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明細書 :膜作動性ペプチド

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2967925号 (P2967925)
登録日 平成11年8月20日(1999.8.20)
発行日 平成11年10月25日(1999.10.25)
発明の名称または考案の名称 膜作動性ペプチド
国際特許分類 C07K 14/435     
A01N 63/00      
FI C07K 14/435 ZNA
A01N 63/00
請求項の数または発明の数 2
全頁数 11
出願番号 特願平10-156911 (P1998-156911)
出願日 平成10年5月22日(1998.5.22)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り 平成10年4月1日の日本農芸化学会1998年度大会において発表
審査請求日 平成10年7月31日(1998.7.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591031360
【氏名又は名称】農林水産省食品総合研究所長
【識別番号】598073992
【氏名又は名称】町田 幸子
発明者または考案者 【氏名】町田 幸子
【氏名】余 涌
個別代理人の代理人 、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎 (外1名)
審査官 【審査官】高堀 栄二
要約 【課題】 微生物膜と動物細胞膜を識別し、微生物膜に特異的に作用し、選択的にポア形成能を有し、しかも溶血性を欠失している膜作動性ペプチドの開発。
【解決手段】 配列表の配列番号1あるいは2記載のアミノ酸配列を有する膜作動性ペプチド並びに該ペプチドを用いて微生物膜に対して選択的に作用させ、そのバリアー能を損傷させる方法。
特許請求の範囲 【請求項1】
配列表の配列番号1あるいは2記載のアミノ酸配列からなる膜作動性ペプチド。

【請求項2】
請求項1記載のペプチドを用いて微生物膜に対して選択的に作用させ、そのバリアー能を損傷させる方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、膜作動性ペプチドとその用途に関し、詳しくは微生物細胞膜に対して選択的にポア形成能を有するが、溶血性を欠いている膜作動性ペプチドおよびその用途に関する。

【02】

【従来の技術】自然界には、生体膜に作用して膜に穴をあける能力(ポア形成能)を有するペプチドが存在する。すなわち、生体膜に作用し、そのバリアー能を損傷することにより、微生物を殺す機能を発現するペプチドが存在する。このものは、膜作動性ペプチドと呼ばれている。膜作動性ペプチドには、ミツバチ毒由来のメリチン(mellittin)のように、抗微生物作用と同時に溶血性も示すものがある一方、アフリカツメガエル由来のマガイニン2(magainin 2)のように、溶血性を示さず、微生物膜にのみ選択的にポア形成能を有するペプチドもある。後者は、生体防御ペプチドと呼ばれている。ところが、これまでに知られている生体防御ペプチドの抗菌性は、すべての細菌、真菌等に対して示されるものではなく、ペプチド毎に様々な抗菌スペクトルを示す。その上、安定性に欠ける等の問題点も指摘され、該ペプチドを抗菌ペプチドとして利用に供するには不十分であった。

【03】

【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、こうした生体防御ペプチドの構造に着目し、微生物膜と動物細胞膜を識別し、微生物膜に特異的に作用し、しかも上記のような問題が解消されたペプチドを作出すべく検討した。微生物膜表面にはフォスファチジルグリセロール、フォスファチジルセリン、カルジオリピン等の酸性リン脂質が存在するのに対して、健康な動物細胞膜表面には酸性リン脂質は露出しておらず、逆に微生物膜には存在しないコレステロールが豊富に存在しており、両者は構造上の差異が明白である。生体防御ペプチドは、このような膜の構造上の差異を認識して膜にポアを形成することにより、抗菌性を示すと考えられている。

【04】
本発明者らは、目的とするペプチドを作出するにあたり、代表的な生体防御ペプチドであるマガイニン2並びにマガイニン2と同様の構造を採り得るであろう膜作動性のペプチドの構造に着目した。図1はマガイニン2の車輪表示である。この車輪表示は、マガイニン2タイプの膜作動性ペプチドの構造上の特徴、すなわち膜内に配向し、αヘリックス構造をとる際に、αヘリックスの一方の側に疎水性のアミノ酸が、他方に塩基性のアミノ酸が存在する両親媒性のペプチドであることを端的に示している。そこで、この情報に基づいて多くのペプチドを合成し、それぞれについて選択的ポア形成能について検討した。その結果、抗微生物膜作用と溶血性を併せ持つスズメバチ毒由来の膜作動性ペプチドであるマストパランXの基本骨格を改変して作出したペプチドが微生物膜に対して選択的ポア形成能を有し、しかも溶血性を欠失していることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。

【05】

【課題を解決するための手段】請求項1記載の本発明は、配列表の配列番号1あるいは2記載のアミノ酸配列からなる膜作動性ペプチドである。請求項2記載の本発明は、請求項1記載のペプチドを用いて微生物膜に対して選択的に作用させ、そのバリアー能を損傷させる方法である。

【06】

【発明の実施の形態】前記したように、マストパランXは抗微生物膜作用と溶血性の両方を具備するペプチドである。本発明者らは、このマストパランXのアミノ酸配列の一部に塩基性アミノ酸残基を挿入および改変して得た、21個のアミノ酸からなるペプチド(配列表の配列番号1)が微生物細胞膜に対しポア形成能を有し、溶血性を欠失していることを見出した。これをマスト21(mast 21)と命名した。

【07】
以下に、マスト21の作出方法について説明する。まず、マストパランXのヘリックスの一方の側に塩基性アミノ酸を導入するなどの改変を加えた数種のペプチドを合成した。ペプチドの合成は、常法に従いFmoc法により行った。すなわち、ペプチドシンセサイザーを用いてFmoc法のプログラムにより数種のペプチドを自動合成した。合成したペプチドを所定の溶媒中で攪拌することによりペプチドを保護基および樹脂から切り離す脱保護の操作を行った。脱保護後のペプチドは、再結晶、凍結乾燥させた後、高速液体クロマトグラフィー等により精製した。その結果、得られたペプチドの車輪表示を図2に示す。また、参考のため、マストパランXの車輪表示を図3に示す。両者を比較すると明らかなように、マスト21はマストパランXのアミノ酸配列の一部に塩基性アミノ酸を導入するなどの改変が加えられたものである。すなわち、図2の車輪表示で表現される電荷+6のペプチド(配列表の配列番号1)が本発明の膜作動性ペプチド、マスト21である。また、該ペプチドの2個のアミノ酸残基が置換されたもの、すなわち5番目と15番目のグリシン残基をリジン残基に代えて電荷を+8に調節した誘導体(配列表の配列番号2)も、本発明の膜作動性ペプチドである。

【08】
本発明のマスト21とその誘導体は、微生物の膜に対して選択的に作用し、溶血性を示さない、優れた膜作動性ペプチドである。これらマスト21等の有する機能については、以下の一連の実験により確認した。まず、微生物膜に対する選択的な作用について、蛍光物質であるカルセインを内包させた種々のリン脂質組成の異なるリポソーム(人工脂質二重膜)を用いて確認した。

【09】
動物細胞膜と微生物膜は、脂質二分子膜構造をとり、内外で異なるリン脂質を含む点で共通している。しかし、両者は、以下の点で大きく相違している。第1の相違点は、細胞膜の外層と内層の脂質組成である。健康な動物細胞膜の場合、細胞の外層に露出しているのはホスファチジルコリン(PC)等のような双イオン性リン脂質であり、ホスファチジルセリン(PS)のような酸性リン脂質は細胞質側に局在している。これに対し、微生物の細胞膜では、細胞の外側にホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルセリン(PS)並びにカルジオリピン(CL)といった酸性リン脂質が露出している。第2の相違点は、動物細胞の膜に含まれるコレステロールが、微生物には含まれていないことである。

【10】
上記2つの相違点を踏まえて、微生物膜のモデルタイプ、あるいは動物細胞のモデルタイプとなるようにリン脂質組成を変えたリポソームを作成した。リポソームの作成は、常法により行うことができる。例えば、後述の実施例1に記載したように、リン脂質を所定の割合で配合したリン脂質混合物から脂質薄膜を作成した後、蛍光物質を含む緩衝液と共に攪拌、超音波処理を行った後、カルセイン内包リポソームとリポソーム中に入り込まなかったフリーのカルセインとをゲル濾過により分離することにより、カルセイン内包一枚膜リポソームLUV(Large unilamellar vesicle)を得ることができる。

【11】
マスト21のポア形成能評価は、リポソームより漏洩してくるカルセインの蛍光強度を測定することにより行った。すなわち、リポソームにマスト21を作用させると、リポソームのリン脂質膜に作用してポアが形成された場合、リポソーム中のカルセインが外部に漏洩する。リポソーム内では殆ど蛍光を発しないカルセインが、リポソーム外に漏洩すると、その蛍光を蛍光光度計により高感度に測定することが可能となる。さらに、測定系の微量化を図るために、測定には96穴のマイクロプレートを用い、マイクロプレート対応蛍光測定装置(ミリポア Cytofluer 2300/2350)により効率的に測定を行った。

【12】
その結果、マスト21は、酸性リン脂質を多く含む微生物膜のモデルタイプのリポソームに対して、他の膜作動性ペプチドであるマストパランX等と同程度の強いポア形成能を示した(図4および図5参照)。

【13】
一方、酸性リン脂質含量を減少させたリポソームに対するマスト21の活性は比較的低く、さらにコレステロールを含む膜には殆ど反応を示さなかった(図6および図7)。このような結果は、マストパランXが、コレステロールの有無にかかわらず、高いポア形成能を示すのと対照的である。このことから、本発明のマスト21等は、微生物膜モデルに対して選択的にポア形成能を有することが判明した。

【14】
次に、マスト21等の溶血性について検討した。これは、赤血球に作用させ、ヘモグロビンの漏洩度をみることにより行うことができる。その結果、マスト21は、高い溶血性を示すマストパランXとは対照的に、殆ど溶血性を示さず、溶血性を示さない生体防御ペプチドであるマガイニン2と同程度であることがわかった。

【15】
このようなマスト21の選択的なポア形成能には、リポソームの酸性リン脂質とペプチドの静電的相互作用が関係している可能性が高い。マスト21中のアミノ酸配列中に含まれる塩基性アミノ酸であるリジン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得られる電荷の低い誘導体は、マスト21程のポア形成能を示さない。これに対し、全体として+6または+8の電荷を有する本発明のペプチド(配列表の配列番号1および2)は、高いポア形成能を示し、溶血性を示さないことが判明した(図8)。

【16】
次に、マスト21が膜に対して作用するときにどのような構造変化を生ずるかについて検討するために、リポソーム中および緩衝液中におけるCD(circulardichronism:円二色性)スペクトルを測定した。その結果、図9に示したように、リポソームと相互作用している場合には、緩衝液中では見られない負の山(208nmおよび222nm)および正の山(200nm以下)を示したことから、マスト21は、ポア形成時にヘリックス構造をとることが示された。

【17】
さらに、マスト21が実際にリポソームの膜内に入り込んでいるか否かを明らかにするために、マスト21の疎水平面上におけるトリプトファン残基の蛍光極大波長を測定した。その結果、緩衝液中では、トリプトファンは水溶液中での値である350nm付近に蛍光極大波長を示すのに対し、リポソーム中では最大波長が短波長側にずれるブルーシフトが観察された(図10参照)。このことから、マスト21は、リポソームの膜内に挿入されていることが示された。

【18】
上記のように、本発明のマスト21とその誘導体(配列表の配列番号1および2)は、微生物膜に対して選択的なポア形成能を有し、かつ溶血性を示さない、優れた膜作動性ペプチドであることから、このものは抗菌性物質としての利用が期待される。

【19】

【実施例】次に、本発明を実施例により詳しく説明する。
実施例1
(マスト21の作成)膜作動性の抗菌性ペプチドには、メリチンのように抗微生物作用と溶血性を示すものと、マガイニン2のように微生物膜に対して選択的に作用し、溶血性を示さないもの等がある。そこで、後者のタイプ、すなわち微生物膜と動物細胞膜を識別し、微生物膜に特異的に作用するペプチドを作出すべく、ペプチドのデザインを行った。抗菌性および溶血性を有するスズメバチ毒由来のペプチドであるマストパランXのアミノ酸配列に塩基性アミノ酸を導入するなどの改変を加えたペプチドを作成した。すなわち、アミノ酸残基20程度の鎖長を有するペプチドを、パーキンエルマー アプライドバイオシステム社(PE ABI)製ペプチドシンセサイザー431Aにより0.25mmolスケールのFmoc法のプログラムにより自動合成した。合成後のペプチドの付いた樹脂0.3gを、リージェントK10ml中で3時間常温で攪拌することにより、ペプチドの保護基を外すと同時にペプチドを樹脂から切り離す脱保護の操作を行った。

【20】
なお、リージェントKの組成は、以下の通りである。
トリフルオロ酢酸 8.25ml
フェノール 0.56g
チオアニソール 0.5ml
エタンジチオール 0.25ml/10ml

【21】
このペプチドを、C18ODSカラムを用いたHPLCで精製した。精製したペプチドを精製時と同一条件、すなわちA液(0.1%トリフルオロ酢酸を含む超純水)およびB液(0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル)を用い、B液の濃度を5%から65%へと上昇させ(流速:1ml/min、30min)、その濃度勾配よりC18ODSカラムに吸着したペプチドを溶出させた。図11は、その結果を示すクロマトグラムである。図11から明らかなように、17.63分の時点にマスト21の溶出を示す鋭いピークが検出され、このピーク領域は、全ピークの96.83%を占めることから、得られたペプチドは純度95%以上の高純度品であることが確認された。さらに、ヒューレットパッカード(HP)社製アミノ酸シークエンサー G1005Aにより、ペプチドのアミノ酸配列を確認した。

【22】
このようにして得られたペプチドの中で、当初の目的に適合すると思われるペプチドを幾つか得ることができた。その中の1つのペプチドの車輪表示を図2に、マストパランXの車輪表示を図3に示した。図3からわかるように、該ペプチドは、マストパランXのアミノ酸配列の一部に塩基性アミノ酸を導入するなどの改変を行ったものである。このペプチド(配列表の配列番号1)および該ペプチドの5番目と15番目のグリシン残基をリジン残基に代えて電荷を+8に調節した誘導体(配列表の配列番号2)が、本発明の膜作動性ペプチドである。

【23】
(2)マスト21のポア形成能評価
(1)で得られた電荷が+6のマスト21(配列表の配列番号1)について、蛍光物質を内包したリポソームを用いて、その膜に対するポア形成能を評価し、併せて他のペプチドの活性との比較を行った。

【24】
リポソームの作成
リン脂質組成の異なる5種類のリポソームを作成した。まず、リン脂質であるホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)およびコレステロール(CH)を第1表に示すような割合となるように配合したリン脂質混合物20mg/mlクロロホルム溶液を窒素ガス存在下で減圧濃縮して脂質薄膜を作成した。

【25】
さらに、脂質薄膜をデシケータ中で一晩減圧下におき、有機溶媒を完全に揮発させた。続いて、カルセイン70mMを含む10mM HEPES(pH7.4)溶液1.5mlを添加し、ボルテックス社製の攪拌機で10分間攪拌して懸濁させ、多重層リポソーム(mutilamellar vesicle:MLV)を形成させた。さらにその後、超音波で懸濁液が透明になるまで処理し(約30分)、カルセインを内包した大きな一枚膜リポソーム(Large unilamellar vesicle:LUV)を形成させた後、ゲル濾過(セファロースCL-4B,φ1cm×25cm,流速0.25ml/分,分画サイズ2ml)を行い、直径数百nmのカルセイン内包LUVを得た。得られた5種類のカルセイン含有LUVのリン脂質組成を第1表に示す。

【26】

【表1】
第 1 表
─────────────────────────────
リン脂質組成および配合割合
─────────────────────────────
calsein-LUVa PC/PS = 1/1
calsein-LUVb PC/PS =10/1
calsein-LUVc PC/PS/CH=10/1/1
calsein-LUVd PC/PG = 7/3
calsein-LUVe PC/PG/CH= 7/3/1
─────────────────────────────

【27】
微生物膜モデルに対する各ペプチドのポア形成能の比較
第1表のcalsein-LUVaに対し、前記のマスト21、マストパランXの他、膜作動性ペプチドとしてマガイニン2および溶血性ペプチドとして、マガイニン2とほぼ同じ分子量を有するメリチンを作用させ、各ペプチドのポア形成能の濃度依存性および経時的変化を評価した。すなわち、各ペプチドを最終濃度0.5~10μM(濃度依存性測定用)あるいは5.0μM(経時的変化測定用)となるように、カルセイン含有LUVに作用させ、LUVの膜が破壊されることにより漏洩したカルセインの蛍光強度を測定した。各測定値について、LUVにTriton-X 100を作用させて完全に膜を破壊したときの蛍光強度を100とした場合の百分率を算出し、比較を行った。

【28】
calsein-LUVaに対する各ペプチドのポア形成能を図4および図5に示す。図4は濃度依存性を、図5は経時的変化を追った結果である。図4、5の縦軸はカルセインの漏出量(%)を示し、図4の横軸は各ペプチドの濃度(μM)を、図5の横軸は試験開始後の時間(分)を示す。図4より、いずれのペプチドも濃度5μMでほぼ平衡に達することおよびマスト21は、メリチンほどのポア形成能はないが、マガイニン2よりも高い活性を有し、マストパランXと同程度のポア形成能を有することがわかる。また、図5より、いずれのペプチドも試験開始後1分という短時間にポア形成能を発揮することが示された。マスト21は、マストパランXと同様のポア形成能を有し、マガイニン2よりも高い活性を示すことから、ポア形成能を有するペプチドとして有用であることが明らかとなった。

【29】
動物細胞の細胞膜モデルに対するポア形成能の検討(その1)
酸性リン脂質であるホスファチジルセリン含量を少なくしたcalsein-LUVb(PC/PS=10/1)および動物細胞には存在するが、微生物には含まれないコレステロールを配合したcalsein-LUVc(PC/PS/CH=10/1/1)に対するマスト21およびマストパランXのポア形成能を比較した。ポア形成能は、上記と同様の方法で測定した。経時的に測定した結果を図6に示す。縦軸はカルセインの漏出量(%)を、横軸は試験開始後の時間(分)を示す。

【30】
図6から以下のことがわかる。まず、calsein-LUVb(PC/PS=10/1)に対する各ペプチドの作動結果をみると、マストパランXは、calsein-LUVa(PC/PS=1/1)のリポソームに対するポア形成能(図5)とほぼ同等のポア形成能を示している。一方、マスト21の場合は、ポア形成能がかなり低下している。このことから、酸性リン脂質含量の少ない膜に対するマスト21のポア形成能は低いことがわかる。

【31】
次に、calsein-LUVc(PC/PS/CH=10/1/1)に対する各ペプチドの作動結果をみると、両ペプチドとも、calsein-LUVaおよびcalsein-LUVbに比べて著しく低い活性を示している。この傾向は、マスト21の場合により顕著である。このようなコレステロール含有リポソームに対するポア形成能の低下は、マガイニン2などの微生物膜に特異的に作用する膜作動性ペプチドにも観察される現象である。

【32】
動物細胞の細胞膜モデルに対するポア形成能の検討(その2)
ホスファチジルセリンの代わりに、微生物膜に量的に多く含まれる酸性リン脂質であるホスファチジルグリセロールを配合したcalsein-LUVd(PC/PG=7/3)およびコレステロールをも配合したcalsein-LUVe(PC/PG/CH=7/3/1)に対するマスト21およびマストパランXのポア形成能を比較した。ポア形成能は、前記と同様の方法で測定した。経時的に測定した結果を図7に示す。縦軸はカルセインの漏出量(%)を、横軸は試験開始後の時間(分)を示す。

【33】
図7から以下のことがわかる。マストパランXは、calsein-LUVdおよびcalsein-LUVeのいずれに対しても高いポア形成能を示し、この活性は図5とほぼ同じである。一方、マスト21は、酸性リン脂質含量が高いcalsein-LUVa(図5参照)に対するよりも低い活性を示している。また、全体的にマストパランXよりもポア形成能が低い。さらに、コレステロールを含むcalsein-LUVeに対するポア形成能は、コレステロールを含まないcalsein-LUVdに対する活性よりもかなり低い。つまり、マストパランXの高いポア形成能は、コレステロールの有無および含まれる酸性リン脂質含量の比にほとんど影響されないのに対して、マスト21は、酸性リン脂質含量の高い膜に対して強く作用するのみならず、コレステロールを有する膜に対してあまり活性を示さないことがわかる。微生物膜の細胞膜表層には、酸性リン脂質が露出していること、コレステロールが動物細胞に特異的な脂質であることから、上記の結果は、マスト21のポア形成能は、微生物の細胞膜に対してのみ特異的である可能性を示している。

【34】
(3)マスト21の溶血性の観察
ヒトから採取した新鮮血を遠心分離(700~1000g×5~10分)し、得られた赤血球を等張液で洗浄し、赤血球溶液とした(0.15M NaCl/リン酸緩衝液、pH7.4)。この赤血球溶液(2×107 cells/ml)720μlにマガイニン2、メリチン、マストパランXおよびマスト21(配列表の配列番号1参照)の各ペプチド溶液80μlを添加して37℃で5~30分間反応させた。反応後に漏洩してくるヘモグロビンを540nmで測定した。結果を第2表に示す。評価は、Triton X-100を添加した際の吸光度を100とした場合の相対度で示した。

【35】

【表2】
第2表〔各ペプチドの溶血性(%)〕
─────────────────────────
5μM 10μM
─────────────────────────
マガイニン2 <1 4.5
メリチン 100 100
マストパランX 9.3 24
マスト21 <1 6.4
─────────────────────────

【36】
第2表より、マストパランXが溶血性を示すのに対し、マスト21は殆ど溶血性を示さず、溶血性を示さない生体防御ペプチドであるマガイニン2と同程度であることがわかる。したがって、前記の結果と総合して判断すると、マスト21は膜に対するポア形成能を示す点で、マストパランXと共通しているが、赤血球に対するポア形成能、すなわち溶血性を有しない点で明らかに相違している。

【37】
(4)マスト21の電荷のポア形成能に対する影響
+6または+8の電荷を有するペプチド(配列表の配列番号1および2参照)のアミノ酸配列の一部を、電荷が+2または+4となるように入れ換えて、2種の誘導体を作成した。それぞれの誘導体を誘導体i、誘導体iiと表す(配列表の配列番号3および4参照)。前記(2)のcalsein-LUVa(PC/PS=1/1)を用いて、これらの誘導体およびマスト21等に対するポア形成能を調べた。調査手法は、(2)と同様とした。結果を図8に示す。縦軸はカルセインの漏出量(%)を、横軸は各ペプチドの濃度(μM)を示す。

【38】
図8から明らかなように、電荷が+2の誘導体iは、酸性リン脂質を含む膜に殆どポア形成能を示さなかったが、電荷が+4の誘導体ii、電荷が+8のペプチドは、正電荷の増大につれてポア形成能が増大し、ポア形成における静電的相互作用の重要性が示唆された。

【39】
また、前記(3)と同様にして各誘導体および本発明のペプチドの溶血性について調べた。その結果を第3表に示す。なお、第3表に示した数値は、(3)の測定のときと同様に、メリチンの溶血性を100%とした場合の相対値である。

【40】

【表3】
第3表〔電荷の異なるペプチドの溶血性に対する影響〕
───────────────────────────
電荷 5μM 10μM
───────────────────────────
誘導体i (配列番号3) +2 <1 5.3
誘導体ii (配列番号4) +4 <1 8.1
マスト21(配列番号1) +6 <1 6.4
ペプチド (配列番号2) +8 <1 6.3
───────────────────────────

【41】
(5)CDスペクトルによるマスト21の二次構造解析
LUV(PC/PS=10/1およびPC/PG=7/3の2種類)をポリカーボネート製フィルターからなるエクストルーダーに10回通すことにより得られるSUV(small unilamellar vesicle:直径100nm以下の一重膜リポソーム)中でのマスト21(配列表の配列番号1)のCDスペクトルを測定した。また、対照として10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中のCDスペクトルについても測定した。CD曲線は、測定時のリン脂質とペプチドの濃度を、リン脂質0.9mMに対してペプチドを30μMとして日本分光J-720により、23℃において250~200nmの範囲を50nm/minのスキャンスピードでスキャンすることにより測定した。測定は各試料ごとに5回ずつ行い、積算した。結果を図9に示す。図中、縦軸はθ(103 degcm2 dmol-1)を、横軸は波長(nm)を示す。

【42】
図9より、SUV(PC/PG=7/3)の場合、208~209並びに222nmに負の山を、200nm以下で正の山をとっているが、緩衝液中ではこうしたαヘリックスに起因するピークは殆ど観察されず、SUV(PC/PS=10/1)中でも明らかではない。この結果は、SUV(PC/PG=7/3)に作用するマスト21が、αヘリックス構造をとっていることを示唆するものである。

【43】
なお、マスト21に大きな構造変化を引き起こすことが判明したSUVは、PC/PG=7/3であるが、前述の(3)の結果より、マスト21はリポソーム(PC/PS=10/1)よりもリポソーム(PC/PG=7/3)に対して高いポア形成能を有している(図6および図7参照)ことを考えると、ポア形成能と構造変化に相関があることを示すものである。

【44】
(6)マスト21中のトリプトファン残基の蛍光極大波長測定
さらに、マスト21(配列表の配列番号1参照)が実際にリポソームの膜内に入り込んでいるか否かを明らかにするために、SUV(PC/PG=1/1)、SUV(PC/PG=7/3)、SUV(PGのみ)にマスト21を作用させた際のマスト21中のトリプトファン残基の蛍光極大波長を測定した。

【45】
測定条件は、日本分光FP-777蛍光分光光度計を用いて、励起波長280nm、走査波長範囲300~400nm、測定温度23℃とした。測定は、リン脂質30μMに対して5μMのペプチドを加えて5分後に行った。また、対照として、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中でのマスト21のスペクトルについても同様の条件で測定した。

【46】
その結果を図10に示す。縦軸は波長(nm)を、横軸は蛍光強度を示す。図10のAは、SUV(PC/PG=7/3)の結果を、BはSUV(PC/PG=1/1)の結果を、CはSUV(PGのみ)の結果をそれぞれ示したものである。図中の実線はリポソーム中での測定結果を、破線は緩衝液中での測定結果を示す。

【47】
図10から以下のことがわかる。緩衝液中での測定結果をみると、350nm付近に蛍光極大波長が示されており、これはマスト21中のトリプトファン残基が水溶液中にあることを示す値である。一方、各SUV中ではブルーシフトが観察されたが、これはPG含量の多いリポソームにおいて、トリプトファン残基近傍の環境の誘電率が低下したことを示すものである。この傾向は、図10のAよりもCにおいて顕著であることから、PG含量の高いリポソームほど高いことがわかる。このことから、マスト21はリポソームの膜内に挿入され、ポア形成能とペプチドの膜内への配向が密接な関係にあることが示された。

【48】

【発明の効果】本発明の膜作動性ペプチドは微生物膜に対して特異的なポア形成能を示し、しかも溶血性を示さないことから、抗菌物質として有効に利用できる可能性を示している。

【49】

【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:21
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
直接の起源:mastoparan X
特徴を表す記号:peptide
特徴を決定した方法:E
配列
Lys Asn Trp Lys Gly Ile Ala Gly Met Ala Lys Lys Leu Leu Gly Lys
1 5 10 15
Asn Trp Lys Leu Met
20

【50】
配列番号:2
配列の長さ:21
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
直接の起源:mastoparan X
特徴を表す記号:peptide
特徴を決定した方法:E
配列
Lys Asn Trp Lys Lys Ile Ala Gly Met Ala Lys Lys Leu Leu Lys Lys
1 5 10 15
Asn Trp Lys Leu Met
20

【51】
配列番号:3
配列の長さ:21
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
直接の起源:mastoparan X
特徴を表す記号:peptide
特徴を決定した方法:E
配列
Lys Asn Trp Lys Gly Ile Ala Gly Met Ala Lys Lys Leu Leu Gly Glu
1 5 10 15
Asn Trp Glu Leu Met
20

【52】
配列番号:4
配列の長さ:21
配列の型:アミノ酸
鎖の数:一本鎖
トポロジー:直鎖状
配列の種類:ペプチド
直接の起源:mastoparan X
特徴を表す記号:peptide
特徴を決定した方法:E
配列
Lys Asn Trp Lys Gly Ile Ala Gly Met Ala Lys Lys Leu Leu Gly Glu
1 5 10 15
Asn Trp Lys Leu Met
20
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10