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明細書 :近赤外分光法を用いた液状試料の分析法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4054854号 (P4054854)
公開番号 特開2002-122538 (P2002-122538A)
登録日 平成19年12月21日(2007.12.21)
発行日 平成20年3月5日(2008.3.5)
公開日 平成14年4月26日(2002.4.26)
発明の名称または考案の名称 近赤外分光法を用いた液状試料の分析法
国際特許分類 G01N  21/35        (2006.01)
G01N  21/27        (2006.01)
FI G01N 21/35 Z
G01N 21/27 F
請求項の数または発明の数 1
全頁数 9
出願番号 特願2000-316331 (P2000-316331)
出願日 平成12年10月17日(2000.10.17)
審判番号 不服 2005-007518(P2005-007518/J1)
審査請求日 平成12年10月25日(2000.10.25)
審判請求日 平成17年4月27日(2005.4.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】河野 澄夫
【氏名】伊豫 知枝
個別代理人の代理人 【識別番号】100085257、【弁理士】、【氏名又は名称】小山 有
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
参考文献・文献 特開平11-173982(JP,A)
国際公開第99/66310(WO,A1)
特表平10-512667(JP,A)
特開平10-30982(JP,A)
特開昭62-251661(JP,A)
特開平8-50093(JP,A)
特開昭61-82145(JP,A)
特開平4-351945(JP,A)
特開平6-3264(JP,A)
特開平5-18823(JP,A)
調査した分野 G01N21/00-21/61
特許請求の範囲 【請求項1】
液状試料の化学成分または理化学的特性の検量線を作成し、分析対象の液状試料の近赤外吸収スペクトルを測定し、この測定値を前記検量線に代入することによって、前記液状試料の化学成分の濃度や理化学的特性を算出するようにした液状試料の分析法において、
前記検量線の作成は、検量線作成用の液状試料を入れた複数の同じ試験管を用意し、この試験管に波長700nm~1100nmの近赤外光を照射し、当該測定波長における検量線作成用の液状試料の透過光強度を測定し、また基準となるセラミックス板に波長700nm~1100nmの近赤外光を照射し、当該測定波長におけるセラミックス板の透過光強度を測定し、これら検量線作成用の液状試料の透過光強度とセラミックス板の透過光強度の比から波長700nm~1100nmにおける吸光度を算出し、この吸光度に基づいて波長に対して吸光度をプロットした近赤外吸収スペクトルを測定し、この近赤外吸収スペクトルから目的の化学成分または理化学的特性の検量線を作成し、
前記分析対象の液状試料の近赤外吸収スペクトルの測定は、前記検量線作成用の液状試料を入れた試験管と同一規格の試験管に分析対象の液状試料を入れ、この試験管に波長700nm~1100nmの近赤外光を照射し、当該測定波長における分析対象の液状試料の透過光強度を測定し、また基準となるセラミックス板に波長700nm~1100nmの近赤外光を照射し、当該測定波長におけるセラミックス板の透過光強度を測定し、これら分析対象の液状試料の透過光強度とセラミックス板の透過光強度の比から波長700nm~1100nmにおける吸光度を算出し、この吸光度に基づいて波長に対して吸光度をプロットした近赤外吸収スペクトルを測定することを特徴とする液状試料の分析法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホモジナイズしない生乳、野菜ジュース、食用油などの液状試料 の化学成分および理化学的特性(以下、目的特性と呼ぶ)を分析する近赤外分光法を用いた液状試料の分析法およびその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近赤外光を用いて食品の糖度などを非破壊で測定する方法が従来から知られている。例えば、特開平11-44638号公報には、果物にハロゲンランプ等の白色光を照射し、透過光強度の波長に対する分布(透過光スペクトル)を測定し、これを分析することで果物の糖度を測定するという近赤外光の吸収分光手法が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述した近赤外光の吸収分光手法では、極めて大雑把な測定しか行えず、例えば食品中の脂肪、タンパク質、デンプン、ヨウ素価、酸価などを正確に測定することはできない。
【0004】
正確な測定値を得るには、上記の液状試料から夾雑物を完全に除去し、あるいはホモジナイズする処理が必要となり、これでは近赤外分光法の利点である迅速性、簡便性が損なわれてしまう。
【0005】
また、従来の近赤外分光法にあっては、波長域として1100nm~2500nmの近赤外光を用いているため、光路長が0.1~2mmの特殊な水晶製の試料セルを用意する必要がある。このため、洗浄・乾燥・試料の充填などの操作が面倒で、時間を要し、更に光路長が狭いことから試料の不均一さや夾雑物の存在が測定結果に大きく影響を及ぼしてしまう。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、近赤外光であっても短波長域、具体的には700nm~1100nmの領域の近赤外光であれば、長波長域よりも10~100倍ほど透過力が大きく、短波長域の近赤外光を用いれば光路長を1~2cm程度にすることができ、通常の試験管を用いても分析が可能となるという知見に基づいてなしたものである。
【0007】
即ち、本発明に係る液状試料の分析法は、試験管内の液状試料に外部から短波長域(700nm~1100nm)の近赤外光を照射し、液状試料からの散乱反射光、散乱透過光あるいは透過反射光を光センサーで検出して液状試料の近赤外吸収スペクトルを測定し、この測定値を、同様の方法により測定したスペクトルから予め作成した検量線に代入することで、液状試料の化学成分または理化学的特性を知るようにした。
【0008】
近赤外光を対象物(液状試料)に照射すると、対象物に含まれる各種分子により特定の波長のみがその分子数に比例して吸収される。そして、分子構造(分子の種類)により吸収される光の波長が異なる。液状試料のように多種成分が含まれるものでは、吸収が重なりあった複雑な吸収現象が起こる。吸光度(光の吸収される度合い)を波長ごとにプロットすることにより近赤外吸収スペクトルが得られ、この近赤外吸収スペクトルを用いて定量分析を行うには、目的特性の値(濃度或いは特性値)とスペクトルデータとを関係づける関係式(検量線)が必要となる。通常検量線は、目的特性値が既知な試料のスペクトルを測定し、そのスペクトルデータと目的特性値に基づいて、重回帰分析、主成分回帰分析、PLS回帰分析などのケモメトリックス(chemometrics)の手法により作成することができる。
【0009】
本発明の対象となる液状試料としては、例えば、牛乳、果実・野菜ジュース、食用油などの食品の他、胃液、尿、工場廃水及び湖水などが挙げられる。
【0010】
前記検量線を作成するための試料のスペクトル測定では、同一規格の複数の試験管を用いることが好ましい。このようにすることで、ルーチン分析時に当該規格の複数の試験管を使用することが可能になる。
【0011】
また、上記目的を達成するため本発明に係る液状試料の分析装置は、試験管の収納部を形成したブロックと、光源または試料からの光から短波長域の近赤外光を分光する分光器と近赤外光を検出する光センサーを備えた近赤外装置と、前記光源あるいは前記分光器から発せられた短波長域の近赤外光を収納部内の試験管まで導くとともに試験管内の液状試料からの散乱反射光、散乱透過光あるいは透過反射光を前記分光器を経てあるいは直接前記光センサーまで導く導光手段と、前記近赤外装置にスペクトルの測定指令を出力するとともに測定したスペクトルを予め作成した検量線に代入して液状試料の化学成分または理化学的特性を算出する制御手段とを備えた構成とした。
【0012】
前記光源としては、例えばタングステンハロゲンランプ等の白色光源を用い、光センサーとしてダイオードアレイを用いる。
また、光源として分光した近赤外光を用いる場合には、光センサーとしてシリコン検出器を用いることが好ましい。
また、導光手段としては、光ファイバー(単線)または光ファイバーバンドル(光ファイバーを束ねたもの)が好ましい。
更に前記ブロックに、試験管内の液状試料を所定の温度に安定化せしめるための温度制御手段を設けることで、高精度の測定が可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明に係る液状試料の分析法を実施する装置の一例の全体図、図2は同装置で基準物質を分析している状態を示す部分拡大断面図、図3は同装置で液状試料を分析している状態を示す部分拡大断面図である。
【0014】
本発明の液状試料の分析方法を実施するための分析装置は、図1に示すように、分散型近赤外装置1と、制御するコンピュータ2を備え、分散型近赤外装置1内には光源からの白色光から近赤外光を分光する分光器と近赤外光を検出する光センサーが内蔵され、また近赤外装置1にはアルミニウム製のブロック3が付設されている。
【0015】
このブロック3には試験管4を装填可能とした収納部5が形成され、収納部5の上面は開放され、この開放された部分からのノイズ光の入射を防ぐためのキャップ6が配置されている。
【0016】
また、収納部5の内側面には一端が前記近赤外装置1内の分光器につながる光ファイバー7の他端が臨み、収納部5の内側面で光ファイバー7の他端と対向する位置には一端が近赤外装置1内の光センサーにつながる光ファイバー8の他端が臨んでいる。そして、前記光ファイバー7、8は蛇腹チューブ9で保護されている。
【0017】
更に、ブロック3の下面には、試験管4内の液状試料を所定の温度に安定化せしめるためのパネルヒータなどの加熱装置10が設けられ、この加熱装置10をコントローラ11で制御するようにしている。
【0018】
以上の分析装置を用いた試料液状試料のスペクトル測定手順を以下に述べる。まず、アルミニウムブロック3の収納部5内にスペクトル測定の基準物質であるセラミック板12(厚さ2.5mm)をセットし、その上に遮光用キャップ6をかぶせる。次に、制御用コンピュータ2を操作して、セラミック板12の透過光強度を測定する。すなわち、近赤外装置1のスリットからの700nm~1100nm域の分光した近赤外光を光ファイバー7を介してセラミック板12に照射し、セラミック板12を拡散透過した光を光ファイバー8を介して近赤外装置1内の光センサーで検出する。
【0019】
近赤外装置1は約0.5秒間で所定の波長域を掃引可能であり、通常50回程度の掃引を行い、得られたスペクトルを平均化して各波長におけるセラミック板12の透過光強度を測定する。
【0020】
次に、セラミック板12に換えて、ウォータバスなどで所定の温度に調整した液状試料試料入り試験管4を収納部5に入れ、同様の手順で液状試料試料の透過光強度を測定する。
【0021】
次に、制御用コンピュータ2で式(1)で示す吸光度を算出し、制御用コンピュータ2の画面に、波長に対して吸光度をプロットした所謂近赤外吸収スペクトルを表示させる。
A(λ)=log{Er(λ)/Es(λ)} (1)
ここで、A(λ) :波長λnmにおける吸光度
Er(λ):波長λnmにおけるセラミック板を透過した光の強度
Es(λ):波長λnmにおける液状試料を透過した光の強度
【0022】
図4に、ホウレンソウジュース、トマトジュース、生乳の近赤外吸収スペクトルを示す。970nmに見られる吸収バンド(山形のピーク)は主に水による吸収である。試料に含まれる硝酸、シュウ酸、アスコルピン酸(ビタミンC)、脂肪、タンパク質および乳糖などの目的特性による吸収バンドを明瞭に見ることはできない。しかし、これらの目的特性に関する情報も同スペクトルに含まれており、
ここで、スペクトルデータから各目的特性に関する情報を抽出するには、それらを関連付ける検量線が必要となる。以下に硝酸含量を測定するための検量線の作成手順について述べる。
【0023】
(1)硝酸含量にバラッキのあると思われる液状試料を用意し、各液状試料の硝酸含量を公知の手法により求める。
(2)硝酸含量が適度のバラついた液状試料を少なくとも100検体準備する。
(3)液状試料を試験管4に充填し、ウォータバスで品温を所定の温度に整えた後、前述した方法により液状試料の近赤外吸収スペクトルを測定する。この操作を検体数だけ繰り返す。
(4)分析した硝酸含量を対応するスペクトルデータファイルに入力する。
(5)硝酸含量を付したスペクトルデータを検量作成用と評価用に2分割する。
(6)必要に応じて近赤外吸収スペクトルの前処理として検量線作成用スペクトルデータにMSC処理、微分処理などを施す。
(7)前処理を施した検量線作成用スペクトルデータを用いて、ケモメトリックスの手法、例えば、重回帰分析、主成分回帰分析、PLS回帰分析等の手法により検量線の侯補となる関係式(回帰式)を複数作成する。
(8)検量線作成に使用しなかった検量線評価用スペクトルデータを用いて、前項で作成された関係式の性能を誤差の標準偏差(SEP)により評価する。標準偏差(SEP)が最も小さいものをルーチン分析時の検量線として採用する。
【0024】
ホウレンソウジュースの2次微分スペクトルを用い重回帰分析を行った結果を表1に、生乳の原スペクトルを用いてPLS回帰分析を行った結果を表2に示す。ホウレンソウの硝酸の測定は863nm、880nm、824nmおよび1016nmの波長における吸光度を測定するだけで可能となる。
【0025】
【表1】
JP0004054854B2_000002t.gif【0026】
【表2】
JP0004054854B2_000003t.gif【0027】
この検量線の化学分析値とNIR測定値の問の重相関係数は0.86、標準誤差(SEC)は18.3mg/100gである。また、別のデータセットを用いて行う検量線評価時の標準誤差(SEP)は18.7mg/100gである。ルーチン分析の場合、この標準誤差(SEP)の値の誤差をもって測定が行われることになる。生乳の場合、例えば、脂肪は0.11%の誤差で測定可能である。
【0028】
ルーチン分析では、例えば、次のような検量線を用いる。
(1)目的特性がホウレンソウジュースの硝酸含量の場合
硝酸含量(mg/100g)=K0+K1・L(863)十K2・L(880)十K3・L(824)十K4・L(1016)・・・(2)
ここで、L(λ):λnmにおける吸光度の2次微分値
Ki:i次の回帰係数(但し、i=0~4)
【0029】
(2)目的特性が生乳の脂肪含量の場合
脂肪含量(%)=F1・q1+F2・q2+F3・q3+F4・q4・・・・・・・・・・・・・・(3)
ここで、Fi=ΣA(λ)・Wi(λ)
Fi:i次のファクター(但し、i=1~4)
A(λ):生乳の原スペクトル(λnmにおける吸光度)
Wi(λ):1次のローデング・ウェイト(但し、i=1~4)
qi:i次の回帰係数(但し、i=1~4)
【0030】
回帰係数Kiおよびqi、およびローデング・ウェイトWi(λ)は各目的特性に応じて決定される定数であるので、各波長における吸光度が測定されれば式(2)あるいは式(3)を用いて硝酸含量あるいは脂肪含量が算出される。他の目的特性についても、同様の方法により定量分析が可能である。
【0031】
現場などにおけるルーチン分析における液状試料の分析手順は次のようになる。但し、上述した検量線が近赤外装置1に記憶されているものとする。
【0032】
(1)近赤外装置1の電源を入れ、安定化した後、セラミック板12を用いて基準スペクトルを測定する。
(2)試料を試験管4に詰めて、ウォータバスで品温を調整する。。
(3)温度の調整を行った試料入りの試験管4をブロック5の収納部5に装填し、制御用コンピュータ2を操作して分散型近赤外装置1にスペクトル測定をさせる。
(4)スペクトル測定後、制御用コンピュータ2は記憶している検量線と得られたスペクトルに基づいて目的特性値を算出し、目的特性値を画面に表示する。
(5)試料の数だけ、(2)~(4)の装置を繰り返せば、それぞれの試料に対する目的特性値が得られる。(3)および(4)の操作に要する時間は30秒程度である。
【0033】
ホウレンソウの硝酸含量を本分析方法(NIR)によって分析した結果と、従来の化学分析によって分析した結果の相関関係を図5に示す。図5は、本分析方法(NIR)によるホウレンソウの硝酸含量の分析値と従来の化学分析によるホウレンソウの硝酸含量の分析値が極めて高い相関をもっていることを表している。
【0034】
また、生乳の脂肪含量を本分析方法(NIR)によって分析した結果と、従来の化学分析によって分析した結果の相関関係を図6に示す。図6は、本分析方法(NIR)による生乳の脂肪含量の測定値と従来の化学分析による生乳の脂肪含量の分析値が極めて高い相関をもっていることを表している。
【0035】
なお上述の実施の形態においては、拡散透過法を用いた液状試料の目的特性を測定した場合について説明した。しかし、拡散反射法あるいは透過反射法を用いることも可能である。もちろん、これらの場合、光ファイバーの配置は異なってくる。
【0036】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明に係る液状試料の分析法によれば、試料に対して均一化あるいは夾雑物の除去などの前処理を必要とせず、また、液状試料をいれるための特殊な試料セルを必要としないので、簡易に、しかも迅速に液状試料の目的特性値を得ることが可能となる。従って、農業、食品工場などの現場において対象物の主要成分及び特性に関する情報が瞬時に入手可能になり、これによって高度な品質管理、工程管理を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る液状試料分析法を実施する装置の一例の全体図
【図2】同装置で基準物質を分析している状態を示す部分拡大断面図
【図3】同装置で液状試料を分析している状態を示す部分拡大断面図
【図4】ホウレンソウジュース、トマトジュース、生乳の近赤外吸収スペクトル図
【図5】本発明方法と従来の化学分析による分析値とをホウレンソウの硝酸含量について比較したグラフ。
【図6】本発明方法と従来の化学分析による分析値とを生乳の脂肪含量について比較したグラフ。
【符号の説明】
1…分散型近赤外装置、2…コンピュータ、3…ブロック、4…試験管、5…収納部、6…遮光用キャップ、7、8…光ファイバー、9…蛇腹チューブ、10…加熱装置、11…コントローラ、12…基準用セラミック板。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5