液は個々のキャピラリーの内部に吸引される。DNA容器中のDNA濃度を適当に調整することにより、全てのマイクロキャピラリーにDNAが吸引されるようにすることは十分可能である。
(5) マニピュレータ130を操作してマイクロキャピラリーアレイ120を上方に移動し、XYステージ110を移動してマイクロキャピラリーアレイ120の下方にマイクロチャンバーアレイ100を位置づける。
(6) 倒立顕微鏡140を用いてXYステージ110の下方からマイクロチャンバーアレイ100とマイクロキャピラリーアレイ120を観察しながらXYステージ110を微動させて両者を正確に位置合わせする。

【36】
(7) マニピュレータ130を操作してマイクロキャピラリーアレイ120を下方に移動し、マイクロキャピラリーアレイ120の先端をマイクロチャンバーアレイ100に保持されている個々の細胞115に突き刺す。このとき、マイクロチャンバーアレイ100を載せている圧電アクチュエータ160を駆動してマイクロチャンバーアレイ100に吸着されている細胞115を振動させることで、細胞にマイクロキャピラリーを刺す操作が容易になる。
(8) マイクロチャンバーアレイ100に吸着されている各細胞115にマイクロキャピラリー120のマイクロキャピラリーが突き刺さっている状態でシリンジ122を操作して、マイクロキャピラリー中のDNAを細胞115に注入する。

【37】
(9)マニピュレータ130を操作してマイクロキャピラリーアレイ120を上方に移動し、XYステージ110を例えば図10に矢印で示す方向に移動して、マイクロチャンバーアレイ100の別のブロックの新しい細胞をマイクロキャピラリーアレイ120の下方に位置づける。
(10)前記(6)から(9)の操作を繰り返し、必要に応じてDNA容器150からDNAを補充しながら、マイクロチャンバーアレイ100に吸着されている全ての細胞に対してDNA注入操作を行う。
(11)すべての細胞にDNA注入を行った後、ポンプ112を逆転駆動することでマイクロチャンバーアレイに正圧を与えて細胞の吸引固定を解除し、DNAが注入された細胞を回収する。このような操作により、大量の細胞に対して個々に確実にDNAを注入することができる。

【38】
また、マイクロチャンバーアレイ100に保持した細胞115にマイクロキャピラリーを突き刺し、細胞内の核を含む物質を吸引した後、マイクロチャンバーアレイ110に他の細胞を保持し、マイクロキャピラリーを突き刺してキャピラリー中に吸引した物質を注入することで、核を含む物質を細胞間で移植することができる。その際、1つのマイクロチャンバーアレイ100で細胞を交換しながら作業を行うこともできるが、図9のDNA容器150の代わりにXYステージ110上にもう一つのマイクロチャンバーアレイを置いて上記の手順で作業を行えば、作業効率を高めることができる。

【39】
なお、図9に示した例では、マイクロチャンバーアレイ100とマイクロキャピラリーアレイ120の位置決めを、透明なXYステージ110の下方から倒立顕微鏡140を用いて行った。しかし、マイクロチャンバーアレイとマイクロキャピラリーアレイの位置決め方法は倒立顕微鏡を用いた方法だけに限定されるものではない。例えば、図11に示すように、マイクロチャンバーアレイ100のブロック101毎に位置合わせマーク102を設けておき、マイクロキャピラリーアレイ側に設置された正立顕微鏡で位置合わせマーク102を確認することで両者の位置合わせを行うこともできる。あるいは、送り精度の高いXYステージを用いることで、マイクロチャンバーアレイとマイクロキャピラリーアレイ位置合わせを顕微鏡による確認を必要とせずに行うことも可能である。

【40】
また、図9に示したシステムでは、マイクロキャピラリーアレイ中120のキャピラリーの数をマイクロチャンバーアレイ100中のチャンバー数より少なく設定し、マイクロキャピラリーアレイ120に対してマイクロチャンバーアレイ100を相対的に移動させながら、マイクロチャンバーアレイのブロック毎に順番にDNAを注入した。しかし、マイクロキャピラリーアレイ中のキャピラリーの数とマイクロチャンバーアレイ中のチャンバー数とを等しく設定すると、一度の操作でマイクロチャンバーアレイに保持された全ての細胞にDNAを注入することができる。

【41】
また、図9に示したシステムでは、マイクロチャンバーアレイ100をX,Y方向に移動させ、マイクロキャピラリーアレイ120を上下方向(Z方向)に駆動するようにしたが、マイクロチャンバーアレイ100は固定とし、マイクロキャピラリーアレイ120を上下方向と共にX,Y方向にも移動可能とすることで、マイクロチャンバーアレイ100に吸引固定されたすべての細胞にDNA注入を行うことも勿論可能である。

【42】
300μm間隔、50×50配列のマイクロキャピラリーアレイ、マイクロチャンバーアレイを組み込んだ本発明による装置で、ポプラプロトプラストを用いた実験では、細胞1個の捕捉率は30%、蛍光色素を用いた注入試験では注入率は30%であった。従って、一度の操作で約200個の細胞に物質を注入することができた。所用時間は約1分である。従来のマイクロインジェクション法では、ほぼ同じ時間で1個の細胞への注入処理を行うのが限度であるから、本発明によって処理効率が従来法に比較して約200倍向上したことになる。

【43】

【発明の効果】本発明によると、細胞に物質を注入するためのマイクロキャピラリーアレイを作製することが可能になり、そのマイクロキャピラリーアレイを用いることにより大量の細胞に対して個々に確実に物質を導入することが可能になる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図11】
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【図3】
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【図5】
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【図10】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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