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明細書 :抗菌性染色物およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3421737号 (P3421737)
公開番号 特開2001-172887 (P2001-172887A)
登録日 平成15年4月25日(2003.4.25)
発行日 平成15年6月30日(2003.6.30)
公開日 平成13年6月26日(2001.6.26)
発明の名称または考案の名称 抗菌性染色物およびその製造方法
国際特許分類 D06P  5/00      
A01N 59/16      
D06M 15/03      
D06P  1/36      
D06P  1/673     
D06P  5/22      
FI D06P 5/00 105
A01N 59/16
D06M 15/03
D06P 1/36
D06P 1/673
D06P 5/22
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願平11-353367 (P1999-353367)
出願日 平成11年12月13日(1999.12.13)
審査請求日 平成11年12月13日(1999.12.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】加藤 弘
【氏名】日本 理都子
【氏名】新居 孝之
【氏名】塚田 益裕
【氏名】安田 公三
個別代理人の代理人 【識別番号】100106105、【弁理士】、【氏名又は名称】打揚 洋次 (外4名)
審査官 【審査官】松本 直子
参考文献・文献 特開 平8-13361(JP,A)
特開 平1-139882(JP,A)
特開 平9-48925(JP,A)
特開 平8-27675(JP,A)
特開2001-164479(JP,A)
調査した分野 D06P 5/00 105
D06P 1/36
D06P 1/673
D06P 5/22
A01N 59/16
特許請求の範囲 【請求項1】
塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた化合物の水溶液、もしくはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理され、抗菌性金属を含有する染料で染色されてなる、絹および羊毛から選ばれる天然素材、レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材からなる抗菌性染色物。

【請求項2】
塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた化合物の水溶液、もしくはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理され、抗菌性金属を含有しない染料で染色された、レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材が抗菌性の金属媒染剤で処理されてなる該高分子素材からなる抗菌性染色物。

【請求項3】
絹および羊毛から選ばれる天然素材、レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材を、塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた化合物の水溶液、またはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理し、次いで抗菌性金属を含有する染料で染色して染色物を得ることを特徴とする抗菌性染色物の製造方法

【請求項4】
レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材を、塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、臭化リチウ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた合物の水溶液、またはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理し、この前処理された高分子素材を抗菌性金属を含有しない染料で染色し、次いで得られた染色物に抗菌性の金属媒染剤を作用させて染色物を得ることを特徴とする抗菌性染色物の製造方法。

【請求項5】
前記塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、および臭化リチウムから選ばれた化合物の水溶液の濃度が1.35~1.50g/cm3であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた化合物の水溶液の濃度が0.2~0.8%であり、キトサン水溶液の濃度が5~20g/Lであることを特徴とする請求項3または4記載の抗菌性染色物の製造方法。

【請求項6】
前記天然素材が絹であり、前記塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、および臭化リチウムから選ばれた化合物の水溶液による前処理工程が、該絹の分子配向度を75%以下に低下させ、染料の吸着率を10%以上とするように行われることを特徴とする請求項3または5記載の抗菌性染色物の製造方法。

【請求項7】
前記天然素材が絹フィブロイン膜であることを特徴とする請求項3または5記載の抗菌性染色物の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は、抗菌性染色物およびその製造方法に関し、特に抗菌性金属を含有する染料で高分子素材を染色することで、または染色後の高分子素材に抗菌性金属を媒染剤として作用させることで得られる、染着機能と抗菌機能とを同時に有する抗菌性染色物およびその製造方法に関するものである。

【0002】

【従来の技術】従来、高分子素材を染色し、かつ抗菌性機能を付与するには、公知の方法で染色した後、抗菌性金属イオンを含む微粉末状のゼオライトを有効成分とする組成物をスプレーする方法が用いられている。また、染色後、染色物に抗菌性金属を担持するゼオライトを練り込む方法もある。このように、従来は、抗菌性染色物を得るために、染色工程を経た後、別の工程で抗菌性付与加工を行うという2段階の加工工程を行っていた。

【0003】
一方、金属を含む染料として含金染料が知られている。この含金染料は染料が繊維内部に確実に吸着できるという点に特徴があるが、絹糸等の動物性蛋白質繊維への染色では、染色後の色彩の色鮮やかさに若干の難点があるために、含金染料は実用上多く用いられてはいない。含金染料によって生ずるこのような染色特性は、含金染料の分子量が高いことと関係している。そのために、金属を含む各種の含金染料が既に商品化されているにもかかわらず、この染料を高分子素材に吸着させて抗菌性機能を有する染色物を製造しようとの発想は未だない。

【0004】
また、金属を含まない染料でまず高分子素材を染色し、その後金属を媒染剤として作用させる技術手法も知られているが、この技術を利用して染色物に抗菌性機能を付与させようとする発想も未だない。

【0005】

【発明が解決しようとする課題】染色工程は、染料を用いて素材に色素を浸透、定着させる加工作業である。ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルの3大合成繊維を含む合成繊維は一般には分散染料が主に用いられ、レーヨン繊維、アセテート繊維その他セルロース繊維は直接染料、バット染料、硫化染料、ナフトール染料、および反応染料が主に用いられている。また、絹や羊毛等の動物性蛋白質繊維用染料としては酸性染料、酸性媒染染料が主に用いられている。通常、染料および染着促進のための促染剤(または均染剤)等の染色助剤を含む染液に、素材を浸漬し、加熱または捺染した後、蒸熱することで染色工程が完了する。従来の染色工程では、素材を染色する作業を通じて、染色工程で染料を吸着、定着させることにより鮮やかな色彩を発現させることが主な目的であったが、近年、彩色以外の機能を同時に付与しようとする技術を開発することが実用的な視点から見て重要なテーマとなってきた。

【0006】
含金染料で高分子素材を染色する技術は公知であるが、高分子素材に多量の染料を吸着させることが可能な技術的方法については、未だ満足するものは開示されていない。通常、染料を多く吸着させるには染色温度や染色時間を長くして染料の吸着量を増加させる方法が採られている。しかし、天然高分子素材を水が存在する高温・高圧雰囲気下で長時間反応させることは、天然高分子素材の強度や伸度等の機械的性質を劣化させるため適当ではないという問題があった。また、通常の方法で染色すると、素材に染料を導入することは可能であっても、一旦導入した染料が溶出し易いという問題もあった。

【0007】
そこで、含金染料を用いて高分子素材を染色し、該素材に多量の染料を吸着せしめることからなる一つの工程で染色と抗菌性機能の付与とが同時に可能となる技術の開発は、この技術によって抗菌性機能を持つ染色物が効率的にかつ経済的に製造できることからも強く望まれていた。

【0008】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、高分子素材を抗菌性金属含有染料で染色することによって、良好な染色と有用な抗菌性とを同時に有すると共に、優れた耐洗濯性と安定した抗菌性をも持った抗菌性染色物を製造する方法および得られた抗菌性染色物を提供することを課題とする。

【0009】

【課題を解決するための手段】本発明者らは、染色工程だけで、良好な染色と有用な抗菌性とを同時に有する高分子素材の製造に関して鋭意検討した結果、中性塩水溶液、アルカリ水溶液、キトサン水溶液で高分子素材を前処理すれば、金属を含有する染料(含金染料)で染色することにより該素材が染色できると同時に、抗菌性機能をも付与できることを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。

【0010】
本発明の抗菌性染色物は、塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた化合物の水溶液、もしくはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理され、抗菌性金属を含有する染料で染色されてなる、絹および羊毛から選ばれる天然素材、レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材からなり、あるいは塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた化合物の水溶液、もしくはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理され、抗菌性金属を含有しない染料で染色された、レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材が抗菌性の金属媒染剤で処理されてなる該高分子素材からなる。本明細書中では、上記塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、および臭化リチウムから選ばれた化合物を説明の都合上、中性塩と称す。抗菌性金属を含まない染料としては、化学的に合成された公知の染料でもよいし、植物由来の染料を用いる、いわゆる「草木染染料」でもよい。抗菌性の金属媒染剤としては、発色のために用いられる金属を含む媒染剤を使用する。

【0011】
本発明の抗菌性染色物の製造方法は、絹および羊毛から選ばれる天然素材、レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材を、中性塩水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた無機アルカリの水溶液、またはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理し、次いで抗菌性金属を含有する染料で染色して染色物を得ることからなり、あるいは、レーヨンおよびアセテートから選ばれるセルロース繊維、またはアクリル、ビニロンおよびナイロンから選ばれる合成繊維である高分子素材を、中性塩水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムから選ばれた無機アルカリの水溶液、またはキトサン水溶液で浸漬加工により前処理し、この前処理された高分子素材を抗菌性金属を含有しない染料で染色し、次いで得られた染色物に抗菌性の金属媒染剤を作用させて染色物を得ることからなる。これにより、色鮮やかな色調を発現すると共に、病原細菌の増加を抑制する働きをもつ抗菌性素材が経済的にかつ効果的に得られる。

【0012】
記中性塩水溶液の濃度は1.35~1.50g/cm3であり、無機アルカリ水溶液の濃度が0.2~0.8%であり、キトサン水溶液の濃度が5~20g/Lであることが好ましい。上記天然素材には、カイコがつくる絹フィブロインや絹セリシン等の絹蛋白質、羊毛ケラチンからなる動物性蛋白質繊維が含まれる。上記高分子素材が絹糸である場合、上記中性塩水溶液による前処理工程が、絹糸の分子配向度を75%以下に低下させ、染料の染着率を10%以上とするように行われることが好ましい。また、上記天然素材として、絹フィブロイン膜を使用することもできる。

【0013】

【発明の実施の形態】本発明で利用できる高分子素材としては、抗菌性染料の分子が吸着、拡散して高分子素材の内部に入り込む結果、染料と素材分子とが水素結合、共有結合、疎水結合、イオン結合をとって物理・化学的に相互作用が高まるものであれば、特に制限はない。利用可能な有機高分子からなる高分子素材としては、繊維形態のものとして、上記したような動物性蛋白質繊維、天然セルロース繊維、合成繊維、およびこれらの繊維製品等がある。これらの素材の中で、最も効果的に、また簡便に用いることのできるものとしては、例えば動物性蛋白質繊維である。また、高分子素材の形態としては特に制限されず、糸、布(織物、編物等)、不織布、繊維集合体等が含まれる。さらに、素材の形態としては、膜状のものも含まれ、例えば、絹フィブロイン繊維を臭化リチウム等の中性塩の水溶液に溶解させ、透析して得られる絹フィブロイン水溶液から調製する絹フィブロイン膜も含まれる。

【0014】
本発明おいて行われる高分子素材の前処理は、該素材に染料を多く吸着させるためのものであり、上記したように、(1)中性塩水溶液による浸漬処理、(2)アルカリ水溶液による浸漬処理、および(3)キトサン水溶液による含浸熱処理(pad-dry-cure)がある。これらの処理について、以下説明する。

【0015】
(1)本発明において含金染料の吸着量を増加させるための中性塩水溶液の浸漬処理で用いる処理薬剤としては、公知の中性塩であれば特に制限なく利用できる。例えば、塩化カルシウム、塩化カリウム、硝酸カルシウム、臭化リチウム等の公知の中性塩類が利用できる。以下、高分子素材として絹糸を例にとり説明する。

【0016】
中性塩水溶液の濃度は、ボーメ標準比重計で計測して、通常1.35~1.50g/cm3、好ましくは1.38~1.49g/cm3である。中性塩濃度が1.35g/cm3未満だと加熱しても絹糸の塩縮が十分ではなく、非経済的であるし、1.50g/cm3を超えると加熱温度が低温であっても短時間に絹糸が収縮してしまい、塩縮率を制御することが困難となる。ここで、塩縮とは、加熱処理により、繊維が長さ方向に収縮する現象をいう。加熱処理は65℃~95℃で行うとよく、処理時間は絹糸の収縮状況を観察しながら適宜調節すればよいが、一般的には1分~30分が好都合である。塩縮反応後、多量の流水で水洗いし、絹糸内に含まれる中性塩成分を十分に除く必要がある。さもないと、染色工程で中性塩と染料とが反応し、沈殿がおこり、染色むらになりやすく、染色効率が低下する原因にもなる。中性塩水溶液で絹糸を浸漬処理することで絹糸が収縮し、この過程で絹フィブロインの分子配向度は低下する。

【0017】
染料の吸着量を増大するための中性塩水溶液による絹糸の浸漬処理では、分子配向度を75%以下に低下させることができ、また、この前処理で染料の吸着率を10%以上にさせることができる。

【0018】
上記したように、絹糸を中性塩水溶液で加熱処理すると絹糸が長さ方向に収縮する。このような塩縮において、塩縮率は中性塩の濃度と、処理温度、処理時間により制御できる。中性塩濃度はボーメの標準比重計で測定する。好ましい濃度は、例えば硝酸カルシウムの場合には、1.38~1.49g/cm3であり、最も好ましい濃度は1.41~1.43g/cm3である。濃度が1.38g/cm3未満だと塩縮効果は十分でなく、濃度が1.49g/cm3を超えると逆に塩縮が不十分となってしまう。処理温度が80℃において、硝酸カルシウム濃度が1.41g/cm3ならば、処理時間30秒、1分、2分で、塩縮率はそれぞれ4%、12%、22%となる。硝酸カルシウム濃度が1.43g/cm3ならば、処理時間30秒、1分、2分で、塩縮率はそれぞれ13%、22%、43%となり、1.49g/cm3の硝酸カルシウム濃度ならば、同じ処理時間で、塩縮率はそれぞれ25%、33%、53%となる。

【0019】
塩縮率が平衡状態に達するための条件は、硝酸カルシウム濃度1.49g/cm3で、1分間処理の場合に、処理温度70℃、90℃であり、塩縮率はそれぞれ25%、72%である。

【0020】
(2)本発明において含金染料の吸着量を増加させるためのアルカリ水溶液の浸漬処理で用いる処理薬剤としては、公知のアルカリ試薬であれば特に制限なく利用できる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等が同様に利用できる。アルカリ処理薬剤の濃度は0.2~0.8%であり、この下限よりも希薄であるとアルカリ処理の効果が現れないし、この上限よりも濃くなるとアルカリ薬剤により絹糸の加水分解が起こり、得られたものの機械的特性が劣化してしまう。アルカリ薬剤処理では高分子素材の機械的性質は少なからず劣化する。この劣化程度を軽減するためには、例えば絹糸の場合、絹糸を所定濃度(0.6%)のアルカリ水溶液に室温で20分間浸漬し、絞り率(pick up)を50~150%にして、ビニール袋に入れ密封した後、30℃の恒温器に入れて24時間静置するとよい。

【0021】
(3)本発明において含金染料の吸着量を増すために用いるキトサン水溶液による前処理では、キトサンを酢酸水溶液に溶解したキトサン水溶液に高分子素材を浸漬した後、pad-dry-cure 法により処理される。酢酸水溶液で可溶化させたキトサン水溶液に高分子素材を浸漬し、乾燥させる。酢酸水溶液濃度およびキトサン水溶液濃度は、それぞれ、1~5mL/Lおよび5~20g/Lが好ましい。乾燥温度は90℃~160℃、乾燥処理時間は1~30分が好ましい。

【0022】
本発明において利用できる金属を含む染料(含金染料)としては特に制約はないが、例えば次の1:1型金属錯塩染料、および1:2金属錯塩染料を挙げることができる。

【0023】
1:1型金属錯塩染料:スルホン酸基をもつ染料1分子に金属1原子を配位した染料である。例えば、Chiba社が開発したNeolanとして、Neolan:Black ALU,Black 2G,Black WA,BlackWA Extra N,Blue FR, Blue 2G,Blue 2R,Blue 3R,Bordeaux BE,BM,RM,Brown TCN等があり、また、IGが開発したPalatine Fastとして、Palatine Fast:Black RRN, Black SAN,Black WAN,Blue BN,Blue GGN,Blue GGNA,Bordeaux RN,Brown BRRN等があり、また、Kayakalan Bordeau BL,Kayakalan Brown GL,Kayakalan Gray BL167,Kayakalan Yellow GL,Kayalax Yellow G,Kayakalan Black 2RL,KayakalanBlackBGL,Kayakalan Orange RL等がある。

【0024】
1:2型金属錯塩染料:金属1原子に対してスルホン酸基の代わりにスルホンアミド基、メチルスルホン基等を含む染料2分子を配位結合した染料である。例えば、Irgalan(Gy),Cibalan(Chiba),Landsyn(Sandoz),Isolan(FBY)等がある。これらの染料は、優れた染色性、堅牢度が特徴である。

【0025】
上記以外にも多数の含金染料、例えばIrgalan Yellow 2GL,Lanacron Navy Blue B,Kayarus Supra Rubine BLおよびKayarus Tug. Blue GL等が使用できる。

【0026】
上記染料中に含まれる金属としては、例えば、クロム、コバルト、亜鉛、銅等の抗菌性を有する金属が好ましい。優れた抗菌性機能を、例えば動物性蛋白質繊維に安定して付与するには、クロム金属を含有する染料が特に好ましい。本発明における含金染料による染色は、染色助剤として0~2%owfの酢酸アンモニウムに高分子素材を5~15分間浸漬した後、0.5~2%owfの含金染料を添加し、更に浸漬することにより行われる。その後、50~60分間かけて染色浴温度を90℃まで次第に上昇させ、目的温度で60分間染色する。

【0027】
また、高分子素材に抗菌性機能を付与可能な技術で本発明で利用できるものとして、抗菌性金属を含まない染料で染色した後、抗菌性金属を含む媒染剤で処理する技術もある。この技術は、染色時に染料分子と金属が配位結合をするタイプの染色で、いわゆる媒染染料(Mordant dye)による染色である。この場合、実際に用いられる染料のタイプとしては特に制限されないが、後処理で媒染剤としてクロムを用いて媒染することのできる染料や、後処理で含銅フィックス処理することのできるシリアス系直接染料等が好ましい。この含銅フィックス処理とは、染色堅牢度を向上させるために行う銅を含んだ定着剤による処理をいう。クロムで媒染できる酸性染料は酸性媒染染料またはクロム染料と呼ばれ、(1)染色後、重クロム酸カリウムの希水溶液等と加熱してクロム処理するクロム後処理法(after-chroming)によるものや、(2)染色とクロム処理を同時に行うメタクロム法(Meta chroming)によるものの2種類の酸性媒染染料による染色が可能である。この方法により、極めて優れた耐光性や、湿潤堅牢度(洗濯堅牢度)が得られるため、絹、羊毛に特に適している。シリアス系直接染料には銅含有アゾ染料が多い。具体的な染料としては、Sirius(製造メーカーとして、Anil,ByDB,FBy,FIVC,VC等がある)が挙げられる。

【0028】

【実施例】次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例で行った抗菌活性評価方法、物性の評価方法は、次の通りである。

【0029】
(1)植物性病原細菌として、普遍的な植物性病原細菌の代表であって、耐性菌が出現しやすく、多くの植物を犯す多犯性の腐敗病菌であり、植物性病原細菌の中でも数少ないグラム陽性菌であるトマトかいよう病菌(学術名:Corynebacterium michiganese pv. michiganese)を選び、各試料に対する抗菌活性を評価した。

【0030】
細菌に対する抗菌活性検定法:加熱溶解後55℃に保持した半合成脇本培地またはキングB培地25mLと、検定菌(濃度109/mL)2mLとを混合し、この混合物をシャーレに流し込んで平板状に固めた。この菌液混合平板培地上に長さ約2cm、幅3mmに切断した検定試料を置き、ピンセットで注意深く検定試料の両端を培地に埋め込み、膜状の試料全体を培地に密着させた。これを黒い布で覆い、光を遮断した環境中、20~25℃に保ち、所定の経過時間毎に検定試料付近の培地での菌増殖阻害程度を、試料の周囲に現れる阻止円の大きさを実測してmm単位で評価した。

【0031】
(2)大腸菌の増殖阻害による抗菌性評価
上記トマトかいよう病原細菌の増殖阻害と類似した方法で評価した。ただし、培地は、LB培地、LB寒天培地を使用した。蒸留水100mL当たりのLB培地組成は次の通りであった。ペプトン 1.0g、酵母エキス 0.5g、塩化ナトリウム 1.0gの組成から構成できる培地であり、寒天 1.5gで滅菌後の培地のpHを7.0~7.4に調整した。具体的な培養手法は次の通りである。

【0032】
(イ)LB培地で培養温度35℃で振盪しながら、一昼夜、大腸菌を増殖させた。

【0033】
(ロ)約60℃で溶解したLB寒天培地と、増殖した前記大腸菌の入ったLB培地を等量宛混合し、滅菌済みの容器に注入した。

【0034】
(ハ)培地が固化した後、被検試料を培地表面に置いた。

【0035】
(ニ)一定時間の培養後、阻止円の大きさを観察し、mm単位で評価した。

【0036】
(3)染着量
染色した高分子素材の試料を浴比1:20の25~75%ピリジン溶液で処理して脱色させた。脱色液の吸光度を比色計Spectronic 20(島津製作所製)で測定し、吸光度と染料濃度との検量線から染着量(×10-5eq/g・fiber)を求めた。

【0037】
また、染色した高分子素材の試料に対する染着量を肉眼によっても下記の判定基準により相対的に4段階で評価した。

【0038】
+++ :かなり濃い表面濃度を示す。

【0039】
++ :普通の表面濃度を示す。

【0040】
+ :表面濃度が普通以下である。

【0041】
- :染着が認められない。

【0042】
(4)白度評価
染色した高分子素材の試料の表面濃度を分光光度計(島津自記分光光度計、UV-3100S) で評価した。波長:350-800nm, Slit幅:2.0mm、使用光源:C, View angle 2°であった。L, a. b系による色彩表示系で測定した。L値(明度)を染料吸着程度と呼ぶことにする。

【0043】
(5)機械的特性:試料の機械的特性を測定し、切断時の試料の強度、伸度を評価した。測定条件は、試料の長さ10mmおよび幅2mm、引張り速度10mm/min、フルスケール250gであり、(株)島津製作所製引張り試験機(オートグラフ、形式AGS-5D)により測定した。

【0044】
(6)熱分解温度:理学電機(株)製示差熱走査測定装置(DSC-10A)を用い、試料重量2.2 mg、DSCレンジ2.5mcal/s、昇温速度10℃/分で、測定を200mL/分の窒素気流中で行った。この測定において200℃以上に現れる吸熱ピーク温度を試料の熱分解温度とした。

【0045】
(7)吸着率
染着前、染着後の染色浴濃度から、吸着率を以下のようにして求めた。すなわち、染色残液を5倍に希釈して、波長505nmにおける吸光度を島津自記分光光度計(MPC-3100/UV-3100S)で求めた。これとは別に、濃度を変えた所定濃度の染色原液の吸光度を求め、検量線を作成した。505nmにおける各種染色残液の吸光度の値を検量線にあてはめ、それぞれの染色濃度を求め、次式から吸着率を計算した。

【0046】
吸着率(%)=(染着前の染色浴濃度-染着後の染色浴濃度)/(染色前の染色浴濃度)
(8)塩縮率
高分子素材を濃厚な中性塩水溶液に浸漬し、加熱処理すると該素材の分子が中性塩と反応し素材が繊維長方向に収縮する。次式を用いて塩縮率(%)を求めた。

【0047】
塩縮率(%) = (Li - Lf)/Li × 100
上式において、Liは収縮前の素材長を、また、Lfは収縮後の素材長を示す。
実施例1(含金染料の抗菌性評価)
トマトかいよう病細菌の増殖に及ぼす各種の金属を含む染料自体の抗菌活性を調べた。得られた結果を表1に示す。
JP0003421737B2_000002t.gif【0048】表1から、抗菌性金属を含んだ含金染料には病原性細菌であるトマトかいよう病細菌の増殖を抑制する作用のあることが明らかであり、抗菌活性は含有する金属の種類によって変化するが、概してCoよりCrを含む含金染料の方が抗菌活性は高い。
実施例2(中性塩水溶液による前処理の効果)
ボーメの標準比重計により比重を1.41g/cmに調整した硝酸カルシウム水溶液に絹糸試料を浸漬し、80℃で10分間、加熱処理することで絹糸長を収縮(塩縮と呼ぶこともある)させた。塩縮処理前後の試料長さの変化から求めた塩縮率は25%であった。実施例1と同様の方法で、塩縮試料を含金染料であるKayakalan Black 2RLで染色した。浴比は1:100とし、染色助剤の酢酸アンモニウムは用いなかった。染色した塩縮試料および対照試料(塩縮せずに染色した試料)の染着量を測定した。得られた結果を表2に示す。
(表2)
JP0003421737B2_000003t.gif【0049】表2から明らかなように、塩縮試料の染着量の方が対照試料の場合よりも多く、含金染料が多く繊維に吸着していた。これは、絹糸を中性塩水溶液で浸漬処理すると絹糸長が収縮し、絹フィブロインの分子が乱れて含金染料が繊維内部に拡散し易くなるからである。試料No.1の塩縮試料の染着量は、21.8×10-5eq/g・fiberであった。このことから、上記「(7)吸着率」の記載に従って計算したところ、抗菌性絹糸を調製する上で、中性塩による前処理した絹糸の吸着率は、10以上の値であることが好ましい。

【0050】
表2の試料No.3(塩縮率25%)の塩縮試料の機械的特性が染色加工前後でどのように変化するかを、塩縮処理も染色加工もしない場合、塩縮処理をせずに染色加工をした場合、塩縮処理をしたが染色加工をしない場合と比較して評価した。また、DSC測定を行い、絹フィブロインの熱分解温度を測定した。得られた結果を表3に示す。(表3)
JP0003421737B2_000004t.gif【0051】表3において、B(cont)、B+dye、B+salt、およびB+salt+dyeの略符号は、それぞれ、塩縮処理も染色加工もしない対照区、対照区試料を染色加工した区(試料No.3の対照試料に相当)、塩縮処理をしたが染色加工をしない区、試料No.3の塩縮試料を意味する。染料としては、含金染料Kayakalan Black 2RLを用いた。表中の( )の数字は標準偏差を示す。

【0052】
表3の結果から、染色前後の絹糸の強度は余り変化しないが、伸度は若干増加することから、絹糸を中性塩で処理した後染色した場合、伸度は増加するが、強度の低下は少ないことが確かめられた。
実施例3(中性塩処理試料の物理的特性)
比重1.43g/cm、80℃の硝酸カルシウム水溶液に絹糸を異なる時間浸漬し、絹糸長の収縮率の異なる試料を調製し、塩縮率と絹繊維の複屈折率、分子配列度、染着率との関係を調べた。得られた結果を表4に示す。表中、試料No.5、6、7、8、および9のそれぞれの浸漬時間は、10秒、30秒、2分、3分、および3分30秒であったなお、試料No.4は前処理を全く行わない試料を意味する。
(表4)
JP0003421737B2_000005t.gif【0053】
注:最大複屈折率 = 68 × 10-3(結晶領域のΔn)
分子配列度 = Δn/68 × 10-3 × 100(理想的な配列にどれ程近づくかの目安)
対照区(浸漬処理も染色加工もせず)の絹糸の分子配列度は約83%であった。分子配列度は、絹糸のすべてが結晶領域からできていると仮定した理想的な状態に比べて、どの程度、非結晶領域が入り込んでいるかの目安となるものである。

【0054】
未浸漬処理絹糸(試料No.4)の分子配列度は82%、染着量は18.5である。このことから、絹糸に含金染料を効率的に吸着させるには、中性塩による前処理により、絹糸の分子配列度を、75%以下に低下させておくことが好ましい。
実施例4(アルカリ水溶液による前処理の効果)
異なる濃度(0.4、0.6%)の水酸化ナトリウム水溶液に2.5gの絹布(JIS L0803-1974、染色堅牢度試験用添付白布に準拠;以下、絹布と略記することもある)を20℃で20分浸漬した。含浸率を100%にした後、この処理絹布をビニール袋に入れ、密封し、30℃の恒温器に24時間入れて処理した。反応処理後、水洗いして前処理済絹布を調製した。このようにして調製した絹布を、それぞれ、N-040、N-060と略記する。これらの絹布を、いずれも1g/Lの非イオン界面活性剤(商品名:スコアーロール400、第一工業製薬株式会社製)を含む水溶液で75℃、20分間処理して、ソーピングを行い、染色用の絹布試料を得た。なお、浴比は、1:100とした。

【0055】
上記で得られた絹布試料の重量に対し、酢酸アンモニウムを、0、0.5、1%含む40℃の染色浴のそれぞれに絹布試料を入れ15分間浸漬した後、予め溶解しておいた1%の染料(Kayakalan Black 2RL)を添加して更に10分間浸漬した。その後、50~60分間で徐々に90±2℃まで染色浴の温度をあげ、その温度で60分間染色した。次いで、染色された絹布を取り出し、水洗、自然乾燥を行った。前処理した後、染色した絹布について、染料吸光度、染色残液のpH、L値(明度)および染着量を求めた。得られた結果を表5に示す。
JP0003421737B2_000006t.gif【0056】注:L値が小であるほど、濃い黒色に染まっていることを示す。

【0057】
表5から明らかなように、水酸化ナトリウムによる前処理をすることで、染料の吸着量が増加すること、すなわちこれにより抗菌活性が強すことが実証された。
実施例5(キトサン水溶液による前処理の効果)
絹布を10g/Lのキトサン、3mL/Lの酢酸水溶液に浸漬し、pad-dry-cure法(cure条件:150℃、10分間処理)によりキトサン処理を施した。その後、水洗し、自然乾燥して、キトサンの付着率を処理前後の重量差から求めた。

【0058】
染色は酸性染料 Orange IIと含金染料Kayakalan Black 2RLを用いて、80℃で60分間行った。染着濃度は分光光度計を用いて、染料の最大吸収波長の反射率からクベルカームンク式より、K/S値を算出した。得られた結果を表6に示す。
JP0003421737B2_000007t.gif【0059】表6から明らかなように、絹布をキトサン水溶液に浸漬し、pad-dry-cure処理することで多量の染料が試料内部に拡散・吸着することが確かめられた。
実施例6(抗菌活性)
実施例2~5で調製した前処理済試料を含金染料Kayakalan Black 2RLで染色し、染色後の試料に対するトマトかいよう病細菌の増殖阻害を調べた。得られた結果を表7に示す。
JP0003421737B2_000008t.gif【0060】表7から明らかなように、前処理後染色した試料は、染着量が多いため、抗菌活性があることが分かる。
実施例7(染色物からの金属の流出量評価)
含金染料で染色した染色物からの金属の流出の有無について、アルカリ汗による染色堅牢度試験により評価した。染料として、Eriosin Brill. Cyanine GおよびEriosin Fast Blue B(均染型酸性染料)、ならびにIrgalan Yellow 2GLおよびLanacron Navy Blue B (含金染料)を用い、従来の染色方法で絹布を染色した。

【0061】
アルカリ汗に対する堅牢度は洗濯堅牢度に対応する実用的評価値である。1Nのアルカリ汗溶液でハイドロテスターを用い、37℃で4時間放置後の添付の絹布汚染をグレースケールで判定した(SNVテスト、1958 24/1961)。その結果、Eriosin染料で染色した絹布のアルカリ汗堅牢度は、1級であり、IrgalanおよびLanacron染料で染色した絹布のアルカリ汗堅牢度は4-5級であった。アルカリ汗堅牢度の値が大きい程、染色物を洗濯水洗いしたときに染料の絹布からの脱離が少ないことを意味する。すなわち、含金染料は一旦絹布に吸着すると、金属イオンが染料と錯体となって付着しているので、染色堅牢度が良好であり、染色物から染料が流出し難く、かくして染色物から金属が流出する危険性は殆どない。
実施例8(染色物の抗菌性試験)
含金染料(Kayakalan Yellow GLおよびKayakalan Black 2RL)の濃度を20%(対繊維重量)として染色した絹布に対する大腸菌およびトマトかいよう病細菌の増殖阻害を調べた。得られた結果を表8に示す。
JP0003421737B2_000009t.gif【0062】注:抗菌活性の程度は、対応する阻止円の大きさをmm単位で測定して評価した。

【0063】
表8から、含金染料(Kayakalan Yellow GLおよびKayakalan Black 2RL)で染色した絹布には大腸菌、トマトかいよう病細菌の増殖を抑制する作用のあることが明らかである。

【0064】
次に、含銅染料Kayarus Supra Rubine BLおよびKayarus Tug. Blue GL、ならびにコバルトを含む金属染料Kayakalan Brown GLを用いて絹布への染色を行った。絹布重量に対して酢酸アンモニウム5%、氷酢酸2%を含む40℃の染色浴に絹布を繰り入れ、15分間浸漬後、予め溶解しておいた20%の染料を添加して更に15分間処理した。染色は、染色浴を40分間で90℃まで昇温させ、同温度で30分染色後、氷酢酸を1%追加して更に30分間行った。染色後、染色浴を50℃まで冷却させてから絹布を取り出し、水洗、自然乾燥を行った。得られた結果を表9に示す。
JP0003421737B2_000010t.gif【0065】注:AおよびBは、それぞれ、トマトかいよう病細菌および大腸菌に対する抗菌活性を示す阻止円を意味する。

【0066】
表9から明らかなように、含銅染料およびコバルトを含む金属染料で染色した絹布は細菌増殖を阻害することが認められた。
実施例9
よこ糸にポリエステル紡績繊維、たて糸に以下の9種類の化学組成の異なる繊維を用い、一定の順序に並べて織った多織交織布(JIS L0803-1974、染色堅牢度試験用添付白布(交織A号))に対して、実施例1と同様の方法でKayakalan Black2RLを用いて染色した。各種繊維への染着量を上記「(3)吸着量」記載のように目視で評価すると共に、L値を測定した。得られた結果を表10に示す。
JP0003421737B2_000011t.gif【0067】表10から、目視評価の結果に鑑み、L値でおよそ48以下の繊維を本発明で使用可能な素材であると判断できる。
実施例10(抗菌性金属の媒染効果)
玉ねぎの皮およびやまもも科の渋木からの抽出液を用いて絹布の草木染めを行った。

【0068】
(1)玉ねぎ(皮)の草木染め
玉ねぎの外側の茶色の薄皮に含まれている黄褐色の色素を草木染めの染料として用いた。色素を抽出するために、絹布重量の100%の量の玉ねぎの表皮に、この表皮重量の30倍量の水を加えて、60分間煮沸する作業を2回繰り返した。上記のようにして得た玉ねぎの抽出液に温湯を加えて、液量を染色物重量の50倍量とし、次いで酢酸1~2%を加えて染浴を調製した。この染浴に、別に温湯に浸してよく湿らせた絹布を繰り入れ、昇温し、80~90℃で30分間染色した後、水洗した。

【0069】
次いで、染色物の50倍量の明バン溶液(水1L中、結晶明バン2g、結晶炭酸ソーダ0.2g)を作り、上記のようにして得た染色物をこの明バン溶液中に入れ、常温~30℃で15分間媒染し、水洗した。更に、染色物の30~50倍量の重曹溶液(水1L中、重曹1g)中で繰り、水洗した。

【0070】
上記明バン溶液の代わりに硫酸銅溶液を用い、銅媒染を行った。すなわち、染色物の50倍量の硫酸銅溶液(水1L中、硫酸銅0.5g)を作り、染色物をこの溶液中に入れ、常温~30℃で15分間媒染し、水洗した。更に、染色物の30~50倍量の重曹溶液(水1L中、重曹1g)中で繰り、水洗した。

【0071】
(2)渋木エキス(やまもも科)
渋木エキス(染色物重量の100%量)に20倍量の水を加え、煮沸溶解し、濾過した。渋木エキスの溶液に温湯を加え、液量を染色物の50倍量とし、次いで酢酸1~2%を加えて染浴を調製した。この染浴に、別に温湯に浸してよく湿らせた染色物を繰り入れ、昇温し、80~90℃で30分間染色した後、水洗した。

【0072】
次いで、染色物の50倍量の塩化第一錫溶液(水1L中、塩化第一錫2g)を作り、上記のようにして得た染色物をこの溶液中に入れ、常温~30℃で15分間媒染し、水洗した。更に、染色物の30~50倍量の重曹溶液(水1L中、重曹1g)中で繰り、水洗した。

【0073】
上記塩化第一錫溶液の代わりに硫酸銅溶液を用い、銅媒染を行った。エキスの溶解、染色の方法は錫媒染の場合と同様にして行った。すなわち、染色物の50倍量の硫酸銅溶液(水1L中、硫酸銅0.5g)を作り、染色物をこの溶液中に入れ、常温~30℃で15分間媒染し、水洗した。更に、染色物の30~50倍量の重曹溶液(水1L中、重曹1g)中で繰り、水洗した。以上の染色、媒染の工程を2回くり返した。

【0074】
前記のように玉ねぎ、渋木エキスで草木染めした絹布の、トマトかいよう病細菌の増殖阻害を評価した。得られた結果を表11に示す。
JP0003421737B2_000012t.gif【0075】注:* を付した数値の阻止円は境界が不明瞭であることを意味し、付していない数値の阻止円は境界が明瞭であることを意味する。例えば、カテキン処理区の場合は、5mmの阻止円は境界が明瞭であるが、22mmの阻止円は境界が不明瞭であることを意味する。

【0076】
表11から、植物由来のエキスで草木染めした絹布はトマトかいよう病細菌の増殖を阻害することが明らかとなった。
実施例11(直接染料)
銅アゾ染料(Kayarus Supra Rubine BL)および銅フタロシアニン染料(KayarusTug. Blue GL)を用いて絹布への染色を行った。絹布の重量に対し、酢酸アンモニウム5%、氷酢酸2%を含む40℃の染色浴に絹布を繰り入れ、15分間浸漬後、予め溶解しておいた20%の染料を添加して更に15分間処理した。染色は、40分間で90℃まで昇温させ、同温度で30分染色後、氷酢酸を1%追加して更に30分間行った。染色終了後、染色浴を50℃まで冷却させてから絹布を取り出し、水洗、自然乾燥を行った。得られた結果を表12に示す。
JP0003421737B2_000013t.gif【0077】注:AおよびBは、それぞれ、トマトかいよう病細菌および大腸菌に対する抗菌活性を示す阻止円(mm)を意味する。

【0078】
表12から明らかなように、銅アゾ染料、銅フタロシアニン染料で染色した絹布は弱いながらもトマトかいよう病細菌の増殖を阻害した。
実施例12
絹フィブロイン繊維を8.5Mの臭化リチウム水溶液に浸漬し、60℃で30分加熱処理することで絹フィブロイン繊維を完全に溶解した。これをセルロース透析膜に入れ、5℃で4日間水道水と置換し、2%の絹フィブロイン水溶液を調製した。この絹フィブロイン水溶液をポリエチレン膜上に広げて室温で送風乾燥し、透明で強靱な絹フィブロイン膜を作製した。このようにして作製した絹フィブロイン膜を50%メタノール水溶液で25℃、30分処理して、水不溶性の絹フィブロイン膜を得た。この水不溶性の絹フィブロイン膜を0.2%水酸化ナトリウム水溶液中に20℃で5分間浸漬し、室温環境で十分に乾燥させた。次いで、この絹フィブロイン膜を、実施例4で用いたKayakalan Black 2RLに加えてKayakalan Yellow GLおよびKayalax Yellow Gの3種類の含金染料を用いて染色し、25℃、65%RHの標準状態で十分に乾燥させた。このようにして抗菌性金属が絹フィブロインと化学結合して得られた素材に対して、トマトかいよう病細菌の増殖阻害を調べた。得られた結果を表13に示す。
JP0003421737B2_000014t.gif【0079】注:AおよびBは、それぞれ、水酸化ナトリウム処理前および処理後の絹フィブロイン膜を用いた場合であり、その阻止円の大きさをmm単位で表示した。

【0080】
表13から明らかなように、実施例4で用いた絹布の場合と同様に、絹フィブロイン膜においても、水酸化ナトリウム水溶液で前処理した後、含金染料で染色することにより、トマトかいよう病細菌の増殖阻害が向上した。

【0081】
本発明で用いる金属を含んだ染料あるいは媒染剤にはクロムを含んだものが多い。クロムを含んだものを公共の下水道に排出する際には、クロム量を最大2mg/L以下に抑えることが排水基準で定められている。さらに、水道水の法的基準は6価クロームについては0.05mg/L以下になっている。従って、6価クロームが含まれている場合には、次の方法で排水処理することが必要である。(1)重クロム酸カリウム等の6価クロムに亜硫酸ナトリウム、または硫酸第1鉄等の還元剤を加えて毒性の少ない3価クロムにすること、(2)活性炭やゼオライトにより吸着し、固形化して廃棄すること、(3)微生物を利用して廃水処理を行うなこと等を単独または組み合わせて6価クロムを排水処理することが望ましい。

【0082】

【発明の効果】本発明によれば、(1)中性塩水溶液、アルカリ水溶液、もしくはキトサン溶液で浸漬加工して前処理した高分子素材を、抗菌性金属を含有する染料で染色して染色物を得ること、または(2)該前処理した高分子素材を抗菌性金属を含有しない染料で染色し、得られた染色物に抗菌性の金属媒染剤を作用させて染色物を得ることからなるので、得られた染色物は、色鮮やかな色調を発現すると共に、病原細菌の増加を抑制する働きをもつ抗菌活性が経済的にかつ効果的に付与されたものとなる。

【0083】
本発明によれば、抗菌活性を有する金属が染料分子に含有されているので、染料を選択することにより素材を目的に応じた発色で染色することができ、かつ耐久性に富んだ抗菌性を有する染色物およびその製造方法が提供できる。

【0084】
また、本発明に用いる含金染料中の抗菌性金属は染料に配位しており、この含金染料が高分子素材に吸着され定着しているので、金属が流出しない。そのため衣料分野でも非衣料分野でも安心して利用できる抗菌性高分子素材である。