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明細書 :光周波数線形チャープ量可変装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3569777号 (P3569777)
登録日 平成16年7月2日(2004.7.2)
発行日 平成16年9月29日(2004.9.29)
発明の名称または考案の名称 光周波数線形チャープ量可変装置
国際特許分類 G02B 26/00      
G02B  5/28      
FI G02B 26/00
G02B 5/28
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2003-081170 (P2003-081170)
出願日 平成15年3月24日(2003.3.24)
審査請求日 平成15年3月24日(2003.3.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人 科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】松田 功
【氏名】三沢 和彦
【氏名】覧具 博義
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】橿本 英吾
参考文献・文献 特開2001-313607(JP,A)
特開2003-035873(JP,A)
調査した分野 G02B 26/00
G02B 5/28
要約 【課題】チャープ量を変化させる毎の光軸あわせを必要としない誘電体多層膜鏡を用いた光周波数線形チャープ量可変装置を提供する。
【解決手段】誘電体多層膜面2aを向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡2,2と、誘電体多層膜鏡2,2によって挟まれる空間3内に配設した可動鏡4とを有する。可動鏡4は、2枚の誘電体多層膜鏡2,2によって挟まれる空間3の一端から斜めに入射し複数回反射した入射光5を誘電体多層膜鏡面2に平行、入射光5と誘電体多層膜鏡2の面法線6で決定される入射面7内、かつ一端3a方向に反射する。可動鏡4は、誘電体多層膜鏡面2aに平行、かつ入射面7内の方向に移動可能であり、この方向に沿って可動鏡4を前進または後進させることにより、付加するチャープ量を変化させる。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
誘電体多層膜面を向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡と、この2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間内に配設した所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な可動鏡とを有し、
上記可動鏡の所定の傾きは、上記2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の一端から斜めに入射し複数回反射した入射光を上記誘電体多層膜鏡面に平行、上記入射光と上記誘電体多層膜鏡の面法線で決定される入射面内、かつ上記一端方向に反射する傾きであり、
上記移動可能な所定の方向は上記誘電体多層膜鏡面に平行、かつ上記入射面内の方向であり、
この方向に沿って可動鏡を前進または後進させることにより、付加するチャープ量を変化させることを特徴とする、光周波数線形チャープ量可変装置。
【請求項2】
誘電体多層膜面を向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡と、この2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間内に配設した所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な第1の可動鏡と第2の可動鏡とを有し、
第1の可動鏡の所定の傾きは、上記2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の一端から上記誘電体多層膜鏡面に平行に入射する入射光を反射し、この入射光と上記誘電体多層膜鏡の面法線で決定される入射面内で複数回反射させる傾きであり、
第2の可動鏡の所定の傾きは、上記複数回反射した入射光を上記誘電体多層膜鏡面に平行、上記入射面内、かつ、上記空間の他端方向に反射する傾きであり、
上記移動可能な所定の方向は上記誘電体多層膜鏡面に平行、かつ上記入射面内の方向であり、
この方向に沿って第1の可動鏡または第2の可動鏡を前進または後進させることにより、第1の可動鏡と第2の可動鏡との間の距離を制御して、付加するチャープ量を変化させることを特徴とする、光周波数線形チャープ量可変装置。
【請求項3】
誘電体多層膜面を向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡と、この2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間内の中心に配設した、所定の傾きを有する第1の反射面と第2の反射面を有する固定鏡と、この固定鏡の両側に配置した、所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な第1の可動鏡と第2の可動鏡とを有し、
上記固定鏡の所定の傾きを有する第1の反射面の傾きは、上記2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の一端から上記誘電体多層膜鏡面に平行に入射する入射光を反射し、この入射光と上記誘電体多層膜鏡面法線で決定される入射面内で複数回反射させる傾きであり、
第1の可動鏡の所定の傾きは、上記複数回反射した入射光を反射して、上記誘電体多層膜鏡面に平行かつ上記入射面内に複数回反射する傾きであり、
第2の可動鏡の所定の傾きは、第1の可動鏡によって反射された光を反射し、上記入射面内で複数回反射させる傾きであり、
上記固定鏡の所定の傾きを有する第2の反射面の傾きは、第2の可動鏡で反射され複数回反射した光を上記誘電体多層膜鏡面に平行、上記入射面内、かつ上記空間の他端に反射する傾きであり、
上記移動可能な所定の方向は上記誘電体多層膜鏡面に平行かつ入射面内の方向であり、
この方向に沿って第1の可動鏡または第2の可動鏡を前進または後進させることにより、第1の可動鏡と第2の可動鏡との間の距離を制御して付加するチャープ量を変化させることを特徴とする、光周波数線形チャープ量可変装置。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、光化学反応分野、光材料加工分野、あるいは、超高速光通信分野で使用する光周波数チャープ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、分子状態や固体の電子状態の制御、化学反応制御、あるいは材料加工等において、フェムト秒光パルスが様々な形態で利用されている(非特許文献1~5参照)。また、フェムト秒光パルスの応用が広がるにつれ、より時間幅の狭いフェムト秒光パルス発生装置や、コスト、利便性に優れたフェムト秒光パルス応用装置への要求が高まっている。
これらの要求を満たすためには、フェムト秒光パルスの周波数線形チャープ技術が重要である。周波数チャープとは、光パルスの瞬時周波数が時間的に変化する現象であり、時間とともに線形に増加する場合を正チャープ、線形に減少する場合を負チャープと呼ぶ。
【0003】
フェムト秒光パルスの発生は、時間幅が広がった光パルスのスペクトル成分間の相対位相を制御して、フーリエ変換限界程度に時間幅を圧縮する技術である。光パルスの時間軸上の拡がりは、光パルスのスペクトル成分間の相対位相関係によって生ずるので、周波数に対して相対位相を補償することによって、すなわちチャープさせてパルス圧縮が行われる(非特許文献6参照)。線形チャープは、光の伝搬定数が、一定の群速度分散を有する場合、すなわち、周波数の2乗依存性を有する場合に生じることから、二次分散とも呼ばれる。
上記のように、フェムト秒光パルスの時間幅をさらに狭くする要求が高まっているが、光パルスの時間幅を狭めると、それに対応して周波数スペクトル幅が拡大するので、拡大した周波数スペクトルの成分間全てにチャープを与えることが必要になり、従来よりも広い周波数範囲にわたって、大きなチャープを与えることが必要になる。
【0004】
また、近年、フェムト秒光パルスを照射することによって誘起される物質の電子状態が、チャープの方向によって変化することが発見され、このような新たな原理に基づいて新物質を合成するためには、チャープの方向、チャープ量の大きさを精密に制御することが必要となってきた。
また、光通信の分野においても、光パルス信号の時間拡がりや、WDM(Wavelength Division Multiplex)における各波長信号間の時間遅れを無くすために、チャープの方向、チャープ量の大きさを任意に制御できる、コスト、利便性に優れたチャープ制御装置が必要とされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、線形チャープ技術に対する要望は極めて大きくなってきているが、下記に説明する従来の線形チャープ技術では、対応が困難である。
一般に、光パルスに正チャープを加えることは容易であるが、負チャープを加えるためには複雑な機構を要する。従来のチャープ量を制御する装置は、プリズム対、あるいは回折格子対を用い、この各対間の距離を変えて負チャープ量を変化させる装置が一般的であるが(非特許文献7参照)、これらの装置によって、広い周波数スペクトル範囲にわたって大きな負チャープを加えようとすると線形チャープ、すなわち二次分散だけでなく、二次分散よりも高次の分散も加わってしまうという課題がある。
また、光パルスのスペクトルを周波数に依存して空間分散させ、周波数毎の異なった位置に空間配置した液晶デバイスや可変回折格子鏡を用い、周波数毎に所定の位相を加えてから合波し、チャープ量を制御する装置がある。しかし、これらの装置は、例えば、液晶素子は、光エネルギーに対する損傷しきい値が低く、高エネルギー光パルスの使用に耐えない、また、装置がいずれも大型になるため、コストが高くなると共に、利便性が悪くなるといった課題がある。
【0006】
また、チャープ量を制御する装置としては、誘電体多層膜鏡がある(非特許文献8参照)。誘電体多層膜鏡は、屈折率(誘電率)の異なる光学薄膜を膜厚を制御して交互に複数積層し、この積層膜から反射する光が、周波数に比例した位相を持つようにしたものである。この装置は、光エネルギーに対する損傷しきい値が高い光学物質、例えば、SiOやTiOを誘電体多層膜として使用するので、高エネルギー光パルスの使用に耐える。また、光パルスを誘電体多層膜で反射させるだけなので、装置が小型である。
【0007】
【非特許文献1】
Kazuhiko Misawa and Takayosi Kobayasi J.Chem.Phys.113,(200)
【非特許文献2】
G.Cerullo,C.J.Bardeen,Q.Wang,and C.V.Shank,Chem.Phys.Lett.262,362(1996)
【非特許文献3】
C.J.Bardeen,Q.Wang,and C.V.Shank,Phys.Rev.Lett.75,3410
【非特許文献4】
J.Cao,C.J.Bardeen,and K.R.Wilson,Phys.Rev.Lett.80,1406(1998)
【非特許文献5】
Jennifer l.Herek,Wendel Wohlleben,Richard J.Cogdell,Dirk Zeider & Marcus Motzkus Nature 417,533(2002)
【非特許文献6】
Maruzen Advanced Technology 電子・情報・通信偏 矢島達夫編 丸善株式会社 平成2年3月15日発行 18~19頁
【非特許文献7】
Maruzen Advanced Technology 電子・情報・通信偏 矢島達夫編 丸善株式会社 平成2年3月15日発行 96~97頁
【非特許文献8】
Robert Szipocs,Kdrpdt Ferencz,Christian Spilemann and Ferenc Krausz“Chirped multilayer coatings for broadband dispersion control in femtosecondlasers”Opt.Lett.19,201(1994)
【非特許文献9】
Rick Trebino,Kenneth W.Delong,DavidN.Fittinghoff,John N.Sweetser,MarcoA.Krumbugel,and Bruce A.Richman,andDaniel J.Kane,“Measuring ultrashortlaser pulses in the time-frequency domain using frequency- resolved optical gating”, Rev.Sci. Instrum. 68(9),3277(1997)
【0008】
しかしながら、誘電体多層膜鏡を使用した従来の線形チャープ装置は以下に説明する課題がある。
図5は従来の誘電体多層膜鏡を使用した線形チャープ装置を示す図である。この装置は、平行に配置した誘電体多層膜鏡51,51からなり、誘電体多層膜鏡51,51の相対位置を調節することによって、光パルス52の誘電体多層膜鏡51,51による反射回数を制御して、光パルス52に加える負チャープ量を制御する。
図5(a)は反射回数2回の場合を示しており、図5(b)は反射回数が4回の場合を示しており、図の点線は(a)に示した反射回数2回の場合の光軸を示している。すなわち、チャープ量を少なくするには、(a)に示すように誘電体多層膜鏡21,21の相対位置を離して反射回数を減らし、負チャープ量を多くするには、(b)に示すように、誘電体多層膜鏡21,21の相対位置を近づけて反射回数を増やす。
この構成においては、図5(b)の実線と点線に示すように、設定した反射回数毎に、すなわちチャープ量を変化させる毎に光軸がずれてしまう。このように、従来の誘電体多層膜鏡を用いたチャープ量を可変できる装置は、チャープ量を変化させる毎に光軸あわせを必要とし、あるいは、光軸を再調整するための光学系を必要とし、このため、極めて利便性が低かった。
【0009】
上記課題に鑑み本発明は、誘電体多層膜鏡を用いたチャープ量可変装置において、チャープ量を変化させる毎の光軸あわせを必要としない光周波数線形チャープ量可変装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の光周波数線形チャープ量可変装置は、誘電体多層膜面を向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡と、この2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間内に配設した、所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な可動鏡とを有しており、可動鏡の所定の傾きは、2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の一端から斜めに入射し複数回反射した入射光を誘電体多層膜鏡面に平行、入射光と誘電体多層膜鏡の面法線で決定される入射面内、かつ空間の一端に反射する傾きである。所定の方向は誘電体多層膜鏡面に平行、かつ入射面内の方向であり、この方向に沿って可動鏡を前進または後進させることにより、付加するチャープ量を変化させる構成で成る。
【0011】
この構成によれば、互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡の一端から入射した光は、2枚の誘電体多層膜鏡間で複数回反射して可動鏡に至り、可動鏡で反射されて誘電体多層膜鏡面と平行、かつ入射面内の光線となって出射する。
従って、可動鏡を前進または後進することによって入射光の反射回数を制御して反射回数に比例したチャープ量を付加できると共に、可動鏡の位置によらずに同一方向の出射光が得られる。そのため、チャープ量を変化させる毎の光軸あわせが必要なくなり、また、光軸あわせのための光学系を付加する必要が無く、低コスト、利便性に優れた光周波数線形チャープ量可変装置を提供できる。
【0012】
また、本発明の光周波数線形チャープ量可変装置の第二の構成は、誘電体多層膜面を向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡と、2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間内に配設した、所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な第1の可動鏡と第2の可動鏡を有しており、第1の可動鏡の所定の傾きは、2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の一端から誘電体多層膜鏡面に平行に入射する入射光を反射し、入射光と誘電体多層膜鏡の面法線で決定される入射面内で複数回反射させる傾きであり、第2の可動鏡の所定の傾きは、複数回反射した入射光を誘電体多層膜鏡面に平行、入射面内、かつ、空間の他端方向に反射する傾きである。所定の方向は誘電体多層膜鏡面に平行、かつ入射面内の方向であり、この方向に沿って第1の可動鏡または第2の可動鏡を前進または後進させることにより、第1の可動鏡と第2の可動鏡との間の距離を制御して、付加するチャープ量を変化させることを特徴としている。
【0013】
この第二の構成によれば、互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡の一端から誘電体多層膜鏡面に平行に入射した光は第1の可動鏡によって反射し、2枚の誘電体多層膜鏡間で複数回反射して第2の可動鏡に至り、第2の可動鏡で反射されて2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の他端から入射方向と同一方向に出射する。第1の可動鏡または第2の可動鏡を前進または後進させることにより、付加するチャープ量を可変することができると共に、入射方向と同一方向の出射光を得ることができる。すなわち、この第二の光周波数線形チャープ量可変装置は、装置に入射する光の方向と出射する方向とが同一であることを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明の光周波数線形チャープ量可変装置の第三の構成は、誘電体多層膜面を向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡と、2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間内の中心に配設した、所定の傾きを有する第1の反射面と第2の反射面を有する固定鏡と、固定鏡の両側に配置した、所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な第1の可動鏡と第2の可動鏡とを有しており、固定鏡の所定の傾きを有する第1の反射面の傾きは、2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の一端から誘電体多層膜鏡面に平行に入射する入射光を反射し、入射光と誘電体多層膜鏡面法線で決定される入射面内で複数回反射させる傾きであり、第1の可動鏡の所定の傾きは、複数回反射した入射光を反射して、誘電体多層膜鏡面に平行かつ入射面内に反射する傾きであり、第2の可動鏡の所定の傾きは、第1の可動鏡によって反射された光を反射し、入射面内で複数回反射させる傾きであり、固定鏡の所定の傾きを有する第2の反射面の傾きは、第2の可動鏡で反射され複数回反射した光を誘電体多層膜鏡面に平行かつ入射面内に反射する傾きである。所定の方向は誘電体多層膜鏡面に平行かつ入射面内の方向であり、この方向に沿って第1の可動鏡または第2の可動鏡を前進または後進させることにより、第1の可動鏡と第2の可動鏡との間の距離を制御して付加するチャープ量を変化させることを特徴とするものである。
【0015】
この第三の構成によれば、互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡の一端から誘電体多層膜鏡面に平行に入射した光は、固定鏡の第1の反射面で反射し2枚の誘電体多層膜鏡間で複数回反射して第1の可動鏡に至り、第1の可動鏡で入射方向と同一方向に反射されて第2の可動鏡に至り、第2の可動鏡で反射し2枚の誘電体多層膜鏡間で複数回反射して固定鏡の第2の反射面に至り、第2の反射面で反射して2枚の誘電体多層膜鏡によって挟まれる空間の他端から入射方向と同一方向へ出射する。第1の可動鏡または第2の可動鏡を前進または後進させることにより、第1の可動鏡と第2の可動鏡との間の距離を制御して付加するチャープ量を可変する。第1の可動鏡と第2の可動鏡との間の距離を制御することによって入射光の反射回数を制御し、反射回数に比例したチャープを付加し、入射方向と同一方向に出射光を得ることができると共に、可動鏡の厚みによる制限を受けずに反射させることができるので、入射角をより小さくすることができ、その結果、単位長さあたりの反射回数を多くすることができるので、より大きなチャープ量を制御することができる。
【0016】
本発明の装置は、チャープ量を変化させる毎の光軸あわせを必要とせず、また、一回の反射によるチャープ量が決まっているためにパルスに加えたチャープ量が反射の回数で直ちに確認できる。また、誘電体多層膜であるので高エネルギー光パルスの使用に耐える。また、構造が簡単なため小型化が可能であり、低コスト、利便性に優れた装置である。このように本発明の装置によれば、従来のチャープ量制御装置が有していた全ての課題を克服することができる。
【0017】
【発明の実施形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、実質的に同一の部材又は部分には同一の符号を用いて説明する。
図1は、本発明の光周波数チャープ量可変装置の第1の実施の形態の構成を示す図である。(a)は本装置の構成を示し、(b)は、入射光と誘電体多層膜鏡の法線とで決定される入射面を模式的に示す図である。
本発明の光周波数チャープ量可変装置10は、図1(a)に示すように、誘電体多層膜面2a,2aを向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡2,2と、誘電体多層膜鏡2,2によって挟まれる空間3内に配設した、所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な可動鏡4とを有している。
【0018】
誘電体多層膜鏡2,2は、上記したように、屈折率(誘電率)の異なる光学薄膜を膜厚を制御して交互に複数積層し、この積層膜から反射する光が、光周波数に比例した位相を持つようにしたものである(非特許文献8参照)。光エネルギーに対する損傷しきい値が高い光学物質、例えば、SiOやTiOを誘電体多層膜として使用するので、高エネルギー光パルスの使用に耐える。
【0019】
可動鏡4の傾きは、空間3の一端3aから斜めに入射し、誘電体多層膜面2a,2a間で複数回反射した入射光5を、入射面7内の誘電体多層膜鏡面2aに平行な方向に、かつ空間3の一端3a方向に反射する傾きである。ここで、入射面とは図1(b)に示すように、入射光5の光線ベクトルと誘電体多層膜鏡面2aの面法線ベクトル6とで決定される面7のことであり、また、入射角とは入射光5の光線ベクトルと面法線ベクトル6とがなす角のことであり、以後の説明においても同様とする。
可動鏡4の移動可能な方向は、誘電体多層膜鏡面2aに平行、かつ入射面内の方向であり、この方向に沿って可動鏡4を前進または後進させることにより付加するチャープ量を可変する。
【0020】
この構成によれば、互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡2,2の一端3aから入射した入射光5は、誘電体多層膜鏡面2a,2a間で複数回反射して可動鏡4に至り、可動鏡4で反射されて誘電体多層膜鏡面2a,2aに平行、かつ入射面7内の光線となって出射光8となる。従って、可動鏡4を前進または後進することによって入射光5の反射回数を制御して反射回数に比例したチャープ量を付加できると共に、可動鏡4の位置によらずに同一方向の出射光8が得られる。従って、チャープ量を変化させる毎の光軸あわせが必要なくなり、または、光軸あわせのための光学系を付加する必要が無くなり、低コスト、利便性に優れた光周波数線形チャープ量可変装置が得られる。
【0021】
次に本発明の光周波数線形チャープ量可変装置の第2の実施形態を説明する。
図2は、本発明の光周波数線形チャープ量可変装置の第2の実施形態の構成を示す図である。図1に示した装置においては入射方向と出射方向が異なるが、この装置は入射方向と出射方向を揃えることができることを特徴としている。
第2の実施形態の光周波数線形チャープ量可変装置20は、誘電体多層膜面2a,2aを向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡2,2と、誘電体多層膜鏡2,2によって挟まれる空間3内に配設した、所定の傾きを有し、かつ所定の方向に移動可能な第1の可動鏡4aと第2の可動鏡4bとを具備している。
【0022】
第1の可動鏡4aの傾きは、空間3の一端3aから誘電体多層膜鏡面2aに平行に入射する入射光5を、誘電体多層膜面2a,2a間で複数回反射させ、かつ空間3の他端3b方向に向かわせる傾きである。
第2の可動鏡4bの傾きは、複数回反射した入射光5を誘電体多層膜鏡面2aに平行で、入射面7内、かつ、空間3の他端3b方向に反射する傾きである。
可動鏡4a,4bの移動可能方向は、誘電体多層膜鏡面2aに平行、かつ入射面7内の方向であり、この方向に沿って第1の可動鏡4aまたは第2の可動鏡4bを前進または後進させることにより、第1の可動鏡4aと第2の可動鏡4bとの間の距離を制御して、付加するチャープ量を可変する。
【0023】
この構成によれば、互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡2,2の一端から誘電体多層膜鏡面2aに平行に入射した入射光5は第1の可動鏡4aによって反射し、誘電体多層膜面2a,2a間で複数回反射して第2の可動鏡4bに至り、第2の可動鏡4bで反射されて2枚の誘電体多層膜鏡2,2によって挟まれる空間3の他端3bから入射方向と同一方向に出射する。第1の可動鏡4aまたは第2の可動鏡4bを前進または後進させることにより、付加するチャープ量を可変することができると共に入射方向と同一方向の出射光を得ることができる。
【0024】
次に本発明の光周波数線形チャープ量可変装置の第3の実施形態を説明する。図3は、本発明の光周波数線形チャープ量可変装置の第3の実施形態の構成を示す図である。図2に示した装置は、図から明らかなように、入射光の入射角を小さくしていくと反射光が可動鏡の厚みに遮られるようになり、入射角に限界がある。
第3の実施形態の装置は、入射角を小さくすることができ、従って付加するチャープ量を大きくできることを特徴としている。
第3の実施形態に係る光周波数線形チャープ量可変装置30は、誘電体多層膜面2a,2aを向き合わせて互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡2,2と、誘電体多層膜鏡2,2によって挟まれる空間3内の中心に配設した固定鏡9と、固定鏡9の両側に配置した、第1の可動鏡4aと第2の可動鏡4bとを有している。
【0025】
固定鏡9は、所定の傾きを有する第1の反射面9aと第2の反射面9bとを有しており、第1の可動鏡4aと第2の可動鏡4bは、所定の傾きを有し、また、所定の方向に移動可能である。
固定鏡9の第1の反射面9aの傾きは、空間3の一端3aから誘電体多層膜鏡面2に平行に入射する入射光5を、入射面7内で、かつ誘電体多層膜面2a,2a間で複数回反射させ、かつ、第1の可動鏡4a方向に戻す傾きであり、第1の可動鏡4aの傾きは、複数回反射した入射光5を入射面7内で、誘電体多層膜鏡面2aに平行、かつ第2の可動鏡4b方向に反射させる傾きであり、第2の可動鏡4bの傾きは、第1の可動鏡4aによって反射された光を入射面7内で、誘電体多層膜鏡面2a,2a間で複数回反射させ、かつ固定鏡9の第2の反射面9b方向に戻す傾きであり、固定鏡9の第2の反射面9bの傾きは、第2の可動鏡4bで反射され複数回反射した光を入射面7内で、誘電体多層膜鏡面2aに平行、かつ空間3の他端3b方向に反射する傾きである。
可動鏡4a,4bの移動可能方向は誘電体多層膜鏡面2aに平行かつ入射面7内の方向であり、この方向に沿って第1の可動鏡4aまたは第2の可動鏡4bを前進または後進させることにより、第1の可動鏡4aと第2の可動鏡4bとの間の距離を制御して付加するチャープ量を可変する。
【0026】
この構成によれば、互いに平行に配列した2枚の誘電体多層膜鏡2,2の一端3aから誘電体多層膜鏡面2aに平行に入射した入射光5は、固定鏡9の第1の反射面9aで反射し誘電体多層膜鏡面2a,2a間で複数回反射して第1の可動鏡4aに至り、第1の可動鏡4aで入射方向と同一方向に反射されて第2の可動鏡4bに至り、第2の可動鏡4bで反射し誘電体多層膜鏡面2a,2a間で複数回反射して固定鏡9の第2の反射面9bに至り、第2の反射面9bで反射して空間3の他端3bから入射方向と同一方向に出射する。第1の可動鏡4aまたは第2の可動鏡4bを前進または後進させることにより、第1の可動鏡4aと第2の可動鏡4bとの間の距離を制御して付加するチャープ量を可変する。
【0027】
第3の実施形態の装置では、誘電体多層膜鏡面2a,2a間の複数回反射が、常に可動鏡の反射面の前面で起こるようになるので、図1及び図2の構成に比べて、入射光線の入射角を小さくすることができる。従って、第1の可動鏡4aと第2の可動鏡4bとの間の距離を制御することによって、入射光の反射回数を制御し、反射回数に比例したチャープを付加し、入射方向と同一方向に出射光を得ることができると共に、入射角をより小さくすることができる。その結果、単位長さあたりの反射回数を多くすることができ、より大きなチャープ量を制御することができる。
【0028】
次に、本発明の実施例を説明する。
本実施例は、図1に示した本発明の第1の実施形態による光周波数線形チャープ量可変装置を用いて行った。用いた誘電体多層膜鏡は、シグマ光機株式会社製のシグマ光機GFM-SET-50fs2である。
入射光にフェムト秒光パルスを用い、第1の実施形態の装置を用い、可動鏡の位置を変えて、反射回数を変化させた。出力光の光パルスの瞬時周波数をFROG(Frequecy Resolved Optical Gating:非特許文献6参照)法を用いて測定した。
図4は、実施例の測定結果を示す図である。横軸は時間軸であり、右側の縦軸はフェムト秒光パルスの電界強度(任意メモリ)を示し、左側の縦軸は瞬時周波数を表す。図4(a),(b),(c)は、この順番に反射回数を増やして測定した結果を示す図である。図において、曲線Aは、フェムト秒光パルスの時間軸状の電界強度分布を表し、曲線BはFROG測定装置の出力を表している。直線Cは曲線Bから求めた瞬時周波数を表す。尚、図中の数値はチャープレートと呼ばれる単位時間あたりの周波数変化量を示す量であり、直線Cの勾配である。
図にみられるように、直線Cは、反射回数を増やすに従って勾配が負方向に大きくなり、線形負チャープ量が反射回数に比例して増加していることがわかる。なお、図4(a)において、直線Cが正の勾配を有しているのは、入射光のフェムト秒光パルスが正の線形チャープ量を有しているため、(a)の測定における反射回数では正の線形チャープ量を補償仕切れないためである。
【0029】
【発明の効果】
上記説明から理解されるように、本発明の装置によれば、極めて広帯域な周波数にわたって大きなチャープ量を付加することができ、しかも、付加するチャープ量毎に光軸あわせをする必要が無い。また光パルスの入射方向によらずに一定方向に、あるいは入射方向と同一方向に出力光を得ることができる。
従って、本発明は、今後必要とされる、パルス幅のより狭いフェムト秒光パルスの生成に、あるいは、チャープ量を簡便、低コスト、かつ任意に制御することが必要な、光化学反応分野、光材料加工分野、あるいは、超高速光通信分野で使用すれば極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光周波数チャープ量可変装置の第1の実施の形態の構成を示す図である。
【図2】本発明の光周波数チャープ量可変装置の第2の実施の形態の構成を示す図である。
【図3】本発明の光周波数チャープ量可変装置の第3の実施の形態の構成を示す図である。
【図4】実施例の測定結果を示す図である。
【図5】従来の誘電体多層膜鏡を使用した線形チャープ装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
2 誘電体多層膜鏡
2a 誘電体多層膜面
3 誘電体多層膜鏡で挟まれる空間
3a 空間の一端
3b 空間の他端
4 可動鏡
4a 第1の可動鏡
4b 打2の可動鏡
5 入射光
6 誘電体多層膜面の面法線
7 入射面
8 出射光
9 固定鏡
9a 第1の反射面
9b 第2の反射面
10 第1の実施の形態の光周波数チャープ量可変装置
20 第2の実施の形態の光周波数チャープ量可変装置
30 第3の実施の形態の光周波数チャープ量可変装置
51 誘電体多層膜鏡
52 入射光パルス
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4