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明細書 :青紫色素の耐光性向上処理法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3111217号 (P3111217)
公開番号 特開平11-152687 (P1999-152687A)
登録日 平成12年9月22日(2000.9.22)
発行日 平成12年11月20日(2000.11.20)
公開日 平成11年6月8日(1999.6.8)
発明の名称または考案の名称 青紫色素の耐光性向上処理法
国際特許分類 D06P  1/34      
C09B 61/00      
C12N  1/20      
D06P  5/06      
C12R  1:01      
FI D06P 1/34
C09B 61/00
C12N 1/20
D06P 5/06
請求項の数または発明の数 3
全頁数 5
出願番号 特願平09-319906 (P1997-319906)
出願日 平成9年11月20日(1997.11.20)
審査請求日 平成9年11月20日(1997.11.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391030284
【氏名又は名称】農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】加藤 弘
【氏名】秦 珠子
【氏名】白田 昭
【氏名】塚本 貴敬
個別代理人の代理人 【識別番号】100060025、【弁理士】、【氏名又は名称】北村 欣一 (外3名)
審査官 【審査官】星野 紹英
参考文献・文献 特開 昭58-212791(JP,A)
特開 昭50-58374(JP,A)
特開 昭62-104983(JP,A)
特開 昭63-309681(JP,A)
特開 平9-78471(JP,A)
調査した分野 D06P 1/34
D06P 5/06
特許請求の範囲 【請求項1】
青紫色素のビオラセイン、デオキシビオラセイン、又は両者の混合物で染色した繊維又は繊維製品をチオ尿素水溶液で処理することを特徴とする耐光性向上処理法。

【請求項2】
前記青紫色素が細菌ジャンシノバクテリウム リビダムから生産されるものである請求項1記載の耐光性向上処理法。

【請求項3】
前記チオ尿素水溶液が5%チオ尿素水溶液からチオ尿素飽和水溶液までの濃度範囲内の水溶液である請求項1又は2記載の耐光性向上処理法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、青紫色素の耐光性を向上せしめるための処理法、特にビオラセイン(Violacein)、デオキシビオラセイン(deoxyviolacein)によって染色した繊維及び繊維製品をチオ尿素水溶液中で後処理する方法に関するものである。

【0002】

【従来の技術】衣料用の染色剤としては、化学技術の進歩に伴って化学染料が主流をなしている。一方、植物染料、動物染料などの天然色素は、化学染料では得られないような自然な深い味わいのある中間色が得られることから、天然色素に対する人気が依然として高い。中でも古くから青紫系の天然色素は、その美しさからだけでなく染料の得難さから、いっそう珍重され、高貴な染料として尊重されてきた。紫系の天然色素としては体内にごく微量の色素を持つアクキ貝から抽出される貝紫が有名である。しかし、貝紫は、数百個のアクキ貝から1グラムの染料しか取れないというきわめて高価(市場価格1グラム約2万円)で、大量生産も困難な色素である。

【0003】
最近、青く汚染した繭、絹糸から細菌ジャンシノバクテリウム リビダム(Janthinobacterium lividum)が分離され(白田 昭:微生物から青紫色素、BRAINテクノニュース、60、14-16、1997)、この細菌の生産する青紫色素は絹、羊毛、綿などの天然繊維だけでなく、ナイロン、アセテートなどの化学繊維も鮮やかに染色することが見出された(特願平8-268452号参照)。この色素を同定した結果、ビオラセイン(分子量343)とデオキシビオラセイン(分子量327)であることがわかった。この色素は、化学的合成以外に細菌の培養によっても大量に安価に得られるため、紫系の天然色素としての利用が期待されている。しかし、いざ繊維への適用をはかる場合、最も問題になるのは光に対する不安定性であった。

【0004】
この青紫色素のメタノール抽出液で染色した繊維及び繊維製品の染色堅牢度は、洗たく堅牢度が1-2級、熱湯、酸性汗、アルカリ汗および摩擦に対する堅牢度は2級以上、3-4級程度と判定された。したがって、これら水関係の染色堅牢度は実用上まったく問題がないのに対して、日光に対する染色堅牢度は1級以下(JIS規格では1級が最低であるが、試験の結果、1級以下とみなされた)で、太陽光線に当たると青紫色がすぐに退色してしまい、とても実用に供することはできないものであった。

【0005】

【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、青紫色素のビオラセイン、デオキシビオラセインで染色した繊維及び繊維製品の耐光性を改善する処理方法を提供することを目的としている。

【0006】

【課題を解決するための手段】本発明者等は、青紫色素で染色した繊維及び繊維製品の耐光性を改善する処理方法について、鋭意、検討したところ、染色物をチオ尿素水溶液中で後処理すると、光退色挙動が著しく抑制されて、耐光性が向上することを見いだし本発明を完成するに至った。

【0007】
本発明の耐光性向上処理法は、青紫色素のビオラセイン、デオキシビオラセイン、又は両者の混合物で染色した繊維又は繊維製品をチオ尿素水溶液で処理することからなる。

【0008】
上記青紫色素は、細菌ジャンシノバクテリウム リビダムの菌株から生産されたものが望ましいが、これに限定されるわけではなく、他の細菌(例えば、クロモバクテリウム ビオラセウム (Chromobacterium violaceum)等)から生産されたもの又は化学的に合成されたものであってもよい。このジャンシノバクテリウム リビダム(S9601株)は、工業技術院生命工学技術研究所に寄託番号 FERM P-15894 として寄託されており、当該研究所から入手できるとともに、その菌学的性質は前記白田昭の文献中に記載されている。

【0009】
また、チオ尿素水溶液が5%チオ尿素水溶液からチオ尿素飽和水溶液までの濃度範囲内の水溶液であることが望ましい。5%未満であると、染色物の退色抑制効果が低い。

【0010】

【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を説明する。

【0011】
本発明において対象とする染色された繊維及び繊維製品を得るには、菌液染色法及び有機溶媒染色法などに従って行われる(前記特願平8-268452号参照)ことが望ましい。菌液染色法は、例えば、細菌ジャンシノバクテリウム リビダムの菌体を水又はジャガイモ半合成培地若しくは繭糸煮汁培地などの液体培地中に懸濁せしめ、その懸濁液に繊維等を所定の温度で、所定の時間浸漬することにより染色を行う方法である。また、有機溶媒染色法は、例えば、上記細菌の菌体から色素含有成分を有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ブタノール等)で抽出し、この抽出液中に、又は、この抽出液から単離された青紫色素若しくは化学的に合成された青紫色素(ビオラセイン、デオキシビオラセイン)を有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル等)に溶解・分散せしめた液中に、繊維等を所定の温度で、所定の時間浸漬することにより染色を行う方法である。かかる染色に際し、染色液中の色素濃度、浸漬時間などを調節することにより、例えば、淡い空色から藤色、青紫色、紺色まで染め分けることができ、本発明でいう染め色にはこれらも含まれる。

【0012】
上記のようにして染色された繊維をチオ尿素水溶液で処理することにより、耐光性が改良される。このような光退色抑制の効果はチオ尿素の濃度が高くなるとともに向上し、5%チオ尿素水溶液で処理すると日光堅牢度は概ね2級、チオ尿素飽和水溶液を用いると3級程度となることがわかった。加えて、本処理を染色物に施しても、染色物の色相が変化するという問題は生じない。

【0013】
本発明の耐光性向上処理法は、好ましくは、青紫色素のメタノール液で染色した繊維及び繊維製品をチオ尿素水溶液中に常温で1~5分間内外浸漬処理した後、軽く脱水、風乾して行われる。

【0014】
光退色抑制効果は、染色物上へのチオ尿素の付着によって発現するために水洗、洗たくすればその効果は失われ易い。しかし、繊維製品の着用後に行う水洗い、洗たくの後に、チオ尿素水溶液で再度処理するトリートメント方式によって、青紫色素の退色を再び抑制することができるので、洗たく等の度にかかる処理を行えば、実用的には長期間にわたって退色を抑制することが可能である。

【0015】
本発明によって耐光性の向上がみられる繊維は、上記青紫色素で染色できるすべての繊維、すなわち絹、羊毛、綿などの天然繊維、ナイロン、アセテートなどの化学繊維であり、本発明はこれらの繊維及び繊維製品に広く適用できる方法である。

【0016】
本発明において対象とする染色された繊維及び繊維製品を染色するために用いた青紫色素のうち、微生物由来の色素は次のようにして得られる。例えば、くず繭、汚染絹糸等から、ジャガイモ半合成培地などを用いてスクリーニングし、青紫色を呈する細菌ジャンシノバクテリウム リビダム(FERM P-15894)を分離し、この分離菌株を公知の好気性細菌の場合と同様な方法を用いて培養する。培養に際しては、ジャガイモ半合成培地などを用い、温度5~30℃、pH6.0~8.0に維持して行われる。かくして得られた菌体から、上記したような有機溶媒を用いて青紫色素を抽出する。有機溶媒を除去すれば、ビオラセイン及びデオキシビオラセインが得られる。抽出した青紫色素を、通常の単離方法、例えば、シリカゲルクロマトグラフィ及び逆相の高速液体クロマトグラフィ等により単離すれば、ビオラセイン及びデオキシビオラセインが得られる。

【0017】

【実施例】以下、本発明を、具体的な実施例及び比較例(以下、コントロールと称す)に基づいて説明する。これらの例は単なる例示であって、本発明を何ら制限するものではない。

【0018】
(実施例1)緑褐色に着色したくず絹糸より、各種培地を用いて青紫色を呈する細菌(FERMP-15894)を分離した後、分離細菌をジャガイモ半合成寒天培地(ジャガイモ塊茎300gの煎汁1L、Ca(NO3)2 4H2O 0.5g、Na2HPO4 12H2O 2g、ペプトン5g、スクロース15g、寒天15g)及びキングB培地(ペプトン20g、K2HPO4 1.5g、MgSO4 7H2O 1.5g、グリセリン10mL、寒天15g、蒸留水1L)からなる平板培地上に塗布し、1週間培養(25℃)し、濃い青紫色になった菌体を小型ビーカーに掻き取り、青紫色素をメタノールで抽出した。この抽出色素について、シリカゲルクロマトグラフィ(ヘキサン:テトラヒドロフラン:アセトン=4:2:1)及び逆相の高速液体クロマトグラフィ(70%メタノール)により分画・単離し、得られた二成分について、FAB-MSにより分子量を決定し(ビオラセイン(分子量343)、デオキシビオラセイン(分子量327))、1H、13C NMR、IR、及びUVスペクトルによりビオラセイン及びデオキシビオラセインであることを同定した。

【0019】
上記のようにして抽出した微生物由来青紫色素(ビオラセイン及びデオキシビオラセインの混合物)メタノール液中に、絹織物(染色堅牢度用添付白布,平羽二重14目付相当品)を2日間浸漬(浴比1:100程度、常温)して染色した。なお、染色した絹織物の色の濃さは、標準染色濃度表3号(JlS L 0810)に規定される染色濃度(ブライト、色票9号、x=0.2538、y=0.2402、Y=19.89)に相当する視感色濃度(x=0.2539、y=0.2291、Y=19.17)であった。

【0020】
青紫染色物を0.2%、2.0%、5.0%濃度のチオ尿素(TU)水溶液中に5分間浸漬処理(浴比1:約300、常温)した後、軽く脱液、風乾した。チオ尿素処理織物と未処理織物とを、晴天日の7日間(1997年8月18日-26日)、屋外で太陽光暴露(計49時間)した。光退色の程度は、自記分光光度計(島津UV-3100/3100S形)を用いて360-800nm波長領域の反射率スペクトルを測色してLab値を求め、クロマティクス指数b値により評価した(b値がマイナスに大きくなるほど青紫系統の色が濃くなることを表す)。得られた結果を図1に示す。

【0021】
図1から明らかなように、チオ尿素処理織物はコントロール(未処理織物)に比べて、退色速度が遅く、耐光性のあることがわかった。そして退色抑制効果はチオ尿素の濃度が高くなるとともに大きくなることもわかった。

【0022】
また、上記のようにして単離したビオラセイン、デオキシビオラセインをそれぞれ用いて上記と同様の処理をしたところ、同じように、チオ尿素処理織物はコントロール(未処理織物)に比べて、退色速度が遅く、耐光性があり、そして退色抑制効果もチオ尿素の濃度が高くなるとともに大きくなる。

【0023】
(実施例2)実施例1に従って得られた青紫色素混合物による染色物をチオ尿素5%水溶液およびチオ尿素飽和水溶液で処理した後、日光に対する染色堅牢度試験方法(JlS L 0841)に準じて直射日光法で日光堅牢度を求めた(太陽光暴露,1997年8月25日-28日の晴天時間)。

【0024】
未処理織物が1級以下(JISでは1級が最低であるが、試験の結果、1級以下とみなされた)であったのに対して、チオ尿素飽和水溶液で処理した染色物が3級、チオ尿素5%水溶液で処理した染色物が2級とそれぞれ評価された。さらにチオ尿素水水溶液処理により青紫染色物が色変化を起こしたり、生地の風合いに悪影響がみられることはなかった。また、単離した各色素についても同様の結果が得られる。

【0025】
本実施例に用いたチオ尿素の飽和水溶液は、70~80℃の湯にチオ尿素(和光純薬、試薬特級)を溶解させた後、自然放冷してチオ尿素の過飽和水溶液とし、上澄み液を常温下で濾紙(東洋ロシ3号)で2回繰り返しろ過して調製された。

【0026】
(実施例3)以下の方法により、実施例1に従って得られた青紫色素混合物による染色物をチオ尿素飽和水溶液で1、3、5回繰り返し処理した。

【0027】
(l)チオ尿素飽和水溶液中に常温×3分間浸漬した後、脱水、風乾。

【0028】
(2)温湯(40℃,イオン交換水使用)による水洗い2分間。

【0029】
(3)チオ尿素飽和水溶液中に常温×1分間浸漬した後、脱水、風乾。

【0030】
以下、上記工程(2)と(3)とを繰り返して、退色測定用試料をそれぞれ得た(太陽光暴露、1997年9月l日-5日の晴天時間(計30時間))。

【0031】
それぞれの試料について、実施例1の方法で退色の程度を測定し、その結果を表1に示す。

【0032】

【表1】
JP0003111217B2_000002t.gif【0033】表1から明らかなように、チオ尿素水溶液による後処理を繰り返し行った方が、コントロールの場合と較べて青紫色の光退色は抑制されて耐光性がより向上する傾向が認められる。また、単離した各色素についても同様の結果が得られる。

【0034】
(実施例4)チオ尿素処理の効果について、実施例1に従って得られた青紫色素混合物による染色物を、以下のように、洗濯(水洗)・チオ尿素飽和水溶液処理・太陽光暴露2時間の組合せを1単位として、5単位まで繰り返し、各単位毎に、退色の程度を肉眼観察により評価すると共に、可視光線波長領域の反射率スペクトルを測色してLab値を求め、クロマティクス指数b値により評価した。

【0035】
(l)チオ尿素飽和水溶液中に常温×3分間浸漬した後、脱水、風乾。

【0036】
(2)太陽光暴露3時間。

【0037】
(3)ノイゲンHC(第一工業製薬製)0.2%水溶液で40℃×3分間洗濯した後、温湯(40℃,イオン交換水使用)で5回すすぎ洗いし、脱水、風乾。コントロール(チオ尿素未処理)も同様の洗濯を行った。

【0038】
(4)チオ尿素飽和水溶液中に常温×1分間浸漬した後、脱水、風乾。

【0039】
以下、(2)-(4)の処理を繰り返して、退色測定用試料をそれぞれ得た(太陽光暴露、1997年9月10日-17日の晴天時間)。

【0040】
上記方式をトリートメント方式と称し、このトリートメント方式による光退色抑制効果を表2に示す。

【0041】

【表2】
JP0003111217B2_000003t.gif【0042】表2から明らかなように、チオ尿素水溶液処理を施さないコントロール(未処理織物)では、1単位(太陽光暴露3時間)であっても肉眼で識別できる程度の青紫色の退色が始まり、さらに太陽光暴露を繰り返すとb値の変化はきわめて大きく、光退色は暴露時間の増加につれて進行した。これに対して、チオ尿素処理織物は5単位の繰り返しによってもb値の変化が小さく、青紫色の光退色が少ないことが観察される。また、単離した各色素についても同様の結果が得られる。

【0043】

【発明の効果】青紫色素ビオラセイン、デオキシビオラセイン、例えば細菌ジャンシノバクテリウム リビダムの生産する青紫色素で染色した繊維及び繊維製品において、最も大きな問題であった太陽光線によって非常に退色しやすいという問題が、本発明によって解決された。それによって、ビオラセイン、デオキシビオラセインを、絹、羊毛、綿などの天然繊維だけでなく、ナイロン、アセテートなどの化学繊維の染色剤として使用しても、実用上問題がなくなった。このため、細菌、例えば、ジャンシノバクテリウム リビダムが生産する青紫色素ビオラセイン、デオキシビオラセインは、希少かつ高価で大量生産も困難な「貝紫」に取って変わる紫系の天然色素として、大量にかつ安価に利用することが可能となった。
図面
【図1】
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