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明細書 :淡水貯留池への魚類の遡上システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3303049号 (P3303049)
公開番号 特開2000-120052 (P2000-120052A)
登録日 平成14年5月10日(2002.5.10)
発行日 平成14年7月15日(2002.7.15)
公開日 平成12年4月25日(2000.4.25)
発明の名称または考案の名称 淡水貯留池への魚類の遡上システム
国際特許分類 E02B  8/08      
FI E02B 8/08
請求項の数または発明の数 9
全頁数 10
出願番号 特願平10-315418 (P1998-315418)
出願日 平成10年10月19日(1998.10.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年7月24日 京都リサーチパークにおいて開催された平成10年度農業土木学会大会講演会において発表
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年9月29日 東京都北区滝野川会館において開催されたシンポジウム「水田と生物多様性の保全」において発表
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月23日発行「宮崎日日新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月23日発行「茨城新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月23日発行「日刊工業新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月23日発行「日本工業新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月23日発行「日本農業新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月23日発行「信濃毎日新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月23日発行「下野新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月25日発行「朝日新聞」に掲載
特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年5月15日発行「週刊農林」に掲載
審査請求日 平成10年10月19日(1998.10.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】301035976
【氏名又は名称】独立行政法人農業工学研究所
発明者または考案者 【氏名】端 憲二
個別代理人の代理人 【識別番号】100086852、【弁理士】、【氏名又は名称】相川 守
審査官 【審査官】河本 明彦
参考文献・文献 特開 平8-3972(JP,A)
実開 平7-23024(JP,U)
特許2717490(JP,B2)
調査した分野 E02B 8/08
A01G 25/00
E01G 16/00
特許請求の範囲 【請求項1】
堰の内側に淡水を貯留する水田または休耕田と、この水田または休耕田に淡水を供給して水位を保つポンプと、この水田または休耕田の水位より低位で水位差が数十センチから1メートル程度に及ぶ水路とこの水田または休耕田とを接続する魚道とを備え、
この魚道を、水田または休耕田側が水田または休耕田の水位より低位でかつ水路側が水路の水位より低位にある床部と、この床部の両側からそれぞれ上方に立ち上がり内側に水田または休耕田と水路との間の水の通路を形成する側壁と、床部と各側壁とにより画成される空間内に設けられ上流側と下流側とを隔てるとともに上流側の水を溢流させる越流部が形成された隔壁とを備えて構成し、
ポンプにより魚道を流れ下る水量を一定の小水量とするとともに、
この隔壁の越流部を、下流側の水位に対して小型魚類が遡上可能な高さとなるべく設定し、水田または休耕田の水位をほぼ所定のレベルに維持して、水路側から水田または休耕田側に魚類を遡上させることを特徴とする淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項2】
隔壁には、小型魚類が遡上可能な所定の大きさの潜孔が所定位置に設けられ、水田または休耕田側の水位が所定のレベルに達するまでに、この潜孔が水面下に没する状態となることを特徴とする請求項1に記載の淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項3】
魚道の床部を、水田または休耕田側の平坦部が水田または休耕田の水位より低位にあり水路側の平坦部が水路の水位より低位にある階段状底板から構成するとともに、隔壁を階段状底板の上下流側両端部と階段状底板の段差部とに設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項4】
階段状底板の平坦部をほぼ水平に形成するとともに、各側壁間の幅と、互いに隣接する上下流側隔壁間の間隔と、隔壁間に画成されるプールの水深とを大型魚類が休息可能な所定の寸法に設定したことを特徴とする請求項3に記載の淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項5】
越流部は隔壁上部の片側ほぼ半分を一定の深さで切り欠いて形成され、切欠き面は下流側に傾斜する曲面に形成されることを特徴とする請求項1に記載の淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項6】
越流部の下流側水位に対する高さをほぼ0.1m以下に設定したことを特徴とする請求項1または2に記載の淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項7】
堰の内側に淡水を貯留する水田または休耕田と、この水田または休耕田に淡水を供給して水位を保つポンプと、この水田または休耕田の水位より低位で水位差が数十センチから1メートル程度に及ぶ水路とこの水田または休耕田とを接続する魚道とを備え、
この魚道を、水田または休耕田側が水田または休耕田の水位より低位でかつ水路側が水路の水位より低位にある床部と、この床部の両側からそれぞれ上方に立ち上がり内側に水田または休耕田と水路との間の水の通路を形成する側壁と、床部と各側壁とにより画成される空間内に設けられ上流側と下流側とを隔てるとともに上流側の水を下流側に流出させる潜孔が形成された隔壁とを備えて構成し、
ポンプにより魚道を流れ下る水量を一定の小水量とするとともに、
この潜孔を小型魚類が遡上可能な大きさに設定し、
水田または休耕田の水位を、この潜孔が水面下に没する状態に維持し、水路側から水田または休耕田側に魚類を遡上させることを特徴とする淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項8】
魚道の床部を、水田または休耕田側の平坦部が水田または休耕田の水位より低位にあり水路側の平坦部が水路の水位より低位にある階段状底板から構成するとともに、隔壁を階段状底板の流れ方向両端部と階段状底板の段差部とに沿って設けたことを特徴とする請求項7に記載の淡水貯留池への魚類の遡上システム。

【請求項9】
隔壁の潜孔は一辺が4~5cmのほぼ正方形に形成され、潜孔をなす面は中央が内側に膨出する曲面に形成されることを特徴とする請求項7に記載の淡水貯留池への魚類の遡上システム。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は淡水貯留池への魚類の遡上システムに関し、特に、水田または休耕田と農業用の水路との間に設けられる魚類の遡上システムに関するものである。

【02】

【従来の技術】近年、水田または休耕田、親水公園の池等の淡水貯留池側において生物保全機能の維持向上によって多様な生物を生息させるビオトープ(動植物の生息空間)とし、水質の浄化や有用な植物の栽培を図る試みがなされている。例えば、水田または休耕田にコイ、フナ、ナマズ等の大型魚類(だいたい数十センチ程度の大きさ)だけでなくメダカ、ドジョウ等の小型魚類(だいたい数センチ程度の大きさ)を導き入れて産卵・生息させることにより、水質の浄化に一定の効果のあることが知られてきている。その結果、水の浄化された水田で栽培可能な有用な植物の範囲も広がってきている。ところで、水田または休耕田では、土地改良事業が進み、水田または休耕田側と用水路側あるいは排水路側との水位差が数十センチから1メートルに及ぶことも珍しくない。このような、落差が数十センチから1メートル程度の上下流の水域間を結ぶ魚道については従来から何も提案がなく、一般には、例えば、上流側から淡水が供給されるダム等の淡水貯留池とこの淡水貯留池下流側の河川との間のように数メートルから十数メートルに及ぶ落差の大きい水域間を接続するものとして、アイスハーバー型階段式その他の魚道が知られている。

【03】
この魚道は、上下流側間で落差の大きい河川の堰などに設けられ、図14および図15に示すように、淡水貯留池と河川とを接続する傾斜床面2とこの傾斜床面2の両側に立ち上がって設けられた側壁3とにより画成される水の通路に、複数の隔壁4を設けて構成される。隔壁4には、上部両側に切欠きかれて形成された越流部5と、越流部5の下方に潜孔6が形成される。このような魚道は、上流側の淡水貯留池と下流側の河川との落差が大きいため、魚道を確保するには、多量の水を魚道を通じて下流側に流さなければならない。このため、越流部(切欠部)5からの流れはほとんど直進して下流の隔壁4にぶつかり、そこで向きを変えて次の越流部(切欠部)5へと向かう。このため、隔壁間に設けられたプール7には、大きな、しかもかなり強い循環流が形成される。従って、各プール7に形成される強力な循環流に打ち勝つ力のある大型の魚類のみが上流側に遡上することができるようになっている。

【04】

【発明が解決しようとする課題】上記構成に係る従来の魚道を、上下流間の落差が小さい水田等の淡水貯留池と農業用の排水路とに適用しても、淡水貯留池側に淡水を大量に供給し続けなければならず、越流部で大量の水が速い速度で流れ落ちると小型魚類を淡水貯留池側に遡上させることが難しいという問題がある。また、淡水貯留池側への淡水の供給を制限すると、越流部で水深を確保できなかったり、潜孔6から淡水貯留池側の淡水が下流側に流出してしまうという問題がある。このため、数十センチ程度の落差の小さい小流量の水通路に適した淡水貯留池への魚類の遡上システムの開発が望まれていた。例えば、水田等の高位にある淡水貯留池と低位にある農業用排水路との間のように、落差の小さい水域間では小型魚類を淡水貯留池側に遡上させることが難しいという問題があった。このため、水田等の淡水貯留池側に小型魚類を導き入れるには、小型魚類を捕獲して淡水貯留池側に投入しなければならず、捕獲作業に手間がかかるばかりでなく、小型魚類が淡水貯留池側から低位の水路側に逃げ出すと、淡水貯留池側に戻って来ないという問題がある。このため、淡水貯留池側に自然環境に近いビオトープを実現させることが難しいという問題があった。

【05】
本発明は上記問題点を除くためになされたもので、簡素な構成で小型魚類が容易に遡上することができる淡水貯留池への魚類の遡上システムを提供することを目的とするものである。

【06】

【課題を解決するための手段】本発明の一発明に係る淡水貯留池への魚類の遡上システムは、堰の内側に淡水を貯留する水田または休耕田と、この水田または休耕田に淡水を供給して水位を保つポンプと、この水田または休耕田の水位より低位で水位差が数十センチから1メートル程度に及ぶ水路とこの水田または休耕田とを接続する魚道とを備え、この魚道を、水田または休耕田側が水田または休耕田の水位より低位でかつ水路側が水路の水位より低位にある床部と、この床部の両側からそれぞれ上方に立ち上がり内側に水田または休耕田と水路との間の水の通路を形成する側壁と、床部と各側壁とにより画成される空間内に設けられ上流側と下流側とを隔てるとともに上流側の水を溢流させる越流部が形成された隔壁とを備えて構成し、ポンプにより魚道を流れ下る水量を一定の小水量とするとともに、この隔壁の越流部を、下流側の水位に対して小型魚類が遡上可能な高さとなるべく設定し、水田または休耕田の水位をほぼ所定のレベルに維持して、水路側から水田または休耕田側に魚類を遡上させるようにしたものである。

【07】
本発明の一発明に係る淡水貯留池への魚類の遡上システムでは、水田または休耕田ポンプにより淡水が供給され、水位が上昇すると、魚道の隔壁上流側の水が越流部を越えて下流側に流れ下り、水路に流入する。ポンプが、水田または休耕田側の水位を、越流部における隔壁上下流側水位差を小型魚類が遡上可能な深さに達するまで上昇させ、ほぼそのレベルに維持すると、小型魚類は越流部で流れに打ち勝って跳躍あるいは落下水流の遊泳により上流側に遡上することができるので、大型魚類だけでなく、小型魚類も越流部を容易に遡上することができ、水田または休耕田側で産卵・生息することができる。このため、水田または休耕田側に生息する生物の多様性が増す。また、小型魚類はたとえ水田または休耕田側から水路側に降下して、再び水田または休耕側に遡上することができるので、水田または休耕田側に生息する生物の多様性を維持することができる。

【08】
また、本発明の他の発明に係る淡水貯留池への魚類の遡上システムは、堰の内側に淡水を貯留する水田または休耕田と、この水田または休耕田に淡水を供給して水位を保つポンプと、この水田または休耕田の水位より低位で水位差が数十センチから1メートル程度に及ぶ水路とこの水田または休耕田とを接続する魚道とを備え、この魚道を、水田または休耕田側が水田または休耕田の水位より低位でかつ水路側が水路の水位より低位にある床部と、この床部の両側からそれぞれ上方に立ち上がり内側に水田または休耕田と水路との間の水の通路を形成する側壁と、床部と各側壁とにより画成される空間内に設けられ上流側と下流側とを隔てるとともに上流側の水を下流側に流出させる潜孔が形成された隔壁とを備えて構成し、ポンプにより魚道を流れ下る水量を一定の小水量とするとともに、この潜孔を小型魚類が遡上可能な大きさに設定し、水田または休耕田の水位を、この潜孔が水面下に没する状態に維持し、水路側から水田または休耕田側に魚類を遡上させるようにしたものである。

【09】
本発明の他の発明に係る淡水貯留池への魚類の遡上システムでは、水田または休耕田ポンプにより淡水が供給され、水位が上昇すると、魚道の隔壁に形成された潜孔が水面下に没し、魚道の隔壁上流側の水が潜孔から下流側に流れ下り、水路に流入する。ポンプが、水田または休耕田側の水位を、潜孔が水中に没するレベルに達するまで上昇させ、そのレベルに維持すると、潜孔は小型魚類が遡上可能な流量を流出させる大きさに形成されているので、小型魚類の遡上のみを許容し、大型魚類の遡上を阻止するので、小型魚類の産卵時期に肉食魚による稚魚・仔魚・小型成魚の食害を防止することができる。

【10】

【発明の実施の形態】以下、図面に基いて本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る淡水貯留池への魚類の遡上システムが設けられた試験地を示す全体配置図、図2は上記実施の形態に係る魚類の遡上システムに用いられる魚道の概念図である。本実施の形態に係る淡水貯留池への魚類の遡上システム10は、図1に示すように、畦道(堰)11の内側に淡水を貯留する水田または休耕田等の淡水貯留池12と、この淡水貯留池12の水位より低位の排水路(水路)13とを接続して設けられる。淡水貯留池12には、ポンプ(淡水供給手段)14を介して排水路13から水が供給される。ポンプ14は、淡水貯留池12の水位を検知するレベルセンサ(図示せず)と、このレベルセンサの信号に基づいてポンプ14を動作させ、淡水貯留池12をほぼ所定の水位に維持する制御装置(図示せず)を備えている。符号15は、淡水貯留池12を所定の領域に区画する波状の板、符号16は魚道10の近傍の土盛り上に設けられた観測小屋、符号17は下部が土中に埋設され、波状の板15により区画される水域間を連通する塩化ビニール製のU字状連通管、符号18は水温センサ、符号19は産卵床、符号20は電灯である。また、ポンプ14は、吐出口が塩ビ管8に接続される。塩ビ管8は他端が淡水貯留池12の排水路13から離れた場所に配置される。塩ビ管8は、ポンプ14からの吐出水を開口8aから淡水貯留池12に供給するようになっている。符号9は、コンクリートブロックで、開口8aから供給される水を淡水貯留池12に均一に流すために設けられる。符号14は、給水栓で、図示しないポンプ場に接続される。この給水栓14は、ポンプ場の稼働時、淡水貯留池12に水を供給するようになっている。U字状連通管17は、開口が常時水中に没しており、この開口にきめの細かい網を被せると、魚類は板15で仕切られる他の水域に移動できないようになっている。

【11】
本実施の形態に係る魚道10は、図2および図3に示すように、淡水貯留池12側から排水路13側に向かって次第に低くなる階段状底板22と、この階段状底板22の両側部22a、22bからそれぞれ上方に立ち上がり内側に淡水貯留池12と排水路13との間の水の通路を形成する各側壁23a、23bとを備えている。底板22は、平坦部21a~21dが淡水貯留池11側から排水路13側に向かって所定の段差S1 (本実施の形態では、段差S1 はほぼ10cm)で順に低くなっている。平坦部21a~21dのうち、最も高い位置にある淡水貯留池11側の平坦部21aは、淡水貯留池11の水位LV1 より低くなるように、また、平坦部21a~21dのうち、最も低い位置にある排水路13側の平坦部21dは、排水路13の水位LVn より低くなるように設けられる。各平坦部21a~21dはそれぞれ、ほぼ水平に設けられるとともに、その流れ方向の長さL1 は一定の長さ(本実施の形態では、長さL1 は80~100cm)に設定されている。側壁23a,23b間の間隔は階段状底板22の幅方向の長さW1 (本実施の形態では、長さW1 は60~80cm)に対応している。

【12】
底板22と各側壁23a、23bとにより画成される空間内には、図2および図3に示すように、上流の淡水貯留池12側から下流の排水路13側にかけて上流側と下流側とを隔てる隔壁24a~24eがそれぞれ設けられる。隔壁24a、24eは底板22の上流側端部と下流側端部とに、また、他の隔壁24b~24dは底板22の段差部に沿ってそれぞれ取り付けられる。隔壁24a~24eは所定の厚さW2 (本実施の形態では、厚さW2 はほぼ3cm、図7参照)を有している。隔壁24a~24e間にはそれぞれ、魚類が休息するためのプール33a~33dが形成される。越流部30は、図4ないし図6に示すように、隔壁24a~24e上部から一定の深さD1 (本実施の形態では、深さD1 はほぼ15cm)で、上部の片側半分を切り欠いて形成された縦壁部30aと溢流面部30bとからなり、これら縦壁部30aおよび溢流面部30bはそれぞれ、下流側に傾斜する曲面に形成される(図7参照)。この越流部30は、上流側の水位が上昇して溢流面部30bを越えると、水を下流側に流すようになっている。

【13】
隔壁24a~24eには、小型魚類が遡上可能な所定の大きさの潜孔(本実施の形態では、一辺が4~5cmのほぼ正方形の孔)31a~31eが、各プール33a~33dに水が満ちた状態で水中に没するように各隔壁24a~24eごとに所定の位置に穿設される。潜孔31a~31eは、図8に示すように、孔をなす面32の中央が内側に膨出する曲面に形成される。隔壁24a~24dは、所定の高さH1 (本実施の形態では、高さH1 は55cm~65cm)を有し、最も下流側の隔壁24eの高さH2 (本実施の形態では、高さH2 は45cm~55cm)は、他の隔壁24a~24dより低くなっている。

【14】
ところで、隔壁24a~24eは、越流部30が水が満ちた状態の下流側のプール33a~33dの水位または排水路13の水位LVn に対して所定の高さH3 (本実施の形態では、高さH3 はほぼ10cm)高くなるように底板22に取り付けられる。この高さH3 は、大型魚類が遡上できる高さであることに加え、小型魚類が跳躍あるいは落下水流の遊泳によって遡上することができる高さとなっている。最も下流側の隔壁24eは、越流部30が排水路13の水位LVn に対して所定の高さH3 と同じ高さまたはそれ以下の高さとなるように底板22に取り付けられる。また、隔壁24a~24eの越流部30は、各プール33a~33dに水が満ちた状態で淡水貯留池12側の水位が所定の水位LV1 に維持され、淡水貯留池12側から魚道10側に小流量(3~10リットル/sec )の水が排出されると、溢流面部30bにおける水深は小型魚類が落下水流の遊泳によって遡上することができる深さD2 となるように設定されている。各越流部30の形状と大きさ、各潜孔31a~31eの形状と開口面積、隔壁24a~24e間に形成される各プール33a~33dの容量がそれぞれ同一に設定されているので、越流部30における水深D2 はどの隔壁24a~24eについてもほぼ同じとなっている。

【15】
すなわち、最も上流側の第1の隔壁24aの上流側水位(淡水貯留池側水位)が所定水位LV1 に達し、この第1の隔壁24aの越流部30における水深がD2 となると、この水深D2 に応じた水量が順次下流側の一定容量のプール33a~33dに供給され、供給された水は最も下流側の第5の隔壁24eの越流部30でもこの水深D2 を保って排水路13側に流れ落ちるようになっている。排水路13の水位LVn が低い場合、小型魚類は排水路13側から潜孔31eを経由して上流側のプール33dに遡上することができ、排水路13の水位LVn が高く第5の隔壁24eの越流面部30bと排水路13との水位差が小さい場合、小型魚類は隔壁24eの越流部30を容易に越えることができる。また、排水路13の水位LVn がさらに上昇しても、排水路13の水面と上流側の水域とを隔てる隔壁については同様に遡上を容易にする。

【16】
また、互いに隣接する隔壁24a~21e間の距離(プール長)L2 、両側壁23a、23b間の幅W1 、プール33a~33dの水深D3 (本実施の形態では、水深D3 は30cm以上)とにより決定される各プール33a~33dの大きさは、魚類の休息に十分な広さを確保することができるように設定される。ポンプ14は、淡水貯留池12の面積、隔壁24aの越流部30の大きさ、隔壁24aの潜孔31aの大きさに基づいて吐出量が予め設定され、魚道10を流れ下る水量(3~10リットル/sec )より多くの水量を吐出するようになっている。ポンプ14は図示しないレベルセンサの検知信号に基づいて制御装置(図示せず)により動作され、淡水貯留池12の水位を所定の水位LV1 に保つようになっている。

【17】
次に、上記実施の形態に係る淡水貯留池への魚類の遡上システムの作用について説明する。淡水貯留池12にポンプ14を介して排水路13から淡水が供給されて水位が上昇し、最も上流側の第1の隔壁24aの潜孔31aまで達すると、淡水貯留池12の淡水は、まず、潜孔31aから下流側に流出する。淡水貯留池12の水位が更に上昇し、水が第1の隔壁24aの越流部30に達して、溢流面部30bを越えて下流側に流れてゆくと、各プール33a~33dは下流側から次第に水位が上昇する。各プール33a~33dに水が満ち、淡水貯留池12の水位が所定の水位LV1 に達し、その水位LV1 が維持されると、淡水貯留池12側から魚道10側に所定の流量(3~10リットル/sec )の水が流入し、隔壁24aの越流部30における水深は、所定の水深D2 となる。また、下流側水域の水位に対する隔壁越流部の高さは所定の高さH3 となる。この流量が最も上流側の第1のプール33aに流入し、同一の水量が順次下流側のプール33b~33dにも流入する。各プール33a~33dは同一の容量で、越流部30も同一の水口面積を有しているので、各プール33a~33dに同一の水量が流入すると、他の隔壁24b~24eの越流部30における水深も第1の隔壁24aと同じ水深D2 となって下流側に流れ下り、排水路13に排水される。

【18】
このように、魚類が排水路13側から魚道10を遡上する際、上下流側を隔てる各隔壁24a~24dの越流部30は下流側水位に対して、小型魚類が跳躍可能な高さH3 に設定されているので、上流側の隔壁24a~24dを遡上することができる。また、淡水貯留池12は所定の水位LV1 に維持されているので、魚道10側にほぼ一定の小流量(3~10リットル/sec )の水が流入し続ける。このため、各隔壁24b~24eの越流部30における水深D2 は小型魚類が落下水流の遊泳によって遡上することができる深さとなり、魚類が排水路13側から魚道10を遡上する際、下流側水域から上流側の隔壁24a~24dを遡上することができる。

【19】
この下流側水域の水位に対する隔壁越流部の高さH3 とその越流部の水深D2は、小型魚類の遡上を可能にするように設定しているので、大型魚類だけでなく、小型魚類も水路側から淡水貯留池側へ容易に遡上することができ、淡水貯留池12で産卵・生息することができる。このため、淡水貯留池側に生息する生物の多様性が増す。また、小型魚類はたとえ淡水貯留池12から排水路13に降下しても、再び淡水貯留池12に遡上することができるので、淡水貯留池12に生息する生物の多様性を維持することができる。

【20】
また、小型魚類は、越流部30だけでなく、潜孔31a~31eを通じて遡上することもできるので、水路側から淡水貯留池側へ遡上しやすくなる。また、各プール33a~33dは、魚類が休息しやすいように十分な大きさと、底面を水平に形成しているので、時間をかけて遡上することが可能となり、多種の魚類が遡上しやすくなっている。

【21】

【実施例】次に、休耕田への魚類の遡上試験について、その試験の概要と調査方法および調査結果について図1、図9ないし図13に基づいて説明する。図9は、試験地の模式図で、図1に示す全体配置により試験を行った。

【22】
(I)平地の水田地帯では、コイ・フナ類・ナマズ・メダカなど、水田に産卵する習性を持つ魚類が少なくない。しかし、圃場整備では、水田と排水路の落差を大きくとるため、圃場整備が完了した地域では、魚類の水田への遡上はほとんど不可能な状況にある。そこで、本試験では、霞ケ浦湖畔の休耕田に小さな落差工(魚道)を設けて、魚類の休耕田への遡上が可能かどうかを調査した。また、併せて、休耕田内での水質浄化能力についても調査を実施した。

【23】
(II) 試験地の概要と調査方法
試験地は、図1および図9に示すように、霞ケ浦湖畔の干拓地の外周に位置する1,100 m2 の休耕田である。干拓地の外周には、干拓地内水田のための用水路が巡り、灌漑期間中は霞ヶ浦との間の水門が開かれるため、用水路の水位は霞ヶ浦と同一になる。用水路とその外側に位置する休耕田との水位差は、灌漑期間中は通常 0.3~0.5 m である。図9は試験地における水の流れを模式図的に示したものである。

【24】
魚類の遡上は、落差工(以下、魚道と称す)に光センサを取り付けるとともにビデオカメラで連続モニターすることによって観測した。なお、魚道は、上記実施の形態に係る魚道10とほぼ同じ構造のもので、上記魚道の各寸法のうち、最小寸法の魚道を製作して用いた。すなわち、実験に用いた魚道110は、図10に示すように、底板122の各平坦部の流れ方向長さL101 を 800mm、隔壁124の横方向長さW101 、すなわち、側壁123a,123b間の間隔を 600mm、越流部130の横方向長さW103 を隔壁124の半分、すなわち、300mm 、越流部130の切欠き深さD101 を 150mm、越流部130の下流側水位に対する高さH103 を 100mmとして設定した。潜孔も設けたが、実験では、潜孔を塞いで行った。越流部130での流量は3~10リットル/sec 程度である。

【25】
(III) 結果と考察
(1)魚類遡上
水門を開いた直後から遡上数が増加し、2日後には、ピークに達した。モニターの結果、遡上した魚類の多くがフナ類であり、開門から10日間で約1,000尾の遡上を観測した。その結果を図11に示す。この他、メダカ、ヨシノボリの遡上も試験地内で確認した。産卵を終えたフナ類は比較的速やかにもとの用水路に降下したが、メダカ、ヨシノボリは試験地内にとどまった。フナ類の卵をビーカーに入れて観察したところ、約10%の孵化を確認した。産卵から約1ヶ月半後の6月中旬にはフナ類の稚魚は用水路に降下したと推察される。水田への魚類遡上を誘発する因子は温度差(水田排水の温度の方が用水路の水温より高い)とされているが、図12に示すように今回の調査結果からは、水田排水の方が低水温でも盛んな遡上行動を示した。

【26】
(2)休耕田での水質浄化能
調査期間中毎週2回程度、用水路からの流入水と用水路への流出水を採取し窒素・燐の分析を行い、図13の結果を得た。試験地内の水の滞留時間は3~4時間程度であったが、窒素・燐ともに約50%除去されている。流出水は流入水に比べ透明性が向上したことから、主として微小藻類等の懸濁成分が除去されたと考えられる。

【27】
(3)試験地の植生
試験地内の植生はまったく管理しなかった。6月の時点ではセリが優占種となった。試験地内に有用植物を栽培すれば、ビオトープ、水質浄化、有用植物栽培と一石三鳥の効果が期待される。

【28】
なお、上記実施の形態では、隔壁に越流部と潜孔とを設けるようにしているがこれに限られるものではなく、越流部のみ設けてもよいし、潜孔のみ設けてもよい。越流部のみ設ける場合でも、大型魚類だけでなく小型魚類の遡上も許容することができる。また、潜孔のみ設け、隔壁に越流部を設けない場合、上流側には小型魚類の遡上のみを許し、大型魚類の遡上を阻止することができるので、小型魚類の産卵時など肉食魚による食害を防ぐことができる。さらに、下流側水位に対する隔壁越流部の高さH3 を 100mmとしているが、この高さに限られるものではなく、隔壁上下流間で水位差さえ確保できればそれ以下の高さに設定してもよいことはいうまでもない。また、隔壁を上下に摺動させて取り替え可能に設けてもよく、隔壁の種類により淡水貯留池側に導入する魚類を時期や目的に応じて選択するようにしてもよい。さらに、上記実施の形態では、淡水貯留池を水田または休耕田としているがこれに限られるものではなく、上下流側の水域間の落差が数十センチ~1メートル程度のものであればよく、親水公園の池や養殖池等に適用可能であることは言うまでもない。また、上記実施の形態では、隔壁を複数設けているがこれに限られるものではなく、単数としてもよい。さらに、上記実施の形態では、最も下流側の平坦部を、排水路の水位より低くなるように設けているが、排水路の底面とほぼ同じ高さに設け、排水路の水位が低下しても潜孔31eから小型魚類が上流側に遡上できるようにしてもよい。また、側壁23a,23bを図2の破線で描く形状(符号223b参照)に形成してもよい。さらに、上記実施の形態では、淡水貯留池には、ポンプで淡水を供給するようにしているがこれに限られるものではなく、淡水貯留池の上流側に、淡水貯留池の堰の内側に淡水を供給する川、水路、水田等があれば、ポンプ等の淡水供給手段がなくてもよいことはもちろんである。また、水田に設けられた給水栓14aによって水を供給することももちろん可能である。なお、魚道により排出される水量と、淡水貯留池に供給される水量と魚道により排出される水量とがほぼ釣合っていれば、淡水貯留池の水位はほぼ一定に保たれる。

【29】

【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、堰の内側に淡水を貯留する水田または休耕田と、この水田または休耕田に淡水を供給して水位を保つポンプと、この水田または休耕田の水位より低位で水位差が数十センチから1メートル程度に及ぶ水路とこの水田または休耕田とを接続する魚道とを備え、この魚道を、水田または休耕田側が水田または休耕田の水位より低位でかつ水路側が水路の水位より低位にある床部と、この床部の両側からそれぞれ上方に立ち上がり内側に水田または休耕田と水路との間の水の通路を形成する側壁と、床部と各側壁とにより画成される空間内に設けられ上流側と下流側とを隔てるとともに上流側の水を溢流させる越流部が形成された隔壁とを備えて構成し、ポンプにより魚道を流れ下る水量を一定の小水量とするとともに、この隔壁の越流部を、下流側の水位に対して小型魚類が遡上可能な高さとなるべく設定し、水田または休耕田の水位をほぼ所定のレベルに維持して、水路側から水田または休耕田側に魚類を遡上させるようにしたことにより、大型魚類だけでなく小型魚類を水路側から水田または休耕田側に容易に遡上させることができるので、水田または休耕田における生物保全機能を向上させ、ビオトープに多様な生物を生息させることができる。また、多様な生物の生息により水質の向上を図り、自然環境の向上を図ることができる。

【30】
また、本発明によれば、堰の内側に淡水を貯留する水田または休耕田と、この水田または休耕田に淡水を供給して水位を保つポンプと、この水田または休耕田の水位より低位で水位差が数十センチから1メートル程度に及ぶ水路とこの水田または休耕田とを接続する魚道とを備え、この魚道を、水田または休耕田側が水田または休耕田の水位より低位でかつ水路側が水路の水位より低位にある床部と、この床部の両側からそれぞれ上方に立ち上がり内側に水田または休耕田と水路との間の水の通路を形成する側壁と、床部と各側壁とにより画成される空間内に設けられ上流側と下流側とを隔てるとともに上流側の水を下流側に流出させる潜孔が形成された隔壁とを備えて構成し、ポンプにより魚道を流れ下る水量を一定の小水量とするとともに、この潜孔を小型魚類が遡上可能な大きさに設定し、水田または休耕田の水位を、この潜孔が水面下に没する状態に維持し、水路側から水田または休耕田側に魚類を遡上させるようにしたことにより、小型魚類のみを水路側から水田または休耕田側に遡上させることができるので、淡水貯留池における肉食性大型魚の侵入を阻止するので、小型魚類の産卵時期に肉食魚による稚魚・仔魚・小型成魚の食害を防止することができる。
図面
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【図15】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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