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明細書 :新規植物遺伝子、該遺伝子を利用した植物改変方法および該方法により得られる植物体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3605633号 (P3605633)
公開番号 特開2002-125675 (P2002-125675A)
登録日 平成16年10月15日(2004.10.15)
発行日 平成16年12月22日(2004.12.22)
公開日 平成14年5月8日(2002.5.8)
発明の名称または考案の名称 新規植物遺伝子、該遺伝子を利用した植物改変方法および該方法により得られる植物体
国際特許分類 C12N 15/09      
A01H  5/00      
C07K 14/415     
C12N  5/10      
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C07K 14/415
C12N 5/00 C
請求項の数または発明の数 8
全頁数 23
出願番号 特願2000-320111 (P2000-320111)
出願日 平成12年10月19日(2000.10.19)
審査請求日 平成12年10月19日(2000.10.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
発明者または考案者 【氏名】梁 正偉
【氏名】黒田 秧
【氏名】芦川 育夫
【氏名】矢頭 治
【氏名】青木 秀之
【氏名】王 慶▲ギョク▼
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
審査官 【審査官】長井 啓子
参考文献・文献 武田真ら,育種学研究.vol.1(4), pp.243-248 (1999)
調査した分野 C12N 15/00
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
リヌクレオチドであって、配列表の配列番号2の1位のMetから689位のValまでのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含み、該ポリヌクレオチドを含む遺伝子を植物において欠失させることにより、草丈が短くなる表現型、根長が短くなる表現型、葉身が狭くなる表現型、茎数が減少する表現型、および種子数が減少する表現型からなる群より選択される少なくとも1つの表現型を生じる、ポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリヌクレオチドによってコードされる、アミノ酸配列を含む、タンパク質。
【請求項3】
制御配列、および該制御配列に作動可能に連結された請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のポリヌクレオチドによりコードされる遺伝子のアンチセンス配列を含む、ベクター。
【請求項5】
植物を改変する方法であって、
請求項4に記載のベクターを植物組織に導入し、形質転換体を得る工程;
該形質転換体を再生し、植物体を得る工程;および
該植物体を所望の形質について選抜する工程、
を包含する、方法。
【請求項6】
前記所望の形質が、小粒性、短稈、および濃緑葉からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項4に記載のベクターで形質転換された、植物体。
【請求項8】
リヌクレオチドであって、配列表の配列番号2の1位のMetから689位のValまでのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの相補体、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの相補体を含み、該ポリヌクレオチドを植物に導入することにより、草丈が短くなる表現型、根長が短くなる表現型、葉身が狭くなる表現型、茎数が減少する表現型、および種子数が減少する表現型からなる群より選択される少なくとも1つの表現型を生じる、ポリヌクレオチド。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は植物の新規遺伝子に関する。より詳細には、本発明は、植物の形態を制御する遺伝子に関する。本発明はまた、この遺伝子を用いた植物改変方法、およびこの方法により得られた植物体に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまでにイネから多くの遺伝子が単離され、その塩基配列が決定されている。しかし、イネDNAに含まれる多くの遺伝子は、未だにその機能が解明されておらず有効利用されていない。植物の有用遺伝子の単離および同定、ならびにその効率的な単離法の開発が求められている。
【0003】
トランスポゾンは、動物、酵母、細菌および植物のゲノムに遍在することが知られる変異誘発遺伝子である。トランスポゾンは、その転移(transposition)機構により2つのクラスに分類されている。クラスIIに属するトランスポゾンは、複製することなくDNAの形態で転移する。クラスIIに属するトランスポゾンとして、トウモロコシ(Zea mays)のAc/Ds、Spm/dSpmおよびMu要素(Fedoroff、1989、Cell 56、181-191;Fedoroffら、1983、Cell 35、235-242;Schiefelbeinら、1985、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82、4783-4787)、キンギョソウ(Antirrhinum majus)のTam要素(Bonasら、1984、EMBOJ、3、1015-1019)が知られている。クラスIIに属するトランスポゾンは、トランスポゾン・タッギングを利用する遺伝子単離に広く利用されている。この技術は、トランスポゾンがゲノム上で転移して、ある遺伝子中に挿入されると遺伝子の生理学的および形態学的変異が起こり、遺伝子が制御する表現型が変化することを利用する。この変化を検出することにより影響を受けた遺伝子を単離する(Bancroftら、1993、The Plant Cell、5、631-638;Colasantiら、1998、Cell、93、593-603;Grayら、1997、Cell、89、25-31;Keddieら、1998、The Plant Cell、10、877-887;Whithamら、1994、Cell、78、1101-1115)。
【0004】
クラスIに属するトランスポゾンは、レトロトランスポゾンとも呼ばれ、複製し、そしてRNA中間体を介して転移する。クラスIトランスポゾンは、最初、ショウジョウバエおよび酵母で同定され、そして特徴付けられたが、最近の研究により植物ゲノム中に遍在し、そのかなりの部分を占めていることが明らかにされている(Bennetzen、1996、Trends Microbiolo.、4、347-353;Voytas、1996、Science、274、737-738)。レトロトランスポゾンの大部分は、非移動性の組み込みユニットであるようである。最近の研究は、これらのいくつかが、創傷、病原体の攻撃および細胞培養などのストレス条件下で活性化されることを示している(Grandbastien、1998、Trends in Plant Science、3、181-187;Wessler、1996、Curr.Biol.6、959-961;Wesslerら、1995、Curr.Opin.Genet.Devel.5、814-821。例えば、タバコではTnt1AおよびTto1(Pouteauら、1994、Plant J.、5、535-542;Takedaら、1988、Plant Mol. Biol.、36、365-376)、およびイネではTos17(Hirochikaら、1996、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93、7783-7788)について、ストレス条件下における活性化が報告されている。
【0005】
イネのレトロトランスポゾンTos17は、最も良く研究されている植物中のクラスI要素である。Tos17は、Ty1-copia群レトロ要素の間の逆転写酵素ドメインの保存アミノ酸配列を基に作成された縮重プライマーを用いたRT-PCR法によりクローン化された(Hirochikaら、1992、Mol. Gen. Genet.、233、209-216)。Tos17は、4.3kbの長さの、2つの同じ138bpのLTR(長鎖末端反復)および開始メチオニンtRNAの3’末端に相補的なPBS(プライマー結合部位)を持つ(Hirochikaら、1996、上述)。Tos17転写は、組織培養により強く活性化され、そして培養時間とともにそのコピー数を増加する。ゲノム研究のモデルジャポニカ品種である日本晴では、Tos17の当初のコピー数は2であるが、組織培養後、再生した植物では、5~30コピーに増加している(Hirochikaら、1996、上述)。酵母およびショウジョウバエで特徴付けられたクラスIIトランスポゾンとは異なり、Tos17は、染色体中をランダムな様式で転移し、そして安定な変異を引き起こし、そしてそれ故、イネにおける遺伝子の機能解析の逆遺伝学(Reverse Genetics)における強力なツールを提供する(Hirochika、1997、Plant Mol.Biol.35,231-240;1999、Molecular Biology of Rice(K.Shimamoto編集、Springer-Verlag、43-58)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Tos17を用いて提供される新規植物遺伝子を提供する。本願発明者らは、イネにおいて新たに転移したTos17コピーを持つ植物の表現型およびTos17標的部位の隣接配列の系統的な分析を重ねた結果、Tos17挿入により、短根、細葉、小粒性などの特徴を示すイネ変異体を発見し、さらにこの変異の原因遺伝子を単離し、本発明を完成するに至った。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、植物の形態を制御する遺伝子をコードするポリヌクレオチドに関し、このポリヌクレオチドは、配列表の配列番号2の1位のMetから689位のValまでのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0008】
本発明は、1つの局面で、上記のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。
【0009】
本発明は、1つの局面で、制御配列、および該制御配列に作動可能に連結された上記のポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0010】
本発明は、1つの局面で、上記のポリヌクレオチドによりコードされる遺伝子のアンチセンス配列を含むベクターに関する。
【0011】
本発明は、1つの局面で、植物を改変する方法に関し、この方法は、上記のベクターを植物組織に導入し、形質転換体を得る工程;この形質転換体を再生し、植物体を得る工程;および上記植物体を所望の形質について選抜する工程を包含する。
【0012】
上記所望の形質は、小粒性、短稈、および濃緑葉からなる群から選択され得る。
【0013】
本発明は、1つの局面で、上記のベクターで形質転換された植物体に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、植物の形態を制御する植物遺伝子をコードするポリヌクレオチドが提供される。本願明細書で用いる用語「植物の形態を制御する」とは、植物において草丈、根長、茎数、葉および種子の形態、ならびに種子収量などを変化させ、植物の品種改良に利用可能な有用農業形質を作出することをいう。用語「植物」は、単子葉植物、双子葉植物を包含する。
【0015】
本発明の植物の形態を制御する植物遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、代表的には配列表の配列番号2の1位のMetから689位のValまでのアミノ酸をコードするポリヌクレオチド、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである。
【0016】
本発明の植物の形状を制御する植物遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、植物の形状を制御する限り、配列表の配列番号2の1位のMetから689位のValまでのアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性、好ましくは少なくとも85%の配列同一性、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%の配列同一性最も好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを包含する。用語「配列の同一性」は、対比される2つのポリヌクレオチドが同一であることを意味し、対比される2つのポリヌクレオチド配列間の配列同一性の割合(%)は、対比される2つのポリヌクレオチド配列を最適に整列させた後、同一の核酸塩基(例えば、A、T、C、G、またはI)が両方の配列で生じて適合した位置の数を得て適合位置数とし、適合した位置の数を比較ポリヌクレオチド総数で除し、そしてこの結果に100を乗じて計算される。配列同一性は、例えば、以下の配列分析用ツールを用いて算出し得る:UnixベースのGCG Wisconsin Package(Program Manual for the Wisconsin Package、Version8、1994年9月、Genetics Computer Group、575 Science Drive Madison、Wisconsin、USA53711;Rice、P.(1996)Program Manual for EGCG Package、Peter Rice、The Sanger Centre、Hinxton Hall、Cambridge、CB10 1RQ、England)およびthe ExPASy World Wide Web分子生物学用サーバー(GenevaUniversity Hospital and University of Geneva、Geneva、Switzerland)。
【0017】
本願明細書で用いる用語「制御配列」とは、機能的プロモーターおよび、任意の関連する転写要素(例えば、エンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有するDNA配列をいう。
【0018】
本願明細書で用いる用語「作動可能に連結」とは 、遺伝子が発現し得るように、ポリヌクレオチドがその発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントと宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。
【0019】
制御配列のタイプおよび種類が宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。例えば、CaMV35Sプロモーター、ノパリンシンターゼプロモーターなどが当業者に周知である。植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の方法が用いられる。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法が周知である。アグロバクテリウムを介する方法は、例えば、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.、67、325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、ついで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlant Molecular Biology Manual(S.B.Gelvin et al.、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞または植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養により得られるカルスを含む。遺伝子を直接植物細胞または植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。
【0020】
遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずハイグロマイシン耐性等の薬剤耐性で選択され、次いで定法により植物体に再生される。
【0021】
本明細書中、以下で使用される名称、および以下で記載される実験室手順は、当該分野で周知で一般的に用いられる手順を使用する。標準的な技術は、組換え法、ポリヌクレオチド合成、ならびに微生物培養および形質転換(例えば、エレクトロポレーション)について使用される。この技術および手順は、一般的に、当該分野、およびこの書類を通じて提供される種々の一般的な参考文献(一般的には、Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.を参照。これらは、本明細書中で参考として援用される
【0022】
【実施例】
以下、本願発明を実施例を挙げて説明する。以下の実施例は、本発明を例示するものであって、本発明を限定するものではない。
【0023】
(実施例1:培養によるTos17の活性化)
イネ品種「あきたこまち」の完熟種子を供試し、カルス培養および細胞懸濁培養を行った。Tos17の活性化はTsugawaおよびSuzuki(2000、Plant Cell Reports 19、371-375)の方法に従って行った。要約すれば、イネの完熟種子を1mg/mlの2,4-D(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)を添加したMS培地(MurashigeおよびSkoog、1962、Physiol.Plant.、15、473-479)上で25℃、1週間の培養を行った後に、KSP培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)で3週間の培養を行い、カルス誘導を行った。得られたカルスを1mg/lの2,4-Dを添加したKSP液体培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)で約3ヶ月間の懸濁培養を行った。さらにPR培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)に移し、約1週間前培養を行った後、再分化R培地(TsugawaおよびSuzuki、前述)に移し、再分化イネ(R世代植物)を得た。
【0024】
(実施例2:小粒突然変異体の選抜とその特性)
約380個体の再分化イネを自殖させ第1世代(R)植物を得て、さらにこれを自殖させて得られた約380系統の第2世代(R)を供試材料とし、胚乳形成に関する突然変異体系統を選抜した。突然変異体系統の1つsg1(small grain 1)と命名した系統の玄米は、図1の(A)に示すように野生型玄米(図1の(B))と比較して小粒であった。
【0025】
このsg1系統を、1%寒天培地(梁および一井、1996、日作記、65、473-478)で栽培し、植物の生育特性および形態的特徴を調査した。図2の(A)に示すように、幼苗期には、このsg1系統は、野生型(図2の(B))と比較して、草丈はほぼ同じであったが、種子根長および冠根長はいずれも野生型に比べて短かった。また図3に示すように、側根長もまた、野生型に比べて短かった(図3の(A):sg1系統、および図3の(B):野生型)。
【0026】
次に、圃場に移植して栽培し、生育特性、形態的特徴および成熟後の玄米の形質を経時的に調査した。図4にsg1系統の草丈、図5に分げつ数(茎数)、図6に根長を、図7に葉身を、図8に農業形質をそれぞれ野生型と比較して示す。各図において、AおよびBは、それぞれsg1系統および野生型の結果を示す。
【0027】
図4に示すように、sg1変異系統(A)と野生型(B)の草丈の差(それぞれ10株の平均)は、移植後日数を経るにつれて若干増大し、草丈が最大に達した時点(移植後約80日)では、sg1変異系統の草丈は、約10%程度野生型に比べて短かった。
【0028】
図5に示すように、分げつ数は、全調査期間を通じて、sg1変異系統(A)は、野生型(B)に比べ10~20%程度少なかった(それぞれ10株の平均)。図6および図7は、圃場に移植後30日のsg1変異系統(A)および野生型(B)の植物体を示す。図6に見られるように、sg1変異系統(A)は、野生型(B)に比べ根長は短かった。また、図7に見られるように、sg1変異系統(A)は、野生型(B)に比べ、展開した葉身はやや内側に巻いており、そして葉身幅はやや狭かった。
【0029】
図8に示すように、成熟期の農業形質の調査では、sg1変異系統の穂長は、野生型とほぼ同じであったが、1穂当たりの着粒数は野生型に比べ少なく、稔実歩合はやや低く、玄米千粒重量は約15%少なく、そして株あたりの収量は約50%少なかった。なお、図8に示す農業形質の特性値は、常法にしたがって、それぞれ10株について測定した値の平均値である。
【0030】
(実施例3、SG1遺伝子の完全長cDNAの単離およびmRNAの発現)
sg1変異の原因遺伝子を同定単離するために、sg1変異が分離するヘテロ集団から、sg1変異を示す個体と、正常個体を識別し、それぞれの葉身から、CTAB法(MurrayおよびThompson、1980、NucleicAcids Res.8、4321-4325)により核DNAを抽出した。抽出したDNAを制限酵素XbaIで切断し、Tos17をプローブとしたゲノミックサザン分析(Southern、1975、J.Mol.Biol.、98、503)を行った。このゲノミックサザン分析によって目的遺伝子の存在を同定し、この遺伝子を含むDNA断片をテンプレートDNAとして、TAIL-PCRによりTos17挿入部位に隣接するDNA塩基配列を決定した。
【0031】
簡単に述べれば、sg1変異を示す個体と正常個体から得られたDNAを、それぞれ制限酵素XbaIで切断し、アガロース電気泳動後、ナイロンメンブレンに吸着させた。Tos17部分配列(XbaI-BamHI断片約1000bp)をプローブとして用い、サザンハイブリダイゼーションを行った。その結果、sg1変異を示す個体では、新規挿入Tos17のバンド(約6800bp)がホモとして観察されたが、正常個体ではホモとして観察されず、そして挿入Tos17のバンドがsg1変異表現型と完全に連鎖していたことがわかった。これらの結果より、標準のTos17プローブとハイブリダイズするバンドで示されるDNAがsg1変異を引き起こす原因遺伝子を含み、このバンドで表されるゲノム領域にTos17が挿入し、遺伝子型がホモになる際にsg1変異体が生じると結論された。そこで、このDNAを鋳型としてTAIL-PCR(Liu Y-G.ら、1995、Genomics、25、674-681、Liu Y-G.ら、1995、Plant J.、8、457-463)によりTos17に隣接する配列、つまりsg1変異の原因遺伝子の一部の単離を行った。
【0032】
まず、新たなTos17標的部位を持つ再生植物からの総DNAを抽出し、制限酵素XbaIで切断した後、電気泳動を行い、Tos17標的部位の核DNA断片を切り出して、これを鋳型として、以下に示す3セットのプライマーを用いる3回のTAIL-PCRにより増幅反応を行った。第1回:Tos17に特異的なプライマーT1、AGTCGCTGATTTCTTCACCAAGGおよび任意プライマーA1、NGTCGA(G/C)(A/T)GANA(A/T)GAA。第2回目:Tos17に特異的なプライマーT2、GAGAGCATCATCGGTTACATCTTCTCおよび任意プライマーA1。第3回:Tos17に特異的なプライマーT3、ATCCACCTTGAGTTTGAGGGおよびA1。次に3回目のTAIL-PCR産物をアガロースで電気泳動を行い、目的のDNA断片を精製した。市販のDyeCycle法を用いたラベリングキット(PE Biosystems社)を用いて、このDNAをテンプレートとしたシークエンシング反応液を調製し、PCR(96℃、3分、1サイクル;96℃、30秒、50℃、15秒、60℃、4分、25サイクル)を行い,373S DNA Sequencer(PE Biosystems社)でTos17に隣接する目的遺伝子のDNA配列を決定した。
【0033】
得られた塩基配列をもとに目的遺伝子に特異的なプライマーSP1、TTGGACATTGCCGGATTGCCTATおよびSP2、ACAAGGGAAACTGGAGTTGCTGAを設計し、常法にしたがって、PCR法によって目的遺伝子の断片を増幅した。得られた断片(284bp)をプローブとして用い、イネ種子カルスで発現するmRNAから作製したcDNAライブラリー(λZAPIIXhoI-EcoRIにクローニングしたライブラリー)を3回スクリーニングし、目的遺伝子のcDNAをプラスミドpBluescript SK(-)のマルチクローニング部位中(XhoI-EcoRI)にクローニングした(図9)。そしてクローニングしたcDNAの全塩基配列を常法に従い決定し、このcDNAから推定されるアミノ酸配列をコードする遺伝子をSG1と命名した。このcDNAクローンインサートは、全長2576塩基で、2070塩基(689アミノ酸残基に相当)を有するアミノ酸翻訳領域をコードしていた(図10)。
【0034】
このイネcDNAをプローブとして用い、野生型の核DNA抽出物についてサザン分析を行ったところ、SG1遺伝子はイネ核ゲノムに1コピーのみ存在し、また日本データバンク(DDBJ)に登録されている全遺伝子を対象とした相同性検索を実施した結果、このcDNA塩基配列と相同性を有する遺伝子は見出されなかった。従って、SG1遺伝子は、新規遺伝子であると結論付けられた。
【0035】
sg1系統と野生型の植物体における、SG1遺伝子のmRNAの発現をノーザン分析で調べたところ、野生型では、特に根におけるの発現量が多く、そして種子カルス、根、葉および幼穂においてその発現が確認された(図11:Aはsg1系統およびBは野生型のノーザン分析の結果を示すレーンである)。その一方、sg1系統のカルスおよび葉ではその発現はわずかながら検出された。なお、成熟玄米については、いずれもSG1遺伝子のmRNAは検出されなかった(データは示さず)。
(実施例4:SG1遺伝子を導入した形質転換植物の発現)
クローニングしたSG1遺伝子の機能を確認するために、SG1遺伝子、およびSG1遺伝子アンチセンス配列をバイナリーベクターpPZP202に導入し、形質転換ベクターを構築した(図12)。SG1遺伝子としては、配列番号1の1~2576のヌクレオチド配列にプラスミドpBluescript SK(-)のマルチクローニング部位の一部を含んだ2645bpのヌクレオチド配列を、SG1遺伝子アンチセンス配列としては、配列番号1の1~2576のヌクレオチド配列にプラスミドpBluescript SK(-)のマルチクローニング部位部を含んだ2605bpのヌクレオチド配列を、バイナリーベクターpPZP202の中のKpnI-SacI部位、およびBamHI-KpnI部位にそれぞれ挿入した。各遺伝子は、プロモーターCaMV35Sとフレームが合うように挿入した。なお、図12の(A)中、HPTsetは、ハイグロマイシン耐性遺伝子を、35Sは、CaMV35Sプロモーターを、そしてNOSは、NOSターミネーターをそれぞれ表す。
【0036】
得られた形質転換ベクターを用いて、エレクトロポーレーションにより、50mg/lのカナマイシンおよびハイグロマイシンの選択下でAgrobacterium tumefaciens EHA101株を形質転換した。得られたアグロバクテリウム株は、使用するまで凍結保存した。
【0037】
野生型の種子から穎を除き玄米とし、これを70%エタノールで3分間殺菌し、殺菌蒸留水3回洗浄した後、さらに50%の次亜塩酸ナトリウム溶液で30分間殺菌し、そして殺菌蒸留水で5回洗浄した。この玄米を、30g/lシュクロース、0.3g/lカザミノ酸、2.8g/lのプロリン、2.0mg/lの2,4-Dを添加し、4.0g/lのゲルライトで固化させたN6培地(Chuら、1975、Sci.Sinica、18、659-668)を含むカルス誘導培地上に置いた。なお、培地pHはオートクレーブ前にpH5.8に調整した。玄米は、28℃で4週間明所で生育させ、約5mmの大きさのカルスを得た。このカルスをアグロバクテリウム感染に用いた。
【0038】
グリセロール中で凍結保存した上記のアグロバクテリウムを、20mg/lのカナマシイン、50mg/lのハイグロマイシン、100mg/lスペクノマイシンを含みpH7.2に調整し、15g/lの寒天で固化したAB培地(Chiltonら、1974、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、71、3672-3676)上で暗所で28℃3日間の培養を行った。アグロバクテリウム菌体を集め、10mg/lのアセトンシリンゴン(Hieiら、1994、Plant J.、6、271-282)を含む液体AAM培地(Hieiら、1994)に懸濁した。得られた懸濁液の中に上記のカルスを2分間浸漬した後、殺菌したペーパータオルで余分の水分を除き、これを10mg/lアセトンシリンゴンを含む上記のカルス誘導培地に置き、暗所で28℃、3日間の共存培養を行い、アグロバクテリウムを感染させた。得られた感染カルスを殺菌蒸留水で10回洗浄し、最後に500mg/lのカルベニシリンを含む殺菌蒸留水で1回洗浄した後、殺菌したペーパータオルで余分の水分を除いた。このカルスを10mg/lアセトンシリンゴン、50mg/lハイグロマイシン、300mg/lカルベニシリンを含む上記のカルス誘導培地で28℃、2週間の培養を行い、さらに50mg/lハイグロマイシン、100mg/lカルベニシリンを含むカルス誘導培地で4週間の培養を行った。ハイグロマイシン耐性カルスを選択し、30g/lのシュクロース、30g/lのソルビトール、2g/lのカザミノ酸、2.2mg/lのカイネチン、1.0mg/lのNAA、100mg/lのカルベニシリン、50mg/lのハイグロマイシンおよび4g/lのゲルライトを含むpH5.8のMS基礎培地(MurashigeおよびSkoog、1962、Physiol.Plant.、15、473-497)を含む再生培地に移した。
【0039】
形質転換体は、ハイグロマイシンを含む再生培地で容易に再生し、土壌に移して栽培した。
【0040】
野生型のイネにSG1遺伝子アンチセンス配列を導入した結果、得られた再分化当代(T)の形質転換イネの生育は、非形質転換イネと同等であったが、Tを自殖させて得られた種子(玄米)(T)には、野生型に比べ小粒性を呈するものが認められた(図13の(A):図13(B)は対照の野生型の種子である)。
【0041】
この玄米(T)を発芽させ、ハイグロマイシン添加培地で生育させたところ、耐性を有する個体および耐性を有さない個体に分離した。ハイグロマイシン耐性を有する個体(形質転換体)を養成し、形質転換植物の形態的特性を調べた。その結果、様々な草丈を有する個体が観察された、この中にはsg1突然変異体と同じ特徴的形質を示す個体があった。
【0042】
野生型と異なる表現型を示す形質転換イネ(T)の葉身から、上記と同様に、ゲノムDNAを抽出し、SG1遺伝子断片をプローブとして用いサザン分析を行ったところ、導入されたSG1遺伝子アンチセンス配列のコピー数は、個体により異なり、調査した3個体(S-1、S-2、S-3)では1~3個であることが判明した(図14:SG1遺伝子のcDNA内部に制限酵素部位の無い、4種類の制限酵素で処理したサザン分析の結果である。野生型(B)の1~4レーンはいずれもバンドは1本であり、SG1遺伝子のコピー数は1である。形質転換イネS-1株ではバンドの数は4、S-2株は2、S-3株は3であったので、新たに導入したSG1遺伝子アンチセンス配列の数はそれぞれ3、1および2である。)。また、形質転換イネ(R)の葉身から全RNAを抽出し、SG1遺伝子断片をプローブとして用いノーザン分析を行ったところ、導入したSG1遺伝子アンチセンス配列のmRNAが多量に発現していた(図15のA形質転換イネ、そして図15のBは対照である非形質転換イネのノーザン分析である)。
【0043】
以上のように、SG1遺伝子アンチセンス配列の導入により、植物形質転換体は、草丈を含む、種々の形質を変化させることが判明した。従って、SG1遺伝子は植物の形態形成を含む種々の形質に大きな影響を与えることが確認された。本発明により提供される形質転換植物は、新しい品種開発の材料として利用可能である。
【0044】
【発明の効果】
植物の根および幼穂で高発現する新規遺伝子が提供される。この遺伝子を利用することにより、種々の形態をもつ植物が提供される。
【0045】
【配列表】
JP0003605633B2_000002t.gifJP0003605633B2_000003t.gifJP0003605633B2_000004t.gifJP0003605633B2_000005t.gifJP0003605633B2_000006t.gifJP0003605633B2_000007t.gifJP0003605633B2_000008t.gifJP0003605633B2_000009t.gifJP0003605633B2_000010t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の玄米の写真である。(A)はsg1の玄米、そして(B)は野生型の玄米である。
【図2】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の幼植物の写真である。(A)はsg1の幼植物、そして(B)は野生型の幼植物である。
【図3】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の幼植物の側根を示す写真である。(A)はsg1の幼植物、そして(B)は野生型の幼植物である。
【図4】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の草丈の経日変化を示す図である。(A)はsg1系統、そして(B)は野生型の草丈を示す。
【図5】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の茎数の経日変化を示す図である。(A)はsg1系統、そして(B)は野生型の茎数を示す。
【図6】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の圃場移植後30日目の植物体の写真である。(A)はsg1系統、そして(B)は野生型である。
【図7】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の圃場移植直後の植物体の写真である。(A)はsg1系統、そして(B)は野生型である。
【図8】あきたこまちの野生型およびその胚乳形成突然変異体sg1の成熟期の農業形質の比較を示す図である。(A)はsg1系統、そして(B)は野生型である。
【図9】SG1遺伝子のプラスミドpBluescript SK(-)中にクローニングされたcDNA断片の概略を示す図である。
【図10】SG1遺伝子の塩基配列および推定されるアミノ酸配列を示す図である。
【図11】sg1系統と野生型植物体の各器官におけるmRNAの発現を示す図である。(A)はsg1系統、そして(B)は野生型である。
【図12】SG1遺伝子(センス)およびアンチセンスSG1遺伝子を含む形質転換ベクターの一部を示す図である。(A)は、センスSG1遺伝子を、(B)は、アンチセンスSG1遺伝子をそれぞれ含む形質転換ベクターの一部を示す図である。
【図13】アンチセンスSG1遺伝子を導入した形質転換イネの玄米(A)と非形質転換イネの玄米(B)の写真である。
【図14】アンチセンスSG1遺伝子を導入した形質転換イネ(S-1、S-2、S-3)と非形質転換イネ(B)におけるSG1遺伝子のコピー数の比較を示す図である。
【図15】アンチセンスSG1遺伝子を導入した形質転換イネと非形質転換イネ(B)にの葉身におけるmRNAの発現の比較を示す図である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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