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明細書 :糸状菌及び細菌に対する溶菌活性を有するイネキチナーゼ相補DNAを含む形質転換体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3376453号 (P3376453)
公開番号 特開平11-299488 (P1999-299488A)
登録日 平成14年12月6日(2002.12.6)
発行日 平成15年2月10日(2003.2.10)
公開日 平成11年11月2日(1999.11.2)
発明の名称または考案の名称 糸状菌及び細菌に対する溶菌活性を有するイネキチナーゼ相補DNAを含む形質転換体
国際特許分類 C12N 15/09      
C12N 11/19      
C12N 19/42      
C12N  1/19      
C12R  1:84      
C12N  9/42      
FI C12N 1/19
C12N 9/42
C12R 1:84
C12N 15/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 9
出願番号 特願平10-123905 (P1998-123905)
出願日 平成10年4月20日(1998.4.20)
審査請求日 平成11年7月28日(1999.7.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人 食品総合研究所
【識別番号】000195568
【氏名又は名称】生物系特定産業技術研究推進機構
発明者または考案者 【氏名】伊藤 義文
【氏名】スン ムーン パーク
【氏名】チォン ナム ハイ
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎 (外1名)
審査官 【審査官】本間 夏子
参考文献・文献 DNA Res.(1997)Vol.4,No.6,p.379-385
調査した分野 C12N 15/00 - 15/90
C12N 9/42
C12N 1/19
特許請求の範囲 【請求項1】
配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするイネキチナーゼ相補DNAを含むプラスミドベクターを有する形質転換体であるピキア・パストリス
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、糸状菌及び細菌に対する溶菌活性を有するイネキチナーゼの相補DNA含む形質転換体であるピキア・パストリスに関する。

【02】
キチナーゼは、昆虫及び甲殻類の外皮や糸状菌の細胞壁の構成成分であるキチンを加水分解する酵素であり、微生物や植物に広く存在する。植物には、クラスI~Vの5種類のキチナーゼが存在するが、このうち、クラスI、II、IV及びVのキチナーゼには、糸状菌の細胞壁を分解する能力はあるが、細菌の細胞壁を分解する能力はない。一方、クラスIII のキチナーゼは、細菌の細胞壁を分解する能力はあるが、糸状菌の細胞壁を分解する能力はない。本発明は、糸状菌、細菌のいずれに対しても溶菌活性をもつ新規なイネキチナーゼの相補DNA利用に関する。

【03】

【従来の技術】植物病原性微生物の感染による収穫量の減少は、農業に甚大な損失を与える。このような微生物による感染予防や感染の拡大阻止手段として、殺菌剤の散布が行われている。しかしながら、近年、これらの殺菌剤の環境や人体への影響に対する懸念から、化学物質に頼らない病原菌感染防除技術の開発が求められている。

【04】
植物には、病原性微生物の侵入を阻止するための特有の感染防除機構が存在する。具体的には、植物が、病原性微生物が感染したことを感知すると、ファイトアレキシンと呼ばれる化合物や病原性関連蛋白質(PR蛋白質)などの抗菌性蛋白質を生産し、感染から植物体を防御している。PR蛋白質の中でも、微生物に対する作用機構が最も明確なものとして、昆虫及び甲殻類の外皮や糸状菌の細胞壁の構成成分であるキチンを加水分解するキチナーゼが挙げられる。

【05】
前述の如く、植物のキチナーゼには、クラスI~Vの5種類が存在するが、このうち、クラスI、II、IV及びVのキチナーゼには、糸状菌の増殖を阻害する抗カビ活性がある。これらのキチナーゼは、特に細胞壁の合成が活発な菌糸の成長点に作用する。その結果、増殖中の細胞が崩壊し、菌糸の伸長が阻害される。中でも、キチン結合領域をもつクラスIとIVの酵素の抗カビ活性は特に高く、病原性糸状菌に対する抵抗性作物を開発するための導入遺伝子として注目されている。

【06】
このような背景から、植物にキチナーゼの相補DNAを導入して、病原性糸状菌に耐性な作物を開発する研究が行われている。しかしながら、該導入遺伝子にコードされるキチナーゼは、糸状菌の細胞壁を分解することはできても、細菌の細胞壁を分解するリゾチーム活性はない。このため、該遺伝子でコードされるキチナーゼを作物に導入しても、病原性細菌に対する耐性までは付与することができず、抵抗性作物としての特性としては不十分であった。

【07】
一方、古くから、植物にリゾチーム活性を有する酵素が存在することが知られている。また、ゴムの木の乳液に存在するヘバミンや幾つかのクラスIII キチナーゼは、細菌の細胞壁を溶解するリゾチーム活性を有していることも知られている。しかしながら、ヘバミンについては、その相補DNAや遺伝子に関する報告はなく、また、リゾチーム活性を有するキチナーゼの相補DNAについても知られていなかった。

【08】
抗カビ活性及びリゾチーム活性の両方を併せ持つキチナーゼの相補DNAは、これまでに発見されていなかった。勿論、相補DNAから蛋白質を発現させ、抗カビ活性とリゾチーム活性とを持つキチナーゼをコードしていることも、実証されていなかった。

【09】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、糸状菌と細菌の両方の細胞壁を溶解する新規なキチナーゼをコードする相補DNAを特定し、該配列を植物に導入することによって、広範な病原性微生物に対して抵抗性を獲得した組換え作物が開発できる可能性を実現することを目的とするものである。

【10】

【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を続けた結果、糸状菌と細菌の両方に対する溶菌活性を持つキチナーゼをコードする相補DNAを、イネから以下のようにして単離することに成功した。

【11】
すなわち、本発明者らは、イネゲノムプロジェクトが単離したS4960クローンに含まれる相補DNAの全塩基配列を決定し、該クローンが、305アミノ酸残基からなる分子量32,260ダルトンの蛋白質をコードする1,109bpの相補DNAを含むことを明らかにした。該蛋白質のアミノ酸配列は、ゴムの木の乳液に含まれるクラスIII のキチナーゼであるヘバミンの配列と68%の相同性があることから、キチナーゼである可能性が高いと判断した。

【12】
続いて、該蛋白質の発現系を構築するために、数種類の微生物を宿主に用いて、該蛋白質の発現系を構築するための研究を行った。その結果、酵母の一種であるピキア・パストリス(Pichia pastoris) を宿主とした場合に、該蛋白質を効率的に分泌生産できることを見出した。さらに、ピキア・パストリスで生産した該蛋白質を精製し、精製蛋白質がグリコールキチンやキトオリゴ糖を分解するキチナーゼであることを実証した。さらに、精製キチナーゼが、糸状菌であるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)に対し抗カビ活性を示すと同時に、細菌であるミクロコッカス・リソデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)の菌体を溶解するリゾチーム活性をも示すことを実証した。このようにして、本発明を完成するに至った。

【13】
請求項1記載の本発明は、配列表の配列番号1記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするイネキチナーゼ相補DNAを含むプラスミドベクターを有する形質転換体であるピキア・パストリスである。

【14】

【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の形質転換体に含まれるイネキチナーゼ相補DNAは、イネ由来のDNA配列の一部である。本発明者らは、抗カビ活性とリゾチーム活性を持つ植物クラスIII キチナーゼをコードする全長の相補DNAを取得する目的で、イネゲノムプロジェクト(RGP;Rice Genome Project, Japan)がイネ相補DNAのライブラリーを構築して多数の相補DNAの部分配列を登録しているDNAデータベースに対し、タバコのクラスIII キチナーゼの相補DNAの配列(Lawton, K., Ward, E., Payne,G., Moyer, M. and Ryals, J., Plant Mol. Biol., 19: 735-743, 1992)を用いてBlast ホモロジー検索(Altschul, S.F., Madden, T.L., Schaffer, A.A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W., and Lipman, D.J., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997)を行った。その結果、S4960クローンの部分配列(405bp)が、タバコのクラスIII キチナーゼの相補DNAと59%の相同性を持つことを見出した。

【15】
次いで、このS4960クローンに含まれる相補DNAの全塩基配列を決定した。塩基配列の決定は、通常用いられる手段により達成することができる。例えば、該相補DNAをファルマシア社製のFlex-prepプラスミド精製キットで調製して得られるプラスミドDNAを鋳型とし、パーキンエルマー社製のダイプライマーサイクルシーケンシングキットを使用してシーケンス反応を行う。さらに、DNAシーケンサー(モデルABI377;パーキンエルマー社製)を用いて塩基配列を決定することができる。

【16】
ここで、鋳型として用いるプラスミドDNAの調製は、アルカリ-SDS法(Sambrook. J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T., Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989)によっても可能である。

【17】
また、塩基配列の決定は、Sangerの方法 (Sanger, F., Nicklen, S. and Coulson, A. R., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 74: 5463-5467, 1977)や Maxam-Gilvertの方法 (Maxam, A. M. and Gilvert, W., Methods Enzymol., 65: 499-560,1980)等に従って行うこともできる。

【18】
その結果、S4960クローンは、1,109bpの相補DNAを含むことが明らかとなり、305アミノ酸残基からなる分子量32,260ダルトンの蛋白質をコードしていると推定された(配列表の配列番号1参照)。この1,109bpの相補DNAが、本発明の形質転換体に含まれるイネキチナーゼ相補DNAである。

【19】
このイネキチナーゼ相補DNAがキチナーゼをコードするものであることは、該DNA配列から予想される蛋白質のアミノ酸配列についてのホモロジー検索の結果、ゴムの木のキチナーゼであるヘバミン(Jekel, P. A., Hartmann, B. H.,and Beintema, J. J., Eur. J. Biochem., 200: 123-130, 1991)と68%の相同性を有することから明らかである。

【20】
このようにして、全塩基配列が明らかとなった1,109bpの相補DNAを含むプラスミドを、大腸菌DH5α(Bethesda Research Laborotories製)に形質転換した。形質転換は、例えばInoue らの方法(Inoue, H., Nojima, H. and Okayama,H., Gene, 96:23-28, 1990)、塩化カルシウム法(Cohen, S. N., Chang, A. C.Y. and Hsu, L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69: 2110-2114, 1972) 、エレクトポレーション法 (三浦 謹一郎ら編、新基礎生化学実験法、遺伝子工学、1988、丸善株式会社)等の通常用いられる方法で行うことができる。形質転換した大腸菌は、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されており、その受託番号はFERM BP-6286である。

【21】
なお、上述の方法は一例にすぎず、その他の方法、例えばS4960の相補DNAをプローブとして、イネの相補DNAライブラリーからコロニーまたはプラークハイブリダイゼーション法(Sambrook. J., Fritsch, E. F. and Maniatis,T., Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989)によっても同一の配列をもつ相補DNAを得ることもできる。

【22】
この相補DNAを用いて、以下の操作によりコードされるキチナーゼを生産し、抗カビ活性と細胞壁溶解活性を実証した。まず、該酵素のアミノ酸配列(配列表の配列番号1参照)の30~305番目の成熟酵素領域を、オリゴE-1(配列表の配列番号2参照)とオリゴE-2(配列表の配列番号3参照)の2つの合成オリゴヌクレオチド(北海道システムサービス社製)をプライマーとして、該クローンプラスミドから、KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を使用したPCR法(Methods in Molecular Biology, 15巻、1993)で増幅した。増幅されたDNA断片をベクタープラスミドpET-22b(+)(Novagen社製) に連結してプラスミドpOIS5を得た。

【23】
さらに、オリゴP-1(配列表の配列番号4参照:北海道システムサービス社製)とオリゴP-2(配列表の配列番号5参照:北海道システムサービス社製)とをプライマーに、プラスミドpOIS5 DNAを鋳型として、PCR反応(KOD DNAポリメラーゼを使用)を行い、増幅されたDNA断片を、プラスミドベクターpPIC9(Invitrogen社製)にクローン化することによって、組換えプラスミドpOIS9を作成した。エレクトロポレーション法を用いて、pOIS9をヒスチジン要求性のピキア・パストリス(Pichia pastoris) G115株(Invitrogen社製)に形質転換し、該相補DNAを染色体に持つ形質転換体ピキア・パストリス IIIa を得た。

【24】
この形質転換体であるピキア・パストリスを培養し、該酵母の生産する酵素のアミノ酸配列を特定すること、あるいはキチナーゼ活性を測定することによりイネキチナーゼ相補DNAの発現を確認することができる。

【25】
本発明の形質転換体に含まれるイネキチナーゼ相補DNAは、糸状菌のみならず細菌に対しても溶菌効果を示す新規な(植物クラスIII)キチナーゼをコードするものである。これまでに、細菌の細胞壁を溶解するリゾチーム活性を持つキチナーゼをコードする相補DNAについて報告はない。また、抗カビ活性とリゾチーム活性を併せ持つキチナーゼも本発明によって初めて見出されたものである。さらに、該活性のある植物キチナーゼを効率的に生産する微生物の発現系は、従来確立されていなかったものであり、本発明のイネキチナーゼ相補DNAを含む形質転換体であるピキア・パストリスは、広範な病原性微生物に対して抵抗性を獲得した組換え作物が開発できる可能性を示すものである。

【26】

【実施例】次に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
実施例1
(1)S4960の入手
イネゲノムプロジェクトのイネ相補DNAライブラリーにクラスIII キチナーゼをコードするクローンが含まれいる可能性について検討した。タバコのクラスIII キチナーゼの相補DNAの配列(Lawton, K., Ward, E.,Payne, G.,Moyer, M. and Ryals, J., Plant Mol. Biol., 19:735-743, 1992 )を用いて、DNAデータベースに登録されているDNA配列に対してBlast ホモロジー検索(Altschul, S. F., Madden, T. L., Schaffer, A. A., Zhang, J.,Zhang, Z., Miller, W., and Lipman, D. J., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997)し、有意な相同性が認められた配列の中に、イネゲノムプロジェクトが単離した二つのクローンが含まれているいることを見出した。

【27】
そこで、イネゲノムプロジェクトから、これらのクローンのうちの一つであるS4960を入手した。S4960の相補DNAの部分配列(405bp)は、タバコのクラスIII キチナーゼと59%の相同性を有していた。

【28】
(2)S4960に含まれる相補DNAの塩基配列の解明
ファルマシア社製のFlex-prepプラスミド精製キットを用いて該クローンDNAを精製して得られたプラスミドDNAを鋳型とし、パーキンエルマー社製のダイプライマーサイクルシーケンシングキットを使用してシーケンス反応を行なった。塩基配列は、DNAシーケンサー(モデルABI377;パーキンエルマー社製)で決定した。

【29】
その結果、当該クローンは1,109bpの相補DNAを含むことが明らかとなり、305アミノ酸残基からなる分子量32,260ダルトンの蛋白質をコードしていると推定された(配列表の配列番号1参照)。予想された蛋白質のアミノ酸配列で、Blast ホモロジー検索(Altschul, S. F., Madden, T. L., Schaffer, A. A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W., andLipman, D. J., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997)を行ったところ、ゴムの木のキチナーゼであるヘバミン(Jekel, P. A., Hartmann, B. H., and Beintema, J. J., Eur. J. Biochem., 200:123-130, 1991 )と68%の相同性があることが判明した。

【30】
(3)ピキア・パストリスにおける相補DNAがコードする蛋白質の生産の検討
先に、S4960が含む相補DNAがコードする蛋白質の発現を、大腸菌の幾つかの宿主-ベクター系を用いて種々の培養条件下で試みたが、発現した蛋白質は活性のない不溶性蛋白質として封入体を形成した。そこで、真核微生物である酵母の1種、ピキア・パストリス(Invitrogen社製)での発現について検討を行った。

【31】
(a)ヒスチジンタグの付加
S4960が含む相補DNAがコードする蛋白質のアミノ酸配列(配列表の配列番号1参照)のうち、30~305番目の残基からなる成熟蛋白質のC末端にヒスチジンタグを付けるために、オリゴE-1(配列表の配列番号2)とオリゴE-2(配列表の配列番号3)の二つの合成オリゴヌクレオチド(北海道システムサービス社製)をプライマーとして、S4960クローンプラスミドから、KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を使用したPCR法(Methods in Molecular Biology, 15巻、1993)で増幅した。反応は、東洋紡の推奨する条件で行った。

【32】
(b)組換えプラスミドpOIS5の作製
増幅されたDNA断片を制限酵素NcoIとHindIII で切断した後、同じ制限酵素で切断したベクタープラスミドpET-22b(+)(Novagen 社製)に宝製のライゲーションキット(Ver. 1)を用いて連結した。連結したプラスミドDNAを、Inoue らの方法(Inoue, H., Nojima, H. andOkayama, H., Gene, 96:23-28, 1990)で、大腸菌DH5α(Bethesda Research Laborotories製)に形質転換した。

【33】
形質転換体から、プラスミドDNAをアルカリ溶菌法 (Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed. ColdSpring Harvbor Laboratory, New York, 1989)で調製した後、制限酵素による解析を行い、目的とする組換えプラスミドpOIS5を得た。このpOIS5について上記DNAシーケンスを行なったところ、正しい塩基配列を持つことが確認された。

【34】
(c)組換えプラスミドpOIS9の作製
さらに、ヒスチジンタグが付いた成熟蛋白質をピキア・パストリスで生産するために、制限酵素SnaB1とNotI部位を持つオリゴP-1(配列表の配列番号4;北海道システムサービス社製)とオリゴP-2(配列表の配列番号5;北海道システムサービス社製)をプライマーに、プラスミドpOIS5DNAを鋳型としてPCR反応(KOD DNAポリメラーゼを使用)を行なった。

【35】
増幅されたDNA断片の塩基配列をDNAシーケンスで確認した後、SnaB1及びNotIで切断した。これをプラスミドベクターpPIC9(Invitrogen社製)のα-因子のシグナル配列のC末端に位置する同制限酵素部位の間に読み取り枠が連続するようにin frameにクローン化した。こうして、組換えプラスミドpOIS9を作成した。

【36】
(d)形質転換体ピキア・パストリス IIIa の作製
pOIS9を制限酵素BglIIで切断し、ヒスチジン要求性のピキア・パストリス G115 株(His-;Invitrogen 社製)にエレクトロポレーション法で形質転換した。エレクトロポレーションは、Invitrogenの実験手引き書に記載された条件で行なった。その後、MD最小寒天培地(1.34%イーストナイトロゲンベース、4×10-5% ビオチン、1%グルコース、1.5%寒天)でヒスチジン非要求性のコロニーを選抜することにより、目的の形質転換体ピキア・パストリスIIIa を得た。

【37】
(e)形質転換体ピキア・パストリス IIIa からの精製キチナーゼの誘導
キチナーゼの誘導は、Invitrogenの実験手引き書に準じて行った。すなわち、まずピキア・パストリス IIIa を50mlのBMGY培地(1%バクト酵母エキス、2%ペプトン(シグマ社製)、pH6.0の100mMリン酸カリウム、1.34%バクトイーストナイトロゲンブロス、4×10-5%ビオチン、1%グリセロール)で30℃で20時間震とう培養した。培養後、遠心(3000×g、5 分)で細胞を集め、50mlのBMMY培地(グリセロールの代わりにメタノールを含む以外はBMGY培地と同じ組成)に再懸濁し、再び30℃で24時間振とう培養した。

【38】
(f)キチナーゼの精製(アフィニテイーカラムクロマトグラフィー)
予備的な実験により、発現した該蛋白質は培地中に分泌生産されることが既に明らかであった。そこで、培養上清を直接ニッケルカラムに通し、該蛋白質のC末端の6つのヒスチジン残基(ヒスタグ)を介してニッケルカラムに吸着することを利用したアフィニテイーカラムクロマトグラフィーにより該蛋白質を精製した。

【39】
具体的には、3000×gで5分間遠心して得た培養上清を、ファルマシア社製のヒストラップカラム(カラム容積;1ml)に通した。カラムを5mlの0.5M NaClと10mMイミダゾールを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)で洗浄した後、該蛋白質を5mlの0.5M NaClと500mMイミダゾールを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)で溶出した。

【40】
(g)精製キチナーゼの電気泳動及びN末端のアミノ酸配列解析
上記操作で該蛋白質が純粋に精製されたか否かの確認のため、SDSポリアクリルアミド電気泳動及び等電点電気泳動の二種類の電気泳動並びにN末端のアミノ酸配列の解析を行なった。

【41】
まず、SDSポリアクリルアミド電気泳動は、バイオラッド社製のレディーゲルJ(12.5%ポリアクリルアミド)ゲルを用いて、Laemmli の方法(Nature, 227: 680-685, 1970)で行なった。すなわち、精製該蛋白質3μgをサンプルバッファー(Laemmli, U. K., Nature, 227: 680-685, 1970) 10μlで処理して電気泳動を行ない、コマーブリリアントブルーで蛋白質を染色した。得られた泳動写真を図1に示す。図1において、左のレーンは分子量マーカーを、右のレーンは精製イネキチナーゼを示す。図1より明らかな通り、染色したゲルには、精製画分は該蛋白質の推定分子量30,931に一致する分子量30,000ダルトンの蛋白質のバンドのみが検出された。このことから、該蛋白質の分子量は、30,000ダルトンと算出された。

【42】
また、精製された該蛋白質1μgをファルマア製のPhastGel IEF3-9 ゲルに供し、ファーストシステム電気泳動装置(ファルマシア製)で等電点電気泳動を行なった。ゲル上の蛋白質を、ファルマシアの推奨する方法に従い染色した。結果を図2に示す。図2において、左のレーンは等電点マーカー蛋白質、右のレーンは精製イネキチナーゼの泳動結果である。図2の結果及び等電点マーカー蛋白質の移動度から作成した検量線から、精製イネキチナーゼの等電点は8.2と算出された。

【43】
さらに、該精製蛋白質のN末端アミノ酸配列を自動プロテインシーケンサー(ヒューレットパッカード社製;モデルG1000A)で分析した。その結果、該精製蛋白質のN末端アミノ酸配列は、α-因子のシグナル配列切断部位のC末端配列Glu-Ala-Glu-Ala-Tyr で始まり、α-因子の塩基配列の後ろに該蛋白質をコードするDNA断片を連結するためにSnaBI部位を導入した際に本来の29番目のAla が変化したVal 、さらにその後は該蛋白質のアミノ酸配列であるGly-Asp-Ile-Ala であった。このアミノ酸配列を分析した結果、該蛋白質の配列に相当するアミノ酸以外のアミノ酸は全く検出されなかった。以上の結果から、該蛋白質が純粋に精製されたと判断した。

【44】
(h)キチナーゼ活性の測定
次に、該精製蛋白質を用いて、該蛋白質がキチナーゼ活性を有することを立証する実験を行なった。キチナーゼの活性測定に汎用されているグリコールキチン(Imoto, T. and Yagishita, K., Agric. Biol. Chem., 35:1154-1156, 1971)を0.2%含む0.1Mのトリ塩酸緩衝液(pH=8.4)に該蛋白質を添加し、37℃で保温した。溶液中の還元糖をMonreaとReese の方法(Can. J. Microbiol., 15:689-696,1969)により測定したところ、反応時間や加えた蛋白質量に依存した還元糖の増加が観察された。

【45】
該蛋白質のキチナーゼ活性に関して酵素学的に解析した結果は、次の通りである。
分子量:30,000ダルトン(実験値);30,931ダルトン(計算値)
等電点:8.2(実験値)
N末端アミノ酸配列:Glu-Ala-Glu-Ala-Tyr-Val-Gly-Asp-Ile-Ala
至適反応pH:8.4(グリコールキチン);3.0-5.0(リゾチーム活性)
JP0003376453B2_000002t.gif【0046】反応至適pHは8.4で、グリコールキチンに対するKm及びVmax は、それぞれ0.4mg/mlと5.2単位/mg蛋白質であった。また、該精製蛋白質は、N-Acetyl-hexa-D-glucosamine を N-Acetyl-di-D-glucosamineに分解した。

【47】
(i)蛋白質の抗カビ活性測定
該精製蛋白質の抗カビ活性を、トリコデルマ・リーゼイ (Trichoderma reesei)IFO31329 株を指示菌として、Roberts とSelitrennikoff(J. Gen. Microbiol., 134:169-176, 1988)によって記載された方法で調べた。培地は、Difco 社のポテトデキストロース(PD)寒天培地を用いた。PD寒天平板培の中央に、滅菌したパルプデスク(TOYO社製、直径1cm)を置き、約3,000個のトリコデルマ・リーゼイ IFO31329 の胞子を接種した。胞子を接種したパルプデスクから3cm離れた位置に、5~6枚の滅菌パルプデスクを同心円状に等間隔に置いた。このパルプデスクに精製蛋白質5~10mgを吸収させ、25℃で3~4日間培養し、該蛋白質を吸収させたパルプデスクの周囲での菌糸の生育阻害を顕微鏡観察した。

【48】
結果を図3(顕微鏡写真、倍率:100倍)に示す。この図から明らかなように、トリコデルマ・リーゼイ IFO31329 の菌糸は、該蛋白質により生育阻害を受けた。すなわち、図中のAは対照で、牛血清アルブミンを吸収させたパルプデスクの周囲でのトリコデルマ・リーゼイ IFO31329 の生育状況を観察したものであり、菌糸の正常な伸長が認められた。一方、図中のBは精製蛋白質(イネキチナーゼ)を吸収させたパルプデスクの周囲でのトリコデルマ・リーゼイ IFO31329の生育状況を観察したものであり、菌糸の伸長が著しく阻害されていることがわかる。このことから、精製蛋白質の抗カビ活性が証明された。

【49】
(j)蛋白質の抗菌活性
一方、細菌細胞壁を溶解するリゾチーム活性は、ミクロコッカス・リソデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)(Sigma 社製)に対する溶菌活性をRichard らの方法(Richard, T. M., McCollum, T. G., Niedz, R. P., Hearn, C. J., McDonald, R. E., Berdis<HAN>、</HAN> E. and Doosdar, H., Planta, 200: 289-295, 1996)によって調べた。

【50】
すなわち、0.03%のミクロコッカス・リソデイクティカスの凍結乾燥菌体を含む1.5%寒天平板(pH4.8)に精製蛋白質(5μg/5μl)と卵白リゾチーム(5μg/5μl)を滴下し、37℃で16時間保温した後に溶菌斑の生成の有無を観察した。その結果、この条件下では、精製蛋白質は卵白リゾチーム以上の溶菌活性を示した。以上のことから、本発明の形質転換体に含まれる相補DNAが新規な特性を有するキチナーゼをコードしていることが実証された。

【51】

【発明の効果】本発明によれば、イネキチナーゼをコードする相補DNAを含むプラスミドベクターを有する形質転換体であるピキア・パストリスが提供される。この相補DNAのコードするイネキチナーゼは、糸状菌のみならず細菌に対して溶菌作用を有する酵素である。これまでに、抗カビ活性のほかに、細菌の細胞壁を溶解するリゾチーム活性を持つキチナーゼをコードする相補DNAについて報告はない。また、抗カビ活性とリゾチーム活性を併せ持つキチナーゼも見出されていない。

【52】
さらに、本発明イネキチナーゼ相補DNAを組み込んだ形質転換体であるピキア・パストリスを利用することにより、広範な病原性微生物に対して抵抗性を獲得した組換え作物の開発が期待される。

【53】

【配列表】
配列番号:1
配列の長さ:1109
トポロジー:一本鎖
配列の種類:相補DNA
起源
生物名:イネ(Oryza sative L. )
株名:日本晴
直接の起源
プラスミド名:S4960
配列の特徴:mat peptide
特徴を決定した方法:E
配列
CGGACGCTGA ATTCGATCGA GAATCACC ATG ATG ACA AGT AGA ATG TTT TCG 52
Met Met Thr Ser Arg Met Phe Ser
5
GCA ATG CAG ATG CTG ATC ATG GTG GTG GTG GCA TTG GCC GGG CTA GCT 100
Ala Met Gln Met Leu Ile Met Val Val Val Ala Leu Ala Gly Leu Ala
10 15 20
GCC GGA ACG CGC GCC GGC GAC ATC GCG ATC TAC TGG GGC CAG AAC GGC 148
Ala Gly Thr Arg Ala Gly Asp Ile Ala Ile Tyr Trp Gly Gln Asn Gly
25 30 35 40
AAC GAG GGC ACG CTG GCG CAG ACG TGC GCG ACC GGT AAT TAC AGG TTC 196
Asn Glu Gly Thr Leu Ala Gln Thr Cys Ala Thr Gly Asn Tyr Arg Phe
45 50 55
GTC ATC GTG GCC TTC CTG CCT GTG TTC GGC AAG GGC CAG ACG CCG GTG 244
Val Ile Val Ala Phe Leu Pro Val Phe Gly Lys Gly Gln Thr Pro Val
60 65 70
CTG AAC CTG GCC GGC CAC TGC GAC CCG GCG TCG AAC GGC TGC ACC GGC 292
Leu Asn Leu Ala Gly His Cys Asp Pro Ala Ser Asn Gly Cys Thr Gly
75 80 85
GTG GGC GCC GAC ATC AAG TCG TGC CAG AGC CTC GGC ATC AAG GTC ATG 340
Val Gly Ala Asp Ile Lys Ser Cys Gln Ser Leu Gly Ile Lys Val Met
90 95 100
TTC TCG ATC GGC GGC GGC GTC GGC AAC TAC GGC CTG TCC TCC CGC GAC 388
Phe Ser Ile Gly Gly Gly Val Gly Asn Tyr Gly Leu Ser Ser Arg Asp
105 110 115 120
GAC GCC AAG CAG GTC GCG GCG TAC CTG TGG AAC AAC TAC CTC GGC GGC 436
Asp Ala Lys Gln Val Ala Ala Tyr Leu Trp Asn Asn Tyr Leu Gly Gly
125 130 135
ACG TCG CCG TCA AGG CCG CTC GGC GAC GCC GTC ATG GAC GGC ATC GAC 484
Thr Ser Pro Ser Arg Pro Leu Gly Asp Ala Val Met Asp Gly Ile Asp
140 145 150
TTC GAC ATC GAG AGC GGC GGG GGC ATG TAC TGG GAC GAC TTG GCC AGG 532
Phe Asp Ile Glu Ser Gly Gly Gly Met Tyr Trp Asp Asp Leu Ala Arg
155 160 165
TAC CTC AAG GCG TAC TCG CGG CAG GGG AGC AGC AAG AAG CCG GTG TAC 580
Tyr Leu Lys Ala Tyr Ser Arg Gln Gly Ser Ser Lys Lys Pro Val Tyr
170 175 180
CTG ACG GCG GCG CCA CAG TGC CCC TTC CCG GAC GCG TCG CTC GGC GTC 628
Leu Thr Ala Ala Pro Gln Cys Pro Phe Pro Asp Ala Ser Leu Gly Val
185 190 195 200
GCG CTC AGC ACC GGC CTG TTC GAC TAC GTG TGG GTG CAG TTC TAC AAC 676
Ala Leu Ser Thr Gly Leu Phe Asp Tyr Val Trp Val Gln Phe Tyr Asn
205 210 215
AAC CCG CCG TGC CAG TAC AGC TCG TCC AAC GGC GTG GGC AAC CTG GCG 724
Asn Pro Pro Cys Gln Tyr Ser Ser Ser Asn Gly Val Gly Asn Leu Ala
220 225 230
AGC GCG TGG AAG CAG TGG ACG TCG ATC CCG GCG GGA CGG GTG TTC CTC 772
Ser Ala Trp Lys Gln Trp Thr Ser Ile Pro Ala Gly Arg Val Phe Leu
235 240 245
GGC CTG CCG GCG GCG GCG GAG GCC GCC GGC ACC GGG TTC GTG GAG ACG 820
Gly Leu Pro Ala Ala Ala Glu Ala Ala Gly Thr Gly Phe Val Glu Thr
250 255 260
AGC GAC CTG GTG TCG AAG GTG CTC CCC GTG GTG AAG AAG TCT CCC AAG 868
Ser Asp Leu Val Ser Lys Val Leu Pro Val Val Lys Lys Ser Pro Lys
265 270 275 280
TAC GGA GGG ATC ATG CTG TGG TCG CGG TAC TAT GAC GGG CTC ACG GGG 916
Tyr Gly Gly Ile Met Leu Trp Ser Arg Tyr Tyr Asp Gly Leu Thr Gly
285 290 295
TAC AGC GAC AAG GTG AAG TCC AGC GTT TGA GCTAGCCAGG GTAAGCTCGT GTC 969
Tyr Ser Asp Lys Val Lys Ser Ser Val Stop
300 305
AGGTCGGCGT TCGCGTAGAA TCACACGTGC CGCGCGTTCC CTGCAAGATG GAGTAGTTTC 1029
TACACATTTC AGAACAAAGC AAACATGTAC AATAAGATGG CCGGCTTGTA TACTCATTTA 1089
GAAGCAGAAA AAATTGTGAG 1109

【54】
配列番号:2
配列の長さ:29
トポロジー:一本鎖
配列の種類:合成オリゴヌクレオチド
起源
生物名:イネ(Oryza sative L. )
株名:日本晴
直接の起源
プラスミド名:pS6940
配列の特徴:mat peptide
特徴を決定した方法:E
配列
CCACCATGGG CGACATCGCG ATCTACTGG 29

【55】
配列番号:3
配列の長さ:27
トポロジー:一本鎖
配列の種類:合成オリゴヌクレオチド
起源
生物名:イネ(Oryza sative L. )
株名: 日本晴
直接の起源
プラスミド名:pS6940
配列の特徴:mat peptide
特徴を決定した方法:E
配列
AAGAAGCTTC ACCTTGTCGC TGTACCC 27

【56】
配列番号:4
配列の長さ:33
トポロジー:一本鎖
配列の種類:合成オリゴヌクレオチド
起源
生物名:イネ(Oryza sative L. )
株名: 日本晴
直接の起源
プラスミド名:pOIS5
配列の特徴:mat peptide
特徴を決定した方法:E
配列
TACTACGTAG GCGACATCGC GATCTACTGG GGC 33

【57】
配列番号:5
配列の長さ:34
トポロジー:一本鎖
配列の種類:合成オリゴヌクレオチド
起源
生物名:イネ (Oryza sative L. )
株名: 日本晴
直接の起源
プラスミド名:pOIS5
配列の特徴:mat peptide
特徴を決定した方法:E
配列
TGCGGCCGCT CAGCGGTGGC AGCAGCCAAC TCAG
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2