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明細書 :エポキシド水解酵素の活性測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第3062600号 (P3062600)
登録日 平成12年5月12日(2000.5.12)
発行日 平成12年7月10日(2000.7.10)
発明の名称または考案の名称 エポキシド水解酵素の活性測定方法
国際特許分類 C12Q  1/34      
FI C12Q 1/34
請求項の数または発明の数 2
全頁数 5
出願番号 特願平11-020022 (P1999-020022)
出願日 平成11年1月28日(1999.1.28)
審査請求日 平成11年7月6日(1999.7.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】591031360
【氏名又は名称】農林水産省食品総合研究所長
発明者または考案者 【氏名】荒平 正緒美
【氏名】深澤 親房
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎 (外1名)
審査官 【審査官】鈴木 恵理子
参考文献・文献 Analytical Biochemistry,(1989)Vol.178,No.1,p.153-158
European Journal of Biochemistry,(1988)Vol.176,No.3,p.715-723
調査した分野 C12Q 1/25 - 1/533
要約 【課題】 植物種子由来のエポキシド水解酵素の活性を、特別に化学合成した基質を用いたり、基質を放射性同位元素で標識することなく、迅速かつ簡便に測定する方法を提供すること。
【解決手段】 植物種子由来のエポキシド水解酵素を、アセトニトリルに溶解させたスチレンオキサイドに作用させ、生成したスチレングリコールを、移動相にアセトニトリルを用いる高速液体クロマトグラフィーで測定することを特徴とするエポキシド水解酵素の活性測定方法。
特許請求の範囲 【請求項1】
植物種子由来のエポキシド水解酵素を、アセトニトリルに溶解させたスチレンオキサイドに作用させ、生成したスチレングリコールを、移動相にアセトニトリルを用いる高速液体クロマトグラフィーで測定することを特徴とするエポキシド水解酵素の活性測定方法。

【請求項2】
酵素反応液中の基質スチレンオキサイドの終濃度が2~4mM、溶媒アセトニトリルの終濃度が1~2%(v/v)である請求項1記載の方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】本発明は、エポキシド水解酵素の活性測定方法に関し、詳しくは植物種子由来のエポキシド水解酵素の活性を、放射性基質を使用することなく迅速、かつ簡便に測定する方法に関する。

【02】

【従来の技術】エポキシド水解酵素は、過酸化反応などによって生体内に生じたエポキシド化合物を加水分解することによりジオール等を生成させ、該化合物による有害な化学反応を回避する作用を有している。エポキシド水解酵素は、動物の他、種々の植物に含まれているが、特に植物において、該酵素の活性は過酸化物の一種であるエポキシドを無毒化する活性のため、植物の環境適応能力を表す一つの指標となりうる可能性をもっている。

【03】
このため、植物に由来するエポキシド水解酵素の活性を、簡便に、かつ正確に測定する方法が要求されている。従来、該酵素の活性測定方法として、様々な方法が報告されている。一般に、酵素活性の定量法としては吸光度測定法、蛍光光度測定法、生成物の放射活性測定法などがあるが、エポキシド水解酵素の活性を定量する方法として、吸光度測定法や放射性同位元素を利用した活性測定法などがある。

【04】
このうち、Dietzeらによって報告された吸光度測定方法(Dietze, E. C. et al., Analytical Biochemistry, 216, 176-187(1994))は、吸光度を測定するために適したエポキシド基質を化学合成した後、該基質にエポキシド水解酵素を作用させ、その結果生じた微量の生成物の吸光度を測定する方法である。しかし、この方法においては、吸光度の測定に適したエポキシド基質を合成しなければならない上に、基質合成の成否を核磁気共鳴法(NMR)によって確認する必要があるため、基質の入手が困難であり、簡便に利用できる方法ではない。

【05】
また、Gillらによって報告された放射性同位元素を利用した活性測定方法(Gill, S. S. et al., Analytical Biochemistry, 131, 273-282(1993))は、エポキシド化合物として 3H等の放射性同位元素で標識したエポキシド基質を合成し、該化合物にエポキシド水解酵素を作用させた後、生成物を抽出,薄相クロマトグラフィー等を用いて分離し、その放射活性を液体シンチレーションカウンターにより測定する方法である。この方法は、生成物を高感度で測定できるという利点があるけれども、エポキシド基質を放射性同位元素で標識することが必要であり、このようなエポキシド基質は一般的に合成できるものではない。また、酵素活性測定時においても、抽出や薄相クロマトグラフィー等の煩雑な操作が必要であるため、簡便に利用できる方法とはいえない。

【06】

【発明が解決しようとする課題】従来、酵素活性の測定方法が報告されているエポキシド水解酵素は、主に動物由来のものであり、植物由来の酵素とは一次構造が異なる。しかも、測定に用いる基質は脂肪酸系のエポキシド等を標識したものである。このように、植物由来のエポキシド水解酵素の活性測定方法については、有効な方法は報告されていないのが現状である。そこで本発明の目的は、植物種子由来のエポキシド水解酵素の活性を、特別に化学合成した基質や放射性同位元素で標識した基質を用いることなく、迅速に、かつ簡便に測定する方法を提供することである。

【07】

【課題を解決するための手段】請求項1記載の本発明は、植物種子由来のエポキシド水解酵素を、アセトニトリルに溶解させたスチレンオキサイドに作用させ、生成したスチレングリコールを、移動相にアセトニトリルを用いる高速液体クロマトグラフィーで測定することを特徴とするエポキシド水解酵素の活性測定方法である。請求項2記載の本発明は、酵素反応液中の基質スチレンオキサイドの終濃度が2~4mM、溶媒アセトニトリルの終濃度が1~2%(v/v)である請求項1記載の方法である。

【08】

【発明の実施の形態】本発明の酵素活性測定方法は、植物種子由来のエポキシド水解酵素を、基質であるスチレンオキサイドに作用させ、生成するスチレングリコール量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量し、測定値を検量線と比較することによって、該酵素の活性を測定するものである。

【09】
本発明に用いる植物種子由来のエポキシド水解酵素は制限がなく、入手可能な各種の酵素を任意に使用することができる。また、精製酵素の他、粗酵素も用いることができる。例えば、本発明者らがダイズの種子から抽出したエポキシド水解酵素などは好適に用いることができる。この酵素は、以下の方法により得ることができる。登熟初期から完熟期まで、特に登熟初期から後期までのダイズ種子を粉砕し、これに適当な緩衝液を加えてエポキシド水解酵素を含む可溶性画分を抽出・透析した後、固液分離を行い、得られた粗酵素液を疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等にかけることにより、ほぼ純粋なエポキシド水解酵素が得られる。

【10】
この精製エポキシド水解酵素を用いて遺伝子学的手法により決定されたアミノ酸配列や塩基配列から、エポキシド水解酵素遺伝子を含んだ発現プラスミドを調製し、該プラスミドにより形質転換した大腸菌を用いて、目的とするエポキシド水解酵素を発現させる。続いて、発現したエポキシド水解酵素を、超音波処理等により破砕した菌体より抽出した後、さらにゲルろ過カラム等に供して、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)での泳動パターンが単一のバンドを示す程度にまで精製することができる。

【11】
酵素活性を測定する際のエポキシド水解酵素の使用量は、0.5m単位から20m単位の範囲が適当で、4m単位程度が好ましい。該酵素の使用量が0.5m単位未満であると、生成物の判定が難しく、20m単位を越えると、生成物の量が多くなり過ぎ、この場合も判定が難しくなり、好ましくない。

【12】
一方、基質であるスチレンオキサイドは、市販されているものを使用すればよく、放射性標識したり、化学合成する必要もなく、簡便に酵素活性を測定することができる。スチレンオキサイドは、その分子構造中にベンゼン環を含んでいるため、紫外線(UV)を用いる方法で容易に検出することができ、かつ感度も高いという利点がある。これに対して、スチレンオキサイドと同じエポキシド化合物であるエチレンオキサイド等の常温で気体の基質は、本発明に用いることはできない。

【13】
しかし、スチレンオキサイドは、疎水性が高いので、反応液に対する溶解性が劣るため、適当な溶媒に溶解して用いる必要がある。溶媒としては、種々のものが使用できるが、本発明ではHPLCをアセトニトリルの系で使用すると好都合であることから、溶媒としてアセトニトリルを選択している。スチレンオキサイドをアセトニトリルに溶解した後に反応液に添加する。反応液への基質の添加量は、終濃度が2~4mMとなるように調製することが好ましい。例えば、該基質を50%アセトニトリル溶液に100mMとなるように溶解した場合、反応液50μlあたり1~2μlである。基質の終濃度がこの範囲に満たない場合には、反応生成物であるスチレングリコールの検出が困難となり、酵素活性の定量に支障をきたすため好ましくない。一方、この範囲を越えると、溶媒のアセトニトリルの濃度が高くなり、酵素を阻害することになる。

【14】
本発明では、上記したように、基質を溶解する溶媒としてアセトニトリルを用いる。アセトニトリルの使用量は、反応液中の終濃度が通常2%(v/v)以下となるようにすべきで、好ましくは1~2%(v/v)とする。この範囲を越えると、アセトニトリルがエポキシド水解酵素の活性を阻害する可能性がある。酵素および基質を含む反応液には、必要に応じてpH調整のために、トリス緩衝液(pH8~9)や金属イオンのキレートおよび他の夾雑酵素の阻害のために、EDTA等を加えることもできる。

【15】
酵素反応は、上記反応液を通常20~40℃、好ましくは37℃程度で1~15分間、好ましくは5分間程静置することにより行う。この反応により、エポキシド水解酵素がスチレンオキサイドを分解し、スチレングリコールが生じる。しかる後、反応液を氷上に置くなどして冷却して酵素反応を停止させる。反応停止後、直ちにHPLCに供し、酵素反応で生成したスチレングリコールの量を定量し、この値を予め作成しておいた検量線と比較することにより、エポキシド水解酵素の活性を測定することができる。

【16】
HPLCに用いるカラムとしては、逆相カラムであるSilica ODS 120T (東ソー社製)などを用いることができる。流速や温度等は、該カラムに適した条件を適宜選択して用いればよい。また、移動相としては、4. 6%アセトニトリル-60%アセトニトリルの直線濃度勾配系を用いるとよい。

【17】

【実施例】次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(1)エポキシド水解酵素の調製
開花後18日目のダイズ種子より、深沢らの方法(Fukazawa, C. et al., Journal of Biological Chemistry, 200, 6234-6239(1985)) に従い、SDS-フェノール法を用いて全RNA を抽出し、 poly(A)+ RNA を調製した。開花後18日目のダイズ種子を粉砕し、これに酢酸緩衝液を加えてエポキシド水解酵素を含む可溶性画分を抽出・透析した後、疎水クロマト(カラム:ブチルトーヨーパール、5cm×90cm、東ソー社製)、次いでゲルろ過(カラム:セファクリルS-200、2.6cm×180cm、アマーシャム-ファルマシア社製)にかけることにより、ほぼ精製されたエポキシド水解酵素を得た。本酵素のN-末端はブロックされていたために、常法に従い、内部のアミノ酸配列決定し、これを基にしてプローブを作製した。上記 poly(A)+RNA より、cDNAライブラリーを作製し、作製したプローブを用いてcDNAライブラリーからスクリーニングし、エポキシド水解酵素cDNAクローンを得た。

【18】
このエポキシド水解酵素クローンから常法により得た塩基配列を基に、発現プラスミド(pRSETベクター)にエポキシド水解酵素遺伝子を挿入し、該酵素遺伝子を含んだ発現プラスミドを調製した。続いて、該プラスミドを用いて、発現用大腸菌BL21(DE3)を形質転換させ、アンピシリンを含んだLB培地で前培養した。次に、前培養した菌液1mLを1リットル(L)の前記培地に植菌し、OD600nmでの吸光度が約0.6となるまで、37℃で回転数200r. p. mで振盪培養した。OD600nmでの吸光度が約0. 6に到達したとき、イソプロピルβ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度1mMとなるように添加し、さらに3時間上記の条件で培養を続けた。

【19】
培養終了後、培養液を遠心分離して集菌した後、100mM NaCl,1mM EDTAを含む200mM酢酸緩衝液(pH5. 0)で菌体を洗浄後、同緩衝液に懸濁したものを超音波処理し、大腸菌体を破砕した。これを遠心分離し、破砕した菌体を除去して得た上清をさらに55℃で10分間の加熱処理し、大腸菌由来のタンパク質を熱変性させた。該上清に含まれるタンパク質の大部分は、目的とするエポキシド水解酵素であった。続いて、ゲルろ過カラム(Sephacryl S-200 (2.6×90cm、アマシャム-ファルマシア社製) に供すことにより、目的とするエポキシド水解酵素を含む画分を得た。該画分のSDS-PAGE泳動パターンは、単一のバンドを示した。

【20】
(2)酵素反応
基質であるスチレンオキサイド(和光純薬社製)12mgを、50%アセトニトリル溶液1mlに溶解し、該基質の濃度が100mMとなるような基質液を調製した。次に、基質液および上記(1)で調製した酵素液を用いて、反応液を調製し、酵素反応を行った。なお、反応液の組成を第1表に示す。

【21】

【表1】第 1 表
JP0003062600B1_000002t.gif【0022】酵素反応は、上記の反応液を恒温槽中にて、37℃で5分間保持することにより行った。反応終了後、反応液を氷上に移し、酵素反応を停止させた。続いて、反応液をHPLC(LC-6AD,島津製作所社製)にかけた。HPLCの条件は、以下の通りである。以下の条件以外は、すべてカラムに添付されたマニュアルに従って行った。HPLCパターンを図1に示す。

【23】
カラム:逆相カラム(Silica ODS 120T(4.6 ×150mm)、東ソー社製)
移動相:4. 6%アセトニトリル-60%アセトニトリルの直線濃度勾配
流速:1ml/min
ピーク検出器:紫外線検出器(SPD-6AV、島津製作所社製)
測定波長:258nm
溶出時間:30分間

【24】
HPLCパターンより得たエポキシド水解酵素の比活性は、1Uを1μmol/minとすると1. 36U/mgであり、動物において既に精製されているエポキシド水解酵素の比活性とほぼ同等の値を示した。このように、本発明によれば、特別に化学合成した吸光度測定用の基質や放射性同位元素で標識した基質を用いることなく、エポキシド水解酵素の活性を迅速にかつ簡便に測定することができた。なお、実施例1で用いた反応液中のアセトニトリルの終濃度は1%であるが、アセトニトリルの終濃度がエポキシド水解酵素の活性に及ぼす影響を調べた。結果を以下に示す。

【25】

【表2】第 2 表
JP0003062600B1_000003t.gif【0026】
【発明の効果】本発明のエポキシド水解酵素の活性測定方法によれば、基質として入手容易なスチレンオキサイドを用いることにより、特別に化学合成した吸光度測定用の基質や放射性同位元素で標識した基質を用いることなく、エポキシド水解酵素の活性を従来法よりも迅速、かつ簡便に測定することができる。
図面
【図1】
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