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明細書 :ビッター型の低温抵抗磁石の使用方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3706900号 (P3706900)
公開番号 特開2001-023813 (P2001-023813A)
登録日 平成17年8月12日(2005.8.12)
発行日 平成17年10月19日(2005.10.19)
公開日 平成13年1月26日(2001.1.26)
発明の名称または考案の名称 ビッター型の低温抵抗磁石の使用方法
国際特許分類 H01F  5/00      
G21B  1/00      
H01F  6/00      
FI H01F 5/00 A
G21B 1/00 E
H01F 7/22 ZAAZ
請求項の数または発明の数 4
全頁数 7
出願番号 特願平11-192643 (P1999-192643)
出願日 平成11年7月7日(1999.7.7)
審判番号 不服 2002-009282(P2002-009282/J1)
審査請求日 平成11年7月8日(1999.7.8)
審判請求日 平成14年5月23日(2002.5.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】渡邉 和雄
【氏名】本河 光博
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100100125、【弁理士】、【氏名又は名称】高見 和明
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100086645、【弁理士】、【氏名又は名称】岩佐 義幸
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
参考文献・文献 特開平5-234750(JP,A)
特許請求の範囲 【請求項1】
高強度板材ディスクの表面にY系またはBi系高温超伝導体を成膜した構造体を、磁束フロー抵抗状態下で用いることを特徴とするビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
【請求項2】
請求項において、高温超伝導体の膜厚が10~60μm であるビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
【請求項3】
請求項1または2において、磁石の使用温度が 4.2~30Kであるビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
【請求項4】
請求項において、磁石の使用温度が20Kであるビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温超伝導体を磁束フロー状態下で使用するビッター型の低温抵抗磁石の使用方法に関し、特にハイブリッド磁石用水冷磁石の代替としての内挿磁石や核融合実験装置の強磁場磁石などに適用して好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
世界の強磁場発生装置は、大型の大口径超伝導磁石とその内側に内挿される大電力の水冷磁石とを組み合わせたハイブリッド磁石と呼ばれる装置が、30Tクラスの定常強磁場を実現させている。
また近年では、強磁場化がさらに進み、水冷磁石の電力をこれまでの一般的な10MWから20~30MWへとまるで小さな発電所並みの電力設備にまで増強して、40T程度の強磁場発生装置が建設されている状況にある。
【0003】
ハイブリツド磁石の水冷磁石は、大電流によって強磁場を発生させる方法をとり、20kAから40kAの大電流によって通電が行われる。この時、抵抗発熱が20MWないし30MWの大電力を消費することになる。
また、この水冷磁石には 500 MPaほどの巨大な電磁力が作用するため、素材として機械的強度の高い材料が用いられている。
ここに、上記のような大電力を軽減するためには、低抵抗の材料を使用しなければならないが、高導電率で高強度の材料の開発は極めて難しい。
【0004】
現在、可能な限り抵抗を小さくして電力を軽減しようとする試みがなされており、その方法の一つとして、液体窒素や液体ネオンによる浸漬冷却が採用されている。
純度の高い銅を液体窒素温度 (77K)まで冷却すると、抵抗は1/10 まで1桁小さくなり、さらに液体ヘリウム温度(4.2K)では1/100まで2桁減少するが、高純度銅では機械的な強度が望めない。
これに対し、高強度材料は一般にマトリックス中に不純物を多量に含むために、温度を下げても抵抗の減少はあまり望めない。
従って、高強度材料をいわゆる低温抵抗磁石(CRYOGENIC RESISTIVE MAGNET)に適用しても電力の大幅な節約にはならないことになる。
【0005】
一方、電力をほとんど必要としないで強磁場を発生できる超伝導磁石では、超伝導状態の抵抗ゼロの性質が活用されている。超伝導体を用いて発生できる磁場は、その上部臨界磁場によって制限され、実用化されているニオブ3スズ超伝導磁石の場合は22T程度が限界となっている。
しかも、大口径の超伝導磁石の場合には、大きな電磁力が発生し、電磁力に対するニオブ3スズの機械的な弱点のために、発生磁場は15T程度までに抑制されている。
そのため、内側に組み合わせた大電力の水冷磁石の助けを借りて30Tを越える強磁場発生を行っているのである。
【0006】
他方、ここ10年で大きく発展してきたBi系やY系の高温超伝導体は、バルク応用として電流リードに適用され、実用化されてきた。特に、発明者らは、この電流リードを用いることによって、小型の冷凍機で冷却できる液体ヘリウムフリー超伝導磁石を世界に先駆けて開発したが、この実現には高温超伝導電流リードが不可欠の構成要素となっている。
しかしながら、この高温超伝導電流リードを除くと、未だに高温超伝導体の本格的な応用に成功していないのが現状である。
【0007】
Bi系高温超伝導体は、銀シース法と呼ばれる線材作製技術によってkm長さの長尺化が可能になったが、従来型超伝導線材を超える強磁場領域での応用には強度の面で解決しなければならない多くの課題が残されている。
また、高温超伝導体においては、磁束状態の基礎物理的な課題として特性そのものに大きな注目がなされ、従来の超伝導体の磁束状態とは著しく異なる振る舞いが明らかにされてきている。例えば、従来の超伝導体で見られた明繚な相転移である上部臨界磁場やそれと密接に関係する臨界電流密度の定義が困難となっている。
【0008】
しかしながら、高温超伝導体においても基本的には、応用上重要な臨界電流を担うピンポテンシャルが存在していることが分かっている。問題は、その応用上の境界が不明なままであることにある。
高温超伝導体においては、これまでの臨界電流決定基準に見直しが必要で、特に高温では物理的には抵抗状態にあり、これまでの抵抗ゼロの状態にないことが問題になっている。
抵抗ゼロの領域のみでの応用を考えると、高温超伝導体の有効な臨界電流密度は高温領域で極めて小さいことになり、この意味で、高温超伝導体の抵抗ゼロを利用したパワー応用にはまだ基礎的な課題が残されたままといえる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高温超伝導体の応用として、抵抗ゼロの超伝導状態ではなく、非常に小さな抵抗状態の応用に着目して開発されたものである。
すなわち、本発明は、抵抗ゼロの超伝導状態ではなく、磁束フロー抵抗状態下での活用を意図した新概念の低温抵抗磁石の使用方法を提案するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
以下、この発明の解明経緯について説明する。
磁束状態に対応する電圧状態すなわち抵抗状態は、従来の超伝導体では非常に鋭い電圧電流特性を示すために、わずかな電圧発生状態は常伝導伝播として素早い転移状態となる。超伝導磁石では、これをクエンチと呼んで超伝導状態から常伝導状態への非常に俊敏な状態変化が生じていた。
【0011】
ところが、高温超伝導体ではこの磁束状態の転移が緩慢であり、しかも電圧状態が極めて安定していることが、最近判明した。
すなわち、従来のような臨界電流の決定基準で求められた値の2倍以上の電流通電をも安定して繰り返し行えることが判明したのである。
かかる特性には、高温超伝導体の非常に小さい熱伝導率と、超伝導コア対銀シースの割合がかなり大きい安定化の銀が関与していると考えられ、従来型超伝導材料では見られなかった現象である。
【0012】
そこで、これまでの抵抗ゼロを活用した超伝導磁石に代えて、高温超伝導体の安定な磁束フロー抵抗状態を活用する抵抗磁石に注目した。
すなわち、高温超伝導体では、理想的な抵抗ゼロの超伝導状態を作り出すことは困難でも、極めて小さい抵抗状態が安定して得られるので、この特性を利用すれば、大電流ではあるが、これまでの抵抗磁石に比べると桁違いに小さい電力で強磁場を発生できる新しい磁石の開発が可能と考えられるからである。
本発明は、上記の考えに立脚して開発されたものである。
【0014】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
.高強度板材ディスクの表面にY系またはBi系高温超伝導体を成膜した構造体を、磁束フロー抵抗状態下で用いることを特徴とするビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
【0015】
.上記において、高温超伝導体の膜厚が10~60μm であるビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
【0016】
.上記1または2において、磁石の使用温度が 4.2~30Kであるビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
【0017】
.上記において、磁石の使用温度が20Kであるビッター型の低温抵抗磁石の使用方法。
【0020】
本発明において、Y系高温超伝導体としてはYBa2Cu3O(Y-123)が、またBi系高温超伝導体としてはBi2Sr2CaCu2O8(Bi-2212)やBi2Sr2Ca2Cu3O10(Bi-2223)等が有利に適合する。
一方、高強度板材としては、ハステロイやステンレススチール、銅銀合金等が有利に適合する。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明に従い、高温超伝導体を磁束フロー抵抗状態下で用いることによって、以下のような新しい低抵抗磁石が現実のものとなる。
(1) 磁束フロー抵抗状態は、臨界電流密度の定義で決定される領域に近いため、その抵抗率は10-10 Ωcm程度である。
これに対し、純度のよい銅は、室温で10-6Ωcm程度の抵抗率で、77Kの低温まで冷却して10-7Ωcm、また 4.2Kでは10-8Ωcmの抵抗率にまで小さくできるため室温の約1/100になる。
一方、高強度材料は、室温で銅の80%程度の導電率であるので、その抵抗率は10-5Ωcm程度にすぎず、また 4.2Kに冷却しても10-6Ωcm程度にしかならない。
これらを比較すると、高温超伝導体の磁束フロー状態では、低温における抵抗値を銅の1/100まで小さくすることができ、また高強度材料の1/10000までも低減することができる。
このように、高温超伝導体では、理想的な抵抗ゼロの超伝導状態を作り出すことは困難でも、桁違いに小さい抵抗状態を安定して得ることができる。
【0022】
(2) 水冷磁石に使われているビッター型のコイルを、この磁束フロー抵抗型で置き換えることができる。超伝導線材の機械的強度は、通常 100 MPaから 150 MPa程度で、超伝導線材で 500 MPaの機械的強度を得ることは極めて困難であるが、例えば 500 MPa以上の機械的強度を持つハステロイ板材の上に高温超伝導体を成膜することによって、上記の目的を達成することができる。
【0023】
(3) 我が国とアメリカ合衆国では、国家プロジェクトに準じるようなY-123の長尺テープを作製する研究が実施されている。高温での強磁場応用を考慮した場合、Y-123系高温超伝導体しかないからである。
IBADやRABITなどと呼ばれる複雑な真空蒸着の手法によって単結晶なみに配向したkm級の長尺テープを実現しようとする気の遠くなるような計画で、多くの研究者が凌ぎを削っている。磁石作製に際しては、100Aクラスの運転電流でターン数を数1000回から数10000 回と多くして起磁力を増やすか、数10000Aの大電流によって数100 程度のターン数で大きな起磁力を実現させるかの、2つの方法がある。
一般的な超伝導磁石では前者を採用し、水冷磁石では後者を採用している。
km級のテープを作製するよりは、1枚のビッター板を作製する方が遥かに容易であり、かかるの高温超伝導体ビッター板を磁束フロー抵抗磁石として用いることにより、従来に比べて水冷磁石を簡便かつ安価に作製することができる。
【0024】
以下、本発明の具体例について説明する。
(1) 東北大学金研強磁場センターの現状では、23kA, 350Vの電力でビッター水冷磁石が励磁されているが、磁束フロー抵抗磁石を用いれば21kAで0.25V ほどの電圧レベルで設計できる。電圧レベルのうち、0.2Vは途中のブスバーにおける電圧ドロップであり、コイルにおけるフロー抵抗損失を0.05V と見込んでいる。
従って、パワーとしては5.25kWと極めて小さくなり、現在の30Tハイブリツド磁石の電力約8MWに対して約1/1500 にまで電力の節約が可能となる。
【0025】
(2) 一般的な超伝導磁石と異なり、抵抗磁石では大電流で磁場を発生するためにコイルのインダクタンスが極めて小さいことが特徴で、超伝導磁石のインダクタンスの1/10000程度である。このために、磁石の励磁に大きな電源電圧を必要としない。1V もあれば十分である。これは、L成分であるからコイルの定常状態では電力の損失にならない。
【0026】
(3) 低温端が77KではBi系の電流リードが使えるが強磁場中では使用できない。Y系も低温端が77Kでは使用できない。そこで、磁束フロー抵抗コイルの動作温度を 4.2~30K程度に設定する。特に好適な動作温度は20Kである。
20K運転の利点は、発明者らが実証してきたY系の強磁場高温超伝導電流リードが利用できることで、銅電流リードに較べて熱侵入を1/10まで低減することができる。また、21kAで20K側に対して僅かに10W 程度の熱負荷にすることができる。
【0027】
(4) コイルの抵抗成分からの電力は1kW程度である。 4.2Kでは通常の冷凍機の冷凍能力は100W程度しかないが、20Kでは1kWの冷凍能力が得られる。
すなわち、動作温度:20Kにおいて、世界で初めての冷凍機冷却型の抵抗磁石が実現できるのである。
【0028】
(5) 20Kでは 4.2Kにおける比熱の100 倍以上あり、熱的擾乱が加えられた場合に磁束フロー抵抗コイルの熱的安定性に大きなマージンを持つ。
【0029】
(6) 高温超伝導体の臨界電流密度は、磁場がc軸に平行に印加された場合、30Tの強磁場まで104A/cm2以上の値を保てる温度は20K以下である。特に、Y-123は20Kにおいては30Tまで5×105A/cm2以上の臨界電流密度を得ることができる。内径:80mm、外径:150mm 、膜厚:40μm (片側のみ用いて40μm )では7kAの電流容量が得られ、ビッターを3重ねて用いるとすると、21kAの電流通電が可能である。
【0030】
(7) 円盤形のビッター板に、膜厚:40μm のY-123を形成するには、蒸着では困難である。大面積に厚膜を形成するのに適した成膜プロセスとしては、スプレイ法か液相エピタキシャル成長法が有利ある。Y-123の臨界電流特性を向上させるためには、結晶粒間の結合を良好にせねばならないため、単結晶的な膜が必要とされているが、ビッター板でこの特性を得るために、圧延テキスチャーと磁場配向制御を用いる。
すなわち、ビッター板の円周方向に圧延をかけて加工によるテキスチャーを持たせてY-123のab面をできるだけ揃え、c軸は磁場による配向効果で板面垂直方向に揃える。
発明者らの最近の研究では、Y系およびBi系の高温超伝導体ではc軸が磁場によって非常に鋭く配向することが確認されている。
【0031】
(8) ab面が円周方向に完全に揃えられれば、完全な抵抗ゼロの超伝導状態を利用できることになるが、円周方向のために必ずずれが生じることになる。しかしながら、このab面のずれは大傾角ではないので、かなり大きな臨界電流の値が得られ、臨界電流特性そのものはブロードな転移をするものと予測できる。
つまり、磁束フロー状態が見られる領域で電流を通電することになる。
【0032】
(9) Y-123ビッター板としては、高強度な機械的特性が要求され、また成膜中や酸素中での後熱処理において機械的特性が劣化しないことが重要である。この点、ハステロイは耐熱性があり、500MPaの設計値を確保するには十分である。Y-123の成膜に際しては、バッファー層として銀とY123 の比が7:1程度の 0.2mm厚さの銀をハステロイにライニングし、この銀にも冷間加工によるテキスチヤー処理を行うことが有利である。
【0033】
(10)なお、これまでのビッター磁石では、ビッター層間の電気絶縁にはポリイミドが用いられているが、本発明では、ハステロイを酸素中で熱処理した場合に生成するハステロイの酸化物を良好な絶縁体として利用することができる。
【0034】
最後に、本発明の特徴および応用形態を整理すると、次のとおりである。
(1) 超伝導体の抵抗ゼロを活用した超伝導磁石とは異なり、超伝導体の磁束フロー状態までの輸送電流を利用する新概念の超伝導抵抗磁石。
(2) これまでの小電力超伝導磁石と大電力抵抗磁石との中間に位置する小電力抵抗磁石。
(3) 高温超伝導体の転移が極めて幅広く安定な磁束フロー状態を活用する低温低抵抗磁石で、銅を用いたこれまでの低温抵抗磁石のおよそ1/1000 も小さい低抵抗の実現。
(4) 大電流で磁場を発生させる磁束フロー抵抗磁石。
(5) 大電流でコイルインダクタンスの小さい磁束フロー抵抗磁石。
(6) 大電流で低電圧の直流電源を用いる磁束フロー抵抗磁石。
(7) ビッター型板材に積層された高温超伝導体ビッター板を用いる磁束フロー抵抗磁石。
(8) 20Kで運転される磁束フロー抵抗磁石。
(9) 20Kで運転されるY系高温超伝導電流リードを用いた磁束フロー抵抗磁石。
(10)20Kで運転されるY系高温超伝導ビッター板を用いた磁束フロー抵抗磁石。
(11)20Kで運転される冷凍機冷却型磁束フロー抵抗磁石。
(12)高強度材としてハステロイを補強に用いるビッター型磁束フロー抵抗磁石。