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明細書 :非晶質炭素膜成形体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4409192号 (P4409192)
公開番号 特開2004-284915 (P2004-284915A)
登録日 平成21年11月20日(2009.11.20)
発行日 平成22年2月3日(2010.2.3)
公開日 平成16年10月14日(2004.10.14)
発明の名称または考案の名称 非晶質炭素膜成形体及びその製造方法
国際特許分類 C01B  31/02        (2006.01)
C23C  14/06        (2006.01)
C23C  14/58        (2006.01)
FI C01B 31/02 101A
C23C 14/06 F
C23C 14/58 C
請求項の数または発明の数 3
全頁数 8
出願番号 特願2003-082053 (P2003-082053)
出願日 平成15年3月25日(2003.3.25)
審査請求日 平成18年3月6日(2006.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】岩村 栄治
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開2002-105623(JP,A)
特開2001-261318(JP,A)
特開平10-265207(JP,A)
特開平09-309713(JP,A)
特開平07-090553(JP,A)
特開平01-261214(JP,A)
調査した分野 C01B 31/00-31/36
C23C 14/06
C23C 14/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
0.1at%以上、4at%以下のYを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上を含む金属元素を添加した非晶質炭素薄膜に100keVを越えないエネルギーを持った電子線を照射することによって形成される微細なグラファイトクラスターを、炭素の非晶質ネットワーク中に内包することを特徴とする非晶質炭素膜成形体。
【請求項2】
0.1at%以上、4at%以下のYを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上を含む金属元素を添加した非晶質炭素薄膜に100keVを越えないエネルギーを持った電子線を照射し、微細なグラファイトクラスターを炭素の非晶質ネットワーク中に内包させることを特徴とする非晶質炭素膜成形体の製造方法。
【請求項3】
50keV以上の不活性ガスイオンやカーボンイオンによるイオン照射を伴った気相成膜法により前記非晶質炭素薄膜を成膜し、該非晶質炭素薄膜に100keVを越えないエネルギーを持った電子線を照射することにより、前記微細なグラファイトクラスターを炭素の非晶質ネットワーク中に内包する非晶質炭素膜成形体を形成することを特徴とする請求項2記載の非晶質炭素膜成形体の製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非晶質炭素膜成形体及びその製造方法に係り、高い導電性と化学的安定性が必要とされる燃料電池やリチウム電池の電極材料、もしくは磁気記録媒体、ICカード読み取り機、改札機、プリンターヘッドなど、摩擦磨耗を伴い、かつ摩擦による静電気の発生に伴う静電破壊防止や塵芥の付着防止が必要とされる機械部品、もしくは摩擦材自体の表面に被覆される硬質保護膜として用いることができる非晶質炭素膜成形体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
非晶質炭素は高い機械的な強度と優れた化学的安定性をもつことから様々な分野で使用されている。しかし、一般的に、その電気抵抗は半導体から絶縁体の領域にあり、適度な導電性を付与した硬質炭素被膜が求められている。導電性を付与する方法として、一般的にはタングステン、チタン、クロム、アルカリ金属などの金属元素を1~50at%添加させる方法がよく知られている。その他の技術として、CO2 を含む炭素被膜として、下記特許文献1を、グラファイトクラスターを膜厚方向に配向させる炭素膜として、下記特許文献2をそれぞれ挙げることができる。
【0003】
【特許文献1】
特開2002-38268号公報
【0004】
【特許文献2】
特開2002-327271号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、一般的に、非晶質炭素に金属元素を添加した場合には、硬度などの機械的性質は著しく損なわれ、また金属元素自体が腐食の原因となったり、他の金属物質と接触する場合には凝着の原因となり、本来の化学的安定性が損なわれてしまう。
【0006】
また、グラファイトクラスターやその結合の制御では、10-2Ωcm程度から、さらにそれ以下の比抵抗を安定的に得ようとした場合、適当なサイズのsp2 結合成分のクラスターの存在が必要であり、この場合にもsp2 結合自体の結合の弱さから、膜としての機械的な性質は劣化する。
本発明は、上記状況に鑑みて、非晶質炭素膜の機械的強度もしくは化学的安定性を劣化させることなく、導電性を付与することができる非晶質炭素膜成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕非晶質炭素膜成形体において、0.1at%以上、4at%以下のYを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上を含む金属元素を添加した非晶質炭素薄膜に100keVを越えないエネルギーを持った電子線を照射することによって形成される微細なグラファイトクラスターを、炭素の非晶質ネットワーク中に内包することを特徴とする。
【0008】
〔2〕非晶質炭素膜成形体の製造方法において、0.1at%以上、4at%以下のYを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上を含む金属元素を添加した非晶質炭素薄膜に100keVを越えないエネルギーを持った電子線を照射し、微細なグラファイトクラスターを炭素の非晶質ネットワーク中に内包させることを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔2〕記載の非晶質炭素膜成形体の製造方法において、50keV以上の不活性ガスイオンやカーボンイオンによるイオン照射を伴った気相成膜法により前記非晶質炭素薄膜を成膜し、この非晶質炭素薄膜に100keVを越えないエネルギーを持った電子線を照射することにより、前記微細なグラファイトクラスターを炭素の非晶質ネットワーク中に内包する非晶質炭素膜成形体を形成することを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、非晶質炭素膜成形体において、低エネルギー電子線照射によって形成されるグラファイト構造を有するクラスターを、炭素の非晶質ネットワークを主体とする薄膜構造中に内包することを特徴としている。
【0011】
また、非晶質炭素膜成形体の製造方法において、金属元素を添加した非晶質炭素薄膜に低エネルギーの電子線を照射し、グラファイト構造を有するクラスターを、炭素の非晶質ネットワークを主体とする薄膜構造中に内包することを特徴としている。
より具体的には、非晶質炭素に添加する金属元素量を4at%以下に抑え、炭素の非晶質ネットワーク中に微細に分散させ、なおかつ局所的に極微なグラファイト構造を有するクラスターを炭素の非晶質ネットワークを主体とする薄膜構造中に内包させることにより、高い導電性を付与する。
【0012】
ここで、局所的に極微なグラファイト構造を有するクラスターを炭素の非晶質ネットワークを主体とする薄膜構造中に内包した薄膜構造とは、該クラスターが透過型電子顕微鏡法などの微視的構造評価方法により認識できるほどのサイズ(一般的には少なくとも直径1nm以上が必要である)である場合には、例えば、図1に示すようなものであり、サイズがこのような手法により識別できないほど小さい場合には、低電子エネルギー損失分光スペクトル(LEELS)法を用いて、6から7eV付近に極大を示すグラファイトクラスターのπ結合の存在に起因するπプラズモンロスピークが4から9eVの領域に存在することをもって、グラファイト構造を有するクラスターの認識を行うことができる。クラスターサイズが微細な場合、LEELS以外の分析手法(例えば透過型電子顕微鏡、ラマン分光、EELSコアロスエネルギー等)では、極微のグラファイトクラスターの存在を評価することは一般的には困難である。そのため、本発明ではLEELSを用いる。
【0013】
このような構造を作るための製造方法として、まず、0.1at%以上、4at%以下のYを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上を含有した非晶質炭素膜を、CVD、スパッタリング、アーク蒸着、レーザー蒸着等の気相形成法にてシリコン、ガラス、セラミック、鉄などの金属上に成膜する。このとき、成膜と同時に、堆積されつつある炭素膜にイオン照射を行うことにより、炭素非晶質ネットワークの密度を高め、さらに前記の添加元素をクラスタリングさせることなく、微細に分散させることができる。さらに、成膜後、低エネルギーの電子線を前記非晶質炭素膜に照射することにより、マクロには炭素の非晶質ネットワークの構造を変えることなく、微細分散させたイットリウム(Y)の周辺のみに局所的な極微細グラファイトクラスターを形成させることができる。なお、ここで「at%」とは原子数を基準とした百分率をいう。
【0014】
次に、なぜ、0.1at%以上、4at%以下のYを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上を添加するかについて、説明する。
(1)4at%以下に添加量を抑えることで、上記の添加元素が凝集、クラスタリングすることがなく、また、電子線照射による構造変化を局所的に抑えることができる。
【0015】
(2)非晶質炭素ネットワーク中に分散分布した上記の添加元素の周辺部において、電子線照射によりグラファイトクラスターの形成が促進されるが、元素の添加量が0.1at%より少ないと、導電性やグラファイトクラスター形成が不十分となり、4at%を越えると、機械的な強度を損なう。
上記添加元素の添加量は好ましくは3at%以下、さらに好ましくは1at%以下である。
【0016】
次に、製造時の条件として、以下の点について留意する必要がある。
(1)イオンエネルギー:50keVより小さいと、一般的に硬質保護膜として十分な耐久性を有した非晶質炭素膜ができない。
(2)電子線照射エネルギー:100keVを越えると、スパッタリング効果や熱的効果により、炭素の非晶質ネットワークや基板に損傷を与える。
【0017】
なお、さらに、以下の点を確認する必要がある。
(1)膜形成方法:気相形成法であれば、特に限定しない。
(2)膜構造:少なくとも最表面近傍に非晶質炭素膜を有する。
・膜構造:透過型電子顕微鏡による確認を行う。
・組成:ラザフォードバックスキャッタリング(RBS)分析、オージェ分光(AES)分析、ICP発光分析、蛍光X線分光分析
以下、本発明の実施例について説明する。
【0018】
図2は本発明の実施例を示す非晶質炭素膜成形体の製造方法を示す図である。
まず、図2(a)に示すように、マグネトロンスパッタリングにてシリコン(100)ウエハ基板1(2インチ径、厚さ250μm)上に、Yを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上の元素を0.35at%から0.5at%の範囲で含む非晶質炭素膜2(実施例1-12)もしくは3at%含む非晶質炭素膜(実施例2)を0.1μm成膜した。スパッタリングターゲット3には市販の焼成グラファイトターゲットに、各添加元素の純金属チップ(純度99.5以上、0.5cm角)をモザイク状に配置したものを用い、成膜ガス4にはアルゴンガス(ただし、メタンガスやベンゼンなどの炭素ガスを適量混合することは可能である)を用いて、プロセスガス圧3mtorrとした。また、成膜中にウエハ基板1に対して100Vの直流バイアス電圧を印加した。
【0019】
次に、図2(b)に示すように、電子線照射を行う。
すなわち、電子線照射装置〔ウシオ電機(株)製Min-EB labo STM-chamber〕5にて、真空中(減圧した不活性ガス雰囲気や大気中でもよい)で、加速電圧60kV、管電流0.3mA、照射距離30mmの条件下で、5秒から1時間にわたって電子線6の照射を実施した。
【0020】
以下、評価について説明する。
電気抵抗は4探針法(東英工業社製:超微細構造評価装置を使用)にて測定した。膜硬度はナノインデンテーション法(エリオニクス社製:商品名ENT-1100を使用〕を用いて測定した。
また、比較例として、前記と同様な方法にて、添加元素なしの非晶質炭素膜(比較例1)、およびW、Rh、Auをそれぞれ1.5,4.4,4.5at%添加した非晶質炭素膜(比較例2-4)を形成した。
【0021】
おもな評価結果を以下の表1に示す。
【0022】
【表1】
JP0004409192B2_000002t.gif このように、表1から本発明の実施例1-12は、比較例1-4に比べて具体的に以下のことが言える。
(1)本発明の実施例1-12は、比較例1に比べて、抵抗を低くすることができる。つまり導電性を高めることができる。
【0023】
(2)本発明の実施例1-12は、比較例2-4に比べて、硬質膜として十分高い膜硬度を維持しつつ、導電性を高めることができる。
ここで、図3(a)、図3(b)はそれぞれ0.5at%Yを含む非晶質炭素膜において電子線照射前および照射後のサンプルについて得られたLEELSスペクトルを示す。これは日立製作所製電界放出形透過電子顕微鏡(型式:HF-2000、加速電圧200kV)に付属したGATAN社製EELS(電子エネルギー損失分光法)分光器を用いて得られたプロファイルのいわゆるプラズモンロスのエネルギー領域に相当するものである。なお、図3(b)の↓で示した4~9eV付近にブロードに現れるピークが、グラファイト構造のπ電子の励起に起因したπプラズモンロスピークに相当する。すなわち、高分解能の格子像では確認が困難なサイズではあるが、このプロファイルから、電子線照射により非晶質炭素ネットワークの一部に微細なグラファイトクラスター構造が形成されていることが分かる。
【0024】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0025】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
(A)金属元素を添加した非晶質炭素薄膜に低エネルギーの電子線照射を行い、その非晶質炭素薄膜の構造と特性の改善を図ることができる。
【0026】
(B)Yを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上の元素を添加した非晶質炭素薄膜に低エネルギーの電子線照射を行うことによりグラファイトクラスターの形成を促進させることができる。
(C)Yを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上の元素の添加量を0.1at%以上、4at%以下に抑えることにより、添加元素がクラスタリングすることがなく、また、電子線照射による構造変化を局所的に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係わる局所的に極微なグラファイト構造を有するクラスターを炭素の非晶質ネットワークを主体とする薄膜構造中に内包した薄膜構造を示す透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】 本発明の実施例を示す非晶質炭素膜成形体の形成方法を示す図である。
【図3】 本発明の実施例を示す0.5at%Yを含む非晶質炭素膜において電子線照射前および照射後のサンプルについて得られたLEELSスペクトルを示す図である。
【符号の説明】
1 シリコン(100)ウエハ基板
2 Yを含む希土類元素、もしくはRu,Rh,Pd,Ir,Agの1種もしくは2種以上の元素を含む非晶質炭素膜
3 スパッタリングターゲット
4 成膜ガス
5 電子線照射装置
6 電子線
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2